プロローグ
●
紅月ノ神社と鎮守の森の丁度境目、小脇に小さな坂がある獣道。
その道の始まるところから視線を少し横に移すと、小さな小さな池がある。
池に紅きテネブラが輝いた数日中に、その池のほとりのどこかから
いつの間にか姿を見せる赤い光を帯びた蝶。
一羽、二羽……静かに、ゆっくりと数を増やし月を目指すように空へと昇る。
そんな蝶たちの誕生を、今年は妨げるモノが生まれていた。
●
「蝶を守って欲しいんだ!」
テンコ様の幼馴染だという、シバと名乗る幼い少年のような外見をした妖狐が
ウィンクルムたちに頼んできたのは、夕日も沈みかけた黄昏時。
逢魔が時のせいで耳が出たままなんだっっ、と何かもごもごと変化の言い訳をしながら
妖狐の少年は話を続ける。
「おれたちでも、いつからその蝶たちがいるのか分からないんだけれど……
ムスビヨミ様に力を分け与えてるのは確かなんだ。
たとえ僅かな力でも妖怪たちに色々邪魔されてる今年は、無いと困るんだよっ」
「うん……野槌、って知ってるかな?元々は野草の精みたいなのだったんだけど……
炎龍王の邪気のせいか、妖怪みたいに変化しちゃった、短く太い蛇みたいな姿で
目や鼻はなくって、大きな口で他の生き物に噛み付くんだ」
「その野槌の、なんていうんだろっ……そう!幼生?みたいなのが今年は邪気が強いせいか沢山出てきちゃって……!
蝶を食べちゃうんだよ!!
ちっちゃくて正直とっても弱いから、おれたちも交代で倒してたんだけど……
祭りの準備を邪魔する妖怪も増えちゃって、もう手が回らないんだ!」
「せめて一日!いやっ、数時間!!蝶が一番誕生する時間に、蝶が昇るところを食べようとやってくる
野槌の幼生たちをやっつけて欲しいんだ!!
その蝶の数だけでもいれば、ムスビヨミ様も喜ぶと思う!」
「え?月赤蝶?そっちの世界で、そう呼ばれてる蝶と同じかもって??
あー、もしかしたら空間の歪みから毎年紛れてるかもしれないね!」
解説
●小さな池のほとりで蝶を守ろう!
妖怪:野槌は小兎くらい丸呑みにするという噂ですが、
その幼生は、大変非力でひ弱。女の子のビンタで簡単に塵と化す程。
精霊のジョブスキルは、すぐそばで舞い上がる蝶たちにまで影響してしまうかもなので
手でなり足でなり倒して下さい。ひたすらひたすら。
ただ感触が一瞬……芋虫のような グニャン としたものなので
苦手な方は以下アイテムが妖狐たちから買えます。
ちゃっかり商売するんだからもう可愛い妖狐たちね!
・軍手 20Jr (感触が少しでも和らぐ、かも?)
・虫取り網 50Jr (まとめたところ一気に塵へ!もしくは蝶が昇り終わるまで放置)
・妖狐特製・野槌避けハーブ 100Jr (精霊に任すわ!いやぁ!!こっち来ないでぇえ!!な乙女向け)
※このハーブ以外の、殺虫剤・虫除けハーブ等は野槌の幼生には効きません。
●幼生に噛み付かれると?
大したことはありません。一瞬貧血のようにクラッとするだけ(生気を吸われるよう)。毒もナシ。(貧血感覚は一晩寝れば治ります)
うっかり沢山噛み付かれたら、倒れる前に誰か支えてね。支えてあげてね。
●昇っていく蝶が少なくなった頃、野槌の幼生は諦めて出なくなります。
まだ上空を舞う、紅き月の光を帯びた赤き蝶の星空をのんびり眺めるもよし。
いもむし……(ぐってり)と帰るもよし。
ゲームマスターより
ご拝読頂きありがとうございます!
皆様の皆様による皆様のための 蒼色クレヨンです!(図々しい)
ハピエピみたいなアドエピは見かけるけど、逆は少ない気がしてっ
挑んでみました。
※読まなくても問題なし!な当方リザルト月赤蝶初登場「祈りの月赤蝶」より。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
かのん(天藍)
野槌の幼生退治、お話伺う限り芋虫系害虫駆除に似ていますね 庭仕事に似た作業なら少しはお役に立てるかと 私にも出来る事があるのは嬉しいです、頑張りますね 手に馴染んだ自前の道具を使わせて頂けると嬉しいのですが、類似品に見合う分を持込料としてお支払いすることで如何でしょう?(70Jr) 持参 園芸用:革手袋・ピンセット、水を入れた袋 不可であれば軍手と虫取り網 蝶に野槌を近付けさせない事を最優先、ピンセットで摘まんで袋の中へ 処分は後で纏めて袋の上から叩く 一段落後、天藍の目が気になる あの、呆れていますか?可愛げが無いとは思いますけれど・・・ 天藍にそう思われるのは少し悲しいと思い、返ってきた言葉と態度にほっとする |
テレーズ(山吹)
芋虫の感触……あ、いえいえ あんな綺麗な月赤蝶さんを食べてしまうなんてとんでもありません! さくっと退治してしまいましょう 頑張りますね、素手で …えっと、本物の芋虫は触るのに抵抗があるので ここでぐにゃっとした感触とはどんなものなのか体験しておきたいなって えへ よし、行きます! あっ、これはなかなか… …うん、山吹さん、私にも軍手を下さい!(いい笑顔 これで怖いものなしですね いやー、いい汗かきましたね! 月赤蝶さんも無事なようでなによりです その場に座り込んで月赤蝶を眺めてみます あら、山吹さんお疲れですか? 私だってちゃんと支えられますからどうぞどうぞ 私の気持ちはあの時と同じままですよ きっと、これからもずーっとです |
ファリエリータ・ディアル(ヴァルフレード・ソルジェ)
月赤蝶って、前に見たあの蝶よねっ? とっても綺麗だったしまた見たいわっ♪ だから野槌の幼生たちをしっかりやっつけないと! でも潰す感触はあまり味わいたくないから、虫取り網と軍手購入。 ヴァルと一緒に頑張って幼生を潰していくわねっ。 ジョブスキルが使えれば早いんだろうけど、 蝶まで潰しちゃったら意味無いものね。 え、特製ハーブは使わないわよっ。 月赤蝶の為だもの、私も頑張るわ! 虫取り網で集めて、軍手はめた手でぺしぺし潰して、また網で集めて……かしら。 だってやっぱり芋虫潰す感触は嫌だものー! 回数少ない(気がする)方がいいわっ。 無事に野槌の幼生を退治出来たら、月赤蝶見たいわっ。 |
豊村 刹那(逆月)
芋虫の感触は嫌だけど、AROAの活動もしないとな。 これなら逆月の負担も少ないはず。 行動: 軍手2組と虫取り網1つ購入。軍手1組を逆月に付ける。 虫取り網にある程度捕獲、まとめて潰す。この方が効率がいい。 「逆月!?」近くにいたのに! 逆月を支え、慌てて野槌を払い、踏み潰す。 気づかなかった私も悪いが。 「ぶっ潰す」(低い声 見つけた野槌は、虫取り網を逆さに持ち柄で叩き潰す。 確実にヤる為にしっかり狙う。 柄が折れたら、むしろその折れた柄を使って潰す。 一匹も逃さねェよ。 獲物が消えて舌打ち。 ふと我に返り、全力を出して息切れしてる事に気づく。 やってしまったと内心頭を抱え、逆月に駆け寄って無事を確認。 「大丈夫か、逆月」 |
少年妖狐シバにつれられ、小さな湖に続く脇道を歩く。
時折確認される注意事項に耳を傾けながら、次第に野槌幼生退治に意識を強めるウィンクルムたち。
「あんな綺麗な月赤蝶さんを食べてしまうなんてとんでもありません!さくっと退治してしまいましょう」
「お、威勢いいな!頼もしいよ!なーに、大したことないからさ。芋虫だと思って軽~くやっつけてくれよな!」
「芋虫……」
「……」
「ん?どうかしたか?お二人さん」
それまで元気の良い声を響かせていたテレーズとその様子をにこにこと見守っていた山吹、
二人の表情が固まった様子にシバを首を傾げる。
「い、いいえ!頑張りますね、素手で!」
「なんなら軍手、安くしとくぜ!」
なんて会話をしていれば目当ての湖に到着。
「私たちにももらえるか?」
「あ!私もー!!」
「まいど!!」
まだ幼生が現れていないことをいいことに、妖狐特製虫取り網もあるぜ!と商売っ気発揮するシバ。
あらかた役割を終えれば、じゃっ頑張ってくれな!とその場を後にしていった。
「テレーズさん、本当に大丈夫なのですか?」
山吹もこっそりと軍手を頂戴しつつ、やる気いっぱいのパートナーへ声をかける。
「……えっと実は、本物の芋虫は触るのに抵抗があるので
ここでぐにゃっとした感触とはどんなものなのか体験しておきたいなって」
えへ、と屈託なく言われた言葉に、山吹は脱力感を覚えると同時に大変納得していた。
「やけにやる気だとは思っていましたが興味はそこでしたか……
らしいといえばらしいですが目的は忘れないで下さいね」
「はい!頑張ります!」
その勇気を称えつつ、おそらく必要になるでしょう……とテレーズの分の軍手もしっかりと準備済みな山吹の姿あり。
(芋虫の感触は嫌だけど、A.R.O.A.の活動もしないとな。これなら逆月の負担も少ないはず……)
自分の分の軍手をはめて、はい逆月、と相手にも軍手を差し出す。
豊村 刹那は、どこか人を避けがちなパートナー、逆月を日頃からどこかで気にかけていた自分に気付き苦笑いをする。
神人となった自覚だろうかと軽く自問自答しながらも、軍手を不思議そうに受け取る逆月を注意深く見つめる。
嫌ではなかったろうか、無理矢理付き合わせていないだろうか、と相手の表情を取りこぼさないよう。
そんな視線には気付くことなく、逆月は軍手をおもむろにはめて時折周囲を観察する。
「……蝶を守るのか」
「そうだよ。ま、人数いるし無理しないでな」
「わかった。?それはなんだ……?」
「え?虫取り網……って。……うん、後で使い方見せてやるな」
逆月の少し聞いた過去を思い出せば、無理もないかとすぐ納得した刹那。
ぽんとその背中を軽く叩いてから、笑みを向け。
さぁいつでも来い、とばかりに臨戦態勢に入った。
「お話伺う限り芋虫系害虫駆除に似ていますね。庭仕事に似た作業なら少しはお役に立てるかと」
「それにしてもお人好し過ぎじゃないか。かのん」
「そうですか?」
まだ人が足りない!!と現地でシバに捕まった組はこちら。かのんと天藍。
祭りを眺めつつ自主的に警備で歩いていた二人をウィンクルムだと見抜いたシバが、説明しがてら引っ張ってきたのであった。
「お店手伝いに使っていたのもあって、持ってきていた道具がお役に立ちそうですし。私にも出来る事があるのは嬉しいです」
「ちゃっかり金巻き上げていったがな、あの妖狐」
天藍はまだ渋々な様子。祭りデートを妨害されたも同然なのでそれも致し方ない。
挙句、かのん持参の道具では少し幼生に弱いかもしれない、とシバが妖気を送り込みしっかりとその駄賃を要求されたのだ。
文句の一つや二つ出るというもの。
「天藍」
「分かっているさ」
かのんの揺るがない瞳の前に、肩をすくめて了解の旨を伝える。
ようやく説得して着てもらったあれ、出来れば汚れんようにしてやりたいんだがな……と、
月灯りに淡く映し出される、かのんにしては珍しい薄いピンクの被布を眺めて。
天藍もようやく気合を入れるのだった。
「……『幼生』って事は野槌の赤ちゃんって事だけど、だからって蝶を食べていいって事にはならないわよね」
「あの赤く光る蝶だろ。……駄目だろ食っちゃ」
「そうよね!それに、とっても綺麗だったしまた見たいわっ♪」
テレーズたちと同じく以前にも月赤蝶を見たことのあるファリエリータ・ディアルは、当然とばかりにやる気にみなぎっている。
面倒ではあるがまぁ幸せ気分にさせてもらった恩返し、とばかりに一度あくびをしてからファリエリータに続くヴァルフレード・ソルジェ。
足元を時折警戒しつつ、そういえばとファリエリータに声をかける。
「ファリエ、軍手だけで平気なのか?」
「勿論これも買ったわ!!」
バーン!とばかりに虫取り網を掲げて見せたファリエに、よしよし、とヴァルフレードは頷く。
「ヴァルはサバイバルとか得意だから、虫取りとかも得意そうよね。頑張ってね!」
「……ファリエ、結局俺頼みだな……?」
輝く笑顔の勢いに流されそうになるが、ファリエの隠された意図に気付いたヴァルフレード。
このやろう、と冗談半分にファリエリータの頬を引っ張る。
「いひゃいっヴァル!……ぁっ、へも、フキルは使わなひでねっ?ヴァルのフキルはほっとふよい敵をはおすはめのほのだほの!」
「……何言ってるか分かんねぇよ」
「ヴァルのへいでひょーーー!!」
もうっだからね!?と頬の腕を取り払ってもう一度念を押すファリエリータ。
実は言われた言葉はしっかり聞き取っていたヴァルフレードは、面白そうにファリエリータの必死な説明に耳を傾けるのであった。
●淡白きモノたち いざ討伐
「きゃー!!出たーーー!!」
「そこっ、足元集まってるぞ!」
「……ふむ」
「うわっ、やっぱ意外と気持ちわりぃ!!」
「皆さん、結構ジャンプ力あるみたいなのでお気をつけてー」
「お前もだっ」
「あっ、これは中々……!」
「……噛まれなくともこう……精神にきますね……」
小さな湖のほとりが、祭り並に賑やかになるのも程なくしてだった。
「……うん、山吹さん、私にも軍手を下さい!」
5匹程素手で頑張ったところで、早々にテレーズが山吹を振り返った。いいえがお。
「満足しましたか?」
大変予想通りの素直な反応に苦笑いを向けながら、山吹はテレーズの分の軍手を差し出す。
きゅきゅっと装着すると、一度深呼吸。
「これで怖いものなしですね」
きりっ。
不思議な使命感に火が付いたのか、テレーズは次々と湧いて出る野槌の幼生たちを引っ掴んでは放り投げ、
蝶へ飛び掛るモノには張り手でディフェンスし。
テレーズの毅然な笑顔と仕事っぷりに、自然と笑顔になっていた山吹。
(テレーズさんがあれ程頑張っているのに……弱音など吐けませんね)
どうやら決して得意な方では無かったらしい今回のお仕事。
ひた隠しにしながら、山吹も意を決してテレーズの後に続く。
頼りっきりと思っていれば、時に自分すら上回る行動力と決断力に、幼生を塵と化させながら山吹はテレーズを見守る。
「ほら山吹さん!そこっ、か、噛まれてますよー!?」
大丈夫ですかっ?と駆け寄ろうとするテレーズを心配ないという風に手で制して。
足首に吸い付いた幼生を叩き落としながらでも、山吹はテレーズを視界の中から落とさない。
(成長していくのが喜ばしいような……まだまだ頼られていたいような……私の我儘ですね)
一息吐いて。集中へと己を誘うのだった。
虫取り網を器用に素振りし傾け幼生を捕獲し、まとまった所を適度に塵へと変えている刹那。
虫取り網の使い方を、なるほど……と少し興味深げに観察しながら逆月もその大きな白い尾を横一線に振って
幼生たちをかなりの数まとめてなぎ倒していた。
そんな逆月の視界が突如、ぐらりと傾く。
「逆月!?」
大きな尾はその分幼生にとっても的にしやすく。
いつの間にか隙をついて数箇所噛まれていたようで、横に揺らぐ逆月に気付いた刹那は慌てて走り寄りその体を支えた。
(今のは……女性の悲鳴、か……?)
刹那の呼び声が逆月を別の記憶へと誘う。
呼び声、いや、あれは叫び声。村に響き渡るいくつもの……。
(俺は……まだ……)
過去へのトリップを自覚しすぐ正気に戻るも、体は言うことを効かない。
そんな逆月の様子を余程具合が悪いのだと取った刹那は、急いで、それでも丁寧に、木陰へと寄らせた。
「……近くに、いたのに……!」
「……刹那……?」
悔しそうな横顔。逆月は不思議なものを目にする。何故刹那がそんな顔をするのだろうと。
「ぶっ潰す」
いつも発するものより数段低い声色で、刹那はゆらりと立ち上がり虫取り網を構える。
気付かなかった自分も悪い。
でもなんだろう。この、目の前にいて守れなかったこの沸き上がってくる感情は。
「……許さねぇぞ」
お構いなしに襲いかかろうとする幼生を、瞬時に虫取り網の柄側で消し去った。
ひたすらひたすら。
あまりに強烈に叩き込めば柄が折れてしまった。
刹那はそれでも攻撃を緩めない。折れた柄、いっそ攻撃力が増したその先端を容赦なく月の光の下白く浮かぶ小さきモノたちへ突き刺して。
「一匹も逃がさねぇよ」
己の狂気に気付くことなく、無意識に呟かれた。
「張り切ってますね皆さん。私も負けてはいられませんね」
小さく笑んで、かのんはしゃがんだまま器用に腰の小袋から愛用の革手袋を取り出して装着する。
切り替えたような表情を天藍はこっそり見下ろし眺めながら。
「かのん、トランスしてくれないか」
「え?でも天藍、妖狐さんの話聞いてましたよね?ここで技は……」
「大丈夫だ。俺に考えがある」
笑みを目の当たりにすれば、かのんもそれ以上反対する理由もなく。
「で、では……『共に最善を尽くしましょう』」
頬への誓いを受け、満足げにその体から翠雨の雫が波紋を広げるように、淡く光を帯びた天藍。そして。
「アナリーゼ」
今まさに蝶へと飛びかかろうと、数十匹の幼生がその身を宙に舞わせたところを静かに、音もなく双剣を突く。
天藍の集中力の賜物か、微風がその前髪を揺らしただけで、幼生たちは一瞬で塵となり自然へと還っていった。
かのんはその姿に一度目を丸くする。
(本当に、頼もしいんですよね……)
振り返り、ほらな、と自信たっぷりな天藍の表情を見て心から安心している自分を感じながら。
かのんもすちゃっとピンセットを構えたかと思うと、的確な動きで噛まれる前に幼生をつまみ上げ、袋の中へと放り込んでいく。
集中していくうちに、いつの間にか周囲の声が聞こえなくなるほど夢中になりながら。
(らしい、な……)
そんなかのんの姿を瞳捉え口元に笑みを作り。
ひっそりとかのんの背後に忍び寄る幼生を中心に奮闘する天藍であった。
「……ファリエ。ハーブ、買ってきてやろうか?」
「え、ど、どうしてっ?月赤蝶の為だもの、私も頑張るわ!」
「いや……」
ファリエリータの頑張りは分かる。とても分かる。分かってやりたい。
そう思うたび、ひゃーっ!きゃーっ!と上がる奇声。
虫取り網で集め、十分集まったあたりで軍手の手でぺしぺし!と、実際効率よくファリエリータは頑張っていた。
しかして、当然幼生も蝶を食べようと必死なわけで。
自分たちの邪魔をする相手に、時折不意打ちのように顔面めがけ飛びかかってくるモノもいたり。
幼生もこの場にいる全てが自分たちより強いのは分かりきってきたのだろう。
その中でも強弱の優劣をつけようとするのが本能赴くままの生き物である。
幼生、次第にファリエリータに狙いをすまし始めたようだ。
「ファリエ、たぶん舐められてるぞ」
「そ、そんなこと……っ、ひゃーっ!」
べしり!
一応襲ってくる幼生はしっかり倒しているのでヴァルフレードもあまり文句も言えず。
苦手っぷり全開で幼生たちに狙われ始める様に、ハァ、と溜息をついてからファリエリータのそばへ。
「仕方ない。なるべく俺のそばにいろ」
「あ、ありがとうヴァルーーーッ」
苦手意識的には実は山吹もどっこいどっこいなのだが。そこは本人のプライドにより全く表に出ないおかげか。
狙われるファリエリータをフォローするように、ヴァルフレードは倍の動きをするはめになるのであった。
●赤き蝶の瞬きの下
ウィンクルムたちの奮闘から1時間程した頃、気付けば幼生たちの姿が減っているのに誰かしらが気付く。
湖から舞い上がる蝶がほとんど居なくなれば、その姿も完全に消え。
空には舞い上がった蝶たちがヒラヒラと、地上の騒ぎなど知らぬように夜空に彩を加えていた。
「いやー、いい汗かきましたね!月赤蝶さんも無事なようでなによりです」
幼生がいないのを確認し、さすがに体力的に限界でもあったテレーズは、フーッと大きく呼吸しながらその場に座り込んだ。
「……蝶、キレイですね山吹さん。……あれっ?山吹さん?」
「大丈夫、居ますよ。ああ……本当に、綺麗ですね」
すぐに応えが無かったことにキョロキョロするテレーズの隣へと、すぐに現れた山吹にホッとした顔を向けるも。
「山吹さんお疲れですか?」
「はは……さすがにバレてしまいますね……」
芋虫感触を耐え切ったものの、精神的疲労は隠しきれず気まずそうな笑みを浮かべる山吹。
終わったという安堵と、空から降る赤き光の癒しに、今になって体がぐらりと傾いだ。
「やっぱり噛まれてましたものね……。山吹さん、どうぞ!」
「…………はい?」
「私だってちゃんと支えられますから!」
テレーズが指すそこはテレーズの肩である。
さぁ!(たむたむたむっ)、と自分の肩を叩くテレーズの姿が微笑ましく、ふ、と笑って山吹はその言葉に甘えることにした。
「……何だか以前と逆になってしまいましたね……」
その小さな肩に少し遠慮がちに寄りかかり。山吹はふと思い出す。
あの時と何か変わってしまったんでしょうか……
どこか、なにか、寂しさがこみ上げたのも束の間だった。
「私の気持ちはあの時と同じままですよ。きっと、これからもずーっとです」
山吹さんのパートナーになれた私は世界一幸せなんです!と。
心を読んだように、あの時と同じセリフを、笑顔を、山吹へと向けるテレーズ。
絆があるか確かめたい、と言っていたあの時とはやはり違いますよ……
山吹は蝶と月の光に照らされるテレーズを眩しそうに見てから。
その細めた目は次第に、自然と一段と細く、最後は閉じられるのだった。
夢の中、私だって山吹さんを守りますからねっ、という温かな呟きを耳にした気がした。
肩で息をしながら、幼生の姿が無いことに気付いて舌打ちの音が刹那の口から漏れる。
全部倒したわけじゃないよな……くそ。
そう囁いた自分にハッと我にかえった。
自覚していた素の自分を完全に曝け出していたことに、うあちゃぁ……とガックリしてから。
それでも心配なパートナーの元へと駆け寄って。
「大丈夫か、逆月」
駆け寄った先では、どうやら最後の一匹を手で潰していた逆月の姿が。
「うむ。問題はない」
「いや問題なくねーだろ!まだ休んでろ!」
立ち上がろうとしたところを無理矢理また座らされ、言う通りにするも逆月は刹那を見上げる。
先ほどまで殺気が体全体を覆い、臆することなく向かっていく刹那の生命溢れる姿を重ねながら。
逆月は不思議がる。これも、先程のも同じ刹那であるのは分かる。しかし自分のいた村には居なかった類だと。
じっと見つめられ、刹那は慌てる。そんなに訴える程具合が悪いのだろうか、と。
「ま、待ってろ!妖狐なら早く治せるかもしれ、……うわっ!」
全力をもってずっと動いていたのだ。そしてやはり数箇所噛まれていた影響で、今になって集中途切れた刹那にも体が限界を現した。
勢いよく立とうとしてバランスを崩し、逆月の方へと倒れこむ刹那。
避けられるであろう、むしろ避けてくれ危ないっ、とばかりにぎゅっと目を瞑る刹那にいくら待っても衝撃はやってこなかった。
(こいつは生きているのだな……)
刹那の予想に反して、逆月はしっかりと刹那の体を受け止めていた。
「さ、逆月!?」
焦るような声と、二つの戸惑う思考が重なる。
(村を守れなかった俺に、何の価値がある……)
何故そんな自分を気にかけるのだろうかと。
そして何故自分はぶつかるのが分かっていて、避けずに抱きとめたのだろうと。
(……目の前で守れなかった気持ち、か……)
逆月を守れなかっただけであんな気持ちになった。一体この相手はどれほどの思いをしたのだろう。
知らない何かを感じた気がして、刹那は、逆月は、しばし互いの顔を見れず夜空へと視線を合わせるのだった。
「あの、呆れていますか?」
無事月赤蝶は守れたろうか、とホッとしていたところで予想外な言葉が耳に入り、天藍はかのんを凝視していた。
明らかに意気消沈ともいえる、あまり見ない表情に気付けば慌てて寄っていき。
「どうした?どこか噛まれたのか?」
「いえ、そうじゃなく……」
「……かのん?」
これもまた珍しく歯切れの悪そうな受け答えに、心底訝しげに顔を覗き込もうとする天藍へ、振り絞るように言葉を発するかのん。
「その……可愛げが無いとは思いますけれど……」
夢中になり過ぎてしまった。仕事とはいえかのんは少々やりすぎたかもしれない、と後悔していた。
平気で虫を摘む自分の姿をどう思われただろうか……
時折聞こえた虫に怯える悲鳴。自分にもああいう一面があったらいいのにとすら。
(天藍にそう思われるのが、寂しい、なんて……)
今まではこんな自分が当たり前だったのに。
ぽそり、ぽそり、と一部を秘めて付け加えられていく言葉に、ようやくかのんの言いたいことを察した天藍は、その柔らかい漆黒の髪へと掌を置く。
恐る恐る顔を上げるかのんへ、天藍は囁くように告げる。
「俺にとっては、あぁいうかのんも可愛いだけなのだがな。
それに、虫が平気なら花の野生種が自生している山に誘っても大丈夫だと分かって、俺としては安心すらしているけどな」
優しい言の葉が降る。かのんの顔に恥ずかしさと安堵と、そして嬉しさが広がっていく。
「……浴衣、随分乱れてしまいましたね」
お疲れ様です、と天藍の襟元を整えながらかのんは微笑む。
「そっちはあまり汚れず何よりだった」
ひとえにかのんの周囲も守っていた天藍のおかげで、かのんの着る被布にはほとんど土などは付いていなかった。
どちらからともなく手を繋ぎ、指を絡め。
赤い星のように煌く空を、温かい気持ちで見上げるのだった。
「お、終わった……?」
「みたいだな。お疲れさん」
ぽん、と頭を叩かれファリエリータはようやく緊張を解いて、へたりと座り込んだ。
付き合うようにその隣へヴァルフレードも腰を下ろせば、ごろりと完全に仰向けに寝転んだ。
「ヴァル、大丈夫?」
「あー、誰かさんの分も頑張ったようなもんだしなー。祭りで何かオゴリな」
「ううっ……」
「冗談だ」
可笑しそうに返すヴァルフレードに頬を膨らませながら、ファリエリータは上空を見上げたところで感嘆の声を上げた。
「わぁ……!すごい……この前に見たときも綺麗だったけど……こんなにいっぱいだと、お星様の花畑みたいね!」
同じように視界に赤き蝶たちが舞うのを映しながら、ヴァルフレードも特にそれには異を唱えることなく見上げている。
(そういえば以前見た月赤蝶は、お祈りしたら現れたんだっけ……)
チラリと隣りで寝転がる姿を見てからファリエリータは思う。
仲良く、なれてきてるわよね……!
今のところヴァルフレードが大きな怪我をすることもなく。
ファリエリータはそっと目を閉じて祈る。
以前の祈りを叶えてくれている感謝を込めながら。
(お祭りが無事最後まで開催出来ます様に、皆で楽しめます様に──)
そんなファリエリータの横顔を、蝶を見ていたはずのヴァルフレードはしっかりと見つめ。
その口元には優しげな笑みが浮かべられていた。
蝶は舞う。しばしウィンクルムたちの頭上をたゆたうように。
そして次第に神社の奥殿を目指すように、ひらりひらひら 一斉に風に乗り。
一時夜空には赤い光の橋が掛かっているようだった。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 蒼色クレヨン |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 2 ~ 4 |
報酬 | なし |
リリース日 | 08月13日 |
出発日 | 08月19日 00:00 |
予定納品日 | 08月29日 |
参加者
- かのん(天藍)
- テレーズ(山吹)
- ファリエリータ・ディアル(ヴァルフレード・ソルジェ)
- 豊村 刹那(逆月)
会議室
-
2014/08/17-00:40
こんばんは、テレーズと申します。
今回はよろしくお願いしますね。
ふむふむ、感触が芋虫ですか。それは興味深いですね。
…あっ、月赤蝶のためにも野槌の幼生退治頑張りましょうねー! -
2014/08/16-22:07
皆さん初めまして。
私は豊村刹那だ。よろしく頼む。
芋虫はあまり得意ではないけど。
努力はするつもりだ。
(アイコンは気にしないでいただけると有り難い) -
2014/08/16-21:26
私はファリエリータ・ディアル!
初めましての人も久しぶりの人もよろしくねっ。
月赤蝶、前に見たけどとっても綺麗だったから
また見たいし、是非守ってあげたいわっ。
野槌の幼生を手で潰すのはちょっと感触嫌かも知れないけど、
これも蝶の為だものねっ。軍手買って頑張る! -
2014/08/16-15:14
こんにちは、かのんと申します。
刹那さん初めまして、テレーズさんとファリエリータさんお久しぶりです。
どうぞよろしくお願いします。
野槌の幼生退治・・・、お話伺う分には芋虫系の害虫駆除みたいな物でしょうか?
地道な作業になりそうですね、頑張ります。