晴れた日にはお弁当を持って(木口アキノ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 天気の良い日が続き、日に日に気温も上昇していく。
 行楽シーズン真っ盛り。
 晴れた休日には、どこかレジャーへ出かけたくなってしまう。
 お弁当を持って、精霊と一緒にお出掛けというのも、悪くないかもしれない。
 そう思い立ったあなたは、A.R.O.A.職員や先輩ウィンクルムたちに、どこか良い場所はないかと訊ねてみた。
 すると、いくつかのレジャースポットを教えてもらうことができた。
 さて、この中から、どこに行こうか。

①グリーンヒル公園
 タブロス市の新市街にある小さな公園で、公園全体を覆っているサボテンによりちょっとした迷路になっている。
 東屋やベンチなどがあるので、迷路を楽しみながらその途中でお弁当も楽しめそうだ。
 名物サボテンジュースも販売されているが、味は人を選ぶらしい……。

②エルビス水上公園
 東方の植物を植えた4つの島と、冒険家エルビス卿の記念館がある島の計5つが人工の湖の中に浮かんでいる公園。
 穏やかな水面を眺めつつ人工島でお弁当タイムにしたら、ゆっくり会話もできそうだ。
 手漕ぎボートを借りることができ、無料の水上バスも出ている。

③鏡の森芸術公園
 広い敷地に、美術館を点在させ、散歩しながらそれらを見学して回れるという趣向の公園。
 屋外展示物も多くある。
 ここのコレクションは現代アートが多く、巨大なモニュメント風のものが目立つ。現在は、期間限定で花をテーマにしたアートも多く展示されている。
 館内での飲食は出来ないが、屋外でならモニュメントを見ながらお弁当を食べられそうだ。

④ウルビスゲームワールド
 タブロス市新市街北部にある大型ゲームセンター。
 ボーリング、ビリヤード、ダーツなどの遊戯施設や、画面に表示されたオーガと戦うゲームをはじめとした、大型筐体が置かれたゲームコーナーもある。
 また、ゲームコーナーには、ボタンを押して、アームを動かし、ぬいぐるみを取る、バードキャッチャー(いわゆるクレーンゲーム)や、撮った写真がシールになるフォトプリなども。
 インドアな彼でもここなら一緒に来てくれるかも?
 お弁当は休憩コーナーでどうぞ。

解説

お出掛けして神人手作りのお弁当を食べよう、という趣旨のエピソードです。
交通費、食材費その他諸々で一律【500ジェール】いただきます。
行き先を4つほど提示いたしましたので、お好きな場所で、お好きなようにお過ごしください。
特に思い付かない!という方は、行き先とお弁当の内容だけプランに記載していただければ、後はアドリブで作成いたします。アドリブにお任せでやってみたいわ!というチャレンジャーな方もお待ちしております。
また、お弁当の出来は、神人の料理スキルによって左右されることがありますので、ご了承ください。

ゲームマスターより

こんにちは!
ゴールデンウィークはいかがお過ごしでしたでしょうか。
連休が終わっても、レジャーの季節はまだまだこれから!
さあ、お弁当を持ってお出掛けしましょう!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

鞘奈(ミラドアルド)

 
お弁当は、おにぎり(シャケ、こんぶ、梅)とアスパラベーコンと…
たまごやき(ダシ巻き)、彩りにトマト、バレン挟むのを忘れずに…と
あとは紅茶とコーヒーをポットにいれて
コーヒーは私用
ミラはダージリンが好きなのね(妹メモみつつ
デザートは次までの宿題ね

……見た目は、普通ね…
でも、味はいい、はず(キリッ
今回は、妹が手伝ってくれなかったから、一人で頑張ったわよ(えっへん
あと前よりはちょっと練習したから(ぶすっとして

ピクニック部分お任せします

サボテンジュース飲まない?
どっちが口に合うか勝負よ(悪戯っぽく笑って
……(まずい
ミラは?お、美味しい?そ、そう…
やっぱりミラの味覚って時々暴走するわね
…お、お願い…


和泉 羽海(セララ)
  ①グリーンヒル公園
お弁当:おにぎり、玉子焼き、タコさんウィンナーなど定番メニュー
ただし形がいびつだったり、ダークマターだったり(料理は壊滅的)

これでも…マシな出来のものを…詰めてきたんだけど…
自分で…作っといて何だけど…これは、人間の食べ物じゃない…と思う…
…これで…わかったでしょ…あたしに手料理は…期待しない方が…あ。
き、救急車…?!いや、その前に…吐き出して…!

アレを食べるとか…正気…?
そういう問題では……はぁ…
『次はもっと簡単なのにする』
き…気が向いたら…だから…!

サボテンジュースは苦手
不思議な味…飲めなくはないけど…うーん…
…なにか言った…?

アドリブ大歓迎


マーベリィ・ハートベル(ユリシアン・クロスタッド)
  お供をさせて頂く事に
私の手作りでございますか? は はい頑張ります
腕前普通

鑑賞中
チラチラ視線感じる
ランチが楽しみなんだわ
子供みたいで彼にほっこり

ランチ
お口に合えば良いのですが
久し振りにお料理できて楽しかったです
私も頂く
あ ソースがお口に
顔を寄せてきたどうやら 手が塞がっているから拭ってくれ という事らしい
はい ただいま くすっ

母の味には及びませんが
はい とても褒めて下さっていたので
察っするものがあり優しく笑む

彼が私の手にそっと触れ笑む
ま、またお作りしますね(頬染慌て
彼が素敵な笑顔になった

※お弁当
バケットサンド 小鉢にフルーツとチョップドサラダ
別容器 豆とソーセージのブラウンシチュー
ポット アイスジャスミン茶


イザベラ(ディノ)
  【場所】②エルビス水上公園
【弁当】サンドイッチ・唐揚げ・カットフルーツ・スープジャーに野菜の冷製スープ・お茶。量だけは多めに。

【行動】アドリブでお任せします。

【背景・心情】
訓練での数少ない飯盒炊爨以外、料理の経験は無し。興味も無し。
精霊に強請られ、家の料理人に教わりながら弁当を手作り。
何故そうも手作り弁当や2人での外出に拘るのか。何が楽しいのか、嬉しいのか。正直全く理解出来ないが、相手が満喫しているのならばそれで良いと思う。愛を深める為、相手の望みを只管叶えてやる事に意味があると思っている。
ただ、相手の喜ぶ姿を見ていると何か思う所がある…様な気もする。それが何かは自分には分からないが。



キャティル・ウイレフッド(リュエルジーク・タルト)
  3に行きましょうか

ジークさん、こういうの好きそうね
詳しくは…ないの?(キョトン)
好きと詳しいは別なのね(頷き

あ、これ…お弁当、一応作ってみたの
(広げると仕切りがなくごっちゃり混ざったおかず?サンドイッチ?カオス)
(両手を顔で覆い)うう、やっぱり私、料理苦手
ジークさんに作ってもらえばよかt……え!
ちょ、ちょっと無理に食べなくてもいいのよ?
あ、ありがとう

…え。
ジークさんも作ってきた?
…わぁおいしそう。食べてもいい?
(もぐもぐ)おいしい
やっぱりジークさんはいいお婿さんになるね!(サムズアップ
へ、ほっぺたにクリームがついてる?ど、どこどこ
(ぺろりとされて、顔真っ赤)~~~!!

私は…もっと精進シマス…



 早起きした鞘奈はキッチンで黒髪を束ね、妹の書いてくれたメモに目を通す。
「まずは、おにぎり……ごはんに塩を混ぜて……」
 おにぎりの具は3種。シャケ、こんぶ、そして梅。
 アスパラベーコンと、だし巻き卵をお弁当箱の端から並べて。彩りにプチトマト。
「バレン挟むのを忘れずに……と。あとは紅茶とコーヒーをポットにいれて……」
 コーヒーは自分用、紅茶はミラドアルドのためのもの。
 鞘奈はメモに視線を落とし、ふっと表情を和らげた。
「ミラはダージリンが好きなのね」
 そろそろ時間が差し迫ってきている。
「デザートは次までの宿題ね」
 鞘奈は出来上がったお弁当を改めて検分する。
「……見た目は、普通ね……でも、味はいい、はず」
 鞘奈はキリッと言い放ち、お弁当の蓋を閉めた。

 今回はサヤナが一人でお弁当作ってきてくれるっていうし楽しみだな、なんてうきうきした気分で待ち合わせ場所に到着したミラドアルドは、時間が経つにつれ、少しずつ心配になってくる。
(……手ぶらでよかったのだろうか?)
 万が一のことを考えて、軽く摘めるものでもあれば良かったかも。
(今から用意……は遅すぎたか)
 こちらへやってくる鞘奈の姿を見つけ、彼は覚悟を決めた。

「待たせたかしら」
 鞘奈が言うと、ミラドアルドはそんなことないと頭を振る。
 彼の視線が手に持ったバスケットに注がれていることに気づき、鞘奈はバスケットを掲げて胸を張る。
「今回は、妹が手伝ってくれなかったから、一人で頑張ったわよ」
 それから、ちょっとぶすっとした顔になり、
「あと前よりはちょっと練習したから」
 ぼそりとそう呟くと、ミラドアルドがくすっと笑った。

 公園に一歩足を踏み入れれば、そこは既にサボテン迷路の中。
「30分位内のゴールを目指すわよ!」
 鞘奈はにっと笑ってミラドアルドを見遣る。
「少し目標が高すぎないかな」
「その方がやりがいがあるの。さあ、行くわよ」

 2人で相談しながら迷路を進むが、鞘奈は金時計に目を落とすと落胆の声。
「うそ、もう30分経ってる」
「仕方ないよ。なかなか手強い迷路だからね」
 鞘奈の背を、ミラドアルドは優しく叩いた。
「丁度東屋もあるし、ここでお昼にしようか」
 彼が指差す先に、花をつけたサボテンに囲まれた東屋。
「……そうね」
 休憩して気分転換もいいだろう。
 素直に東屋のベンチに腰を下ろすと、ランチボックスを取り出し、その蓋を開く。
「美味しそう」
 目を輝かせたミラドアルドは、おにぎりを一口頬張り笑みを深めた。
 見た目はシンプルで、味もシンプル。彼女らしいシンプルな料理に人柄を感じられた。
 彼の笑みにほっとした鞘奈は自分も箸を進める。
 ミラドアルドが最後の卵焼きを食べ終えるタイミングで、鞘奈は食後の飲み物を用意した。
 自分にはコーヒー。
 ミラドアルドには、ダージリンの紅茶。
「僕の好きな紅茶だ……嬉しいよ」
 こうして喜んで貰えるのは、悪い気はしない。
 鞘奈も微笑みを返し、コーヒーに口を付けた。

 2人が迷路を抜け出せたのは、ランチのさらに30分後。
 出口にドリンクの屋台を見つける。
「サボテンジュース飲まない?」
「サボテンジュース?もちろんいいとも」
 屋台でサボテンジュースを買うと、鞘奈は悪戯っぽく笑った。
「どっちが口に合うか勝負よ」
 ミラドアルドは苦笑する。
「どっちがまずいかって……」
 そして、同時に紙コップに口を付ける。
 ごくり。
「……」
 鞘奈は渋い顔でミラドアルドの顔色を伺う。
「ん、美味しい」
 彼はけろりとしている。
「サヤナ、これ美味しいよ」
「お、美味しい?そ、そう……」
 鞘奈は視線を紙コップに落とす。
「やっぱりミラの味覚って時々暴走するわね」
「暴走って、そんなに変な味覚はしてないんだけどな……サヤナ、もしあれなら僕が飲むよ?」
 言ってしまってからハッと気付く。それって、間接キッス!?
 ミラドアルドの心も知らず、鞘奈は
「……お、お願い……」
 と、紙コップを渡す。
 ここに、先ほど、鞘奈の唇が。
(いやいや、無関心無関心)
 ミラドアルドは呟いた。
「……この勝負はイーブンかな……」


 精霊との良好な関係を築こうと、キャティル・ウイレフッドはリュエルジーク・タルトを鏡の森芸術公園に誘ってみた。
 普段無口な彼だが、キャティルの誘い目を輝かせ、
「いいですねぇ行きましょう」
 とはしゃぐ。

 これが、ウィンクルムとなってから彼との初めての外出だから、キャティルは少し緊張気味。
「どこから見て回りましょうか」
 公園内の屋外アートの間を歩きながら、リュエルジークはいつになく饒舌に、ここが楽しそう、あちらも魅力的だと語る。
 そんな彼の様子にキャティルはふふっと笑う。
「ジークさん、こういうの好きそうね」
 リュエルジークは満面の笑みを返す。
「博物館、大好きです。色々なものが見れますから。ただ、僕はここの品物全くわかりませんけれど」
 けろりと言われた言葉に、キャティルはきょとんと頭を傾げる。
「詳しくは……ないの?」
「好きと詳しいは別ですよ」
 リュエルジークは朗らかに笑う。
「好きと詳しいは別なのね」
 なるほど、とキャティルは頷いた。

 古典美術の品々が並べられた施設では、美術品の背景にある歴史に思いを馳せ。
 抽象的なモニュメント群のへんてこな形に、これは何を現してしるのかと議論してみたり。
 だんだんと、初めての外出の緊張が解けていく。
「そろそろお腹空きませんか」
 と声をかけられ、キャティルは勇気を振り絞ってバスケットをずいと差し出す。
「その持っているものは、もしかしてもしかしなくても……」
「あ、これ……お弁当、一応作ってみたの」
「お弁当、ですか?」
 こくりと頷くキャティルに、リュエルジークはふふふ、と笑う。
「楽しみにしてきました」

 オブジェのようなベンチに腰を下ろし、キャティルは、えいや、とお弁当の蓋を開ける。
 そこに広がっているのは現代アートもかくやとばかりのカオスの世界であった。
 おかずとおかずの間に仕切りがなく、ポテトサラダにミニトマトにエビフライ、タルタルソースが混沌の渦を作り出している。そこかしこに助けを求めるように姿を見せているのは、多分サンドイッチ。
 キャティルは瞬時に顔を両手で覆う。
「うう、やっぱり私、料理苦手」
 しかしリュエルジークはカオスなお弁当を眉一つ動かさなかった。
「ジークさんに作ってもらえばよかt……」
「いただきます」
「……え!」
 キャティルが顔を上げると、彼は混沌から救い出したサンドイッチにぱくりと噛り付いていた。
「ちょ、ちょっと無理に食べなくてもいいのよ?」
「うん、うん、おいしいですよ」
「うそ……」
「嘘じゃないです」
 ニッコリと笑顔を向けられる。
「あ、ありがとう」
 リュエルジークはサンドイッチを食べ終えると、
「奇遇です、僕も作ってきたんですよお弁当」
 と、鞄からお弁当を取り出した。
「……え。ジークさんも作ってきた?」
 お弁当の蓋が開かれると、キャティルは目を輝かせる。
「……わぁおいしそう。食べてもいい?」
 と、ウインナーの玉子巻きをひとついただく。
「おいしい」
 彩りだけではなく、味も良い。
「やっぱりジークさんはいいお婿さんになるね!」
 ウインクしてサムズアップ。
「ふふふ、お婿さんですか、頑張りましょう」
 これも、あれもおいしいと食べるキャティルをリュエルジークはにこやかに見つめる。
 デザートのカスタードミニパイを食べ終え、キャティルは満たされたため息をこぼす。
「あ、ほっぺたにクリームがついてます」
「へ?ど、どこどこ?」
「ここ、ほら、じっとしてください」
 と、リュエルジークが接近。
 あまりの近さに、キャティルは固まる。
 するり。
 指で掬い取ったクリームを、リュエルジークはぺろりと舐めた。
「~~~!!」
 クリームを介して頰にキスされたみたいで、キャティルは顔が熱くなる。
「取れました」
 ニコリとするリュエルジークはキャティルの心のざわめきに気付いているのかいないのか。
 キャティルは顔を伏せ、
「私は……もっと精進シマス……」
 と言うのがやっとだった。


「羽海ちゃんの手料理が食べたいんです!!!」
 A.R.O.A.本部のロビーでセララに土下座でそう言われ、和泉 羽海はわたわたと焦る。
 用件があり本部を訪れた2人だったが、他のウィンクルムのお弁当デートの話を小耳に挟んだのだ。
「ねぇ羽海ちゃん、オレたちもデートでお弁当……」
 全て言い終わる前に『イヤ』と書かれたメモ帳が差し出される。
 しかし、そこでめげるセララではない。
 そうして、冒頭の土下座に至ったというわけだ。
『わ、わかったから』
 居た堪れなくなった羽海がしゃがみ込みセララにそう伝えると、セララはやったーと両腕を上げた。

 セララが誘ったのはグリーンヒル公園。
 迷路なら人目も気にならないだろうし。その中でランチなんて二人の仲が縮まる事間違いなしだよね!という思惑である。
 迷路の中央部が周囲より小高くなっていることに気付いたセララは、
「あそこでお弁当にしよう!」
 と羽海を誘う。
 迷いながらたどり着いた中央部は円形に開けた場所になっていた。
「うわぁ、迷路が一望できる!」
 セララは歓喜の声をあげ、羽海も、眼下に見えるサボテン迷路の景色に唇を綻ばせる。
「さて、早速お弁当」
 セララが弾む声で羽海の手を引き東屋へ。
「あれ?羽海ちゃんどうしたの」
 なんだか、羽海の顔が強張っているような。
『これでも……マシな出来のものを……詰めてきたんだけど……』
 患者に重病を告げる医師のような面持ちで、羽海はテーブルにお弁当箱を置く。
『自分で……作っといて何だけど……これは、人間の食べ物じゃない……と思う……』
 蓋を開けられたお弁当を見て、セララは笑顔のまま固まった。
 おにぎり、玉子焼き、タコさんウィンナーなど定番メニューが並ぶ。
 形がいびつでタコさんなのか宇宙人なのかわからなかったり、玉子焼きなのか炒り卵なのかわからなかったりするのは良いとして。
(あれー、これ何だろうなー、ダークマターかなー)
 赤黒くトゲドゲした物体や黄土色でドロっとした物体やらを見て、セララはそんなことを考えた。
『……これで……わかったでしょ……あたしに手料理は……期待しない方が……』
 羽海ちゃんが悲しんでいる!
(だ、大丈夫!料理下手な子とか今までいっぱいいたし!)
 自分に言い聞かせ、箸を手にする。
「大事なのは愛だから!」
 それで死ねるなら本望だ!!
 セララは事もあろうに赤黒いダークマターに手を出した。
『……あ』
 がぶり。
 ダークマターに迷いなく齧り付く。
「………っ!?」
 セララはガクンとテーブルに突っ伏した。
 箸を握りしめた拳がぷるぷると震えている。
『き、救急車……?!いや、その前に……吐き出して……!』
 羽海は慌てふためき周囲をきょろきょろ、次にセララの背中をユサユサと揺さぶる。
「ごめんね、羽海ちゃん……」
 セララは儚げな笑みで弱々しく顔を上げた。
『アレを食べるとか……正気……?』
 羽海はセララの顔を覗き込む。
「オレの胃がもっと丈夫だったら、こんな事には……でもこれからはもっと胃を強くするように鍛えるから!」
 セララは額に汗を浮かべながらも良い笑顔を作る。
 そういう問題じゃない……と、羽海はため息。
『次はもっと簡単なのにする』
 途端、セララの顔に生気が戻る。
「えっ!?また作ってくれるの!!?」
 キラキラした瞳に、しまった、とは思っても嫌とは伝えられない羽海だった。
 なんとか食べられそうなものだけ選んでランチを終え、サボテン迷路を脱出。
 折角だから、とサボテンジュースを買うも、一口飲んで羽海は顔をしかめる。
『不思議な味……飲めなくはないけど……うーん……』
「意外といける」
 と言うセララを、羽海は信じられないといった目で見る。
「ていうか、普通に美味しいよ?ちょっと癖はあるけど。さっきのアレに比べたら……」
『……なにか言った……?』
「げふんげふん」
 アレとは勿論、お弁当のことだ。
 つるっと本音を零してしまって羽海に睨まれ、セララは慌てて咳払いで誤魔化した。


 タブロス郊外でジョギングに励む2つの影。
「いい天気が続きますね」
 規則正しい呼吸の合間に、影のひとつ、ディノが言った。
「そうだな。屋外での訓練にも精が出るというものだ」
 もう1つの影、イザベラはまっすぐ前を見たまま答える。
「こう、天気がいいとお弁当を持って出掛けたくなりますね」
 本人としては、さり気なく誘っているつもりであるが結構な直球だ。
 だが、相手は神人屈指の脳筋イザベラ。
「新しく出来た総菜屋の弁当は人気らしい」
「いえ、そうではなくて……お弁当、イザベラさんに作って貰えたら嬉しいです」
 イザベラはディノに顔を向ける。
「では、粉末プロテインを買って来なくては……」
「い、いやいやいや!普通の、ごく普通のお弁当でお願いしますっ!」
 お弁当から、どこをどう繋げればプロテイン購入になるのか。
「なかなか無茶を言うようになったな……で、いつ届けてやればいい?」
 常人にはプロテイン弁当のほうが無茶です。
「じゃなくてですね……一緒に!お弁当を持って!お出掛けしましょう!っていう話です」
 イザベラがディノの希望を理解するまでに、数分の時間を要した。

 総菜屋の弁当ではなぜダメなのか。
 なぜそうも手作り弁当や2人での外出にこだわるのか。
 何が楽しいのか、嬉しいのか。
 全く理解はできなかったが、精霊が望むことなのだから神人として実行する義務がある、とイザベラは考えている。
 どうやら弁当はイザベラ本人が作るからこそ価値があるらしいが、弁当を作ろうにもイザベラには訓練での数少ない飯盒炊爨以外、料理の経験は無かった。興味も無いから致し方ない。
 家の料理人に教わりながら作ることができたのは、サンドイッチと唐揚げ、冷製スープのみだった。
 種類は少ないが、満腹になれるよう、とにかく大量に。さらに、スイカやパイナップル、メロンを豪快に切り、容器に入れる。
 最後にお茶を用意すれば、完成だ。

 心地よい風が水面を波立たせ、きらきらと陽光を乱反射させる。
 ここはエルビス水上公園。
(イザベラさんのお弁当!)
 ディノはちらちらとイザベラの持つバスケットに視線を送っては、口元がにやけてしまうのを抑えられない。
 希望は言ってみるものである。
 ひとつ願いが叶ったら、もうひとつ、と欲が出てしまうのは仕方のないこと。
 視界に人工の湖に浮かぶ手漕ぎボートが入るとディノは、イザベラと2人、ボートで微笑み合う姿を想像してしまう。
 ボートに、誘ってみようかな……なんて思っていた矢先。
「手漕ぎボートか。良いものがあるな。乗ってみないか」
 とイザベラの方から言ってくれた。
「乗りましょう!」
 一も二もなく賛成である。
 貸出場に足を向けつつイザベラは語る。
「胸筋、上腕二頭筋、腹筋、腸腰筋その他諸々。ボートを漕ぐ動きは筋力トレーニングには最適だからな」
 おや、ディノが望んでいたものと少し違うような……。
 それでも、湖に漕ぎ出されたボートに乗る2人は、はたから見れば立派にカップルである。
 見た目だけはディノの希望通りだ。
 中身は……
「ほらディノ、筋肉の動きに呼吸も合わせて!」
「は、はいっ!」
「いいか、今どの筋肉を使っているのか。それを意識しなければトレーニングにはならない!」
「はいっっ」
 ……こんな感じであった……。

 しっかり運動して、きっちりお腹を空かせて迎えたランチタイム。
 人工島のほとりで広げられたお弁当に、ディノは瞳を輝かせる。
 大きくてずっしりとした唐揚げはかぶりつけばジューシーで。
 サンドイッチはシンプルながらもハムは肉厚。
 冷製スープですっきりと。
 大きめにカットされたフルーツを口いっぱいに頬張れば、「ああ、食べてる!」という実感に胸が満たされる。
 幸せそうにお弁当を平らげるディノを見るイザベラの顔には、いつしか笑みが浮かぶ。
 精霊の望みを叶えてやることの意義は、ウィンクルムとして絆を深める、ただそれだけ。
 それでも、ふいに。
 不思議な感覚がイザベラの胸に湧き上がる。
 これは、いったい何なのだろう。
 もしかしたら……
(胸筋の鍛錬が足りないのかもしれない)
 イザベラは、帰ったらまたトレーニングだ、と思うのだった。


 ユリシアン・クロスタッドはマーベリィ・ハートベルをデートに誘ったつもりであった。
 だがマーベリィは、主人に外出のお供を仰せつかったのだと思っていた。
 そんな認識の違いは最早日常茶飯事で、ユリシアンは気にも留めていない。
 今回は鏡の森芸術公園へ美術鑑賞に行く予定である。
 どうやら天気に恵まれそうなので、ユリシアンはマーベリィに手作り弁当を請うてみた。
「私の手作りでございますか?」
 マーベリィは眼鏡の奥の目をぱちくりさせる。
「料理長には言っておいたから存分に腕を振るってくれ」
 ユリシアンが優美に笑えば、マーベリィは背筋をぴんと伸ばして
「は、はい頑張ります」
 と答えた。

 ユリシアンは予め公園内の展示物について予習を済ませてから当日を迎え、マーベリィが興味を持ちそうな美術品がある場所へ、彼女をエスコートして歩く。
「どの作品も素敵です……」
 美術品の美しさにほうっと息をつき、マーベリィは砕いた宝石で描かれた花の絵に見入ると、次に、その作品の解説ボードをじっくりと読む。
 いつもならマーベリィの横顔だけを見ていただろうユリシアンだが、今日の大いなる関心は、彼女が提げているバスケットの中身である。
 マーベリィはユリシアンの視線がチラチラとバスケットに注がれていることを感じ取っていた。
 視界の端でユリシアンの姿を確認すれば、彼の顔には嬉しそうな笑みが。
(ランチが楽しみなんだわ)
 ユリシアンが子供みたいに思えて、胸がほんのり、温かくなった。

 ひと通り美術鑑賞を終えると、花時計のそばの芝生でお弁当を広げることにした。
 シートの上にちょこんと座ったマーベリィが
「お口に合えば良いのですが」
 と、ランチボックスをおずおずと差し出す。
「いいね、美味しそうだ」
 途端にユリシアンはキラキラと目を輝かせ満面の笑み。
「ぼくの我儘で済まなかったね」
 マーベリィは控え目に首を振る。
「久し振りにお料理できて楽しかったです」
「さっそくいただくよ」
 ユリシアンはバゲットサンドに手を伸ばす。
 卵にハム、レタス、トマトで丁寧に作られたサンドは、幸せの味がした。
「私も」
 と、マーベリィもバゲットサンドを手に取る。
 小鉢のフルーツとチョップドサラダを少し食べると、今度はエビフライとタルタルソースのサンドを頬張るユリシアン。
 美味しそうに食べる彼に、マーベリィは目を細める。
「あ。ソースがお口に」
 マーベリィが指摘すると、ユリシアンはサンドを咀嚼しながら彼女に顔を寄せてきた。
 どうやら、手が塞がっているから拭ってくれ、という事らしい。
 マーベリィはくすっと笑い、
「はい、ただいま」
 と、紙ナプキンで優しくソースを拭き取った。
 そしてマーベリィは別容器を取り出す。
「母の味には及びませんが」
 蓋を開けると、容器の中に入っていたのは豆とソーセージのブラウンシチュー。
 ユリシアンは見覚えのあるシチューに目を見張る。
「きみの母君のシチューだね?」
「はい。とても褒めて下さっていたので」
 新年にマーベリィの帰郷に付いて行ったときに頂いたシチューだ。
「また食べたいと思っていたんだ」
 シチューを一口食べれば、ユリシアンの顔がふっと和らぐ。
 母から娘へ、愛情を込めて作ったシチュー。そのシチューが今は、マーベリィからユリシアンへと愛情を込められて。
 繋がれていく愛情を思えば、心が温かくなる。
「優しい味だよ。子供の頃を思い出す」
 そんなユリシアンにマーベリィが優しく微笑むものだから、ユリシアンの心臓はどきりと跳ねた。
 ユリシアンはマーベリィの手にそっと触れて笑む。
 マーベリィは頰を赤らめどぎまぎしながらも、
「ま、またお作りしますね」
 と告げた。
 途端にユリシアンが破顔する。
 それはとても素敵な笑顔だった。
「素晴らしいご馳走だった」
 食後のアイスジャスミン茶を飲みながらユリシアンは心底満足するのであった。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 木口アキノ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 05月16日
出発日 05月24日 00:00
予定納品日 06月03日

参加者

会議室


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