ビー玉の向こう側(木口アキノ マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 そろそろ冬の足音も聞こえてきそうな今日この頃。
 あなたはパートナーと休日を満喫していた。
 お買い物をして映画を見て、お昼を食べたら腹ごなしにハト公園を散歩する。
 この後どうしようか。ゲームセンターにでも行く?そんな会話をしながら。
 ハト公園にはトウモロコシ屋台があるが、まれに、それ以外の屋台や露店も出現することがある。
 今日も、見慣れない屋台がひとつ。
「ラムネはいかがですか〜」
 ラムネって。あの、夏によく見かけるラムネ?
 思わず屋台の前で足を止めてしまう。
 屋台には、キラキラ輝く瓶が並んでいた。うん、ラムネだ。
「今頃ラムネ?」
 なんて、つい口をついて出てしまった。
 屋台のお兄さんが、バツの悪そうな顔で後頭部を掻く。
「いやぁー、実は売れ残っちゃってねぇ」
 お兄さんの苦笑につられ、あなたと精霊もくすくす笑う。
「しようがないなぁ、じゃあ1本。残り物には福があるって言うしな」
 精霊が気さくに笑いながら、硬貨を取り出す。
「お、毎度!ありがとうございます」
 お兄さんは硬貨と引き換えにラムネの瓶を1本差し出した。
「ほら」
 精霊は受け取ったラムネをプシュっと開栓すると、あなたに手渡してくれた。
 瓶の中でビー玉がコロリと転がる。
(綺麗……)
 陽の光を浴びてキラキラ輝くビー玉にあなたは双眸を細める。
「ところで、コレどうしてこんなに売れ残ったんだ?」
 何の気なしに精霊は訊いた。お兄さんは歯切れ悪く答える。
「いやー、それがね……。特別なラムネにしたくってビー玉に凝ってみようってんで、そのビー玉を海外から仕入れたんだけど、魔法のかかったビー玉だったらしくて」
 たしかに、ビー玉は虹が浮かんだかのような不思議な色合いをしている。
 あなたはよくよくビー玉を見てみた。
 ビー玉越しに、精霊が見える……。あれ?精霊の周りにうっすら人影が見えるような?
「そのビー玉越しにだれかを覗くと、その人を想っている人が見えるって魔法でね」
「!!」
 見ちゃった。見てしまった。
 精霊のそばにぴたりとくっついている自分の姿を。実物の自分ではないとはいえ、精霊に寄り添う姿に赤面してしまう。
 そして、それだけではない。
「この子、誰なのよ〜!」
 自分の他にも、精霊の腕に絡みついている女の子の姿が。
 屋台のお兄さんは肩をすくめる。
「これで、ウチのラムネを買ったカップルの間に喧嘩が絶えなくってねぇ。そんなわけで、売れ残ってしまったのさ」
 恋のライバル出現の予感に、あなたはラムネを飲むどころではなくなった。

解説

ビー玉越しに相手を見ると、その人を「想う」人の姿が見えてしまう、そんなお話です。
精霊に片想いしている見知らぬ少女の姿が見えるかもしれない、もしかしたら前カノの姿なども……?
はたまた、思いもよらぬ人があなたに恋焦がれていたりして……?
「想い」は恋愛感情に限りません。
精霊やあなたのことが心配でたまらないお父さんお母さんの姿が見えるかも。
時には恨みや怒り、そんな負の感情を持つ人の姿が見えるかもしれません。
見えた後、どのような会話をし、どのような行動をとるのでしょうか。
ラムネ代の他、デート諸費用で合計500ジェールかかります。

なお、ビー玉の魔法の効果はなぜか開栓後1時間ほどで消えてしまうそうです。

ゲームマスターより

お久しぶりです!
すっかり寒くなりました。風邪などひいていませんでしょうか。
夏を懐かしみながら季節外れのラムネを飲むのも良いものです。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  魔法のビー玉?とっても不思議…
呟きながら興味津々、彼の方に翳してみる
誰も映らないという言葉に唇を尖らせ
シリウスが知らなくても、貴方をすっごく好きな女の子がいるかもしれないじゃない
(大人っぽい素敵な女性が見えたらどうしよう)
そう思うと少し胸が苦しく
だけど見えてきた映像に目を丸く
ふふ 沢山のひとが見えるわ
モテモテね?シリウス
嘘じゃないわ わたしと、お母さんと、シンティ(妹)とリセ(弟)
ぽかんとした彼の顔が楽しくて笑顔
だってうちの家族は皆、シリウスのことが大好きだもの
今度はいつ来てくれるのって、すごく楽しみにしているんだから
ひとに手を伸ばすことをためらう彼の手を ぎゅっと握る
ね、わたしたち家族みたいね?


かのん(天藍)
  怖々と
でも興味が勝って覗いてみる
寄り添うように立つ自分の姿

背後に見えるのは、彼の両親、祖父母、弟達…
天藍から進学のためにこちらに来てから、あまり帰っていないと聞いていたので心配しているのではと思う
でも温かい眼差しに、心配とも違うような気も

かのんの一番傍に俺がいるという言葉が嬉しい
自分には見えないのが少し残念

朽葉もいるという天藍の声につい振り返る
私にとっておじ様は恩人で大切な人ですけど
私はおじ様にとって同じようになれてるでしょうか

そうだと良いです
返事をしながらも、なんとなく天藍の声の質に首を傾げる
天藍、おじ様苦手ですか?
苦手というか、俺はからかわれる対象だからなとの返事にそうでしょうかと首かしげ


アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
  その人を想ってる人が見えるんだ…
面白そうだね

覗く
予想はしてたけど思ってた以上に沢山纏わりついてて異様な迫力にビビる
自分は精霊の袖を握り期待と不安な眼差しで精霊を見てる
こんな中で張り合ってたの私…?!
呆然

聞かれ
…私…と、女の人がいっぱい…いる

これだから接客は苦手だとぼやく精霊の初めて見た接客対応にドキリ、でも大変そうなので労わりの心が湧く
今度お菓子の差し入れとかしようかな…


穏和そうな茶髪…お母さんかな?
白髪交じりの黒い癖っ毛…お父さんか~

別に普通の家族だけど…でも、ありがとう(嬉
あ、他にも兄弟が二人いるんだよ。兄と弟

他には?

内緒?何で?
聞いても何故か言い淀む
最近隠し事が多い気がする
いつからだっけ


ひろの(ケネス・リード)
  声の方を見て、何か言おうとして止める。
何を言おうとしたか、自分でよくわからなかった。
ケーネの言葉を頭の中で繰り返した。『愛されてる』『家族』『あいつ』あいつって、たぶんルシェのこと。
「そっか」ルシェは、そんな気がしたけど。
それで見えるぐらいには、家族に想われてるんだ。

「ひゃっ!?」(びっくりして一歩身を引く
「な、何……、え?」(頬に片手を当てて、混乱

あたしにしとく、って何が?(よく飲み込めない
言いたいことはなんとなくわかる。「恋人、いるんでしょ」
「……そういうの、どうかと思う」内容はともかく、気を使ってくれてるのは。なんか嬉しい。

(ばっさりと言われ絶句
面倒。(どこか納得
そっか。(少し吹っ切れた


星宮・あきの(レオ・ユリシーズ)
  想う人が見えるビー玉か……
ふふ、レオ君綺麗だし、優しいし
実は誰かに想われてたりするんじゃない?

……え!
本当? 劇団って……私がいた劇団の?

……私、
私の所為で、皆は命の危険に曝されて
だから、私は、ああ、私は、ずっともう、

愛しちゃいけない、愛したくないって、思ってた、のに

(ぼろぼろと涙が零れる)
いいのかなあ、まだ皆の事大事に想っててもいいのかなあ?
私の所為で、また辛い目に遭ったりしないかな……?

あれ、涙、涸れたと思ってたんだけど
おかしいなあ、止まらないや……(困ったように笑いながら)

……っ、うえええええええ……
(そのままレオに縋り付いて子供のように泣き)



「このビー玉に、そんな魔法がかかっているんですか……」
 屋台の店員から話を聞いたかのんは、躊躇いがちにラムネの瓶を掲げる。ビー玉はキラリと光を反射する。
「見てみるか?」
 興味深げな顔の天藍に促され、かのんは少し迷う。
 もしも、見たくないものが写っていたら?なんて悪い想像をしてしまって。
 でも、そんな恐れよりも興味の方が僅かに勝る。
 かのんは静かにラムネの瓶を目線まで持ち上げた。
 ビー玉越しに見えるのは、見慣れた精霊の姿。
 目を凝らして彼の左右に視線を走らせると。
「天藍の隣に、私が見えます」
 ほっとしたようなかのんの声に、天藍は予想通りと微笑みを零す。
 天藍の右側に、彼に微笑みを向けながら寄り添うように立つ自らの姿をかのんは見ていた。
 しかし、その後ろにもまだ人影が見えて。どきりとしながらかのんは食い入るようにビー玉を見つめた。
 途端、緊張していたかのんの表情が一気に緩む。
「これは……天藍のご両親、それに、お祖父様お祖母様もいらっしゃいますね。あら、弟さんたちも」
 かのんの言葉に、天藍は目を見開く。
「家族総出かよ」
「心配していらっしゃるのかしら」
 かのんがそう思ったのは、以前天藍から、彼は進学のためにタブロスに来て以来、あまり帰っていないと聞いていたからだ。
「でも、皆さんとても暖かい眼差しで天藍を見つめています。心配、とはまた違うような気も」
 かのんの説明に、天藍は、なるほど、と思った。
「心配というよりかのんと2人で元気にしてるかなって感じじゃないか」
「きっと、そうですね」
 かのんは双眸を細め頷いた。
「天藍も、見てみますか」
「そうだな」
 天藍はかのんに差し出されたラムネの瓶を受け取った。
 好奇心の赴くままに天藍はビー玉を覗き込む。
 天藍は、ぐっと喉の奥で呻いた。
「天藍?」
 天藍はビー玉から目を逸らすと、
「かのんの一番傍に俺がいる」
 と答え、なぜだか決まり悪そうに首の後ろをかく。
 一番傍に、というのが嬉しくて、かのんは唇を綻ばせた。自分では見られないのが残念である。
 だが、天藍は逆に、かのんには見られなくて良かった、と思っていた。
 ビー玉の向こう側の天藍は、かのんを背後から抱き締めるようにしていて。
 自身でも薄っすらと自覚がある独占欲とか執着といった類いの内面を見せつけられたようで直視できなかった。
 しかし、嬉しそうに笑うかのんにつられ、天藍の唇にも笑みが浮かぶ。
 気持ちが和らいだところで、なんとなく、天藍はもう一度ビー玉を覗いてみた。
 ビー玉の向こうの天藍は相変わらずかのんを独占していたけれど。そこから少し離れた場所に、もう1人。
 かのんと天藍を微笑ましく見守る老爺の姿。
 それは、かのんのもう1人の精霊。
「朽葉もいる」
 天藍の口から溢れた言葉に、かのんは思わず後ろを振り返る。その姿が見えるわけもないのに。
 けれどかのんには、そこに彼の姿が有るような気がした。
「私にとっておじ様は恩人で大切な人ですけど、私はおじ様にとって同じようになれてるでしょうか」
 かのんは遠くを見つめて呟いた。
 天藍はこれまでの朽葉の言動を思い返す。彼には散々、かのんとの仲に茶々を入れられたように思う。だが、それらは全て、かのんを思うが故だったと天藍は理解していた。
「保護者の感覚なんじゃないか」
 どういうことでしょう?と問いたげにかのんは天藍に視線を戻す。
「朽葉にとってもかのんは大切な人ってことだ」
「そうだと良いです」
 かのんは朽葉を思い浮かべて笑んだ。
 それからかのんは小首を傾げつつ天藍の顔を見上げる。
「天藍、おじ様苦手ですか?」
 朽葉について語る時の天藍の口調が少しぶっきらぼうだったこともあって、かのんは尋ねてみた。
 どうやら図星だったようで。
「苦手というか、俺はからかわれる対象だからな」
 歯切れ悪く答える天藍に、かのんは「そうでしょうか」とさらに深く首を傾げる。
 2人の間を吹き抜ける風に乗って、ふぉふぉふぉ、という笑い声が聞こえる気がした。


「想う人が見えるビー玉か……」
 公園内を散策しながら、星宮・あきのはビー玉入りの瓶をカラカラ鳴らし、並んで歩くレオ・ユリシーズにちらりと視線を送る。
「ふふ、レオ君綺麗だし、優しいし。実は誰かに想われてたりするんじゃない?」
 アクアマリンの瞳を細めたあきのに、レオは困ったように眉を下げる。
「笑い事じゃないよー……」
(って言うかあきのさん、解ってて言ってるでしょう)
 レオはくすくす笑うあきのを恨めしそうに見遣る。
「たとえどんな想いの形でも、私には、貴女しかいないのに」
 ぽつり漏らされた言葉は、あきのの耳に届いているのかいないのか。
 レオはひとつ歎息し、もしもビー玉越しにあきのを見たら誰が見えるんだろう、と考えた。
 自分以外の人があきのを想っていないとは限らない。
 そう思うと居ても立っても居られず、レオはあきのからラムネ瓶を借りる。
 2人は、自然と足を止めて。
 レオはビー玉を覗き見る。
 恋敵とかそれに準ずるものとかがいないかどうか確かめなくては。
 むむ、と唇をひき結んでビー玉を覗いていたレオだが、「……あれ?」と、力の抜けた顔になる。
 あきのも小首を傾げる。
「あきのさん、劇団の皆が見えるよ」
 上擦った声で告げるレオに、「……え!」と、あきのも目を見開いた。
「本当?劇団って……私がいた劇団の?」
 思わずレオとの距離を詰め、食いつくように質問する。
「うん」
 レオはビー玉を覗いたまま、そこに見えたものをあきのに報告する。
「皆怪我が治らないまま病院にいるけど。団長の病室に集まって、あきのさんと写った写真を見てる」
 あきのは早鐘を打つ胸を押さえ、レオの言葉を聞いていた。
「……皆、優しい顔をしてるよ。あきのさんは、本当に大事に想われてたんだね」
 ビー玉の向こうの皆の笑顔につられ、レオも穏やかな笑みを湛える。
 あきのはゆるゆると頭を振った。金のポニーテールが揺れる。
「……私、私の所為で、皆は命の危険に曝されて……」
 優しかった仲間たち。楽しかった日々。
 自分が神人であるため、オーガに狙われていることはわかっていた。他人を巻き込まないようにしなくては、とは思っていたものの、劇団の皆の厚意に甘えてしまった。
 そしてそのせいで。
 彼らはあきのと共にオーガに襲われたのだ。
 あの日のことを思い出すと、今も身を引き裂かれるように苦しくなる。
「だから、私は、ああ、私は、ずっともう」
 嗚咽混じりに訴える。
「愛しちゃいけない、愛したくないって、思ってた、のに」
 大切な人が、傷つくくらいなら。誰とも関わらずに生きていく方が良い。
 胸を突く寂しさは、大切な人たちを危険に曝した自分への罰だから。
 ずっとそう、言い聞かせていたけれど。
 ひっくとしゃくり上げると同時に、瞳に溜まった涙がぽろりと落ちて。そこからはもう、とめどなくぼろぼろと涙が零れて。
「いいのかなあ、まだ皆の事大事に想っててもいいのかなあ?私の所為で、また辛い目に遭ったりしないかな……?」
「……大丈夫だよ」
 レオは幼子に語りかけるように優しく言った。
「皆の顔見てたら、あきのさんの事、怨むどころか願ってる。幸せになれるようにって。だからさ」
 レオは掲げていたラムネの瓶を下ろして、少し屈んであきのの顔を覗き込んで微笑んだ。
 あきのも微笑みを返そうとするも、ぼろぼろ零れる涙でうまく笑えない。
「あれ、涙、涸れたと思ってたんだけど……おかしいなあ、止まらないや……」
 手の甲で次から次へと溢れる涙を振り払いながら、あきのは困ったように笑う。
「泣いてもいいんだよ。それから、また始めたっていいんだよ」
 言い聞かせるように言われ、あきのは堰を切ったように声を上げて泣いた。
「……っ、うえええええええ……」
 レオの胸に縋り付いて、子供のように。
 レオはそんなあきのをしっかりと抱きしめた。
(……それで、いつかは私の事も想ってくれたら、嬉しい)
 そう思いながら。


 海外から取り寄せたこだわりのビー玉は、普通のラムネ瓶に使用されているものよりも若干大きくて、光の反射具合によって虹色に色を変える。それだけでも十分綺麗だったが、さらに魔法がかかってると聞けば、尚魅力的であった。
「魔法のビー玉?とっても不思議……」
 リチェルカーレはビー玉の輝きに見惚れながら、瓶をシリウスに向けて翳してみる。
 楽しそうな笑顔のリチェルカーレに、シリウスは歎息し告げる。
「……俺の交友関係は知っているだろう。面白いものは映らない」
 するとリチェルカーレは愛らしい唇を尖らせる。
「シリウスが知らなくても、貴方をすっごく好きな女の子がいるかもしれないじゃない」
 ツンと顎をそらして言い返す。
 シリウスは、即座に真顔で「ない」と言い切るが。
 リチェルカーレは自分の言葉でハッと気付く。
 そうだ。自分以外にも彼のことを好きな子がどこかにいるのかもしれないのだ。
(大人っぽい素敵な女性が見えたらどうしよう)
 想像するだけで胸が苦しくなって、リチェルカーレは瓶を持っていない方の手できゅっと胸元を押さえた。
 恐る恐るとビー玉を覗き込むリチェルカーレの姿に、シリウスはもう一度ため息をつく。
(誰からも好かれるのは、お前のような人間だろう)
 自分が人に好かれるタイプではないことくらい、シリウスは自覚している。
(知らない誰かが横にいるかもしれないのは、お前の方だ)
 こんな事、本人に言えやしないけれど。
 シリウスがそんなことを考えていると。
 ビー玉越しにシリウスを見つめているリチェルカーレの瞳が、初めて雪を見た子供のように大きく丸くなっていった。
 シリウスが怪訝な顔をすると、リチェルカーレの瞳が今度は三日月のような形になる。
「……何だ?」
 問うと、リチェルカーレは悪戯っ子のような上目遣いで答えた。
「ふふ、沢山のひとが見えるわ。モテモテね?シリウス」
 シリウスは眉根の皺を深めた。
 そんなシリウスに、リチェルカーレは歌うように告げる。
「嘘じゃないわ。わたしと、お母さんと、シンティとリセ」
 予想していなかった答えに、シリウスは呆気に取られた。
 シンティとリセは、リチェルカーレの妹と弟だ。シリウスも以前会ったことがある。
 ぽかんとしているシリウスの顔が楽しくて、リチェルカーレはころころと笑い出した。
「だってうちの家族は皆、シリウスのことが大好きだもの」
 リチェルカーレは瓶を掲げていた手を下ろし、両手を体の後ろで組むと、踊るような足取りでシリウスのすぐ側へと駆け寄る。
 まだ目をぱちくりさせているシリウスに、
「今度はいつ来てくれるのって、すごく楽しみにしているんだから」
 と、妹の口真似を交えながら言う。
 シリウスは戸惑いがちに視線を逸らす。
 誰かから、真っ直ぐに好意を向けられることに、そしてそれを素直に受け取ることに、彼はまだ慣れていないのだ。
 リチェルカーレは、少しだけ困ったような笑顔になる。
 そして、後ろで組んでいた手を離すと、ぎゅっとシリウスの手を握る。
 ひとに手を伸ばすことをためらう彼の手を。
 シリウスの瞳がはっとして揺れて、リチェルカーレを見つめた。
 シリウスと視線が合うと、リチェルカーレの唇が弧を描く。
 リチェルカーレの柔らかな笑顔に、彼女によく似た弟妹の笑顔が重なる。
 リチェルカーレの手の温もりは、無邪気にしがみついてくる小さな手を思い出させた。
 リチェルカーレはゆっくりと言葉を紡ぐ。
「ね、わたしたち家族みたいね?」
 その言葉は、シリウスの心にじわりとゆっくり、深く、染み込んだ。
 家族。
 縁が無いと思っていたその単語が、今や現実味を持って、シリウスの心を温かくする。シリウスは知らずのうちに目の淵が赤くなる。
 リチェルカーレはそれを優しく微笑み見つめていた。
 シリウスはただ黙って繋がれた手に力を込めた。


 ビー玉にかかった魔法の話を聞いて、即座に「面白そう!」と反応したのはケネス・リードの方だった。
 ふんふんと鼻歌交じりに開栓し、
「さて、何が見えるかしら」
 まあ、見えるものは大体予想がついていたのだが。
 ビー玉を覗き込んだケネスは満足げに大きく頷いた。
「ひろのってば愛されてるのねえ」
 ひろのは、声は出さなかったが「え?」の形に口を開いて、不思議そうに首を傾げる。
 ケネスはひろのににんまり笑ってみせた。
「『あいつ』がちゃあんと、見えるわ。後はひろのの家族かな?」
 ひろのの兄妹らしき人物が1、2、3、4……。
(4人兄妹?多いことで)
 言われてひろのは、きょろきょろと左右後ろを見回した。もちろん誰も見えない。
 ケネスに視線を戻すと再び首を傾げる。
 そして、先程言われた言葉をゆっくり頭の中で反芻する。
『愛されてる』『家族』『あいつ』
(あいつって、たぶんルシェのこと、だ)
「そっか」
 ひろののもう1人の精霊が見えたことに関しては、まあそんな気はしてたけれども。
 家族は予想していなかった。
(それで見えるぐらいには、家族に想われてるんだ)
 ひろのはしばらく会っていない家族の顔をぼんやり思い出す。
 この辺りに見えているのだろうか?と自分の後方に視線を送る。
 またもや他所を見て物想いに耽ってしまったひろのに、何を考えているかさっぱりわからない、とケネスは肩をすくめる。
 ケネスは冷たいラムネを一口喉に流し込むと、にっと口角を上げ、よく冷えたその瓶をぼんやりしているひろのの頰に押し当てた。
「ひゃっ!?」
 ひろのは頓狂な声を上げて一歩身を引く。
「な、何……、え?」
 頰に片手を当て、あたふたと視線は彷徨い、かなり混乱している様子にケネスはくすくす笑う。
 思った通りの楽しい反応に、ケネスはご機嫌だ。
「ね、あいつじゃなくあたしにしとく?」
 楽しそうにそんなことを言われて、ひろのはぴたりと動きを止めた。
「あたしにしとく、って何が?」
 言われた意味がよく飲み込めなくて。ゆっくりと首が傾いてくる。
「一番想ってくれる人と、必ず一緒じゃなくてもいいってこと」
 ビー玉に見えた相手だろうとね。と、ケネスはウインクして見せる。
 ケネスの言いたいことは何となくわかった。
 だがそれは、言葉の意味としてわかる、というだけのことであって。その内容に共感できるか否か、という点において『わからない』。
「恋人、いるんでしょ」
 小さな声で問えば、ケネスはけろりとした顔で。
「いるわよ?でも、あたしそういうの気にしないし」
「……そういうの、どうかと思う」
 ひろのはケネスから視線を逸らした。
 ケネスは「真面目だねえ」とけらけら笑った。
 ひろのはケネスのノリについていくのは難しかった。
 が、もしかしたら。ケネスは気を使ってこんなことを言ってくれているのかもしれない。
 誰に想われているとか、そういったことを気にせずに。もっと心を軽くして良いのだと教えてくれているのではないか。
 とかく考え込みがちなひろのの心を柔軟にしてくれているのではないか。
 そう思うと、なんだか嬉しいような気もする。
 などと考えていると、ケネスから不意に直球が飛んできた。
「ひろのって、面倒で頑固よね」
 見事にバッサリ言われ、ひろのは返す言葉もなく絶句する。
(面倒)
 しかし、言われた言葉にどこか納得もしてしまう。確かに、面倒な一面もあるように思う。
 最近、ケネスのように良くも悪くもフットワークの軽い精霊と共に過ごすようになって、そんな自分の一面が見えてきたような気がする。
 ケネスは絶句しているひろのをフォローするでもなく、言葉を続ける。
「自分が納得しないと認めたくないって感じ」
 ケネスの言葉に他意はない。感じたことをそのまま言っただけであろう。
 しかし、だからこそひろのの胸に素直にすとんと落ちてきた。
「そっか」
 吹っ切れたように呟き、1人うんうんと頷いているひろのを、ケネスは不思議そうに見つめた。


(その人を想ってる人が見えるんだ……)
 アラノアは、ラムネの瓶を軽く揺すってみる。
「面白そうだね」
 笑顔を作ってガルヴァン・ヴァールンガルドを見上げると、彼も
「そうだな」
 と、頷いた。神人を想う人物、それは一体どんな者なのだろう、と。
 アラノアは、それじゃあ早速、とラムネの瓶を掲げビー玉を覗き見る。
(うわぁ……)
 予想はしてた。覚悟もしてた。
 だが、これほどとは。流石にアラノアも怖気付く。
 ガルヴァンの周囲には余すところなく女性が纏わり付いて異様な迫力を醸し出している。
 肝心のアラノアはと言えば、数多くの女性に埋もれて、なんとかガルヴァンの隣を死守していた。ガルヴァンの衣服の袖をきゅっと握り、期待と不安の眼差しでじっとガルヴァンを見つめている。
(こんな中で張り合ってたの私……?!)
 突き付けられた現実に呆然としてしまう。
「……何が見えた?」
「……私……と、女の人がいっぱい……いる」
 ガルヴァンは納得したように「ああ……」と呟いた。心当たりがあるようだ。
「加工の仕事が無い時はカウンター側に立つんだが……何故か食事に誘ってくる客が何人かいてな……」
 ため息混じりに説明してくれる。が。
 やっぱり、女の人からのお誘いが多いんだ……と、アラノアは暗い面持ちでガルヴァンを見遣る。
「私には既にパートナーがおりますので行けませんお断り致します……と逐一断ってはいるんだが……」
 ガルヴァンが手の甲に刻まれた文様を見えるように掲げ、誘いを断る場面を再現して見せてくれた。きっぱりと言い切る姿が凛々しくて、アラノアの心臓はどきりと跳ねる。
「まだ諦めていないのか……これだから接客は苦手だ」
 深い息と共にガルヴァンはぼやく。
 アラノアの心臓はどきどきと早鐘を打ち続けていたが、ガルヴァンが心底困っている様子だったので、
(今度お菓子の差し入れとかしようかな……)
 なんて、労りの心も湧いてくる。
「ガルヴァンさんも、どうぞ」
 アラノアは瓶をガルヴァンに手渡す。
「ふむ……」
 ガルヴァンの琥珀の瞳がビー玉を覗き込んだ。
「……穏和そうな茶髪の女性が心配そうにお前の周りを行ったり来たりしてるな……」
 片目を眇め、ガルヴァンが言う。
「穏和そうな茶髪……お母さんかな?」
 アラノアの脳裏に、実家の母の笑顔が浮かんだ。ガルヴァンが続けて口を開く。
「後は白髪交じりの黒い癖毛の男が笑いながら見守っている」
「白髪交じりの黒い癖っ毛……お父さんか~」
 両親の姿を思い出し、懐かしさに頰が緩んだ。
 そのアラノアの表情から、家族の仲を推し量ることができた。ガルヴァンも僅かに目元を綻ばせた。
「……良いご両親だな」
「別に普通の家族だけど……でも、ありがとう」
 両親を褒められ、アラノアは嬉しくて照れ笑いを返す。
「あ、他にも兄弟が二人いるんだよ。兄と弟」
「兄弟もいたのか……そうか」
 兄弟と共にいる時のアラノアは、どんな顔をしているのだろう。ガルヴァンがまだ知らないアラノアの顔があるのかもしれない。
「他には?」
 無邪気な笑顔で訪ねるアラノアに、ガルヴァンは声を詰まらせた。
「他……は、内緒だ」
「内緒?何で?」
 アラノアは怪訝そうに首を傾げる。
 ガルヴァンはアラノアから顔を背け、尚も「どうして?」と問う彼女に、歯切れ悪く「特に理由はないが……」などと返すのみ。
 明らかにアラノアは不審がっている。だが、言えるわけなどなかった。
 独占するように神人を抱きしめ周囲を威嚇するように睨み付ける自分がいる、などと……。
 ビー玉の向こう側のガルヴァンは、ビー玉のこちら側……現実のガルヴァンにさえも敵意を剥き出しにして睨みつけていた。
(俺の神人への執着がここまでとはな……)
 ガルヴァンは軽く頭を振った。
 そんなガルヴァンの様子に、アラノアの胸の内に不安が芽生える。
(最近隠し事が多い気がする)
 アラノアの顔からすうっと表情が消えた。
(いつからだっけ)
 アラノアは、ガルヴァンとの心の距離を感じていた。



依頼結果:成功
MVP
名前:アラノア
呼び名:アラノア
  名前:ガルヴァン・ヴァールンガルド
呼び名:ガルヴァンさん

 

名前:ひろの
呼び名:ひろの
  名前:ケネス・リード
呼び名:ケーネ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 木口アキノ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月27日
出発日 11月02日 00:00
予定納品日 11月12日

参加者

会議室


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