【夏祭り・鎮守の不知火】紅月妖怪捕物帳(巴めろ マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

●狐火の縄
「少々お時間よろしいでしょうか? 皆さまにお願いしたいことがあるのです」
夜色の空の下。紅月祭りを楽しんでいたあなたたちは、突然に知らない男に声を掛けられた。萌葱の浴衣をはんなりと着こなした月の色をした髪の男は、自分は、神社の宮司にして妖狐一族の長・テンコ様が遣わした妖狐であると名乗り、その証拠にと狐の耳と尻尾を寸の間ぴんと覗かせてみせる。萌葱の浴衣姿の後に続いて屋台通りの喧騒を離れた場所へと辿り着けば、そこには他にも人がいた。どうやら彼らもまた、ウィンクルムであるらしい。テンコ様のお遣いが、皆の顔を見回し口を開く。
「実は……屋台通りに妖怪が紛れ込んでいるのでございます。貴方たちに、その妖怪たちを捕えていただきたい。これはA.R.O.A.への、正式な依頼でございます」
彼の話によると、A.R.O.A.本部へも別のお遣いが向かっている頃だという。
「紛れ込んだ妖怪たちは、どれも屋台の一つも台無しにできぬ、力の弱い者でございます。祭りに紛れ込んだのも、恐らくはほんの悪戯心から。ですから、貴方たちのお力で叩きのめさずとも、捕えていただくだけで構いません」
これをお使いくださいと、男は両手に美しい橙に輝く狐火を呼んだ。それがぐるりと宙に円を描いたかと思うと、まだ微かに炎の煌めきを帯びた太い縄となって男の手にふわりと落ちる。
「本当に下級の妖怪にしか使えぬ子供騙しではありますが……この縄で妖怪を捕えれば、彼らはもう、その身に眠るほんの僅かな妖力さえ扱うことができません」
その縄を用いて、捕えてほしい妖怪は5匹いるのだという。
1匹目は犬神。その本性は犬霊の憑き物だが、人型に化けた姿は犬の獣心族(テイルス)の少年にしか見えないという。ただ、その尻尾の先が二股に分かれているのが目印になるらしい。性格もやんちゃな子どもそのもので、屋台通りを駆け回っては、興味津々、様々の屋台を覗いているのだとか。食べ物に目がなく、その中でも一等好きなのは魚だという。戦闘能力はないに等しいが、ウィンクルムが自分を捕えにきたと察すれば、すばしっこく逃げようとするだろう。見た目年齢は10代前半。
2匹目は磯姫。その本性は上半身は美女、下半身は蛇の姿をした海の妖怪だが、人に化けた姿は浴衣姿の麗しの美女そのものだそうで。ただ、その長い黒髪からはしとしとと水が垂れ続けており、見つければすぐにそれとわかるだろうという。男好きで、男に声をかけられれば容易に警戒を解くはずだとか。けれど彼女は気性が荒く、ウィンクルムが自分を捕えにきたことを知れば、長い髪を自在に操りこちらに害なそうとするため注意が必要だ。見た目年齢は20代後半。
3匹目は雪女。名の通り、美しい女の姿をした雪の妖怪だ。人に化けても、その美しい姿は変わらない。人を凍らせるような強い力は持たないが、彼女の周りは常にひんやりと涼しい。また、暑いのが得意ではないらしく、なるべく涼しげな場所を探してそこに居座ろうとするだろうと考えられる。おっとりと穏やかな性格で、ウィンクルムが自分を捕えにきたのだと気づいても、彼女は抵抗せずにその事実を受け入れるだろう。見た目年齢は20代前半。
4匹目は土蜘蛛。その本性は巨大な蜘蛛の妖怪だ。人に化けた姿は書生姿の青年らしいが、未熟な変化の術では蜘蛛の八つ目を隠しきれなかったらしく。帽子を目深に被って、八つの目を隠し屋台通りをふらふらとしているのだとか。人間の飲む酒がお気に召したようで、酒を出す屋台を転々としている姿が目撃されている。ウィンクルムが自分を捕えにきたと知れば掌から蜘蛛の糸を出して動きを封じその隙に逃げようと試みるかもしれないが、からりと清々しい性格のため、実力の差を悟れば素直にお縄につくだろう。見た目年齢は20代後半。
5匹目は煙々羅。その本性は煙の妖怪で、人に化けた姿は、着流し姿の、今にも空気に溶けて消えてしまいそうな儚げな美青年だという。やたらに影が薄いのが特徴の一つだ。飄々として掴みどころのない性格で、ウィンクルムに見つかったと気づくや追いかけっこの始まりだとばかりに人の間を縫ってするりと逃げ出そうとするようだ。それも、とても楽しそうに。鬼ごっこを充分に堪能し気が済めば大人しくお縄につくと思われるが、煙が本性の彼を捕まえるのはなかなかに骨が折れるかもしれない。見た目年齢は10代後半。
「彼らは強くはないですが、数が多い。纏まって探すのでは効率が悪いでしょう。ウィンクルムさまお一組につき1匹の妖怪を追っていただければ幸いにございます。それから、ご無理を申しますがどうか祭りへの被害が最小限で済むよう立ち回っていただければと」
どうぞ宜しくお願い致しますと、男は深く頭を下げるのだった。

解説

●目的
お祭りの屋台通りをうろうろしている妖怪たちを捕まえること。
参加ウィンクルムさまと同じだけの数を捕まえていただければOKです。
(例:参加ウィンクルムさま4組なら、捕まえなくてはいけない妖怪は4匹)
参加ウィンクルムさまが5組に満たなかった場合ですが、余りものになる妖怪はどの個体でも構いません。
また、祭りへの被害はどうか最小限に。
捕物の成果だけでなく、祭りへの被害の度合いによっても判定が変わる可能性がございます。

●今回の捕物について
プロローグに説明のある妖怪を、ウィンクルムさまお一組につき1匹捕えていただくこととなります。
アドベンチャーエピソードながらウィンクルムさまごとの行動となりますが、どの組がどの妖怪を追うかが被らないよう、会議室でご相談いただければと思います。
プランには、担当する妖怪を明記していただき、どのように担当の妖怪を探し、どうやって捕まえるかを盛り込んでいただければと思います。

●その他
○リザルトは、皆さまのプラン次第ではございますがウィンクルムさまごとの捕物がメインとなる予定ですので、他ウィンクルムさまとの絡み等は描写難しい場合がございます。
○狐火の縄はプロローグに登場する萌葱の浴衣の妖狐のみが扱える術ですので、他のエピソードにてこれを用いるというプランは採用されません。ご了承くださいませ。
○このエピソードでは、捕物に必要でしたら屋台の売り物もジェール消費なしで提供してもらえます。
○祭りに遊びにきていたところに突然依頼を持ちかけられてという流れですので、『浴衣姿で、妖怪を探しているうちに下駄の鼻緒が当たる部分が痛くなってしまい……』や『はぐれそうになったところをパートナーが手を差し出してくれて……』のようなラブハプニングといいますかお遊び要素等も入れ込んでいただきましたら、捕物に影響のない範囲で採用させていただきます。(親密度判定はございますのでご注意を!)

ゲームマスターより

お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださりありがとうございます!!

変則的なアドベンチャーエピソードですのでプロローグと解説にてご確認いただくことは多いのですが、あくまでも難易度は『簡単』です。
妖怪たちをどうやって探し出し捕まえるかも、あまりに被害が大きくなる方法や実現不可能な方法、その他色んな理由からあまりに無理のある方法でなければ成功する方向で採用させていただきますのでご安心くださいませ。
妖怪を餌付けしたり仲良くなって説得したりなど、ちょっと変わった作戦もOKというか、むしろ大歓迎です!
楽しく(?)捕物にチャレンジしていただけると嬉しいです。
皆様に楽しんでいただけるよう全力を尽くしますので、ご縁がありましたらどうぞよろしくお願いいたします!

また、余談ではありますがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  お祭りで浮かれるのは判るけど
悪戯はよくないわ
妖狐さんのお手伝い 頑張らなくちゃ

煙々羅担当
足元の影に注意
影の薄い 教わった外見に該当する青年を探す
A.R.O.Aのものです ちょっとお話いいですか
正直に名乗る 逃げられたら鬼ごっこ開始

小柄な体をいかし 人混みをすり抜けて相手を追う
相手の楽しげな笑顔が見えれば こちらも笑顔に
露店や無関係の人の迷惑にならないよう シリウスと協力して人の少ない方へ追い込む
煙の妖怪なら 風上から風下へ向かうかも
人通りのない路地へ追い込んで
捕まえた!と息を弾ませ笑顔で通せんぼ

貴方も参加したかったんじゃないですか?
妖狐さんに謝ったら 一緒にお祭りを見ましょう



リーヴェ・アレクシア(銀雪・レクアイア)
  目的:犬神の確保
心情:ま、穏便に行くか
手段:
白に朝顔(紫系)の浴衣姿

犬神を見つけた後は、ウィンクルムとは伏せて声をかける。
そうだな、ここの祭りに不慣れだから案内をお願いしたい、といった形だろう。
手を繋ぎ、祭りは普通に楽しむ。
この間、犬神の性格等を把握しておく。
接し方は、わざと子供扱い。
相手をこちらのペースに引き込みつつ、相手が勝負を言い出すのを待つ。
勝負を持ちかけられたら、射的対決を提案。
勝った方が負けた方の言い分を聞くというもの。
この時に初めてウィンクルムであることを告げる。
逃げようとするだろうが、「敵前逃亡は負けを認めたくない子供のすること」と笑って留めさせる。
射的勝負は、銀雪に任せる。


ガートルード・フレイム(レオン・フラガラッハ)
  ・心情
ノリノリの相方に果てしない不安を覚えている。

・作戦
レオンの言うことももっともだと思ったので、離れて二人を尾行。
なかなか捕まえないのにイライラしていたが、人気の少ないところに行くので「ここで捕まえるんだな」と納得。
しかし、続く言葉にずっこける。「アホかー!」と乱入。
磯姫、乱入に驚き「彼女がいるのに私をだましたのね!」と髪で襲いかかる。レオンが剣で断ち切れば、すかさずお縄をかけて御用。

・その後
いや、すまん…だってまさか、あんなこと言うとは…。(冷静に振り返ればレオンの作戦だったのはわかるが…)
磯姫が自分を彼女と呼んだことに対し、複雑な気持ちになる。
レオンにとって私はなんなんだろう。



石蕗 冴(烏丸 司)
  お祭りも楽しいけどこれはこれで面白そうかも!
よーし、捕まえちゃうぞー

私達は雪女を捜しにいくね
す、涼しいのなら是非お近づきになりたいと思ったとかではなくっ

暑い所を好まないなら人が多い通りにはいなそう?
ちょっと道を外れたお祭りが眺められそうな所にいたりしないかな
もしくはかき氷屋さんとか金魚すくいとか水物がある所も探してみる

見つけたら確保!
でもこれで、はいさようならってのも味気ないなぁ
そうだ、一緒にかき氷食べる?
かき氷じゃなくても他にも食べ物一杯あるよと勧めてみる

だって折角のお祭りだもん
みんなで楽しく仲良く過ごせるのが一番だね
帰ったら他の妖怪にもお祭りってこんなに楽しいんだよって伝えて欲しいな


ユミル・イラストリアス(ドクター・ドレッドノート)
  土蜘蛛を捕らえるみたいです…
師匠には逆らえません。

蜘蛛を捕らえる前に、屋台でお腹を満たすようです
師匠、遊びに来たんじゃあないんですよ?
ええ?いい案があるから黙って言うことを聞けと?
…もう、わかりました、わかりましたよ。
ですけど私も食べますからね!

それで、お酒を出す屋台を回るそうなんですけど
私たちまだ新米ですし、妖怪に勝てるかしんぱ・・・
え?勝負は勝負でも戦いじゃなくて
飲み比べで勝負?・・・また食べ飲みするんですか・・・
飲む前からお腹いっぱいにしたら師匠不利なんじゃないですか?

わあああ蜘蛛の糸の盾にされちゃいました!
ひどいですよ師匠~!
こんなことするんだから絶対に勝ってくださいよ!



●雪女とかき氷
「お祭りも楽しいけど、これはこれで面白そうかも!」
よーし、捕まえちゃうぞー! と石蕗 冴は元気良く拳を天に突き上げる。そんな冴を見て、烏丸 司はくすと笑みを漏らした。
「お祭りのせいか普段よりも元気そうだよね、石蕗さん」
「うん! 元気いっぱいだよっ!」
「頼もしいよ、頑張ってね」
僕もほどほどに頑張るからとにこやかに言う司に、「任せて!」と冴は明るい顔。
「さて、私たちは雪女の担当だね」
「担当……というか、石蕗さんが希望したんじゃなかったっけ」
「うぐっ?! そ、それは……別に涼しいのなら是非お近づきになりたいと思ったとかではなくっ!」
特に何を追及したわけでもないのに、慌てて弁解を始めた冴。
(隠しごとが出来ない子だな……)
等とそんな冴の様子を見やって思いつつ、彼女の言う通りなんだろうけどまあそういうことにしておこうと司は大人の反応だ。
「えーと、暑い所を好まないなら人が多い通りにはいなさそう? ちょっと道を外れた、お祭りが眺められそうな所にいたりしないかな」
「かもしれないね。石蕗さん、冴えてる」
褒められて冴は「えへへ」と笑み零すも、そういう場所は周りに幾らもある。さて、どうやって的を絞るか。
「とにかく、周囲が涼しくて美しい人を探すのが手っ取り早いかな」
「でも、どうやって?」
「涼しいとなったら周りの人も気づくだろうから、涼しいと感じた場所や人はいなかったか聞き込みしてみるとか」
「わ! 先輩ナイスアイディア!」
作戦を固めて、2人は通りで聞き込みを開始する。水物があるかき氷や金魚掬いの屋台も見つける度にチェックだ。そして3つ目のかき氷の屋台。2人はそこで、屋台通りから続く丘が涼しいような気がしたという有力情報を手に入れた。更に、その丘では浅縹の浴衣姿の美女が祭りを眺めていたという。
「やった! ビンゴ!」
ぱあと顔を輝かせて、冴は丘へと駆け出そうとする。それを司がやんわりと止めた。
「石蕗さん、慣れてない下駄で走るのは危ないよ」
「あ、そっか。先輩、ありがとうっ」
「……いざとなったら僕が走るから」
相棒を気遣っているようにも聞こえる司の言葉は、先行く冴の耳に届いたのかどうか。

「うーん、雪女、どこだろ?」
丘の上にて。辺りをきょろきょろと見回しながら、冴は難しい顔。丘の上にもちらほらと屋台が続いており灯りには事欠かないが、その分人探しは困難だ。と。
「あ、石蕗さん。あの浴衣そうじゃないかな?」
司が、話に聞いた浅縹の浴衣を目に留めた。その女に近づけば、感じるは仄かな冷気。
「こんばんは! 私たちウィンクルムなんだけど……」
冴が声をかければ、女は冴を見、次いで狐火の縄を手にした司を見て、
「そう。お勤めごくろうさま」
とほっとしたような顔をした。冴が小首を傾げる。
「見つけたら確保! って、思ってたんだけど」
「ええ、どうぞそのように」
「でもこれで、はいさようならってのも味気ないなぁ」
そうだ、一緒にかき氷食べる? と冴が問えば、雪女は目をぱちくりとした。冴の後ろで、相変わらず突拍子もないこと言い出すなと司も苦笑を漏らす。
「あ、かき氷じゃなくても他にも食べ物いっぱいあるよ」
「あの……」
「だって折角のお祭りだもん。皆で楽しく仲良く過ごせるのが一番だと思うんだ」
ね? と邪気のない笑みを向けられて、じゃあかき氷をと雪女がおずおずと所望した。
「と、いうわけで先輩。かき氷3つ!」
「ん、分かった」
司が3人分のかき氷を求めてきて、3人並んでかき氷を食べる。丘からは屋台の本通りがよく見えた。
「考えてたの。どうやって祭りを滅茶苦茶にしてやろうかって」
でも私には出来なかったわと雪女が笑う。冴はかき氷をしゃくりとして、雪女の方を見た。
「帰ったら、他の妖怪にもお祭りってこんなに楽しいんだよって伝えて欲しいな」
向けられるのは、真っ直ぐな笑顔。そうねと応える声が、静かにけれど確かに夜闇に響いた。

●磯姫と口説き文句
「さーて、気の強い美人さんはどこかなー?」
傍目からも分かるほど浮かれた様子で、道に水滴の跡を探すレオン・フラガラッハ。その後に続きながら、ガートルード・フレイムはノリノリの相棒を見やり痛む頭を抑える。
(不安だ……果てしなく不安だ……)
と、ため息を零したガートルードの方をレオンがくると振り返った。そのアイスブルーの瞳に真剣な色が映っている。
「ガーティ、少し距離取ってくれ。女連れだと警戒されるかもしれねえからな」
キリリと真面目な顔と声音でレオンが言った。気づけば足元には、今しがた滴ったばかりの水の跡。その先には――長い黒髪に藍の浴衣の女の姿。レオンの言うことももっともだと、ガートルードはこくと頷いて2人から距離を取った。
「ねえ、このハンカチ、君の落とし物かな?」
ひとりになったレオンが、磯姫に爽やかに声を掛ける。怪訝な顔で振り向いた磯姫だったが――レオンのきらきらしい笑みを見てころりと機嫌良くなった。
「あら、残念だわ。それがあたしの物なら良かったのだけれど」
「ああ、違った? 手間を取らせてしまってごめん。もしひとりなら、お詫びに一緒に回らせてもらえないかな」
2人を尾行するガートルード、よくもそう滔々と言葉が出てくるものだと、呆れ7割感心2割。後の1割は、得体の知れない謎のもやもやだ。そして磯姫、複雑な心境で後をつけるガートルードには気づかず、レオンとのデートを満喫する。屋台を見てはしゃいだり、2人射的を楽しんだり。レオンが中々磯姫を捕まえようとしないことに段々とイライラしてきたガートルードだったが、すっかり打ち解けた頃、レオンが人気の少ないベンチへと磯姫を誘った。
「ここで捕まえるんだな……」
うんうんと納得し小さく呟いて、近くの茂みに身を隠すガートルード。ベンチに腰掛けたレオンが、隣に座る磯姫へと真剣な眼差しを向ける。遂に捕物劇の始まりか? とガートルードが息を飲んだその時、レオンの口から溢れ出た言葉は。
「君に打ち明けなければならないことが……。実は、君を捕まえてくれって妖狐に頼まれてるんだ。だけど、俺にはできない。逃げてくれ!」
ガートルード、予想外の台詞に思わずずっこける。
「って、アホかー!?」
と叫んで乱入すれば、磯姫はガードルートを見、次いでレオンを見やって――事情を察したとばかりに目を剥いた。
「あんた……彼女がいるのにあたしを騙したのね?!」
怒りの炎を煌々と瞳に灯し、磯姫はぞわりと髪を踊らせてレオンへと襲いかかる。自分の方へと容赦なく伸びてきた髪を、レオンは素早く抜いたレイピア『そよ風』で軽くいなした。生まれた隙をついて、すかさずガートルードが狐火の縄で磯姫を捕える。妖しの縄にその身を捕えられながらも、磯姫は何やらぎゃんぎゃんと騒いだが、間もなく妖狐たちがやってきて彼女を連行していった。辺りがまたすぅと静かになる。任務は完了だ。しかし。
「あーあ。何で、あのタイミングでとび出してくるかなー」
「う……。いや、すまん……だってまさか、あんなこと言うとは……」
しかし今冷静になって考えてみれば、あれもレオンの作戦の1つだったのだろうとガートルードにも分かる。故にその言葉はどうにも歯切れが悪く、その声は段々と小さくなっていくばかり。
「もう少しで穏便に捕まえられたのに……」
等と不満げにぶつぶつ言いながら口を尖らせるレオンの先行く背を見やりながら、ガートルードは小さくため息を零す。ふと、磯姫の言葉が頭を過ぎった。磯姫は自分のことをレオンの『彼女』と言ったけれど。
(レオンにとって、私は何なんだろう……?)
ぷかり浮かび上がった疑問が、頭の中に消えることなく漂っている。こんがらがった想いを胸に抱えたまま、ガートルードはレオンの背を追うのだった。

●煙々羅と鬼ごっこ
(力のない妖怪ばかり……なら、 一体何をしにきた?)
翡翠の双眸を軽く伏せ、シリウスは思案に耽る。その傍らで、リチェルカーレはきゅっと真剣な顔。
「お祭りで浮かれるのは判るけど、悪戯はよくないわ」
妖狐さんのお手伝い頑張らなくちゃ、と気合を入れるリチェルカーレを見やって、シリウスは密かため息を零した。
(まあ、捕まえれば分かることか。それにしても……)
俺たちは補導員かと小さく漏らし、シリウスは危なっかしくもひとり屋台通りへと繰り出そうとするリチェルカーレを追う。
「足元の影に注意するといいと思うの」
「リチェ。それはその通りだと俺も思うが……」
影に気を取られるあまり通りを行く人にぶつかりそうになるリチェルカーレの腕を、シリウスはぐいと引いた。
「頼むから、気をつけて歩け」
目をぱちぱちとした後、リチェルカーレはシリウスに「ありがとう」とふわり笑み零す。と。
「あ! ね、見て、シリウス」
促されて見た青と碧の視線の先には、周囲より明らかに薄い影を揺らす1人の青年。外見の特徴も、妖狐から聞いたものと一致する。人波の中を揺れるように歩く青年を追いかけて、リチェルカーレは「あの!」と声を掛けた。
「A.R.O.A.の者です。ちょっとお話いいですか?」
リチェルカーレが正直に打ち明けると同時に、シリウスは煙々羅の腕へと手を伸ばす――が、煙々羅はするりと逃れて。
「おや、見つかってしまったや。それじゃあ、一緒に遊ぼう?」
にこりと笑んで、煙々羅はゆらり、人混みの中を何の障害もないように足取り軽く駆け出した。が、ここで逃げられるのは予想のうちだ。
「ふふ、追いかけっこね」
「追い込むぞ、リチェ」
「うん!」
応えて、リチェルカーレは小柄な体躯を生かし、人の波をすり抜けて煙々羅を追う。時折こちらを振り返る煙々羅が本当に楽しそうに笑っているので、追うリチェルカーレもついついゆるりと笑顔になってしまう。さて、一方のシリウスは。
「風の通り道は……こっちか」
リチェルカーレとは別行動で、人通りのない行き止まりまで追い込む作戦だ。煙の妖怪なら 風上から風下へ向かうかもしれないというリチェルカーレの予想通りの方向へと煙々羅は駆けていった。これならば、屋台や祭りを楽しむ人たちに迷惑を掛けないように煙々羅を追い詰めることは、不可能ではないだろう。シリウスは煙々羅を挟み撃ちにするために、一旦賑わう屋台通りを離れた。そして、その煙々羅は。
「追いかけっこ楽しいですね、煙々羅さん」
後ろから響く少女の弾む声に、僅か目を見開いていた。気づけば、少女の声がよく通るほどに辺りの人通りはまばら。成る程、中々に頭を使う鬼ごっこだとくすり笑むも、彼とて簡単に捕まる気はない。煙の化身が、人の子に追いつかれるはずが――。
「!!」
前方から駆けてくる翡翠の目の男の姿を見留め、煙々羅は苦笑した。残された道はもう、1つしかない。挟み撃ちにされる前にと彼は横道に逃げ込んだ。しかし、その先は行き止まり。
「捕まえた!」
息を弾ませながらも、笑みを明るくしたリチェルカーレが通せんぼとばかりに腕を大きく広げる。その後ろでシリウスが、
「逃げるなよ」
と狐火の縄を構えた。煙々羅の顔に屈託のない笑みが浮かぶ。
「すごいね、君たち。楽しかったよ」
そう言って大人しくお縄につく煙々羅に、リチェルカーレは柔らかく笑みかけた。
「妖狐さんに謝ったら、一緒にお祭りを見ましょう」
「え?」
「貴方も参加したかったんじゃないですか?」
リチェルカーレの言葉にシリウスと煙々羅が同じように目を瞠るが――煙々羅はくすと吹き出し、シリウスはしょうがないなとばかりにため息をついた。リチェルカーレと煙々羅の楽しそうな鬼ごっこの様子を思い出し、先の思案は杞憂だったかとシリウスは思う。
「……リチェ。妖狐がいいと言ったらな」
この言葉に、リチェルカーレと、それから煙々羅も顔を輝かせて。その反応に苦笑いを漏らしたシリウスの、しかしその目元は柔らかかった。

●土蜘蛛と飲み比べ
「行くぞ、ユミル」
「ま、待ってください師匠!」
屋台通りへと繰り出すドクター・ドレッドノートの後に、ユミル・イラストリアスは慌てて続く。2人が追うのは土蜘蛛。決めたのはドレッドノートだ。
(師匠には逆らえません……)
そんなことを思いつつ歩いていたユミル、つと立ち止まったドレッドノートの背中にぽふりとぶつかる。振り返った師が、妖艶と言って差し支えのない笑顔を浮かべて言った。
「ユミル、先ずは腹を満たすぞ」
「……師匠、遊びにきたんじゃあないんですよ?」
土蜘蛛を捕えるのはどうしたんですかとユミルが口を尖らせても、ドレッドノートは微塵も動じない。
「これも作戦の内だ。良い案があるから黙って言うことを聞け」
そこまで言われてしまっては、ユミルにはもう言い返す言葉もない。
「……もう、わかりました、わかりましたよ。ですけど私も食べますからね!」
というわけで、2人は屋台の焼きそばを腹に収めた。そうしてやっと、ドレッドノートは土蜘蛛を探す構え。
「酒を出す屋台を回る。何、そう難儀な仕事ではないだろう」
言って歩き出す師の隣に並びながら、ユミルは表情を曇らせる。
「でも私たちまだ新米ですし、妖怪に勝てるかしんぱ……」
「問題ない。私が土蜘蛛に挑むのは、勝負は勝負でも戦いではなく飲み比べだ」
「え?」
驚いて、ユミルは師の顔を仰いだ。整ったかんばせには、余裕めいた笑みが浮かんでいる。ユミルは小首を傾げた。
「……また食べ飲みするんですか? 飲む前からお腹いっぱいにしたら、師匠不利なんじゃないですか?」
「……酒がわかってない子どもはこれだから」
「へっ?」
「いや、何でもない」
にっこりと極上の笑みを向けられて、ユミルは内心ますます首を傾げながらも口を閉じる。と、その視界に帽子を深く被った書生姿の男が映った。
「師匠! あの人!」
「ふむ。どうやらそのようだな」
行くぞ、とドレッドノートに伴われて、2人して土蜘蛛らしき男を追う。辿り着くは、屋台が減り、人通りもない静かな通り。帽子の男が、くるり振り返って問うた。
「兄ちゃんたち、さっきっから俺ん後をつけてるなァ? ウィンクルムか?」
焦るユミルを余所に、ドレッドノートが口の端をつり上げる。
「だったらどうする?」
「こうするのさ!」
男の――土蜘蛛の掌から蜘蛛の糸が噴き出した。ぐい、と弟子の頭を掴んだドレッドノートが、彼女を盾にして難を逃れる。ユミルが泣きそうな声で叫んだ。
「わあああ! 酷いですよ師匠~!」
こんなことするんだから絶対勝ってくださいよと続けられた言葉に、土蜘蛛がかくん、と首を傾げる。
「勝つ? 俺に? その兄ちゃんが! ……っはは、面白い嬢ちゃんだなァ」
言って、再び掌をこちらへと向ける土蜘蛛に、ドレッドノートは落ち着き払って声を掛けた。
「まあ待て土蜘蛛、私は自分で酒を作るくらいには酒が好きだ。どうだ、飲み比べで勝負しようじゃないか。負けたら大人しく捕まれ」
この提案に――土蜘蛛はにぃと口元を笑みの形に歪めて。
「面白ェじゃねェか。いいぜ、その勝負乗った!」
かくして、事情を知る妖狐の屋台を借り、2人の飲み比べ対決が始まる。
(勝負は早飲みじゃなくて飲み比べだ。杯を重ねることが重要になる)
空腹のまま飲むと悪酔いしてしまうこともドレッドノートはよく心得ていた。土蜘蛛を焦らすため最初の2、3杯を一気に干せば――土蜘蛛はもう仕掛けられた罠の中。ペースを乱された土蜘蛛を尻目に、ドレッドノートは悠々と杯を重ねる。
(屋台を転々としているということはその時点で酒のちゃんぽんだ。その状態でハイペースに飲めば……)
参ったと、土蜘蛛が声を漏らしたのも道理だった。
「ああ、負けた。強ェなァ、兄ちゃんよ」
精一杯強がって土蜘蛛が言う。勝負の行方を見守っていたユミルが、ぱあと顔を輝かせた。
「やりましたね、師匠!」
「ああ、当然だ。それで……勿論『割り勘』なんだろうな?」
1ジェール単位まできっちり割って払ってもらうぞとのお言葉に、ユミルは呆れ、土蜘蛛はぐるりと目を回した。

●犬神と対抗心
(どうしてこうなったんだろう……)
手を繋いで屋台通りを行くリーヴェ・アレクシアと犬神の後姿を眺めながら、深い紺の浴衣を纏った銀雪・レクアイアは重いため息を零した。紫の朝顔が幾らも咲く白の浴衣姿のリーヴェは、凛々しくも見惚れるほどに美しい。そんな彼女と屋台を巡るのが、心底から嬉しく誇らしくもあった銀雪である。しかし、犬神を見つけてからはどうだろう。
「不慣れだから案内をお願いしたい」
とウィンクルムであることは隠して声を掛けたリーヴェに、犬神は疑うことなく諾と応じて。そして3人は、共に祭りを回ることになったのだが……。
「にいちゃんは先に帰ってていいぜ。俺がねえちゃんを『えすこーと』してやるから」
「なっ……!」
「――銀雪」
リーヴェの目が、子ども相手に大人げないぞと呆れの色を帯びていたので、銀雪はぐうと黙った。
(それにしてたって、何も手を繋がなくたっていいじゃないか。ああ、2人してあんなふうに笑って……)
作戦のうちだと理解していても、面白くないものは面白くない。そんな銀雪を余所にリーヴェは会話を弾ませ犬神の性格を把握しようと努め、共に祭りを楽しみながらもわざと犬神を子ども扱いしては彼の矜持を刺激する。
「おや、射的の屋台があるな。何か取ってやろうか?」
「なっ?! ば、馬鹿にすんな! 自分で取れるって!」
犬神はもう、すっかりリーヴェのペースだ。口を尖らせて言うことには。
「なんなら勝負したっていいぜ。俺が勝ったら、もう子ども扱いすんなよ!」
リーヴェの口元に、淡く笑みが浮かんだ。挑発を繰り返し、相手が勝負を持ち出してくるのを待っていたリーヴェである。
「それなら、射的勝負といこう。勝った方が負けた方の言い分を聞くというのはどうだ?」
「望むところだ!」
「ところで『犬神』、私たちはウィンクルムでな」
「!!」
犬神の眼が、真ん丸に見開かれた。瞬間、追っ手から逃れようと身を翻した犬神の背を、リーヴェの声が凛と打つ。
「おや? 敵前逃亡は負けを認めたくない子どものすることだと思うが?」
笑いを含んだ声に、犬神が再びリーヴェの方へと向き直った。
「……いいぜ、やってやる。そこまで言われて逃げられるかってんだ!」
「いい心掛けだ。――銀雪」
「え?」
「後は任せる」
「え……ええっ?!」
すっかり蚊帳の外だと思っていた銀雪、突然のご指名に目を丸くする。狼狽する銀雪を見て、犬神がくつくつと笑った。
「何だ、にいちゃんの方が相手か。楽勝だな」
「! ……いいよ、勝負しよう。男の対決だよ」
子ども相手に本気になる相棒を見て、リーヴェはやれやれと呆れ混じりの笑みを零す。かくして、銀雪と犬神の射的対決が始まったわけだが……。
(応援、してくれないのか……)
ちらと様子を窺えば、リーヴェは銀雪に声援を送ることはなく、ただいつものように悠然と立ち勝負の行方を見守っている。そのことを少し淋しく思う銀雪だが、でも。
「ここは、負けられないよ」
意地でもリーヴェに認められたい。その想いが、銀雪を強く突き動かす。息を詰めぴたと狙いを定めた銃から撃ち出したコルクが大物のぬいぐるみを揺らし――そのまますとんと落下させた。犬神の方も健闘したものの、銀雪ほどの成果は上げられずに終わる。
「くっそー、負けたぁ!」
犬神の叫び声をどこか遠くに聞きながら、銀雪は息を整える。その肩をリーヴェが叩いた。
「よくやった、とは言わないでおこう」
その言葉に肩を落としかける銀雪へと、リーヴェはふっと笑いかける。
「勝って当然だ。出来ない男に私が託すとでも?」
銀雪は目を見開いた。口にされたのは、揺るぎない絶対の信頼。頬がかあと熱くなるのを銀雪は感じる。真っ赤になった相棒を見て、リーヴェはふっと笑み漏らした。
「合格が欲しければ男を磨け」
囁かれた言葉に、銀雪はこくこくと夢中になって頷く。そんな銀雪の反応に、耳心地の良い声でリーヴェが笑った。



依頼結果:大成功
MVP
名前:リチェルカーレ
呼び名:リチェ
  名前:シリウス
呼び名:シリウス

 

名前:石蕗 冴
呼び名:石蕗さん
  名前:烏丸 司
呼び名:先輩

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 巴めろ
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル 推理
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 08月06日
出発日 08月17日 00:00
予定納品日 08月27日

参加者

会議室

  • 皆さんこんにちは。初めましての方ははじめまして。
    磯姫が余ってるのを見てレオンが是非参加したいと(苦笑)
    それぞれで妖怪を追いかけるみたいだから、相談事はあまりないかもしれないが、よろしくな。

  • [4]リチェルカーレ

    2014/08/09-09:50 

    はじめましての方も、見知った方もおはようございます。
    リチェルカーレといいます。パートナーはマキナのテンペストダンサー、シリウスです。
    よろしくお願いします。

    私は煙々羅さんを希望させてもらいます。
    鬼ごっこ、一緒にできたらと。

  • はじめましての方ははじめまして。
    再度お会いできた方はお久し振り。
    私は、リーヴェだ。
    パートナーは銀雪。

    私達の第一希望は犬神かな。
    ヤキモチ焼きの銀雪が、土蜘蛛と煙々羅はNGらしい(笑)
    で、雪女と磯姫でも良かったんだが、
    銀雪は、こちらもNGらしい(笑)
    ヤキモチ焼いてやれば、選ぶのかもしれないが、焼きようもなくてな。
    そういう訳で、犬神がいいそうだ。

    ま、私に拘りはないから、希望が被るようなら銀雪を説得するよ。

    そういう訳で、よろしくな。

  • はじめまして。ユミル・イラストリアスです
    パートナーは師匠であるドクター・ドレッドノートさんです。
    よろしくお願い致します。

    …私の方の第一希望は土蜘蛛さんです

  • [1]石蕗 冴

    2014/08/09-01:56 

    初めまして、石蕗冴です。
    パートナーは烏丸先輩です。
    今回はよろしくねっ!

    妖怪を捕まえればいいんだね。
    どの妖怪にしろ癖があるみたいだけど頑張ってくるね!
    こちらの第一希望は雪女かなー。


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