【夏祭り・月花紅火‏】妖狐のお茶会(雪花菜 凛 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 良く晴れたある日のこと、ウィンクルム達の元へ、お茶会の招待状が届きました。

『お茶会へのお誘い

 まだまだ暑い日が続いておりますが、皆様お変わりなくお過ごしでしょうか。

 このたび、ささやかですが茶会を開くことにしましたので、
 皆様に是非参加いただきたく、ご案内を差し上げました。

 茶会は、紅月ノ神社の茶室にて、19時から22時頃までを予定しております。
 茶と和菓子と一緒に、月の美しい一時をごゆるりと堪能して頂けたらと思います。
 ご都合がつきましたら、お立ち寄りください。

 場所:紅月ノ神社の茶室
 会費:お一人様 200Jr(当日受付にて申し受けます)
 ※着物の貸し出し有り(着付けも承ります)

 心よりお待ちいたしております。 

 敬具』

 差出人の名前は、波留(はる)。
 まだ年若い、青年の妖狐です。
 趣味は茶道で、常日頃からお茶会を開いてみたくて仕方なかった彼は、思い切ってテンコ様にお願いしてみました。
 そして、紅月ノ神社の茶室で、夜の茶会を開く事が許されたのです。

「ウィンクルムの皆さん、来てくれるかなぁ……」
 
 波留は茶室を飾り付けながら、そわそわと時計を見上げます。
 美しい器が、色とりどりの和菓子が、輝きながらお客様を待っていました。

解説

まったり夜の茶会を楽しんで頂くエピソードです。
皆さんは、波留の招待状を見て、茶会へご参加いただく事となります。

純和風の茶会となりますが、皆さんが過ごしやすいよう、堅苦しい事はなし。
正座を崩して、のんびりお茶とお菓子を楽しんで頂けます。
(勿論、きちんと正座で過ごして頂く事も出来ます)

希望者は、着物をレンタルし着付けて貰えます。
お好きな着物の柄や色があれば、プランに明記してください。

お茶は、濃茶と薄茶があります。

濃茶は、数人で飲み回します。
薄茶は、一人一碗ずつで飲みます。

饅頭や餅菓子、羊羹、練切、金団などの主菓子、
落雁や有平糖、煎餅、金平糖などの干菓子が出ます。

お好みで、お茶とお菓子を楽しんでください。

なお、茶室からは、綺麗な月が見れるでしょう。

ゲームマスターより

ゲームマスターを務めさせていただく、『文化祭は、茶道部に茶菓子目当てで入り浸った(部員ではない)』方の雪花菜 凛(きらず りん)です。

お茶会なエピソードです。
素敵な夏の夜の想い出に、月見なお茶会は如何でしょうか?
ゆっくりパートナーさんと語り合うもよし、お菓子に夢中になるのもよし、お好みで是非楽しんで頂けたらと思います♪

皆様の素敵なアクションをお待ちしております!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)

  お待たせ。わ…やっぱり着物似合うね
俺はいつも着ているし、あまり変わり映えしないでしょう?

折角だから濃茶を飲む方に混ぜて貰おう
ご厚意に甘え足は崩して気楽に参加
ラセルタさんはお茶会にお呼ばれしたりするの?

お菓子を選ぶ手がふらふらと行ったり来たり
手に取った饅頭を口に運ぶのを思わず止めて
浮かぶ顔に罪悪感を覚えない訳ではないけれど

半分に割った饅頭を相手に差し出し
……二人だけの秘密という事で、ね?
ふふ、それなら他のも半分こにしようか
何だかんだ言ってラセルタさんも全部食べたかったのかな

ふと仰ぎ見た二つの月がとても綺麗で、暫し眺める
契約後に見えるようになった月は
きっとこれからも変わらず見えるのだろうな、と



スウィン(イルド)
  こんちは。波留、初めまして
おっさんはスウィンって~の
今日はお招きありがとね♪(皆にもぺこっと頭下げ)
初のお茶会主催、緊張してないかしら?
おっさん達なんか茶会に参加するのも初めてよ~
楽しみね♪今日はよろしくぅ

正座崩していいらしいけど…
イルド、折角だからちゃんと正座しましょ
普段正座なんてしないから新鮮でしょ?
(作法は失敗なく普通にスムーズ
甘党なので菓子、特に金平糖は笑顔で喜び)ん、おいし♪

どしたのイルド、変な顔して?
もしかして…足痺れた?(悪戯な顔でイルドの足を突っつく)
嫌がらせじゃないわよ~
こうした方が痺れが早く治るのよ~♪
(楽しそうに適当な事を言う)
…(信じたイルドの可愛さにぷるぷる震える)



柊崎 直香(ゼク=ファル)
  波留さん、お茶しに来たよー
とと。本日はお招き頂きありがとう、だよ

着物は男物をレンタル。
女物だと胸元きつくてお菓子食べにくいかと思って。
重要ポイントだから柄が地味目でも我慢する

きちんと正座でそれっぽく見えるよう挑戦だ
えーと障子の開け閉めはこうで、一足立ちで、畳の歩き方は……
ねえゼク、もう少しこっちに寄って?
もっとだよ。僕が寄りかかっても掴んでも大丈夫なくらい。
……足がしびれて動けないんだよわかるでしょ

もう後は諦めて自然体でお菓子とお茶を楽しむよ
苦いの駄目なので薄茶を。波留さんが点てるとこわくわく見てる
茶室に入ったのも初めてだし月夜ってこともあって
なんだか非現実な空間だなあ、とちょっとだけぼんやり


アイオライト・セプテンバー(白露)
  濃茶は「練る」で薄茶は「点てる」だっけ?
えへん、ちょっと勉強してきたんだよ。それしか知らないけど

あたし濃茶っ
みんなで回し飲みするのって楽しそうだし
お菓子は…透明な寒天のなかに金魚が遊んでる、金魚鉢みたいなやつ
着物も貸してくださいな♪
青地にキラキラお星さま散ったみたいな小紋がいいなー

えと、波留さんに御挨拶。えとえと…?
パパー。分かんなくなったから、おねがいー!
正座…(一秒で挫折
波留さんが堅苦しくなくっていいっていったもん

お茶だけじゃよくわかんないけど、お菓子と一緒だとおいしいねー
お月様もきれいだし
パパは隣だし、幸せ
女神様はお月様にいるんだっけ
おーい(手を振る
女神様、ここは楽しいよーありがとー



エルド・Y・ルーク(ディナス・フォーシス)
  「こんにちは、波留さん。この度はお誘いいただき、ありがとうございます」

月見のお茶会といえば、やはり着物でしょう
着物をレンタルしてディナスと一緒に着ましょうか
着付けまでしていただけるのは親切ですねぇ、嬉しい限りです
自分は深紺色の着物にしましょうか

お茶は濃茶を頂きましょうか、複数で回して飲むのも楽しそうです
何より、濃茶の方が菓子を美味しくいただけますしねぇ

それにしても綺麗な細工の落雁ですねぇ
濃茶の後には、是非いただきましょう

ディナスがじっと月を見上げています
ああ「テネブラ」ですね
ルーメンが新月の時に明るい赤色になるそうですよ
…確かにルーメン方が美しいですから、その赤い色が気に掛かるのも分かります



●1.

 一つの影が、紅月ノ神社の境内を歩いていた。
 手には提灯。
 そわそわと落ち着きなく歩いていた足が、聞こえてきた別の足音達に停止する。
 足音が近付いてくるのを待ち、一礼した。
「ようこそいらっしゃいました!」
 提灯の明かりに、狐耳と尻尾が揺らめく。
「波留と申します」
「こんちは。波留、初めまして」
「波留さん、お茶しに来たよー」
 スウィンが人懐っこい笑顔を返し、 柊崎 直香が明るく手を挙げる。
「おっさんはスウィンって~の。今日はお招きありがとね♪」
「イルドだ……よろしく」
 スウィンがぺこりと頭を下げるのに合わせて、イルドも軽く会釈した。
「とと。本日はお招き頂きありがとう、だよ」
「よろしく頼む」
 続けて直香がお辞儀し、ゼク=ファルがそれを目で追ってから波留を見る。
「こんにちは、波留さん。この度はお誘いいただき、ありがとうございます」
「よろしくお願いいたします」
 エルド・Y・ルークはにこやかに会釈し、ディナス・フォーシスは優雅な動作で一礼した。
「お茶会、楽しみです」
 羽瀬川 千代が穏やかに微笑めば、
「世話になるぞ」
 ラセルタ=ブラドッツがニヤリと口元を上げる。
「あたしね、お着物着るのも楽しみなのっ♪」
「今日はよろしくお願いいたします」
 ピョンピョンとアイオライト・セプテンバーが元気に跳ね、白露は丁寧に頭を下げた。
 波留は一同を見つめ微笑んだのだった。


 まず通されたのは、広めの和室。
 鳥居のような形の衣紋掛けに、色とりどりの着物が掛けられている。
「お好きなものを選んでください。着付けは私がお手伝いします」
「おっさんは、自分で着れちゃうわよ♪」
 スウィンは落ち着いた雰囲気の緑色が映える着物を手に取る。
「イルドはこれなんてどぉ? おっさんが着付けてあげるわ」
 紫色の着物をイルドへ示した。
「ま、いいんじゃねーか?」
 イルドは頷くと、着物に手を伸ばす。
「俺も自分で着れます」
 千代も微笑んでそう告げ、迷いなく着物を手に取ろうとしたのだが、
「千代はいつも地味だからな。これぐらい華やかな柄を着ても良い」
 ラセルタが横から、毘沙門亀甲と市松に花が鮮やかな着物を千代へ差し出した。
「これを着ろ」
 ラセルタはきっぱりとその着物を千代へ押し付けてから、自分は鳳凰に花桐が美しい着物を選ぶ。
「あたし、これにするっ。キラキラお星さまが散ったみたいで綺麗っ♪」
 アイオライトは、青地に金の小袖を自分の身体に当てて見せた。
「パパ、似合う?」
「ええ、綺麗ですねぇ」
 白露は瞳を細めながら、自らは紺色の袴を選んだ。
「ディナス、貴方にはこちらが似合うと思うのですが」
 エルドがディナスに示したのは、黒地で、足元の方に数本の金線で波を描いた着物だった。
「確かに、自分の髪でしたら黒は良く映えますね」
 ディナスは一つ頷いてその着物へ触れる。
「ミスターはどうなさるんです?」
「私はこちらにしようと思いますよ」
 気品のある深紺色の着物を手に取り、エルドはにこやかに微笑んだ。
「どうした?」
 難しい顔で着物と睨めっこしている直香を、ゼクは不思議そうに眺める。
「柄が地味目でも我慢……」
 直香は女性用の華やかな着物を名残惜しそうに見ながらも、男性用の着物を手に取った。
 ポップな雰囲気の格子柄を選ぶ。
 女物だと胸元がきつく、お菓子食べ難いに違いないから。これ、重要ポイントだから。
 ?マークを浮かべこちらを見ているゼクを振り返る。
「ゼクはこれ着たらいいよ」
 龍虎柄の着物を笑顔で彼に突き付けた。
「……」
 ゼクは無言で、紺地にかすれ縞の、無難な着物を手に取ったのだった。



●2.

 茶室には掛軸が掛けられ、花入に茶花が飾られていた。
「お待たせ。わ……やっぱり着物似合うね」
 千代はラセルタを見上げ、大きく瞬きした。
 銀色の髪に豪奢な着物が映えて、堂々たる佇まいは息を呑む程美しい。
 そんな彼が、千代を見つめて口の端を上げる。
 視線が何だか恥ずかしく、千代は胸元を押さえた。
「俺はいつも着ているし、あまり変わり映えしないでしょう?」
 ラセルタは僅かに口をへの字に曲げる。
 全然違うと思った自分が、何だか馬鹿みたいではないか。
「なら変わり映えさせてやろう」
 悪戯を思い付いた子供のように瞳を煌めかせ、ラセルタは千代へ歩み寄り、彼の髪へ手を伸ばした。
「動くな」
 息が掛かる程近付いた彼のその指が、千代の髪に触れる。
 丁寧に撫で付け、前髪を後ろへ流した。
「ほら、変わった」
 顕になった千代の額を指で軽く押して、ラセルタは満足そうに笑う。
 押された額を掌で触れながら、千代は顔が熱くなるのを感じていた。


「孫にも衣装ねぇ」
 スウィンは着付けたイルドを満足そうに眺める。
「窮屈だ」
「我慢なさい」
 少し照れているような彼の頬を指で突く。
「パパー見て見て!」
 アイオライトは、小袖姿でくるっと一周して見せた。
「よく似あってますよ、アイ」
 波留に着付けを手伝って貰いながら、白露ははしゃぐアイオライトを微笑ましく眺める。
「やはり似合いますねぇ」
「そうですか?」
 エルドにじっと見つめられ、ディナスは背中が痒くなるような感覚で着物の帯に触れた。
 思ったよりは動きやすい。
「マスターも、良くお似合いです」


 直香は茶室の入り口で正座をしていた。
 それっぽく見えるよう挑戦なのである。
「えーと障子の開け閉めはこうで……」
 引き手に手を掛け、3分の2程開いた。
 それから、引き手から手を一旦下ろし、今度は反対の手で襖の縁を押して開け切る。
「一足立ちで、畳の歩き方は……」
 立ち上がろうとして、直香は停止した。
「ねえゼク」
 直香はこちらを見守っていたゼクを手招きする。
「もう少しこっちに寄って?」
 ゼクは訝しげに眉を上げるも、言われた通り直香の近くへ歩み寄った。
「もっとだよ」
 直香は手を伸ばして、更に距離を詰めるように要求する。
「僕が寄りかかっても掴んでも大丈夫なくらい」
「おい?」
「……足がしびれて動けないんだよわかるでしょ」
 じとっと恨めしげに直香はゼクを見つめたのだった。


●3.

「初のお茶会主催、緊張してないかしら?」
 スウィンの問い掛けに、波留ははにかむ。
「少し……」
「おっさん達なんか茶会に参加するのも初めてよ~。ね?」
「あぁ」
 スウィンのウインクに、イルドはこくりと頷く。
「だから、緊張なんてしなくても大丈夫よ」
「有難う御座います」
 波留は嬉しそうに笑って、ウィンクルム達を見回した。
「今日は純粋にお茶を楽しんで頂きたいので、作法は気にしないでください。正座も崩して頂いて構いません」
「だそうだ」
「うるさいよ、ゼク」
 直香はゼクの顔に座布団を押し付けて抗議した。
「では、お言葉に甘えて」
「俺様は問題ない」
 千代が正座を解いて楽にする隣で、ラセルタは平然と正座を続ける。
「正座……」
 アイオライトもまた、一秒で挫折して畳に転がった。諦めて足を崩す。
「波留さんが堅苦しくなくっていいっていったもん」
「足が痺れて動けなくなりますから、正座はまた今度にしましょうね、アイ」
 白露がその様子に微笑み、自分も足を崩した。
「ミスターは足を崩さないのですか?」
 身動ぎせず正座しているエルドに、ディナスが首を傾ける。
「私は慣れているので、大丈夫です。ディナスは崩してくださいね。足が痺れてしまいますよ」
「……いえ、ミスターが正座するなら、僕も」
 ディナスが正座するのを眺め、エルドは瞳を細めた。
「イルド、おっさん達も折角だからちゃんと正座しましょ」
 スウィンも正座を崩さず、イルドにそう言う。
「崩していいっつってるのに、何でわざわざ……」
「普段正座なんてしないから新鮮でしょ?」
 涼しい顔で正座を続ける涼しいスウィンに、イルドもまた渋々正座をする。
「辛くなったら、足を崩してくださいね」
 波留はニコニコとウィンクルム達を見つめ、その前に茶菓子を並べていった。
 主菓子と干菓子、目に華やかな美しい和菓子達に、ウィンクルム達の頬も緩む。
「お茶の希望があれば、仰ってください」
「あたし濃茶っ♪」
 アイオライトがはい!と手を上げた。
「苦いの駄目なので、薄茶がいいな」
 直香も挙手して主張する。
「では、濃茶から順番にお入れします。少々お待ちください」
 波留はそう言うと一礼し、まず茶器を清めた。それから、鉄瓶から湯を掬い茶碗に入れる。
 続けて、茶碗の湯で茶筅通しをすると湯を捨てた。
「濃茶は『練る』で、薄茶は『点てる』だっけ?」
「よくご存知ですね」
「えへん、ちょっと勉強してきたんだよ」
 アイオライトは胸を張る。
 そんなアイオライトの言葉に微笑みながら、波留は茶碗を丁寧に拭いた。
 拭いた茶碗に、抹茶を掬って入れる。
「濃茶は、多量の抹茶を少量の湯で溶かして練ります」
 湯を茶碗に入れると、茶筅で茶を点て始めた。
 ゆっくりと円を描くように茶筅を回す。
 右回り、左回り、八の字を交互に描きながら、丁寧に練る。
 その様子を、直香とアイオライトはじーっと覗き込んだ。
「余計な動きがないのですね」
 ディナスが感心したように呟く。
「茶道は古くから伝えられてきたもの。お茶を点てるための動作は合理的、しかも流れるように美しいものなのですよ」
「成程……」
 ディナスはエルドの言葉に深く頷き、波留の手元を興味深く観察する。
「ラセルタさんはお茶会にお呼ばれしたりするの?」
「知識はあるが、実際飲むのは初めてだな」
 千代にそう答えたラセルタの視線も、波留の手元に注がれていた。
 やがて茶筅を回す手が止まると、波留は茶碗を手に取り、クルリと一度回した。
「どうぞ」
 茶碗がアイオライトへ差し出される。
「いただきますっ♪」
「アイ、まず茶碗を時計回りに二回半ほど回してくださいね」
 すかさず白露がアイオライトへ囁いた。
「こう?」
 言われた通り、茶碗を回してみる。
「飲む量は三口半ほどですよ」
「うんっ」
 コクン。
「少し苦いけど、おいしい~☆」
 アイオライトの顔に満面の笑みが浮かび、見守っていた波留がホッと表情を緩ませる。
「パパ、飲んでみてっ」
「頂戴いたします」
 白露はアイオライトから茶碗を受け取ると、茶碗を回してから口に付けた。
 とろりとした抹茶の濃厚な旨味と甘味が広がる。
「美味しいですね……!」
 白露もにっこりと笑みを浮かべて、思わずといった声を上げた。
 次の点前に入った波留の口元に笑みが浮かぶ。
「どうぞ」
 茶碗の飲み口を茶巾で拭き、次のラセルタへと回した。
 ラセルタは受け取った茶碗を、ゆっくりと回し見る。
「見事なものだな。腰部のかいらぎが美しい」
「ラセルタさん、『かいらぎ』って?」
「釉薬が焼成不足で十分に溶け切らない場合に縮れた状態になる。これをかいらぎと言うんだ」
 ラセルタは茶碗を指差し、千代に解説した。
 そして、丁寧な動作で茶を口に含む。
「予想以上に苦いではないか!」
「どうぞ」
 その間に、出来上がった薄茶が直香とゼクの前に出される。
「ありがとう」
「頂戴する」
 ゼクと共に茶碗を回して、直香は早速口を付けた。
「んー美味しいや」
「美味いな」
 存外に甘みのある、まさに『お茶のデザート』たる味に溜息が出る。
「確かに苦いですけど、その中に上品な甘みがありますね」
 ラセルタから茶碗を受け取った千代もほーっと息を吐き出した。
「香りも実に芳醇です」
 エルドもまた、波留から新たな濃茶を受け取ると、早速堪能してニコニコと瞳を細める。
「次はディナスですよ」
「いただきます」
 緊張した面持ちで、ディナスは見様見真似で茶碗を回した。
 茶碗に口を付け飲み込んだ瞬間、目を瞠る。
「美味しい、です」
「ふふ、良いお茶は舌触りが違いますよねぇ。ほら、もう一口飲んでみてください」
 エルドに勧められ、更に一口飲んだディナスの顔にも笑みが広がる。
「お待たせいたしました」
「ありがと♪」
「サンキュ」
 スウィンとイルドにも薄茶の茶碗が出された。
「ん、おいし♪」
 慣れた手つきで茶碗を回し、スウィンはお茶をいただく。
 イルドはその様子を横目に真似ながら、少しぎこちなく茶碗を回してから口を付けた。
「なんか、ホッとする味だな」
 初めて飲む抹茶は変わった味だけど、嫌な味ではなかった。


●4.

 キラキラ光る七色の星のような粒。
 スウィンはその中から、翠色の宝石を選んで指で摘んで口に運ぶ。
「甘くて美味しいわ~♪」
 金平糖を口に入れて、スウィンの表情がふにゃりと和んだ。
「イルドも食べてみなさいよ~って……」
 笑顔でイルドを振り返り、はたと止まる。
「どしたのイルド、変な顔して?」
「……何でもない」
 明後日の方向を向きながら、そっけなくイルドがそう返す。
 しかし、スウィンは見逃さなかった。彼の足が震えているのを。
「もしかして……足痺れた?」
 悪戯な笑顔で、正座しているイルドの足を突っつく。
「ちょっ、バカッ! 触るな!」
 ビクンとイルドの身体が跳ねた。
「ほら、やっぱり痺れてるじゃない♪」
「や、止めろ! 嫌がらせすんなッ」
 真っ赤になったイルドは、逃れようと身を捩るが、足は思うように動かない。
「嫌がらせじゃないわよ~こうした方が痺れが早く治るのよ~♪」
 スウィンは楽しそうにそんな事を言った。
「……ほんとか……?」
 じとっとイルドがスウィンを見つめる。
「本当よ~♪」
 大きく頷いて、スウィンは真っ直ぐにイルドを見返した。
 しかし、適当に言った事であり、真っ赤な嘘である。
「なら……頼む」
 なのにイルドは信じて、スウィンに身を任せるように大人しくなったのだ。
「……」
 今度はスウィンがぷるぷると震える番だった。
 可愛い。凄く可愛い!
「早くしろよ……」
 羞恥に赤くなりつつ、イルドはスウィンを促す。
(くそっ、早く治れ!)
 足の痺れでそれどころではないイルドに、スウィンの様子に気付く余裕など無かった。
「はいはい♪」
 スウィンは張り切って、イルドの足へ触れるのだった。


「これは、何という菓子ですか? ミスター」
 宝石のように美しい砂糖菓子を手に取り、ディナスはまじまじと見つめる。
「金平糖ですねぇ」
「こんぺいとう」
「小さな飴の核に糖蜜をまぶし、色を付けて固めて作るんですよ」
 エルドは一つ摘んで自らの口に放り込んでみせる。
 ディナスもそれに倣って、一つ口に入れた。
「噛んで味わってくださいね」
 エルドに促され、彼と一緒にカリッと齧る。
「あ……」
 ふわりと、香りと味わいが口に中に広がった。
 抹茶の味とはまた違う、どこか懐かしい優しい味。
「このように優しい甘み、初めてです」
「色によって味も違いますから、試してみると良いですよ」
 エルドは、僅かに頬を紅潮させるディナスをニコニコと見つめる。
 二人は暫し、金平糖に夢中になったのだった。


「パパ、すっごく綺麗だねっ♪」
 アイオライトと白露の前には、錦玉羹と麩まんじゅうが並んでいた。
 錦玉羹とは、寒天に砂糖を加えて冷やし固めたものだ。その中に、練り切りや餡で作った金魚や星が封じ込められている。 
 麩まんじゅうは、餅ではなく、生麩で餡を包んだ和菓子だ。
 見た目も華やかな錦玉羹に、アイオライトの頬は緩みっぱなしである。
「食べるのが少し勿体無いけど、いただきます!」
「はい、いただきます」
 アイオライトが両手を合わせるのに、白露も一緒に合掌した。
「パパ、お菓子半分こしよっ♪」
 アイオライトは、白露の返事を待たずに錦玉羹を半分に割る。
「アイ、それは……波留さん、申し訳ありません」
 ぺこりと白露は波留へ頭を下げた。
 白露の記憶が確かならば、茶会ではお菓子の形を楽しむのが作法の筈だ。
 波留はにっこりと首を振った。
「お菓子は、目で楽しむだけではありません。舌で、心で楽しむものですから。分けて食べるのは、幸せを分け合う事と私は思います」
「有難う御座います」
 白露は波留へ微笑むと、アイオライトと一緒に分けられた錦玉羹を食べる。
「おいしいね~っ」
「ええ、本当に」
 弾けるような笑顔のアイオライトと分け合って食べる菓子は、波留の言葉通り、幸せの味がするように思う。
「妖狐の方々は素敵な文化をお持ちなのですね」
「古くから伝わる素敵な文化です。それを皆さんにも知って貰えるのは、とても幸せです」
「パパー、あたしともおはなししよー」
「はいはい。次はまんじゅうを半分こしましょうか」
 着物を引っ張ってくるアイオライトに微笑み、麩まんじゅうを半分に割る。
 ふと見上げた窓には、二つの月が輝いていた。
 明るい月と、赤い月。
 以前は、明るい月しか見えなかった。
「私達ウィンクルムは二つも月が見られて、ちょっとお得かもしれません」


●5.

 お菓子を選ぶ手が行ったり来たり。
 ラセルタは千代の手を眺め、瞳を細めた。
 やっと手に取った饅頭も、口に運ぶのを止めて、千代は思案する表情になる。
「普段なら、孤児院の奴らに菓子は食うなと注意する時間だな」
 千代の肩が揺れる。
「自分は食べても良いのか、千代お兄ちゃん?」
 青色の瞳に意地悪い光を灯し、こちらを見つめてくるラセルタを、千代は見返した。
 浮かぶ顔に罪悪感を覚えない訳ではないけれど。
 千代は饅頭を半分に割ると、彼に差し出した。
「……二人だけの秘密という事で、ね?」
 ラセルタは饅頭を凝視したかと思うと、身を屈めて、千代の手のそれにパクッと食い付いた。
 噛んで味わい嚥下してから、ニヤリと千代へ顔を寄せる。
「この一個だけで俺様が買収されるとでも?」
 きょとんと目を丸くして、千代は彼を見つめる。それから、ふわりと微笑んだ。
「ふふ、それなら他のも半分こにしようか」
 和菓子は沢山種類がある。
(何だかんだ言って、ラセルタさんも全部食べたかったのかな)
 羊羹を半分に切り分けながら、千代は自然と頬が緩む。
 半分こにしたそれを食べながら、ふと窓の外の月を見上げた。
 二つの月がとても綺麗だ。
(契約後に見えるようになった月は、きっとこれからも変わらず見えるのだろうな)
 そう思う。
「千代」
 ぐいと袖が引かれた。
 耳元に熱い吐息。
「欲しい……その有平糖が」
 ラセルタの声に脈打つ鼓動を感じながら、千代は彼を見返したのだった。


「ゼク、お菓子はどれが良いと思う?」
「珍しいな」
 直香の問い掛けに、ゼクは小さく瞬きした。
「あまり見たことないのが並んでるなって。このお茶にどういうのが合うのかよくわからないし」
 色とりどりの和菓子を眺める。
「好きな物でいいと思うが。俺もそこまで菓子の知識はないぞ」
 ゼクも和菓子を眺めながら、軽く肩を竦めてみせた。
「僕よりは詳しいでしょ。自分でも作るんだから」
 ピタとゼクの動きが止まる。
「……お前、また俺の試作品を勝手に食べたな」
「なんのことかにゃー」
「目が泳いでる」
「気のせいだってば」
 茶室の中の照明は、月見を楽しむため最小限に抑えられている。
(薄暗いもん、わかる筈ない)
 何となく、本当に何となくだけど。
 月を眺める振りで、表情を取り繕わず、いつもの笑顔を消してみたら。
 キミは気づくんだろうか。
 直香は、窓の外の二つの月を仰ぐ。
(……きっとこれもいたずらだけど)
 不意に、頭に暖かい感触。
 ああ、彼の手が触れたのだなと。
 見なくても分かった。


「僕が知っている月は、純白の光が美しいルーメンだけです」
 純白の月明かりが、ディナスの金髪をキラキラと輝かせた。
「あの赤い月が見えるようになったのは契約してからですが」
「ああ、『テネブラ』ですね」
 エルドの言葉に頷くと、僅かにディナスは瞳を曇らせる。
「惹き付けられども……あの赤光が落ち着かないのは、僕だけでしょうか」
 エルドはそんな彼の横顔を見つめ、彼の見ている赤い月へ視線を移した。
「ルーメンが新月の時には、明るい赤色になるそうですよ」
 逆に、ルーメンが満月の時には、テネブラは暗い濃紺に染まる。
「……確かにルーメンの方が美しいですから、その赤い色が気に掛かるのも分かります」
「では、ミスターも?」
「赤い月というのは、何とも不思議で心が乱されるものです。ディナス、貴方だけが感じている事ではありません」
 自分一人ではない。
 心強く嬉しく感じるのは何故だろう。
「もう一杯、お茶を頂きたいです」
「奇遇ですねぇ。私もです」

 二人一緒に茶を飲んで、同じ月を見る。
 それはきっと幸せな一時に違いなかった。


Fin.



依頼結果:大成功
MVP
名前:羽瀬川 千代
呼び名:千代
  名前:ラセルタ=ブラドッツ
呼び名:ラセルタさん

 

名前:柊崎 直香
呼び名:直香
  名前:ゼク=ファル
呼び名:ゼク

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 明星花夜  )


エピソード情報

マスター 雪花菜 凛
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 08月24日
出発日 08月29日 00:00
予定納品日 09月08日

参加者

会議室

  • [5]柊崎 直香

    2014/08/28-01:30 

    月が綺麗ですね。
    クキザキさんちのタダカくんです。よろしくどうぞ。
    静かにもぐもぐしてる、かなー?

  • [4]羽瀬川 千代

    2014/08/28-00:19 

    こんばんは。羽瀬川千代とパートナーのラセルタさんです。
    皆さん、宜しくお願い致します。
    スタンプ可愛いですね、和むなぁ…(ふふ)

    夜にのんびりとお茶会、楽しみにしています。

  • [3]エルド・Y・ルーク

    2014/08/27-15:43 

    おや、スタンプの華やかなことといったら。私もいつか使用してみたいものです。
    ご一緒になられた皆様、これも何かの縁。どうぞよろしくお願いしますよ(深々と会釈をしつつ)

  • [1]スウィン

    2014/08/27-00:17 


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