プロローグ
なりたての神人のトレイシーと精霊のジェフは、今日は大輪の園にデートに来ています。
マントゥール教団の撒いた『ギルティ・シード』がもしかしたらあるかもしれないと思ったからでした。
トレイシーはこの大輪の園には、不思議な体験をさせるお茶を売る青年がいる事を知っています。そのお茶を飲むと、相方の過去や記憶、想いを自分の夢として感じ取る事が出来るのでした。
その話はトレイシーは誰にもしていません。勿論、ジェフも知らないのです。
トレイシーはその青年に会いたいと思いましたが、ジェフにはなかなか言えませんでした。何故なら、以前にトレイシーはジェフに黙って、そのお茶を使って彼の過去や心を覗いてしまった事があるからです。
(だけど、自分の精霊の事を深く知りたいと思うのって、仕方ないじゃない……)
ちらっと隣のぶっきらぼうの精霊を見ながら、トレイシーはさりげなく前回に青年と出会った場所に向かって歩き始めました。
「お前、そっちに行きたいのか。俺は、こっちがいい」
「えっ」
ジェフは反対方向に歩こうとしています。
「あの、そっちより、こっちの方が綺麗な花が……あるよ?」
トレイシーはぎこちなくそう言いました。
「……じゃ、お前はそっち行けば? 俺はこっちに行く」
そう告げてジェフは、さっさと自分の行きたい方向に行ってしまいました。トレイシーは取り残されて、うなだれながら青年に会えた方に行きました。
(いつもこうなる……)
そんな事を思いながら、トレイシーが歩いて行くと、やがて前に座っていたベンチの前に例のユーズドハットを目深に被った青年が立っている事に気がつきました。
「お嬢さん、この間のお茶はいりませんか……?」
トレイシーは12月の花に囲まれながら、ベンチに座って青年から買い取ったお茶を飲みました。
そうして、彼の夢を見ます。彼の幼い時代の、痛みの記憶を一つ一つなぞるのです。愛されなかった過去、孤独を癒やす術、傷を庇うために人と距離を置いた記憶……。
その結果、彼と言う人間が出来上がり、彼の作った鎧は一朝一夕では脱げないのです。
(でも……私は神人だから……)
一方、行きたい方に歩いて行ったジェフは、見たかったクリスマスローズの花が見つからなくて花の迷路をさまよっていました。
疲れて一休みのためにベンチに座った彼の前に、忽然と現れたのはユーズドハットの青年でした。
「お茶はいりませんか……? 特別のお茶がありますよ?」
「お茶?」
「好きな花の前でお茶を飲めば、その花が力を貸してくれて、貴方の大切な人の記憶や過去、未来が見られるんでさあ」
ジェフは冗談かと思いましたが、何しろ歩き回って喉が渇いていたので、青年からお茶を買ってその場で飲みました。
途端に、トレイシーの記憶と心が彼の中に流れ込んで来ます。
……(トレイシーは神人だもんね)
幼い頃から神人として顕現していたトレイシーは、クラスの中では浮いている存在でした。
休み時間に一人で本ばかり読んでいました。
日曜日にも一人で映画に行ったり、喫茶店に行ったり。一人での行動力はなかなかのものでした。
(だけど、いつか、私に精霊が現れたのなら……)
神人なのだから、自分には精霊がいるはず。
そう思いながら、トレイシーは様々な一人遊びを楽しんでいました。
(精霊が現れたら、一緒に色々な事をしてみよう。二人で映画に行く事も出来るし、エルビス水上公園にも鏡の森芸術公園にも、もしかしたらフィールレイクやウルビスゲームワールドにだって、一緒に行ってみよう。二人で一緒に色々な事が出来るはず。それは一人とは全然違う経験で、精霊とならなんだって出来るはずなんだ……)
しかし、その期待は裏切られてしまいます。
現れた初めての精霊は、孤独を好み自分を全く曲げない青年でした。トレイシーは次第に傷つき自信をなくして、今は、あきらめの境地にあるのです。
(ジェフの言葉で本当の気持ちを聞いてみたい……でも無理……)
ジェフは夢から覚めて、揺れるキンセンカのそよぐ音を聞いています。
ユーズドハットの青年は微笑みながら言いました。
「夢の中でなら自由自在なんでさあ……。どうですか? 相手の夢を、現実の願いを聞いてみる気はありませんか?……」
冬の冷たい風にも負けない数々の花が、神人と精霊を見守り、夢の世界にいざなっていきます。
夢とうつつの間を揺れながら、神人と精霊の紡ぐ物語はどんなものなのでしょうか。
解説
ユーズドハットの青年から不思議なお茶(一本300jr)を買い取って、好きな花の前で飲むと、その花言葉に纏わる相手の記憶や夢、想いを夢に見る事が出来ます。
●今回は神人→精霊の心、精霊→神人の心、両方のプランを受け付けます。また、神人が精霊の夢を見るのみ、精霊が神人の夢を見るのみ、どちらか一方でも構いません。
●また、どちらかが予知夢として二人の未来を夢見る事も可能です。
●下記の花のいずれかの前でお茶を飲んで下さい。花言葉に纏わる相手の夢を見る事が出来ます。
●プランには花の名前をアルファベットで省略。また、夢を見る方には冒頭に「見」と一言を明記してください。
Aクリスマスローズ(「追憶」「私を忘れないで」「不安を取り除いて下さい」「スキャンダル」「いたわり」「中傷」「誹謗」「中毒」「悪評」「発狂」「私の心を慰めて」)
Bキンセンカ(「慈愛」「静かな想い」「別れの悲しみ」「失望」「用心深い」「悲嘆」「初恋」「さびしさに耐える」)
Cネリネ(「また会う日を楽しみに」「幸せな思い出」「輝き」「忍耐」「箱入り娘」「繊細でしなやか」)
Dエリカ(「孤独」「謙遜」「休息」「心地よい言葉」「博愛」「幸運」「裏切り」「幸福な愛」)
Eアングレカム(「祈り」「いつまでもあなたと一緒」)
Fスイセン(「うぬぼれ」「自己愛」「エゴイズム」「片思い」)
Gプリムラ(「青春のはじまりと悲しみ」「青春の恋」「運命を開く」「神秘な心」)
Hアザレア(「節制」「禁酒」「恋の喜び」「私は初恋です」「私のためにお体を大切に」「儚さ」)
Iデンドロビウム(「わがままな美人」「思いやり」「純粋」「真心」)
Jポインセチア(「祝福」「清純」「聖なる願い」「幸運を祈る」「聖夜」「純粋」「博愛」「元気を出しなさい」「私の心は燃えている」)
※愛が高まると大輪の園に落ちていた『ギルティ・シード』が自然に割れます。
ゲームマスターより
懲りずに花言葉の話を書いてみました。冬は悲しい花言葉が多いようです。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
吉坂心優音(五十嵐晃太)
☆E 『どんな先の未来でも、あたしは貴方と一緒に…』 「もう晃ちゃん! 今日はせいちゃんとだいちゃんの学習発表会だよ! 依頼は休みだって言ってたじゃない(苦笑 ほら朝ごはん食べて、わこちゃんも一緒にだから早く行こう? せいちゃんとだいちゃんは親の仕事について発表するみたいよ♪」 体育館で親の仕事等について発表 尊敬や自分達もそう言う仕事にしたいと話しており感動 「ふふっ流石あたし達の子供だよねぇ せいちゃんは頭脳派、だいちゃんは肉体派、わこちゃんはサポート系だもんね(笑い うん、幸せだね…」 ☆現 「あー晃ちゃん見付けた! 探したんだから! (一瞬きょとん後)ふふっ改めて言わなくても支えるよぉ?(頬に手を当ておでこコツン」 |
瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
見→精霊の心 花E 白く印象的な、星形の花。その特徴にふと惹かれて近づいて。 そしてお茶を飲んだのです。 夢の内容は何か抽象的で、具体的には巧く言えなくて。 フェルンさんと出会ってからの色々な事が走馬灯のように流れたような気も? 色々な所で、助けて貰って。 そう言えば彼の瞳はいつも自分の方を向いていたのね、と。 常に気にかけて貰っていた事を深く思い出します。 以前に見た写真の記憶で 彼が親友を亡くしたこと、親友の神人も亡くなったこと。 それが彼の心の奥底で檻のように広がっているのだと。 今の夢でも、思いだしました。 こんな別れを何より恐れているのかも。 いつまでも一緒に、という彼の想いがよく判ります。 私もそうありたい。 |
アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
見A 目移りしながら歩いてたら精霊とはぐれる Aを見ようという事は話していたのでその前へ 綺麗… 待つ間途中で買ったお茶を飲む * …遅いわよ! 何で時間通りに来ないのよ! 精霊と絵になる位綺麗な人 でも怒ってる そんなに仕事が大事なの?! 今日デートの約束してたの憶えてるでしょ? 映画を見に行く時は時間通りだったのに! じゃあ私との買い物は興味ない訳?! ~~ッ! 最っ低!! 派手な打音に思わず目を瞑る 納涼花火大会の時に言ってた付き合ってた人の一人、なのかな… * …あ うん… そう、だね… …ガルヴァンさん もし私が邪魔だって思ったら、言ってね 私…ガルヴァンさんの時間、邪魔したくない、から… ガルヴァンさん…? …! う、ん… ありがとう… |
アンナ・ヘーゲル(ジン・カーディス)
見 C幸せな思い出 小さな男の子とその両親らしき二人の男女 ジンくんと、ご両親かしら?どちらとも似てる気がするわ 母の誕生日、祝い事の席 テーブルにはご馳走が並び皆笑顔 僕も手伝ったんだよと誇らしげな様子が微笑ましい 仲睦まじい様子の両親見つめ 僕も神人が見つかったら、お父さんとお母さんみたいに幸せになれる? 純粋に問いかけると、両親はきっとなれるよと微笑み返す その時が楽しみだねと笑い合う幸せそうな家族の姿 …なんというか、その 適合したのが私でごめんね? なんだかとても期待されていたようなので、つい まあ子供の頃の話みたいだし、今もそう思ってるとは限らないわよね ほんといい子よねー うちの弟と交換したいくらいだわ |
アンジェリカ・リリーホワイト(真神)
公園の不思議なお茶売りさんの話を聞いて決心しました 言うのは怖いから見て頂こう、と 私の手に生まれた時には、神人の証がありました 私と引き換えに命を落としたお母さんの事が赤ん坊ながらショックだったのでしょう 神人と解って、村の人は密やかに私を育ててくれました 外に出てはいけない、外に出たら怖いのが来ると言って 外には出させてもらえなかったけど… それでも私は幸せでした 言いつけを破ったのは私 オーガを呼び寄せてしまったのも私 それでもお父さんは私を隠して 私だけ生き残りました 暗い地下室の中、聞こえるのは破壊の音だけ 耳を塞いで耐えました 悲嘆から抜け出せない私 罪悪感から抜け出せない私 私は貴方を愛しても良いのでしょうか |
●アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)編
その日、アラノアは精霊のガルヴァン・ヴァールンガルドとともに大輪の園を訪れました。冬でも華麗に咲き乱れる色とりどりの花々に目移りをしていたら、アラノアはガルヴァンとはぐれてしまいました。
アラノアが慌てて辺りを探すと、不思議な青年がお茶を売っていました。アラノアは落ち着きを取り戻すために青年の勧めるお茶を買いました。
アラノアは、ガルヴァンとクリスマスローズを見ようという話をしていたのを思い出して、その花の前に向かいました。
「綺麗……」
花言葉は不穏なものが多いけれど、こうして見てみるとクリスマスローズは本当に華やかで愛らしい花なのです。
アラノアはこの花の前でガルヴァンを待つ事にして、途中で買ったお茶を飲む事にしました。
花の前でお茶を飲み干すと、アラノアの視界がぼんやりしてきます。アラノアはガルヴァンの心の奥を夢に見るのです……。
……遅いわよ! 何で時間通りに来ないのよ!
それは、ガルヴァンがかつて仕方なく付き合っていた女性との記憶でした。
貴族風で見目麗しいガルヴァンと並んでいても絵になるほど綺麗な女性です。でもとても怒っているようです。
そして、彼女の前のガルヴァンは、冷め切って感情を見せない仏頂面が変わらない様子なのでした。
……仕事が立て込んでいた。
ガルヴァンは仏頂面に相応しい冷淡な声で言いました。
……そんなに仕事が大事なの!? 今日デートの約束してたの覚えてるでしょ?
……買い物に付き合うだけだろう。
……映画を見に行く時は、時間通りだったのに!
……内容に興味があったからな。
……じゃあ私との買い物は興味ない訳!?
ガルヴァンは短くため息をつきました。
……正直、興味ない。
綺麗な女性は息を飲みました。
……最ッ低!!
息を吐き出すと同時に女性は怒鳴り、ガルヴァンの横っ面を思い切り叩いたのでした。女性はそのまま去りました。
ガルヴァンは、物理的な痛み以外、何も感じませんでした。
(これで何度目だろうか。何故皆俺の時間を邪魔してくるのか。……煩わしい)
アラノアは、ガルヴァンの頬を張る派手な音に、思わず目を瞑ります。
まるで目の前の出来事のように感じていたのでした。それから、夢から醒めて、長く息を吐きました。夢の出来事に対して身を竦めていたのが自分でも分かりました。
(納涼花火大会の時に言ってた付き合ってた人の一人、なのかな……)
アラノアは何となくそう察しをつけました。そして、寂しい気持ちが心にあぶくのように湧いてくるのを感じました。
昔、しつこく迫られて、仕方なくつきあっていた女性が何人かいると言う話は聞いた事があります。彼の過去の事は彼の過去の事。アラノアが手出ししていいことではないと思います。
でも。けれど。
そういう気持ちが湧いてしまうのはどうしようもないことなのですが、アラノアは、自分の心の動きが嫌になり、ますます自信がなくなるのでした。
不安で頼りなくて、寂しい心地。ここにガルヴァンがいて欲しいような、いて欲しくないような……。
(やはり花は良い)
その頃、ガルヴァンは外れた順路を歩いていました。彼も目移りしているうちに、違う小径に分け入ってしまっていたのです。冬の花を眺めながら歩きます。
(いつも新しい刺激をくれる。……だが隣に神人がいない。それだけで味気なく思うのは何故だろう)
ガルヴァンは花々を見つめながらアラノアの事ばかりを思い出します。
(声を聞きたい。表情が見たい。……いた)
小径の先の方に、アラノアの細く柔らかそうな姿が見えました。ガルヴァンはアラノアの横顔に微かな陰りを見止めましたが、理由は分かりませんでした。
「ここにいたのか」
ガルヴァンは歩調を速めてアラノアのそばにいきました。やっと見つけられたのですから、足早にもなります。
「……あ」
アラノアは、ガルヴァンの姿に驚いて声を立てます。
ガルヴァンはクリスマスローズの花壇を見渡しました。
「綺麗だな」
「うん……そう、だね……」
アラノアは張りのない声で答えました。
「……?」
アラノアに元気がない事はガルヴァンにも分かります。
「……どうした?」
ガルヴァンが疑問を口にすると、アラノアは口重そうに、それでも話しました。
「……ガルヴァンさん。もし、私が邪魔だって思ったら、言ってね」
「何を突然」
ガルヴァンはびっくりしてしまいます。
ですが、アラノアは思い詰めた口調で言いました。
「私……ガルヴァンさんの時間、邪魔したくない、から……」
ガルヴァンは一瞬、迷いを顔に表しました。
ガルヴァンはアラノアの事を邪魔だなどと思った事はありません。もしも邪魔だとしても、アラノアには積極的に”邪魔されたい”と思うぐらいです。
けれど、それを口で言い表せなくて、結局、アラノアの肩を自分の方へと抱き寄せました。
「……前にも言っただろう。俺は、お前と過ごす時間が好きだ」
「ガルヴァンさん……?」
ガルヴァンの胸を前に、アラノアは不安そうな声を立てます。
「……好きだから、ここにいる」
二重の意味を乗せて、ガルヴァンはアラノアに告げました。
「……!」
アラノアは大きく目を見開きます。
「う、ん……ありがとう……」
”不安を取り除いてください”
冬の日だまりの中で、クリスマスローズがそんなふうに囁いています。
”不安を取り除いてください……あなたの心を見せて”
ガルヴァンが好きという言葉をもっと純粋な意味で告げる事が出来ない事も、アラノアがガルヴァンの前で身を引くような事を言ってしまうのも、そこに不安があるからです。
アラノアがガルヴァンの神人としてもパートナーとしても、自信を持てない理由は様々で、一つではないけれど、それはガルヴァンの「好き」で打ち消されるものかもしれません。けれど、ガルヴァンは、そのアラノアの自信がなくて不安だからこその行動に、自分の不安を触発されてしまうようです。なかなかうまくいかないウィンクルム。--だけど冬の華麗な花の前で寄り添う二人は、とても理想的なカップルのように見えるのでした。
●吉坂心優音(五十嵐晃太)編
その日、吉坂心優音と精霊の五十嵐晃太は、大輪の園にデートに来ました。
晃太は色とりどりの花を見ながら歩いているうちに、心優音とはぐれてしまいました。心優音を探しながら喉が渇いたと思っていると、見知らぬ不思議な青年がお茶を売ってくれました。何でも、心優音の夢が見られるとか。
半信半疑で、晃太は咲き誇るアングレカムの前のベンチに座ってそのお茶を飲みました。たちまち辺りの光景がぼんやりと霞んで、晃太は心優音の心の中の夢を、自分の夢として見る事が出来たのでした。
……
「もう晃ちゃん! 今日はせいちゃんとだいちゃんの学習発表会だよ!」
朝。
晃太は心優音のそんな大声とともに、布団を剥がされてしまいます。
「ふわぁ……えーっと、確か今日の依頼は……」
「依頼は休みだって言ってたじゃない」
心優音は晃太のあくびを見守りながら苦笑しています。
「ほら朝ごはん食べて、わこちゃんも一緒にだから早く行こう? せいちゃんとだいちゃんは親の仕事について発表するみたいよ♪」
(これが、みゆの……俺とみゆと子供達と幸せに暮らすのが願いで夢やんな。えーっと長男で8歳の誠太、次男で7歳の大翔は俺と同じで長女で5歳の和心々はまだ顕現しとらんで良かった)
現在の心を持つ晃太はそんなふうに母となった心優音や自分の家の方を眺めています。
「あぁそうやったそうやった。ほなら特等席で見なアカンやん!」
夢の中の晃太は慌ててそう言ってベッドから立ち上がります。心優音は笑って、晃太に着替えを差し出しました。
バタバタしながら子どもの発表会に向かいます。
体育館で、子ども達が親の仕事などについて発表するのです。
息子達は、ウィンクルムである両親を尊敬しており、晃太の探偵の仕事も誇りに思っていて、自分達もそういう仕事をしたいと話していました。
晃太も心優音もその発表を聞いて感動です。
「ふふっ流石あたし達の子供だよねぇ。せいちゃんは頭脳派、だいちゃんは肉体派、わこちゃんはサポート系だもんね」
心優音は笑いながらそう言います。
現実の晃太は発表会の子ども達を見ながら苦笑いです。
(外見はまんま俺達似やんけ)
誠太と大翔は晃太似、和心々は心優音にそっくりです。
「せやねぇ、まさか俺と同じもんになろうとしとるなんて……血は争えんでホンマ」
晃太も苦笑を滲ませながらそう答えました。
「あぁ。俺ってば幸せもんや」
「うん、幸せだね……」
晃太の隣に座り、子ども達を見守り、心優音はうっとりするような微笑みを見せています。晃太はそんな心優音を本当にいとおしく、これからも守っていくのだと、誇らしく思うのでした。
……
(あぁ羨ましいで未来の俺……)
晃太は心からそう思いながら、夢から醒めました。
心優音の夢の世界ではあるのですが、晃太自身も、こんな未来が来ればいいと思わずにいられないのです。
「あー晃ちゃん見付けた! 探したんだから!」
ちょうどそのとき、花園の角を曲がって、心優音が晃太の方へと駆け寄ってきました。ベンチの上で晃太は心優音へと向き直ります。
「――みゆ、俺絶対に有名探偵になって養うし幸せにするから支えてくれへんか?」
心優音は一瞬キョトンとした後、晃太の方へ笑いかけました。
「ふふっ改めて言わなくても支えるよぉ?」
心優音は晃太の頬に手を当てて、彼のおでこに自分のおでこをコツンと当てました。
「せやったな……」
照れ笑いをしてしまう晃太です。
「今年は花の思い出が結構あるなあ」
アングレカムの花にふと目をとめながら晃太が言いました。
「花? あ……」
聞いた時は怪訝な顔をした心優音ですが、すぐにはっと気がついて、顔を赤らめました。
「な?」
晃太は悪戯っぽく笑っています。
それは、遺跡の『時雨の愛唄』での出来事の事。
あの素晴らしい青一色の世界での出来事の事を晃太は言っているのです。
夢想花のブーケを手渡して、晃太が心優音に言った言葉。
--吉坂心優音さん。俺と、ジジババになっても、手ぇ繋いで死ぬ迄俺の傍にいて欲しい。俺と、結婚して下さい
--あたしも、晃ちゃんと死ぬ迄ずーっと一緒にいたいっ
あのときの言葉も、あのときの想いも決して違えずに生きていけば、心優音が夢見た未来は現実になるかもしれません。いえ、きっと現実になるのでしょう。
夢想花の事を思い出したのか、心優音はほんのり赤面しつつ、目に涙を浮かべています。晃太は指を伸ばしてその目元をそっと拭いました。
「去年の今頃は……クリスマスの事を考えていたやんなあ」
その結婚の儀の記憶に触発されて、晃太は指輪の事を思い出します。
--“これ”は、いつかの為の予約、な……?
そう言って晃太が心優音とのペアリングを買ってきたのです。
そうして、二人で交互に指に指輪をはめた記憶。
そう、去年の今頃には、晃太は、心優音との未来を決心していたのでした。少しずつ行動に移してきたのは晃太。それにしっかりとついてきたのは心優音。
想いを揺らがせる事なく、着実に歩んでいけば、心優音の夢見た未来は、自分のものに出来る……。今までの事を振り返りながら、晃太はそう思ったのです。
「うん……クリスマス、嬉しかった」
自分の指に視線を落としながら心優音は言いました。
それから、男くさい笑みを浮かべて、晃太は心優音を振り返りました。
「サクラウヅキでヨミツキも見たやん……なあ、みゆ、あのとき……」
「こ、晃ちゃん!」
咲き誇るヨミツキの下で、瘴気の調査をしていた二人は、キスをしている男女を見てしまったのです。
そして釣られて、屋外なのにしっかりキスをしてしまったのでした。
「誰も見てへんで」
晃太は心優音の耳に囁きました。
「……みゆ、俺達、もう婚約者やで」
困ったように眉根を寄せていた心優音でしたが、その手が晃太の左胸の上に置かれました。晃太は心優音を抱き寄せました。
--いつまでもあなたと一緒
アングレカムの囁きが聞こえたような気がしました。
二人は、真っ白な花の前で、互いの唇をかわしました。
心優音は晃太の心臓の音を手のひらに感じ取りながら、彼は将来にどんな夢を見ているのだろうと思いました。二人の未来を夢見ている事は分かります。だけど、それはどんな夢? どんな『二人』になろうとしているのだろう? ……
それは心優音の夢と重なりあっているのでした。互いの背中を守り、互いの心を守りあって、幸せに生きていく……それが晃太の夢、願いになったのです。
●アンジェリカ・リリーホワイト(真神)編
--夢の内容はまだ話せない。
アンジェリカ・リリーホワイトは、精霊の真神に対して、申し訳ないような気持ちながらも、そう思っています。
故に、大輪の園で、不思議なお茶売りから話を聞いた時に、決心したのでした。自分の口からは恐怖のために何も言えない……ならば、彼に見てもらおうと。
アンジェリカに乞われるままに、真神は、キンセンカの花の前で、お茶を飲みました。
真っ暗な中で、蜂蜜色の髪が光って見えたような気がします。
光の射すことのない地下室の暗闇の中、上階から破壊音だけが響き渡るのです。
そんな中に小さな子どもが声も上げずに泣いています。
(これはあんじぇの心の中か?)
真神は息を飲み、一心に彼女の心を感じ取ろうとします。
……悲嘆に濡れ、後悔と罪悪感に圧し潰されそうになっている子ども。
……愛した者は全て無くしてしまった故に愛する事が恐ろしい子ども。
やがて、その小さい子どもを目の前に息を詰めている真神の耳に、現実のアンジェリカの声が聞こえ始めました。
……私の手に生まれた時には、神人の証がありました
私と引き換えに命を落としたお母さんの事が赤ん坊ながらショックだったのでしょう
神人と解って、村の人は密やかに私を育ててくれました
外に出てはいけない、外に出たら怖いのが来ると言って
外には出させてもらえなかったけど…
それでも私は幸せでした
言いつけを破ったのは私
オーガを呼び寄せてしまったのも私
それでもお父さんは私を隠して
私だけ生き残りました
暗い地下室の中、聞こえるのは破壊の音だけ
耳を塞いで耐えました
悲嘆から抜け出せない私
罪悪感から抜け出せない私……
真神は目の前に、恐らくオーガに襲われた時であろうアンジェリカの幼い姿を見据え、その耳に、彼女の今の心を聞いています。
……私は貴方を愛しても良いのでしょうか……
最後にか細く切なく、かすれた悲鳴のように苦しげな声が真神の心の耳に聞こえました。真神は目を閉じて、息を吐きました。
心というものは簡単には伝わらないものです。この不思議な魔法のお茶を使ったとしても、伝えられない時は伝えられません。その難しさを知っている真神は、アンジェリカの苦しい心の悲鳴を受け止める事が出来るのか、不安なのでした。
だとしても、彼はアンジェリカの精霊なのです。きっぱりと、言うべき事は言わなければならないのです。
「我は言うた筈だぞ。我は汝を手放す気はない、と」
闇の中で、子どもが声を殺して泣いている事だけが分かります。
現実のアンジェリカは息をひそめて、真神の様子をうかがっているようでした。
「我を信じるつもりがなかったのか我が主……いや、我が恋人は。そういえば伝えてなかったな。顔合わせの時から我は決めていたというのに汝は怯えて居ったのだな。我は汝を好いておるぞ?」
その『好き』は恋人の好きなのでしょう。
現実のアンジェリカは答えませんでしたが、驚いている空気が伝わってきました。
真神は、闇を見据えながら苦笑いをします。
心というものは、簡単には伝わらない。
だからこそ、傷ついていたアンジェリカはとても不安で、不思議なお茶に頼る事によってしか、自分の心をさらけ出す事が出来なかったのでしょう。
(よい。我が主よ。我は、汝を受け止める覚悟は出来ている……)
その言葉も。
彼だって、簡単には告げられない想いを持っているのです。
「そうだな今度、我の故郷の話でもしてやろう。我の事を話す事で対等と言えよう?」
真神は、深く息を吐きながらそう言いました。
彼にも、彼だけの記憶、彼だけの思い出があるのです。
それをアンジェリカにこそ分かって欲しいと思ったのでした。
真神は現実に帰りました。
キンセンカの花壇の前で、アンジェリカが蜂蜜色の頭を傾けてうつむいていました。
「あんじぇよ……」
「雪さま……?」
雪之丞というのが、アンジェリカが真神に与えた名前です。
その呼び方を聞いて、雪之丞は微かに口の端で笑ったのでした。
アンジェリカと自分の繫がりを感じたのでした。
「俺はお前が好いておる。お前がどう思おうと……」
「雪さま、私は……」
アンジェリカは何かを言いかけて口をつぐみました。
真神にとっては、それは予測していた事なのでした。
こんな辛い過去を抱え、人を愛していいのかと悩むアンジェリカには、『好き』という一言だけで、今までの苦しみ全てを乗り越えられる訳ではないのです。
自分の気持ち。
自分の恋人。
自分……。
「あんじぇ、汝は、我とどんなウィンクルムになりたいか?」
真神はそんなアンジェリカに、色々な事に気づいて欲しくて、道しるべを作ったのでした。
「ウィンクルム……?」
「我と、汝は、ウィンクルムだ。そして恋人同士だ」
真神は風に揺れるキンセンカを見つめながらそう語りかけました。
「別れの悲しみ」「悲歎」「さびしさに耐える」……そんな悲しい花言葉の他に、キンセンカには「初恋」や「静かな想い」という花言葉もあります。
アンジェリカにとって、自分との絆がどんなものになるのか、想像しながら、真神は語りました。
「あんじぇ、我と汝は、ユウキとリーガルトを倒したな。ユウキはウィンクルムの愛を尊いと言いながら、精霊とともにああいうことをしたのだ……。そしてミラスとセナもウィンクルムであった。互いの愛を信じることで、ミラスはオーガにならずに自分を取り戻す事が出来た……ウィンクルム、恋人と言っても、愛の形は一つではない。あんじぇよ……ユウキ達とまみえた今こそ……そなたに、ウィンクルムとしての未来を見てもらいたい。過去だけではなく、我と……我を見て、我とどんなウィンクルムになりたいか……考えて欲しいのだ」
「……雪さま」
アンジェリカは驚いて目を見開きました。そんなことを言われると、思ってもみなかったのです。
「今すぐでなくても構わない……我は汝とともに歩む」
真神は優しく笑いながらそう言いました。
(歩くの、速すぎなのに……いつだって)
アンジェリカはそう思ってしまいましたが、真神の気持ちは少しは伝わりました。辛い過去ではなく、彼とのウィンクルムとしての未来を。それは大事な事だと思えたのです。
●アンナ・ヘーゲル(ジン・カーディス)編
今日、アンナ・ヘーゲルと精霊のジン・カーディスは、大輪の園にデートに来ています。そうして、二人で園内を歩いているうちに、不思議な青年に出会い、彼から魔法のお茶を買いました。そのときに説明を受けたので、アンナとジンは思い思いの花の前で、お茶を飲んだのでした。
アンナはネリネの前で。
ジンはプリムラの前で……。
……アンナはジンの夢を見ています。
(……小さな男の子とその両親らしき二人の男女……ジンくんと、ご両親かしら?どちらとも似てる気がするわ)
アンナは見えない視点から、じっと、男の子と両親らしき男女の様子を観察しました。すぐに、やはり小さい男の子は幼い頃のジンで、それはジンの母の誕生日で、お祝いをしているところだと理解出来ました。
テーブルにはご馳走が並んでおり、みんな笑顔です。
「僕も手伝ったんだよ!」
ジンの誇らしげな様子が、アンナにはとても微笑ましいものに見えます。
父親が母親の誕生日に率直に祝いの言葉を述べ、日頃の感謝や愛情を告げます。仲むつまじい両親の様子を見つめ、ジンも嬉しそうです。
「僕も神人が見つかったら、お父さんとお母さんみたいに幸せになれる?」
それはジンの純粋な問いかけでした。
すると両親はジンに微笑みを返します。
「きっとなれるよ」
「そのときが楽しみね」
家族はみんな笑顔をかわして、幸せそうな姿です。
そうして、ジンに適合する神人が現れるのを待っているのでした。
……一方、ジンもアンナの夢を見ているのでした。
それは夕方の図書館でした。
高校生のアンナが、席に着いて本のページをめくっています。
学校の宿題の一環で、オーガについての事件を調べに来たのでした。
その表情は、怠けている訳ではありませんが、どこかつまらなそうでした。
やがてアンナは本を読み終わります。
バタンと閉じてしまって、大きなため息。
(悲しい話は創作だけで充分。こんな系統の本じゃなくて、もっと楽しい本だけで溢れる……そんな世の中が早く来て欲しい)
アンナは心からそう思ったのでした。
(まあその実現のために、私の出来る事なんてなさそうだけど)
彼女は口の中でそう言いました。
これもまた本気なのでした。
そうして大きく伸びをして肩をほぐして気分もほぐします。
(そこは専門家、ウィンクルムの皆さんにお任せするしかないわよね--)
そう口の中で呟いた直後……。
その左手に紋様が浮かび上がったのでした。
ですが、アンナは顕現に気づいた様子はなく、そのまま本を棚に戻しに行ってしまいました……
やがて二人は夢から醒めて、顔を見合わせました。
「……なんというか、その」
アンナは決まり悪そうに笑います。
「適合したのが私でごめんね?」
いきなり謝られて、ジンは首を傾げます。
「そんな事ないよ」
アンナはその純粋さに、また決まり悪くなって笑います。
(なんだかとても期待されていたようなので、つい……まあ子供の頃の話みたいだし、今もそう思ってるとは限らないわよね)
アンナは楽天的に、そう考える事にしました。
一方、ジンは先程の夢を反芻しています。
悲しい出来事なんて、みんな創作の中だけでいい。
楽しい話や楽しい本で、世の中が満たされるように……
アンナは本心でそう思っていたのです。
「僕のパートナーがアンナさんでよかった」
そう言って、ジンは心からの微笑みを見せたのでした。
(ほんといい子よねー……うちの弟と交換したいくらいだわ)
そんなジンを見て、アンナはそう思わざるを得ません。
「そうだ、アンナさん。疲れていない?」
「え、いや……そんな事はないけれど、どうしたの?」
ジンの突然の話題変換にアンナは目をぱちくりさせます。
「先月、紅葉寺に行った時に、アンナさんはすぐに疲れて筋肉痛の心配していたじゃないか。だから、この大輪の園も歩き回ったから、疲れているかと思って」
「そ、それは……まだ大丈夫よ!」
そう言いながらも、アンナは顔を引きつらせています。
いい子だわ、と思った直後に筋肉痛の心配をされたからです。
アンナとて、乙女二十歳。
自分から話題にするならともかく、年下の精霊から筋肉痛の話題を振られるのは、慣れていません。
「アンナさん、あのとき、僕によさげな場所があったらまた誘ってって言ったから、一応屋外で歩き回るところにしたけれど……本当にこういうところで良かった?」
「えー……うーん……」
「アンナさんが本好きな事は分かっているけれど、まだ若いんだからもっと外に出て歩かなきゃダメだよ。今から筋肉痛ばかり起こしていたら、体が弱って足が悪くなっちゃうかもしれないよ。普通に歩けないって、凄く大変なんだよ」
ジンには足の悪い母がいます。
そのため、彼も世話焼き気味なので、ついついこういう事を言ってしまうのでした。
「先々の事を考えて……」
「わ、分かってるわよ! 分かってるんだってば!」
ついにアンナはそう叫んで、両手で両方の耳を押さえて体を背けてしまいました。
(分かってないから、同じ事繰り返すんじゃないかなあ……)
若いながらに、そういう事を考えるジン。
それでつい心配になって、何の悪気もなく追い打ちをかけてしまいます。
「あれから、家の片付けはしたの?」
「いやー! 聞かないで! あなた、分かって言ってるでしょう!」
そうすると、アンナはまた体を背けて大声を立てています。
「僕は悪気で言っているんじゃないんだよ。アンナさんの性格は分かっているけれど、アンナさん本人のためを思ってね……」
「それは分かっているから……だから、お母さんみたいな事言わないでよ!」
うーん、とジンは考えこんでしまいます。
(僕達はウィンクルムだから、この先、長いつきあいになるんだし……何でも今すぐ変化を求めるのはやめた方がいいかも……アンナさんも頭では分かっているんだよね? 僕だけじゃなくおばさんもちゃんと言っているみたいだし)
しょうがないなあ、とジンは今日は追及するのはやめました。
「アンナさん、それじゃ次は、どんなところに行きたい? 僕、調べておくよ」
ジンが話題を変えたので、アンナはほっとした表情を見せて、年下の彼に向かいます。
「そうねえ……逆に、ジンくんは行きたいところないの?」
これから二人で、どんなところにだって行けるのです。二人はなりたてのウィンクルム。希望と未来はどこまでも広がっているのですから。
●瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)編
その日、瀬谷 瑞希と精霊のフェルン・ミュラーは大輪の園に訪れました。花を見て回る途中で、彼らは不思議な青年から魔法のお茶を買い取りました。そのときに説明を受けて、それぞれが、それぞれの思う花の前で、お茶を飲んだのでした。
瑞希は印象的なアングレカムの前で。フェルンはあどけない黄色のキンセンカの前で。
……瑞希はフェルンの夢を見ています。
最初に見たのは、フェルンがスノボをしている夢でした。
(ミュラーさんが滑る姿、とてもカッコイイですね……)
あのときは、そう思ったのでした。二人の最初のデートの時です。
次に見たのは、バニーガール姿でトランスした時の夢です。フェルンがバニースーツを用意してくれました。ドタバタと戦って……反省点も多かったけれど。
水龍宮で、ナピナピ達にチョーカーのために愛を示せと言われた事もありました。
(だって、息が出来なかったら……きっとミュラーさん『生命に代えても君だけは護るから』と言って何をしでかす事やら)
瑞希は自信を持ってそう言ったのだし、フェルンは実際にそういう行動を取る男性です。そのときの会話が目の前の出来事のように頭の中を駆け巡って行きます。
そう。二人の愛は感謝から始まる……瑞希はゆっくりとその事を思い返していました。
クリスマスには一緒にショッピングに行って、他愛ないものを見て回って、ケーキを買って……彼に心を込めたプレゼントをして。
そして恋慕石柱やエンゲージ・ボタル。夢想花の記憶--瑞希の心になだれこみます。
ピンク・オレンジ・白に淡く輝く花。
――そして、この光は、今の君の心だよ
耳元で囁いたフェルンの声。
---君の喜びも悲しみも、これからずっと一緒に感じたい。
それに素直な言葉を返した時の自分……
そうした記憶が目の前の出来事として繰り広げられるのです。
そうして知った、彼の過去。
精霊のセヤ。神人の八巻美緒の写真。
二人の記憶、二人の想いを背負って生きるフェルン。
彼女達の想いを受け継ぎたい……瑞希はそのときの気持ちをはっきりと思い返し、渦巻く感情に目を閉じます。
すると、同じぐらいはっきりと、フェルンの心を強く感じました。
――ミズキをなくしたくない……。
(色々な所で、助けて貰って……。
そう言えば、フェルンさんの瞳はいつも私の方を向いていたのね。
いつも気に掛けて貰っていた事……思い出す。
いつか見た写真の記憶…………。
彼の親友を亡くした事。その神人も亡くしてしまった事……。
それがフェルンさんの心の奥底で、澱のように広がっている……。
この夢で分かる事は……)
彼の心をじかに感じ取りながら、瑞希は彼女らしく、ナチュラルに冷徹に相手の事を観察しました。
(セヤさんとの別れ……セヤさんと八巻美緒さんの記憶……こんな別れを何より恐れているのかも。いつまでも一緒に、という彼の想いがよく分かります。私もそうありたい……彼の心とは同じにはなれないけれど、彼の事を理解し、彼とともにありたい)
瑞希は冷徹にフェルンの心を観察する一方で、自分の心にも正直であろうとしています。
一方、フェルンは……
(出会った頃のミズキの印象--人見知りなのかと思った)
その頃、瑞希は都市カロンでギルティに捕らえられた事がありました。
フェルンは他の精霊と協力し、なんとか彼女を救出しました。
安堵感のあまり、フェルンは瑞希を抱き締めたのですが、彼女はわたわたするばかりで、ろくに目も合わせてくれなくて……。
その彼女がスイーツ好きと分かったのは、次の任務の時です。
「チョコバナナ……いいえ、イチゴ生クリーム……でもでもやっぱりチョコバナナ?」
クレープの中身について、人生の選択を迫られるような表情で悩んでいたのですから。
少しずつ、少しずつ、瑞希の事を理解出来るようになりました。
彼女は静かに色々考えている、内向的な性格だったのです。
(でも、俺に対しては……笑って欲しくて)
思い詰めるフェルンの心。
その彼の前に、白い蝶がひらひらと舞うように飛んできました。
蝶は、手紙を携えています。
≪ミュラーさんへ。いつも傍にいてくれてありがとう。
一緒に居るととても楽しいの。そして色々と新しい体験が出来るのも嬉しいわ。
世界には私の知らないこと、まだまだ沢山ありますね。
いろいろな出来事を一緒に過ごしてゆきたいです。
ずっと一緒に過ごせますように≫
彼女の心が書き付けられた手紙。
彼女は、自分の方を向いています。言葉や表情にはっきりと出す事は少ないかもしれませんが、その冷静な瞳は、彼の方を向いているのです。
次に感じ取ったのは『サンライトランデブー』の香りでした。
いつか、二人で出かけていた時に、瑞希が香らせていた香水の匂いです。
時には大人びてみたい瑞希の心。
自然の匂いが好きだと言っていた瑞希。何でも似合うよと告げた自分の心。瑞希には--知的な匂いだって、可愛い匂いだって、なんだって。
そのときに、瑞希は小さな小さな声で自分に告げていました。
「フェルンさんの香り……好きです。凄く惹かれます」
彼女が自覚しているかどうかは分かりませんが、彼女はこんなにフェルンの事を肯定して、受け入れているのです。その感情の波を、フェルンは受け取ります。
(ミズキが他の人とは感じ方が違うのだと自身でも理解していて。他の人と心底理解しあえる事は無いと思ってるけど、それを少し寂しいとも感じていると判ったんだ。だから黙って、皆の役に立とうとする。そっと手を差し伸べるミズキの優しさが見えて……)
フェルンは胸がいっぱいになっていきます。
(でも君は決して一人じゃないのだと、いつか彼女にも感じてもらえるといいな。ずっと一緒に居るから)
やがて、二人は大輪の園で、目を覚まして向かい合いました。
フェルンはアングレカムの星形の花に囲まれながら告げました。
「君の喜びも悲しみも、これからずっと一緒に感じたい」
あのときと同じようにまた同じ言葉を繰り返します。
「はい」
瑞希もあのときと同じように、そう答えました。
風にそよぐキンセンカが静かな香りで二人を満たしていきます。花に守られ、花に祝福されながら、二人は互いの心をまた一つ知ったのでした。
●
--花の守護を受け、花に導かれ、ウィンクルムはまた愛を深め、高めました。
大輪の園に落ちていた『ギルティ・シード』は浄化され、見事に砕け散ったのでした。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:アンジェリカ・リリーホワイト 呼び名:あんじぇ |
名前:真神 呼び名:雪さま、雪之丞さま |
エピソード情報 |
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マスター | 森静流 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | EX |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,500ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 12月01日 |
出発日 | 12月10日 00:00 |
予定納品日 | 12月20日 |
参加者
- 吉坂心優音(五十嵐晃太)
- 瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
- アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
- アンナ・ヘーゲル(ジン・カーディス)
- アンジェリカ・リリーホワイト(真神)
会議室
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2016/12/09-22:40
こんばんは、瀬谷瑞希です。
パートナーはファータのフェルンさんです。
皆さま、よろしくお願いいたします。
綺麗な花が沢山ですね。どの花にしましょうか。 -
2016/12/09-22:21
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2016/12/08-20:51
こんばんは。
アンナと、パートナーのジンくんです。
よろしくね。 -
2016/12/05-00:00
アンジェリカと、雪さま、です。
よろしく、お願いします。 -
2016/12/04-11:55
アラノアとガルヴァンさんです。
よろしくお願いします。
夢を見せてくれる花とお茶、ですか…