プロローグ
「――好きだなぁ、お前のこと」
休日のとあるひと時。
ソファでだらだらと本を読んでいた精霊の言葉に、コーヒーでも淹れようかとポットを傾けていた神人は、一瞬固まって、それから。
目を丸くしたまま、視線を遣る。
ぎ、ぎ、ぎ、と。ぎこちなく回る首の音まで聞こえてきそうだ。
「……えっ?」
「えっ」
「いえ、今、あなたが」
「うん? 俺なんか言った?」
流石に『わたしの事好きって言わなかった?』とは聞けず、今度は視線を泳がせ沈黙する。
聞かなかった事にしてもよかったかもしれない。どうして反応してしまったんだろう。
だんまりの間に、告白を口にした本人もどうやら怪訝の要因に思い至ったようで「あっ」と声を上げ、ゆるゆると頬を染め上げた。
「……あー。えっと、その。な?」
頬を掻いて視線を泳がせ思案する。
どうしよう。一度口にしてしまったものは戻しようがないし。
かと言って、今ならまだ誤魔化せる気もする。脳味噌をフル稼働して、言葉を濁して話題を逸らして、聞かなかった事にしてもらう事も出来る気がする。
(……まぁ、言っちまったものは、しかたねーかな)
「あのさ。ずっと、ちゃんと言ったことなかったけど。俺、お前のこと――」
――好きなんだ。恋愛対象、として。
解説
冒頭は一例、というか、会話の切欠が「貴方が好きです」的な意味合いの台詞から始まっていれば何でも構いません。
精霊から神人でもその逆でも構いません。恋愛感情でなくてもいいです。
家族愛、親愛、友愛、恋愛、等々。
それぞれの形での「好き」の言葉と二人の掛け合いをプランにのっけてやってください。
・元々既に両想いの二人が改めて想いを再確認する
・なんとなくいい雰囲気になってきたけどまだ口にした事がないので思い切って告白
・想いを秘めてきたけどうっかり無意識に口に出てしまった
なんてのもいいです。自由度はとにかく高いので、日常の一コマとして捉えてもらえればと思います。
場所や時間に関しても、家でも外出先でも昼でも夜でもお好きなところで。
バレンタイン過ぎてしまいますがチョコレート添えてもいいです。
・プランにいるもの
シチュエーション(場所、時間など)
掛け合い、言葉に乗せた想いなど
足りない部分は総じてアドリブで補います
・出かけたり買出ししたりで300jr消費しました。
ゲームマスターより
こんな季節なのでこちらでも甘めの告白イベントが欲しいなぁと思いシナリオに託しました。
男性側の焼き直しになりますが、良ければお気軽にご参加ください。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
リチェルカーレ(シリウス)
大好きよ シリウス 胸の前で手を組み まっすぐ彼の顔を見て …あれ 反応がない 聞こえなかったのかな? あのねシリウス わたしあなたのことが好きよ とっても好き 大好… 段々恥ずかしくなってくるが それに負けてはいけないと言い募る 大きな手で口をふさがれ 涙目で見上げ …あのね、頼ったり甘えたりが苦手な子には、たくさん行動や言葉で「大好き」を伝えてここは安心できる場所なんだって教えるといいって… お母さんとか近所のおばさんが と真剣な顔 シンティやリセの話じゃないわ あの子たちは普通に甘えるもの 頼ることが苦手なひとをじっと見つめる じゃあ シリウスにはどうしたら伝わるの? 首を傾げながら素直に手を 柔らかな感触に真っ赤に これ、で いいの? |
ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)
ぎゅってしてると、やっぱり暖かいです… うっかり寝ちゃう前に寝室戻らないと…ああでもあとちょっと、だけ… 夢か私の聞き間違いでなければ、今グレンに好きだって言われたような… その割にはグレンってば何もなかったような顔してますし、 私も眠たくてずっとウトウトしてたから さっきのは夢じゃなかったとも言い切れないですし…っ! どどどうしましょう、つい気になってグレンに話しかけちゃいましたけど 好きって言いました?なんてとてもじゃないけど…っ でも話しかけておいて何も言わないのも失礼ですし… え…えーっとですね…好きです! あっ、違っ、いえ違いませんけどっ! …私が言ってどうするんですかーっ! |
瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
アロアの本部へ、資料を調べに来たのです。 自分達が受けていない案件の資料と報告を時間の有る時に読むのです。 過去案件に目を通しておけば類似事件の時に対応しやすくなりますから。 今日はフェルンさんも一緒に。 資料を読んでいたら突然フェルンさんがヘンな事言い出すから慌てました。 いや、ヘンなって事じゃなくて。 今ここでそれをいいますか、的な。 あの。 その。 かかか可愛いとか。 何言ってるんですか~、なんで軽く返す程度の話術もないのに。 更にフェルンさんが言葉を重ねてくるし。 「そうですね、いつどんな事が起こるか判らないですし」 少し愛想の無い返事しちゃったと、更に内心どうしよう、と慌てて。 でも頭撫でて貰って、嬉しいです。 |
星宮・あきの(レオ・ユリシーズ)
(精霊の言葉にきょとん) …… (まっすぐ精霊を見つめ、言葉を聞く いつかその言葉を聞く気がしていたから 彼が矛盾を抱えている事にも薄々気づいていたから) そっか まずはね、想いを有難う でもね 焦らなくて良いんだよ 違うと思うなら、すぐにその感情に名前をつけなくて良いんだよ レオ君、ゆっくり考えて良いんだよ 私は、レオ君が望む限りは一緒にいるからね だから、不安になる事なんて、何もないんだよ (ぽふぽふと頭撫で) ん、少しは安心した? 大丈夫、レオ君は聡いから きっと答えを見つけられる筈だよ ふふ、有難う それじゃあ、答えが見つかったら その時、まだ同じ想いだったら また同じ言葉を聞かせてね (私は、レオ君をどう思っているんだろう) |
●
「ほぁ~……」
「……」
二人で暮らす借家で、精霊にくっついてまどろむ神人、ニーナ・ルアルディは。
「ぎゅっとしてると、やっぱりあったかいです……」と、安心したように脱力しきっている。
うっかり寝こけて寝顔を晒してしまう前に寝室へ戻らないと……と思うも。
「おい、風邪ひいちまうぞ」
「はい……でも、あとちょっとだけ……」
精霊、グレン・カーヴェルの忠告も右から左で、ぽかぽかと心地良いまどろみに身を任せている。
中型犬に懐かれているような思いで、今やすっかり手癖感覚で頭を撫でていたのも良くなかったのだが。
まぁでも、グレン自身もこうしていると暖かいし、落ち着くし。
すっかり瞼の落ちてしまったニーナを見下ろして、ふっと表情をほどかせた。
「――……好きだ、ニーナ」
気が抜け切った拍子に、つい、ぽろっと。
零れ落ちた言葉をしっかりと拾い上げていたニーナが、ガバッ! と弾かれたように勢い良く跳ね起きた。
「えっ」
「あっ」
「……」
「…………」
両者とも、言葉を失い均衡状態に入る。
(ゆ、夢……か、私の、聞き間違いでなければ……今グレンに好きだ、って、言われたよう、な)
心の中で反芻してしまうと声に出さない分の照れが全部顔に出た。
茹蛸のように頬をみるみる赤く染めたニーナに、グレンも心中でしくじった、とぼやく。
心地良さそうに寝ていたはずの彼女が、このタイミングで飛び起きて、何かを期待するかのように口元をむずむずと動かしている。
不覚にも、思ったことが口に出ていた、という事だろう。一瞬焦った表情が全面に出てしまったが、すぐにポーカーフェイスを取り繕った。
その甲斐あって、ニーナは未だ思考をぐるぐると巡らせている。
(いえ、でも。グレンは何もなかったかのような顔してますし、私も眠たくてウトウトしてたから、夢じゃなかったとも夢だったとも言い切れないですし、でもでもでも……!)
夢にしては都合が良過ぎる――というか、願望が出てしまった様な気もする。
なんだか一人相撲を取っている様な気持ちになって、無意味に身振り手振りを交えて暫く慌てふためいていたが、流石に沈黙に耐え切れず言葉を絞り出した。
「あ、あの、グレン!」
「なっ、なんだ?」
「おはようございます!」
「今は夜だ!」
「そうでした!」
思わず話しかけてしまったものの、今好きって言いましたよね? とはとてもじゃないが聞けやしない。
明らかに挙動のおかしい彼女に、どうやらはっきり聞かれた訳ではなさそうだ、とグレンは安堵する。
別に聞かれていても構わないけれど、なんというか、自分らしくない。気恥ずかしさがある。
このままニーナのころころ変わる表情を見ているのも楽しそうだと思ったが、随分夜も更けてきた。
どう落ち着かせて寝室に放り込むか……と思案していたら。
「え、えーっとですね……好きです!」
伸び上がって、赤い顔のままグレンを見上げて、意を決した様に大きな声でニーナが告げた。
思わず身を引くほどに近い距離。予想だにしていなかった行動に、グレンは虚を突かれた様に呆けた。
精霊の様子に気づいて、ニーナもハッ、と我に返る。
「あっ、ちが、いいいえ違いません、けど! あーんもう、私が言ってどうするんですかーっ!」
慌てるニーナに暫し惚けて、心の中でつぶやく。
(……多分「好きと言ったか」を聞こうとしたのがどこかで化けたんだろうが)
突拍子のない言葉を受けて、グレンはふ、と不意に薄く笑んだ。
折角こう言ってくれているのだし、そもそもは自分の失態から始まった事だし。
一度くらい、この他愛ない戯れに乗っかってやるのも悪くはない。
「……はあ。もう、そろそろ寝室に行きますね。おやすみなさ――……」
肩を落とした彼女が言葉を言い終える前に、グレンが強くニーナの腕を引いた。
引き寄せた細い体が身構える前に腕の中に抱え込んで、頰にちゅ、と軽く口付ける。
「好きだぜ、俺も」
途端、かっ、と赤く染まった表情に、うって変わってにこりと笑って「寝るか、おやすみ」と先に寝室へ引っ込んだら。
「卑怯ですよグレンー!」と喚きながら追いかけてきたので、はははと笑ってじゃれつく中型犬をいなしてやった。
●
「貴女が、好きだよ」
あきのさん。
精霊が突如口にした言葉に、神人、星宮・あきのは。
一瞬きょとんと呆けた様な顔をして、それから。
まっすぐに精霊、レオ・ユリシーズを見つめ返した。
「……っ!」
瞬間、我に返った様に。
レオはばっ!と、口元を手で抑えこんだ。
けれど当然、放たれた言葉が戻ることはなく。
「……あ、」
あきの、さん、と。
恐る恐る、神人の顔色を伺う。
「……どうしたの?」
穏やかに、あきのは微笑んで、言葉の続きを促す。
彼女の反応にレオは安心して、意を決した様に再び口火を切った。
「好き。……私は、あきのさんの事が好きだよ」
じっと彼女の瞳を見据えて、一息に告げて。
けれども何かを躊躇する様に、視線を一度下に落とした。
「でも、何かが違う。……怖いんだ」
ぎゅっと拳を握り、やるせなく視線を泳がせる。
あきのは何も言わない。ただ静かに、穏やかに。
一つ一つ、言葉を選ぶ様なレオの告白を黙って聞いている。
「私は、間違いなくあきのさんの事が好きな筈なのに……いつか貴女を苦しめて、傷つけてしまいそうで」
「……レオ君」
「それが、怖い。……たまらなく、怖いんだ」
全ての言葉を聞き終えて、レオが落ち着くのを待ってから。
あきのはふっと表情をほどかせ「そっか」と一言呟いた。
次に、握り締められたレオの拳を、優しく自分の手に取って。
「まずはね、想いを有難う」
告げて、にこりと微笑む。
いつかその言葉を聞く様な予感が、ずっと心のどこかにあった。
彼が抱えている矛盾にも、薄々勘付いていた。
屈託無い彼女の笑顔にも、けれど胸を締め付けられる様な、言いようのない罪悪感に駆られて、レオは何か言おうと口を開くが、でもね、と続けられたあきのの言葉に踏みとどまった。
「焦らなくて良いんだよ。違うと思うなら、すぐにその感情に名前をつけなくて良いの」
「名前を……つけなくても、いい?」
「そう。ねえレオ君、ゆっくり考えて良いんだよ。私はレオ君が望む限り、ずっと一緒にいるからね」
だから、不安になる事なんて、何もないんだよ、と。
ぽふぽふと柔らかな癖っ毛を撫でる柔らかな手のひらに、無性に安堵する。
「あきのさん……」
目を丸くしながらも、告げられた言葉をしっかり受け止めて、有難う、と素直に、彼女のひたむきな優しさにレオは感謝する。
「少しは安心した?」
「うん。あきのさんがそう言ってくれるなら……ゆっくり、この違和感の正体を考えてみるよ」
「大丈夫。レオ君は聡いから……きっと」
答えをすぐ見つけられるはずだよ。
陽だまりの様な微笑みに、つられる様にレオも笑うが、慌てた様に「ああ、でも!」と付け加える。
「あきのさんの事、好きなのは本当だから! ……それだけは、信じてね」
お願いだよ。誠実な精霊の言葉に、有難う、とあきのも笑みを零す。
「いつか、答えが見つかって……その時まだ同じ想いだったら、同じ言葉を聞かせてね」
「うん。約束する。聞いてくれて、ありがとう」
話を終えて、レオが背を向けてから。
あきのはふと、自身に問いかけた。
(……私は、レオ君をどう思っているんだろう)
好意や不安を、素直にぶつけてくれる精霊。
彼が言う「好き」という気持ちは決して純粋な好意ではなく、あきのが庇護欲を満たしてくれる存在だからだ、と、彼女自身は気付いている。きっと、レオ自身も心のどこかで、同じように。
だから彼は自身の感情に言い知れない違和感を覚えている。臆病な精霊はきっと、好意を伝えなければ離れてしまうとでも思っているのかもしれない。あきのは彼がやっと見つけた、己の重責を和らげてくれる大切な存在、なのだから。
彼の想いを全部知っていて、その純粋さに甘えて黙っている自分は。
精霊にどう、向き合っていくべきなのだろう。
(……共に歩むのがあきのさんだからこそ。私は前に進めるんだ)
また、あきのに背を向けたレオも。
自分に言い聞かせるかのように、一人胸に決意を秘めて、交わした約束にいつか報いようと誓い、瞳を伏せた。
●
「大好きよ。シリウス」
胸の前で手を組み、まっすぐ精霊の顔を見つめて、神人リチェルカーレは一言告げた。
真昼の喫茶店で、向かい合って座る彼女がやけに真剣な顔をしている、と、その熱視線に気付いてはいたものの。
突然の告白に、精霊シリウスは彼女を見返し、真顔のまま動きを止めてしまった。
(……あれ?)
反応がない。
聞こえなかったのかな? と小首をひとつ傾げる。
実際は突然の事で言葉も出ずフリーズしていただけだったのだが、無言を無反応と思い違えたリチェルカーレは、人の賑わう店内で声を更に大きくした。
「あのねシリウス、わたし、あなたのことが好きよ」
「……お、おい、リ……」
「不器用だけど優しくて、集中してる時の綺麗な顔も……落ち着く声も、全部好きなの。大好き!」
流石に止めようとシリウスは口に開いたが、じわじわと込み上げ始めた羞恥心に負けじと言い募るリチェルカーレは、彼の反応に気付かない。
「だいすっ……!」
不意にリチェルカーレの言葉が止まった。
シリウスの大きな手が彼女の口をふさいだのだ。
「――……待て、落ち着け」
「……」
聞こえているから、と、僅かに赤い顔で。
根負けしたようなシリウスの顔を、リチェルカーレは涙目で見上げた。
掌に触れた唇の柔らかさに、シリウスはハッとする。
潤んだ紺碧色が己の不甲斐なさを責め立てている様な気がして、こんな強引な手段でしか反応を返してやれない不器用な自分に、ため息が出た。
「……誰に、何を言われた?」
何の入れ知恵も無しに、こんな行動を突然彼女が取るはずはないと思い至って、シリウスはふと問いかけた。
言葉を受けたリチェルカーレは、一度視線を落とし考えてから、再度精霊を見遣った。
「……あのね。頼ったり甘えたりが苦手な子には、たくさんの行動や言葉で「大好き」を伝えて、ここは安心できる場所なんだって、教えてあげるといいって……」
お母さんと、近所のおばさんが。
真剣そのものなリチェルカーレの態度に、シリウスは再度ため息をついて、頭を抱えた。
「……お前の妹や弟ならその対応でいいだろうが、俺は該当しない」
「シンティやリセの話じゃないわ。あの子たちは普通に甘えるもの」
すかさずシリウスの答えに切り返す。
普通に甘えることの出来ない、頼る事が苦手な人を――目の前に座る大切な精霊を、リチェルカーレはじっと見つめる。
ずっと考えてきたことだ。自分が、彼の為にしてあげられることは何なのか。
シリウスは強いけれど、繊細で。弱さも傷も、その無表情の奥にひた隠してしまう。
そういう性格なのだと理解し受け入れられないほど、二人は短い付き合いじゃない。
長く共に居るからこそ、リチェルカーレにはもどかしいのだ。頼ってもらえないことも、甘えてもらえないことも。
全てを見通すかのような、切実な眼差しに射抜かれ、シリウスは刹那息を詰めた。
「……シリウスには、どうしたら伝わるの?」
穏やかな問いかけ。全てを赦し、受け入れてくれる蒼の双眸。
そんな事――今更何を望むまでもない。今のままでも十分、シリウスは彼女の優しさに救われている。これ以上を欲張るつもりもない。
リチェルカーレはシリウスを思い必死になるけれども、本当は十二分なほど、彼女の気持ちは伝わっているのだ。
「俺は、君が……いや」
側にいてくれるだけでいいと、言いかけて。
「……手、貸して」
不意の要望に首を傾げながらも、リチェルカーレは素直に手を差し出した。
細く柔らかい手のひらをそっと握って、てらうことなく、シリウスはその甲にそっと口づけを落とした。
「……っ!」
甲に触れた柔らかな感触に、リチェルカーレはゆるゆると頰を赤く染める。
こんなことで、いいのだろうか。そんな思いを汲んだように。
「……これで、充分」
顔を上げたシリウスは、淡く美しく、微笑んで見せた。
●
「ミズキのそういう表情、とても好きだな。可愛くて」
瞬間、どさどさーっと、積み上げられた資料が音を立てて崩れた。
精霊、フェルン・ミュラーの告白に。
資料を拾い上げるのも忘れて、彼を見遣った神人、瀬谷 瑞希は、返す言葉もなく固まってしまった。
「ま……またフェルンさんは、そういうヘンな、ことを」
落ちた紙の束をまとめながらも、瑞希は返答に詰まって視線を泳がせる。
A.R.O.A.本部に常設されている資料室の一角。
自分たちが担当したもの以外の――ないし、過去の事件、及び報告書、等々。
そういった情報を、こうした空き時間によく調べに来ていた。
一人で来る事も多いけれど、都合が合ったからと、今日はフェルンも一緒に。
過去案件に目を通しておくことで、類似事件が起きた際の対応を参考にする為でもあった。
「凄く真剣に、資料を読んでる姿が好きだよ」
駄目押しのように、再度。にっこりと人好きのする笑顔を浮かべて、フェルンは繰り返した。
真剣に資料へ目を通す瑞希の横顔を見ていて、気付けばつい、その言葉が口をついてしまっていた。
本音なので別に隠すようなことでもない。君が好きだ、好意を持っている、と伝える事に躊躇う必要なんてない。
気持ちはこまめに伝えてこそだ、とフェルンは思っている。
こんな平穏をいまでこそ享受出来ているけれど、いつ任務で何が起きるかもしれない。最悪――命を落とすことだって。
過去の案件を見ているからこそ、その思いは強くもあり。
――とはいえ、正直なところは。
「何度も伝えてるのに、その都度ミズキは初々しい反応をしてくれるからさ」
可愛くて、つい。
畳み掛ける様な賛辞に、返す言葉を失ったまま、茹蛸みたく染まっていく表情が面白い。
ころころ笑っていると、ようやっと瑞希が言葉を絞り出し始めた。
「…………あの、その」
「うん?」
「か、かか、かわいい、とかっ……!」
何言ってるんですかお世辞がうまいですね! とかなんとか、饒舌に切り返せる様な話術を持っていたらよかったのに、いざとなると何も言葉が出てなくて、迂闊に反応を返してしまったのを少し後悔した。
火を吹いた様に熱い頬を自覚しているから、余計に羞恥心ばかり募って、動揺する。
「……今言うような、ことです、か?」
「だって任務で何かあったら、君にこの想いを伝えられなくなるじゃないか」
なんでもないような顔で、フェルンはきぱりと答える。
瑞希が答えに困ってしまうのは、こんな風にてらいない彼の言葉に、全く世辞や嘘がないと分かってもいるからだ。
「そ……そう、ですね。いつ、どんな事が起こるかわかりませんし……」
ギクシャク。しどろもどろ。
返した言葉が存外そっけなくなってしまった、と内心でまた、瑞希は後悔に耽る。
(……もう少し、素直になれたら、いいんですけど……)
ただ、照れ臭いだけで。可愛いと言われて嬉しくない女の子なんて居ないと思う。
それが好きな相手なら尚更だ。ウィンクルムとしてフェルンと組んできた期間は長く、築いてきた信頼関係も決して浅くはないのに、未だにこういった言葉だけはどう受け止めたらいいのか、どんなに考えてもわからない。
気まずそうに視線を泳がせる彼女に、フェルンは穏やかに笑いかけ、告げた。
「君の、そういう生真面目な所も気に入ってるんだ」
むしろそんな瑞希だから、フェルンは好意を伝えてあげたいのだと思う。
決して器用ではなくて、けれども任務にも他人にも誠実で。
困らせているのだろうと言う事も、なんとなく解っているのだけれど、それが照れから来るものであるという事まで、理解しているから。
「そのままでいいんだよ」と、彼女の想いを全て見通しているかのように告げて頭を撫でたら、上目遣いで躊躇いがちに見つめ返して、瑞希は微笑んだ。
「……頭撫でてもらえて、嬉しいです」
ありがとう、ございます。
ようやっと搾り出せた、躊躇いがちな感謝の言葉とはにかんだ笑顔に、またうっかり「ほんとにかわいいなぁ」と漏れてしまい、これ以上ないほど赤い顔の瑞希を更に俯かせてしまった。
依頼結果:成功
MVP:
名前:星宮・あきの 呼び名:あきのさん |
名前:レオ・ユリシーズ 呼び名:レオ君 |
エピソード情報 |
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マスター | 梅都鈴里 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ビギナー |
シンパシー | 使用可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 02月14日 |
出発日 | 02月20日 00:00 |
予定納品日 | 03月02日 |
参加者
会議室
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2017/02/19-21:21