【SL/HTk】密告を止めろ!(まめ マスター) 【難易度:普通】

プロローグ


 むかしむかし、ある国に、まだ誰も愛したことがない王子様がいました。
 王子様は、誰も好きになれないのでずっと結婚せずにいましたが、とうとう花嫁を選ぶ舞踏会が開かれることになりました。
 「結婚なんていやだ」
 舞踏会の前の日、王子様はお城を抜け出し、夜の森の湖へと逃げ出しました。

 湖にはそれは美しい白鳥がいました。
 王子様が白鳥に見とれていると、なんと目の前で白鳥はお姫様に変わったのです。
 「なんて美しい姫。どうか名前を教えてください」
 「わたしは、のろわれた姫、オデット」
 オデット姫は、悪魔ロットバルトの呪いにより、夜の湖でしか元の姿に戻れないと泣きました。
 「どうすればその呪いは解けるのですか?」
 王子がたずねると、オデット姫は答えました。
 「まだ誰も愛したことのない人からキスしてもらえれば呪いは解けます」
 王子様は喜びました。
 「私はまだ誰も愛したことがありません」
 さあキスを、と王子様が進み出たとき、朝日が昇り、オデット姫は白鳥に戻ってしまいました。
 「明日の舞踏会に来てください。皆の目の前でキスをして、あなたを救いましょう」
 王子様は飛び立っていく白鳥に叫び、はれやかな気持ちでお城へと帰っていきました。

 舞踏会の日、女王様が呼んだたくさんのお妃候補が踊りますが、王子様は見向きもしません。
 すると、誰も見たことのない立派な貴族が、娘を連れて舞踏会に現れました。
 その娘を見て、王子様は喜びました。
 「オデット姫!」
 娘は昨夜見たお姫様そっくりだったのです。
 「姫、来てくれたのですね!」
 王子は娘に駆け寄り、キスをしました。
 「あなたを愛しています!」
 すると、貴族と娘はフクロウと黒鳥に変わり、王子様を笑いました。
 「まんまとだまされたわね。私は悪魔ロットバルトの娘オディールよ」
 「王子はオディールを愛してしまった。これでオデットはもう戻れない!」
 笑いながら城から飛び去る二羽を、怒った王子様は追いかけます。

 悪魔に王子様の裏切りを知らされ泣くオデット姫のいる湖の前で、悪魔においついた王子様は、必死に戦い、とうとう悪魔を倒しました。
 でも、やっぱりもうオデット姫の呪いは解けません。
 オデット姫と王子様は泣きながら湖に身を投げるのでした。


…眠りにつく少女のベッド付近に落ちていたのは、『白鳥の湖』の絵本。
彼女は一体どんな夢を見ているのか…。




その日はとても月夜の綺麗な夜だった。
透き通るような綺麗な湖に、”白鳥”の姿をした自分が映っている。
そしてすぐ隣には、月の光を浴びて輝く美しい少女。

悪魔ロットバルトによって、白鳥になる呪いをうけてしまったオデット姫と侍女の私。
この呪いを解くには「まだ誰も愛したことのない人からのキス」が必要だった。
いつかオデット姫を幸せにしてくれる者が現れてくれると、
姫を励まし、一緒に呪いに耐えていた。

そして今日、念願の呪いを解いてくれる者が現れたというのに、
侍女の心には影が残る。


”私はオデット姫の一番の理解者…”

”あんな王子に姫を任せてなんておけない…”

明日は運命の舞踏会。
真実の愛に出会ってしまったオデット姫。
嬉しそうに微笑む彼女の横で、私は一体何を考えているのか…。

”あの王子がもし、オデット姫より先に他の誰かにキスをしたなら…”

脳裏に浮かぶは呪いをかけた悪魔ロットバルトの姿。
侍女は静かに瞳を閉じた。

解説

●舞台裏
被害者の女性が囚われた夢は『白鳥の湖』。
彼女は夢の中でオデット姫に使える侍女の役になり、姫と同じように呪いで白鳥の姿に変えられてしまっています。
そして彼女はオデット姫の一番の理解者でもありました。

一目惚れでオデット姫に愛を語る王子の気持ちをとても信じることが出来ず、
彼女は呪いをかけた張本人である悪魔ロットバルトに王子の事を密告しようとしています。
もしこの事がロットバルトの耳に入れば、絵本の通りオデット姫と王子は悲劇で結末を迎えることになるでしょう。

●成功条件
侍女を説得して密告を止めて下さい。
もし彼女を止められなかった場合、彼女は一時の感情でとんでもないことをしてしまったと嘆き苦しむでしょう。
そこに待つのはバッドエンドです。

そして侍女とウィンクルム達のやり取りを空から見ているコウモリが一匹います。
そのコウモリは悪魔ロットバルトの使い魔です。
侍女の説得に成功しても、この使い魔を倒さない限りオデット姫と王子は救えません。

偵察用の使い魔の為、戦闘力はあまり高くありません。
空高く飛んでいるのでやっかいですが、地上付近に降下させることが出来れば簡単に倒すことが出来るでしょう。
白鳥になっている侍女へ協力を仰ぐことも可能です。

●その他
夢の世界へは童話の本以外のアイテムを持っていくことが可能です。
また、能力も現実世界と同じです。


ゲームマスターより

侍女は ダークサイドに 堕ちた!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ロア・ディヒラー(クレドリック)

  次女の気持ちもなんとなく分かるかも

メイク道具も絵本の世界に持ち込んでおく

まずは侍女を説得。(会話術Lv4使用)

「一目惚れで愛を語る男って確かに胡散臭いよね。でも、第一印象が悪いからってもしかしたら良い人かもしれないじゃない。呪いを解く踏み台としていっそ王子を利用すればいいよ。本当に真実の愛を貫く善人だったらよし、そうじゃなかったら元に戻ってるんだから姫にも良い人はすぐ見つかるし、一番の理解者である貴女が付いててあげれば問題ないわ!やればできるよ!」

説得後ドレッドノートにメイク(悪魔に見える風貌に。メイク1使用)
事前にトランスをしておく。

コウモリが出て着たらクリアレインで射って目くらましを狙う。


リオ・クライン(アモン・イシュタール)
  ここが夢の中の世界か・・・。
童話は幼い頃によく読んだな(特に恋愛物とか)。
正直、他人を悪く言うのは心苦しいが・・・これもハッピーエンドのためだ!

<行動>
・侍女への説得の言葉は「確かに誰も愛した事のない人間が一目惚れで愛を語るなど、不安極まりないし信用できない。それならばいっそ、本当に姫様に相応しいかどうかテストとして受け入れればいいのでは?姫様も救われる上、真実の愛だとわかれば素敵ではないか!」。
・ドレッドノートと侍女が蝙蝠を誘き出している間、他のウィンクルム達と近くに隠れて様子を見る。
・蝙蝠が地上付近に降下している所で、ハンティングスキル(レベル1)を使って弓の射撃による飛行妨害をする。



ユミル・イラストリアス(ドクター・ドレッドノート)
  【心情】
侍女さんの寂しい気持ちはわかりますけど
お姫様の呪いが解けないのは可哀想です…
ひとめぼれはよくわかりませんけど、王子様を信じても良いのでは?

【手段】
私達は主に使い魔の対応の為に動きますよ

ロアさんの説得が成功したら、侍女さんに使い魔を誘き出す為の協力を仰ごうと思います!
ちょっと怖いかもしれないですけど、侍女さんは私達がお守りするので大丈夫ですよ。

【使い魔対応】

師匠の算段通り、使い魔が地上に降下してきたら
私達神人は空へ逃げるのを妨害するために弓矢による攻撃を始めます
私の武器は【フェアリーボウ】ですが、他の神人さんの武器は目眩まし効果もあるので上手くいくはずです!

【使用スキル】
話術:レベル1


ブランシュ・リトレ(ノワール)
  侍女さん、考え直してくれるといいのですが…
お姫様と一緒に幸せになって欲しい、です

侍女説得
納得して貰えれば、いいのですよね
落として上げる…が、頑張ってみます

会話はあまり、得意ではないのでみなさんの話の合間に口を挟みます
基本は相槌をうって同調して、私達の言葉が正論であるように印象付け、してみます

お姫さまの幸せを考えるなら今は耐えるべき時、です
…それに、誰も愛した事がない人って、すごく少ないと思うんです
今後、お姫様に相応しく、かつその条件を満たす人が現れるかどうか…
この機会を逃すべきではない、そう思います
ずっと白鳥よりかは、きっと…

う、嘘は言ってないです…
説得が終わったら隠れて待機してます、ね


●満月の森で
 夜空に浮かんだ月の光がわずかに差し込む深い森。
そしてその中を対照的に走る白い影。
その白い影の正体は、白鳥の姿をした侍女であった。
侍女は暗く深い森の中を物怖じもせず進んでいく。
わずかに浮かんだ自分の良心を振り払うかのように翼をはためかせて。

……そう。思えばあの日もこんな夜だった。
今や湖だけが美しいこの場所で、あの恐ろしい悪魔と出会った。

『悪魔ロットバルト』

親愛なるオデット姫を呪いで白鳥の姿に変えてしまった諸悪の根源。
その悪魔が皆に呪いをかけた後、この森の奥へと姿を消したのを覚えている。
どうして憎むべき相手である悪魔の元へと向かうのか。
自分が今、何を考えているのか。
それは……。

心の奥底で、暗い何かが渦巻いていることに侍女は気づいていた。
そしてその暗い何かに今、心を委ねようとしている。
けれど侍女の中のかすかな迷いが、翼に重く圧し掛かる。
ロットバルトの元まであと僅かという所で、侍女の翼がピタリと止まった。
オデット姫の笑い声、オデット姫の笑顔。
頭に浮かぶ親愛なるオデット姫の姿に、心が悲鳴をあげそうになっていた。
だがその姫の笑顔の先にいるのは、今宵現れた何処かの王子。
また心を暗い何かが覆っていく。
そして次に脳裏に浮かんだロットバルトは、妖しく微笑んでこちらに手招きをしていた。
その手招きに吸い込まれるような甘い感覚に支配され、翼が段々と軽くなる。
しかしその感覚は、突如として現れた不思議なオーラをまとった者達によって打ち消された。
侍女の行く手を阻むのは、夢の中へ舞い降りたウィンクルム達だった。


●湖のほとりで
 時を数分遡った湖のほとりに、一筋の光が空を割るように差し込んだ。
ウィンクルム達が夢の中へと降り立った瞬間だった。
「ここが夢の中の世界か……」
 そう言って辺りを見渡した『リオ・クライン』は、荒れ果てた岩だらけの風景に顔をしかめた。
この場所でただ一つ美しくあるのはこの湖だけのようだ。
更に奥へと視線を流すと、深い森が生い茂っているのに気付く。
「夢の世界っつっても、あんま現実と変わんねぇ気がするな」
 同じように森を見据えながら、『アモン・イシュタール』も呟く。
夜空に浮かぶ星や月、湖や森。これら全てが夢の中のものとはすぐには信じられそうになかった。
妖しい雰囲気を放つ湖に寒気を感じつつも、どこか不思議と懐かしくもあるこの空気に、リオはそっと目を細める。
「童話は幼い頃によく読んだな」
 幼い頃から次期当主として様々な教育を受けていたリオは、厳しい教育の合間に、まるで自分を慰めるかのように色々な絵本や童話を読んでいたことを思い出す。
どれもこれも恋愛物が多かったけれど、物語の主人公に自分を置き換えて、甘い気持ちを想像するのがとても好きだった。
「なるほど、つまりその頃から乙女チックなロマンチスト脳だったと……」
 そんな暖かい記憶の余韻に浸っていると、上から空気をぶち壊すような言葉がふってきた。
見上げると、アモンがからかうように笑っている。
「何か……言ったか?」
「イーエ、ナンデモナイデス」
 リオが背後にどす黒いオーラを抱えながらギロリと睨み付けると、アモンは慌てて顔を逸らした。
「悠長に構えるほど、時は無いと思うが……な」
 リオとアモンのやり取りを前に、冷静な声で呟いたのは『ドクター・ドレッドノート』。
その一言で場の空気ががらりと変わる。
「そう……ですね。まずは侍女さんを探さなくては」
 ずり落ちてしまった分厚い眼鏡をくいっと指であげながら、『ユミル・イラストリアス』も頷いた。
オデット姫が離れていってしまうのが寂しいという侍女の気持ちはわかるのだが、このまま彼女を止められなかったら、オデット姫の呪いも解けないまま誰も幸せになることが出来ない。
ユミルは侍女の間違った行動によって、本当に彼女が大切に思っているオデット姫が悲しむことに気付いていた。
だから彼女を止める為、一刻も早く行動しなければならない。
一同は侍女が向かった森へと駆け出した。

●説得開始
 木に重い体を預けるように寄りかかった白鳥の姿をした侍女を発見すると、一同は彼女の前へと姿を現した。
「な、何とか間に合ったみたいね……」
 先頭に立っていた『ロア・ディヒラー』は、乱れた呼吸を整えながら、ゆっくりと侍女の元へと近づいた。
肩から下げたメイクバッグがガラガラと音を立てる。
突然表れたウィンクルム達に面喰って固まっていた侍女だったが、その音を合図に突然暴れ出すと、翼をばたつかせロアに向かって突進する。
「おっと、ロアに触れないでいただけるかね」
 しかし、寸での所で『クレドリック』のワンドがそれを制す。
まるで脅すようなその様子に、侍女は更に警戒心を高めてしまっている。
まずはこの警戒を解かない限り、説得など出来そうにない。
「あ、あの……」
 その様子を見て恐る恐る声を発したのは、意外にも『ブランシュ・リトレ』だった。
「驚かしてごめんなさい……。でも、私たち、あなたを助けにきたんです」
 ただでさえ自己主張をすることのが苦手なブランシュが、こんな風に言葉を発するなんてと、隣にいた『ノワール』は不思議そうにブランシュを見つめた。
彼女も少しずつ変わろうとしてきているのだろうか……。
ブランシュが恐る恐る言葉を紡いだことが、侍女の警戒心を解く良いきっかけとなったようだ。
侍女の落ち着いた様子を確認すると、一同は侍女の説得を始めた。
まず初めに口を開いたのはロアだった。
「私たち、あなたの事情を知ってるんだ。一目惚れで愛を語る男って確かに胡散臭いよね」
 一同が考えた説得の作戦は、侍女の意志を尊重して考えを改めさせるという流れだった。
侍女自身も、まさか自分のこの暗い想いを尊重されるとは思っていなかったようで、瞳には驚きの色が浮かぶ。
ロアの言葉に同調するように、リオとブランシュもうんうんと頷く。
「でも、第一印象が悪いからってもしかしたら良い人かもしれないじゃない」
 王子が良い人かもしれないというロアの言葉に侍女はぴくりと反応した。
自分の気持ちを尊重する言葉から一転、今度は王子の肩を持つような発言に、再度警戒心を強める。
目の前に立ち塞がる者達が敵か、味方か、それを計り兼ねている様だった。
その様子に気付いたリオが、慌ててロアの説得を援護する。
「うむ……。確かに誰も愛した事のない人間が一目惚れで愛を語るなど、不安極まりないし信用できないな。それならばいっそ、本当に姫様に相応しいかどうかテストとして受け入れればいいのでは?」
リオの提案にロアもうんうんと頷く。
「そうそう。呪いを解く踏み台としていっそ王子を利用すればいいよ。本当に真実の愛を貫く善人だったらよし。そうじゃなくても呪いは解けているんだから、姫にも良い人はすぐ見つかるだろうし」
「おお。それならば姫様も救われる上、真実の愛だとわかれば素敵ではないか!」
「一番の理解者である貴女が付いててあげれば問題ないわ!やればできるよ!」
 会話術に長けているロアはさすがの名演技で、晴れ晴れとした笑顔を浮かべながらの説得のため、不思議と”ロアの言う通りなのかもしれない”という気持ちにさせられる。
一方で、すこし大袈裟な演技をするリオの様子をアモンは冷や冷やした気持ちで見守っていた。
「お姫さまの幸せを考えるなら今は耐えるべき時、です……。この機会を逃すべきではない、そう思います。ずっと白鳥よりかは、きっと……」
 後押しするように、ブランシュもぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
3人の神人達の畳みかけるような説得を受け、侍女はようやく警戒を解いてくれたようだった。
長い首で静かにこくりと頷くと、自分から彼女達の元へと体を寄せる。
何だかんだで無事、侍女の説得に成功した。
それにしてもこの神人達の説得は、聞いていて背筋が凍るような、凄味があるような。
アモンは心の中で静かに恐怖を感じていたのだった。


●変身
「では、よろしく頼む」
 一同は森の木々の間に一時身を隠すと、今度は使い魔撃退のための準備を始める。
座り込むドレッドノートの前で、ロアはメイクバッグを広げた。
ディアボロであるドレッドノートが、ロットバルトの名を騙るために。
そして、ロットバルトの振りをして使い魔をおびき寄せるために。
より一層悪魔らしくなるよう、ロアは彼にメイクを施していく。
足元に広げた沢山のメイク道具を器用に扱うロアを、クレドリックは興味津々な様子で見つめていた。
「メイクとやらは色々便利なのだな。ふむ、今度私にもやってみたまえ」
「そうね。クレちゃんの目の下の隈でも消してみる?」
 顔を接近させて一連の作業を楽しそうに見つめてくるクレドリックにやり難さを感じたロアは、軽くあしらう様に言葉を返した。
その鋭い視線に微かに動悸が激しくなっていたことも原因だった。
「よし。こんなものかな……」
 ロアがふぅと溜息をついた。
ドレッドノートの顔を覗き込んだユミルは「師匠、とっても怖いです……」と顔を青くして呟いた。
ただでさえ頭から伸びる太い角にかなりの威圧感を感じるのだが、ロアのメイクによって目元や口元の至る所に赤い線が引かれており、とても禍々しい表情が出来上がっている。
「ユミルがそこまで怯えるのならば、この姿で迫ってみるのもまた一興だな」
 喉の奥でククッと笑うその姿がますます悪魔的だ。
「し、師匠はどうしてすぐそうやって……!」
 ドレッドノートの言葉に顔を赤らめたユミルは、頬の熱を振り払うかのように首を横に振る。
師匠のペースにはまっていては駄目だと、頭を作戦決行へと切り替えた。
まだこれで準備が完了した訳ではない。この作戦には侍女の協力も必要なのだ。
ユミルが侍女に協力を仰ぐと、侍女は静かに頷いてそれに答える。
「ちょっと怖いかもしれないですけど、侍女さんは私達がお守りするので大丈夫ですよ」
 そう言って、ユミルは侍女に作戦の流れを説明し始めた。
ユミルの説明が終わるまで、ノワールは常に空を警戒していた。
蝙蝠が予定より早く来た場合はマジックブック「目眩」で錯乱させる予定だったが、どうやらその心配は無さそうだった。
「では、作戦通りはじめるぞ」
 ドレッドノートが立ち上がり、月の光が強く入る場所へと移動すると、侍女も彼の後に続いた。
それを合図に、他の者は素早くトランスを済ませると近くの木陰に身を潜めた。

それから程なくして、頭上に一つの黒い影が現れた。
ターゲットの蝙蝠の姿だった。


●戦闘開始
 頭上に現れた蝙蝠の姿を確認すると、リオとユミルは命中率の高い「フェアリーボウ」を、ロアは矢尻に光を放つクリスタルがついた鉱弓「クリアレイン」を手に身を低く隠す。
そしてクレドリックは、スキル「乙女の恋心Ⅱ」の詠唱を開始した。
各々の準備が整うと、ドレッドノートは目の前の侍女に向けて言葉を放つ。
「……我は、悪魔ロットバルト」
 ローブの袖で口元を隠すその仕草が、ドレッドノートの赤い瞳をより一層際立たせる。
侍女もその演技に合わせるように、怯えた様子で後退りをする。
「……お前は確か、あの姫に仕えていた者だな。ククッ……、我の呪いをまた味わいたいと言うのか。このロットバルトの呪いを……」
 蝙蝠を誘き出すかのように、悪魔の名を語るドレッドノートだが、肝心の蝙蝠にまだ動きは無い。
遥か頭上にいる蝙蝠にこの声が届いているのか……。
見守る一同の頬に冷たい汗が流れ落ちる。
作戦変更かと思ったその時、頭上の蝙蝠が1周、2周と上空で弧を描くように飛んだ後、一直線に下降を開始した。
「掛かったな……!」
 ドレッドノートは下降をしてくる蝙蝠から護るように侍女をその背に隠すと、スキルの詠唱を開始する。
「いっけぇぇぇ!」
 蝙蝠が下降する所を狙い、神人達は一斉に矢を放った。
しかし、リオ、ユミルの放った矢は、蝙蝠の下降した後を虚しく射抜く。
命中率の高い弓を装備をしていても、暗闇の中で照準を合わせるのは非常に困難だった。
遅れて放ったロアの弓が、月の光を反射し強い光を放ちながら、蝙蝠目掛けて飛ぶ。
こちらも命中には至らなかったが、暗闇の中の蝙蝠の姿を浮き立たせることに成功した。
「ロアの弓のおかげで、狙いやすくなったようだな」
 はっきりと姿を現した蝙蝠に向けて、クレドリックは詠唱をしていたスキル「乙女の恋心Ⅱ」を放った。
クレドリックの放ったエナジーは、パッシブスキル【天空の涙】の効果もあり、激しい光を放ちながら蝙蝠に直撃した。
羽を炎のようなエナジーにじりじりと焼き付けられ飛行のバランスを崩した蝙蝠は、地面へと落下し始めた。
しかし、飛行を諦めた蝙蝠は、落下するスピードを体に乗せ軌道を変えると、侍女に向かって突進攻撃を仕掛ける。
侍女を背にしたドレッドノートは、こちらに落下してくる蝙蝠にスキル「乙女の恋心Ⅱ」を放とうとするが、思いのほか落下のスピードが速く、照準が定まらない。
詠唱を諦め、侍女をローブで包み込むと、大きく横へと踏み込んだ。
その早い決断が功を成し、ギリギリの所で蝙蝠の突撃を交わす。
蝙蝠が地面へと近づいた所を狙い、ノワールはマジックブック「目眩」で錯乱を計る。
それに続くように、今度はアモンがジョブスキル「トルネードクラッシュⅡ」を発動する。
振りの遅い斧であったが、直前のノワールの攻撃で錯乱していた蝙蝠は、抵抗する間もなく地面へと叩き落とされた。
叩き落された蝙蝠は、ポン!とはじけると、その場に沢山のお菓子をまき散らして姿を消してしまった。

「これで……終わった……のでしょうか」
 地面に散らばったお菓子を拾いながら、ブランシュはぽつりと呟いた。
先ほどまでの戦いが嘘であったかのように、辺りは静けさを取り戻していた。
「蝙蝠がトラオム・オーガだったとはな……。ハッピーエンドとなったかは判らないが、これで巨大カボチャの成長を食い止めることは出来たはずだ」
 リオは、昔自分が読んだ『白鳥の湖』に蝙蝠の使い魔なんていなかったことを思い出す。
実際の絵本の物語には出てこなかったが、トラオム・オーガがこの物語に干渉するため、表舞台に引っ張りだした新たな登場人物なのかもしれない。
「あ、師匠、頬に傷が……」
 ドレッドノートに駆け寄ったユミルは、彼の頬からメイクではない赤い血が垂れていることに驚く。
それは蝙蝠の突撃を避ける時に負った傷だった。
「……お前を、”嘘つき”にする訳にはいかぬからな……」
 ”侍女さんは私達がお守りする”ユミルのその言葉を守るため、ドレッドノートは終始侍女を護ろうとしていたのだ。
その言葉の意味に気付くと、ユミルは優しく微笑んだ。
「それじゃあ無事任務も完了したし、戻ろう!現実世界に!」
 ロアが元気よくそう言うと、侍女は翼を羽ばたかせ湖の方へと飛んで行ってしまった。
元の世界に戻る前にオデット姫に会いに行ったのかもしれない。

身仕度を整える一同から少し離れた所で、クレドリックは静かに思いを馳せる。
(もしも私が侍女の立場で姫がロアだったら、迷わず永遠に一緒にいられる呪われた道を選ぶであろうな。例えロアが嘆き悲しもうとも)
 自身の中に、侍女と同じ暗い感情を感じながら。
(ロアは侍女の抱いた感情を友情だと思っているようだが、あれはもっと深い忌まわしくも甘い何かだ……。私がロアに抱く気持ちと似たものを感じる)
 侍女は果たして、本当に大事なものに気付けたのだろうか。
間も無く被害者の女性は現実世界で目を覚ますだろう。
その時には一体どんな心であるのか。

その答えは侍女役となった彼女だけが知るのだろう。



依頼結果:普通
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター まめ
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 少し
リリース日 10月10日
出発日 10月18日 00:00
予定納品日 10月28日

参加者

会議室

  • [17]ロア・ディヒラー

    2014/10/17-23:09 

  • ふむ、成る程
    コウモリの逃走を防ぐ手段は揃っているようだ
    私は戦闘に参加できないかもしれない、すまんが適宜頼む
    うちの神人も弓での射撃を考えている。

  • [15]ロア・ディヒラー

    2014/10/14-22:48 

    >説得案
    後者の方がまさかの賛同を得ている状態ですか!?
    えっえっいいのですかそちらで!?
    確かにユミルさんが言うとおりマイナス面からあげていったほうが良い方向へいきそうですが・・・こうなったからには2の案でがんばって説得します!開き直りつつやたらポジティブに!!

    リオさんの弓にブランシュさんのマジックブック眩暈助かります…!
    微力ながら私もクリアレインの閃光効果で目くらましを狙ってみます。
    クレドリックには演技中に詠唱を開始しておいて貰おうかと思います。乙女の恋心2で一気に大ダメージを狙いたいです。上手くコウモリが墜落すればいいのですが。範囲強化のために大空の涙をつけておこうかなと思います。

  • [14]ブランシュ・リトレ

    2014/10/14-22:00 

    ああ、ロットバルトを名乗る悪魔のフリ、ということですね。
    説明ありがとうございます。
    作戦了解しました。

    では説得はみなさん2番の方向のようなので私もそれで台詞を考えてみます、ね。
    蝙蝠に対してはマジックブックでの目眩を行おうと思っています。

  • [13]リオ・クライン

    2014/10/14-21:54 

    弓か・・・。

    弓なら丁度持っているし、私にまかせてくれないか?
    嗜み程度に習った事があるし、レベル1だがハンティングスキルもあるしな

    (誤字により削除、再投稿しました)

  • 気にしないでくれ、私も言葉が少なかった

    そうだな…相手は飛行しているうえに小さい、不意打ちを突いた方が確実ではあると思う。

    私を除外して精霊のジョブは

    ハードブレイカー(アモン)
    ライフビショップ(ノワール)
    エンドウィザード(クレドリック)

    飛行している敵を叩くならクレドリックだが、詠唱に時間がかかる
    演技中に事前に詠唱を開始しておくか、アモンとノワール、または神人達で蝙蝠の逃走を妨害するのが良いかと。

    アモンのスパイラルクロウも良いかもしれないが、命中の値が気になる所
    不意打ちで翼に傷をつける等か…神人の弓があるなら射撃による飛行妨害もできるな。

  • [9]リオ・クライン

    2014/10/14-16:04 

    すまない、失念してた・・・。

    変な質問になるが、蝙蝠を誘き出す場合、私達他のウィンクルムは何処か近くに隠れていた方がいいのだろうか?
    蝙蝠に上手くバレない様に・・・。

  • …もう一回説明するぞ?
    わからなければ会議室の書き込みを1から読んでほしい

    今の全体的な流れの案は

    ・ロア達が侍女を説得
    (説得内容としては「良心に呼びかけ落ち着けさせる説得」か「共感して王子を一旦落としてから前向きに考えさせる説得」)

    ・侍女の説得が成功したら協力を取り付ける

    ・ロアがメイクスキルで私により悪魔に見える風貌に整え

    ・侍女の協力のもと私がロットバルトを名乗り蝙蝠をおびき寄せ、地上付近に降下した所を叩く
    (事前に侍女にロットバルトを呼び寄せるような言動や行動の演技を依頼する)

    説得→演技の順番のわけは以前も書きこんだが
    侍女はロットバルトの容姿を知っており、協力も取り付けずにロットバルトを名乗るのは侍女を警戒させてしまうからだ。

    侍女が明らかに主人とは違う悪魔を主人として接しているのは見過ごせないだろうと思う。
    (脱字により削除&再投稿しました)

  • [6]リオ・クライン

    2014/10/14-09:05 

    ブランシュとユミル達は初めまして、ロア達は久しぶりだな。
    リオ・クラインとパートナーのアモンという。

    私も二つ目の案で問題ないと思うぞ。
    仮に説得に成功したとして、使い魔をどうするかだが・・・。
    地上に降ろさせられれば簡単に済むみたいだが、何かを囮にしておびき寄せるとか?

  • 流れとしては
    侍女を説得してからロットバルトを名乗る、だ
    だから侍女にも騙されている演技を頼む必要がある。

    侍女は既にロットバルトの姿を確認している
    説得の前に名乗るのは得策ではない、警戒されるからな。

  • [4]ブランシュ・リトレ

    2014/10/14-02:03 

    えと、皆さん初めまして、ですね。
    ブランシュ・リトレです。
    パートナーはライフビショップのノワールさんです。
    よろしくお願いします、ね。

    えと、ロットバルトになりすまして侍女に接近。
    それで蝙蝠を地上に誘き出す、という作戦であってますでしょうか?
    >脳裏に浮かぶは呪いをかけた悪魔ロットバルトの姿
    とありましたので、侍女はロットバルトの姿を知っていそうかな、と。
    最初に絵本を見てメイクなどでその姿に似せていった方が、と思いました。
    まず侍女の説得とは思いますが、蝙蝠がどのタイミングからいるのかわからなかったので…。
    説得しつつ話を合わせて貰った方が、と。

    >侍女
    侍女に納得してもらえばいいのなら、どちらのパターンも効果的だと思います。
    どちらをやってみたいかで選んでもいいと、思います。

  • ロアさんの会話とメイクスキル、頼もしいです!
    そうですね…私の考え、というかなんというか…

    面接のコツって知ってますか?
    最初にその物事のマイナス面を挙げてから
    「でも~は~だから良い!」という風にプラス面をプレゼンすると効果的なんだそうです。
    というわけで私は二つ目の案を推します←

  • [2]ロア・ディヒラー

    2014/10/13-23:46 

    こんばんはーです!お久しぶりの方はお久しぶりです。
    ブランシュさんは初めまして。ロア・ディヒラーとパートナーのクレドリックです。
    どうぞ宜しくお願いしますね。

    なるほど…侍女さんの協力を得た後で、手下をおびき出す演技でドレッドノートさんが悪魔役を・・・!いいですねっ。
    メイクスキルがレベル1でよければありますので、少し怖い感じにするぐらいならお手伝いできるかもです。

    まずは侍女の説得ですよね・・・私のスキルに会話術レベル4があるので少しは足しになればいいのですが。
    説得内容がまようところですが、ぽっと出の王子が一番の理解者である私を差し置いて姫をかっ攫っていこうとしている、だったらいっそのこと…というのが侍女の思っていることみたいですから、
    「姫にとって、元の姿に戻れる事と呪われたままでいる事どちらが幸せか一番の理解者のあなたなら分かるはず。一時の欲望で呪いを解かなかったら姫は嘆き悲しむでしょうね。大好きな姫が悲しむのに耐えられる?例え王子と結ばれたとしても貴女の事姫は置いてったりしない。きっとずっと一緒にいられるよ。」

    という良心に呼びかけ落ち着けさせる説得と、

    「一目惚れで愛を語る男って確かに胡散臭いよね!でも、第一印象が悪いからってもしかしたら良い人かもしれないじゃない。呪いを解く踏み台としていっそ王子を利用すればいいのよ。本当に真実の愛を貫く善人だったらよし、そうじゃなかったら元に戻ってるんだから姫にも良い人はすぐ見つかるだろうし、一番の理解者である貴女が付いててあげれば問題ないわよ!」

    という開き直るにもほどがある説得(?)と2種類の方向性を考えたのですが・・・
    前者の方が妥当かなと思ってます。こ、後者はなんというか出来心みたいなものですっ
    みんなにどんな風に説得したいか色々聞きたいです!

  • 私はドレッドノートだ
    神人はユミルという、よろしく頼む

    私の希望としては…
    私の姿は悪魔と名乗るにはうってつけ、侍女に近づきロットバルトを名乗り
    蝙蝠を誘き出したいと思っている。(フェイクスキル使用で補正かけます)

    侍女の協力が必要だがな


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