プロローグ
「オリジナルカクテル作りに挑戦しませんか?」
南国の海パシオン・シーにある、海岸ゴールドビーチ。
海を眺められる絶好のロケーションに、そのお店はありました。
バー『マーレ』。
お店は小じんまりとしていますが、スタイリッシュさとアンティーク感を漂わせる内装が、大人な雰囲気のバーです。
バーカウンターの他に、二階には個室が完備されている事もあり、カップルに人気を集めています。
このバーでは、世界に一つだけ、自分だけのオリジナルカクテルが作れます。
オーダーは簡単。
好きな果物に、お酒にジュース。
好きな色をバーテンダーに伝えるだけです。
自分で決めるのはちょっと……という方も、バーテンダーに好みの味や色を伝えて、オリジナルカクテルを作って貰う事も出来ます。
未成年の方向けに、ノンアルコールカクテルもオーダー可能です。
出来上がったカクテルには、自分で名前を付けられます。
自分のため、またはパートナーのため、オリジナルカクテルに名前を付けてみるのは、きっと楽しい筈です。
カクテルの他には、自家製ナポリタンスパゲティに、ミックスピザ。ガーリックトーストに、シーザーサラダなどの軽食も楽しめます。
お店の営業時間は、19時から4時まで。
夜の海を眺めながら、個室でのんびりと語り合うもよし、バーカウンターでカクテルを思い切り楽しむのも良いでしょう。
それでは、素敵なカクテルナイトをお楽しみください。
解説
カクテルを飲みながら、夜の海を眺めるエピソードです。
記念に、是非オリジナルカクテルを作ってみては如何でしょうか。
(作らず、バーテンダーにお任せも歓迎です)
オリジナルカクテルを作る場合は、以下をプランに明記してください。
・カクテルの味(甘いとか、辛いとか)
・カクテルの色(好きにご指定いただけます。グラデーションなども可能です)
・カクテルの名前(オリジナルな名前を考えてください)
また、事前に予約を入れていたというプランも可能です。
この場合、オリジナルカクテルを予め注文しておくことで、パートナーにサプライズを演出する事も出来ます。
バーカウンターで過ごすのか、個室で過ごすのかも、ご指定ください。
飲み物は、必ず一人一杯注文が必要です。
料金は一律、カクテルを含む飲み物が一杯100Jr。
軽食は一品につき、150Jrです。
別途チャージ料が一人につき、カウンター100Jr、個室は150Jrとなります。
ゲームマスターより
ゲームマスターを務めさせていただく、『カクテルが出るとテンションが上がる!』方の雪花菜 凛(きらず りん)です。
今回は、ちょっぴり大人な雰囲気を楽しんでいただこうというエピソードです。
神人さん・精霊さん同士での交流も勿論、大歓迎です。
カクテルを作るというエピソードではありますが、専門的な知識などは必要ありません。
(雪花菜もありません!)
自由にお好みで楽しんでいただけたらと思います。
皆様の素敵なアクションをお待ちしております!
リザルトノベル
◆アクション・プラン
スウィン(イルド)
落ち着けるように個室に行きましょ 内装も景色も素敵ねぇ オリジナルカクテルってのも面白そう でもお酒は好きだけど、知識は全然なのよね バーテンダーさんに作ってもらいましょ 折角だから、イルドがおっさん用の決めてよ で、おっさんがイルド用の決めるの わざと変な注文するのはなしよ~? できたわね!…何かこう、これをやりたくなるわ(うずうず) 君の瞳に乾杯(ウインク) や~ね、ちょっとした冗談じゃない(ケラケラ) ん、綺麗でおいし♪ ねぇ、このカクテルの名前何にする? …へぇ(意味が分かったが口には出さず、ただ面白そうに笑う) ん?そっちのカクテルの名前?そうねぇ… (名前を言って、意味を聞かれるが)意味?教えな~い♪ |
柊崎 直香(ゼク=ファル)
夕食後に消えたゼクを追跡した結果、店を発見した次第であります ……おー、ゼクもこういうとこ来るんだね 大人しくしてろ、を条件に同伴を許可されたので個室へ。 それぐらいは僕も弁えてるんだけどなと思いつつ 失礼にならない程度に内装をきょろきょろ。 自分の知らない世界を覗き見ってやっぱりちょっと楽しい いつもと違った雰囲気に見えるゼクを観察するのもね オリジナルカクテル面白そうなので挑戦してみよっか 僕の分はもちろんノンアルコール。 ゼクはお酒飲めるんだよね? えーと、とっても辛くて、白と金、青のグラデーション…… を、隣で睨み利かせてるお兄さんに。 名前はゼクが自分で考えるがよい。 あ、お返しに僕のも頼んでみてよ。楽しみ! |
アイオライト・セプテンバー(白露)
わー、すてきな雰囲気のお店ー☆ 大人だなあ、憧れるなあ、こういうの似合うレイディになりたいなあ でも、あたし子どもだしカウンターだと迷惑かけちゃうかも だから、個室でパパとゆっくりするの 甘くて青くてお星さまみたいにキラキラしてるノンアルコールカクテルが欲しいな 「金銀砂子」って名前にしてもらお♪ 折角だから、あたし、パパと一緒に夜明かししてみたいっ (絶対途中で寝るフラグ) ね、パパ。相談にのってほしいの あたし、いつかちゃんと女の子になれると思う? 笑ったらだめだよ あたし真剣だもん もし笑ったら、あたしがすごい美女になっても、パパなんかお婿さんにしたげないんだから そんでね あたし…ずっとパパと一緒にいたいの いい? |
ヴァレリアーノ・アレンスキー(アレクサンドル)
夜の海を眺めながら物思いに耽るのも悪くはない、か 一時の安らぎなど俺には無いに等しいが 軽くオールバック タキシード モノクル 気乗りしないがサーシャとカウンターでカクテルを作る ウォッカ入りのカクテルを選ぶ 作り方は当然知らないのでバーテンダーなどに聞く 見よう見真似でシェイカーを振るが味が混ざらず何度かやり直す 作る内に段々楽しくなる 味見はしない 味は甘め 色は白 名はインペリアル・サイクロン(黒き暴君) ウォッカやブランデーに生クリームとクレーム・ド・カカオを混ぜたもの 食事後、今までの依頼の話をする 台詞 ВодаとВодкаは同じだろう 甘いが飲みすぎれば毒になる、まさにお前らしい 全てのオーガを倒したら?その時は… |
エルド・Y・ルーク(ディナス・フォーシス)
年寄りの浅知恵といたしましては、精霊との親睦を深めるならばやはり酒だと思うのですよ 個室を選択 甘党なのは知っているのですが、味の好みも分からないので、最初にミントとカカオのリキュールを生クリームでシェークした物(チョコミント味)を出して頂き様子をみます おや、甘すぎるとじと目で見られてしまいました 仕方ないので本気を出して考えましょう ふむ、すみません(こそりとバーテンさんに耳打ち)と、グレープフルーツ上層の2層カクテルをお願いします どうでしょう、貴方の瞳と姿を映した美しい酒だと思うのですが 思えば私は貴方の好みすら知りませんでした。きちんと理解しようと思ったのは初めてです。 上手くいくと良いのですが…… |
●1.
ちょっと一杯だけ、楽しむつもりだったのだ。
「……何してるんだ?」
急に振り向いてきたゼク=ファルとバッチリと目が合って、柊崎 直香は一瞬停止してから、ひらひらと手を上げた。
「いやーこんばんは。良い夜だね、ゼク」
「付けてきたのか?」
「人聞きの悪い。ゼクがこっそり出掛けるから、何所に行くのか気になっただけだよ」
バレたのなら仕方ないと、直香は胸を張って言う。
「別にこっそり抜け出したわけじゃないんだがな」
ゼクは少しだけバツが悪そうに視線を逸らしてから、直香を見下ろした。
「どうせ暇つぶしに付いてきたんだろ」
「失礼なー」
「大人しくしてろ。それが条件だ」
そう言うなり、ゼクは踵を返して、目の前の扉に手を掛ける。
バー『マーレ』。扉の上の洒落た看板を見上げて、直香は瞬きした。
付いて行って良いという事か。
大きなゼクの背中を追い掛けて、店へと足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ」
店員の落ち着いたバリトンボイスが響き、レトロモダンな空間が二人を迎えた。
店内は控えめなペンダントランプの照明で薄暗いが、不思議と暗くは感じられず、何所か懐かしい温かな空気に満ちている。
「あら? 直香とゼクじゃない」
不意に聞き覚えのある声に顔を上げると、知っている顔が笑顔で手を挙げていた。
「スウィン。イルドも」
「よう」
「奇遇ねぇ~二人も飲みに来たの?」
「まぁ、そんなとこかなー」
「お客様、お待たせ致しました」
店員の声に、スウィンとイルドは軽く手を振った。
「おっさん達は個室でのんびりするの。またね~」
直香は手を振り返し、ゼクは軽く会釈をして、店員に案内され二階へと階段を上っていく二人を見送る。
「お客様、カウンター席と個室、どちらもいたしますか?」
「個室で」
店員の問い掛けに間髪入れずゼクが答え、直香達も二階へと向かうのだった。
「わー、すてきな雰囲気のお店ー☆」
アイオライト・セプテンバーは蒼の瞳をキラキラさせ、濃い紅の壁にアンティーク調のインテリアが落ち着きを与えている店内を見渡した。
ペンダントライトの仄かな明かりが何とも言えない、不思議な空間を作り出しており、所謂大人な雰囲気だと思う。
「大人だなあ、憧れるなあ、こういうの似合うレイディになりたいなあ」
浴衣の裾を翻し、くるくると飽きることなく店内を見渡していると、パートナーの白露が声を掛けてくる。
「アイ。カウンター席と個室、選べるみたいですけど、どうします?」
「あたし、個室でゆっくりしたいなっ」
白露は頷くと、店員へ向き直った。
「では、個室でお願いします」
「畏まりました」
「アイ、暗いですから、足元気を付けて下さいね」
差し出された白露の手を取り、アイオライトは階段を登る。
「交換をしてみないかね?」
ヴァレリアーノ・アレンスキーは、アレクサンドルの提案に大きく瞬きした。
銀の髪を軽くオールバックにし、タキシードにモノクル。
普段から早熟な印象のヴァレリアーノが、今日はその出で立ちで更に大人びた雰囲気なのだが、こうしたふとした表情は歳相応だ。
僅かに口元に笑みを浮かべ、アレクサンドルは言葉を続ける。
「普通にカクテルを作っても面白くないのだよ」
「……確かに、そうだな」
ヴァレリアーノは少し考えてから小さく頷いた。
「カウンターだと、自分でシェイカーを振れるみたいですね、ミスター」
その時、ふと聞こえてきた声に視線を向けると、白い紳士服の老紳士と金髪碧眼の美青年がやって来た所だった。
「……あの人……」
ヴァレリアーノは思わず老紳士を凝視する。
一見恰幅の良い身体に見えるが、スーツの下に鋼のような筋肉があるのが分かるのだ。
何者なのだろう?
不躾なまでの視線に気付いた老紳士と目が合う。
「こんばんは」
にっこりと穏やかに老紳士は微笑んだ。
釣られて、ヴァレリアーノもぺこりと軽く頭を下げる。
「ミスター、カウンターと個室、どちらにするんです?」
老紳士の隣の青年が、急かすようにそう尋ねた。
「そうですねぇ。個室にしましょうか」
少し考えてたら老紳士は答え、ヴァレリアーノ達に会釈をしてから、青年と一緒に店員に案内されて二階へと上がっていく。
「……只者じゃない、気がする」
ヴァレリアーノは、老紳士の背中をじっと見送ったのだった。
●2.
白い紳士服の老紳士、ことエルド・Y・ルークは考えていた。
(年寄りの浅知恵といたしましては、精霊との親睦を深めるならば……やはり酒だと思うのですよ)
向かい側のソファへ座った金髪碧眼のパートナー、ディナス・フォーシスを見つめる。
「素敵なお店ですね」
ディナスは、窓から見える海へ視線を向けながら瞳を細めた。
窓の外の海は、月と星の明かりに青白く輝いている。
落ち着いて酒が飲める店をと考えてのセレクトだったが、どうやら気に入って貰えたようだ。
エルドは安堵しつつ、控えていた店員を見上げた。
「オリジナルカクテルをお願いします」
予めディナスのために考えていたものを手早く注文する。
店員が下がると、ディナスがエルドへ視線を戻し訪ねてきた。
「ミスターはこういったお店には良く来るのです?」
「そうですねぇ……お酒は嗜んでいますが、こうやって誰かとのんびりするのは……久しぶりな気がします」
ディナスはのんびりと微笑む老紳士を眺め、少し複雑な気持ちになる。
最初出会った時、この老紳士がマフィアファミリーのドンであったとは、夢にも思わなかった。
今もまだ、本当なのかと疑いたくなる瞬間は多い。このような時は特に。
目の前の柔和な紳士と、その経歴が結び付かないのだ。
「お待たせ致しました」
軽いノックと共に扉が開かれ、カクテルの乗ったトレーを持った店員が入ってくる。
淡い色彩の緑のカクテルがテーブルにに置かれた。
丁寧にお辞儀をして去る店員を見送ってから、ディナスがマジマジとそのショートカクテルを見つめた。
「ミントとカカオの匂い、ですね」
グラスを手に取って口を付ける。
チョコミント味のアイスクリームを思わせる、そんな甘い味が口の中に広がった。
(確かに僕は甘党ですが、子供舌とばかにしているんですか)
ディナスは、思わずじとっとエルドを見遣る。
『おや』とエルドは瞬きすると、呼び鈴を鳴らした。
どうやらディナスには甘過ぎたようだ。
「失礼致します」
程なくやって来た店員に、こっそりと耳打ちして新たなカクテルを注文する。
聞き慣れない酒の名前が微かに聞こえ、ディナスは首を傾けた。
「来てのお楽しみです」
そんな彼に、エルドは軽く片目を閉じて笑う。
待つ事少し。
店員が運んできたのは、美しい蒼と黄色のカクテルだった。
「これは……。ステアするのも惜しい美しさですね」
ディナスは初めて見る美しい色合いのそれに、感嘆の吐息を吐きながらグラスを手に取り、そっと口を付ける。
「……」
「どうでしょう、貴方の瞳と姿を映した美しい酒だと思うのですが」
エルドはディナスの様子を伺う。
「甘酸っぱい柑橘系で……好み、です」
ディナスはよく味わってから、ぽつりとそう感想を述べた。
「それはよかった。『催眠』という意味の名を持つトロピカル・リキュールと、グレープフルーツのカクテルなのですよ」
「爽やかで、夏に合うカクテルですね」
にこにこ微笑むエルドに、ディナスは少し目元を赤く染めながら、一旦グラスを置いて呼び鈴を鳴らす。
「僕もミスターへカクテルを」
ディナスが注文したのは、琥珀色のカクテルだった。
「とあるマフィア映画に因んで作られたカクテルです」
「ふむ」
エルドはゆっくりと味わう。
「アマレットの甘味がウィスキーに溶け込んで……奥深い味わいですね」
その顔が嬉しそうに綻んだ。
「……これの基となった映画の様にならない事を祈っていますよ、ミスター」
「大丈夫ですよ。私には貴方が居ますから」
二人のグラスが合わさり、透明な音が響いた。
●3.
臙脂色のリボンが、ふわりとその動作に合わせて揺れる。
見様見真似だったが、執事服姿のアレクサンドルがシェーカーを振る様子は、本物のバーテンダーのように堂々として様になってた。
「……ぬ」
その隣で、ヴァレリアーノは悪戦苦闘していた。
アレクサンドル同様、カウンターでシェイカーを振るバーテンダーを真似しているのだが、どうにも何か違う気がする。
シェーカーに入れた材料が、どうしても上手く混ざらなかった。
もう何度もやり直している。
「アーノ。持ち方を少し変えたらいいと思うのだよ」
先に作り終えたアレクサンドルがヴァレリアーノの後ろに回り、その身体を抱き留めるようにして、彼の手を導いた。
「人差し指と小指でシェーカーのボディを挟んで……肘は曲げた方が良い」
「こう、か?」
「そう、それでリズミカルに振るのだよ」
シャカシャカシャカ。
明らかに先ほどより、中身が混ざっている音がした。
そうなると、段々と面白くなってくる。
先ほどまでとは、手応えが違った。
「アーノ。もう良いと思うのだよ」
「む、そうか……」
もう少し続けたかったような残念な気持ちになりつつ、ヴァレリアーノは振るのを止めて、シェーカーのトップを外した。
「人差し指をストレーナーに添えて、外れないようにするのだよ」
アレクサンドルに手伝ってもらいながら、慎重に、最後の一滴までグラスに注ぎ入れる。
「完成、だ」
出来上がったカクテルは、濁りのない白い色だった。
「さて、名前を付けなければ。アーノはもう考えているかね?」
ヴァレリアーノは、完成したカクテルをじっと見つめる。
白いカクテル。
ウォッカとブランデーをベースに、生クリームとクレーム・ド・カカオを混ぜて、甘めに作った。
「インペリアル・サイクロン」(黒き暴君)
「ほう」
思い付いた名前をヴァレリアーノが口にすると、アレクサンドルは口元に笑みを浮かべた。
それから、彼自身が作ったカクテルをヴァレリアーノの前へ置く。
「クェイサイス」(致命者の鎌)
それが名前らしい。
さくらんぼとレモンで飾り付けされた、透明と紫の二層の美しいカクテルだった。
「アーノの瞳の色を意識したつもりだ。我はその目が気に入っているのだよ」
そう微笑んでから、アレクサンドルはカウンター越しにバーテンダーに軽食を注文する。
注文したBLTサンドが届き、二人はスツールに座って、互いの作ったカクテルに口を付けた。
「……何故、ウォッカが入ってない?」
一口飲んで、ヴァレリアーノが憮然といた表情を浮かべる。
「葡萄ジュースと少量のレモン汁とソーダで作ったのだよ。酒は駄目だからね」
「ВодаとВодкаは同じだろう?」
「郷里では飲めたかもしれないがここでは禁止なのだよ」
アレクサンドルは笑って、ヴァレリアーノの頭をくしゃりと撫でた。
「君の作ってくれたこれは……本当に甘いのだよ」
「甘いが飲みすぎれば毒になる……まさにお前らしいだろう?」
その言葉に瞳を細め、アレクサンドルはヴァレリアーノを覗き込んだ。
「全てのオーガを倒したら、アーノはその先、どうするのかね?」
「全てのオーガを倒したら? その時は……」
カクテルを眺める。ゆらゆらと透明と紫が揺らめいた。
それはまるで自分のようだと思い、ああ、自分をイメージして作られたからかと思い至る。
「今はその先など、考えない」
頬に残る傷跡に触れ、そう呟いた。
●4.
「アイ、何を頼みますか?」
メニュー表を開きながら白露が尋ねると、アイオライトは迷わずに答えた。
「甘くて青くて、お星さまみたいにキラキラしてるノンアルコールカクテルが欲しいなっ。『金銀砂子』って名前にしてもらうの♪」
その様子に微笑みながら、白露は店員を見上げた。
「では、私は牛乳を使ったロングカクテルをお願いします。それと、ミックスピザを一皿」
「畏まりました」
店員は一礼して去っていく。
「パパ、見て見てっ! お月さまが海に映ってるのっ」
大きな窓から見える景色に、窓に張り付いてアイオライトが感嘆の声を上げた。
「夜の海とは、こんなに美しいものなんですねぇ」
ゆらゆらと水面に映る二つの月。
幻想的な景色に時間を忘れてしまいそうだ。
「あたし決めたっ。パパと一緒に夜明かししてみたいっ」
「途中で眠らないでくださいね? アイ」
もしそうなっても、連れて帰るけれども。
ピザを頼んだのは、深酔い防止の意図があった。
「お待たせ致しました」
「わあ~!」
運ばれてきたカクテルに、アイオライトは瞳を輝かせる。
清らかな光のような蒼いカクテルだった。
星形のゼリーが可愛らしく飾られている。
「パパのカクテルも綺麗だねっ」
白露の前には、ピンク色の優しい色合いのカクテルが置かれた。
「かんぱーい☆」
ミックスピザを間に挟んで、二人はグラスを合わせる。
「わ、おいしー♪」
爽やかなソーダと青リンゴの味に、アイオライトは頬を染めた。
「こちらも甘くて、優しい味わいですね。ベースは桜の浸漬酒かな?」
アルコール度もそこまで強くないようだ。
「ピザも、チーズたっぷりで美味しい~♪」
暫く二人でカクテルとピザを楽しむ。
「ね、パパ。相談にのってほしいの」
ピザをある程度食べ終わった所で、不意にアイオライトが真剣な顔で白露を見つめた。
(珍しくシリアスですね)
白露は表情を引き締め、アイオライトを見つめ返す。
「あたし、いつかちゃんと女の子になれると思う?」
そう言って、アイオライトはぎゅっと胸の上で拳を握った。
「笑ったらだめだよ。あたし真剣だもん。もし笑ったら、あたしがすごい美女になっても、パパなんかお婿さんにしたげないんだから」
「アイが真剣なら、私だって笑ったりしませんよ」
白露は穏やかに答える。
アイオライトはそんな彼に、身を乗り出して続けた。
「そんでね。あたし……ずっとパパと一緒にいたいの」
蒼い瞳が真っ直ぐに白露を見つめ、僅かに震えながら尋ねる。
「いい?」
白露の紫の瞳が僅かに見開かれ、それから、優しく細められた。
「私は黙って居なくなったりしません。安心していいですよ」
アイオライトの表情が霧が晴れたように輝く。
「ほんと? じゃ、あたしのこと世界一可愛いって云って!」
「さあ、それはどうしましょうか」
「パパのケチー。パパのために浴衣着てあげたのに。云ってくれなきゃ泣いちゃうもん本気だもん」
アイオライトの眉がハの字になり、唇を尖らせて白露を見つめる。
「……そんな確認をしなくても」
温かい手がアイオライトの頭に触れた。
「アイは世界一可愛いですよ」
●5.
「お酒は好きだけど、知識は全然なのよね~」
個室にて、スウィンは悩ましげに唸った。
「バーテンダーさんに作ってもらいましょ」
「それが無難だろーな」
窓の外の海を見ていたイルドが視線を戻して頷くと、スウィンの瞳が悪戯っぽく輝く。
「折角だから、イルドがおっさん用のカクテルを決めてよ。で、おっさんがイルド用のカクテルを決めるの」
「ハァ?」
「いいじゃない! ねっ? わざと変な注文するのはなしよ~?」
「おっさんのが変な注文しそうだろ」
イルドは半眼でスウィンを見てから、小さく息を吐き出した。
「分かった。シャレたもん期待すんなよ?」
「そうこなくっちゃ!」
二人それぞれ、味と色のイメージを店員に伝えて注文した。
店員が下がると、二人で窓の外の景色を眺めながら、カクテルが届くのを待つ。
「こうして個室で景色を独占って、凄く贅沢よね」
「これだけでも、ここに来た価値があるってもんだな」
しみじみと呟くスウィンに同意して、イルドは月明かりに瞳を細める。
「お店の雰囲気も素敵だしね」
景色を眺めてゆったりと流れる時間が、穏やかに二人を包んだ。
「お待たせ致しました」
やがて店員の声と共に、注文したカクテルが届けられる。
輝くエメラルドのような緑色のカクテルが、スウィンの前に。
煌くアメジストのような紫色のカクテルが、イルドの前に。
「綺麗ねー! ……何かこう、これをやりたくなるわ」
色んな角度でカクテルを眺め、スウィンがうずうずとした顔をしたと思うと、
「君の瞳に乾杯☆」
イルドにカクテルを向けて、パチンとウインクした。
「……あのな。俺は雰囲気とか良く分かんねーけど」
イルドが呆れた顔で大きく息を吐き出す。
「今確実に何かが壊れたと思うぞ」
「や~ね、ちょっとした冗談じゃない」
スウィンはヒラヒラと手を振ると、改めてイルドへグラスを差し出した。
「乾杯☆」
イルドもグラスを向け、カチンと澄んだ音が響いた。それぞれグラスに口を付ける。
「ん、おいし♪ この香りはメロンかしら? 上品な甘さだわ」
「こっちはレモンの風味が効いてて、辛くて引締まった味だな。美味い」
輝く色を楽しみながら、じっくりとカクテルを味わう。
「ねぇ、このカクテルの名前何にする?」
「名前……あ~……」
スウィンの問い掛けに、イルドは柄じゃないと頭を掻きつつ、窓の外へ視線を向けた。
悩んでから、ぼそっと呟く。
「『Mischievous green』」
「……へぇ」
(悪戯な緑、ね)
意味を理解したスウィンは面白そうに微笑む。
イルドは照れ臭そうに視線を外したまま、自分の持つカクテルを彼へ向けた。
「コレは?」
「そうねぇ……『Bashful type purple』。かしら」
「……どういう意味だ?」
「意味? 教えな~い♪」
照れ屋な彼が持つ紫のグラスに軽く指先で触れ、スウィンは笑ったのだった。
●6.
(ゼクもこういうとこ来るんだね)
直香は、失礼にならない程度に個室内をきょろきょろ見渡した。
カウンター席があった一階と同様、アンティークなペンダントライトがほんのりと室内を照らしている。
ゆったりと腰が下ろせる革張りのソファーも落ち着いた雰囲気で、木製のテーブルが温かな印象だ。
大きな窓の外には、ゴールドビーチの夜景が広がっていた。
直香がまだ知らなかった、大人の酒場の世界。
(自分の知らない世界を覗き見って、やっぱりちょっと楽しい)
チラリと向かい側のソファーに腰を下ろしたゼクを見遣る。
(いつもと違った雰囲気に見えるゼクを観察するのもね)
「自分の好きな物頼め」
ゼクはそう言って、メニューを直香に渡してきた。
「オリジナルカクテル……」
視界に入ったそれを見てから、直香は微笑む。
「面白そう。挑戦してみよっか」
「ん?」
「僕の分はもちろんノンアルコール。ゼクはお酒飲めるんだよね?」
直香は注文を待つ店員を笑顔で見上げた。
「えーと、とっても辛くて、白と金、青のグラデーション……を、隣で睨み利かせてるお兄さんに」
「って、なんで俺のをオーダーしてんだ。酒は弱くないから飲めないことはないが」
ゼクは少し呆れ顔で直香を見ている。
「名前はゼクが自分で考えるがよい」
「味はともかく色はなんだよ。夏っぽいのか?」
半眼になったゼクに、直香は無言で彼の頭部を指差した。
「あ?」
「ヒント。左角」
あー……と、ゼクは納得した顔をした後、少し投げやりに手を振る。
「……名前な。『コルヌ』でいいだろ、それもう」
コルヌは角を意味する。
「あ、そうだ。お返しに僕のも頼んでみてよ」
「俺がか?」
「そう」
「お前のは甘い奴だ。色は……」
そこまで言って、ゼクは考えるように窓の外へ目を向け、もう一度直香の方を見てから、続けた。
「……濃紺に金」
「えーゼクのと色被ってる」
「被ってねえよ、お前の金はもっと明る……」
言い掛けて、ゼクは口を噤んで軽く首を振る。
「いや、とにかく。名前は『ステッラミラ』。意味は聞くな」
「えー」
「えーじゃない。ほら軽く何か食べるか」
ゼクは直香の前にあるメニューを捲り、軽食の部分を指差した。
「じゃあ、自家製ナポリタンスパゲティにミックスピザとー」
「食えるだけにしとけよ」
ゼクは頬杖を付いて笑ったのだった。
「乾杯」
白と金、青のグラデーションのカクテルと、濃紺に金の二層のカクテル。
二つのグラスを合わせて、直香とゼクはカクテルを口に運ぶ。
「うん、甘くて美味しいや」
微笑む直香を見て、ゼクは窓の外を見遣った。
外では煌めく星々が海を照らしている。
「ゼクのは、どう?」
「辛くて美味い」
一言答えて、傍らで自分を照らす『不思議な星』に笑みを返した。
Fin.
依頼結果:大成功
MVP:
名前:アイオライト・セプテンバー 呼び名:アイ |
名前:白露 呼び名:パパ |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 雪花菜 凛 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | ロマンス |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 07月13日 |
出発日 | 07月19日 00:00 |
予定納品日 | 07月29日 |
参加者
- スウィン(イルド)
- 柊崎 直香(ゼク=ファル)
- アイオライト・セプテンバー(白露)
- ヴァレリアーノ・アレンスキー(アレクサンドル)
- エルド・Y・ルーク(ディナス・フォーシス)
会議室
-
2014/07/18-22:27
挨拶がぎりぎりだな、すまん。
全員顔見知りだが改めてよろしく頼む。
俺のところの神人様は……たぶんその辺にいるはずだが。
うちも個室利用だな。
さすがに大人しくしてるだろうが、念のため押し込んどく。 -
2014/07/18-00:41
皆さん、初めまして。エルド・Y・ルークと申します。
こう、ヴァレリアーノさんのお話をお伺いすると、私も見てばかりではなく、人生一度はシェーカーを振るべきでしたねぇ。
私一人でしたら、静かにカウンター…といきたいところだったのですが、連れが酔うとマナーを忘れてしまう可能性があるので、現状個室にしようかと思っていますよ。
皆さん良いお酒が飲めると良いですねぇ。 -
2014/07/17-22:14
アイオライトやMr.エルドはお初にお目にかかるな。宜しく。
俺達はバーでカクテル作りでもしていると思う。
俺は特に興味はないが、サーシャが煩いので。
作ったことなど当然ない故、もし手慣れている人がいたら教えてくれると助かる。
誰もいなければバーテンダーに聞きながら見よう見真似でやる予定だ。 -
2014/07/17-19:50
毎度ど~も♪エルドはお初ね。スウィンよ~
おっさん達も個室に行くわ。落ち着けそうだし、皆の雰囲気壊しちゃダメだしね
楽しく過ごしましょ♪ -
2014/07/17-02:33
いつもお世話になってまーす。そんで、ヴァレリアーノさんとエルドさんは初めまして☆彡
アイオライト・セプテンバーですっ。
あたしとパパは個室行こうかなーって。
未成年がカウンターだと迷惑かけちゃいそうだし。
あ、あたしはちゃんとノンアルコール頼むよー。