【浄罪】愛で彩るクリスマスツリー(木口アキノ マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 ノースガルドの端にある小さな街。
 この季節になると、街の中央にある広場に、大きなクリスマスツリーが飾られる。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。僕からも」
 ツリーの周りにはたくさんの人々が集まっていて、互いに何かを贈り合っている。
 それは、ツリーのオーナメント。
 贈られたオーナメントを、大事そうに持ち、ツリーに飾る。
 恋人同士であったり、大切に想う友人であったり、家族であったり。
 その関係は様々であるが、共通しているのはひとつ。
 そこに『愛』があること。
 自分の愛を込めたオーナメントを贈り、受け取った相手がそれをツリーに飾る。
 そうすることにより、ツリーは愛の力を得て天頂部にある星の飾りを光らせるのだ。
 だが、今年は。
「まだ星が光らないのかなぁ」
 ツリーを見上げる子供が呟く。
 いくらオーナメントを飾っても、星は輝かない。
 人々の『愛』が足りないのだろうか……。

「というわけなんですよ」
 語るのは、件の街出身のA.R.O.A.職員。
「これってきっと、ツリーの近くにギルティ・シードがあるせいだと思うんです」
 その話を聞いたウィンクルムたちも、その可能性が高いと頷く。
「なので、ウィンクルムの皆さんにもこの街でオーナメントを飾ってきてほしいんですよね」
 そうしたら、ウィンクルムの愛の力でギルティ・シードが枯れ、星が光るかもしれない。
「星が光ってなくてもツリーの周りはイルミネーションも綺麗で、デートには良い場所ですから」
 どうですかね、と問われ、ウィンクルムたちは顔を見合わせた。
 愛を込めたオーナメントを贈り合いツリーに飾るこのイベント、ギルティ・シードを枯らすためなら、行ってみても良いかもしれないーーー?

解説

パートナーとお互いに『愛』を込めたオーナメントを贈り合って飾り、ツリーの星を光らせてください。
贈ることができるオーナメントは以下の5つです。お好きなものを選んで、広場の売場で購入してください。
・リボン……200jr。「大好き」の意味が込められています。色はお好みで。
・ジンジャーブレッドマン……300jr。「あなたの幸せを願っています」の意味が込められています。
・ベル……300jr。「ずっと一緒に」の意味が込められています。色はお好みで。
・柊……200jr。「魔除け」の意味が込められています。
・ボール……300jr。「楽しい!」の意味が込められています。色はお好みで。
オーナメントに込められている意味は、この街特有のもののようです。

ツリーの周りには、ホットココアを50jrで提供してくれる屋台もありますので、暖まりたい時にはどうぞ。

この場所で素敵なデートが成功すれば、ツリーの星も光るかもしれません!
基本的に個別描写となります。

ゲームマスターより

恋人だけではなく、友達や家族に対してなど、愛にはいろいろ種類がありますね。
どなた様もお気軽に参加していただけたら、と思います。
一緒にツリーを飾りましょう!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)

  クリスマスか、もうそんな季節なんだな

屋台で悩んでいる相方はまだまだ時間がかかりそうなので
ホットココアを2人分調達して戻れば悩み続ける姿に苦笑
……欲張るとご利益ないんじゃないか?
さて、俺はどうするか
ジンジャーブレッドマン……あぁ、いや
あいつの、幸せというなら。
……こっちに、するか。あいつの目と、同じ色の。

イグニス、決めたか?
じゃあ贈り合いだな
(銀のベルを受け取り)
あぁ、ありがと、な。相変わらず直球だな……
(くすぐったそうに笑い)
俺か、あー……ん。
(押し付ける様に。青いリボンを渡して)
あーくそいい笑顔しやがって!ほら!飾るぞ!
(照れ隠しで叫びつつ)
ずっと一緒にいられるように。
星に願いを、なんてな


むつば(めるべ)
  「……くだらぬ。めるへの愛なぞ、わらわには」
否、違ったか。
如何なる形であれ、互いを思う気持ちが見えるなら、それ自体が愛だったんじゃと思う故。

ジンジャーブレッドマンに柊を添え、めるに手渡す。

「その生姜パン男(ジンジャーブレッドマンの事)に、一人一人の幸福を願おうと思う」
その為にもウィンクルムは。
わらわ達は、この柊のように、悪しきものから、皆を守るのじゃ。
めるの返答に頷く。

オーナメントを飾った後は、屋台に入ってホットココアを飲む。
目を伏せながら、めるに答える。

「この世に蔓延る悪は、己の考え次第。見方によっては、善に変えられると思うておる」

じゃが、今の悪には打ち勝たねばな。人の為に、そして己の為に。


鳥飼(隼)
  愛の力でツリーの星が光るなんて。ロマンチックですね。
ウィンクルムになるまで。そういう不思議なものはないと思ってたんですけど。
思ってたより、世の中不思議なことがいっぱいですね。(柔和な笑み

オーナメントは、ジンジャーブレッドマンを買います。
隼さんが幸せであるように。はい、交換です。(渡す
ふふ、こういうことができるのって。なんだか嬉しいです。(オーナメントを両手で持って眺める

もうたくさん飾ってありますね。
あの辺りがまだ少ないような。でも、僕じゃ手が届かないです。
「隼さん?」
ありがとうございます。(目を見て笑顔でお礼

さすがに冷えますし。ココアを飲みませんか?
甘いものは平気でしたよね。僕、買ってきます。


アイオライト・セプテンバー(ヴァンデミエール)
  わーいおっきいツリーだ
今でも素敵だけど、これがキラキラしたらきっともっと素敵だねー

あたし、ジンジャーブレッドマンをじーじにプレゼントする!
かわいいから!(意味とか深く考えてない
ブレッドマンにアイシングで絵を足してもいいのかな?
じーじの似顔絵描いたらかわいいと思うの
それに、クッキーでもぱんつがなかったら可哀想だし、あたしが穿かせてあげるね
(↑本音)

はいっ、じーじ、プレゼント
あんまり上手に描けなかったけど、一生懸命がんばったんだよっ
じーじのはかわいいベルだー
なにか結んであるけど、これお手紙?
開けていいの?

ツリーさん、可愛くしてあげるから待っててね

※アイシングに掛かった費用は、お手数ですがジェールを引いてください


シムレス(ロックリーン)
  ツリーの前

前世の話を興味深く聞く
猫が虎になったのかと聞けば護る為には大きい方がいいと思ったからかなと笑顔を見せる彼に
何であれこの縁を大切にしたいという感謝が溢れる
そっと手を彼の頬に添えこれからも一緒に居てくれと微笑で告げる
目を潤ませるので頭も撫でてやる
嬉しそうな顔をするので本当に猫の様だ

察してくれて頷く
自分勝手な神人に寄り添い尽くしてくれる二人の精霊の為に神人の浄化の祈りを込めて1つを彼に渡す
今ノースガルドで起きている危機的事象を憂い瘴気から自分の精霊を守りたい想いを告げる

贈り合い2人でツリーに飾る
受け取ったホットココアを飲む
大男のもじもじ姿は…微笑ましいと思っておく
ああ気が向いたらな
微笑



 イルミネーションの光を反射する大きなツリーを前に、ロックリーンはシムレスに白銀のベルを掲げて見せた。
 そのオーナメントに込められた意味は、『ずっと一緒に』。
 ロックリーンは静かに口を開いた。
「最近解明された碑文に、『前世の縁』って記されていたよね。僕の前世はシムさんに飼われていた猫なんじゃないかな」
「ほう」
 シムレスは僅かに眉を上げる。
「きっと僕は、大好きなご主人様ともっと一緒にいたくて、精霊に生まれ変わったんだよ」
「猫が虎になったのか」
 その通り、ロックリーンはホワイトタイガーのテイルスだ。
 その美しい尻尾をぱたりと振って、
「護る為には大きい方がいいと思ったからかな」
 と照れたように笑う。
 こうやって「護りたい」と言ってくれる彼には素直にありがたいと思う。
 前世からの縁が本当にあるのかどうか、シムレスには確かめる術はないが、彼との縁を大切にしたいと思う。
 シムレスは感謝の気持ちを込め、そっとロックリーンの頰に手を添え伝えた。
 その途端、ロックリーンの胸には魂が震えるような歓喜の念が湧き上がる。
 シムレスが優しく告げる。
「これからも一緒にいてくれ」
 真っ直ぐにロックリーンを見つめる赤紫の双眸が優しく細められる。ロックリーンは、幸せに瞳が潤んでいくのを止められない。
 ロックリーンの嬉しそうな様子に、シムレスはさらに彼の白く輝く髪を撫でてやると、今度はロックリーンがその双眸を細めた。その様子が本当に猫のようで。
 同時にロックリーンも、自分のことを(やっぱり猫だ)と思う。
 髪を撫でるシムレスの手。
(僕はこれを待ってた気がする)
 シムレスはロックリーンを撫でていた手で白銀のベルを受け取ると、代わりに彼に、柊のオーナメントを2つ、差し出した。
 ロックリーンは2つの柊をじっと見つめる。
「魔除け……僕等がオーガに堕ちない為の祈りだ」
 静かな声で言うと、シムレスはその通りだ頷く。
「2つある。もう1つはソドのだね」
 大切なものを両手でそっと包み込むようにして、ロックリーンは2つあるうちの1つを受け取る。
 柊を手渡す際に、シムレスは祈りを込めた。自分勝手な神人に寄り添い尽くしてくれる2人の精霊の為に、神人の浄化の祈りを。
「今ノースガルドでは危機的事象が起きている。俺は瘴気から自分の精霊を守りたい」
 真摯な瞳で告げると。
「大丈夫だよ」
 ロックリーンは笑顔で強く頷いた。
 白銀のベルと柊は、2人の想いを乗せて、ツリーに飾られた。
「シムさん、少し休もうよ」
 疲れやすいシムレスを慮って、ロックリーンは近くのベンチを指差す。
「ココア買ってくるから、待っていて」
 ロックリーンは小走りで屋台からホットココアを2つ買ってきた。
「ありがとう」
 シムレスはココアを受け取り、一口飲んで息を吐く。
 白い息がふわりと散って。その向こうに見えるクリスマスツリーを眺める。
 隣に座ったロックリーンが
「その……」
 と小さな声で呟くので、シムレスは先を促すようにロックリーンの方を向いた。
 ロックリーンは視線を泳がせココアのカップを持つ指をもじもじ動かしながら、
「また気が向いたら撫でてくれたら嬉しいな」
 とやはり小さな声で続ける。
 大男が体を縮こめ乙女のようにもじもじしている姿……。
(微笑ましいと思っておくか)
 シムレスは微かに笑み、
「ああ気が向いたらな」
 と返答した。
 ロックリーンはぱぁっと表情を明るくすると顔を上げ、
「ねぇ、ソドリーンも呼ぼうよ。そして、3人でツリー見よう」
 と、嬉しそうに言うのであった。


「今回は愛を込めて贈るらしいのぅ、むつ」
 めるべは、売り場に並んだオーナメントを1つ1つ手に取りながら、からかうようにむつばに言った。
 むつばは冷めた視線を返す。
「……くだらぬ。めるへの愛なぞ、わらわには」
「何じゃ?恥じる事か?」
 からかう口調に遮られ、むつばは口を閉ざす。
 別に恥じているつもりはない。
 だが、『愛』という言葉を特別視し、少し身構えすぎてしまっていたかもしれない。
「如何なる形であれ、互いを思う気持ちが見えるなら、それ自体が愛だったんじゃ」
 と、むつばは思い直す。『互いを思う』。その気持ちであれば、むつばの中にももちろん存在している。
 むつばはめるべと並んでオーナメントを選び始めた。
 紫の髪を指に絡ませ思案した後、むつばが手を伸ばしたのはジンジャーブレッドマンと柊だった。
 めるべを見やると彼も丁度オーナメントを選び終わり、会計を済ませるところであった。
「つりーを見ると、ます釣りをしたくなるのぅ」
「クリスますつりーなだけにな」
 めるべの駄洒落にむつばは程よく合いの手を入れる。
 そんな他愛も無い会話をしつつクリスマスツリーの下まで歩いてゆく。
 むつばはめるべに向き直ると、柊を添えたジンジャーブレッドマンを差し出した。
「ほぅ……」
 めるべは興味深げな顔をして、オーナメントを受け取る。
「何故これを選ぶ?」
 問われ、答える。
「その生姜パン男に、一人一人の幸福を願おうと思う」
 むつばの瞳には強い意志が宿っていた。
「その為にもウィンクルムは。わらわ達は、この柊のように、悪しきものから、皆を守るのじゃ」
 人々の幸福を守る者でありたい。それが、ウィンクルムとしてのむつばの願い。
 ちなみに生姜パン男というのは、ジンジャーブレッドマンのことである。
「成程、人の幸せの為に、悪しきものを討つ柊となるのか」
 2つのオーナメントを掲げ見るめるべに、むつばはしっかりと頷いた。
「わしからは……」
 と、めるべが差し出したのは、金のベル。ベルには小さい紫のボールと黄色のボールが飾ってある。
「愛かどうかは兎も角、細く長くお主と二人でいられれば、わしはそれで良い」
 80年以上の歳月を生きて尚、この先も長く共にいたいと思える相手と出会えたこと、それだけでも幸せな奇跡だ。
 むつばは返事の代わりに双眸を細めると、オーナメントを受け取り、それをそっと、ツリーの枝に結わえつけた。

「むつよ、人は人、己は己と割り切るお主が何故今回の事になった?」
 屋台でホットココアを飲みながら、めるべは問う。
 むつばは一口ココアを飲み下すと、目を伏せながら、それに答える。
「この世に蔓延る悪は、己の考え次第。見方によっては、善に変えられると思うておる」
 むつばの伏せられた睫毛をイルミネーションの光が彩った。
「じゃが、今の悪には打ち勝たねばな。人の為に、そして己の為に」
 人は人、己は己。だが、『人の為』が『己の為』にもなることがあるのだ。
 むつばのその言葉にめるべは頷く。
「お主が人を悪しきものから守るなら、わしは、そのお主に寄り添い、支える」
 めるべがむつばの横顔に、静かに、しかししっかりと告げる。
「何れにしろ、奴等の行いは悪行に他ならぬわ。わしらはわしらで、出来る事を成すまで」
 めるべの言葉にむつばは顔を上げ、見つめ合って互いの意思を確認した。
 2人は決意を新たにするように、天に向かってココアのカップを掲げる。


「わーいおっきいツリーだ」
 満面の笑顔のアイオライト・セプテンバーは両腕を広げてツリーを仰ぎ見る。
「今でも素敵だけど、これがキラキラしたらきっともっと素敵だねー」
 なんて、自身の瞳の方をキラキラさせて、今度はヴァンデミエールの顔を見上げた。
「ああ、本当に素敵なツリーだ」
 ヴァンデミエールはアイオライトと視線を合わせると、目尻の皺を深くして笑う。
「僕らもツリーに負けないよう精進しないと」
 アイオライトは素直に頷くと、ヴァンデミエールの袖を引きつつくるりと身を翻す。金色の髪がぱっと広がる。
「じーじ、オーナメント選びに行こう!」
 ヴァンデミエールはアイオライトに引っ張られながらも笑顔でともに売り場へと足を運んだ。
 商品が並ぶ台をざっと眺めると、アイオライトは
「あたし、ジンジャーブレッドマンをじーじにプレゼントする!」
 と、オーナメントを1つ手に取った。
「かわいいから!」
 どうやらアイオライトはオーナメントに込められた意味等は深く考えず、ほぼ直感でこのオーナメントを選んだようだ。
 対しヴァンデミエールは商品1つ1つを吟味し、じっくり考えながら選んでいる様子。
「ブレッドマンにアイシングで絵を足したりできるかな?」
 アイオライトは売り場担当の中年女性に訪ねる。
「アイシング?」
 女性が聞き返すと、アイオライトは目を輝かせて頷く。
「じーじの似顔絵描いたらかわいいと思うの」
 幼子の愛らしい要求に、売り場の女性はうーんと唸る。この場にアイシングの道具は置いていないからだ。
「それに、クッキーでもぱんつがなかったら可哀想だし、あたしが穿かせてあげたいの!」
 一層真剣な顔で迫るアイオライト。
 その勢いに、
「それなら」
 と、女性は手を打つ。
 そして、アイオライトをココア屋台に連れて行くと、ココア屋台の店主と話をする。
「アイシングの代わりに、これで絵を描くのはどう?」
 それは、濃く溶かれたココア。それを楊枝で掬い、楊枝の先でジンジャーブレッドマンに模様をつける。
 アイオライトは表情を明るくさせる。
「ありがとう、おねーさん!」
 お礼を言うと、ココア屋台の内側の簡易キッチンスペースを借りてジンジャーブレッドマンに向き合った。
 その間、ヴァンデミエールはゆっくりオーナメントを吟味している。
「ふむ……ベルがいいかな。そう、色はゴールドで」
 ゴールドはアイオライトの好きな色だから。
 ゴールドのベルにも色々あった。その中からヴァンデミエールが選んだのは、形はオーソドックスながらも全体に蔦のような彫刻が施されているもの。
 アンティーク趣味のヴァンデミエールらしい、渋みのある選択だ。
 思い通りのオーナメントを見つけたことに満足したヴァンデミエールが周囲に目を向けると、アイオライトの姿が見えない。
 視線を巡らせ、ココア屋台の奥にやっと見つけたアイオライトは、なにやら一生懸命に作業をしていて。
「……おや、嬢はなにか付け足しているようだね」
 アイオライトの真剣な様子に眦を細める。
「じゃあ、僕も真似させてもらおう」
 ヴァンデミエールは売り場の者に頼んで、メモ用紙を1枚貰い、ペンを貸してもらう。
 メモ用紙は細長く切って。そこにすらすらとペンを走らせる。
 書き終わると、細長いメモ用紙でこよりを作り、購入したベルの持ち手に結わえつけた。
 やがて、跳ねるように走ってきたアイオライトが、喜色満面でヴァンデミエールにオーナメントを差し出す。
「はいっ、じーじ、プレゼント」
 小さな掌に乗ったジンジャーブレッドマンには、笑みを湛えて目尻に皺のある顔と可愛らしいぱんつが描かれていた。
「あんまり上手に描けなかったけど、一生懸命がんばったんだよっ」
「やあ、嬢らしいジンジャーマンが出来たね」
 ヴァンデミエールはアイオライトのジンジャーブレッドマンそっくりの笑い方をしてそれを受け取ると、空いた掌にはベルを乗せてやった。
「じーじのはかわいいベルだー。なにか結んであるけど、これお手紙?」
 早速、ヴァンデミエールが結わえつけたこよりを見つける。
「開けていいの?」
 小首を傾げて訊けば、ヴァンデミエールはそっと首を振る。
「手紙は開けちゃダメだよ。秘すれば花ともいうだろう?」
 優しく言われ、手紙を開けるのは我慢したアイオライトだが、やはり中身が気になる様子で、納得いかないといった表情。
 ヴァンデミエールはふふっと笑う。
「ちょっとだけヒントをあげよう。『ずっと一緒に』……つまり、そういうことさ」
 手紙は読めなくとも、ヴァンデミエールの気持ちは伝わった。アイオライトはみるみるうちに笑顔になる。
「あとは飾り付けだけだ」
 ヴァンデミエールが言うと、アイオライトは元気に頷く。
「ツリーさん、可愛くしてあげるから待っててね」
 アイオライトはヴァンデミエールの手を引いて、スキップしながらツリーの下へ。
 ヴァンデミエールに支えてもらって思いっきり背伸びをし、可能な限りの高い場所へ、金に輝くベルを飾ったのだった。


「愛の力でツリーの星が光るなんて。ロマンチックですね」
 鳥飼のその言葉は、もしかしたら同意を求めていたのかもしれない。だが、隼は何も答えなかった。
 ロマンチックであるかどうかなんて、隼には分からなかった。
 主は楽しんでいるらしい、ということは、これは恐らく良い事なんだろう。とその程度の認識であった。
「ウィンクルムになるまで。そういう不思議なものはないと思ってたんですけど。思ってたより、世の中不思議なことがいっぱいですね」
 と、鳥飼の柔和な笑みが向けられる。
 その点については隼も同意であった。
 そしてそれは、隼が描いていたウィンクルム像に違和感を生じさせる原因でもあった。
 不可思議な事象も多いが、考えていた以上に、オーガと戦う事が少ないと感じるのだ。
思っていたのと違う。
(それでも、俺の役割に変わりはない)
 隼は無言で一度、目を伏せた。
 オーナメント売り場に来ると、鳥飼は楽しそうに商品を選び始める。
 そんな鳥飼を眺め、隼は胸中で呟く。
(愛を込める、か)
 隼は柊を手に取った。
 鳥飼に対する愛があるとすれば、それは一体どんな愛なのだろう。
 敬愛も親愛も遠い。友愛も何かが違う。
「隼さんが幸せであるように。はい、交換です」
 にこやかに、鳥飼は購入したジンジャーブレッドマンを隼に手渡す。
 隼はそれを受け取ると、自分は柊を鳥飼に渡した。
「ふふ、こういうことができるのって。なんだか嬉しいです」
 鳥飼は柊のオーナメントを両手で持ち、瞳を細めてそれを眺めている。
 鳥飼に対する気持ちがどんなものであるか答えは分からない。
 だが、当初に比べ。何かは変化してるんだろう。
 隼は、オーナメントを眺める鳥飼の微笑みを見遣りそう思うのだった。

 それぞれ交換したオーナメントを持ちクリスマスツリーに近づけば。
「もうたくさん飾ってありますね」
 鳥飼は多量の装飾に若干驚く。
 それだけたくさんの人が、想いを込めているのだ。
「あの辺りがまだ少ないような。でも、僕じゃ手が届かないです」
 鳥飼はツリーの上方を眺め残念そうに言う。それでも諦めきれず、オーナメントを持つ手を可能な限り上に伸ばす。
 隼は鳥飼の視線を追い、それから伸ばされる手を見て、彼が何をしたいのかを察した。
 そして、動く。
 隼にとって、神人とは自分の上に立ち指示する存在。神人が命じれば、それに応じて動く。そこに隼の意思は要らない。そう、幼少の頃から教え込まれていた。
 だけど今は。
 命じられてもいない。する必要もない。
 隼の意思で、その手は動いた。
「……」
 無言で鳥飼の手からオーナメントを抜き取る。
「隼さん?」
 不思議そうな顔の鳥飼だったが、隼が、彼の代わりにオーナメントをツリーに飾ると表情を緩めた。
 隼はついでのようにジンジャーブレッドマンのオーナメントもツリーに飾る。
 ……鳥飼の柊からはほんの少し離して。
 飾り終えた隼が視線に気づき鳥飼の方へ顔を向けると。
「ありがとうございます」
 隼の目を、細められた薄青の瞳がじっと見つめてきた。
「……」
 隼は数秒鳥飼と視線を交わしたが、そのまま無言で目を逸らす。
 鳥飼は視線を逸らされたことを気にする様子もなく。
「さすがに冷えますし。ココアを飲みませんか?」
 隼が視線を鳥飼に戻す。鳥飼は隼の返事は待たずに、
「甘いものは平気でしたよね。僕、買ってきます」
 と、屋台に駆けていく。
 金色の長い三つ編みがぴょんぴょん跳ねた。甘いココアを心待ちにしているように。
 その後ろ姿に、隼は思わず零す。
「子供か」


「クリスマスですねえ!」
 いかにも『クリスマス』といった装飾の数々は、イグニス=アルデバランの心をわくわくさせた。
「クリスマスか、もうそんな季節なんだな」
 初瀬=秀はもうはや年の瀬が近い事を感じ、そう零す。
「イルミネーションも綺麗ですけど、あの星が光ったらきっともっと綺麗ですよね!」
 イグニスがツリーの天辺を指差す。
 秀は肯定するように瞳を細めた。
 秀への愛には絶対の自信を持つイグニスは、早速オーナメントを選びにかかる。
が。
「リボン……やっぱりベル?あ、ジンジャーブレッドマンも良いですよね」
 商品が並ぶ棚の前を右往左往し始めるイグニスの様子に、秀は苦笑交じりのため息を漏らす。
(まだまだ時間がかかりそうだな)
「イグニス。俺はホットココアを買ってくるからな」
 そう言い置いて、ココアの屋台に足を向けた。
 秀がホットココアを2人分購入しオーナメント売場に戻ってきてみれば、イグニスは先ほどと同じ表情で頭をひねっていたので、秀はまたもや苦笑する。
「こういうお願い事はいつもはすぐ決まるのですが。今回のオーナメントは悩みどころ」
 ぶつぶつ呟くイグニスは、ココアを持って戻ってきた秀に気づくとさっと表情が晴れる。
「あ、秀様おかえりなさーいわーいココア!」
 ココアを受け取ったイグニスは、まだ熱い中身にふうふうと息を吹きかけながら訴える。
「まだ決まってないです、だって伝えたい気持ちがたくさんで……」
 秀への愛がいっぱいありすぎて、ひとつのオーナメントに収まりきりそうにないのだ。
「うーん、リボンをつけてベルを持ったジンジャーブレッドマン……?」
「……欲張るとご利益ないんじゃないか?」
「え、それは困ります!」
 焦ったイグニスはまた、オーナメントと真剣に向き合った。
「さて、俺はどうするか」
 秀はしばし考え込むと、ジンジャーブレッドマンに手を伸ばしかける。
「そちらになさいますか?」
 売場の店員から声がかかる。
「……あぁ、いや」
 秀は伸ばしかけた手を止めた。
(あいつの、幸せというなら)
「……こっちに、するか」
 あいつの目と、同じ色の。
 オーナメントを選ぶ秀の唇の端に、優しい笑みがこぼれた。

 ココアも飲みきってしまった頃に、秀は声をかける。
「イグニス、決めたか?」
「はい!」
 イグニスは真剣な表情でしっかと頷く。
 その様子に軽く笑み、
「じゃあ贈り合いだな」
 と、秀が促し、2人は歩き始めた。
 クリスマスツリーの下に立ち、イグニスは銀色のベルを差し出した。
「秀様の目の色とお揃い!ふふー、この先もずっと一緒!ですよ!」
 イグニスはこの上なく幸せそうに、笑う。
「あぁ、ありがと、な。相変わらず直球だな……」
 その直球が、照れくさくもあり、嬉しくもあり。ベルを受け取った秀はくすぐったいような笑みを漏らす。
「で、秀様は……?」
 期待に満ちた子犬のようなキラキラした瞳でイグニスに見つめられ、秀は言葉を濁す。
「俺か、あー……ん」
 秀は唇をへの字に曲げイグニスから視線を逸らすと、イグニスの胸に押し付けるようにして、オーナメントを渡す。
 青い、リボン。
 イグニスは受け取ったオーナメントを最初はきょとんとした顔で見つめる。
(リボンの意味、は)
 ……『大好き』。
「~~~!!」
 イグニスの瞳が細まり、口角がきゅうっと上がる。
 みるみるうちに満面の笑顔になる。
「私も!大好き!です!」
 その場でびょんびょん飛び跳ねそうな勢いでイグニスは言う。
「あーくそいい笑顔しやがって!ほら!飾るぞ!」
 秀は照れ隠しに叫び、視線でツリーを指し示す。
 イグニスはぶんぶん音が立ちそうなほどに頷いた。
「一番いい位置に飾りましょうね!」
 イグニスはなるべく高い位置であまりオーナメントの飾られていない場所を探し出す。
「この辺にしませんか!」
 秀は頷くと、2人分並んでオーナメントを飾り付ける。
(ずっと一緒にいられるように)
 飾ったベルは、手を離すと微かに揺れた。
「星に願いを、なんてな」
 2つ並んだオーナメントに、そう呟いた。


 どこかで瘴気を孕んだ種がぱきりと割れた。
 それは誰にも気付かれなかったけれど。

 ツリーの頂上の星はやがて明滅し、徐々に確かな光を放ち始めた。
 人々の口から歓声が溢れる。
 誰もが皆、ツリーを、星を見上げた。
 それは、この場を訪れていたウィンクルムたちも同様で。
 星は一際明るく輝き、オーナメントで飾られたツリーを冬の夜に浮かび上がらせたのだった。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 木口アキノ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 11月12日
出発日 11月18日 00:00
予定納品日 11月28日

参加者

会議室

  • [3]むつば

    2016/11/16-12:43 

    むつばと申す。
    シムレス達は初対面かのう。よろしく。

    愛となると重く考えちじゃが、意外と単純なものかもしれぬ。
    有意義なクリスマスが過ごせればよいが。

  • [2]鳥飼

    2016/11/16-12:43 

  • [1]シムレス

    2016/11/15-17:34 

    シムレスとパートナーはロックリーン。
    よろしく。


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