プロローグ
誰が呼んだか『虹色食堂』。
決して広くはない店内は、正しく虹色に染め上げられ、賑やかにテーブルを飾るメニューも豊富。
その、豊富なメニューの一つ一つを極めた店が、タブロス市内に点在しているという。
誰が呼んだか、『七色食堂』。
目立つ事の無いその店は、今日も店先で七色のベルを鳴らす。
タブロス市内。
ふと呼ばれた気がしてそちらを見ると、そこには一軒の建物がぽつんと。
――七色食堂……支店『緑』?
木々を背にしたその建物は木造りで、どこも古めかしい。看板に書かれた文字は、ようやく読み取れるくらいのもので、いつもなら気付きもせず通り過ぎてしまっただろう。
ちょうどお腹のすいたお昼時。看板のせいか周囲で目につく食事どころは多くの人が入っているのに、目の前の建物には誰も来ません。
――ねえ、今日はここで食べない?
この店でどんな料理が食べられるのか気になって、傍らの精霊に問いかけます。彼は不思議そうな顔をしながらも、頷きました。
重い木の扉を開けると、鈴の音色が鳴り響きます。
入ると、不思議な感覚に包まれました。
感じる、濃密な深緑の香り。
食堂の中には観葉植物が沢山。しかしテーブルは一つだけ。
目の前のテーブルこには一人の女性が座っていました。どこか人形めいた女の人です。声をかけようとすると、女性はテエブルにある二つの冊子を示します。一つはメニュー表。もう一つにはメッセージ。
『いらっしゃいませ』
女性が冊子をめくります。
『お越しいただきありがとうございます。当店は自然の恵みをふんだんに使った、ベジタリーな料理が自慢です。もちろん、肉料理もお客様のお望みとあらば――おや』
冊子がめくられます。
『精霊と契約紋――お客様はウィンクルムでしたか』
思わず女性を見ますが、彼女は気にせず冊子をめくります。
『ようこそ、ウィンクルムのお客様。当店、お席の方は外にご用意しております。どうぞこちらへ』
女性が立ちあがり、歩き出します。後に続くとテラスがあり、そこを抜けると豊かな緑色に囲まれていました。
庭――というより、森の中の小さな広場にも見えます。
下に生えるのは手入れされた芝生で、しかし周囲は木々に囲まれていました。木は建物の周囲にあったのでしょうか? 周囲の音を遮ってくれているのか、市内の喧騒は聞こえず、都会にいたはずなのに急に森の中に来たような感覚を覚えます。
日差しはやわらかく、涼しい風がそよいでいきました。
女性は置かれていたテーブルと椅子の隣に立っていました。
二人用のテーブルです。ベルが置かれています。
『どうぞお寛ぎください。注文決まりましたら承ります』
女性が一礼し一歩下がり、次のページをめくる。
『なお、当店はお昼寝もできる、小動物とふれあえるのもウリとなっております。もし寄ってきたならば、仲良くしてあげて下さいね』
女性が初めて笑顔を浮かべた。
「よければウィンクルムのお二人に膝枕とか、その他いちゃらぶな所を見せていただけると嬉しいですわ」
あ、最後で欲望が丸出しに……
『失礼しました』
解説
ここは虹色食堂、緑支店。
都会の喧騒から一時離れ、緑に囲まれながらゆったりと食事を楽しんで頂くエピソードです。
メニュー内容は洋食中心ですが、たとえばスープなら「かぼちゃととうもろこしのスープ」といった、野菜スープである確率が高いでしょう。
サラダ、メイン料理、スープのセットで、200Jrです。
(神人、精霊それぞれ一セット選ぶことになります。ご了承ください)
上記に加え、デザートを一品50Jrにてお求めできます。
A.かぼちゃプリン
B.みかんのブリュレ
C.ラズベリーケーキ
オプションで、希望すればシートを敷いて、その上でピクニック形式で食事を楽しむこともできます。
ついうとうとお昼寝だってできます。
店員の希望に合わせて膝枕だってできます!
無理には言いませんが……!
あと小鳥とかリスとか鹿とか、来るかもしれません。
それでは、まったりとした時間をお楽しみください。
その他の登場人物
店員の女性:一歩下がった場所でメイドのように控えてます。給仕などをします。
冊子の人:たぶん厨房で作ってる人か店長らしき人のメッセージ。ほどよく合いの手を入れるのでエスパー疑惑あり。
ゲームマスターより
こんにちは、叶エイジャと申します。
錘里GM主催【七色食堂】連動シナリオです。
私の担当は「緑」となります。
穏やかな空間で、楽しくお過ごしいただければと、思います。
なお、今回他ウィンクルムさんとの絡みはありません。
・料理等について
お好きなものを頼んでいただければよいのですが
プランを圧迫するようであれば、表記なくとも構いません。
二人がどう過ごすかが、メインの描写部分です。
ただ精霊さんと、どんな会話をどんな料理を食べながらするのかとか、
記念になる料理とか、そういう考え方もありかもしれません。
・膝枕に関して
もしもする方がいた場合
店員が希望を口にしたこともあり、
それにかこつけて、普段そういうことができない仲でも話の流れで可能かもしれません。
(ただ、新密度が急上昇とかはないです)
かこつけない場合でする時は、親密度での判定が生じます。
(微成功→親密度微増という感じ)
リザルトノベル
◆アクション・プラン
油屋。(サマエル)
ねーお姉さん せっかくだしシート敷いて食べたいな 動物が寄ってきたら恐る恐る撫でてみる あははッ すごい懐かれてるね! む、野菜だってちゃんと食べてるよ ここのお料理本当に美味しいね 特にプリンが最高! サマエルも食べてみる?あーん ご飯食べた後はシートの上でゴロゴロ 静かだね 素敵な所 ずっとこうやってのんびり平和に過ごせたら良いのに 少し悲しそうな顔 いつの間にか寝ている むにゃ……サマエル 寝言 ※両者アドリブ歓迎 デザート かぼちゃプリン×1 |
ペシェ(フランペティル)
■メインはポークのセット デザートはみかんのブリュレ 冊子は魔法がかかってるのでしょうか? お料理に舌鼓うちつつデザートへ フランのデザートも美味しそうです 一口くれませんか?(あーん) ん、美味しい…! はい、こっちもどうぞ(普通に自分のブリュレをスプーンで掬い口元に差し出す) 美味しいですよね! どうしました?顔が赤いですよ? 食後直ぐに転がると牛になる!っていつも言ってたのにどうしました? 膝枕…店員さんも言ってましたし、良いですよ 良くお姉ちゃんや女友達と膝枕しあったり デザートのシェアもしてたんです …足がしびれてきました…でも、フランが気持ち良く寝てる見たいですしもう少しこのまま… 寝顔、見えないのが残念です |
ミオン・キャロル(アルヴィン・ブラッドロー)
凄いお店…不思議な感じ 変った店員さんね…っていちゃらぶ!? …ウィンクルム全員が恋人じゃないわよ(ジト目 あら、…お腹減ってるの? 動物に精霊が食べ物を少し分け側に寄せる 足元→手→肩と戯れてるの見て身を乗り出す 凄い…あっと(慌てて口を塞ぐ え、えぇ!?待って、登ってくるっ! …取って、これ取りなさいよ!(わたわた ぜーはしながら…見てる分にはいいのよっ!←悔し紛れ 一段落したら食事再開、食後は1人ケーキ 気を使って「味見する?」 ぴしっと固まる どうしていいか分らず動きが取れず硬直 どきどきが収まったら、寝顔を見て触れたいな…どうしようと葛藤 手を伸ばしかけ左手の紋様が目に入る ぽんとされた頭に両手 俯きながら片手を出す |
アイリス・ケリー(ラルク・ラエビガータ)
どのようなお食事が出てくるのか楽しみですね 二人分のセットと、デザートにBのみかんのブリュレとCのラズベリーのケーキを どちらも食べるのは私だと、ちゃんと断りを入れておきます お食事はとても美味しいんですが、真剣に食材について考えてらっしゃるのが意外 ラルクさんは食べられればなんでもいいんだろうと思っておりましたから とはいえ、質を重視する彼の言い分もらしいといえばらしいですが あら、兎…ふふ、可愛い 膝の上に抱き上げて、撫でながら運ばれてきたデザートを堪能 そういえば店員さんが何やら期待されていましたね 嫌がられるのも断られるのも承知で食べさせてあげましょうかと、提案してみましょうか ちょっとした悪戯ですね |
ジェシカ(ルイス)
本当に都会は何でもあるのね! 緑が一杯で空気が美味しいわね… 何だか村に帰ってきたみたい 折角だしシートを敷いてそこで食べましょ 小さい頃はよく二人でお弁当持って探検とかしたわよね よく迷子にもなったけど 真っ先にルイスが泣くから私がしっかりしなくちゃって思ったわよ 懐かしいわね お父さんとお母さん元気かしら 私だってちょっとは寂しいわよ まあでもルイスがいるから結構気が紛れてる感はあるわね やっぱり幼馴染っていいわよね そういえば膝枕をやって欲しいとか言ってたわよね え、私がやるのはイヤよ 恥ずかしいじゃない やるのならルイスが枕よ …なんだか想像してたのと違うわね かたい、かたいわ もっと肉つけなさいよ肉を |
●
「都会はなんでもあるのね!」
案内された広場を見て、ジェシカの声が弾んだ。ルイスは神人のはしゃぎように店員を横目にしてから、抑えた声を出す。
「えーと、ジェシカはすぐに『都会すごい』とかって言うのは、やめたほうが……」
「だってさっきまでタブロス市内だったのに、空気が全然違うわよ? 屋外なのに。緑も一杯で、何だか村に帰ってきたみたいじゃない」
「いや、確かにその通りではあるんだけどさ……」
ちょっと恥ずかしいかも、と思い再び横目で見れば、店員の姿はなかった。視線を動かせば先程より少し離れた位置に立っていた。表情は笑顔。面白がるようなものではなく、許容するような微笑み。理由は分からないが、ルイスは少しほっとした。
「折角だし、シートを敷いてそこで食べましょ」
「そうだね、じゃあ何にするか決めようか」
……
…………
草を撫で、穏やかな風が通り過ぎていく。
空は静かだった。
木々の奥から、鳥のさえずる声が聞こえてくる。
雲がゆっくり流れていくのを見ながら、ジェシカはサンドイッチを手にした。
「小さい頃、よく二人で探検とかしたわよね。お弁当をもって」
よく迷子にもなったけど、とジェシカはクスリと笑う。
「ああ、そんな事もあったね。懐かしいなぁ」
「思えばいい人生経験になったわ――真っ先にルイスが泣くから、私がしっかりしなくちゃって思ったわよ」
「でも、迷子になったのはジェシカがどんどん先に突っ込んでいくからじゃないかな。獣道とか……」
「そうだっけ?」
「止められなかった僕もダメだけど、ね」
幼い自分に苦笑しつつ、ふとルイスは気付いた。
(あれ、昔のことだと思ったけど、今も似たような感じじゃ……)
流石に泣くようなことはないが、タブロスに来てからでもジェシカが突き進んで……自分がそれを止めきった記憶はあまりない。というか、ない。
もしかして。
いやもしかしなくても、全然成長してない――?
「懐かしいわね」
危機感を感じていたルイスの意識を、トーンの落ちたジェシカの声が引き戻す。
「お父さんとお母さん、元気かしら」
「珍しいね……やっぱり寂しい?」
「そりゃあ私だってちょっとは寂しいわよ。タブロスと村って、けっこう離れてるし」
飛んできた蝶に、ジェシカは指を立てて手を伸ばす。蝶は踊るようにして、指の周囲を回ると飛び去っていった。
「まあでも、ルイスがいるから、結構気が紛れてる感はあるわね」
蝶を追っていた神人の大きな翠瞳が、精霊へと向けられた。
「やっぱり、幼馴染っていいわよね」
「――うん、そうだね」
ジェシカの微笑に、ルイスもうなずいた。
「僕も、そう思う」
空を見上げる。雲は動いていない。
なんでもない一日。
いつもより時間がゆっくりな、ひととき――
「――そういえば膝枕をやって欲しいとか言ってたわよね」
「え」
ルイスが視線をジェシカに。視界の端で店員がいそいそと接近するのが見えた。
「いや、強制されたわけでもないし。ジェシカもスカートじゃないか」
「私がするのはイヤよ。恥ずかしいじゃない。やるならルイスが枕よ」
「ええ!?」
いや、僕がやるのも恥ずかしいんだけど……
なんて抗議はいつもの如く押し切られ、ルイスは己の膝を指しだす羽目になった。
「ふふっ♪」
少し楽しげに頭を乗せるジェシカ――その表情が曇った。
「なんだか、想像してたのと違う。かたいわ。もっと肉つけなさいよ」
「えええ、やらせといて横暴な」
「なによ。こんな硬い枕、寝てあげるのは私くらいよ? 感謝しなさい」
「……ありがとーございます」
「よろしい」
目を瞑るジェシカ。ルイスはため息をついた。穏やかな風が通り過ぎていく。
日差しが暖かかった。
「ジェシカ、そろそろ」
足が厳しい。しかし神人はゆったりとした呼吸のまま動かない。
「もしかして……ジェシカ?」
信じられない事に、ジェシカは心地良さそうに寝ていた。
この後起こすに起こせられず、ルイスは足を痺れさせることになる。
●
「いちゃらぶ!?」
ミオン・キャロルはジト目で店員を見る。
「ウィンクルム全員が恋人じゃないわよ?」
『はい、存じて「は」おります』
さらりと流し、「うふふふ』と後退する女性。変わった店員だと思いながら、ミオンは注文をする。精霊のアルヴィン・ブラッドローは木々を見ていた。
「どうしたの?」
「故郷の森を想い出してな」
「ふうん。雰囲気が似てるの?」
「どうだろうな――待った」
突然、『静かに』とアルヴィンが口に指を立てた。何事かと視線を追えば、小さな、リスのような動物がテーブルの近くに現れていた。小さな瞳で二人を見つめる。
「(腹が減ってるのか)」
「(そうなの?)」
動物を怖がらせないよう小声で話すアルヴィン。やがて料理の欠片をテーブルから落とした。地面に落ちる寸前リスもどきはキャッチ。すぐ口に入れる。精霊が笑った。
「(俊敏なやつだな」」
今度は手に料理を乗せ降ろす。リスもどきは躊躇なく受け取ると、彼の身体を登る。
「凄いのね――あ」
「もう大丈夫。ほら」
肩まで登った小動物と戯れる彼に、思わずミオンは身を乗り出し――声に気付いて口を塞いだ。精霊は笑い、ミオンの膝元に動物を放す。
「えぇ!?」
慌てた彼女の服を掴み、動物は登攀を開始する。
「待って、待って!? 登ってくるっ、わわ」
「……くっ」
慌てぶりを披露する神人に、精霊の口から笑いが漏れた。
「ちょっと、取りなさいよ!」
「さて、どうするかな」
「アールーヴィーン!」
「はーいはいっと」
さっと捕まえるアルヴィン。大人しくなった友達に語りかける。
「こんなに可愛いのに、酷いよなー」
「見てる分にはいいのよ!」
肩で息をするミオン。食前運動にしては十分だった。
そして食後。
「どうしてこうなったの」
ミオンはアルヴィンに膝枕をしていた。
原因は精霊の「昼寝したい」――ミオンがケーキを食べ終えた時のことだ。瞳を煌めかせる店員を呆れて見ていた隙に、ちゃっかり膝の上で寝だしたのだ。いや猫じゃないんだから、な話だが、思わぬ事態に固まっているに時間が過ぎ、挙句精霊も寝入った。屈辱ながら勝ち誇った顔の店員に助けを求めたくても、空気を読んだか去った後。
――で、今に至る。
(どうしよう)
ようやく鼓動は収まった。ふてぶてしい精霊には後で文句を言うとして、寝顔がどんなか興味が湧く。悪い気もするから迷うが。
(枕代なら、安い方よね)
結局興味が勝った。手を伸ばし――そこで左手の紋様が目に入った。思考が止まる。
(これから、どうなるんだろ)
思えば数か月前までは平穏な生活で、安定した未来の展望があった。それが今では――先日はついに、剣を手に戦った。
あの時、守られなかったら死んでいたかもしれない。
そのうちいつか、命を失うか、奪う時が来るかもしれない。
それで、本当に良いのか。
望んできたことではないのに――
「あ……」
気付けばアルヴィンが見つめていた。腕が伸び、ぽん、と頭に手が置かれる。こみ上げるものに、ミオンは俯いた。
「そろそろ足が痺れたろ」
アルヴィンは立ち上がり、手を差し伸べる。この手を掴む限り、自らの力を貸すのが、自分の果たすべき役割と信じて。
手が、握られた。
立ち上がった彼女に、アルヴィンは笑顔を向ける。それは心の霧を払わないが、安堵させるもの。手を握ったまま、彼は歩き出す。
続けて歩き出したミオンが顔をあげた。涙は一筋。それは安心したことによるもの――そして望まぬ自分を続けなければならない、無意識の悲鳴でもあった。
彼女が探し求める未来は、いまだ霧に包まれたままだった。
●
「ねーお姉さん、せっかくだしシート敷いて食べたいな」
油屋。は店員にそう言い、サマエルの方を振り返った。一瞬言葉を失う。
「……どうしたの?」
「さあ、な」
サマエルの頭や肩には、鳥が集まってきていた。止まり木のように角に止まっているのもいる。
何度か試したのだろう。身体を動かし払おうとするが、そのたびに飛び離れ、ややして戻ってくる。むしろ戻った後の方が数が増えていた。油屋。が呟く。
「鳥頭?」
「だれが鳥頭だ」
彼女が恐るおそる手を伸ばしても、逃げない。小鳥の背や頭に触れ油屋。は笑った。
「あははッ、すごい懐かれてるね!」
「笑いごとではないぞ」
肩をすくめるサマエル。結局鳥を乗せたまま食事することになった。
「お前は普段肉しか食ってないだろう。野菜も摂れ」
「む、野菜だってちゃんと食べてるよ。特にこのプリンとかね。最高!」
「ほう」
「サマエルも食べてみる? あーん」
油屋。の行為に店員の目が煌めく。サマエルがプリンを咀嚼する。
「ん……うむ、美味い。もう一口」
「むー、あとは自分で頼めばいいだろー」
「いいではないか」
「よくないー」
騒がしく、そして楽しい食事になった。
……
…………
「雲がゆっくりだね」
「そうだな」
シートに寝転がり、青い空を流れてゆく雲を見る二人。サマエルの角から飛び立った小鳥たちの声が、木々の合間から聞こえてくる。
「……静かだね。素敵な場所」
「そうだな」
「ずっとこうやって、のんびり平和に過ごせたら良いのに」
「……早瀬?」
口調にふと思う所があり、サマエルは横目に神人を見た。少し動揺する。油屋。は空を不安そうに――少し悲しそうに見ていた。
なにが、そんな顔にさせるのか。
サマエルの手は自然に動いていた。
「――サマエル?」
手を重ねてきた精霊は、無言。しかし手の温もりに、神人は目を閉じ、薄く微笑を浮かべた。
「ありがと」
……
…………
「寝た、か」
彼女の手の力が抜けてきたと思い見れば、静かに胸を上下させている。苦笑しながら上着を脱ぎ近付くと、油屋。へとそっとかける。
「む、にゃ……サマエル」
「どんな夢を見ているんだかな」
微笑し、先ほどの神人の言葉を思い出す。同じことを考えていた。
――こうしてお前と二人、穏やかに過ごせればいいのにな。
「お前は言ってくれたな。俺を守って、見捨てたりはしないと。一緒にいてくれると」
弱音を吐いたあの時に、涙と共にもらった言葉。
「あの時は、お前を試すような真似をしてしまった」
抱いた感情を、認めたくなかったから。
「嬉しかった」
本当の俺を受け入れてくれたから。
「嬉しかったんだ」
相手が寝てるとはいえ、よくまあ次々、こんなに素直に言えるものだと、自分のことながら苦笑して――サマエルは思う。
だから、この気持ちにも素直になって、言おう。
「――」
ああ、『素直な自分』は思いのほかシャイらしい。
「――好き、だ」
ようやく出せた、囁くような声。寝ていなくとも聞こえたか分からない、呟き。眠る彼女の顔を見て、精霊は苦笑を一つ。再び空を見上げる。
だが、眠る神人のまぶたが囁いたその一瞬だけ、微かに動いたことに彼は気付かなかった。
●
『失礼しました』
「いえいえ、気にしませんよ」
思わずペシェはそう返し、店員が冊子をめくる。
『そう言って戴けますと幸いです』
注文を聞き店の中へと消える店員。しばらくしてペシェは疑問をこぼした。
「……冊子には魔法でもかかっているのでしょうか?」
「そう思わせる手法なら、悪くないやり方だ」
フランペティルが返す。ややして料理が運ばれてきた。マッシュポテト、オニオンスープは共通で、精霊にはサーモンを刻んだほうれん草やブロッコリーなどとともに、パイ生地で包み焼き上げたもの。デザートは二等辺三角形に切り分けられた、下から生地の黄色、クリームの白、ピンクの層、最上部にラズベリーの赤で彩られたラズベリーケーキ。
一方の神人のデザートは、焦げ跡鮮やかなカラメル層を頂きにするみかんのクレームブリュレ。そしてメイン料理は――
「……共食い」
ニンジンやキュウリをローストポークで巻いた、ポークの野菜巻き。
「何か言いました?」
「いや、何でもないぞ?」
誤魔化すように、フランペティルは話題を作る。夏祭りの弟(たぬき)は元気だろうかとか、また我に化けてこないものかとか。本人も唐突に作りだした話題だけにペシェは訝しげに目を細めるが、砲丸投げは上手いでしょうかとか、尻尾は弱点じゃなさそうですよねなどと切り返せば、フランペティルは閉口する。
容赦がないな肉よ、などと言ってるうち別の話題ができて――気付けばデザートを残すところになっていた。
「フランのデザートも美味しそうですね。一口くれませんか?」
「一口? 構わんが……っ」
皿を神人の手元に持っていこうとして、精霊は戸惑った。ペシェは口を「あーん」と開けている。
つまりは、そういうことらしい。フォークでケーキを切り分け、妙に唇に目が行くのを意識しつつフランペティルは「あーん」の任務を完了する。拍動激しい危険な任務だった。
「ん、美味しい……!」
「そうであろう、我のケーキだからな」
「はい、こっちもどうぞ」
(な、なにぃ!?)
停滞もなく自らのデザートを掬い差し出すペシェに、精霊の思考が一瞬停止する。
(これは、食べれば間接キスになるのではないか!?)
「どうしました? あーん」
「お、おう」
口を開けながらなので「おーう」と少々間抜けな声と共に、ブリュレを食べるフランペティル。
「どうしました、顔が赤いですよ?」
「あ、赤くなどないわ! それより席を移動するぞ! 店員も膝枕を見せろと言っておったしな」
「……食後すぐに転がると牛になるって、いつも言ってたのにどうしました?」
「深く気にするな。店員、シートをそこに!」
『既に』
「早いな!? 大義である。よし肉よ、今こそ膝枕となるのだ!」
「いいですよ」
「――え?」
呆気にとられる精霊。むしろ『やりましたね!』と言う店員の喜びようが激しい。
「良いのか?」
「良いですよ?」
クスクスとペシェがシートに座り、膝をトントンと叩く。
「さ、フラン。どうぞ?」
「あ……で、デハ失礼シマス」
拍子抜けした所作から一転、ぎこちなく横たわるフランペティル。店員は空気を読み退場する。
「よく、お姉ちゃんや友達と膝枕しあったり、デザートのシェアしてたんです」
「そう、だったか……」
それを思い出しちゃって、という神人の言葉に言葉を返しながら、精霊は彼女の胸で互いの顔が見えない事に安堵していた。
だって、
顔が、熱すぎる!
「どうですか、膝枕の感想は?」
「悪く、ない。才能を認める」
そう返す精霊は、実際言葉通り感触に癒されていたのだろう。うららかな昼下がりに加え、最初の緊張が取れたことで、いつしか眠りに落ちていく。
「フラン? 寝たのですか?」
男性の頭、というよりディアボロの角ということもあってか、少々足がしびれるのが早い。しかしフランが気持ちよく寝てるならと、ペシェはもう少しこのままでいることを選んだ。
「とはいえ、フランの寝顔を見れないのが残念です」
呟きは、穏やかな空へと消えていった。
●
「どのようなお食事が出てくるのか、楽しみですね」
メニューを見ながら、アイリス・ケリーが言った。
「なんか見た感じ、それなりの量がありそうだな」
セットだけで良いか、とラルク・ラエビガータが選ぶ。アイリスは店員を呼んだ。二人分のセットを注文する。
「それと、みかんのブリュレとラズベリーケーキをお願いします」
「――オイ」
ラルクは少し冷めた目でアイリスを見やった。
「俺はデザートは食わないぞ」
「大丈夫です。どちらも食べるのは私なので」
「は? アンタが二人分食う?」
普通の体形である神人を見て、「ああ、そうかい」と精霊は思考を放棄した。一人で二人分のデザートを平らげる――どこにその量が入るか知らないが、考えるだけ無駄だろう。
(食べるとこ見たら、胃もたれしそうだな)
料理が来るまでもう少しかかるかと、彼は少しだけ目を瞑った。
……
…………
思いのほか料理は美味だった。
熱く焼かれたキッシュを切り分け、ラルクはその断面を見た。ベーコンやクリームの中に、アスパラガスなどの緑色が見える。
「野菜を使ってると言うだけあって、いろいろ仕込んでるわけか。こいつは……」
ほうれんそうか、と考えたところで、アイリスがじっと見ていることに気付いた。
「ああ、悪い。うるさかったか?」
一応、一緒に食事してる事もあったので、ラルクはそう言う。
「いえ、そんなことはありません」
「驚いているようだが、どうかしたか?」
聞かれ、アイリスは率直に言った。言いづらいことでもない。
「真剣に食材について考えてらっしゃるのが、意外で」
「そうか?」
「ラルクさんは、食べられればなんでもいいんだろうと思っておりましたから」
アイリスのイメージする彼の行動からすれば、お金を払ってどこかの店で食べればまだ良しだ。木の実を食べるとか、狩りをしてそのまま焼いて食べるとか聞いても、やっぱり、と思えそうだった。
案の定というべきか、「他に何もなければな」とおいた後、ラルクは続けた。
「材料が分かれば自分で作る時に役立つだろ。どうせ食うなら美味い方がいいしな」
「……なるほど」
それもそうかと、アイリスも思う。そもそもラルクは質も重視している節がある。それを考えれば、今の言い分も彼らしいといえば、らしいのかもしれない。アイリスがラルクを、ほんの少し理解した瞬間だった。
その時――草の揺れる音がした。
風ではない。音の発生源を二人が見れば、白くうごめく動物がいた。
「兎か」
「あら……ふふ、可愛い」
近付いてきた現れたのは一羽のウサギ。微笑んだアイリスが膝の上に抱き上げ、撫でる。この店で可愛がられているのか、ウサギの方も態度が慣れたものだ。
(というか、小動物ならだいたいの女がきゃあきゃあ言いそうなモンだが……いつもと大差ないな)
そこでデザートが運ばれてきた。目の前に置かれたブリュレとケーキに、アイリスは、
「ふふふっ」
(――あン?)
うっとりした。
「さて、どちらから食べましょう……どうしました?」
「なんでもない」
「……?」
怪訝そうな顔で、ケーキを食べ始める神人。一口食べたその顔に、ラルクはアイリスが急に幼くなったような気さえした。
(無茶苦茶嬉しそうな顔してやがる……)
しかも、本人にその自覚はない。
ラルクがアイリスを、少し理解した瞬間だった。
「食べます?」
「は?」
目前に差し出されたスイーツに、ラルクの疑問。
「店員さんも何か期待してたので。そうですね、ちょっとした悪戯ってやつです」
「嫌がらせの間違い、だろ」
辟易とラルクは呟く。アイリスは最初から嫌がるのも断るのも承知の上だ。できれば相手の思惑に乗らない返しはないかと、ラルクはしばし悩んだのだった。
依頼結果:成功
MVP:
名前:油屋。 呼び名:乳女 ゴリラ 早瀬 |
名前:サマエル 呼び名:サマエル |
名前:ジェシカ 呼び名:ジェシカ |
名前:ルイス 呼び名:ルイス |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 叶エイジャ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 09月19日 |
出発日 | 09月26日 00:00 |
予定納品日 | 10月06日 |
参加者
会議室
-
2014/09/24-14:39
こんにちは。
アイリス・ケリーと申します。
油屋。さん、先日はお世話になりました。
他の皆様ははじめまして。
どうぞよろしくお願いいたします。
動物と触れ合うことも出来ると聞いておりますので、とても楽しみにしております。 -
2014/09/23-20:06
こんにちは、私はジェシカよ。
初めましての方もお久しぶりの方もよろしくね!
いい雰囲気のお店よね。なんだか地元を思い出すわ。
それぞれ素敵な時間が過ごせるといいわね。 -
2014/09/22-23:50
こんちゃー油屋。だよ! 皆お久しぶりだね~
可愛い動物さん達が居ると聞いて来ちゃいました!
お料理も楽しみだなぁ♪
-
2014/09/22-22:43
アイリスさん、ジェシカさん始めまして。
ミオンさんと油屋。さんはお久しぶりです!
お野菜中心のメニューなら太らないし沢山食べられそうですね… -
2014/09/22-22:23
アイリスさん、ジェシカさん初めまして
油屋。さん、ペシェさんお久しぶり
ミオンです。
…首都にこんな場所あったのね
何かこの前もピクニックに行った気がするけど、緑の中で食べるご飯って美味しいのね
知らなかったわ、色んな発見にびっくり