【堕騎士】甘いお菓子に愛を添えて(瀬田一稀 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「来たわ、甲冑のおばけよ」
「わあ、こわい!」
 ショコランドの小さな住人たちが、ひらひらと舞いながら逃げていく。

 銀色の甲冑を身にまとった騎士は、深くため息をついた。
 どうして私は、死してなお、このようにショコランドの地に閉じ込められることになったのか。
 生きているときは、毎日恋人の作る甘い菓子を食べて、楽しく過ごしていたのに。

 騎士は人には見えぬ顔で、天空の太陽を見上げた。
 時が過ぎた今、恋人に会うのは無理だろう。
 柔らかなマシュマロも、さくさくのクッキーも、とろけるチョコレートも、食べるのは不可能だ。
 それなのに、このショコランドには甘い香りが満ちていて、辛い。
 せめて仲睦まじい恋人同士が、美味そうに菓子を食べる様子を見られたなら、私の魂は解放されるだろうに!

 ※

「毎日、お菓子を眺めている甲冑がいるよね」
「ぼろぼろの剣を持った騎士でしょう?」
「でも、あれを抜いたのは見たことがないよ」
「せいぜいやることと言ったら、その辺に生えているお菓子の花をむしったり、ソーダの池に石を投げこむことくらい」
「時々それを、甲冑の口元に押し付けているよ」
「変わっているわね」
 ショコランドの住人たちは、恐れながらも彼を気にして、ひそひそと噂話をしていた。
 それは次第に周囲に知れるところとなり、ウィンクルムの耳にも届く――。

解説

上記の甲冑の騎士の前で、ウィンクルムが仲良く甘いお菓子を食べてください。
甘ければなんでもかまいません。
幸せそうであればあるほど、彼は満足して成仏しやすくなります。
ウィンクルムを見つけると、こっそり観察しに来るので、ショコランド内の場所は自由です。

恐れ入りますが、交通費その他で300jr消費します。主に大人な事情です。ご理解ください。


ゲームマスターより

ご覧いただき、ありがとうございます。
恋人と離れ、好きなお菓子も食べられない彼を、成仏させてあげてください。

なお、基本的にはウィンクルムごとの描写になります。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

七草・シエテ・イルゴ(翡翠・フェイツィ)

  結局、悩んだ末、お互い家で作って持ち込んでしまいました。

ひとまず座れる場所を探しましょう。
無い場合は、レジャーシートがありますし。

あ、これはバターケーキです。
ケーキ生地には、練乳に無糖のものと、
加糖のもの、あと、クリームを浸けています。
一番上は、苺をふんだんに使いました。

……は、はい。
(恥ずかしながらも、良い雰囲気になれる気がして、
フォークの側面でケーキを切る)
この大きさでいいですか?

(反対に、豆花を翡翠の持っている匙からお返しされる)
こちら、いつものとは違うのですね。
何か違う材料でも、使っているのですか?

うふふ、大丈夫です。
翡翠さんの作ったお菓子でしたら、もう少しは太れそうですから。


豊村 刹那(逆月)
  いつ来ても不思議なところだな。
「本当なら行儀が悪いけど、今日は拾い食いだ」(逆月を見てニッと笑う
「道中、拾ってどっかでお八つにしよう。どこで食べたいとかあるか?」

相変わらず、あんまり表情変わらないな。
森の中?「森なら色々生えてそうだし、丁度いい」
見つけたのはバスケットに入れてこう。

お八つタイム:
「これ、チョコレートだと思うか?」(拾った小枝を見せる
「な、」(手を掴まれて動揺
私に耐性が無いだけなんだろうけど!(受け取れず、意を決し花を食べる
「蜂蜜飴……かな?」甘い。(頬を染め、口内で転がす

(口直しに持って来た紅茶を、水筒から互いのマグに注ぐ
何で交互に食べさせ合うような状態に?(ちらっと逆月を見る


水田 茉莉花(八月一日 智)
  (目の前のパウンドケーキをじっと見つめて)
まぁ、コーヒー味なら大丈夫…だと思う

うーん、何でだっけ?昔は普通に食べていたような…
あ、お菓子食べてるときに「デブ」だの「デカイ」だのバカにされてたんだ!
うん、高校位の頃だった…大きくなったのって遺伝だったのに
結構ショックだったのかぁ、ここまで苦手になるってことは

今?
今かぁ…ほづみさん位しかデカイって言う人いませんもんね
えへへ、冗談ですよ…ほづみさんが気を使ってくれてるの、分かってますから
いただきます(ひと口)あれっ?…このケーキ、結構甘い?

…ふふっ、懐かしいなぁ、カステラみたい
確かにかすてぃら侍さんは美味しそうだったわね
お侍さん達元気かな?会いたいな


アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
  使用
菓子・スイーツ


春うららでのどか~って感じだね

ここでいいかな…
適当な場所に座り
はい、ガルヴァンさん

ホワイトデーに貰った蝶のクッキー(EP63
に因んで、花のクッキーを焼いてみたの
真ん中に丸い窪みを開けてジャムとかチョコとか入れてみたり
他にも薔薇の形とかも頑張ってみたんだけど…

ぅ…少し失敗しました…

う、うん…喜んで、ほしくて…

頷き
一番歪な薔薇を食べ
…どうしたら綺麗に出来るんだろ…
ぼんやり考えてたら精霊の消費が速まってるのに気付く

あ、わ、食べるの早いね

謝らなくていいよ
寧ろ嬉しいというか…ありがとう
気に入ってくれたならまた作るよ

えっ…
EP63の意趣返し?に思考停止

えぇっ?
遅れてきた爆弾の追撃

最後撃沈


イザベラ(ディノ)
  【背景と心情】
噂は知らず、単に相手の誕生祝いで連れてきた。
自分は甘味には全く興味無いが、相手が喜ぶのならば好きなだけ付き合い、好きなだけ与えようという気持ち。
その裏に、この献身で自分達の愛も深まる筈だ、という打算的な考えも有り。

【行動】
たんと食え、とクッキーを差し出す。(所謂、あーんして)
美味しそうに菓子を頬張る相手を見て一瞬何かを考える。
それが何だったのかを思い出そうと、相手の顔を見つめて。
相手の口元に付いているクリームを拭いながら、漸く理解。
何気無しにクリームを舐めながら。
「…お前は、笑うと可愛いな(まぁ、だから何だという話なのだが)」


●珈琲パウンドケーキ ~水田 茉莉花と八月一日 智
「まりか、これなら食えるはずだ! おれの手作り珈琲パウンドケーキだ」
 そう言って八月一日 智は、黒っぽい色の長方形のケーキを差し出した。
「コーヒー……」
 水田 茉莉花が、柔らかそうなケーキをじいと見る。
「ああ、生クリーム付ければ、ウィンナーコーヒーぽくなる……はずだぞ!」
「まあ、コーヒー味なら大丈夫……だと思う」
 だがそう呟きながらも茉莉花は、じいとそれを見つめたきり。まったく動こうとしない。
「だーっ!」
 智が大きな声を出す。
「いつもは竹を割りまくったような性格なのに、なんでそう歯切れ悪いんだよ。そもそも何で甘いものが苦手なんだ? ……おれは大好きだけど」
 言いながら智は、自身が作ったふわふわのケーキを切り分けた。皿に載せた一つ分を、茉莉花に押し付ける。もちろん、自分の分は即座にフォークを投入である。

「うーん、何でだっけ? 前は普通に食べていたような……」
 フォークを持ち、しかしケーキには刺さないまま、茉莉花は遠い過去の記憶をたどった。
(大人になるよりずっと前、そうあれは――)
「あ、お菓子食べてるときに『デブ』だの『デカイ』だのバカにされてたんだ!」
「んだそれ、ただのやっかみじゃねえか。まりか全然悪くねーじゃん」
 智の言葉に、思わず「そうですよね!」と返す。
 彼はうんうんと頷きながら、もごもご口を動かした。
「で、それ何時の話だ?」
「うん、高校位の頃だった……大きくなったのって、遺伝だったのに」
 自分は特に繊細だと思ったことはなかったけれど、その言葉で甘いものがここまで苦手になるということは、結構ショックだったのかもしれない。
 茉莉花はフォークで、黒いケーキをつんと突いた。

(食べるの好きなまりかのことだから、てっきり甘い物食いすぎて気持ち悪くなった、とか言うと思ったのに)
 智はケーキを突く茉莉花を見ながら、少しだけ目を細めた。
 だが、高校時代ともなれば、所詮それは過去の話。問題は今である。
(それにおれが作ったケーキが、まずいわけはない。絶対まりかの口に合う)
 そう思ったから、聞いた。
「で、今は? 今はどう思ってるんだ?」
「今?」
 ケーキから顔を上げて、茉莉花は、うーんと考えるそぶりをした。
「今かあ……ほづみさん位しかデカイって言う人いませんもんね」
「ヤイコラみずたまり、おれに文句でもあんのかコンニャロ」
 皿にあと一口を残して、智は茉莉花を睨み付けた。もちろん、半分以上演技であるのだが。
 それをわかっているのか、茉莉花はえへへ、とはにかんだ。
「冗談ですよ……ほづみさんが気を遣ってくれてるの、わかってますから」
「……ウッセエ」
 短く言って、智は視線をそらす。
 たしかに気はそれなりに遣ったが、正面から言われると、恥ずかしいことこの上ない。
 茉莉花はまるで悪戯が成功したかのように笑うと、「いただきます」といよいよケーキにフォークを入れた。
 それを躊躇う風でもなく口に入れ――。
「あれ? ……このケーキ、結構甘い?」

「コーヒーシュガーを粗めに砕いて入れたんだ。それと珈琲豆のよく砕いたのを入れた」
 智の説明を聞きながら、茉莉花はもう一口、珈琲味のケーキを食べた。
 確かに舌の上で、ざらりとした砂糖の存在が感じられる。
「……ふふっ、懐かしいなあ、カステラみたい」
「カステラかあ……あの紙引っ張ってザラメを食べるのんまいよな」
 言いながら、智はふと、違うものを連想した。たぶん「懐かしい」と言う茉莉花も、同じ物……いや、人? を想像しているのだろう。
 男気溢れる暴れん坊。飴の刀を持った小さな武士を。
「ここのかすていら侍もんまそうだったな」
「確かに、かすていら侍さんは美味しそうだったわね」
 二人は顔を見合わせて、ふっと笑う。
「お侍さん達元気かな? 会いたいな」
「寄れたらアイツ達ん所行こうか?」

 そのとき――。
 風に乗ってどこからか、高らかな声が聞こえた気がした。
「ちちち、うっちっちー!」

●小さな花の蜂蜜飴 ~豊村 刹那と逆月
 この場所に来るまでの間に見た湧水は、砂糖水。
 道に転がるのは石ではなくて小粒チョコで、あそこの切株はクッキーだ。
(いつ来ても不思議なところだな)
 豊村 刹那は、周囲をぐるりと見回した。
 まあ今回は、白くて四角い生物もいなくて平和だし、こんなところだからこそ楽しめることもある。
「本当なら行儀が悪いけど、今日は拾い食いだ」
 刹那は逆月を見て、ニッと笑った。
「道中、拾ってどっかでお八つにしよう。どこで食べたいとかあるか?」

 逆月は赤い瞳を瞬いた。
 どこもかしこも匂いが甘い。温かくなり、眠気の抜けた身体には、良い刺激だ。
 しかも菓子のせいか、それとも飛び回る、小さな住人たちのせいか、どうやら刹那は気分が高揚しているらしい。
(こうまで楽しそうな刹那は、あまり見ない)
 ついじいっと見ていると、刹那と目が合った。
(そうだ、どこでお八つを食べるか、だな)
 逆月はふむ、と考えた。この土地ならば、どこだって食べ物はすぐに手に入るだろう。
 だから言ってしまえばどこでも構わないわけではあるが、ふと、森に咲いていた花々を集めたことを思いだした。
(そうだ、時期は違うが紅葉も、何度か一緒に見ている。もし、あのときのように静かに楽しむのならば……)
「森の、開けた場所が良い」
(木々に囲まれた中であれば、二人だけと思う事も出来よう)
 彼の言葉の真意に気付いた様子はなく、刹那は実に愉快そうに笑う。
「森なら色々生えてそうだし、ちょうどいい。見つけたのは、バスケットに入れてこう」

 木の幹は、チョコとビスケット。落ち葉は薄いおせんべい、というふうに、森も菓子に囲まれていた。
 そこにしゃがみ込み、刹那はそれこそ『拾い食い』の真っ最中だ。
「これ、チョコレートだと思うか?」
 手にした小枝をひらひら振れば、隣にいた逆月がこちらを向いた。
 日焼けなど縁がない白い肌。彼は黙ったまま手を伸ばし……小枝を持った刹那の手を掴む。
「な……」
 少しだけ冷たい体温に囚われて、刹那は思わず、身を硬くした。
 しかし逆月は平然と、端正な顔を近づけてくる。

 刹那がじっと見つめる視線の先で、逆月は、小枝をパクリと口に入れた。
 閉じた唇をもごと動かし。
「ちょこれーとだな」
 刹那の眼鏡の奥の目が、逆月を凝視している。
 じいとこちらを見つめる黒の瞳は、明らかに驚きに満ちていて、それがなかなか、興味深い。
 逆月は唇に穏やかな笑みを浮かべながら、バスケットの中へ手を入れた。先ほど拾った黄色い小花を取り出し、それを、わずかに開いたままの、刹那の口元に持っていく。
「刹那も食すと良い」

(私に耐性がないだけなんだろけど! でも、これはっ)
 刹那は、差し出された物を凝視する。ああ、でも、唇の前にある物を、まさか手で受け取るわけにはいかない。
 迷いながらも、刹那はえいっと、大きく口を開けた。そこに転がる小さな花。甘すぎないその味は。
「蜂蜜飴……かな」
 ころりと舌を絡めるも、目の前の逆月と目が合い、はっと視線を下げた。
 これがたった今、逆月の手ずから食べさせてもらったのだと思うと、顔が熱くなる。
 でもこのまま、彼を見ないでいるのは不自然だ。
(そうだ、そういえば、飲み物があったんだった)
 刹那はいそいそと荷物を探り、水筒とマグを取り出した。それに紅茶を注いで、ひとつを逆月に渡す――もちろん、黙ったままで。
「ありがとう」
 感謝の言葉にちらと目を上げ、マグを両手に持ったまま、逆月を見る。
(何で交互に食べさせ合うような状態に?)

(常は手際よく物事を行うだけに、こうして恥じらう姿は飽きないな。いつまでも、見ていたくなる)
 こちらを窺うような視線を受けるが、気にせぬふりで、逆月は受け取った紅茶を一口、飲み込んだ。
 真正面からまっすぐ見つめれば、彼女はまた目を逸らしてしまうだろうと思ったからだ。
 ――でも、あの唇。甘い花を食した朱唇と、今唇を重ねたら。
(……甘いのだろうか)
 そう、思わぬでもない。

●バターケーキと豆花 ~七草・シエテ・イルゴと翡翠・フェイツィ
 甘い香り漂うショコランドの地には、多くの植物が生えている。
 さっくりとしたウエハースの低木に、シュークリームにナッツがついたサボテン、白玉だんごのまあるいキノコ。
 それらを気にしつつも、七草・シエテ・イルゴは荷物を片手に、さっきから周辺をうろうろしていた。
「レジャーシートを持って来たけれど、なかなか良い場所が見つかりませんね」
「シエ、ここは?」
 少し先から、翡翠・フェイツィが呼びかけてくる。シエテは、黒髪の恋人がいるあたりを見やった。
「……いいですね」
 そこは何の変哲もない、草むらだった。だからこそ、なにかを潰す心配なく、シートを敷いて座ることができる。
「じゃあ、ここにしようか」

 翡翠とシエテは、ゆったりとふく甘い風に飛ばされぬよう注意して、持ってきたシートを敷いた。並んで腰を下ろし、荷物の中から持参した菓子を取り出す。
 ショコランドで何を食べようか、何度も相談して悩んだ末に、結局、お互いが手作りしたものを持ち寄ったのだ。
 シエテは、菓子が入った四角い箱を慎重に、自分の腿の上に置いた。ゆっくりとふたを開けるのを、翡翠が、隣から覗きこむ。
「シエ、今日は、アロスなんとかじゃないんだね」
「あ、これはバターケーキです」
 箱の中、二つ並んでいるものは、今朝早起きをして焼きあげたものだ。
 ちょうど今の季節にぴったりな、赤いいちごをふんだんに盛ってみた。もちろん、他にも工夫を少々。
「ケーキの生地には、練乳に無糖のものと、加糖のもの、あと、クリームを浸けているんです」
「へえ……手がこんでる」
 名前の通り、緑色の翡翠の瞳が、すうっと笑みの形になっていく。
 その穏やかな微笑みに、シエテは自分の頬が、わずかに熱くなるのを感じた。翡翠とはもう恋人同士になって長いが、一緒にいると未だに緊張して、ドキドキしてしまう。
 でも、万が一にも、この苺のバターケーキを崩してしまうようなことがあってはいけない。
(だってこれから、翡翠さんに食べてもらうんですから)
 シエテは彼にばれないよう、細く息を吐いてから、甘い香りのバターケーキを、フォークで丁寧に切り分けた。そのひときれを紙の皿に載せて、翡翠に差し出す。
「この大きさでいいですか?」
「十分だよ、ありがとう」
 翡翠は笑顔で受け取ってから、カップに入った薄黄色の柔らかなものを、おさじにすくった。
「シエ、こちらもどうぞ。豆花だよ」
 そう言って、おさじをシエテの口の前に、差し出してくる。
「えっ……」
 シエテはぷるりと揺れる豆花と、翡翠の顔を、交互に見比べた。
 もちろん、豆花に驚いたわけではない。
 かつて何度も食べているそれは、口の中でとろける、甘くて美味しい食べ物だということも知っているからだ。
(でも、いつもこんな食べ方をしているわけじゃない、から)
 唇が、震える。
 それなのに、翡翠は催促をしてくるのだ。
「ほら、シエ」
 おさじを持ったまま促され、シエテは思いきって口を開けた。
 つるりと滑り込んできた豆花は、いつも通りの優しい甘さ。
(でも、何かが違うような)
 シエテはそれを飲み込み、口内に残る香りの余韻を探る。
(豆乳と砂糖の素朴な味の中に、少し香る爽やかさは何でしょう?)
 たぶん、探るような表情から、翡翠はシエテが考えていることがわかったのだろう。
「俺も苺を使ったんだけど、わかるかな?」
「苺ですか……。何か違う材料でも、使っているのかなとは思いましたけれど」
「ちょうど時期だからね。美味しいかなって思って」
 もう一口とスプーンで豆花をとる翡翠に、今度は自ら、小さく口を開いてみせた。
「シエ、もう太るかどうかは考えなくていいの?」
「うふふ、大丈夫です」
 シエテはにっこりと笑った。
 優しく甘い豆花は、シエテの緊張をほぐしてくれた。
 それに、なにより。
「翡翠さんの作ったお菓子でしたら、もう少しは太れそうですから」

●薔薇のクッキー ~アラノアとガルヴァン・ヴァールンガルド
 天に輝く太陽は温かな光を放ち、足元の芝は春風にさやさやと揺れている。その中で、ショコランドの小さな住人たちが、砂糖の花に腰を掛け、楽しそうにおしゃべりをしていた。
 まさに、春うらら。
 そんな言葉にふさわしく、のどかな空気である。

 そのゆったりとした雰囲気の中、アラノアは、紫色の花が咲いている脇に腰を下ろした。
「はい、ガルヴァンさん」
 荷物から取り出し渡したのは、先日頑張って焼きあげたクッキーだ。
「ホワイトデーに貰った蝶のクッキーにちなんで、花のクッキーを焼いてみたの」
「花か……」
 ガルヴァン・ヴァールンガルドは、差し出されたそれを受け取り、じっと見つめた。
 真ん中に丸く開けられたくぼみの中に、苺やブルーベリー、マーマレードなどのカラフルなジャムが入っているもの。白と黒のチョコが入っているもの。
 そのほか、花びらが何層にも重なったものを見、目を細め……。
「これは薔薇のつもりだったのか……」
 その言葉に、アラノアは少しばかり肩を落とした。
「う、少し失敗しました……」
 アラノアとしては、本当は、もっともっと頑張りたかったところ。でも、何度も焼いているうちに、時間が来てしまって、こんな出来になってしまったのだ。
 しかし落ち込み俯くアラノアの頭上で、ガルヴァンが言う。
「だがいろいろと挑戦して作った成果なのだろう?」
 アラノアはおずおずと顔を上げた。
「う、うん……喜んで、欲しくて……」

 そのはにかみ照れる姿に、ガルヴァンの心にも春風が吹く。
 そこらで跳ねている小さな住人たちのように、ときめくとでも言えばいいだろうか。
 その感覚は慣れないが、けして嫌なものではない。だが、だからと言って、流されることもできなかった。
 結局ガルヴァンは、いつも通りクールに告げる。
「……さっそく食べるか」

 一番歪なクッキーを食べながら、アラノアは以前ガルヴァンがくれた、蝶のクッキーに思いをはせる。
(あれは宝石みたいだった……。どうしたらあんな綺麗に出来るんだろ……)
 しかしガルヴァンは、そんなアラノアの様子には気付かない。
 やや不格好で、味も普通なこの手製のクッキーが、とても美味しくて仕方がないのだ。
 どうしてだろう。
 心が温かい。心地良い。もっと味わいたい、とすら思う。
(もしかしたらこれが恋の味かもしれないな)
 そんなことを考え、さらなるクッキーを求めて手を伸ばしたとき。

「あ……」
「えっ……」

 二人の指先が、触れた。
 クッキーが、ほとんど空になっていたからだ。
「あ、わ、食べるの早いね」
「……すまん」
「謝らなくていいよ。むしろ嬉しいというか……ありがとう。気に入ってくれたなら、また作るよ」
「……ああ次も楽しみにしている」
 笑顔のアラノアを見、ガルヴァンはふと気づく。
(そうだ、これはアラノアが作ってくれた物だから、美味いんだな。まさに恋の味だ)
 自覚すると同時、不意に、ホワイトデーのことを思いだした。
(そう言えばあのとき伝えただろうか……いや、言っていない気がする)
 ガルヴァンは、ゆっくりと口を開いた。
 唐突過ぎるかもしれないが、今この時を逃せば、チャンスはないだろうと思ったのだ。
「言い忘れていたが、あの蝶のクッキーはお前のイメージだ」
「えっ……」
 突然の告白に、アラノアは一瞬、頭が真っ白になった。
(あんな綺麗な蝶が、私のイメージって……!)
 赤い目を見開いたまま、言葉が出ない。
 だがアラノアの驚きの意味を、ガルヴァンは正確につかみ取っていた。だからこそ彼は花を摘み、アラノアの髪にさしたのだ。
「お前はもっと自信を持っていい」
「あ、あの、ガルヴァンさんっ……!」
 アラノアは動揺し、胸の前で意味もなく、ぱたぱたと手を振っている。
「ああ、その花も良く似合う」
 感じたままを、ガルヴァンは口にした。
 ――のち、気付くのだ。
 今さした花は、自身が纏う葡萄色だと。

●誕生日の山盛りお菓子 ~イザベラとディノ
 お菓子の国、ショコランド。
 グミの実がなり、ソーダの川が流れる付近には、とろんと甘い香りが漂っている。
「不思議なものだな」
 イザベラはそう言って、周囲に目を向けた。
 通りすがりに見た森は、ゴーフレットの葉がそよいでいたし、さっき通った橋は、ビスケットで作ってあった。
 正直に言えばその仕組みや設定に興味はひかれるが、甘み自体には関心は薄い。それはイザベラにとって、特に珍しいものでも、好んで食べるものでもなかったからだ。
 しかし傍らのディノにとっては、そうでなかったらしい。
「ここ、すごいですね……!」
 彼は黒い瞳をきらきらと輝かせて、あたりを見回していた。
 イザベラが誕生日を祝ってくれると言ってくれた。
(それだけでも嬉しかったのに、まさか「お腹いっぱいの甘い物」という願いを、こんな形で叶えてくれるなんて)
「ああ、この花、砂糖でできてるんですね。川の中には、ゼリーと寒天の魚が泳いでますよ」
「まったく、珍しいな」
 イザベラは、満面の笑みを浮かべたディノの姿に、口の端を上げる。
 正直に言えば、甘い物をねだられたときは、少々驚いた。
 だがどんな理由であれ、彼が喜んでくれるのならば、その願いを叶えることなどたやすいことだ。幸い、この世界には、このように不思議な土地もある。
「とりあえず座ったらどうだ。見ているだけでは、腹は脹れないだろう」
 イザベラは、カヌレの切株に腰を下ろした。自分に倣い、隣の株に座るディノに、クッキーを渡してやろうとし……はたと手を止める。
(せっかく二人で珍しい土地にやって来て、相手はこんなに嬉しそうだというのに、ただ渡してやるのはつまらないな。それならいっそ)
「イザベラさん?」
 不思議そうに首を傾げるディノの、手元ではなく口元に、クッキーを持って行く。
「ほら、たんと食え」
「え、あの、え?」
「ほら、このまま、ぱくりと」

 眼前でゆらゆらと揺れるクッキーに、いや、そうするイザベラに、ディノは面食らった。
(こ、これは……!)
 いわゆる「あーん」というやつだ。はっきり言って、照れくさいし恥ずかしい。でもあのイザベラが、美味しいお菓子をつまんで、せっかく「あーん」をしてくれているのだ。
(あ、あーん……)
 口にするのはさすがに躊躇われたので、心の中で言いながら。
 ディノは目の前のクッキーにぱくりと食いついた。
 さくっと口の中でとろける甘さに、思わず唇が綻ぶ。
(ああ、クッキーってこんなに甘かったっけ)
「ほら、まだまだあるぞ」

 その、しばらく後。
 口いっぱいのお菓子を飲み込んだディノが、困り顔で言った。
「あの……イザベラさんも、食べてくださいね。俺だけじゃなくて」

 しかしそう言いながらも、ディノはイザベラが差し出すお菓子を、ぱくぱくと食べ続ける。
 しかもそれがよほど美味いのか「幸せです」と、満面の笑顔まで見せてくれるのだ
(やはり、ここに連れてきたのは正解だった)
 イザベラは内心、上機嫌になっていた。
 ただ、なにか……なにか。
 次から次へと甘いものを差し出しつつ、イザベラはディノをじいと見つめる。
「あ、あの……。俺の顔に何か付いてますか……?」
 そう言う彼の口元に、白いクリーム。
(まったく、子供みたいだな)
 それを親指の腹で拭っている最中、イザベラははたと気付いた。
「……お前は、笑うと可愛いな」
 言って、クリームのついた指を、ペロリ。
(か、可愛いって……!)
 ディノは、とっさに言葉を返そうとするも。
「えっ、ちょ、な、げほっ!」
 食べていたお菓子の欠片が喉に詰まり、思い切りむせてしまう。
「おい、大丈夫か?」
 イザベラはそんな彼の背を、ぱんぱんと叩いてやった。
 そして、そうしながら……やっぱりディノは可愛い、と思うのだった。
 ――本人的には、その感情に、他意はないのだけれど。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 04月15日
出発日 04月21日 00:00
予定納品日 05月01日

参加者

会議室

  • 七草シエテと、精霊の翡翠さんです。
    よろしくお願いします。

    そういえば、ショコランドはお菓子の楽園でしたね。
    まるで、スイーツバイキングを堪能しそうな感覚になりそうで、楽しみです。

  • [4]水田 茉莉花

    2017/04/20-09:18 

    水田茉里花と、パートナーのほづみさんです。

    えっと、えっと…(目の前に置かれた菓子見つめ)
    ほづみさん、やっぱりこれ食べなきゃダメですか?

  • [3]イザベラ

    2017/04/20-03:42 

    イザベラとディノだ。
    宜しく頼む。

    甘味が好きな者には天国なのだろうな、此処は。

  • [2]豊村 刹那

    2017/04/19-23:16 

    豊村刹那と逆月だ。
    よろしくな。

    ショコランドはお菓子で構成されてる不思議な地域だから。
    落ちてたり生えてる植物を食べてみたいと思ってる。
    まさに拾い食いだな。ちょっと楽しみだ。

  • [1]アラノア

    2017/04/18-22:04 

    アラノアとガルヴァン・ヴァールンガルドです。
    よろしくお願いします。

    ショコランドでお菓子ピクニック、楽しそうです。
    どんなお菓子持って行くか迷いますね。


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