伯父様VS姪っ子ちゃん(青ネコ マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

■依頼その一、下流貴族の伯父馬鹿さん
「うちの子は可愛いよ。僕が蝶よ花よ蜂よと大切に育ててきたからね」
 蜂は違うだろう。そう思ったが、A.R.O.A.の受付職員は「はぁ」とだけ返して先を促した。
「手塩に砂糖も加えて育てた子も先日成人してね、そしたらやっぱりいい旦那さんを見つけてあげたくなるじゃないか、親心だよ。いや、伯父だけど」
 砂糖は加えるな。そう思ったが、A.R.O.A.の受付職員は「余計なお世……有難いですねぇ」と返して先を促した。
「そしたらあの子なんて言ったと思う? 『伯父様すみません、私実は男性の何処がいいか分からないんです。女性が好きなんです。あとデミ・オーガの討伐をしたいんです。なのでお見合いは要りません』だよ?! いや、確かに男っ気はなかったけどね?! あの子の両親オーガに殺されたけどね?! でもさぁ!!」
 ダンッ! と受付テーブルに両拳を叩きつけゼェハァと荒くなってしまった呼吸を整える。受付にいる他の依頼者がこちらに大注目。迷惑だ。
「そんなわけでね、あの子のデミ・オーガ討伐に一緒に行ってもらいたいんだよ。で、『やっぱりウィンクルムに任せないと無理ね』って思わせて欲しい。ついでに、『やだ、男の人って頼れる素敵……!』って思わせて欲しいんだ。あ、でもうちの子に惚れちゃ駄目だからね!! あの子の相手は優しくて財力あって頭が良くて強くて顔が良くて背が高くて」
「あ、すみません、必要書類に不備がありますので書き直して持ってきてください」

■依頼その二、下流貴族の変態女性さん
「何ていうかこう、伯父がうざい」
 開口一番に何を言うのかこの人は。そう思ったが、心当たりのあるA.R.O.A.の受付職員は「そうですかぁ!」と深く頷いた。
「血の繋がりのない姪を成人するまで育ててくれた事には感謝してるんですよ。家の為に何処其処の家に嫁いでくれって言われれば受け入れようと思ってたんですよ。でもあの人、『私の幸せの為に』私の結婚相手を探してるんですよね。それはちょっと受け入れ難いというか迷惑というか」
 え、血の繋がりのないって何? そう思ったが、やっぱり心当たりのあるA.R.O.A.の受付職員は「余計なお世話ですよねぇ!」と深く頷いた。
「私、デミ・オーガとか危険生物の駆除を仕事に出来たらなぁって思ってるんですが、伯父は『女の子がそんな危ない事はやめなさい。結婚して守られて幸せになりなさい』って言うんですよ。自分がデミ・オーガとか怖いだけの癖にあのへたれが」
 あれ? 頷きそうになったけど何かこれ違う。
「結婚って言われても、私、ガンガン攻めて虐めてべたべたに甘やかして押し倒したいタイプなんですよね。でもほら、それって世の多くの男性も同じじゃないですか。となると自然と女性ばかりに目が行くようになって……男性でムラッとくる相手って正直伯父だけなんですよね」
「ちょっと待ったちょっと待ったちょっと待った!! え? ん゛?!」
 聞き捨てならない女性の発言に受付職員は慌てて止める。
 おかしい。さっきから所々おかしかったが、今のはもの凄くおかしい内容だった。
「えっと、最後の方に仰った事が理解出来なくてですね……」
 きっと聞き間違いだろう。もしくは言い間違いだろう。そう判断して聞きなおすと、女性は気を遣って言い換えてくれた。
「心のち○こが反応するのは伯父だけで」
「あー! あー!! 聞こえない聞こえないあーッ!!」
 聞き間違いじゃなかった。
「それでですね、ウィンクルムの人と一緒にデミ・オーガ退治に行って、駆除業務につける実力があるか見て欲しいんですよ。駄目なら鍛えなおしますが、問題なければ一緒に伯父を説得してもらえませんか? 私が守って幸せにしてあげるから結婚しろ、と」
「マジか」

■さぁどっち?
 下流貴族の当主、仮名Mさん(御家の都合で本名を明かせません)の妹さんは、昔とある男性と恋に落ちました。その男性には死に別れた前妻との間の子供がいました。当時まだ五歳。妹さんはその子ともども男性を愛し、二人はめでたく結婚しました。
 しかし何という事でしょう。結婚して五年、家族旅行に行った先でオーガの襲撃を受けてしまい、当時十歳の子供を残して二人は帰らぬ人となってしまったのです。
 男性の両親は既に他界していた為、子供はMさんが引き取る事になりました。
 こうしてMさんは、血の繋がらない姪、Sさん(御家の都合で本名を明かせません)と家族になり、Sさんが成人するまで仲睦まじく生活を共にしてきたのでした。

「で、どうすんの?」
「どうしましょう」
 まさかの時間差でそれぞれ依頼に来た伯父と姪。
 どちらかの依頼をとれば片方の依頼は達成できません。だからといって、デミ・オーガを駆除しに行くと言っている以上、両方の依頼を断る事もできません。
 さぁ、あなたはどちらの依頼を引き受けますか?

解説

●目的と成功条件
1、全員Mさんの依頼を受けた場合
 ・Sさんを庇ってデミ・オーガを倒してください
 ・Sさんが『男性って素敵』と思うようカッコいい所を見せまくって下さい
2、全員Sさんの依頼を受けた場合
 ・Sさんがデミ・オーガの駆除するのをサポートして下さい
 ・Sさんの説得を手伝ってあげてください
3、Mさんの依頼を受ける人とSさんの依頼を受ける人で分かれた場合
 ・Mさんの依頼を受けた人は1の内容を行いつつ、Sさん側の妨害をして下さい
 ・Sさんの依頼を受けた人は2の内容を行いつつ、Mさん側の妨害をして下さい

●伯父様Mさん
・姪っ子ラブ(ただし家族愛)の四十歳
・優しくてそれなりに財力あって頭が良くてへたれで顔がそこそこ良くて背が高い
・女性とは男性が守るもの、と教えられてきたし自分でもそう思ってる
・下流とはいえ順風満帆な貴族なのでモテるが『姪が成人するまでは』と独り身

●姪っ子Sさん
・伯父さんラブ(性的な意味で)の二十歳
・つよい(確信)
・大概の格闘技術はマスター済みで剣が得意
・伯父が例外なだけで、女性が好きなのもガンガン攻めて虐めて(以下略)も本当
・可愛らしい容姿ゆえに絡まれる事が多くて男性不信、自己防衛の為に鍛え始めた

●デミ・オーガ化ウルフ二匹
・近くの牧場を襲うぞと森から出てきた
・そしたらこんな茶番に巻き込まれてこちらも困惑しております、はい
・駆除場所は牧場

ゲームマスターより

デミ・オーガ化ウルフは危険なんです、それは本当なんです、信じてください。
エピソードジャンルは日常ですが、コメディだと思ってください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

高原 晃司(アイン=ストレイフ)

  俺はSに協力をするな!
Sがどれぐらい強いかはわかんねぇが
デミオーガであればトランス無しでもいけるしな
上手く倒せるようにサポートと
M側の神人の妨害をうまく食い止めねぇとな

まずはデミオーガを挑発してこっちに来るようにするぜ
「やーいやーいクソ狼!お前の相手はこっちだぜ!」
成るべくSを庇わせない立ち位置で戦闘をする
常にM側神人や精霊の射程にいるようにしておくぜ

俺は二刀流でデミオーガの足を傷つけれないか試してみる
トドメはきっちりSにさせてあげてぇ

Mの説得に関しては
「男性不信なSが唯一愛してるのはアンタなんだよ。Sの幸せに為にもSの言葉に耳を傾けてやってくれねぇか?」
まずは互いの言い分を言うべきだと思うぜ


羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
  俺も血の繋がりの無い家族がすごく大切だから
心配する気持ちは分かる気がするんだ、例え迷惑だって思われても
だからMさんの依頼を受けてデミ・オーガを倒すよ

此方の依頼は庇って倒すが条件、なら1体は確実に仕留めないと
俺はSさんの側で視界をそれとなく遮ったり
攻撃が通りそうなときに大きな声を出したりして妨害をする
出来たらカメラを持ち込んで、Sさんが戦っている姿を撮る
カッコいい所を見せるのはラセルタさんにお任せするね

もしMさんと話が出来たら撮った写真を見せて、
Sさんの駆除業務に対する適性を正直に告げる
「誰かを守りたい気持ちに性別なんて関係ないと思います。
もう一度お二人で話し合ってみるのはどうでしょう」



セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  Mさんの依頼を受ける。
男は女を護るものだとのポリシーだからさ。
でもこれは男に対して言う事で『女は守られていろ』とは違うんだぜ。
だからSさんの駆除任務適性は公平に判断する。
本当に強いならそれを選んでも良いじゃん。
自分が強いと思っているの無鉄砲ならすぐ死んじまうから止めとけ。
自身の強さを彼女が客観的に把握しているかで判断するぜ。

牧場でトランスする。
狼はデミ化してなくても危険だ。Sさんを護るぜ。
「怪我したら綺麗な肌なのに勿体ない」と。
剣で挑発しデミ狼の気を引く。Sさんに攻撃行かないようにする。
デミ化なら精霊達の攻撃の方が効率良いし。手早く倒してくれよ。
カッコイイ所を見せるのはラセルタさんに任せるぜ!



アイオライト・セプテンバー(白露)
  あたし女の子だけど(力説)性別は関係ないって思うし
Sさんを手伝うね☆

戦闘はパパにがんばってもらおっと
狼が変な方向に行ったりしないか、見張りぐらいはするけど
あたしはSさんの説得のお手伝いと妨害がメイン

「Sさんは強いから、きっとデミ・オーガ駆除がんばれると思うよ
でもウィンクルムだって、一人じゃ駄目なの
だから、伯父さんもSさんを支えてあげてね」
決まったね(Vサイン)←決まってない

妨害もしないと
でも、戦闘で足の引っ張り合いはやだなー
男がかっこわるいとこ見せればいいんでしょ
困ったな、パパかわいいしかっこいいもん
あげないけど
他の人たちがトランスでデレデレしてる姿じゃ駄目かな?
本当に男って駄目だよねー(共感



逢坂 貴雅(ネスレル)
  Mさんの依頼を受けようと思います。
・・・同性好きってのはともかく、異性が嫌いってのはちょっと直してあげたほうがいいんじゃないかなと。
少なくても「同性でも可」になってもらえたらなーと。
女性が駆除業務につくのは実力が伴っていればいいんじゃないかなと思いますよ。

戦闘中ですが、皆さんの邪魔にならないようにサポートに回ります。
近くににウルフがきたら悲鳴あげて腰を抜かします。
出来ればSさんに助けていただきたい。

んで、少なくても気弱、情けない男性ならばいじめ・・・もとい、恋愛対象になる位にはなって欲しいですね。
(できれば俺に恋愛感情いや、なんでありません)
まぁ、怪我しないように行きましょう。



■人の事情は様々です
『御家の都合で、依頼人の本名は明かせません』
 それは事前にA.R.O.A.職員から通達があった。下流とはいえ貴族だから変な風聞が出ても困るのだろう。しかし今回デミ・オーガ駆除同行するウィンクルム達の中に、残念ながらそれがある意味通用しない者がいた。
 それは『羽瀬川 千代』のパートナー、貴族『ラセルタ=ブラドッツ』。
 没落しようが下流だろうが貴族は貴族。お互い今まで一切関わりなかったが、知識としてお互いの顔を知っていた。
 ラセルタは依頼人といい笑顔で数秒見つめあう。
「……察して下さい」
「察しよう」
 依頼人が頭を下げてそう言い、ラセルタは頷きながら答えた。空気を読むって素晴らしい。
 確かあそこは五月蝿い分家がいた筈……等と一人で納得していると、依頼人が改めて挨拶を始めた。
「ウィンクルムの皆様、初めまして。名を名乗る事は出来ませんが、気軽にSとお呼び下さい」
 そう言うと皆も名乗り挨拶を交わしていく。
「よろしくねー! あたしはアイオライト、アイちゃんでいいよ!」
 笑顔で元気よく言ったのは『アイオライト・セプテンバー』だった。
「なんて可愛らしい……! よろしくお願いします、アイ様……?」
 Sは自分の知識をざっと洗い直す。
「あの、この辺りの神人は確か……」
 言いながらパートナーである『白露』を見ると、とてもいい笑顔になった。
「察して下さい」
「察しました」
 爽やかに言った白露に、Sは頷きながら答えた。空気を読むって以下略。
 気を取り直して他の者に目を向ければ、女性にしか見えない『ネスレル』に、女性と言われても違和感の無い『ラキア・ジェイドバイン』。
 Sはもう一度自分の知識をざっと洗い直す。
「あの、精霊は確か全員……」
 言いながらそれぞれのパートナーの『セイリュー・グラシア』と『逢坂 貴雅』を見ると、二人はとてもいい笑顔になった。
「ラキア綺麗だろ!」
「察して下さい」
「はい、とてもお綺麗です。そして察しました」
 爽やかにサムズアップをしたセイリューとやはり爽やかに言った貴雅に、Sは頷きながら答えた。空気を以下略。
 当惑しそうな状況も、しかしSにとっては有難い状況だった。
 むさ苦しい男が集まられるより可愛らしい少女(に見える少年)や美しい女性(に見える青年)の方が心が躍る。
 そういう意味ではSは頬が緩むのを止められなかった。
「……ふふ、私は当たりを引きましたね。ああ、お三方を××して○○してみたい……!」
 可愛らしい笑顔を浮かべたままろくでもない事を小声で呟く。
 うん、この依頼人ちょっとやばいかも。
 小声を聞き取ってしまった精霊達は表に出さずにそう判断する。白露はさりげなくアイオライトを背後に隠し、ネスレルとラキアはそれぞれ貴雅とセイリューの後ろに隠れた。
 そんなSが最後に挨拶を交わしたのは、男性フェロモンプンプンのナイスガイの『高原 晃司』と『アイン=ストレイフ』だった。
 周囲がごくりと固唾を飲んで見守る。突然嫌悪感丸出しにされたらどうしよう。
 しかしそんな周囲の心配を余所に、Sはうっとりと二人を、特にアインを見つめた。
「あれ、男性が嫌いって話じゃ……」
 貴雅が小首を傾げた時、Sがまたもやろくでもない事を小声で呟く。
「なんてしなやかで逞しい素敵な筋肉……あれこそ私が目指す最終形態……!」
 うん、この依頼人どうしようもない。というか貴族の令嬢がそこを目指さないでくれ。
「皆様、本日は私の依頼を受けていただきありがとうございます。駆除行為に関してはどうぞ厳格なご判断をお願い致します」
 上機嫌をそのまま形にしたような笑みで言うSに、何人かが気まずそうな笑顔になったりさりげなく視線を逸らしたりする。別に依頼人に引いてるワケじゃない。多分。
 此処に集まったウィンクルムの内、本当にSの依頼を引き受けたのは実は半分もいない。

 話は数時間前―――。
「あたし女の子だけど!」
 声を大にして力説を始めたのはアイオライトだった。
「こういう仕事に性別は関係ないって思う! あと年の差カップル成立のお手伝いしたい!」
 きゃあきゃあとはしゃぐアイオライトに、白露は達観の笑みで「個人的には、Mさんの方にとても共感するんですけどね……」と呟く。言うこと聞こうとしない扶養者を抱えてる辺りがどうにも自分と被る気がしてしょうがないようだ。
「パパ、なにか言ったー?」
「いいえ」
 上目遣いでじっと見てくるアイオライトからさっと目を反らした。
「Sがどれぐらい強いかはわかんねぇが、デミオーガであればトランス無しでもいけるしな」
 俺達は上手く倒せるようにサポートすればいいだろ、というのは晃司。
「あとはM側の妨害をうまく食い止めねぇとな」
 自分達とは違うグループのウィンクルム達へニッと笑う晃司に、それでも異論は無さそうなアインが苦笑しながら頷く。
「性別の問題じゃないと思う」
 少し強い口調で言うのはラキアだ。
「デミ相手でもウィンクルムじゃない人をオーガ対処任務に同行させるのは危険だよ。だからデミオーガ化ウルフ達は俺達が倒すべき。Sさんが勘違いすると困るから。ネイチャー相手の駆除ならともかくね」
 男女の問題ではない。例えデミであろうとも、対オーガとはウィンクルムかどうかの問題なのだ。
「オレは男は女を護るものだとのポリシーだからなぁ」
 パートナーとは違う理由をセイリューは口にする。そういう自身のポリシーで決めた者もいれば。
「……同性好きってのはともかく、異性が嫌いってのはちょっと直してあげた方がいいんじゃないかな」
 貴雅がポツリと呟く。Sの今後を考えてMの依頼を受けた者もいる。
「少なくても『同性でも可』になってもらえたらなーと」
「私も考え方としては貴ちゃんと同じね。ですが、戦闘はSさんが怪我しないようにするのが第一かと」
 ネスレルが貴雅に続く。
 そこへ、更に別の視点、Mを考えての意見を出したのは千代だ。
「俺も血の繋がりの無い家族がすごく大切だから。MさんがSさんを心配する気持ちは分かる気がするんだ」
 千代の脳裏に生まれ育った孤児院が、孤児院にいる院長達と子供達の笑顔が浮かぶ。大切で、守りたい存在。
「例え迷惑だって思われても。だからMさんの依頼を受けてデミ・オーガを倒すよ」
 二つの依頼を同時に、という異例の事態に、混乱すると困るからと集められた一同だったが、内容が内容だけに、そして依頼を受けた理由が理由だけに、互いに譲り合ったりする事は出来なさそうだ。
 けれど、協力は出来るかもしれない。
 何故なら、全員が口に出さずとも思っている事が一つ。
 ―――正直、SとMがもっとちゃんと話し合えば済む話じゃないのか?
「まぁ、茶番の行方も気になるところだが」
 話し合いがまとまりそうになった時、ラセルタが一つ、やる気を煽る事を言った。
「他のウィンクルムと別々の依頼を同時に行うとは珍しい。折角の機会だ、如何に早く駆除出来るか挑んでやる」
 その挑戦的な発言に、腕に覚えのある者はめらりと対抗心を燃やした。


■デミ・オーガは危険です
 デミ・オーガ化ウルフが出るようになったという牧場は、既に人も生き残った家畜も移動させていて無人だった。
 まだ慣れていない為かキスに抵抗があるのか、貴雅とネスレルはトランスをしなかったが、他のウィンクルムは到着とほぼ同時にトランスをした。
「何処にいるのか……」
 出しちゃいけないものを溢れ出していた先程までとは違う、真剣な表情で緊張するSに、セイリューは心配していた無鉄砲さは無さそうだと覚える。
「誘い出しましょう」
 言って、アインが銃口を空に向けて一発。
 ドンッ! と空気を振るわせる音が響いた時、厩舎から音がした。
「あっちだ!」
 ウィンクルム達が駆け出す。
 厩舎の入り口に辿り着いた時、中から黒い塊が飛び出してきた。
「危ない!」
 剣で対応しようとしていたSを、セイリューが抱え込むように倒して塊から回避させる。
 出てきた塊は、二匹の飢えたデミ・オーガ化ウルフ。
 ウィンクルムが攻撃するよりも早く、デミ・オーガは二匹とも別の厩舎へと走り出した。逃げていく方向を確認しながら、とりあえずウィンクルム達はSの様子を伺う。
「大丈夫か? 狼はデミ化してなくても危険なんだぜ。真正面からぶつかるなんて危なすぎる」
 セイリューが起こしながら確認をすれば、Sは一度大きく深呼吸をし、自分の非を認めて気を引き締める。
「ありがとうございます、浅はかでした」
「分かればいいって! 怪我したら綺麗な肌なのに勿体ないもんな」
「ありがとうございます。ですがセイリュー様のお肌もお美しいですし何よりラキア様の方が任せて下さいラキア様の白磁の肌はこの私がお守りします!」
 途中から頬を紅潮させ笑顔でラキアの手を握り締めるSを、セイリューは「えっと違うそうじゃない!」と叫びながらべりっと引き剥がす。やっぱ駄目だこの依頼人。
「あ、勿論アイ様やネスレル様の玉のお肌も」
「さぁデミ・オーガを追おうかぁ!」
 誰ともなしに叫んでSの発言を遮った。

「いました!」
 皆のサポートを、と周囲をよく探していた貴雅が叫んである一方を指差す。
 並立する厩舎の隙間、そこに警戒している体勢の前足が見えた。
 多くがそちらへと走りだした瞬間、貴雅目掛けて横から黒い塊が飛び出てきた。
 けれど、それをSが自分がしてもらったように押し倒して回避させる。
「大丈夫ですか?!」
「は、はい……!」
 現れたデミ・オーガから目を離さずに貴雅を引き起こすSを見て、ネスレルがふんっと強く鼻から息を出す。
「ほら貴ちゃん、いい加減トランスするわよ」
「え、あ、ちょ……!」
 ネスレルは起き上がったばかりの貴雅の頭をがしっと掴んで固定すると、むりやり自分の頬へと引き寄せてキスをさせた。なんか頬というより唇の端を掠っていた様な気がするのは気のせいだろう。急いでいたから手が滑ったのだ、きっと、多分。
「ち、『力を・・・解放するっ!!』」
 真っ赤な顔で動揺しながら貴雅がインスパイアスペルを叫べば、二人の体が他のウィンクルム達と同じようにオーラに包まれる。
 力を増したネスレルがデミ・オーガに小刀を鋭く投げれば、デミ・オーガは身を翻して逃げ出した。目標を失った小刀は地面に突き刺さる。
 ネスレルは走り出し、地面に刺さった小刀を引き抜きながらそのままデミ・オーガを追いかける。
 残されたのは起こしてもらったのにへなへなと座り込む貴雅と、やり取りをずっと見ていたSとアイオライトと千代。三人の視線が何となく生温いのは気のせい、では無いのだろう。
 見た目だけで言えば、女性に庇われ、女性(のような男性)にキスを奪われ、女性(のような男性)が敵を追いかけ、自分はその場に座り込んだのだ。
「本当に男って駄目だよねー」
 アイオライトの言葉に何も反論出来なかった。
 だが、Sは別の思いも胸に刻み込んでいた。

 デミ・オーガ達は厩舎の間を器用に逃げていた。けれど遠距離攻撃に長けたプレストガンナーが三人もいるウィンクルム達が追いかけているのだ。
 威嚇射撃等により、逃げているようでいて次第に一箇所へと追い詰めていた。
 そうして厩舎と厩舎の間、広い事には広いが、行き止まりのようになっているところへ追い詰めた時、Sとアイオライトと貴雅も追いついた。
(先手必勝だ、あちら側から邪魔される前にさっさと仕留める)
 ラセルタは素早く弓矢を構えてデミ・オーガの腹部に狙いを定める。
 ―――俺様の華麗なる弓捌きを見るが良い!
 ドン!
 構えたラセルタの足元に銃撃が来た。咄嗟に後ろへ飛びのく。
「何をする!」
 撃ってきた白露をギッと睨めば、申し訳無さそうな顔の白露。
「失礼しました、デミ・オーガを威嚇したかったんです」
 しかし発言内容と声色に申し訳なさは欠片もない。棒読みやめろ。
「やーいやーいクソ狼! お前の相手はこっちだぜ!」
 その間に晃司がデミ・オーガの気を引こうと挑発を始める。
「あ、コラ!」
 ラセルタが止めても当然ながら止める気配は無い。
「Sさん! 今がチャンスだよ!」
「はい!」
 アイオライトに言われて剣を構えたSを見て、千代が慌てて叫ぶ
「Sさんあぶなーい!!」
 え、と一瞬動きが止まる。その隙にネスレが駆け出す
「あ、ずるい!」
 思わずアイオライトが叫ぶ。ずるいって何だ。
「早い者勝ちよね、と……!」
 ネスレルが小刀を構える。デミ・オーガもまたネスレルを迎えようと後ろ足を蹴った時。
 ぶつかり合う筈だった地点にやはりドン! と銃撃。ネスレルとデミ・オーガ、両方とも急ブレーキをかけ後ろへ飛びのく。
「ちょっとぉ!!」
 撃ってきたアインをギッと睨めば、平然とした顔のアイン。
「失礼、手が滑りました」
 何も失礼と思っていない声色。だから棒読みやめろ。
「ホラ来い! こっちだデミ・オーガ!!」
 潰し合いを始めた精霊達に痺れを切らしたセイリューが、晃司を押しのけて剣を振りデミ・オーガの気を引こうとする。
「ちげーよこっちだ! 来い来い!」
 しかし晃司だって負けてはいない。すぐに押しのけ返す。
「こっちだ!」
「こっちだよ!」
「いいから来いって! おいでおいでデミ・オーガ!!」
「よーしよしよし! いい子だからこっちだこっちー!!」
 二人おしくらまんじゅう状態でデミ・オーガを呼ぶ。
 かつてこれほどデミ・オーガが求められた事があっただろう。いや、ない。
 挑発を通り越した熱烈な誘いにデミ・オーガ二匹思わず困惑。やだやめて、私達の為に争わないで!
 複数の混沌とする標的にデミ・オーガが逡巡し動きが鈍った。それを見逃すウィンクルム達ではなく。
 デミ・オーガの前足を狙うアイン。そのアインの足元ギリギリへ、先程の仕返しとばかりにネスレルが小刀を投げる。アインの集中が途切れ手が止まる。その隙に、スナイピングを発動させていたラセルタがギシリと強く弓を引く。
「まずは一匹!」
 空気を裂いて矢が放たれる。デミ・オーガが「ギャン!」と一鳴きする。矢はデミ・オーガの腹を射抜いていた。
 怒りと痛みで泡を噴きながらラセルタへと駆け出すデミ・オーガ。
 それを見越していたラキアがシャイニングアローⅡを発動させて立ち塞がり受ける。
 カウンターが発動され、デミ・オーガが断末魔と共に命を落とす、その横を。
 白露とSが駆け抜けた。もう一匹のデミ・オーガを仕留める為に。
「Sさん補佐します、構えて!」
「はい!」
 その二人の動きに合わせてセイリューから離れて晃司も走り出す。
「頑張ってー!」
 アイオライトの声援をその背に受け、まずは白露が威嚇と動きを狭める為にデミ・オーガの横へ一発。
 咄嗟に避けたデミ・オーガの足元へ、晃司が両手に持ったボーンナイフと短剣を振るう。肉を裂いた感覚はないが、皮膚は間違いなく切り裂いた。
 その痛みにデミ・オーガがバランスを崩し晃司へと怒りを向けた瞬間。
 辿り着いたSが勢いよく剣を振り下ろした。

「すごいすごーい! パパかっこいい! Sさんつよーい!」
 喜ぶアイオライトに、Sは剣についた血を拭きながら苦笑する。
「いえ、結局一匹はラセルタ様に仕留めていただきましたし、もう一匹も止めを刺したのが私というだけで、白露様と晃司様の補佐がなければどうなっていたか……まだまだです」
「いや、充分だと思うけど……」
 一部始終をバッチリ見ていた貴雅がぼそりと呟くと、他のウィンクルム達も頷く。
 躊躇いなく振り下ろされた一撃、それでもってSはデミ・オーガ化ウルフの首を落としていた。
「ところで一つ確認させていただきたい事があるのですが」
 Sが可愛らしく微笑みながら戦闘に参加していたウィンクルム達を振り返る。
「私の勘違いでしょうか、何だかお互いに邪魔をし合っていたような気がするのですが……」
 どういうことでしょう? と笑顔でSは訊く。剣をぶんぶんと振って。
 ウィンクルム達は急いで全ての事情を説明した。


■愛は大概の事を救うかもしれません
 ウィンクルム総勢十名を味方につけた(一部強制的につけさせた)Sは、A.R.O.A.支部で待ち構えていた渋面の伯父、Mと対面する。ちなみに、Mもまたラセルタと「察して頂きたい」「察しよう」と会話を交わした。空気以下略。
「結論から言いますと! Sさんはデミ・オーガとか危険生物の駆除業務に就いても何も問題ない実力を持ってます!」
 アイオライトが力強く言い切った。
 そこへ千代が「証拠です」とMに写真を差し出した。千代は邪魔にならないよう、こっそりと戦闘の様子を撮っていたのだ。
 そこには、貴雅をかばったり、白露と駆け出したり、デミ・オーガの首を落とすSがいた。
 Mの渋面が更に深く歪む。
「あの、女性が駆除業務につくのは実力が伴っていればいいんじゃないかなと思いますよ」
 貴雅が口を開けば、セイリューがそれに続く。
「オレのポリシーは男は女を護るもの、だけど、これは男に対して言う事で『女は守られていろ』とは違うんだぜ。Sさんは駆除任務適性があると思う。強いならそれを選んでも良いじゃん」
 Mが「しかし……!」と呻く。その様子に嘆息して今度はアインが口を開く。
「Mさん、考え方まで変える必要はありません。ですがこの現代、第一線で働いてる女性も沢山います。もちろんウィンクルムにも。男が女がって言う時代ではもう無いと思うんですよ。それこそ今の時代、互いを支えあっていかなければいけないと私は思いますよ」
「それにですね」
 次に口を開いたのはラキアだ。
「結婚を望まれるとしても、Sさんの好みを考慮して結婚話進めた方が彼女の幸せになるのでは? 彼女が結婚したい相手の話をちゃんと真剣に聞きましたか?」
 別方向も非難を受けたMは目を泳がせる。あ、そういやSにヘタレって言われてたっけ、とウィンクルム達が思い出す。
 そしてラセルタの爆弾が落とされる。
「貴方には自分で姪を守り続けるという気持ちは無いのか。言っておくが俺様の様に優しく強く背も高くああもう面倒だから以下略、そんな男はそうそういないぞ。それに姪御は貴方の事を懸想していると聞いた、俺様からも再度話を」
「ふえ?!」
 四十の立場ある男らしからぬ声が漏れた。
 全員の目が丸くなる。問題の当人、Sの目も。
 何だその反応は。何だその顔の赤さは。
 オイ待て。まさか。
「……あの、誰かを守りたい気持ちに性別なんて関係ないと思います。もう一度お二人で話し合ってみるのはどうでしょう」
「はな、話し合う……?」
 千代の後押しをMが反芻する。顔を真っ赤にさせて。
「男性不信なSが唯一愛してるのはアンタなんだよ。Sの幸せに為にもSの言葉に耳を傾けてやってくれねぇか? まずは互いの言い分を言うべきだと思うぜ」
「唯一、愛し……唯一?!」
 晃司の後押しをMが反芻する。声を震わせて。
「Sさんは強いから、きっとデミ・オーガ駆除がんばれると思うよ。でもウィンクルムだって、一人じゃ駄目なの。だから、伯父さんもSさんを支えてあげて、ね!」
「僕が、支え、て……!」
 アイオライトの後押しをMが反芻する。視線をSにぴたりと定めて。
 そこへSが動き出す。
 あの時見た、ネスレルと同じ動きを。
 Sは素早く近づき伯父の頭をがしっと掴む。そして目を開いて「へ」と間抜けな声を漏らした伯父のその唇を、強引に奪った。
 まさかの展開に固まる多数のウィンクルム。アイオライトとネスレルだけがキャーと喜んだ。
「伯父様、私が貴方を守りますから、私を支えて下さい。一緒に幸せになりましょう!」
「………………はい」
 多くのウィンクルムと同じように固まっていたMは、長い沈黙の後それだけ言うと、がくんと崩れ落ちて気絶した。
「やったー! おめでとー! 決まったね!」
 はしゃぎVサインをするアイオライト、惜しみない拍手を贈るネスレル、硬直が溶けてつられる様に拍手をし始めるウィンクルム達、
「皆様、ご協力本当にありがとうございます! ……伯父様、今度似合いの首輪を買ってさしあげますからね!」
 可憐に微笑むSの最後の発言さえ聞かなかった事にすれば、この場にあるのはきっと、文句無しのハッピーエンド。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 青ネコ
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル 日常
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 多い
リリース日 07月05日
出発日 07月13日 00:00
予定納品日 07月23日

参加者

会議室

  • [13]逢坂 貴雅

    2014/07/12-23:42 

    そうですね・・・いい感じに・・・ふたりの中間点でも見つけてもらえてばいいんですが、まぁ、後は天のみぞ知るってやつですね・・・

    というわけで俺もプラン出してきました。

    うん、俺は格好良くないからそういうのは皆さんにお任せしちゃいますね。

  • 逢坂さん、初めまして。ヨロシク。
    頑張ってイイ感じに話を纏められると良いな。
    プランは提出してあるので、
    あれやこれや、色々と上手くいく事を祈っているぜ。

    >羽瀬川さん
    カッコイイ所を見せるのはラセルタさんに任せた!

  • 逢坂さんも初めまして、よろしくー♪
    そんなわけで、プラン提出しました。
    えーと、あとはもう天の神様に祈りっぱなしです。

  • [10]逢坂 貴雅

    2014/07/12-10:34 

    結構ギリギリ?ですが参加させてもらいます。
    セイリューさんとアイオライトさんははじめまして。
    皆さんよろしくお願いいたしますね。

    Mさん派ですが・・・行動は多分Sさんよりになると思います。
    何を言ってるんだとは思いますが・・・そうなりそうですので。
    ・・・・・・ヘタレでゴメンナサイです。

  • [9]高原 晃司

    2014/07/12-04:09 

    俺は貴族とかは全然わかんねぇけどなー
    俺としては好きでもねぇ奴と結婚するよりかは好きな奴と添い遂げてもらいたいっていうのはある
    それにSは男性不信って言うのもあるだろうから
    他の男に対して心を開くかって言うのも問題な気はするぜ
    正直俺たちに関しての感情もあんまよくねぇんじゃねぇかなとか思ってる

    まぁ、俺はSの幸せを願ってはいるが
    Mの方も頑固そうではあるしなお互いに難しそうではあるかな

  • [8]羽瀬川 千代

    2014/07/12-02:29 

    高原さんとセイリューさんも、宜しくお願いしますね(ぺこり

    確かにSさんの適性は気になるけれど…。
    俺は基本的に依頼の目的に沿って動こうと思います。
    Sさんに先を越されちゃうと達成出来ないから、多少の妨害も入れるつもり…です。
    かっこいい所を見せるのはラセルタさんに丸投げしておこうかなって。

    それと今日の夜(締切前後)は掲示板に顔を出せないかも知れません。
    なるべく覗いて、変更点などあれば早めに組み込むようにしますね。

  • ∑アイオライトさんトコの年の差ってそんなに凄かったんだ。
    仲の良い親子にしか見えてなかったから意識した事無かった。

    しかし貴族なんだし、そろそろMさんも嫁さん貰わないと
    社会的に色々と肩身の狭い事になるんじゃないかとも思うし。
    (貴族社会ってそう言う部分あるじゃん)

  • セイリューさんも高原さんもよろしくーー♪

    20歳差は全然問題ないと思います!(ぐっ ←精霊と20歳以上離れてる神人
    でも、セイリューさんの意見も尤もだなあ。

    えーとこれで、
    あたしと高原さんがSさんを応援、
    羽瀬川さんとセイリューさんがMさんを応援
    ってことでいいんだっけ。

    あたしは、仮プラン提出したよー。
    わりと王道だけど、もうちょっと練ってみるつもり。

  • セイリュー・グラシアだ。今回もヨロシク。

    可愛い女の子を危険な目に遭わせるのは個人的ポリシー反するんだよな。
    それに、男は女を護るものだとオレも思うし。
    (ただしこれはどちらかといえば男に対して主張するぜ)
    だからMさんの依頼を受けようと思うけど
    それとは関係なく「危険な駆除業務するのにSさんは適正があるか」を
    公平に判断したいとも思うんだ。
    実力あるのに性差を理由に頭ごなしに駄目って言うのも何か違うと思うからさ。
    なんというか、MさんとSさんは
    もう少しお互いちゃんと話し合った方がいいんじゃね?
    そしてSさんは年の差20歳って部分はスルー?

  • [4]高原 晃司

    2014/07/10-02:05 

    うっす!晃司だ。よろしく頼む!
    俺もSに協力しようかなと思ってるぜー

  • やったやった成立ー☆
    今更だけど、アイオライト・セプテンバーだよ。どうもどうも。
    Sさんの説得も難しそうだよね。うーん。

  • [2]羽瀬川 千代

    2014/07/09-23:49 

    羽瀬川です、宜しくお願い致します。
    俺は今のところMさんの依頼を受けたいなと思っています。
    ただ…格好良い所を見せるっていうハードルが物凄く高いなあって…!

  • さて、入っちゃいました
    Sさん推しだけど、どうしようかなあ。


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