【月見・ラパン】涙揺れる星の丘(蒼色クレヨン マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 つきうさ農区の緑豊かな牧場や田園風景の中に、よぉく目を凝らすと所々に廃墟となった遺跡が点在するのが見えます。
そんな農区のもっとも端に位置する小高い丘に、小さな石造りの柱が二本だけ立っていました。

アステリの丘、通称星々の丘。

ラビットたちはそう呼んでいるようです。
その丘に立つと、その名前の由来がすぐに分かるでしょう。
この時期、夜になると丘一面に、ルーメンの光を取り込んでいるかのように、淡く赤い光を放ってまるで星を散りばめたような景色が広がっています。
花?
いいえ。それは、ルーナ・トマトゥルというほおづきのような、ヒトが呼ぶところのミニトマトです。

 例年なら、昼夜問わず収穫出来るそうなのですが、今回は夜収穫のお手伝いをして欲しいと頼まれました。
その理由は。

 様々な物のヴァーミン化を調査し、時に立ち向かっていったブラック・ラビットたち。
残念ながら帰らぬ者、ヴァーミン化してしまう者たちも後を立たず。
そのヴァーミン化する直前、もしくは直後でしょうか。
ひとりのラビットが目撃したそうなのです。
このアステリの丘で、一粒の涙をこぼしたブラック・ラビットを。
そのブラック・ラビットはその後すぐにヴァーミンとなって暴れた後、どこかへと消えていったそうです。
そして、そのブラック・ラビットが涙を零した場所には、光を纏うルーナ・トマトゥル。
その光は赤ではなく、どうしてか青く瞬く光でした。

 ヴァーミン化するブラック・ラビットの最後の悲しみの涙なのか、ラビットたちには分かりません。
それでも、それ以来次第に、青いルーナ・トマトゥルが一つ、また一つと増えているのだそうです。
友達だった者、家族だった者、最愛の相手だった者。
いつしか、ヴァーミン化してしまったブラック・ラビットを想うラビットたちの意思によって、
青いルーナ・トマトゥルは収穫せず残されていました。
時折、愛しそうにその青い光に祈るラビットの姿も見えるのだとか。

 青いルーナ・トマトゥルはそのままに、赤く光るルーナ・トマトゥルを収穫して欲しい。
人手が足りないラビットたちからのそんな依頼でした。
昼間の光らない状態のルーナ・トマトゥルは、どれが赤く光り青く光るものなのか、全く区別がつかないそうです。

 夜空と地上の、二つの星々に挟まれて。
丘の上に立ってみます。
赤い星たちの中に、目を凝らすと点々と見える青い星の光。
もしも自分の大切な人が、自分のことも分からず突然どこかへいってしまったら……
青い光を見つめていると、そんな気持ちが静かにこみ上げてくるかもしれません。

 もしも一粒の涙がこぼれたら。
赤いルーナ・トマトゥルはその光を青に変えるでしょう。
もしかしたら、また違った光になるかもしれません。

 星の煌く夜の、小高い丘での収穫依頼。
アナタは何を想うでしょうか。

解説

●目的:赤いルーナ・トマトゥルの収穫

以上です。

たんぽぽのような形状で揺れる、赤と青の光を帯びた幻想的な丘の上で
ただ静かに収穫しながら。
チラリと見えた相手の横顔。
青い光に照らされて、ふと切ない気持ちがこみ上げてくるかもしれません。

涙するアナタにパートナーはどんな反応をするでしょう。
そしてアナタはどんな気持ちをパートナーに伝えるでしょう。
二人に挟まれて、涙を受けたルーナ・トマトゥルの光の色は……?

涙は強制ではありません。
たまたま、祈りにきたラビットを見て、何を思うか。自分ならどうするだろう。など
自由度の高い心情系内容となる予定です。

●収穫祭への激励寄付として
一組につき <300>Jr 一律消費

ゲームマスターより

ここまでご拝読誠にありがとうございます。
しっとり系挑戦、お世話になっております蒼色クレヨンでございます。

コメディに転がりそうになるのを3行置きに消し消しなんてしてませんよ!(台無し)
意識した心情系は今回初となり(た、多分)、ど緊張しつつときめきスタンバイ。
精一杯挑ませて頂きますっ。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

月野 輝(アルベルト)

  たくさん収穫しようと張り切ってたはずなのに、青い光を見て手がとまりがち
いなくなった大切な人…
「どうして私にはパパもママもいないの?」って
よくお婆ちゃん達を困らせていたわ
言い難いわよね、お前のせいで死んだなんて

アル?どうし…え、泣いてないわよ
ちょっと思い出に浸っていただけ
薄情な娘よね
涙も出てこないなんて…

ずっと、泣いたらいけないと思っていたわ
私が泣いたらみんな困る
だから私はしっかりして、お爺ちゃん達を安心させてあげないとって…

何それ
泣かして欲しいなんて一言も言ってないわ
泣いていいなんて言われたら私…

やだもう、子供みたいよね
お兄ちゃんとお別れした時以来かしら、こんなに泣いたの
アルは?あの時泣いた?



ガートルード・フレイム(レオン・フラガラッハ)
  心情】青いトマトの数に思わず息をつく
これだけの数の涙が流れたのか

なあレオン、君はなぜ傭兵をやっているんだ?

レオン、一つ頼みがある。
私に君の仕事の手伝いをさせてくれないか。
路地裏に出入りする危険な仕事なのだろう?
ただでさえオーガと戦うのに、
普段から危険な仕事をしていると思うと…
そばにいられないのが、悔しいんだ。
パートナーのはずなのに

信じてないわけじゃないが
お前に何もしてやれないのが辛いんだよ…!
(取り乱してから)
我が侭言って悪かった(目を逸らす)

(死んだりしないには)本当だな?

(気に入ってるに目を丸くし)約束しろよ。

なら今度から、お前と呼ぶよ。

心情】言いたい事言った後悔と、受け止めてもらえた安堵


ユミル・イラストリアス(ドクター・ドレッドノート)
  綺麗なたんぽぽです
でも師匠は錬金術の素材が云々かんぬんと考えてそうですね、師匠らしいですけど

…静かに泣きだしてしまった師匠の話を聞きました
びっくりしましたけど、なんていうか私の境遇は恵まれてたんだなって…

私は、頑張る両親を見て、潰れそうなアトリエを見て
錬金術を学ばねばならないという気持ちでした…が
師匠に出会って、滅茶苦茶な日々でしたが
錬金術を教えてもらいながらともに過ごした時間は
ただ我武者羅に勉強していた時とは違い、とても楽しかったです。

…錬金術は確かに幸せのみを求めるものではないかもしれません
ですが、師匠のために私なりの錬金術と真剣に向き合おうかと思います。これから。




桜倉 歌菜(月成 羽純)
  アドリブ歓迎

青い光
触れてはいけない気がして
気を付けながら、赤の実を採ろう

羽純くん、あのね
…ううん、何でもない

彼の言葉に背中を押されて語る

覚えてないの
村が…お父さんとお母さんが…居なくなった日の事

気付いたら、私だけ助け出されてて…燃える村から上がる煙を見てた

思い出そうとすると、目の前が暗くなるんだ
お父さんとお母さんと、最後に話した言葉も思い出せない

覚えてなきゃいけないのに、どうして…
(涙

忘れたくなくて…ルーナ・トマトゥルは青く
大切な想い出に染まった

私は思い出せないの
…きっと弱いから

羽純くんは不思議

彼の声が横顔が言葉が、響いて
私を照らす

うん、一緒に頑張ろう

後ろから彼の背中に抱きついて
感謝を伝えたい


一面に広がる赤い光に手を伸ばしながら。
それぞれのウィンクルムが、それぞれの青い光と出会いました。

●弱き光も同じ光

(キレイだけど寂しそうな光……触れちゃいけない気がする……)
気をつけながら赤い実に手を伸ばしていた桜倉 歌菜でしたが、まるで歌菜の心がそれを拒むかのように、
視界の端に揺れるその青い光を無視することはどうしても出来ませんでした。

「羽純くん、あのね」
「なんだ?」
「……ううん、何でもない」

 溢れそうになる言葉を抑えるのもこれで三度目となった頃。
とうとう耐え切れなくなった月成 羽純の口から深い息が漏れました。

「あっ。ご、ごめんね?収穫に専念するから!」
「そうじゃない。言い掛けたんなら、最後まで言え。……気になるだろう?」

 歌菜は目を見張ります。
言っていいの?と漏れそうになったところで、以前に言われたことが頭をよぎりました。
彼は弱い自分も受け止めてくれるのだと。
勇気を出して、ぽつりぽつりと歌菜は言葉を紡ぎ出しました。

「私ね、覚えてないの。村が……お父さんとお母さんが……居なくなった日の事。
 気付いたら、私だけ助け出されてて……燃える村から上がる煙を見てた」

 耳を傾けながら、心の中で羽純はどこか納得します。この少女が時折見せる寂しそうな表情に。

「思い出そうとすると、目の前が暗くなるんだ。お父さんとお母さんと、最後に話した言葉も思い出せない。
 ……覚えてなきゃいけないのに、どうして……」

 歌菜の頬を伝ったモノが、赤いルーナ・トマトゥルの上に落ちました。
赤い光が、歌菜の瞳と同じ、吸い込まれそうな深い青に変わったのを見て羽純は目を見開きます。
その色は歌菜の大切な想い出の光。
そっと近づき青色を静かに灯すルーナ・トマトゥルをしばし見つめてから。
羽純も歌菜へと紡ぎます。

「思い出せない事で自分を責めるな。理由があるんだろ。
 ……仮に俺がお前に忘れられた立場だとして今のお前には、思い出せとは言わない。お前の両親だって、そうだろ」
「でも……きっと私が弱いから、思い出せないの」

 弱い己を否定する歌菜を見るのはこれで二度目。
青い光にそっと触れてみながら、羽純はどこか歯がゆい気持ちを感じるのを抑え応えます。

「お前は、自分の事を弱いって言うが俺はそうは思わない」

 歌菜は不思議そうに羽純の横顔を見つめました。

「弱い自分を知っている。それは強さに変えられるんじゃないのか。知っていないと変えることも出来ない」
「……羽純、くん」
「物事にはあるべき時ってもんがある。いつか思い出すべき時に思い出す、そういうもんだ。
 その時が来ないなら、それはそういう運命だ。運命って言い方は好きじゃないが、な」

 最後の自身の言葉には小さく苦笑いを浮かべながら、歌菜へと向く羽純。
だから、きっといつか思い出せる日が来る、と告げる彼の言葉は、静かに静かに、歌菜の心に染み渡ります。
(羽純くんは不思議)
暗闇に迷いそうになった時、どこからか照らしてくれる光。
歌菜の瞳に、淡く照らされる羽純の横顔が映りました。

「……少し喋り過ぎたな」

 表情を隠すように、その視線へ背中を向けて羽純は立ち上がりました。
その広い背中へ、歌菜はそっと手を伸ばします。
まだ自分には羽純に返せるものが何もないけれど。
この触れ合う温もりから、せめて感謝を伝えたい。

「私、頑張るね」

 いつか自分も、羽純を照らせる光になりたい……
広い背中を抱き締める手に決意の力が僅かに入っていました。

「根を詰めるなよ?また辛くなったら……話くらいは聞いてやるさ」

 羽純は歌菜のしたいようにさせて、背中に感じる温もりと前に回された小さな両手を見つめて言います。
そうして、青い光を視界に映しながら。

「もうこの光が増えないように、俺達で出来ることをするぞ」
「うん、一緒に頑張ろう」

 星灯りに照らされる重なった影を、青いルーナ・トマトゥルはゆっくりと揺らしていました。

●赤でも青でもない光 時に眩しく……

「綺麗なたんぽぽです」

 綿毛こそないが似た形をした小さなまぁるい実に、光を讃えゆらゆらと揺れるそれをつつきながら、
ユミル・イラストリアスはチラリと隣を見上げました。
(でも師匠は錬金術の素材が云々かんぬんと考えてそうですね、師匠らしいですけど)
(錬金術の素材として確保したいものだ)
あっさりと思考を読まれて佇むドクター・ドレッドノートの、錬金術において命を燃やしているのを表すかのような赤い瞳に、
一つのルーナ・トマトゥルの青い光が映りました。

「……おや」
「え!?師匠……っ?」

 何の前触れもなく、ドレッドノートの瞳から零れたモノに気付いた各々から、不思議そうな声と驚きの声が上がりました。

「青い光のものは……不思議な力を持つようだ。中々に興味深い」

 自身の涙に触れて淡々と言い放ってからも、まだ流れるそれにドレッドノートは今度は思いにふけるように呟きます。

「この涙は……悔し涙かもしれない」
「悔し涙、ですか?」

 ユミルの、分厚い眼鏡の奥から感じる視線を受け止めて。
ドレッドノートの口から物語のように、低く、どこか客観的に語られ始めました。

「急にな、故郷を思い出した。
 私の故郷は、砂漠に囲まれ生きるのが厳しい環境で。だからこそ神の教えにすがるような所だった」

 改めて聞くのは初めてかもしれない。
ユミルは、ドレッドノートの話を静かに聴きます。

「私はそんな所で錬金術の知識に触れたのだ。
 少しでも生きやすい環境を作るために、私は夢中になって研究したが周りの奴らは……
 錬金術をよく調べようともせず悪魔の業として糾弾した」

 ああ。だからなのだろうか。
ドレッドノートの、知識欲の無い者へと出る辛辣な態度を時に見ていたユミルは思いました。
(勿論、師匠元来の性格もあるのでしょうが……)

「なんていうか私の境遇は恵まれてたんですね……」
「何をもって、恵まれており蔑まれているかは、当人が決めれば良い。ただユミル、覚えておくといい。
 錬金術とは、必ずしも幸福のみを与える技術ではない」

 ユミルは、赤い瞳に映る青い光を見つめながら、言葉を受け止めます。そして今度は自分が伝えます。

「私は、師匠に出会って、滅茶苦茶な日々でしたが。
 錬金術を教えてもらいながらともに過ごした時間は、ただ我武者羅に勉強していた時とは違い、とても楽しかったです」
「お前は教えがいがある」

 不敵な笑みを浮かべる自分の師を見つめながら、それでもいつもと違うように見えるその相手へとユミルは紡ぎ続けます。

「私は、頑張る両親を見て、潰れそうなアトリエを見て錬金術を学ばねばならないという気持ちでした……が。
 師匠の言うように……錬金術は確かに幸せのみを求めるものではないかもしれません」
「ユミル、」
「ですが、師匠のために私なりの錬金術と真剣に向き合おうかと思います。これから」

 言いかけたドレッドノートの言葉を遮るように、ユミルは新たに芽生えた目標かのように気持ちを真っ直ぐ伝えるのでした。
その言葉を受けたドレッドノートの瞳が細められ、その中の青い光が微かに揺れたように見えました。
いつか、逃げるように逸らした、
いつか、正体不明の苛立ちを覚えた、
そんな感情が再び芽を出しそうな気配に、ドレッドノートはその芽を摘むように吐き捨てます。

「……フン、喋りすぎた」
「私は聞けて嬉しかったです。師匠の貴重な涙も見れました!」
「忘れろ」

 そして見るな、と言わんばかりにユミルの眼鏡をドレッドノートはサッと取り上げます。
『ああっ光がぼやけて混ざって……収穫しにくいですー!返して下さいーっ』という声を背中に受けながら。
(こいつは私の錬金術の道の踏み台なのだ、あまり慣れ合うのは良くない……ともに極める事は無理だ)
失態を覆い隠すように、ドレッドノートの瞳には燃えるような赤い光しか、今はもう映し出されていませんでした。

●内に秘めるは幾色か

「これだけの数の涙が流れたのか」

 赤い光に埋もれながら、その隙間隙間を埋めるように飛び込んでくる青い光に、
ガートルード・フレイムはラビットたちの話を思い出して息をついていました。
それに比べ、彼女のパートナーであるレオン・フラガラッハは少し面倒そうに黙々と赤いルーナ・トマトゥルを摘んでいます。
こういう時、日頃のふざけた態度からは見られない、感傷を排除した仕事ぶりが発揮されるのでしょう。
そんな珍しい姿を、青い光と交互に見つめているうちに、ふとガートルードから無意識に声が発せられました。

「なあレオン、君はなぜ傭兵をやっているんだ?」
「ん?」

 意外な問いだったのか、赤い光たちに隠れていた顔を上げレオンは首を傾げながら素直に応えます。

「言ったことなかったっけ?
 親が望むような仕事はしたくなかった、てのと、戦場に興味があったから、ってだけ」

 何でもないように、再び作業を始めようと顔を埋もれさせたレオンの耳に、
今度は暫く顔を上げている羽目になる言葉が、ガートルードから紡がれました。

「……レオン、一つ頼みがある。私に君の仕事の手伝いをさせてくれないか」
「はっ?」

 がばっと顔どころか体を持ち上げ、レオンは少し離れた所にいるガートルードをまじまじと見つめます。

「路地裏に出入りする危険な仕事なのだろう?ただでさえオーガと戦うのに、普段から危険な仕事をしていると思うと……」
「お前には言えない仕事もあるし、そういうわけには……。っていうかガーティー、どうした?」

 今まで聞いたこともないような、乞うような言葉を受けたレオンは、ゆっくりとガートルードのそばへ寄って行きました。
俯くように立ち、両の手を拳をつくって握り締めるその表情を覗き込みます。
いつもは意志の強そうな光を持つガートルードの赤い瞳には、青い光が揺らめいていました。

「そばにいられないのが、悔しいんだ。パートナーのはずなのに」
「俺のこと信じられないか?」
「信じてないわけじゃないが……っお前に何もしてやれないのが辛いんだよ…!」

 心の叫びがレオンにぶつけられます。
驚いた顔をしたレオンを見て、ハッとしてガートルードは目を逸らしました。

「ちょ……ガーティー?そんな事で泣くなよ」
「そんな事じゃないっ。泣いてもいない!」
 いやいや……と逸らされた顔へとそっと手を伸ばし、ガートルードの頬を伝うモノを拭うレオン。
その耳に、ポツリとした言葉が聞こえてきました。

「我侭言って悪かった」

 不意をつくような謝罪に苦笑いを浮かべ、レオンも焦った心を落ち着けます。

「お前のお陰で戦えるんだろ。お前を置いて死んだりしないよ」

 ガートルードの瞳が、静かにレオンを見据えました。
以前に、自分が死んだと思って茫然自失していた目の前の相手のことが、ふと思い出されたのでした。
……あの時のレオンも、このような気持ちだったのだろうか……

「本当だな?」

 相手の答えなど分かっているはずの問いを、それでもガートルードは口にします。
レオンも当然とばかりに力強く頷きました。

「俺、お前のそばが結構気に入ってるんだよ」

 予想外な言葉に、今度はガートルードが驚きで目を丸くしました。
その反応から、らしくないことを言った自覚が湧き出たレオンが、誤魔化すように足元の赤い光を摘みます。

「約束しろよ」
「お、おう」

 摘む作業をするフリをして、照れくささから少しずつガートルードから気まずそうに距離を取りながら。
最後に、とばかりにレオンはガートルードのいつもの赤い瞳と視線を合わせます。

「なあ、お前さっき俺のこと、『お前』って呼んだろ。俺、そっちの方が好きだわ」

 名前以外では『きみ』とレオンのことも呼んでいたガートルードの、変化を見過ごさずレオンは率直に伝えました。

「……なら今度から、『お前』と呼ぶよ」
「ん。よろしく」

 赤と青の光の間から見える、金色の髪を見つめながら。
口にしてしまった堪えきれなかった思いへの後悔と、
そんな思いも自分自身も受け止めてもらえた安堵感に、
ガートルードはしばし身を委ねるのでした。

●見つけた光の先は

「輝?」

 丘に着いた時までは、収穫を張り切っていたはずの月野 輝がしゃがみ込んだまま動かない様子に
すぐそばで作業していたアルベルト・フォン・シラーは気付き、声をかけてみます。
いなくなった大切な人。
ラビットたちの話から、青い光に手をかざしてみながら、輝は昔祖母たちを困らせていたことを思い出していたのでした。
『どうして私にはパパもママもいないの?』
言い難いわよね……お前のせいで死んだなんて……
無意識に、その表情に寂しさが灯りそうになった瞬間、優しい声に我に返りました。

「輝、泣いているのですか?」
「アル?どうし……え、泣いてないわよ」

 数度の呼びかけには気付かぬまま、アルベルトが真横まで来て声をかけたところでようやく輝は顔を上げます。

「そのようですね。涙に見えたのはこの青い光のせいだったみたいです」

 輝の手のひらに覆われたルーナ・トマトゥルへ視線をやってから、それでもいつもと違った雰囲気を探るようにアルベルトは輝を見つめ返しました。
その視線の言わんとするところを読み取って、輝は困ったような笑顔を浮かべます。

「ちょっと思い出に浸っていただけ。本当よ」

 肩を竦ませてみたものの、輝の視線はすぐに青い光へと落ちました。

「薄情な娘よね。涙も出てこないなんて……」

 祖父母を安心させる為と言い聞かせながら、泣いたらいけないと思っていたのだけれど。
もしかしたら本当に自分は泣けない程、どこか心が冷たいのではないか。
自分のせいでいなくなってしまったのに……
輝は、青い光の揺らめきに促されるかのように呟いていました。
言葉が途切れるまで、見守っていたアルベルトが口を開きます。

「輝のせいではなく、貴女を守りたかったのでしょう。そこを間違えたらご両親が気の毒です」
「でも……」
「輝にも泣いた記憶くらいあるはずでしょう?その記憶すら閉じ込めているなんて、どこまで意地っ張りなんですか」

 輝の自覚のない緊張に気付いたアルベルトは、あくまで穏やかな口調でいつものやり取りを心がけていました。

「私の前ではいくら泣いても構わないんですから。それとも泣かせてあげましょうか?」

 アルベルト得意とする、意地の悪い笑みを浮かべられれば輝も思わず突っ込みます。

「何それ。泣かして欲しいなんて一言も言ってないわ」

 しかしその言葉の終わりは微かに震えていました。

「輝」

 覗き込まれ、その月のような優しい光を宿す目に最後の我慢も見透かされて、輝の両の瞳から二粒の涙が流れます。
その顔を、星々からもルーナ・トマトゥルたちからも隠すように、アルベルトは輝の頭を引き寄せ己の肩に預けさせました。

「やだもう、子供みたいよね」

 暫くして、まだぎこちないものの先程よりは自然な笑顔を浮かべて輝が顔を上げました。

「お兄ちゃんとお別れした時以来かしら、こんなに泣いたの。アルは?あの時泣いた?」
「どうでしたか……多少寂しいとは思いましたが……」

 この時、アルベルトは全く予期していなかった不意をつかれたのでした。
笑顔から驚きと確信へと表情を変化させた輝を見て、ようやく口に手を当て気づくのでした。

「やっぱり……アルがあの時の」

 予感はありました。
優雅に宙を舞うトビウオたちを見ていた時。
眼鏡を取り落とした時の、初めて見るはずだったその顔を垣間見たその瞬間から。
輝の言葉を受け、観念したようにフー……と息を吐いてアルベルトは告げます。

「やはりバレていましたか。あの頃は眼鏡を掛けてませんでしたしね」
「お兄ちゃん、なのね……?」
「黙っていてすみませんでした」

 傷つけただろうか……と心配そうに見つめる視線を受けた輝の瞳から、再び雫が零れました。
謝罪を続けようとしたアルベルトを遮って、輝は首を振ります。
そしてその表情は、とても、とても満足そうな、喜びを浮かべたものへと変わっていきました。

「いいの。アルのことだもの……ずっと、悩んでくれてたのでしょう?私のことを覚えていてくれたんだもの。すごく嬉しいの……」
「……輝」
「でも、一つだけ……約束して?もう、いなくなったりしないって」

 真っ直ぐに見据えられ、アルベルトは真摯に肯定します。

「ええ、もういなくなったりません。約束します」
「ありがとう。それと今までも……見守ってくれてて、ありがとう。アル」

 これからもよろしくね、と照れくさそうに言われれば、こちらこそという微笑が赤い光に映されます。
守っていたはずの少女に、逆に心を守られたような、包み込まれたような感覚がアルベルトの胸の内にひっそりと灯りました。




「歌菜、また手が止まってる」
「わ!?あ、ありがとう羽純くん……っ」

 中々青い光の干渉から抜け出せないものの、パートナーの支えで乗り切ろうとする者。

「師匠!だから隠して持って帰ろうとしないで下さいっ。せめてラビットさんたちに許可を取ってからに……!」
「……こう光っていては服の中ではバレてしまうか……」

 すっかりいつもの調子を取り戻している者。

「レオン。いつの間にこんなに摘んでいたんだ?やれば出来たんだな」
「俺を仕事が出来ないヤツみたいに見てたのか、ガーティー……」

 照れくささは誤魔化せたものの、まだまだお互いの理解には道のりの遠さを実感した者。

「青い光が、いつか癒されますように……」
「輝、お祈りは済みましたか?収穫再開しましょう」

 祈りにきたラビットを見つけ、その痛みを分ち合い一緒に祈りを捧げる者。

赤と青の光は、ウィンクルムたちへ感謝を伝えるようにゆらゆら。
まるで夜空の星のように、より一層瞬いているように見えるのでした。



依頼結果:普通
MVP
名前:ガートルード・フレイム
呼び名:お前、ガーティー
  名前:レオン・フラガラッハ
呼び名:お前、レオン

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 蒼色クレヨン
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 09月24日
出発日 09月30日 00:00
予定納品日 10月10日

参加者

会議室

  • みなさん宜しくお願いいたします
    ユミル・イラストリアスです(ぺこり)

    興味深い植物ですね
    収穫も面白そうです

  • [3]月野 輝

    2014/09/28-02:20 

    こんばんは。
    ガートルードさんの所はお久しぶり、他の皆様は初めまして。
    私は月野輝、パートナーはマキナのアルベルトです。
    どうぞよろしくお願いしますね。

    それにしても…正直、受かると思ってなかったので今ちょっとビックリしてて。
    せっかく行けるのだから、楽しみたいと思うわ。
    青いルーナ・トマトゥルを見ながら赤い方を収穫するのよね。
    ええ、頑張りましょう。

  • [2]桜倉 歌菜

    2014/09/28-00:01 

    桜倉 歌菜と申します。

    ガートルードさん、レオンさん、先日はお疲れ様でした!お世話になりましたっ
    輝さんとアルベルトさん、ユミルさんとドレッドノートさん、初めまして!

    青いルーナ・トマトゥル…見つめていると、胸が苦しくなりますね…。
    兎に角、収穫、がんばらなきゃ!

    皆さん、がんばりましょうねっ

  • ガートルード:よぉっし! 受かったぁぁぁ!!(握り拳)

    レオン:…あのー、ガーティー、なんか嬉しそうなところ悪いんだけどさ、
    俺、あんまこういうのでしっとり情緒たっぷりにとか、性格的に無理なんだけど…。

    ガートルード:こういう状況でもなきゃまじめに自分の話しないだろ君はっ!

    レオン:え? 俺いつも大真面目だよ?

    ガートルード:…(頭抱えた)。
    (気を取り直し)おや、他の参加者の皆さんは全員お会いしたことのある方々だな。
    皆さん、どうぞよろしく。収穫、がんばろうな。


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