自然の中でお弁当(山内ヤト マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 A.R.O.A.の行楽掲示板に、ミラクル・トラベル・カンパニーの社員がポスターを貼っていった。
 ポスターにはハツラツとした書体でこう書いてある。

 自然の中でお弁当を食べよう!
 ハイキングのご案内。

 行き先の山はハイキングコースがあり、大がかりな登山の準備はいらない。運動に適した服装をしていれば大丈夫だ。標高は低く小さな山だが、豊かな自然の景観を楽しめる。
 レストランや売店はないため、各自お弁当持参でゴミはお持ち帰り、とのこと。
 山には一休みするのにちょうど良いポイントがいくつかあり、このどこかでお弁当を食べるのが良さそうだ。

1:天然の花畑。
 大きな木が茂らずに、草花が生えている一帯。今の時期はキキョウ、ツユクサ、ナデシコ、黄色や白のキク科植物が多く見られる。

2:せせらぎの水辺。
 岩の間を縫うように流れる清流。この水は飲用できるほど清浄だ。珍しいチョウやトンボなどが飛来する。

3:樹木のドーム。
 トンネル状になった木々の下。広々としており、大人が立てるほどの高さがある。木漏れ日がとても美しい。時々リスが木々の間を走り抜ける。

4:山頂の広場。
 それほど標高は高くない山だが、見晴らしは良い。不思議なモザイク世界を見下ろせる。岩を磨いて作ったベンチとテーブルがある。

 山では野生生物との出会いも考えられるが、ハイキングコースを歩いていれば危険な生き物はまず出没しない。
 自然管理局からのお願いで、虫や魚類を含む生物の捕獲や餌付け、植物の採取は禁じられている。

解説

・必須費用
交通費:1組100jr
お弁当代:20~200jr

・お弁当2人前材料費
A:お手軽(サンドイッチかおにぎりだけ):50jr
B:定番(質量ともにごく一般的なお弁当):100jr
C:華やか(オシャレで手の込んだお弁当):150jr
D:特盛り(ボリュームたっぷりのお弁当):200jr
E:兵糧(常に戦いに備える人への行動食):20jr

これらは材料費としてかかるジェールの目安です。内容によって価格が上下する場合があります。
例えば、卵サンドやハムサンドなら材料費はAのままですが、キャビアサンドやフォアグラサンドを作りたい場合は50jr以上の材料費がかかると判断され、C相当となります。
お弁当を作るのは、神人でも精霊でもどちらでも構いません。二人でいっしょに作ってもOKです。

ゲームマスターより

山内ヤトです。好きなおにぎりの具材はシャケとツナです。
自然の中で食べるお弁当は美味しいですね。
ウィンクルムの皆さまも、緑豊かな山でのどかな一時をおすごしください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  自然の中で食べるお弁当って格別だよね!
エミリオさんと一緒に作りたいな
お弁当作りもハイキングも思いっきり楽しもうね

C選択、テーマ『リスのにこにこ弁当(キャラ弁)』
・いなり寿司(魚肉ソーセージ、のり、ニンジンを使ってリスにアレンジ)
・卵焼き
・ウインナー
・唐揚げ
+キャンディチーズ、ミニトマトやニンジン、ブロッコリーなどの野菜で華やかに飾りつけ
・かぼちゃの焼きプリン
<スキル:調理、菓子・スイーツ、栄養バランス知識使用>

お弁当は【樹木のドーム】の所で食べよう
リスに会えるといいな~

ごめんなさい、私寝ちゃってた!?
エミリオさんに寝顔見られた、は、恥ずかしい…!(赤面)
あ、あれ?
何でエミリオさんも顔が赤いの?


淡島 咲(イヴェリア・ルーツ)
  お弁当:C(キャラ弁風)
ハイキングコース3:樹木のドーム。

お弁当は私よく作ってたんですよ。でも妹や私用に作るとどうしても可愛いものになってしまって…その、張り切って作ったらこんなことになってしまいました…キャラ弁…イヴェさん、お嫌いじゃないといいのですが…。
それにお料理が好きと言っても未熟ですから時間もかかっちゃいましたし…でも美味しいって言ってもらいたくて…頑張っちゃいました。気にいってくれるといいなぁ。

こんな風にイヴェさんとゆっくりハイキングにこれて嬉しいです。木漏れ日がすごく気持ちよくて…。
今日だけじゃなくてイヴェさんと一緒にいるのは心地いいです。
その…これからもよろしくお願いしますね。




篠宮潤(ヒュリアス)
  お弁当:D(変動了承)

「体力作り…に、なるかな、って」
精霊が耳を傾けてくれそうな言葉探しどうにか誘う

「歩くの好き、だよ」
景色を楽しみながらのんびり登り

「その…作ってきた、んだけど…」
「え?…あ!その、家では質より…量、でいつも作ってる、から…っ」
突っ込まれて気付く
男所帯な為大量生産のクセが出た

三段お重:唐揚げみっちり・ポテトサラダみっちり・握り飯みっちり

近くに他の人居ればドキマギと分けに行ったり

モザイク世界に感慨
「うん…大事な親友と…登ったことある、よ」
「ヒューリ…尻尾、撫でてみて…いい?」
寝た、のかな…
う…触り心地、気持ちいい、かも…(撫でモフ

こんなに誰かとのんびりしたの…とても久しぶりだ…


ミオン・キャロル(アルヴィン・ブラッドロー)
  …ハイキング?疲れるだけじゃない
まぁ、お弁当くらい作ってあげるわ

荷物は精霊に持たす
頂上に着く頃には肩で息
だ、大丈夫よ…あの時よりかはマシだわ※依頼16
ようやく着いた…って、まだ登るの!?
待ちなさいよっ

…確かに景色も綺麗で風も気持ちいい(来て良かったかも

ふと下をみて足が竦む
高所恐怖症ではないが耳の奥でバクバク
思わずぎゅっと腕に寄りそう
はっとして慌てて離れ、くるっとテーブルに向かう
お弁当、食べるわよ!

一口食べて
(…う、合わない)
か、体には良いのよ…
しゅんとして残りの反応にどきどき
美味しいと言われたら満面の笑み

誘ってくれてありがと(小声

D:特盛り(母と共同
華やかを望むが母に一蹴され
せめて量は多めに



豊村 刹那(逆月)
  山なら逆月も馴染み深いだろう。

行動:
逆月を追う形で共に登る。
僻地に居ただけあって山歩きは慣れてるのか。
「逆月。悪いが、もう少しゆっくり頼む。私が辛い」

「弱いというか、山歩きは慣れてなくてな……」
(顕現してから体が軽し、体力作りすべきかな)

花の採取を止める。
「取るのは駄目だ。生態系の保持……ここにある自然を守る為に、色々とあるんだ」

持参した水筒に水を汲む。(飲料用

樹木のドームで昼食。
木々を眺める逆月に仕方ないな、と昼食の用意。
作ってきた小松菜と鰹節のお握りだけ。
お絞りも2つ用意しておく。

色んなものを、逆月に見せてやりけど。
頂上まで行けるか?と自分の足を見る。

ゴミは持参したゴミ用袋に入れ持ち帰る。



 行楽シーズンの秋の山。ハイキングコースのあるこの山に、ウィンクルムたちが遊びにきていた。

●そんなあなたが可愛くて
 『淡島 咲』は二人前のお弁当を作っていた。『イヴェリア・ルーツ』とハイキングにいくためだ。
「イヴェさんに美味しいって言ってもらいたいです」
 張り切ってお弁当作りに励む。丁寧に作ったので、その分時間がかかった。お弁当の盛り付けが崩れないよう慎重に蓋をする。
「……イヴェさんが気に入ってくれると良いのですが」
 少しだけ不安になりながら咲はハイキングに出かけていった。

 咲とイヴェリアはのんびりと歩いていく。秋風が吹いて野の花々をなでていく。咲の柔らかな黒髪もふわりと風になびいた。
「こんな風にイヴェさんとゆっくりハイキングにこれて嬉しいです」
「ああ。心が落ち着く」
 自然の中ということもあるが、それ以上にイヴェリアは咲とすごす穏やかな時間を大切に感じているようだ。
 樹木がトンネル状になった場所で二人は昼食をとることにした。
「準備しますね」
 咲はピンク色のランチョンマットを敷き、お弁当箱を置く。
 だが咲はそこでぎこちなく固まってしまう。
 イヴェリアが蓋を開けようとすると、咲からストップがかけられた。
 そして説明というか弁解のような言葉が並べられる。
「お弁当は私よく作ってたんですよ。でも妹や私用に作るとどうしても可愛いものになってしまって……。その、張り切って作ったらこんなことになってしまいました……」
 観念した咲が蓋を開ければ、そこにはクマやパンダのおにぎりにカラフルなおかず。見た目の彩りも良く、料理の出来もなかなかだ。
 ただ、その見た目がイヴェリアの好みに合わないのではないかと、咲はそのことが気がかりだった。
 咲の作ったお弁当をイヴェリアはまじまじと見つめる。
 彼の眼差しや表情を咲も緊張しながらまじまじと見つめる。
「キャラ弁。というのをきちんと見るのは初めてなんだが手が込んでるというのはわかる」
 イヴェリアの声は嬉しそうだ。
「サクの手料理が食べたいと思っていたがこんなに早く夢が叶うなんてな」
「そんな、夢だなんて大げさです。でもイヴェさんに喜んでもらえて良かったです」
 咲は心がほんわりと温かくなったような気がした。

「木漏れ日が気持ち良いですね」
 自然の中で食べる食事は美味しい。咲の料理に気持ちがこもっているからか、そばにパートナーがいるからなのか。
「今日は楽しいです。いえ、今日だけじゃなくてイヴェさんといる時間は心地良いです」
 ほんの少しの戸惑いの後、イヴェリアは頷く。
「俺もそう思う。サクと一緒にいると……心地良い」
 途中で言い淀んだのは、彼が初めて感じる感情にまだ慣れていないせいだろう。恋という感情に。
「その……これからもよろしくお願いしますね。イヴェさん」
 咲はにこやかにイヴェリアへお辞儀した。
「ああ。よろしく、サク」
 お互いに微笑みかける。
 ふと木の間をリスたちが駆け回る姿が見えた。
「あ、見てください。リスがいますよ! わあ、可愛いです」
 リスたちは、くるくると追いかけっこをしているようだった。
「可愛い! リス同士で遊んでいるんでしょうか?」
 リスたちが何かするたびに、咲は声を弾ませる。
「あっちのリスはドングリをかじってますね。小さい手で木の実を抱えてるところがすごく可愛いです!」
 そんな咲の姿をイヴェリアは静かに見守っていた。イヴェリアが口を開く。
「サク、可愛いよ」
「え……」
 咲の頬がほのかに赤くなる。いうべき言葉が見つからなくて、しばらく口がきけなくなる。
「あっ、はい! リスって本当に可愛いですよね」
 ようやく声に出せたのはそんな言葉。赤く染まった顔をイヴェリアに見られないように、咲はリスを見るフリをして背をむける。心臓の鼓動が落ち着くのを待ちながら。

●たかぶる気持ち
 『ミサ・フルール』はキッチンに立っている。その隣には『エミリオ・シュトルツ』の姿があった。二人で一緒に調理しているが、細かな指示を出しているのは料理が得意なミサだ。
「自然の中で食べるお弁当って格別だよね! つい早起きしちゃった」
「何、そんなに俺とのデートが楽しみだったの?」
 エミリオがニヤリと笑いながらイジワルそうに尋ねれば、ミサは純真に。
「うん!」
「っ……!」
 明るく素直なミサの返事。エミリオの心に愛おしさが込み上げてくる。
「お弁当作りもハイキングも思いっきり楽しもうね」

 山ではエミリオがミサを先導した。ハイキングコースが整備された安全な山だが、エミリオの地理学の知識やサバイバルの技術はムダにはならない。自然の雑学を披露して会話が弾んだり、ミサが歩き疲れたり転んだりしないよう気をつけたり。
 樹木のドームまでたどり着いたところで、食事休憩。ミサはライム色のランチョンマット、エミリオはピンク色のランチョンマットを用意してきた。色違いでお揃いのアイテムだ。
 ふんわりと笑いながらミサがお弁当を広げる。
「テーマはリスのにこにこ弁当だよ。本物のリスにも会えたら良いな」
 メインは魚肉ソーセージ、のり、ニンジンを使ってリス風にアレンジしたキュートないなり寿司。おかずは卵焼き、ウインナー、唐揚げといった定番かつ王道のラインナップ。飾りつけにはキャンディチーズ、ミニトマトやニンジン、ブロッコリーなどが華やかに盛りつけられている。デザートにはかぼちゃの焼きプリン。
 どれもかなりの力作だ。調理、菓子、栄養バランスのスキルが発揮されている。
 見た目をじっくり堪能した後で。
「それじゃあ、いただきます!」
「いただきます」

 食後。ミサの目蓋は何度も下がる。とても眠たげだ。早起きをしたため、今になって眠気がやってきたのだろう。背もたれになりそうな木に、その身を預けている。
「お腹いっぱいになって眠くなるとかミサはまだまだ子供だね。俺としてはもうちょっと大人になってもらいたいんだけど」
 そうからかうも、ミサからの反応は何もない。
「ミサ?」
「くー……」
「って本当に寝たの!?」
 ミサは熟睡している。声をかけたり、軽く肩を叩いてみたが、すぐには目を覚ます様子はない。
「……ミサ」
 ミサの寝顔を見ているうちに、エミリオの心にいくつもの感情が渦巻く。
「恋人の前だからって警戒心なさすぎ」
 無防備に寝ているミサが悪いのだ。おしおきと称してその唇にキスをしてしまおうか。そんな考えがふとよぎる。
 たかぶったハートは、小鳥のさえずりや他の登山客の声で現実に返された。エミリオは軽く頭を振る。ミサのことを強く思うあまり、すっかり周りが見えなくなっていた。
「ミサ」
 彼女の髪をサラリと掻き上げる。柔らかな頬をイタズラっぽくつついてみる。
「楽しい夢でも見ているの?」
 寝顔をのぞきこむ。
「起きて」
 ミサの唇にエミリオは優しく指で触れた。人差し指でそっと唇をなぞる。
「うん……?」
 ミサが目を覚ました。
「あっ! ごめんなさい、私寝ちゃってた!?」
「ぐっすりと眠ってたよ」
「エミリオさんに寝顔見られた、は、恥ずかしい……!」
 ミサは赤面する。
 恥ずかしがるミサの仕草も可愛らしい。エミリオは改めて彼女のことが好きだと思う。ミサのことが好きすぎて、時々自分がどうにかなりそうなほど。
 そんな二人を樹上からリスたちが見守っていた。

●見せたい風景
「こんなものかな」
 二人前のおにぎりを作り終えて『豊村 刹那』は独り言をつぶやいた。自分の分と『逆月』の分だ。
 刹那はパートナーになった精霊のことを思う。山深い僻地の村で蛇神様の化身として崇められていた逆月。都会のタブロスにいるよりも、山の清浄な空気を吸いにいく方が彼にとって良い休息になるだろう。そんなことを刹那は冷静に考えていた。

「山なら逆月も馴染み深いだろう」
「雰囲気は似ているが、やはり違う」
 この山の自然は豊かだが、ハイキングコースということで人の手が加えられている。本物の自然と加工された自然。逆月はその違いを鋭敏に感じ取った。
「そういうものか?」
 自分には区別がつかない、という風に刹那は周囲を見回した。
「ああ」
 揺るぎなく軽やかに。逆月は悠々と進んでいく。その歩みは水面を優雅に滑る蛇にも似ていた。
 一方、逆月の背を追う形の刹那の足取りは彼ほど素早くはない。気力で逆月のペースについていった刹那だが、じょじょに引き離されて間隔が開いてしまう。
「逆月。悪いが、もう少しゆっくり頼む。私が辛い」
 振り返った逆月は怪訝そうな顔をした。刹那が音を上げたのが彼には不思議でならない。
「足が弱いのか?」
 まるで、これくらいは普通の速さだ、とでもいいたげに。見下しているわけではなく、ただ純粋に疑問に思っている。そんな表情だ。
「弱いというか、山歩きは慣れてなくてな……」
「そうか」
 それ以降、逆月は歩くペースを彼女に合わせるようになった。
 気遣いに感謝すると同時に、刹那はウィンクルムとして体力作りをするべきだろうか、などと真面目に考えていた。
 道すがら逆月が花に目を留める。手折ろうと、その手を伸ばしたところで刹那の注意が飛んできた。
「取るのは駄目だ」
「狭量な」
 逆月は花に興味を失ったように手を垂らした。
「生態系の保持……ここにある自然を守る為に、色々とあるんだ」
 刹那はこの山のルールを説明する。人の手が入った山だからこそ、そこに立ち入る人間には規律が求められるということを。
「なるほど。ああもヒトが多勢ならば致し方ないのか」
 遠くに見える団体客を眺めて、逆月は刹那の話に納得した。
 ハイキングコースの途中には水辺がある。刹那は水筒を持って川に近づいた。
「ここの水はキレイで飲用にできるそうだ」
 逆月は目を閉じて、川のせせらぎや木々が葉を揺らす音を全身で感じ取っていた。
 さらに進むと、木々がトンネル状になった場所に出る。逆月は木漏れ日を眺めて物思いにふけっている。
「ここで食事をしようか」
 刹那が作ってきたのは小松菜と鰹節のおにぎりだ。水筒には山でくんだばかりの清水が入っている。手を拭くためのお絞りも持参してきた。出したゴミは袋に入れて持って帰る。こうしたきちんとした配慮から、刹那の人柄やモラル意識の高さがうかがえる。
 二人黙々と食事をしていると、ぽつりと逆月がつぶやいた。
「先程は村にいた頃を思い返していた」
「……」
「タブロスに比べ、粗末な程に小さな村だった。村の子供らとは、秋には山の幸を探した事もあったか」
 冷めた性格の逆月が、どこか懐かしそうに口にする。
 刹那は、かつて逆月がいた村に対して良い印象を持っていない。あの村は逆月を崇めつつ隔離していたフシがある。
(私は色んなものを、逆月に見せてやりたいけど)
 刹那は自分の脚に視線を落とした。すでに歩き疲れてクタクタだ。
「無理はせぬ方が良い」
「では少しだけ休ませてもらう。充分休息したら、また頂上を目指して歩き出そう」
 刹那は逆月に見せたい。そこから見渡せる、大きな世界を。

●特別製おにぎり
 母親と共同作業でお弁当を作りながら『ミオン・キャロル』は『アルヴィン・ブラッドロー』とのやりとりを思い出していた。
 ハイキングに誘ってきたのはアルヴィンからだ。このところ戦闘続きだったのでのんびりしようと。
 そんな彼の発案に、ミオンは最初ノリ気ではなかった。ハイキングなんて疲れるだけだ。だが森育ちのアルヴィンがあまりにも山の良さを楽しそうに話すので、ついミオンも了承してしまった。
 まぁ、お弁当くらい作ってあげるわ、と引き受けて。
「……」
 自己流で作ったおにぎりと、母の指導で作ったおにぎりを見比べる。ミオンは母に感謝した。

「はい。これがお弁当よ」
「もう食べるのか?」
「まさか。アルヴィンが持つのよ」
 ランチタイム用の荷物をアルヴィンに渡す。お弁当を作ってきたのはミオンなのだから、アルヴィンに荷物を持たせるのはある意味公平なのかもしれない。
「どうせなら頂上で喰おうぜ」
 アルヴィンは山頂の広場を目指して、元気に歩き出した。
 天然の花畑は比較的道も平坦だ。まだミオンにも余裕があった。
 せせらぎの水辺では岩場が多くなる。ミオンは転ばないよう注意しながら進んだ。
 樹木のドームのトンネル自体は歩きやすいのだが、そこに至るまでにけっこうな距離を登る必要がある。ミオンはハンカチでそっと汗を拭った。
「山頂の広場に到着! やっぱり頂上は空気が良いな!」
 アルヴィンは思いっきり深呼吸をした。
「よ、ようやく着いた……」
 ミオンは肩で息をして、疲労困憊といったありさまだ。
「大丈夫か?」
 ちょっと無理をさせてしまったかな、とミオンを気遣う。
「だ、大丈夫よ……。あの時よりかはマシだわ。ほら、前に依頼で山奥のサルゴウ村へいったでしょ。あの山はハードだったわ」
「あの時もミオンはへばってたよな」
 アルヴィンはニコッと爽やかに笑う。
「お。あっちの方が見晴らしが良さそうだ。いってみるか」
「……って、まだ登るの!? 待ちなさいよっ」
 広場でも最も視界の開けた場所へと移動する。そこからはパッチワークのようなモザイク世界が見渡せた。
「すごい眺めだな。壮大だ」
「ステキね。景色もキレイで風も気持ち良いわ」
 来て良かったかも、とミオンは黒髪をなびかせながら思い直す。
 ふと、下の方を見てミオンの足がすくんだ。思わず隣にいるアルヴィンの腕にぎゅっと寄りそった。
「ん、どうした?」
 子供をあやすように、アルヴィンはミオンの頭をポンポンと軽く叩く。
「っ! お弁当、食べるわよ!」
 パッと離れ、広場のテーブルへとむかう。
 ランチョンマットを広げてお弁当箱の蓋を開ける。おにぎり各種と、アスパラのベーコン巻き、卵焼きに唐揚げ、ポテトサラダにはミニトマトがアクセントになっている。全体的にボリュームは多めだ。
「ありがとうな、ミオン」
 アルヴィンはヒョイとおにぎりを手にとった。それはミオンが自己流で作ったもので。
「うぐ」
 薬学の知識を活かした漢方おにぎり、補中益気湯風味だ。効果は夏バテや胃腸の働きの促進。
 作った本人も、食べてみて微妙な顔をしている。
「か、体には良いのよ……」
「基本に忠実で頼む……」
 それでも彼は漢方おにぎりを完食した。アルヴィンは蒼白な顔をして他のおにぎりやおかずを恐る恐る口に運んだ。一口食べて表情が明るく変わる。
「ん! 美味しい!」
 そういわれたのが嬉しくてミオンも満面の笑みを浮かべる。
 アルヴィンの耳に顔を近づけ、ミオンは小声で伝える。
「誘ってくれてありがと」

●迷いのない答え
 『篠宮潤』は勇気を出して『ヒュリアス』を行楽に誘った。
「体力作り……に、なるかな、って」
 彼が耳を傾けてくれそうな言葉を探して、反応をうかがう。
「まぁ任務に役立つと言いたいならば……付き合うかね」
 そんな感じで、どうにかヒュリアスとの約束をとりつけた。
 自分から誘ったのだ。気持ちを込めて潤はせっせと料理を作っていく。

「歩くの好き、だよ」
 周囲の景色を楽しみながら、潤とヒュリアスはのんびりと山を登る。
 体力作りという名目でやってきたハイキングだが、もともと二人は活動的だ。潤は護身として空手を習い、ヒュリアスは剣の訓練に勤しんでいる。この程度の山であれば楽に登れる。
 潤とヒュリアスは静かに談話しながら、快活な歩みで秋の山を進んでいく。
 山頂に着いたのは、ちょうど昼頃だった。
「その……作ってきた、んだけど……」
 潤は三段のお重を取り出した。唐揚げがぎっしり。ポテトサラダがどっさり。最後におにぎりがみっちり。
 ヒュリアスの目が驚きで丸くなる。料理の腕を褒めるべきか、これだけの料理を作って持ってきたことを労うべきか、迷ったようにその口は開かれたままだ。
 悩んだ末にヒュリアスが口にした言葉は。
「……この量は相当なもの、だと思うのだが……?」
 指摘されて初めて潤は量の多さを自覚した。
「え? ……あ! その、家では質より……量、でいつも作ってる、から……っ」
 篠宮家は男所帯で食事の量も多い。つい大量生産のクセが出た。
「ヒューリ、これ……。僕たち、だけで食べ切る、には……ちょっと多い……よ、ね」
「ならば他の登山客におすそ分けしてはどうかね」
 山頂の広場にはポツポツと人の姿があった。
「ええっ……!?」
「丁度よい。少しでも人とコミュニケーションを取る練習と思いたまえ」
 自分の食べる分を確保しながら、ヒュリアスは潤を送り出した。
 潤はドギマギしながらも、他の登山者に料理を分けにいった。潤の作った料理は好評で、喜ばれた。
「ふむ。ウルは質より量といっていたが、美味しくできている」
 ヒュリアスからもそう評価される。

 食事を済ませ、二人は山頂から景色を眺めた。モザイク世界の眺めは美しく、潤は感慨のため息をつく。
「山登り、経験あるのかね」
「うん……大事な親友と……登ったことある、よ」
「親友か……どんな友、だったのかね?」
 潤からはすぐに返事がこなかった。
 その親友は今は亡き人。潤の唯一ともいえる親友だった。神人であった親友がオーガに殺されたことがきっかけで、潤は神人として顕現したのだ。
「かけがえのない僕の親友、だよ」
 いつもの途切れがちな口調ではない。まったく淀みも迷いもなく、潤がしゃべった。
「そうかね。なるほど」
 潤の親友はヒュリアスの友人でもあった。そのことはまだ潤にはしらせていない。
 ヒュリアスは木陰を見つけ、そちらへむかう。彼は木陰に寝転がった。自然とその狼の尻尾が潤の目に留まる。
「ヒューリ……尻尾、撫でてみて……いい?」
 問いの返事は、ぽふんと振られた尻尾だ。好きにしたまえ。ヒュリアスはそういっているのだろう。
「寝た、のかな……」
 潤はソロソロと尻尾に手を伸ばす。
「う……触り心地、気持ちいい、かも……」
 尻尾のモフモフの手触りを楽しむ。
 ふいにヒュリアスの耳がピクッと動いた。彼は頭を起こし人差し指を口に当て、静かに、のジェスチャーをしながら潤に振り返る。
 彼の指し示した方を見れば、野生のウサギの姿があった。ウサギを見るヒュリアスの眼差しはどこか優しげで。
 ウサギはしばらくすると走り去ってしまったが、ほのぼのとした温かい余韻を二人の心に残していった。
「こんなに誰かとのんびりしたの……とても久しぶりだ……」
 潤の言葉に同意するようにヒュリアスの尻尾がゆったりと振られた。



依頼結果:普通
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 山内ヤト
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 08月30日
出発日 09月05日 00:00
予定納品日 09月15日

参加者

会議室

  • [6]篠宮潤

    2014/09/02-20:19 

    遅れてしま、った…っ?;
    篠宮潤(しのみや うる)とパートナのヒュリアス、というよ。
    ご一緒するみんな、どうぞよろしく、ねっ。

    …なんでヒューリが一緒に参加してくれたか、いまいち、分からないんだ、けど…
    ……「任務ないとき、でも、体力作りにいいんじゃない…かな」、って言ったの、が
    効いた…のかな……(ポソリ

  • [5]淡島 咲

    2014/09/02-12:51 

    こんにちは、淡島咲です。
    パートナーのイヴェさんと参加します。
    ゆっくりハイキングができるなんて楽しみです。
    私の作ったお弁当。気にいってもらえるといいのですが…。

  • [4]豊村 刹那

    2014/09/02-10:56 

    私は豊村刹那だ。
    全員会うのは初めて……だな。(周囲を見回し)
    よろしく頼む。

    のんびり登らせて貰うよ。

  • [3]ミサ・フルール

    2014/09/02-06:49 

  • [2]ミサ・フルール

    2014/09/02-06:49 

    ミサ・フルールです。
    パートナーのエミリオさんと一緒に参加します。
    自然の中で食べるお弁当だなんて素敵!
    ふふ、ハイキングも楽しみだよ♪

  • [1]ミオン・キャロル

    2014/09/02-00:13 

    ミオン・キャロルよ
    初めましての人も久しぶりの方も、よろしくお願いします

    …って、えぇ、ようやく着いたのに、更にまだ登るの!?
    景色がいいって…
    ちょっと待ちなさいよ!


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