プロローグ
得体の知れないヴァーミンが出没している区画がある――そんなラビットの依頼を受けて、巨大迷宮であるキャロットピットへ足を踏み入れたウィンクルムたち。
何でもそのヴァーミンは、ふわふわしていて、更にもこもこなんだとか。一体どんな姿なんだろうと思いながら、一行は問題の区画へと足を踏み入れていた。
無機質な白い通路の突き当たり、その小さな部屋はしぃんと静まり返っていて。それでも何か手がかりはないかと、ウィンクルムたちは柱を撫でたり壁を触ったりしていると――不意に、「かちり」と何かが押されるような音が響いた。
「「え?」」
互いに顔を見合わせたのも束の間。次の瞬間には、がこんという音を立てて床が開いていた。不吉な浮遊感を感じたのも束の間、彼らの身体は突如現れた奈落の底へと落ちていく。
(離さない……っ!)
神人と精霊は咄嗟に手を取り、抱き合ったような姿で重力に身を任せた。床に開いた穴は複雑に枝分かれしていて、彼らは散り散りになって、そして――。
――目を開けると、そこはさっきまでとは違う小部屋だった。繋いだ手の温もりに静かに瞬くと、そこにいたのは大切なパートナーの姿。けれど、他のウィンクルムの仲間たちとは離れ離れになってしまったようだ。
無機質な白い壁は相変わらず。けれど、目の前の扉を開くと、うねうねと曲がりくねった通路が続いているのが見えた。ウィンクルムのふたりは頷き合うと、出口を探して慎重に一歩を踏み出す。
仄かなランプの灯のような、淡い照明に照らされた通路――と、そこで何やら、もこもこと動くものがあった。
「めー」「めー」「めー」「ぬーん」
何と、次々に現れたのは機械仕掛けの羊たち。けれどその羊毛は、本物かと見紛うほどにふわふわだ。……と、何やら変な鳴き声をしたのも居たようだが、彼らは侵入者であるウィンクルムたちを見つけると、ゆっくりと近付いてきた。
「まさか……これが例のヴァーミン?」
しかも、良く見るとその羊たちは、ぱちぱちと帯電している。さながら電気羊のヴァーミンと言った所か。倒そうかとふたりは顔を見合わせるも、仲間たちとはぐれてしまっているし、敵の数も多い。
――と、そこで。羊を覆う電流が不意に止んだかと思ったら、少し経つと再び元に戻った。どうやら帯電には周期があるらしいと気付いた所で、彼らはふと思った。
(電流が止んだ瞬間に、羊さんをもふもふしたら動きが止まるのでは!)
さあ、そうなれば迷っている暇はない。一刻も早くこの電気羊ヴァーミンの群れを突破し、仲間たちと合流して、この迷宮を抜け出さなくては!
――かくして、電気羊のラビリンスに迷い込んだウィンクルムたちの、決死の脱出劇が幕を開ける!
解説
●開始時点の状況
冒頭でキャロットピットの落とし穴に引っかかって、下層に落ちてしまいました。仲間たちとは離れ離れになり、ウィンクルム一組ずつが、それぞれ小部屋に居る状態からスタートします。
●ウィンクルム同士で何とか先へ!
小部屋の先は曲がりくねった一本道。その先は、少し大きな部屋に続いており、皆さんはそこで合流出来ます。上層への出口もそこにあります。
けれど、通路には電気羊のヴァーミンが10体程うろついており、彼らをどうにかしない事には先へ進めません。
●電気羊のヴァーミン
機械仕掛けの羊がヴァーミンになりました。帯電しており、不用意に触れるとばちっと感電します。
けれど、帯電には一定の感覚があり、隙をついて羊毛をもふもふすれば、羊さんは眠ってしまってしばらく動かなくなります。
●出口の部屋
通路の先にある部屋です。皆さんはここで合流します。けれど最後の難関が。ジャンボ電気羊のヴァーミン(大きさは象くらい)が居座っていますので、彼を倒して脱出して下さい。敵は広範囲の電流や体当たりといった攻撃を行い、侵入者を排除しようとしてきます。
●その他おまけ
通路には、わりとしょーもないトラップが置かれてありますので、敢えて引っかかってみるのも一興です。頭上からタライとか、バナナの皮レベルで、楽しいトラップを考えてみて下さい。
ゲームマスターより
柚烏と申します。ふわもこひつじさん! ほのぼのちっくな迷宮探検アドベンチャー……になる予定です。
最初はウィンクルム同士、ふたりきりでゴールを目指し、最後は皆と合流してヴァーミンをぶちのめして下さい。
途中で思う存分羊をもふるのも良し、変なトラップにかかって笑うも良しです。楽しい雰囲気にしたいと思いますので、よろしくお願いします。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
淡島 咲(イヴェリア・ルーツ)
わわっ、ビックリしましたね。イヴェさんお怪我はないですか? 私は大丈夫ですよー(繋いだ手をぶんぶん) すっすみません…手離しますね…! あれ?なんだか可愛らしい羊が一匹二匹…ちょっと多いですね。あとパチパチしてますし気を付けないと。 でも、壊すのも可哀想ですし…できるだけ穏便にいければ嬉しいです。 もふもふしてると動きが止まりますね。よし!羊はできるだけもふもふして止めましょう。 ふふふ…可愛いですしなんだか楽しくなってきました。 わっ!この道とっても滑りますよ!気を付けましょう。 皆さんと合流できたと思ったら大きな羊が。 体制を崩してる間に皆さんでもふりましょう!! もふもふもふもふ。 なんだか…楽しかったですね |
フィーリア・セオフィラス(ジュスト・レヴィン)
神「…うー、…落とし穴、なんて…」 精「…怪我は?」 神「…平気、みたい…。ジュストは…?」 「…ここは、どこ、かしら…?他の皆、は…」 精「…行こう」 そんな感じで落下地点からスタートでしょうか。 ふわもこなヴァーミンの正体が何か分からなくて恐る恐る、ですが。 ・電気羊のヴァーミン 正体が分かったら、ちょっぴり怖がりつつやっぱり可愛い…? 羊さんたちの数が多いのなら、帯電の周期を見極めて電流が戻る前に逃げながら…。 二頭ずつ(?)寝かせていくことになるでしょうか。 |
フィオナ・ローワン(クルセイド)
いきなり、妙なところに落とされたものですわね けれど、これはどうにかしなくては… クルセイドに協力してもらって羊を効率よくもふり 出来るだけ早く、皆様と合流できるようにしましょう 彼曰く、私が羊を寝かせる係らしいですので タイミングを聞いて、迅速に動くことにしますわ あとは、トラップがあるらしいですが… 足元に気を付ければ大丈夫すわよね? 合流後は、計画の通りに動きます 大きい羊の体当たりを上手にかわせて転ばせたら 全力で、もふります…クルセイドと一緒に |
クラリス(ソルティ)
巨大迷宮の探索ってロマンよね!なのに初っ端から落とし穴に落ちるなんて…ツイテないわ! 罠:頭上から大量のトウモロコシ、タライ 『押すな』は押せって事よね?はいドーン(スイッチ踏み) そうしてると羊ちゃんたちの母親みたいね、ソルティ…(笑い震え) はぁー…笑った笑った(壁に手をつき)あれ、今カチッて…ぶふー! ■ジャンボ羊戦 精霊が戦っている間は電流攻撃に注意し離れている 羊の体当たり攻撃を利用して転ばせたい 上手く転んだら全員で全総力を挙げてモフモフする こんな大きなモフモフ羊ちゃんがいたらルーメンの皆も癒されるのにねぇ 次はヴァーミンじゃなくて普通の羊に生まれ変わるのよー?(壊れた羊に抱き付きスリスリ) |
ブランシュ・リトレ(ノワール)
みなさんも無事だといいんですが… でも1人じゃなくて、よかったです 羊さんは可愛いですが進むにはどうにかしないと、ですね まずはじーっとみて周期を確認します 近づいてくるようならじわじわ後退して距離を取っておきます 電流が止まったところでもふもふしにいきますね もふもふ… なんだか、ずっとこうしていたいです… 全部眠らせていると時間がかかるかも、ですね 道の幅などを考えて最低限の羊さんを眠らせただけで済むようにしたいです 遅くなってしまってはいけませんし… 大きな羊さんの相手は大変そうですね 体当たりの反動を利用して転ばせてしまいたいです 倒れた隙をついてもふもふしますね もふもふ… た、倒さなきゃいけないのがつらいです… |
●可愛らしい脱出劇
月に広がる巨大迷宮であるキャロットピット。そこに謎のヴァーミンが出没していると言う報告を受け、調査に赴いたウィンクルムたち。しかしその途中、彼らは罠にかかって下層へと落下してしまう。
固く繋いだ手と手、そのお陰でウィンクルム同士は引き離されずに済んだが、他の仲間たちとは離れ離れになってしまった。落下の衝撃で微かに軋む身体を起こし、静かに辺りを見遣れば――曲がりくねった無機質な白壁の通路が、手招くように伸びている。
「……サク、大丈夫か?」
金の瞳をゆっくりと瞬かせて、イヴェリア・ルーツは床に横たわる神人――淡島 咲に手を差し伸べた。突然の出来事に、咲はまだ事態が呑み込めていない様子であったが――イヴェリアの手を取り抱き起して貰う内に、自分たちに降りかかった災難を理解したらしい。
「わわっ、ビックリしましたね。イヴェさん、お怪我はないですか?」
「オレは大丈夫だ。怪我はしていないか?」
自分のことよりも、まず相手を思いやるのが咲という少女だった。その愛らしい、澄んだ蒼い瞳に見つめられたイヴェリアは、胸の奥がひどくくすぐったくなるような――何処か甘い痺れのようなものを感じて瞳を細める。
「あ、私は大丈夫ですよー」
ふんわりと優しく微笑んだ咲は、繋いだ手をぶんぶんと振り回して元気である事をアピールした。と、そこでイヴェリアと手を握りしめたままであった事に気付き、咲は慌てて顔を赤らめる。
「すっ、すみません……手離しますね……!」
「手……放してしまうのか……」
ぱっと手を離した咲に対し、イヴェリアは何処か残念そうだ。彼としては少し寂しいようだが、仕方がないと言い聞かせて通路の彼方を見遣る。
――と、そこには、謎のヴァーミンの群れが居た。いや、あのふわもこ具合から見るに、あれは機械仕掛けの羊なのだろう。のんびりと通路を行き交っているように見えるが、その身体は帯電しており、時折ばちばちと電光を発するのが見えた。
「あれ? なんだか可愛らしい羊が一匹二匹……ちょっと多いですね。あとパチパチしてますね、気を付けないと」
「ん、結構な数の羊だな……可愛らしいか……?」
小部屋の出口から少し身を乗り出して、状況を確認し合うふたり。そこで、イヴェリアの涼やかな声が、咲の耳をくすぐった。
「オレはサクの方が可愛いと思うが?」
「……っ?! イ、イヴェさん……!」
恥ずかしい、と言うように両手で頬を押さえる咲に向かって、イヴェリアは至極真面目な顔で己の想いを紡いでいく。
「オレは嘘は言ってないんだが……そんなに照れなくていいと思うぞ」
――真面目過ぎるのも、時に罪なのだろうか。胸の高鳴りを必死に抑えつつ、迷宮からの脱出を試みる咲たちは、電気羊のヴァーミンの電流が止むのを待ってその動きを止める事にした。
(壊すのも可哀相ですし……できるだけ穏便にいければ嬉しいです)
もふもふ……咲がふんわりした羊毛に指を埋めれば、羊さんの瞳がとろんと潤んでいく。「めー」と一声鳴いて、もっともふってと言うように、ころんと横になる電気羊。
「もふもふしてると動きが止まりますね。よし! 羊はできるだけもふもふして止めましょう」
「この羊……オレももふるのか……」
漆黒のチャイナ服を翻し、イヴェリアが眉根を寄せて思案した。けれど、量的に彼もしないと間に合わなさそうだし、まるでもふもふしてもらうのを期待するかのように、羊さんは行列を作っている。
「ふふふ……可愛いですし、なんだか楽しくなってきました」
(……もふもふするサクも可愛いな)
羊と戯れ、慈しむように羊毛を撫でる咲は愛らしい。けれど――口にしては、また照れさせてしまうと思ったイヴェリアは、無言でそんな咲をなでなでした。
「もう、イヴェさん。私は羊じゃありませんよ?」
そう言いながらも、はにかむ咲の笑顔は可憐な華のよう。協力して羊を眠らせたふたりは、途中滑る床で抱き合って赤面しつつも――しっかりと迷宮の通路を進んでいった。
●きみともふもふひつじさん
「……うー、……落とし穴、なんて……」
一方で、フィーリア・セオフィラスは、愛らしい瞳に薄らと涙を滲ませながら、ゆっくりと身を起こした。ゆるやかに波打つ白の髪をかき上げ、膝を付くフィーリアに差しのべられたのは、ほっそりとしたジュスト・レヴィンの手。
「……怪我は?」
「……平気、みたい……。ジュストは……?」
フィーリアが問いかけると、ジュストは「問題ない」と言うかのようにゆっくりと首を振る。さらさらと揺れる茶の髪に、端正な美貌が映えていて――こんな時だと言うのに、ジュストは微塵も動揺を見せない。そんな彼の姿にフィーリアは何か言おうとしたが、その唇は力無く震えた。
「……ここは、どこ、かしら……? 他の皆、は……」
代わりに呟かれたのは、状況を案じる言葉で。けれどもジュストは、ただここでじっとしていては何も分からないと思ったのだろう。フィーリアの手を引いて、先へ進もうと目で促す。
「……行こう」
だけど、繋いだその手は確かにあたたかかったから――フィーリアはおずおずと頷き、静かに白い通路を駆け出した。
「ふわもこ……っ!」
目の前に立ちはだかるヴァーミンを見て、最初正体が分からなかったフィーリアは、恐る恐ると言った感じで対峙したのだが。その正体が電気羊だと判明すると、電流が止んだ隙を狙ってもふり始めた。
(やっぱり、可愛い……かな?)
まだちょっぴり怖がりつつだったけれど――もふって眠らせる事ができると分かってからは、ジュストも無言でもふもふに協力してくれた。
(……ふむ、興味深いな)
慎重に帯電の周期を見極め、電流が戻る前に逃げながら。手際よく二頭ずつ寝かせながら通路を進んでいった所で、不意に床がつるっと滑った。
「……あ……!」
転びそうになるフィーリアを、抱きしめたのはジュストの腕。その胸に顔を押し付ける形となったフィーリアが、あの、その、と声にならない声を発する。
「無事ならいい」
端的にそれだけを告げると、ジュストは歩き出す。フィーリアは何か言おうと慌てるも――ジュストの歩調はフィーリアに合わせたゆっくりしたものだったから。少女は頷き、「ありがと、う」と小さく囁いて、急いでその後を追った。
「みなさんも無事だといいんですが……」
先程とは違う小部屋で、不安げに瞳を揺らすのはブランシュ・リトレ。しかし、精霊のノワールが一緒であった事に安堵し、そっと吐息を零す。
「でも一人じゃなくて、よかったです」
「……数、多いな。あまり私から離れないように」
通路の先を見遣るノワールは、怜悧な相貌を崩さず――静かに伊達眼鏡のブリッジを押し上げた。彼の瞳の先には、電流を帯びた羊ヴァーミンの群れが居る。
「まずは、じーっと見て……って、こっちに近付いてきました……!」
のんびり近付いてくるヴァーミンを避けようと、じわじわ後退するブランシュだが、一本道の通路では逃げられる場所は限られてくる。仕方ないと意を決し、電流が止まった所で、彼女はもふもふしようと急いで駆け寄った。
「もふもふ……ノワールさんも如何ですか?」
縋るようにパートナーを見上げたブランシュだったが、肝心のノワールは「任せた」と言うように壁に寄りかかっている。どうも、もふもふは気が引けるようで――結局ブランシュ一人で羊を眠らせる事になったので、思っていたよりも時間が取られてしまっていた。
「なんだか、ずっとこうしていたいです……」
最低限の羊を眠らせて先に進もうとするも、通路の幅を考えるとそれも厳しい。全部を眠らせないと安全が確保されないので、ブランシュは懸命に羊さんをもふっていた。
「……置いて行くぞ」
羊が眠ってもなかなか離れないブランシュに、ノワールは少し呆れたような表情になって。名残惜しそうに立ち上がったブランシュだったが、次の瞬間いきなり足を引っ掛けて転んだ。
「わ、わ……」
どうやら罠に引っかかってしまったらしい。間髪入れずに上からばらばらと降って来た何かから、ノワールはブランシュを庇う。何気なく彼が手に取った、その落下物とは……。
「うさぎの形の、飴?」
「飴が、雨のように降って来たんですね……」
――何とまぁ、微笑ましい罠なのだろうか。しかし、それからも目に見える罠に引っかかりまくるブランシュに、ノワールはやれやれと言うように頭を抱えたのだった。
●愉快な罠にとらわれて
はぁ、と悩ましげな溜息を吐くのは、鮮やかな赤毛を揺らしたフィオナ・ローワン。舞踏のリズムを刻むように、爪先をとん、と叩くと、彼女はゆっくりと辺りを見渡す。
「いきなり、妙なところに落とされたものですわね。けれど、これはどうにかしなくては……」
ああ、と鷹揚に頷いたのは、瑠璃色の長髪――そして同じ色の瞳が印象的な青年だった。その鋭い眼差しが、不敵に細められる。
「まぁ、厄介ごとの始末が仕事とはいえ、今度はまた……随分と奇妙な事態だな」
クルセイド、とフィオナはウィンクルムの片割れたる精霊の名を呼び、電気羊のヴァーミンが彷徨う通路へと足を踏み出した。ふたりは互いに目配せをして、小さく頷く。
「よろしくね、クルセイド」
「……任せておけ」
――クルセイドが電気羊の帯電のタイミングを見極め、フィオナに教える。そして、それを聞いた彼女が迅速に羊をもふって眠らせる。この見事な協力体制で、ふたりは順調に羊たちを眠らせていった。
「出来るだけ早く、皆様と合流出来るようにしましょう」
艶やかな笑みを浮かべたフィオナが立ち上がり、通路の先へ進もうとする。そう言えば、罠があると言う話だったが――足元に気を付ければ大丈夫ですわよね、と言い聞かせながら。だが。
(其れよりも、間抜けな罠があったものだな……)
意気揚々とフィオナが向かう先、彼女が注意している足元より少し上に、ぴんと張った縄があるのにクルセイドは気付いた。
「これにひっかかる者はさすがに……いるのか」
淡々と呟くクルセイドの眼前では、縄に足を取られたフィオナがひゅん、と宙を舞い、逆さまに宙吊りになってゆらゆらと揺れていた。
「……気を付けろと言っておいたはずだがな。まあ、可愛げの一つか?」
陰でくすりと笑ったクルセイドの相貌に、果たしてフィオナは気付いたのだろうか。助けてくださいませ、と悲痛な声を響かせながら、フィオナは漸くクルセイドに救出され――赤面しつつも迷宮を攻略していった。
巨大迷宮の探索とはロマンである、というのはクラリスの言葉だ。そんな彼女に取り敢えず相槌を打ち、保護者の心境でソルティも付いて来た訳なのだが。
「……なのに、初っ端から落とし穴に落ちるなんて……ツイテないわ!」
勝気な碧眼を怒りに燃やし、白い壁に手をついたクラリスが、そこで「あら」と瞳を瞬かせた。ああ、と柔和な表情でソルティも頷き、厭な予感を覚えつつも壁に書かれていた文字を読み上げる。
「明らかに怪しいスイッチがあるんだけど。押すなって書いてる」
「押すな、は押せって事よね?」
「……って、なんで押すのかなー?!」
床にこれ見よがしに設置されたスイッチを、興味津々と言った感じでクラリスが踏めば。「はいドーン」と言った声と同時――不幸な事にソルティの頭上に、何故か大量のトウモロコシが落下してきた。
「わああああ?! な、何で……? わわ、羊が一気に寄ってきた……!」
めーめーと鳴きながら、ソルティに群がってくる羊の群れ。どうやら彼らはトウモロコシに興味があるらしく、そのままもしゃもしゃと羊さんはトウモロコシを食べ始めた。
「おー……食べてる。可愛くて倒しにくいなぁ」
「ふふ……そうしてると羊ちゃんたちの母親みたいね、ソルティ……」
クラリスは笑いながらぷるぷると震え、「むぅ」と眉間に皺を寄せたソルティは、仕方なく羊を撫でると――そのつぶらな瞳が徐々に閉じていく。
「はぁー……笑った笑った」
苦しそうにまだ胸を押さえるクラリスが壁に手をつくと、カチッという不吉な音がして。
「……あれ、撫でたら寝ちゃった。ねぇクラリス、この羊撫でたら寝るみたい……だっ!?」
次の瞬間、かーんという見事な音を立てて、ソルティの頭にタライがぶつかった。遂にクラリスの腹筋は崩壊し、「ぶふー!」と派手な笑声を上げる。
「……もう俺なんてどうでもいいんだ……」
「い、いやその、やっぱり迷宮ってロマンあるわよねー!」
羊に埋もれて床に「の」の字を書くソルティに、わざとらしい位に瞳を煌めかせ、明後日の方向を見つめるクラリスなのであった。
●電気羊の見る夢
電気羊の通路を突破し、遂に皆は終着点の部屋に辿り着く。扉を開けて、互いの無事を確かめ合って安堵したのも束の間――最後の試練がそこで待ち受けていたのだった。
「ぬーん、ぬーん」
今までの羊の親玉のような、ジャンボ電気羊とも言えるヴァーミン。彼は妙な鳴き声を上げながら、電流を纏って襲い掛かって来た。
「これももふるのか!? ……いや、倒すしかないな」
両手を握りしめて、何かを期待するような瞳で見上げて来る咲を押しとどめて、イヴェリアが二丁拳銃を抜き放つ。一方――トランスを、と言うように差し伸べたノワールの手を取って、決意をこめてブランシュが頷いた。
神人たる乙女は、触神の言霊――インスパイア・スペルを紡ぐと同時、精霊の頬にくちづけを落とす。それにより彼女たちは、神々の力を精霊に貸与する事が出来るのだ。
「こっちだよ、羊さん」
軽やかにステップを踏むソルティは、高速でヴァーミンの死角に入り――射撃のフェイクも織り交ぜて、敵のペースを乱そうとした。二丁拳銃から放たれる弾丸は牽制。相手の注意を引く事で、神人が標的にならないようにしたのだ。
そのソルティの意図を察したのだろう。銃を操るイヴェリアもまた、弾丸を放ちヴァーミンの注意を此方に向ける。
「……さあ。終着点で、共に舞踏を舞うとしようか?」
そして――ひらりと風のように駆けあがったクルセイドは。両の手に握りしめた双剣を振りかざし、肌が触れ合う程の至近距離で冴えわたる白刃を閃かせる。その軌跡は、徐々に目で追う事が困難になっていった。
「危ない……っ!」
けれど、戦いの行く末を見守るフィオナがクルセイドの名を呼んだ。電気羊が蓄えた電流が迸り、彼の肌を焦がしたのだ。
「大丈夫だ。傷ならば、癒す」
傷付いたクルセイドの元へ向かったのは、癒しの担い手たるジュストだった。蛇の模様が施された杖を手に、ジュストが身体に触れると――仄かな癒しの光が、クルセイドの傷を塞いでいく。
「おっと、私の存在を忘れて貰っては困る」
謳うように囁いて、ノワールが繰り出したのは『目眩』の名を冠する書。それ自体が魔力を持つ魔具は、困惑と錯乱を敵対者にもたらした。
「……今、だ!」
「ぬーん?」と怪訝な顔をしたヴァーミンは、感覚が曖昧になってきたようで。ふっ、と電流が止んだ瞬間を狙い、ソルティが威嚇射撃を放って羊を挑発した。
それが終焉を招く引き金となったのか――混乱したまま、羊はがむしゃらに体当たりの体勢に入る。しかし、その矛先はひどく危い。
「通って来た通路に戻って、避けることが出来ればと思ったのだが」
残念だ、と呟くジュストの視線の先には、自分たちがやって来た通路がある。しかし、仕掛けが作動して扉が閉まり、後戻りは出来なくなっていたのだ。けれど、その目の付け所は良いな、とイヴェリアが頷いた。
「ぬーん!」
体当たりを仕掛けるヴァーミンから神人を守ろうと、ある者は抱きかかえ、またある者はその手を引き、庇いながら身を翻す。そして――派手な音を立てて壁にぶつかった羊は、その反動で倒れて。ころんと転がったまま身動きが取れなくなっていた。
「今です! 体勢を崩している間に皆さんでもふりましょう!!」
イヴェリアに抱きしめられていた咲が、その瞬間を狙って皆に叫んだ。ええ、と頷く神人たちの瞳には、思いっきり巨大もふもふが出来るという事への期待が、ほんのちょっぴり含まれていて。
「せーの!」
ソルティの掛け声と共に、精霊たちももふりに加わった。全力でもふるフィオナは、クルセイドと一緒にふわふわの羊毛を優しく撫でて。
「もふもふもふもふ」
かなり大きい、と困惑するイヴェリアを促して、咲が楽しそうに羊さんをもふっていた。懸命にもこもこに呑み込まれまいと頑張るのはフィーリアで、ジュストはそんな彼女を後ろから支援する。
「うふふ、楽しい!」
一方でクラリスは悪戯を思いついたように、くすぐるようにもふもふを堪能し――通路の罠を思い出したソルティは、複雑な顔でそれに加わった。
「もふもふ……た、倒さなきゃいけないのがつらいです……」
気弱な表情で、恐る恐るもふもふするブランシュだが、隣でノワールももふりに参加してくれた事で勇気を貰っていた。今度はさすがに参加しなければ、と決意したノワールが、離れたくない気持ちが少し分かる――と思ったのは、ブランシュには秘密にしておいたが。
「ぬー……」
一斉にふわふわもこもこともふられて、遂にジャンボ羊もゆっくりと目を閉じていった。すやすやと完全に寝入った所で神人たちはそっと離れ、精霊たちが武器を構えて一歩前に出る。
「ちょっと可哀相だけど、壊すね」
ソルティが呟き拳銃を立て続けに放てば、イヴェリアも鮮やかな連続射撃を叩き込んで。最期にクルセイドが、その双剣で荒れ狂う破滅の舞を閃かせると、電気羊の瞳の輝きがふっと消えた。
まるで機能を停止したかのように――そのヴァーミンは完全に動きを止めたのだった。
その後ろには、上層への階段があった。これでようやく迷宮を脱出できると実感した一行は、ほっと安堵の吐息を零した。
「なんだか……楽しかったですね」
そう言ってふわりと笑うのは咲。大変だったけれど、意外な冒険が出来たと思えば良しとすべきだろうか。たん、たんと軽やかに階段を昇っていく皆の後ろ、最後にふと、クラリスはヴァーミンの残骸に視線を落とした。
「こんな大きなモフモフ羊ちゃんがいたら、ルーメンの皆も癒されるのにねぇ」
ふ、と溜息ひとつ零して。クラリスは優しい笑みを浮かべ、壊れた羊に抱きつき――その羊毛に頬を寄せる。それから慈しむように、そっと労わるように囁いた。
「次はヴァーミンじゃなくて、普通の羊に生まれ変わるのよー?」
――その時まで、おやすみなさい。どうかいい夢を。
依頼結果:成功
MVP:
名前:クラリス 呼び名:クラリス |
名前:ソルティ 呼び名:ソル・ソルティ |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 柚烏 |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | 冒険 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | 通常 |
リリース日 | 09月21日 |
出発日 | 10月01日 00:00 |
予定納品日 | 10月11日 |
参加者
- 淡島 咲(イヴェリア・ルーツ)
- フィーリア・セオフィラス(ジュスト・レヴィン)
- フィオナ・ローワン(クルセイド)
- クラリス(ソルティ)
- ブランシュ・リトレ(ノワール)
会議室
-
2014/09/30-23:10
えと、私もそんな感じプラン作成しました。
うまくいくといいです、ね。
みなさん、改めてよろしくお願いします。 -
2014/09/30-11:05
ソルティ:
いよいよ今夜出発だね。
・体当たりの反動を利用して転ばせる
・転んだ隙を狙って全員でもふもふして眠らせる
・眠らせたら皆で攻撃しジャンボ電気羊を倒す
上記の流れで皆と協力するようにプランを出したよ。
修正・追加や認識違いがあれば23時くらいまでなら修正出来るから
言ってくれると嬉しいな。
-
2014/09/29-22:15
…おっきい羊、転んだら、皆で、寝かせるの、ね…。…うまく、いくと、いい、ね…。
…寝かせた、あとは…、皆で攻撃、すれば、いいの、かしら…? -
2014/09/27-11:54
ブランシュちゃんとノワールさん、初めまして。宜しくね!
体当たりの反動を利用して転ばせる…いいかもしれないわね!
ジャンボ羊ちゃんを引きつけ壁にドーンと体当たりしてもらって転んだ隙をみて
みんなで全力もふもふ!放電の間隔を見計らって体当たりさせるように
挑発すれば上手くいきそうよね。
それに転んだ状態で10人全員でもふもふすればさすがに効果はありそう!
-
2014/09/26-22:36
あの、遅れてごめんなさい。
ブランシュ・リトレ、です。
パートナーはライフビショップのノワールさんです。
よろしくお願いします、ね。
小さい羊さんの方は…えと、頑張ってきます。
ジャンボ電気羊さんの方は、結構大変そうですね…。
私ももふもふ試してみるの、いいと思います。
小さい羊さんと同じように、効果があるかもしれませんし。
ただ、大きさが象くらいとなると、もしかすると私達では足くらいしか触れないかも、ですね。
体当たりの反動を利用するなりして、転ばせてみる、とかでしょうか。 -
2014/09/26-20:47
そうですねー放電の間隔の間に攻撃で倒しきれるかちょっと不安ですね。
ジャンボ電気羊ですがミニ羊と同じ様にもふもふすることで動きを止めることが出来るなら。
放電の間隔を見計らってみんなで一気にもふもふした後に攻撃できれば確実でしょうか?
しかしジャンボ電気羊で同じことが出来るかが問題ですね。 -
2014/09/26-12:40
ふむふむ…全員のジョブを確認してみたんだけど…
・テンペストダンサー×1
・ライフビショップ×2
・プレストガンナー×2
うん、特に偏ってるわけでもないしバランス良く戦えそうよね。
トラップやちっちゃい羊ちゃん対策は各自パートナーと相談するとして、
問題はジャンボ電気羊ちゃんよね。
・広範囲の電流攻撃
・体当たり攻撃
ジャンボ羊ちゃんはこの二つの攻撃方法しかなさそうだけど、
『広範囲の電流攻撃』には特に気を付けた方が良さそうかしら。
フィオナさんの言う通り、帯電に周期があるんだったら
電流が止んだ瞬間に一斉に総攻撃して倒すのがベストよね。
ただ、モタモタしてると復活しちゃって回避できずに電流攻撃で
全員まとめてビリビリ~って事もあり得そうだし、
動きを封じてから倒すっていうのもアリ? -
2014/09/26-10:28
ご挨拶が遅れ、申し訳ありません
ごきげんよう、はじめまして。フィオナ・ローワンと申します。
パートナーはクルセイド。テンペストダンサーです。
何卒宜しくお願いいたします。
大きい羊は、倒す必要がありそうですね。
小さい子と同じように、帯電に周期があるようでしたら。
それを見極めて行けば、倒すのは多少楽になるでしょうか…?
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2014/09/25-21:50
…あの、フィーリア・セオフィラス、です。…初めまして、…よろしく、お願いします…。
…パートナーは、ジュスト・レヴィン…。マキナの、ライフビショップ、…です。
…ふわふわの、羊に…、変な、トラップ…?
おっきい羊、強そうだし…、回復できる魔法、セットしていって、貰った方が、いいかしら…。 -
2014/09/24-18:18
こんにちは、皆さん初めまして。
淡島咲と言います。
パートナーはイヴェリアさんですよろしくお願いします(ぺこり)
突然落ちてびっくりしましたが何とか無事です。
電気羊がもふもふで…誘惑されます!(もふもふもふもふ -
2014/09/24-16:41
皆さん初めまして。クラリスよ。
パートナーはプレストガンナーのソルティ。宜しくね。
しっかし初っ端から落とし穴に落ちるなんてツイテないわねぇ…!
まぁ、ちっこい羊ちゃんたちはモフればいいとして、ジャンボ羊ちゃんもモフモフすれば眠るのかしらね?
象サイズだとモフるのは難しいかもしれないけどちょっとモフってみたいかも。