さつきのきつさ~くるくる秋桜(キユキ マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

●不思議な喫茶からのご案内

 <さつきの喫茶より、秋桜迷路のご案内>

 みなさま、元気にお過ごしでしょうか? <さつきのきつさ>店長でございます。
 今年もまた、秋桜(コスモス)の揺れる季節がやって参りました。
 皆様により一層秋桜を楽しんで頂くため、パズル好きの店主がとっておきの謎を添えておもてなしいたします。
 パズルを解いた後は、当喫茶にてお茶菓子でおくつろぎください。

 場所 タブロス市郊外『さつきの喫茶』
 開催 秋桜迷路でパズルを楽しむ会

 秋桜を楽しみながらパズルを解いて、喫茶店長に「解けた!」と自慢しにゆく会です。
 秋桜の種類や意外と知らない生い立ちなど、皆様のお役にも立つちょっとした豆知識もご用意しました。
 花より団子のお客様は、喫茶へ辿り着くまでの辛抱です(*´∀`)♪
 また、パズルを解けなかった場合のペナルティも一切ございませんので、ご安心ください。

 ※時折、秋桜迷路に店長が出没します。出くわしましたら、パズルのヒントをせがむなり回答を迫るなり、ご自由にどうぞ。
  店長はノリが良いです(`・ω・´)キリッ
 ※喫茶到着時点でパズルが解けなかった場合は、店長による解説講座が開かれてしまうかもしれません。あしらかず(^ω^)
 ※当店店長は秋桜だけでなく、多くの花を愛しております。
  そのため、愛ゆえに暴走して秋桜でない話が出てくるかもしれません。あしからず( ノ∀`)アチャー


●DMがおかしいです、先生!
 休憩時間、A.R.O.A.支給スマートフォンに届いたDM(ダイレクトメール)を見て、盛大に首を捻った。

 みなさま、げんきにおすごしでしょうか? <さつきのきつさ>てんちょうでございます。
 すとしすまた、すすすす(スススス)のゆれるきせつがやってまいりました。
 みなさまによりいっそうすすすすをたのしんでいただくため、ぱずるずきのてんしゅがとっておきのなぞをそえておすてなしいたします。

「…………文字化け?」
 すすすすって何だ。いや、これは誤変換?
「違うよっ! 何言ってんの!」
 最初に浮かんだ可能性を独り呟けば、即座にダメ出しをされた。解せぬ。
 声の主を見上げれば、精霊だけでなく自身も戦闘力を有する、アクティブが代名詞の先輩女神人であった。ちらりと見えた彼女のスマホには、同じメール画面が見える。
「さつきの店長が、文字化けするメールを送るわけないんだから!」
 もし文字化けしてるとしたら、それは絶対暗号になってるよ!
(絶対なんですか……)
 コードの文字化けや誤変換を操るなど相当な手間暇だと思うのだが、余計な口は噤んだ。我ながらエライ。
 というかこの先輩、怒ってる姿がそのまんま『o(`ω´*)oプンスカプンスカ!!』って顔文字なんだけども……。
「えっと、先輩。文字化けとか誤変換じゃないなら、これは?」
「よく見なよ。メールの下の方」
「下?」
 メールを最後までスクロールしてみる。すると、下の方にこんな文字列があった。

 1.コ→ス
 2.モ→ス
 ※ひらがなも同様

「このとおりに読むんだよっ」
 つまり、『こ』と『も』がすべて『す』になっている?
「そう。場合によって、『こ』を入れるか『す』を入れるか考えるってとこだね」
「え、えっと……? 1行目は普通っぽいから、じゃあ2行目は『すとしすまた、』……あ、『ことしもまた』?」
 ぶつぶつと独り言を発し音読する様は、中々に滑稽であったろう。周りに人が居なくて良かった。
 ヒントを見るに、件の『すすすす』は『コスモス』なのだろう。
「な、何でこんな面倒な……」
「違うよ、君。これは『面倒』じゃなくて、『遊び心』って言うんだよ」
 そりゃあ、私たちウィンクルムは気を張ってないといけないけどね。
「でも四六時中気を張ってたら、いざって時に力が入らない。一時的に戦いを忘れるのも、悪いことじゃないんだよ」
 私たちが守っているものはこんなにあるんだって、気付かせてくれるから。
「巨大迷路とかやったことないなら、行ってみると良いよ! 店長も面白い人だし!」
 まあ、遊び心満載であることは、このDMで十分に分かる。
「迷路……。でもこれ、秋桜迷路ってありますけど」
「庭園だからね。私もこれは見たことないけど、秋桜で迷路が創られてるんだね、きっと」
 朝一番の貸し切りだし、思いっきり遊べるよ!
「へえ……」

 秋桜で創られた迷路。
 ものは試しに、行ってみても良いかもしれない。

解説

●詳細
 秋桜(コスモス)を愛でて、パズルを楽しみ、お茶菓子でほっこりタイム。

・朝一番の「秋桜を愛でよう会」
 お茶とお茶菓子のセットで、参加費100Jrとなります。

・パズルは初心者向けの簡単なものです。
 ひらがなを使った文字遊びパズル。参加されたカップルひと組に1つずつ、ヒントが存在します。
 迷路内の合流地点に出題されているパズルを、ヒントを元に皆で協力して解く形を予定しています。

●プランについて
・通常のハピネスプランに加えて、パズルが得意か/好きか、といった嗜好を少し記載して頂けますと助かります。
 (記載がない場合は、皆様のプロフィールを元にアドリブで書かせていただきます)
 また、関連する一般スキルをお持ちの場合はそちらも考慮いたします。

 例1)言葉遊びは苦手だけど、雑学知識はあるかな?
 例2)パズルは好きだけど、発想力があまりないかも…。

・迷路ですので、二又や三叉路に出た場合にどちらへ行くか、そういったことも書かれていると素晴らしいです。
 もちろん、分かれ道の度に話し合うのも無問題(モーマンタイ)!

ゲームマスターより

キユキと申します。
初めましての方もそうでない方も、エピソードをご覧下さりありがとうございました。

お待たせいたしました。<さつきのきつさ>秋の始まりです!
向日葵(ひまわり)迷路を逃してしまったので、セルフリベンジで秋桜迷路をご用意しました。
先の2回でパズルがなかったせいか、さつきの店長もwktkしながら皆さまをお待ちしているようですよ!(笑)

リザルトノベル

◆アクション・プラン

久野原 エリカ(久野木 佑)

  心情:
パズル再挑戦だ。今度こそちゃんと解いてみせる(拳を作りふんすふんす。珍しく対抗心(店長に対してな!)とかやる気に満ちている)

そういえば、確かコスモスの花言葉は……「調和」、「謙遜」、それから……(家にある花に関する本を見てみたらしい)

……「乙女の真心」

……これはまた、直球な……(赤面

でも、そろそろ……(ちらり、しかしそこにはエリカ以上にパズルとにらめっこしている佑の姿が

まだいい、か。



豊村 刹那(逆月)
  逆月も家の中に……というか、街中にいるよりはこういう場所の方がいいだろう。

パズルか。小さい頃にクロスワードの経験はあるけど。
最近仕事で頭固まってるしな。解ければいいな。

流石に、見事な秋桜だな。
逆月、(振り返り、秋桜の中に佇む相手が絵になり過ぎて一瞬固まる
……似合ってるな。(認めたくないが、崇められてたとしても仕方ないのか……)

逆月はどっちが良い?
なら、コインで適当に決めるぞ。表なら右。
三叉路なら真ん中でいいか。

店長は本当に花が好きなんですね。
答えは解いてこそ。ヒント貰えますか?

愉快な店長だな。
逆月、少しは楽しめたか?
私か?
まあ、気分転換にはなったけど。

ああ、私のお菓子も食べて良いぞ。(差し出す



ペディ・エラトマ(ガーバ・サジャーン)
  秋桜の迷路……ですか?面白そうですね。
(じーっとDMを見つめている。面白い本を見つけた時の表情と同じ、行きたそうだ)
(誘われたら「はい」と言ってにっこりと笑ってうなずく)

分かれ道ですね。どちらに行きましょうか。
(のんびりと)
間違った道を選んだとしても秋桜の中に居られる時間が長くなるだけだもの。

これは……パズルですね。
(もし解けたならば、にっこりと笑って)
ガーバは?どう思う?
(パズルはどちらかというと好き。苦手ではないが、何となくガーバに任せてみる)
(分からなかったなら素直に「分からないわ」と言ってガーバと相談する)

(お茶とお茶菓子を前に、通ってきた迷路を眺めながら幸せそうな笑顔)


ユラ(ルーク)
  アドリブ歓迎

パズルは好きだよ
得意とは言わないけど、暇つぶしによくやってたし
でも発想力というよりは、経験から傾向と答えを閃く感じが多いかな

迷路は…そうね…
左手法とか攻略法は色々あるけど、迷路って迷ってナンボだからね!
いっそ思いっきり迷子になろうよ
その方が秋桜もじっくり鑑賞できるでしょ?
散策中、枝切れを見つけたら拾っておく
分かれ道に来たら、それを地面に突き立て倒れた方向に進む
枝切れがなかったら……勘で。

というわけで……
店長さんに出会ったらまずはゴールへの道順を聞くかな(笑)
それから…チョコレートコスモスってある?
本で読んで、本当にチョコの香りがするのか気になってたの
もしあるなら、見せてもらいたい


ブランシュ・リトレ(ノワール)
  秋桜に迷路にパズル、ですね
面白そうな事が一杯ですし楽しい一日になれば、嬉しいです

パズルは得意ではないですが、考えるのは好きです
時間は掛かるかもしれないですが、じっくりと考えられればなと
店長さんにあったら少しヒントは、貰いたいです

迷路は常に右手の方に行けば出口に着きやすいと聞いた事があります、けど…
早く脱出しちゃうと一緒にいる時間、減っちゃうでしょうか…
し、知らなかった事にして分かれ道の度に相談してみる事にしますっ

秋桜、綺麗ですね
お花を見ていると、何だか穏やかな気持ちになれますよね

季節事に、別の花が咲いているんでしょうか
それならまた一緒に、来たい、ですね…
な、なんか子供扱いされている気がします


●庭園入り口にて
 しとしとと降り続く秋雨も過ぎ、カラリと晴れた空。少しだけ肌寒いが、良い心地だ。
 盆地のような草地に大きな円を描くオブジェクトは、色とりどりの秋桜で形作られた迷路である。

「皆様、本日は『秋桜迷路でパズルを楽しむ会』へご参加頂き、誠にありがとうございます」
 わたくし、<さつきの喫茶>店長でございます。どうぞお見知りおきを。
 秋桜を見下ろす喫茶の入り口に立つのは、白髪混じりの紳士然とした男性だった。ビニール加工を為された厚手のエプロンに、首元は手拭い、手元は軍手。腰のベルトに下がる革鞄からは、剪定用具と思しきものが幾つも覗いている。
 店長はそれでは、と手にした便箋を『久野原 エリカ』『ペディ・エラトマ』『豊村 刹那』『ユラ』『ブランシュ・リトレ』へ手渡していった。
(いつの間に……)
 はて、一体いつ取り出したのか?
「入り口は5箇所あります。便箋に秋桜の種類が書いてありますので、同じ種類のある入り口へどうぞ」
 便箋の中身は、迷路の中央にあるパズルのヒントだと云う。そのパズルは迷路の中央に置いてあると。
「それでは皆様、いってらっしゃいませ」
 店長の美しい辞儀に見送られ、各々が迷路へと足を踏み出した。



●くるくる秋桜
 二つ折り便箋に書かれた文字は『ベルサイユ』。
「これは……随分と荘厳な名前だな……」
 秋桜の1つ1つは頼りないが、このように集まると存在感があった。やや大ぶりの花をつけた秋桜の入り口を分け入っていくと、紅の花びらはレッドベルサイユという種類だと立て札に書いてある。
 ゆらゆらと風に揺れる秋桜の背丈は意外にも高く、エリカは埋もれてしまいそうだ。『久野木 佑』はそんな彼女をじっと見下ろす。
(そうかぁ……エリカさん小さいから)
 うっかり口に出そうものなら、初対面時の二の舞いだ。そこは学習しているので口を噤む。
 ほとんど自分と同じ目の高さにある花を興味深く観察し、エリカは内心でグッと拳を握った。
(パズル再挑戦だ。今度こそちゃんと解いてみせる!)
 店長に参ったと言わせてやる!
 どこか息巻いているエリカに、佑もワクワクと胸が踊った。彼の心情に合わせてパタパタと尾が揺れる。
(前に来たときよりも、エリカさんが楽しそうです!)
 そこでハッと、2人して気がついた。
「そうだ、ヒントだ」
 エリカは便箋を開く。

 たいやき

「……は?」
 2人で便箋を二度見してしまったことは、致し方無いだろう。



 ーーー秋桜の迷路……ですか? 面白そうですね。
 ーーー行きたいなら行くか?
 そんな遣り取りを通じて<さつきのきつさ>へやって来たペディと『ガーバ・サジャーン』は、便箋にある『あかつき』という秋桜の群れまでやって来た。濃紅に中央から白が放射状に広がる花は、花びらの模様にも種類がありとても鮮やかだ。
 迷路へ足を踏み入れると、二又の通路が目の前にある。
「分かれ道ですね。どちらに行きましょうか?」
 のんびりとしたペディの問い掛けへ、ガーバは溜め息混じりに返した。
「ペディ……真面目に考えていないだろう?」
 ガーバより背丈の低い秋桜の垣根だが、周りを見ても道はあまり見えない。
 ペディは穏やかに笑んだ。
「間違った道を選んだとしても、秋桜の中に居られる時間が長くなるだけだもの」
「まあそうなんだが……」
 迷路なんだから出口を目指さなきゃ意味ないだろう、と思わないでもないが、彼女の言う通り焦ることもない。ガーバはとりあえず、目下の行き先を示す。
「右で良いんじゃないか?」
「では、右へ行きましょう」
 背の高い秋桜と低い秋桜が混在した、迷路の中。
「そういえば、ヒントを見ていませんね」
 ペディは手にしたままであった便箋を開く。

 たけやぶ

 彼女もガーバも、思わず足が止まった。
「どういう意味かしら……?」
「何だろうな……」



 刹那と『逆月』は、『イエローキャンパス』と名前の書かれた秋桜の間を通り抜ける。淡い黄色の花弁は白が混ざり、パステルカラーが美しい。オレンジキャンパスという種類は、淡い橙で中心部が桃色をしていた。
(人為的な花畑か)
 見慣れぬが、悪くは無い。
 それなりの興味を瞳に宿す逆月を横目に、連れて来て良かったと刹那は胸を撫で下ろした。
(逆月も家の中に……というか、街中にいるよりはこういう場所の方がいいだろう、と思ったんだが)
「さすがに、見事な秋桜だな」
 園芸に詳しくはない刹那から見ても、讃美しか出てこない。
「逆月、」
 歩くペースの差でやや遅れている逆月を振り返り、刹那は目を見開き固まった。
 秋桜の緑と、花の彩り。それは佇む逆月の白によく映え、また彼の姿を強く浮き立たせてーーー。
 息を呑む。
(認めたくないが、崇められてたとしても仕方ないのか……)
 何とも言えぬ顔で見つめてくる刹那に首を傾げる逆月へ、1つ息を吐いた。
「……似合ってるな」
 意味はおそらく、通じていない。
 ふと、進行方向に二又の道が現れた。
「逆月はどっちが良い?」
 尋ねた刹那を、逆月はゆるりと見遣る。
「お前が好きな方を行くといい」
 その目線はすぐに秋桜へ戻る。思ったより、彼はこの空間が気に入ったのかもしれない。
「なら、コインで適当に決めるぞ」
 表なら右、三叉路に出た場合は真ん中でいいか。
 ピィン、と青空にコインが弾かれる。出たのは表。刹那はもう一度便箋のヒントを見た。

 さつきの

(この庭園の名前か?)
 首を捻る刹那を、逆月は秋桜と共に眺めていた。



「迷路にパズルって……どっちも苦手だ、俺」
 そう弱音に近いものを吐いた『ルーク』に、ユラは笑う。
「左手法とか攻略法は色々あるけど、迷路って迷ってナンボだからね! いっそ思いっきり迷子になろうよ!」
 その方が、秋桜もじっくり鑑賞できるでしょ?
 便箋の『シーシェル』という秋桜は、花びらが1枚ずつ巻かれて不思議な形をしている。そのシーシェルの連なる迷路を歩く途中で、ユラは足元の棒切れを拾った。分かれ道ではこれを立てて、倒れた方向へ進むつもりだ。
 ちなみに便箋のヒントは、

 みるくと

 と書いてあって、よく分からない。
「あっ、店長さん!」
 初めの三叉路の部分で、店長を見つけた。白い秋桜の剪定をしている。
「これはユラさんにルークさん。秋桜はどうですか?」
「うん、すっごく綺麗! あのね、チョコレートコスモスってある?」
(ちょこれーとこすもすってなんだ? チョコなのか?)
 ユラの言葉に、ルークは目を丸くする。店長は頷いた。
「ええ。ゴールへの1本道にありますよ」
「ほんと?! 本で読んで、本当にチョコの香りがするのか気になってたの」
 じゃあ、そのゴールってどう行けばいいの?
 僅かな期待を込めて尋ねると、店長は人差し指を口元に。
「パズルのある場所へ行けば、自ずと分かりますよ」
 存外楽しそうに話すユラの姿に、ルークは意外なものを感じた。
(花とか興味なさそうな感じだったけど。でもなんか、知らねぇ名前の花とか知ってるし)
 花が嫌いな女性はいない、って母上が言ってたけど、アレって本当だったのか……。
(だったら、)
 花とかあげたら、ユラも喜ぶのか……?
 と、そこまで考えたルークは思い切り首を横へ振った。
(いやいや、そんなの柄じゃねぇし!)
 ていうか、やる理由もねぇから!!
(俺の目的は茶菓子なんだっつーの!)
 パズルでも何でも解いて、さっさと行くぞ!
 1人てんやわんやしているルークが気づいたときには、すでに店長は居なくなっていた。
「ルー君? どうかした?」
「な、なんでもない」
 不思議そうなユラへ、ルークは慌てて誤魔化した。
 倒れた棒切れは、中央の道を指している。



「もう秋桜の時期か。見事なものだな」
『ノワール』の言葉に、ブランシュも頷く。
「はい。秋桜、綺麗ですね」
 お花を見ていると、何だか穏やかな気持ちになれますよね。
 便箋にある『ダブルクリック』という名の秋桜は、幾重にも花びらが重なりとても豪奢だ。これも秋桜なのか、と感嘆してしまう。
 ブランシュへ肯定を返し、ノワールは彼女の歩くペースに合わせて迷路を進む。
「三叉路だな」
 私は左のような気がするが、どちらへ行く?
 問われ、ブランシュはうぅんと考えた。
(迷路は常に右手の方に行けば出口に着きやすいと聞いたことがあります、けど)
 早く脱出しちゃうと一緒にいる時間、減っちゃうでしょうか……。
 ノワールは彼女が何か言おうとして止めたことに気づくが、特に指摘はしない。
「では、左で」
 ブランシュは素知らぬ振りで迷路の解き方を飲み込み、左と告げた。
 2人で左へ進路を取ってから、彼女は便箋を開いて中を見てみる。

 しんぶんし

「新聞紙?」
 何だろう、意味すら掴めない。
 秋桜で彩られた角を曲がり、次の三叉路を真っ直ぐ。そこで別の参加者と鉢合わせた。
「あっ、えっと、豊村さん?」
 刹那と逆月だった。互いに挨拶を交わし、ブランシュはおずおずと刹那へ尋ねる。
「あの、ヒント……見せてもらっても良いですか?」
「ん、良いぞ」
 ほら、と便箋を差し出され、ブランシュも自分の便箋を差し出した。
 便箋を見せる刹那に、逆月は思う。
(人が、好いのだろうな。俺に近づく程なのだから……)
 一方、ヒントを交換したは良いものの。
「何なんでしょう……」
「全然分からないな……」
 2人して、疑問が増えただけだった。
 
 ?マークを増産して別れ、ブランシュとノワールはさらに進む。
「行き止まり……」
 花びらの外側に濃い桃の縁取りのあるピコティという秋桜が、目の前を塞いでいた。
「あ、店長さん」
 ノワールの声に顔を上げると、ブランシュよりも背の高い秋桜の向こう側からにゅっと顔が覗いた。
「?!」
「おや、ブランシュさんとノワールさんでしたか」
 背の高いノワールには、とうに彼の姿が見えていたのだろう。教えてくれても良いのに。
「店長さん。このヒントなんですが、どういう意味なんでしょう?」
 驚きから気を取り直して、ブランシュはヒントをせがむ。
「これが一番の大ヒントですよ。ああ、他の方のヒントは見ましたか?」
「はい。『さつきの』とありました」
 店長は嬉しそうだ。
「当庭園の名前はご存じですか?」
「え、<さつきの喫茶>ですよね?」
「読みはそうです。ですが、文字で書くと<さつきのきつさ>となるんですよ」
 それがヒントです、と締め括られてしまい、2人はまた首を傾げた。



 秋桜に囲まれた日時計が、影で時を知らせる。日時計の前には木製のお立ち台があり、そこに木札が6枚転がっていた。
 最初にそこへ辿り着いたユラが、木札に小首を傾げる。
「何かな、これ」

 こ わ り と と に

 バラバラのひらがなだ。
「店長の言っていたパズル、だろうな」
 このパズルを解くのに、あの不可解な単語がヒントになるというのだろうか。
 ルークも一緒になって悩んでいると、エリカと佑がやって来た。互いにペコリと会釈したが、エリカは佑の服の裾をきゅっと握る。
「あっ、これがパズルですか?!」
 お立ち台に気づいた佑は、木札を1枚手に取り裏返してみた。何も書いていない。
 ユラがにこりと笑ってエリカの便箋を指差す。
「ヒント、見せてもらっても良いかな?」
「あ、ああ」
 便箋を交換するが。
「た、たいやき?」
 今日のお茶菓子の名前? な訳ないよね……。
 同じようにユラの便箋のヒントに考え込むエリカを見て、佑もよし、と木札を見た。
(お、俺も頑張ってみ……う、)
 途端に眉間が寄ってしまった。
(え、エリカさんだって頑張ってるんだし、俺だって……む……!)
 そのエリカは、家で調べた秋桜の花言葉を思い出していた。
(花言葉は確か「調和」「謙遜」、それから……)
 乙女の真心。
 あまりに直球で赤面したことを思い出し、またも頬が赤くなってしまう。
(でも、そろそろ……)
 ちらりと佑を見上げる。真剣にパズルに向き合っている彼に、少し肩の力が抜けた。
(まだいい、か)
 必死に考えている佑の頭から煙が出そうで、こっそりと笑う。

 刹那と逆月、ペディとガーバが、別の通路から同時に出てきた。ペディが先に気づき、挨拶ついでに便箋へ眼差しを向ける。
「そちらのヒントを見せて頂いて良いですか?」
「ああ」
 次に木札を見下ろし、ペディはガーバへ言葉を振る。
「これは……パズルですね」
 ガーバは? どう思う?
 パズルを前にしたものというより、状況を楽しむ彼女の笑顔。ガーバは態度に見せずとも、どこか脱力した。
(でも、たまにはこういうのも悪くないか)
「私は……アナグラムだと思う」
「そう。自分もそう思うのだけど、どう並び替えるのか分からないわ」
(頭を使う遊びか)
 首を捻る皆を見つめる逆月は、そこまで積極的に解く気は無いようだ。

 さらに別の通路から、ブランシュとノワールがやって来る。
「皆さんのヒントはどんなものですか?」
 ノワールの問いに、全員の便箋が開かれた。ブランシュも続ける。
「店長さんが、『しんぶんし』が一番のヒントで、この庭園の名前は<さつきのきつさ>が正式な書き方と言っていました」
 しかし、解らない。各々が腕を組んだり空を見上げたり、知恵を絞る。

「これは皆様、お揃いで」

 全員が声の主を振り向いた。秋桜の切り花を幾つか手にした店長だ。
「あ、ベルサイユ……」
 エリカの呟きに笑みで頷いた店長は、切り花の茎をなぞる。楽しそうだ。
「ベルサイユは茎が強く、折れ難いんですよ。切り花に向いています。日時計の周りのセンセーションは、街中でもよく植えられているものですね」
 ぽんぽんと花についての話が飛び出してくる。
「店長は本当に花が好きなんですね」
 刹那の言葉に、彼は一層笑みを深めた。
「ええ。花は私の生涯ですから」
 ところで、パズルの調子は如何ですか?
 店長の方から言い出してくれたので、助かった。刹那は直球に問う。
「答えは解いてこそ。ヒント貰えますか?」
「そうですねえ。『新聞紙』という単語は、面白いと思いませんか?」
 皆が呆ける中、佑がにぱりと笑った。
「はい! 上から読んでも下から読んでも同じですね!」
「あっ!」
「回文だ!」
 エリカとユラが同時に声を発し、エリカは恥ずかしさにボッと赤くなった。
「へっ? てことは、たいやき……やいた?」
 彼女を見下ろし呆然と呟いた佑に続いて、それぞれが自分のヒントを見直す。
「これは、たけやぶやけた、ね」
「さつきのきつさ、……なるほど」
「みるくとくるみ、か。で、大ヒントのしんぶんし、と」
 ノワールとガーバが、それぞれ適当に木札を並べ替えてみる。けれど言葉にはならない。
「とは言ったものの……」
「どう並べるんだ?」
 ううん、と全員で唸ってしまった。



●答え合わせはお茶と一緒に
 小高い丘の上に立つ喫茶のテラスで、皆に緑茶と茶菓子が供された。茶菓子は餡に包まれたおはぎだ。
「おはぎとぼたもちは、食べる季節が違うだけで同じものなんですよ」
「そ、そうなのか」
 エリカにとって初めてのおはぎは、美味しかった。2度目の挑戦でもパズルを解けずに落ち込んだ気分が、持ち上がる。
「エリカさん、これ美味しいですね!」
 落ち込みを一瞬で忘れて笑顔を見せる佑が、ちょっと羨ましい。

「店長、チョコレートコスモスって本当にチョコの香りがするんだね!」
 日時計の周りにあった通路は6つ。誰も出てきていない通路が、すなわち出口。
 そこにはユラの望んだチョコレートコスモスが数多く揺れて、仄かな甘い香りが漂っていた。
 庭園を見下ろすユラと違って、ルークは珍しい和菓子に夢中になっている。
(ちょこれーとこすもすから、チョコレートは出来ないのか)
 その実、チョコレートの香りの中でそんなことを思ったなんて、口にはしない。

 茶を一口啜ったガーバは、秋桜迷路を見下ろし幸せそうに微笑むペディに、ふっと笑みを浮かべた。
「これも食べるか?」
 自分の分のおはぎを差し出せば、彼女はまた笑った。
「本当? ありがとう」

 店の奥へ引っ込んでいた店長が戻ってきた。
「それでは、答え合わせをしましょうか」
 小さなコルクボードに、日時計の処にあった6枚のひらがなと同じカードが貼ってある。
「皆さんが回文と言っていたのは、正解です」
 ただし、回文を構成するのは単語だけではありません。

 こ わ り と と に

「これを……」

 に わ と り と こ

「こうすると、」
 左から往復して読んでみてくださいと言われ、刹那が口を開く。
「にわとりとことりとわに? あ!」
 鶏と小鳥と鰐。
「そういうことか……」
 ガーバの言った『アナグラム』も間違いではなく、全員がそこで躓いたということだ。
「この回文は初歩的なものですが、中には文章として成立するものや、五七五の韻を踏むタイプもありますね」

 回文の話はさておき、と店長は話題を秋桜へ転じた。
「秋桜を『秋の桜』と書くのは、秋桜の花びらが桜のそれに近いためだと言われています」
 それから、途中にキバナコスモスがあったかと思いますが。
「これと他の秋桜、チョコレートコスモスは、正確に分類すると別の種類なんですよ」
 知らぬ知識だ、と逆月は少し耳を傾ける。出された茶も、中々に美味い。
 他の参加者と話す店長から視線を外し、刹那は逆月へ訊く。
「逆月、少しは楽しめたか?」
 流れるように頷き、彼は問いを返した。
「お前は、如何なのだ」
「私か? まあ、気分転換にはなったけど」
 答えてから、逆月のお茶菓子が無くなっていることに気づく。
「ああ、私のお菓子も食べて良いぞ」
 皿ごと差し出してやれば、彼は無言で受け取った。

 おはぎを食べきったブランシュは、眼下の秋桜を見下ろす。
「パズルは、解けなくて残念でしたけど……」
 ここは季節ごとに、別の花が咲いているんでしょうか?
「庭園だからな。店の中に『菊まつり』と書いたポスターも貼ってあった」
 答えたノワールをちらちらと見上げて、ブランシュはもう一度口を開く。
「そ、それならまた一緒に、来たい、ですね……」
 ノワールさん。
 最後は俯いてしまい、顔が見られなかった。そんな彼女の頭を、ノワールはぽんぽんと宥めるように叩く。
「機会があったらな」
 否定されなかった嬉しさと、ちょっとした自尊心がブランシュの頬を膨らませた。
「な、なんか子供扱いされている気がします……」
 それでも嬉しいことには変わりなく、不機嫌は長続きしない。

 秋の桜は、青空の下で次の季節を待っている。



 End.



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター キユキ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月05日
出発日 10月13日 00:00
予定納品日 10月23日

参加者

会議室

  • [5]ブランシュ・リトレ

    2014/10/12-11:24 

    えと、初めまして。
    ブランシュ・リトレです。精霊はポブルスのノワールさんです。
    よろしくお願いします。

    迷路もパズルも楽しみ、ですね。
    みんな素敵な一日に、なりますように。

  • [4]久野原 エリカ

    2014/10/11-15:57 

    ……初めまして、久野原エリカだ。
    こっちはパートナーの久野木 佑。テイルスだ。
    ……よろしく。(精霊の後ろに隠れた

    ……ここは二回目だからな。
    今度こそパズルをちゃんと解く。
    コスモスも、もちろん楽しみだ。

  • [3]ペディ・エラトマ

    2014/10/09-12:52 

    はじめまして…。ペディです。
    こちらは精霊のガーバ。ファータよ。
    よろしくお願いします。

    コスモスの迷路なんて綺麗ですね。楽しみだわ。

  • [2]ユラ

    2014/10/08-22:35 

    皆さん、初めましてだね。
    どうもユラです。相方はテイルスのルーク。
    よろしくお願いします。

    巨大迷路、楽しみだな~

  • [1]豊村 刹那

    2014/10/08-09:19 

    初めて会う人ばかりだな。
    豊村刹那だ。精霊は蛇のテイルスの逆月。

    よろしく頼むよ。


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