【浄罪】図書館にて(梅都鈴里 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

「……なあ」
「んー……?」
「今日はこの後隣のカフェに行くんじゃなかったのか?」
「うん……」

 話しかける神人に、精霊は生返事ばかりだ。
 首都タブロスの片端に位置する図書館で、ギルティシードと思しき種が見つかったと、館の所有者から連絡があった。
 種を枯らす為には愛の力を高める必要がある。
 二人でデートをしよう、という趣旨で出向いた筈だったのに、彼はひとりすっかり本の虫と化してしまった。

「それ面白い?」
「うん、面白い」
「どこが? どんな風に?」
「うーん……読んで見る?」
「いや……俺はお前から教えてもらいたいんだけど」
「そっか……」
「………」

 彼はすっかり本の世界の住人だ。
 しびれを切らして、神人は立ち上がった。

「もう、知らないからな!」
「うん」
「一人で行っちゃうからな!?」
「うーん……それは困る」
「――わっ!?」

 話を聞いていなかったと思ったら聞いていたようで、ぐい、と腰を引かれて肩口に抱き寄せられてしまった。
 片手で本を読みつつ、片手間に頭を撫でている。とはいえ神人にはやる事がない。
 頭を撫でてくれる手は心地いいけれど、ずっとこの状態なのはつまらない。

(どうしようかな……)

 きょろ、と館内を見回せば興味を惹きそうな本はたくさんある。
 折角二人で居るけれど、自分も何か一冊くらい読んでもいいかもしれない。

 彼の手元を覗き込めば、彼の趣味に見合うたくさんの事。
 興味はなかったけれど、コレを期に一緒に知ってみるのもいいかもしれない。
 だって本来の目的はそもそもデートして愛を深め合うこと、なんだから。

 さて、あなたはどんな一日にする?



解説

ギルティ・シードを枯らす為に図書館でデートをしてください。
無理に本だけ読まなくてもいいです。途中で出てどっか行っても。
冒頭は一例なので、神人が本の虫になるでも、二人で最初から何か読んでてもいいです。
読むジャンルはなんでもかまいません。漫画でも小説でも図鑑でも。
どんなプランでも新密度が上がれば最終的にここの種は枯れます。
とにかく、図書館デートをご自由に過ごしてください。

・プランにいるもの
何をどんな風に読むのか
その際のパートナーのリアクション、など。

・個別描写となります。

・入館料で300jr.消費しました。


ゲームマスターより

お世話になります、梅都です。
膨大な情報の眠る図書館に恋人や大切な人と行くと、相手の意外な趣味や共通の好みがわかったりして面白いなぁと思います。
女性側のシナリオをイベント用に焼き直したものになりますが、よければお気軽にどうぞ。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アイオライト・セプテンバー(白露)

  パパが図書館行くならあたしも行くっ
ちゃんと良い子にできるもん

じゃ、あたしもあたしの本探してくるね
子どもコーナーなんか行かないよ
レディーの御本を探すんだもん
ファッションとかメイクとかしっかり研究して、大人の悪女になる方法を探すぞっ
ふむふむ、いろいろあるなあ
わーこの髪型かわいいーこの服もきれーい

あ、静かにしないといけないんだっけ
でも、静かにしてるの飽きちゃったから、パパのとこに戻ろうっと

ねー、パパはどんな本読んでたの?
すごく難しそうな絵本だね
裸の女の人もいるけど、パパはやっぱりこういうグラマーなほうが好き?

パパの趣味(?)も分かったし、レディのお勉強も出来たし、今日のあたしってがんばりやさん♪


西園寺優純絆(ルーカス・ウェル・ファブレ)
  ☆児童書や絵本系

☆途中で飽きてくるタイプ

(あくびをしながら伸びをする
「ふぁ~……(目を擦る
あきちゃった…(チラリと精霊を見る
パパー、読み終わったー?
むぅー…パパぁ、もう帰ろうよー
ユズ疲れたのだよぉ…
……うん聞いてないのだよ(溜息
もぅ!パパ、こうなったらテコでも動かないし…(うつらうつら
はふぅ…ねむい、のだよ…(机に突っ伏すして寝てしまう」

(幸せな夢を見ながらも徐々に覚醒
「ん、ぅ…ぱぁ、ぱ?
ぁ、ゆず、寝ちゃってた…?
うん!あのね、ユズの本当の両親がパパとママで色んな場所に旅行行ったり遊んだり…
そう言えば、ルキフェルって呼ばれた様な?
はぁ…本当にユズの両親だったら、良かったのに、なぁ…(ボソ」


セラフィム・ロイス(トキワ)
  図書館行かない?あ、忙しいなら他のウィンクルムが向かうと思うしいいんだ

・・・向いてないから(目を逸らし


僕は回ってくるよ。また後で


久しぶりだ落ち着く
心の構え方や絵本、動物図鑑、夢物語に焦がれて本の虫になっていたっけ
病弱で心が潰れそうな時の居場所だった。その度に付き添わせて
・・・今は今で充実してて、勉強以外で来る事は減ったけど

昔の本を探すのもいいけどこれも出会いだよね(目に付いたのを取り
編み物本、料理本、冒険小説、虎の図鑑、動物の絵本
を取り


トキワの隣で読む)あった?
うん■絵本は大人げないと思い真ん中に隠し
トキワのも見ていい?相変わらずサスペンス多いんだ。これ綺麗・・・(読み

・・・うん?
(赤面


カイエル・シェナー(イヴァエル)
  兄様とデート……ぞっとしないな
些細な会話等の積み重ねも大切なのだろうが、向かい合ってテーブルに腰を掛けても、この臓腑を掴まれているような落ち着かなさだけはどうしようもない

緊張から、
「すまない、イヴァエル。せっかくの図書館だ、1冊持って来ても構わないだろうか?」と
互い1冊ずつ本を取ってくる事に

自分は輝石装飾の写真付きの図録を
本を眺め終えて、気付けば次に持ってこようと思った本が机の上に置かれていた

兄様は、先と違う本を読んでいる
不思議に思いながらそれを読み終えると、また次に読もうと思っていた本が置かれていた
そして無心に読んだ最後の本には
添えられた兄様の手が

こちらの趣向は丸分かりという事か
…恥ずかしい


柳 恭樹(ハーランド)
  過去の新聞から、大規模戦の被害とAROAやウィンクルムへの評価とコメントを調べる。
2年前のギルティ復活時と、前回の旧タブロス市街は確実に確認する。
10数年前からオーガ被害か増えているとはいえ、この2年の被害は尋常じゃないな。

「ここは図書館だ。静かにしろ」
わかりやすく溜息を一つ吐く。言い分は一理ある。
知りたい事は調べた。広げた新聞は畳む。
精霊を見据える。「なら、お前のお勧めでも教えろ」

横目で一瞥し、世界史のコーナーへ行きミッドランドの世界史を持って席に戻る。
「お前が知りたいと言ったんだろう」
人体の急所? 随分と物騒な本が置いてあるんだな。
受け取り、座って読む。

「……黙れ」素直に肯定できる訳もない。



「パパが図書館行くならあたしも行くっ! ちゃんと良い子にできるもん!」
 ぐずる息子――否、娘であり神人でもあるアイオライト・セプテンバーに押し負けて、精霊、白露は共に図書館へと赴いた。
 図書館なんて久し振りだ、と思う。
 日々忙しなく働いていると、こんな口実でもなければそうそう来る機会もない場所だ。
「料理の本に目を通したいですねえ。この頃夕食のレパートリーがマンネリ気味ですから、何かヒントになるようなものが……」
「あたし、パパのごはんならなんでも美味しいよ?」
「ふふ、ありがとうアイ。しかし……」
 ――最近、自分の考え方がすっかり主夫じみているのが恐ろしくなる、と。
 嘆息するもご機嫌にレシピ本など見ながら、パパこれ作ってー! とはしゃぐ無邪気な子供を見れば、僅かな陰鬱も吹き飛ぶのであった。

「あたしもあたしの本探してくるね」
「外に出たり、うるさくしたりしてはいけませんよ?」
「パパ子供扱いしてるー! 子供コーナーなんか行かないよっ」

 レディの御本を探すんだもん! と、一つ頬を膨らませてぴょこりと椅子を飛び降りたアイオライトは、白露の心配など知らん顔でトコトコとコーナーを散策する。
 足を向けた先には『レディース向け雑誌』等と記された棚がある。
 アイオライトの小さな手には余る大きな雑誌を手に取り、ぱらぱらと開いた。
「ふむふむ、いろいろあるなあ。あっ、この髪型かわいい! この服もきれーい!」
 ざっくり読み終えたら、また次の本を手に取る。
 コレを機にファッションやメイクをしっかり研究して、大人の悪女になる方法を探すぞ! というのが、アイオライトの目的だ。
「あ、静かにしないといけないんだっけ」
 ふと周囲の空気に気付いて唇を引き結び、黙々と記事に目を通すも数分と持たず。
「黙ってるの飽きちゃった。パパのとこ戻ろうっと!」
 小走りにパートナーの下へ戻れば、白露も丁度新しい書籍を開いているところだった。
「アイ、おかえりなさい」
「ただいまっ。パパどんな本読んでたの?」
 白露の手元を覗き込むと、大きな額縁の絵の下に小さな文字がこまごまと羅列していて、細めた目を擦った。
「すごく難しそうな絵本だねー……」
「これは画集といって、いろんな絵画が載っているんですよ。ほら、綺麗な絵がたくさんあるでしょう?」
 白露は関心深そうに読んでいるが、アイオライトには何が良いのかさっぱりわからない。
 抽象画と描かれたページから現代風作家のカテゴリに移り、ふと目に付いたページにふとアイオライトが食い入った。
「パパはやっぱり、こういうグラマーな方が好き?」
「えっ?」
 促されて目線を遣れば、ページいっぱいに裸婦画の肖像が描かれている。
 別に恥ずかしいものを見ているわけではないのに、アイオライトの言葉が意図する所に気付いて、白露は慌てて首を横に振った。
「い、いえ別に、これは芸術の一環で、わたし個人の趣味では……」
「ふむふむそっかー。こういう、ぼんきゅっぼんっな人が、やっぱりパパもいいんだね!」
「あ、アイっ! 少し、声を小さめに……!」
 周囲から小さく笑い声が漏れ始めて、しーっと人差し指を立てる白露の思いなどやはり知らん顔で、アイオライトは美術書――の些か偏ったページを、ひたすら読みふけったのだった。

「パパの趣味も分かったし、レディのお勉強も出来たし。今日のあたしって、がんばりやさん!」
「果てしない誤解が生まれた気もしますが……」
 図書館からの帰り道、げんなりと肩を落とす白露の隣で、アイオライトは鼻歌交じりにご機嫌の様子だ。
 かわいいムスメが楽しそうならば、こんな日も悪くないな、と、夕陽を眺めつつ繋いだ手のぬくもりに思いを寄せる。
「穏やかで、良い時間が過ごせました。また一緒に行きましょうね」
「うん!」


「ふわぁ~~~~……」
 手元に本を広げたまま、大きく伸び上がりながら欠伸するのは神人、西園寺優純絆。
 パートナーが本を読む間にと、与えられていた絵本や児童書も大方読みつくしてしまった。
「あきちゃった……」
 ちら、と隣の精霊ルーカス・ウェル・ファブレを見遣る。
 彼の周りには、小説から専門書までオールマイティーにさまざまな本が積まれていて、この山の何割が消化されているのかすら優純絆にはさっぱりわからない。
「パパー。読み終わったー?」
「ええ、そうですね……」
「もう帰ろうよー。ユズ、疲れたのだよぉ……」
 くいくい、と多少強く裾を引いてみるものの、完全に意識を持っていかれているパートナーは一瞥もくれない。
「ユズ、もう少しですから」
「それ、さっきも言ったのだよ!」
「おや、そうでしたかね……?」
 話半分どころか、おそらく内容の十割くらい、ルーカスの頭には入っていない。
「……うん、聞いてないのだよ」
 独り言の様に呟いて、はああ、と優純絆は子供らしからぬ深い深い溜息を吐き出した。
「もう! パパ、こうなったらテコでも動かないし――」
 机につっぷして足をぱたぱたと揺らしながら、読了してしまった絵本を読むでもなく読まないでもなく、いたずらにぱらぱらと捲ってみる。
 とあるページにふと、幸せそうな家族の御伽噺が描かれていた。
「はふ……ねむい、のだよ……」
 時刻は正午過ぎ。窓辺からは暖かな陽光が降り注ぎ、子供は眠くなる時間である。
 次第に睡魔に誘われて、優純絆は眠りに落ちていった。

「……ふぅ、ついつい読みふけってしまいました」
 最後の本をぱたんと閉じたルーカスは、眼鏡を外しレンズを拭う。
「こんなに読んだのは久し振りですねぇ。時間があっという間で……ユズ?」
 肩をコキコキと鳴らし解していると、ふと傍らにある存在に気付いた。
「おやおや、寝てしまいましたか」
 そういえば色々と話しかけていた気がするけれど、手元の書籍に夢中で構ってやれてなかったな、と気付き苦笑する。
「ふふっ。幸せそうな寝顔ですねぇ……」
 ふわふわの髪を撫でて、頬をつつけばむにゃ、と口元が一つ動いて、ふふふと嬉しそうに笑う。
(ルチアにそっくりだ……)
 優しげな面差しに亡き妻の影を重ねた。
 すると瞼がふるりと震えて、目元をこすりながら優純絆が目を覚ました。
「ん……ぱぁ、ぱ?」
「ユズ、おはようございます」
「ぁ、ゆず、寝ちゃってた……?」
 きょろ、と周囲を見回す優純絆に、ルーカスは穏やかに微笑む。
「ええ、幸せな夢でも見ていましたか? 嬉しそうに笑っていましたが」
「うん!あのね、ユズの本当のパパとママが居てね、色んな場所に旅行いったり、遊んだり……あ、そう言えば」
 本当のパパとママ――その言葉にルーカスははっとする。
「ルキフェルって呼ばれた様な?」
 心中の動揺と悟られぬよう、すぐに取り繕って笑った。
「……そうでしたか。それは、良かったですねぇ」
「うん、誰の名前だったんだろ? やっぱり、違う人だったのかなぁ……」
 本当にユズの両親だったら、良かったのになぁ……と、小さく彼は続ける。
 小首を傾げている優純絆を、ルーカスはもどかしい思いで、寂しげに笑ってみていた。
(あぁユズ、それは貴方の本当の名前なのです……『私達の光』と言う意味を込めて名づけた、本当の――)
 私たちのかわいい、ルキフェル。
 胸の内だけでいつくしむように告げた言葉は、当たり前に優純絆の耳には届かなかったけれど。
「帰りましょうか、ユズ」
「うん! ユズ、いい子に待ってたのだよ!」
「えらかったですねぇ、何か甘い物でも食べましょうか」
 いつか、どんな形でも、この想いが通じるようにと、ルーカスは心に気持ちだけを秘めて。
 いつもよりも少しだけ強く手を繋いで、二人は帰路に着いた。


「――図書館行かない?」
 とある日、唐突に、精霊トキワの元へパートナーであるセラフィム・ロイスからそんな誘いが掛かった。
 種が見つかったから向かって欲しい、というのが表向きの建前だ。
「忙しいなら他のウィンクルムが向かうと思うから、いいんだけど」
「……構わんが。虎坊主はどうした?」
 てっきりこうした誘いはもう一人の精霊と行きたがるものと思っていた。
 そうした意味も含めて問えば「……向いてないし」と少しの間があったあと、目を逸らされた。
「ほー?」
「……う、嘘じゃないよ」
「まだ何も言ってないが」
「う……」
 じい、と顔を近づけると、罰が悪そうに視線だけこちらに向いたので、結局トキワが苦笑交じりに折れた。
「まぁ、時期も丁度いい。行くか」
 事実、もう一人の騒がしい精霊はああいった場所には確かに向かないのだろう。
 かといって任務の手前一人で行き辛いのだろうな、というセラフィムの本音を汲んで、トキワはセラフィムの誘いを快諾した。

 図書館へ着くと、トキワは文学コーナーへ、セラフィムは「適当に回ってみるよ」とそれぞれ別れた。
「さて、と」
 こなれた足取りで棚を散策し、気分転換になりそうな書籍を片っ端から手に取り、その場でぱらぱらと開く。
 家に篭ってばかりなのは知識を得る機会も乏しく、創作活動に影響しかねない。
 そういった意味で図書館は格好の勉強場所なのだ。
「仕組みを理解出来ると、絵の深みも増すからな」
 ファッション誌、建築関係、風景の写真集……等々。
 さまざまなジャンルを抱えると、ついでに目に付いた画集も手にとって席に着いた。

「……やっぱり、落ち着くなぁ」
 久方ぶりの本に囲まれた空気。
 セラフィムは昔を思い出して、ほうと息を吐いた。
 絵本や動物図鑑、夢物語に憧れて本の虫になっていたあの頃。
 病弱で家に篭りっきりな自分が、心がつぶれそうな時に寄り添ってくれた居場所からは、心の構え方や大事なことをたくさん学んだ。
 今は今で充実していて、勉強以外で来る事は減ってしまったけれど。
 それでもここに来れば、新しく得られるものは尽きない。
「昔の本を探すのもいいけど、これも出会いだよね」
 編み物、料理、冒険小説、動物絵本に――虎の専門図鑑。
 今回は誘わなかった精霊の事を思い出して、ひとつ微笑み手に取った。

「面白いもの、あった?」
 声をかけつつ、トキワの隣にセラフィムは腰掛ける。
「まあまあ。そっちは?」
「えっ? う、うん。色々と、ね」
 書籍からは目を離さないまま不意に問いかけられるも、絵本は年甲斐無いかな……と気恥ずかしさから、トキワが見ていない隙に、積み上げた本の真ん中らへんに隠した。
「ふうん……変わらんな」
 セラフィムの前に詰まれた本に目を遣り、トキワがぼやく。
 昔から彼の読むジャンルは決まっていた。外の世界に憧れて、絵本や夢物語ばかり追いかけていた物静かな子供。
 今回もそんな本ばかりだと思ったけれど、セラフィムが広げ始めた数冊を目に止めて。
(……いや、変わったものもあるか)
 ――編み物や料理なんて、今までなかったのに。
「トキワのも見ていい?」
「ああ。こっちはもう読み終えたからな」
「ありがと。相変わらずサスペンス多いんだね。あ、この表紙、綺麗……」
 ぶつぶつと独り言のように言いながら、結局自分の本よりもトキワの読み終えた本ばかりに目を通しているセラフィムに。
 つい、小さく笑いが漏れてしまう。
「なに? トキワ」
「……いいや」
 小首を傾げる神人に苦笑する。
 幼少をよく知っているセラフィムが、自分の知らない所で少しずつ良い変化を遂げているのは純粋に喜ばしいことだ。
 かといって大人びて見える事が増えた割には、こうして保護者代わりのようにトキワを誘わないと、図書館ひとつ来れないような幼稚な姿も、時折垣間見せる。
「成長はいいことだが、流石に親離れしろ」
「……」
 ぽんぽんと頭を撫でつつ告げられた言葉が意図するところに気付いたセラフィムが、頬をゆるゆると染め上げて、やがて気まずそうに視線を泳がせた。


「兄様とデート……」
 ――ぞっとしないな。
 神人、カイエル・シェナーは、訪れた図書館で隣に並び立つ兄をちらりと見て背筋をひとつ震わせた。
 ウィンクルムとして契約している以上、戦闘に赴くだけでなく、こういった場での些細な会話等の積み重ねも大切なのだろうが。
 向かい合って、テーブルに腰を掛けても、この臓腑を掴まれているような落ち着かなさだけはどうしようもなかった。
(逃げ出したい、という顔をしている)
 対面に座った精霊、イヴァエルは、なんでもないような顔でもって、しげしげと弟を観察する。
 自分に対し抱いている畏怖を理解しているからこそ、カイエルの心境は手に取る様にわかるけれど、一歩引いた距離で肩を竦ませる小動物のような様は、見ていて決して悪い気はしなかった。
「すまない、イヴァエル。せっかくの図書館だ、一冊持って来ても構わないだろうか?」
 告げて立ち上がるが緊張から席を立つ際、がたん! と派手目に椅子を揺らしてしまった。
 小さく笑い、構わない、と返した兄の許可を得て――別段許可を取る必要もないのだろうけれど、足早に、適当に目に付いた書架へとカイエルは向かう。
 理由なんて何でもいいから、あの場から一旦離れたかった。
(……苦手だ)
 苦手、という言葉が一番しっくり来る。
 嫌いな訳ではない。嫌と言うほど優しい、あの兄の事は。
 反面どこかで怖いと思う。漠然とした畏怖であり、根拠はないのだけれど。
 契約している、もう片方の精霊の様な安心感がまったくないものだから。
「……あ」
 兄の事を考えながら書架を散策していると、不意に彼の目と似た色をした石の写真が目に付いた。
 輝石装飾図録、と書かれたその分厚い本を片手に抱える。
 他にも数冊読みたいと思うものがあり手を伸ばすものの、重くなるし何かと席を立つ口実もなくなるので、何冊かは惜しみつつ棚に戻した。

(……優美だな)
 最近出たばかりの文学書を適当に捲りつつ、イヴァエルは僅かに、悟られぬ程度の視線を弟に向ける。
 紙媒体であっても、そこにある物をただ『読む』のではなく『鑑賞』する様に、じぃっと魅入るカイエルの表情は至極真面目で。
 内容を見つめ、一枚、また一枚とページを捲る指先も、優雅で静かな所作である。
(そういえば……)
 不意に何か思い立ったように、そっとイヴァエルは席を立った。
 兄の様子には気づいていたけれども、内容に集中していたカイエルは特に声も掛けず見送って。
 少しするとまた席に戻り、向かいで先とは違う書籍を読みふける兄が居た。
「……ん?」
 読み終えた本を置き、ふと卓上を見遣るとすぐ手の届く位置に、先程カイエルが惜しみつつ棚に戻した本が置かれているのを見つける。
 不思議に思いながらも素直に手を伸ばす。兄は相変わらず本に集中しているようだった。
 それも読み終えて卓上を見遣ると――また。
 読もうと思っていた本、シリーズの続編、等々。
 ことごとく、カイエルが興味を惹かれる本ばかりが、兄と自分の間に。
 カイエルが本を探しに席を立ったのは、最初の一度きりなのに。
「ふぅ……」
 肩の力を抜き、無心に読み終えぱたんと閉じた最後の本へ、気付けば兄の手が添えられていた。
「どうだ。私の選ぶ本は、違えないだろう?」
 いつの間に背後に居たのか、横合いから掛けられた言葉に、は、とカイエルは理解する。
 自分が本を取りに行ったとき、戻した本がある事を兄は知っていて――それどころか。
 カイエルが興味を持ちそうなジャンルを全て見抜かれていた。先程兄が一度席を立ったのは、そういった書籍を取りにいって居たのだ、と。
(こちらの趣味は、丸分かりという事か)
 好みも、気持ちも全て見抜かれていた事に。
 気恥ずかしさから言葉は出てこなくて、赤い顔で視線を逸らしたのを肯定と捉えたイヴァエルは、可愛らしい弟の動揺を受け、満足げな微笑みを浮かべた。


 神人、柳 恭樹は、図書館の端に掛けてある新聞を数枚探り、いくつかを手に席へ座った。
 過去の新聞から、大規模戦の被害とA.R.O.A.やウィンクルムへの評価、コメントなどを詳細に調べる。
 中でも、二年前のギルティ復活時と、前回の旧タブロス市街の状況は、くまなく読み込んで確実に記憶した。
(十数年前から、オーガによる被害か増えているとはいえ。この二年の被害件数は尋常じゃないな……)
 評価やコメントから、弟が巻き込まれた案件を不意に思う――が。
 冷静に分析している隣で、共にここを訪れたパートナーがあれやこれやと口を出し始めた。

「図書館に来てまでオーガ関連の調べものか。熱心な事だ」
「……」
「丁度、一昨年からマントゥール教団も活発化したのだったな」
「…………」
「ああ、これだ。ギルティ復活の前辺りか」
「…………ハーランド」
 指先が記事に触れた事で、視界にまで割り込んできた精霊ハーランドに、恭樹は迷惑そうな様を隠しもせず睨み上げた。
「やっと反応したな、恭樹」
 口角を吊り上げた精霊に、わかりやすく、わざと聞こえるように溜息を付く。
「ここは図書館だ。静かにしろ」
「種浄化の為、引いては、今後に備えた親睦の為だが?」
 もっともらしい言い分に理解はすれど素直に受け入れる気には到底なれず、無言で広げた新聞を丁寧に畳む。
 自分の知りたい事は全部調べた。とはいえ、こんなろくに会話も為さないやりとりでは、デートと呼ぶには程遠い。
「なら、お前のお勧めでも教えろ」
 ぶっきらぼうに、さも興味はないといった風体で問うたが「恭樹の勧めも知りたいものだな」と返され、横目で一瞥し眉間に皺を更に濃く刻んだ。

「それは世界史か?」
 渋々と世界史のコーナーへ行き、ミッドランドの世界史を持って席に戻った恭樹に、ハーランドは問う。
「世界史を好んでいると?」
「……お前が知りたいと言ったんだろう」
 差し出された本を、今一度読み返すのも悪くはないか……等とぶつぶつ言いつつも、ハーランドは興味深そうに開いて。
 同時に、持ち帰った分厚い書物を恭樹へと差し出す。
「人体を学んで損はない。私の勧めだ、読んでみるといい」
「……人体の急所?」
 ハーランドから受け取った本には、変わったタイトルが背表紙に記されていて。
 元軍属の彼らしい選別ではある――が。
「随分と物騒な本が置いてあるんだな……」
 今後の任務の為にもいいか、と、一歩引いた自身を納得させ、静かに内容を読み明かした。

「――……先程の記事」
「なんだ」
 不意にぼそりと声を小さく掛けた精霊に、一応の返事を恭樹は返す。
「ひいては、一昨年の記事だが……弟に関する、過去の事案の確認か?」
 ハーランドが言わんとする事を察するが一瞥もくれず「……黙れ」とだけ、決して穏やかではない声音で返す。
 否定を口にしない癖にそんな幼稚な反応をするのは、肯定しているのと同じだというのに。
「素直ではないな」
 さっと影の落ちた顔色から、恭樹の心中を察して――ハーランドは苦く笑った。



依頼結果:成功
MVP
名前:アイオライト・セプテンバー
呼び名:アイ
  名前:白露
呼び名:パパ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 梅都鈴里
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 11月02日
出発日 11月10日 00:00
予定納品日 11月20日

参加者

会議室

  • [5]カイエル・シェナー

    2016/11/08-00:39 

    カイエル・シェナーと兄のイヴァエルだ。
    図書館は良いな。たまにはそのような過ごし方も悪くない。
    どうかよろしく頼む。

  • [3]セラフィム・ロイス

    2016/11/07-00:01 

    どうも僕セラフィム。と今日の相棒はトキワだよ
    恭樹たちは初めまして。他の皆もよろしくね
    図書館いいよね。最近頻度が減ってしまったけれど今日は楽しめればと思うよ。あ、枯らすのも頑張るけども

  • [2]西園寺優純絆

    2016/11/06-22:04 

  • [1]柳 恭樹

    2016/11/05-18:13 

    柳恭樹だ。
    ここには少し調べものをする為に来た。
    だが……。

    いや、(首を振る
    よろしく頼む。


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