その一瞬を切り取って(北乃わかめ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「――えっ!? お休み!?」
「すみません、対応した者が日にちを聞き間違えていたようで……」
「そんな……」

 A.R.O.A.本部の職員が、訪れた男性に謝罪する。困ったなぁ……と頭を抱える男性。彼が首からさげている社員証と腕章には、見たことのある出版社の名前が入っていた。彼は、そこの雑誌記者なのだ。
 数日前、ウィンクルムの取材をしたいとA.R.O.A.に依頼し、念願叶ってOKを貰えたのに、予定していたウィンクルムは休みだと言われてしまった。どういうわけか、予定日を十日も聞き間違えていたらしい。

「予定していたウィンクルムは、十日後しか時間が合わないらしくて」
「多忙なんですね、ウィンクルムって……」

 編集の都合上、十日も待っていられないが、取材できませんでしたと記事に穴をあけるわけにもいかない。かと言って、代わりの記事を考え、取材する時間の余裕もなかった。
まさに絶体絶命。落胆する男性の顔は絶望に満ちている。

「…………あっ! ちょ、ちょっと君たち! 君たちも、ウィンクルムだよね!?」

 不意に、男性が駆け出す。その先には、ちょうど任務のことで本部を訪れたあなたたちが。
 転びそうになりながらも駆け寄って来た男性は、縋るようにあなたの両肩を掴んだ。

「た……っ頼みがあるんだけど! 取材、させてくれないかな……!」
「え、えっと……?」
「お願いだ、この通り……!」

 事情を知らないあなたは、近くにいたA.R.O.A.職員に視線を向けるが、職員もまた困ったような顔をしていた。それもそうだ、聞き間違いとはいえ、こちらの不手際なのだから。
 差し支えなければ、協力してくれませんか? そう言われ、あなたたちはひとまず事情を聞くことにした。

「じ、実は……親戚の子が以前、ウィンクルムたちがオーガと戦っているところを偶然見たらしくてね。かっこいいと言っていたんだが、それと一緒に、怖かったって言葉もあって……」

 せっかく命懸けで守ってくれる人たちを、そんな風に思ってほしくないんだ。
 遠慮がちに話す男性は、改めてあなたたちに取材の協力を求めた。簡単な受け答えと、写真撮影。それだけでいいから、と言われ、あなたたちは顔を見合わせる。

「どうする?」
「いいけど、でも、写真って慣れてないから……」

 変な顔しそう、と心配げなパートナー。ウィンクルムと言っても、彼らはモデルや俳優とは違う。カメラに慣れていないパートナーは、視線を足元に落とす。

「あっ! お互い撮り合うのはどうでしょうか!? それなら、あんまり緊張もしないでしょうし……どうですか?」
「それなら、大丈夫かも……」
「よし、ばっちりかわいく撮るからな!」
「かわいくは……余計」

 こうして、あなたたちは取材に協力することとなった。

解説

 ウィンクルムのイメージアップのため、取材に協力しましょう。

 一問一答による簡単な取材を終えた後、2人で記事に掲載するための写真を撮っていただきます。
 神人と精霊それぞれの写真が必要になりますので、1人ずつ、または2人揃って写っている写真を撮ってください。

 写真を撮る場所に指定はありません。近くの公園、街中、自宅などなど、どこでも大丈夫です。
 ※ただし、記者のスケジュールが詰まっているので、当日中に写真撮影ができる場所でお願い致します。

 カメラについては、デジカメでも一眼レフでも記者が貸し出します。もちろん、使い慣れた物を使う、でもOKです。
 何枚撮っても大丈夫ですが、記事で使用するのは神人精霊1枚ずつ、またはペア写真1枚のみです。

※個別描写になります。
※A.R.O.A.本部までの交通費として、300jr消費します。

ゲームマスターより

オーガのように恐ろしい怪物よりも強い人、それを同じく「怖い」と感じることもあるのではないでしょうか。
畏怖に近いと思いますが、ちょっと近寄りがたい、とか。
だけど、笑顔や自分と同じ生活をしているところを見ると、少しそれも和らぐ気がします。
どうぞよろしくお願いします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)

  日常な写真か。うちの猫も自慢するチャンスだな!
自宅で写真を撮るぜ。
一緒にねこじゃらしで遊ぶとかいいよな。
ラキアに黒猫のクロウリーを抱き上げて貰って、頬スリスリってしている姿をまず1枚撮影する。
クロはラキアの事がお気に入りだからさ。目を細めてすげー嬉しそう。
ラキアもいい笑顔でこれは良い写真になるぜ。

カメラ構えるオレの姿に興味を惹かれたのか
茶トラのトラヴァースがキャットタワーからオレ目がけてジャンプしてきた。肩に巧く乗るんだ。
ラキアがカメラ持っていたら良いシャッターチャンスだったのに。
猫ってカメラ向けてない時に良い動きするよな。
カメラをラキアに預けてトラにおもちゃをフリフリ。
遊びに夢中。楽しいぜ。



蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
  ウィンクルムも普通に暮らしていて、それぞれの生活がある
オーガと戦う事に恐怖だってあるけれど、大切なものを守る為に戦っている事、知って貰いたいと思う

俺が戦う理由は、大切な幼馴染を殺されて…最初は復讐の為でした
今は少し違います
フィンと一緒に過ごすようになって、今、とても幸せで
日常を守りたいと、大切な人を守りたいと強く思うようになりました
だから、俺は…俺達は、絶対に負けないし、絶対に一緒に無事に生き抜く

写真は近くの公園で
記者からデジカメ貸り
お互いに撮り合うか?と聞けば、フィン一緒に写りたいと言われて
妙に嬉しくなってしまった
フィンと隣り合ってカメラに目を向ければ、緊張が和らぐ
うん、上手く笑えた…と思う


アイオライト・セプテンバー(ヴァンデミエール)
  好きにカメラを使っていいの?
やったあ(ノ^^)ノ
パパは「アイはすぐに壊しますから」って触らせてくれないんだもん
これでじーじをかーっこよく撮ってあげるね

じーじのお気に入りのアンティークショップがあったでしょ
そこで写真とろっ
じーじにアンティークって似合うんだもん
お店の中がダメだったら、お店の近くをぶらぶらしながらでもいいし

はい、チーズ☆
そういえば、チーズとじーじってちょっと発音が似てるよね(どうでもいい

うーん…ちょっと物足りない
ね、じーじ、こっち向いて
そんで「嬢はかわいいよ」って言ってちょうだい
うん、やっぱりじーじはあたしにみせてくれる笑顔が一番素敵

わーいぱんつだ、じーじはやっぱり分かってるぅ♪


ユズリノ(シャーマイン)
  話を聞き引き受ける
一問一答は素直に答える

シャミィと近隣の公園に
ベンチでおしゃべりする様子を撮る事に
「もう撮ってるの?
促され紋章出し手を並べる
顔近くて緊張
「な なにそれ普通に言って!
焦り照れ笑い ①

受取り
「秋の味覚~
あーんと食べようとした所に
「ええ!? それはちょっと不自然だよ
そう? と顔寄せ見つめ合う形で照れ もぐもぐ ②

ふとぽつり
「戦う姿が怖い…か しょうがないけど寂しいね
え?何 とひそひそ話し聞き はっと
「…うん! そうだね僕もそう思う

記者に
「親戚のお子さんにちょっとだけ僕等から言葉を添えるなら
 その姿は大切なモノを守っている姿だよって…
印象少しでも変わってくれたらという思い
言葉と視線にどき
「あのえーと…? 照


●ねこといっしょ

「うちの猫も自慢するチャンスだな!」
「動物と一緒なら和むよね」

 インタビューを終えたセイリュー・グラシアは、カメラを受け取りそう意気込んだ。日常的な写真なら、と一度自宅に戻る。
 玄関に入ると、相変わらず元気に鳴いている猫たちが出迎えてくれた。
 猫にもいろいろ性格や好みが分かれているようで、ちょうど黒猫のクロウリーがラキア・ジェイドバインの足にすり寄って来た。

「ラキアの事がお気に入りだからなぁ」
「クロはとても甘え上手なんだよ」

 言いながら、ラキアがクロウリーを抱き上げる。それを見てセイリューがカメラを構えた。
 ラキアの言う通り、クロウリーは甘えるように頬ずりをしている。

(ラキアもいい笑顔で、これは良い写真になるぜ)

 抱えられたクロウリーも、目を細めて嬉しそうだ。カメラを覗くセイリューも自然と頬を緩めた。

「ふふ、クロはとても可愛いねぇ」

 愛しくてたまらない、と言うようにラキアがクロウリーの鼻の頭にキスをする。それを逃さず、セイリューはシャッターを切った。
 パシャ、と独特の機械音に、周りにいた猫たちがぴくりと反応する。なんだなんだと、他の猫たちも興味津々だ。

「次は君かな」

 先に近づいてきたのは、タキシードのような白と黒の色をしたバロンだ。自分も、と言いたげにうみゃうみゃと鳴いている。
 今度はセイリューを撮ろうと、ラキアが彼に視線を移す。――すると。

「――おぉ!」
「ああぁ、今のを撮りたかったよ!」

 いつ登っていたのか、茶トラのトラヴァースがキャットタワーからセイリュー目がけてジャンプしたのである。
 落ちることもバランスを崩すこともなく、するりと巧く肩に乗る姿は、猫らしくも優雅で。

「一番良いトコ逃しちゃった」
「猫ってカメラ向けてない時に良い動きするよな」

 絶好のシャッターチャンスを逃してしまった、とラキアが肩を落とす。
 トラヴァースはそんなことは気にも留めず、セイリューの肩をくしくしと掻いていた。どうやら、セイリューと遊びたいようだ。

「一緒にねこじゃらしで遊ぶとかもいいよな!」

 セイリューが傍らに置いてあった猫じゃらしを持つ。トラヴァースは肩からひょいと飛び降りて、吸い寄せられるように猫じゃらしに前足を伸ばした。
 ラキアにカメラを預けて猫じゃらしをフリフリ振れば、しばらく目で追っていたトラヴァースがバッと飛び上がる。

「なんの! ほらほら、こっちだぞー」

 寸でのところで猫じゃらしを上へ。捕まえられなくても、トラヴァースは何度も猫じゃらしを追いかける。
 そうしていると、それを見ていたクロウリーとバロンが、同じようにセイリューに近づいてきた。本能を刺激されたのか、目線は猫じゃらしで固定されている。
 さすがに、猫じゃらし一本では太刀打ちできそうにない。

「よし、これならどうだ!」

 右手に猫じゃらし。左手にも猫じゃらし。二刀流となったセイリューは、猫たちの動きを見極めながら右へ左へ、上へ下へと猫じゃらしを動かしていく。
 あと一歩のところで掴めない、そんなギリギリを楽しんでいる。セイリューも猫たちも次第に熱中していって、カメラのことなどすっかり忘れているようだ。

「……よし、良いのが撮れた」

 昼下がり、猫たちと戯れるセイリューの笑顔。心なしか、猫たちも笑っているように見える。
 ありのままの日常が撮れたと、ラキアは満足気に微笑んだ。



●つたえたいこと
 持ち前のマイペースさと人当たりの良さで、シャーマインは記者からの問いに軽快に答えた。となりに座るユズリノも、素直に答えていく。
 残るは写真撮影のみとなったところで、二人は近くの公園へ向かうことにした。ツーショット写真を撮るべく、ベンチ前に三脚を立てデジカメをセットする。

「もう撮ってるの?」
「ああ。ウォーミングアップだ、手出して」

 二人並んでベンチに座ると、シャーマインが左手をひらひらと見せた。促され、ユズリノも左手を出してシャーマインの手と並べる。
 ウィンクルムの証である、赤い紋章が浮かび上がっている左手。必然的に近づく顔に、ユズリノの体に自然と力が入る。

「ほらリノ、いつもの俺を悩殺する可憐スマイル!」
「な、なにそれ普通に言って!」

 突飛なシャーマインの言葉に焦りながらも、ユズリノが照れくさそうに笑う。ほんのり頬が赤くなったところで、カメラのフラッシュが焚かれた。絶妙なタイミングである。
 選ぶ写真は多い方がいい、ともう一度デジカメをセットするシャーマイン。それから、公園に来る途中で買っていた焼き芋をユズリノに渡した。

「ほら」
「わぁ、秋の味覚~!」

 ふわりと嗅覚をくすぐる甘い香りに、ユズリノの表情がぱっと明るくなる。ほくほくと湯気が立つ焼き芋を食べようと、あーんと大きく口を開ける、と。

「もっと顔寄せて」
「ええ!? それはちょっと不自然だよ」
「何言ってる。イメージアップ写真だ、少し大げさな位で丁度いい」
「……そう?」

 確かに、世の中の広告には過度とも思える表現が多用されることもあるが。
 首を傾げるユズリノ。だが、断言されたその言葉には妙に説得力があり、いつもよりずっと近い距離でシャーマインを見つめることとなった。
 もぐもぐと見つめ合いながら焼き芋を頬張るユズリノ。そんな彼を見つめるシャーマインの瞳は優しく、二人の間にはあたたかな空気が流れていた。
 パシャリ、と再びカメラの音が鳴る。

 ふと、ユズリノは高い空を見上げた。

「……戦う姿が怖い、か」
「ん?」
「しょうがないけど、寂しいね」

 焼き芋もあらかた食べ終えたところで、ユズリノがぽつりと呟いた。記者が言っていた言葉を思い出していたのだ。
 ――ウィンクルムが、怖い。
 気持ちはわからないわけではない。オーガと戦う姿は、見ようによってはそう思えるのだろう。

「まあな。だが、言ってやれる言葉はある」
「え、何?」

 自分が行うことと、他人から見られている姿が必ずしも同じとは限らない。厚意が悪意に思われることだって、可能性はゼロではないのだ。
 それでも、と。シャーマインはユズリノに顔を寄せ、小声で何かを囁いた。それを聞いたユズリノは、はっと顔を上げて。

「……うん! そうだね、僕もそう思う」

 それから数枚写真を撮った二人は、記者に写真データを渡した。あとは、記者の腕の見せ所だ。
 手伝ってくれたことにお礼を言う記者に、ユズリノが「あの……」と声をかける。

「親戚のお子さんにちょっとだけ、僕等から言葉を添えるなら……その姿は大切なモノを守っている姿だよって……」
「大切なモノっていうのは、もちろんそこにいたその子も含みます」

 少しでもウィンクルムへの印象が変わってくれたら。そう思いながら告げたユズリノの言葉に、シャーマインも続ける。

「俺も、最近実感湧いてきたから言える事ですけどね」

 ユズリノの肩を抱くシャーマイン。困惑するユズリノをよそに、余裕の笑みを浮かべる。どき、とユズリノの胸がひとつ鳴った。
 記者は数度瞬きをし、それから「必ず伝えるよ」と約束したのだった。



●いちばんのえがお

「好きにカメラを使っていいの? やったあ!」

 記者からカメラを受け取ったアイオライト・セプテンバーが、ぴょんと飛び跳ねる。普段は、もう一人の精霊が「すぐに壊しますから」と言って触らせないようにしているのだ。
 自由に使っていい許可を貰ったアイオライトは、カメラを掲げて踊るようにくるくると回る。

「これでじーじをかーっこよく撮ってあげるね」

 任せて、と胸を張るアイオライト。どこで撮ろうかな、と撮影場所になりそうな場所を思い浮かべる。今からわくわくが止まらないようだ。

「カメラ、ねぇ。骨董品を眺めるのは好きなんだけど、改まって余所様を撮影したことはないね」

 そんなアイオライトを、しげしげと眺めるヴァンデミエール。なかなか写真撮影などしないものだから、少しばかり興味深げである。

「最終的な採用は一枚だけだとしても、ぶっつけ本番の一枚でなきゃダメだってこともないんだろ?」

 ヴァンデミエールの問いかけに、記者は「もちろん」と肯定した。何枚でも、満足がいくまで。ウィンクルムの素の姿が見られれば、記者としては万々歳なのだ。
 なるほど、とヴァンデミエールがひとつ頷いて。

「なら、いろいろと試してみるさ。せいぜいビギナーズラックが起こるのを期待するよ」

 そう楽しげに笑むヴァンデミエールのもとに、アイオライトが駆け寄ってくる。どうやら、撮影する場所を決めたようだ。

「じーじのお気に入りのアンティークショップがあったでしょ? そこで写真とろっ」
「骨董屋で撮影をしようっていうのかい?」
「じーじにアンティークって似合うんだもん」
「店の人が許可を出してくれるなら、勿論僕は構わないよ」

 それなら善は急げ、とアイオライトはヴァンデミエールの手をとってアンティークショップへと引っ張った。
 ヴァンデミエールが事情を説明すると、店の主人は快く撮影を許可してくれた。無論、被写体はあくまでもウィンクルムメインで。それが条件ではあったが。

「はい、チーズ☆ ……そういえば、チーズとじーじってちょっと発音が似てるよね」
「そうかい?」

 アイオライトの明るい声で、カメラのシャッターが切られる。他愛ない会話を交わしながらも、アイオライトは何度か写真を撮った。
 アンティークに囲まれるヴァンデミエールは、アイオライトの見立て通りかなり様になっていた。店内のやわらかな橙色の照明と相まって、まるでそれは一枚の絵画のようだ。

「うーん……ちょっと物足りない」

 いい写真であることには変わりないのだが、アイオライトは納得がいかないようだ。今回の記事の主旨のこともある、できればもっと「いつもの」写真が撮りたい。

「ね、じーじ、こっち向いて。そんで『嬢はかわいいよ』って言ってちょうだい」
「どれどれ……」

 要望に従い、カメラ越しのアイオライトと視線を合わせる。
 いつもの、それから今日見せたアイオライトの笑顔を思い浮かべて。

「――今日の嬢の笑顔はとびきりかわいいね。……これでいいかな」

 ふ、と見せられた笑顔。まるで映画のワンシーンのようだ。
すかさず一枚撮ったアイオライトは、にっとヴァンデミエールに満面の笑みを見せた。

「うん、やっぱりじーじはあたしにみせてくれる笑顔が一番素敵!」

 すごくいいのが撮れた! とアイオライトに言われては、悪い気はしない。
 今度は嬢の番だ、とカメラを受け取るヴァンデミエール。アイオライトが好んで身につけている金色と青の装飾は、ヴァンデミエールとはまた違った雰囲気の写真を作り出す。

「嬢が気遣ってくれたんだから、嬢の最高の一瞬を切り取れるよう、僕もがんばらなきゃね」

 ファインダーを覗けば、窓を背に笑うアイオライトが立っている。エキゾチックな色合いと古びた骨董品。昔から飾られた肖像画のようだ。
 だが、何度かポーズを変えて写真を撮ったが、どれも一番とは言えない。

(嬢の一番いい表情は……あれだね)
「――嬢、これを見て御覧」

 やはりと言うべきか、ヴァンデミエールはどこからともなく『ある物』を取り出す。
 ひょい、とそれを目の前にちらつかせると、言わずもがなアイオライトの瞳がきらきらと輝いた。

「撮影が終わったらこれをあげるよ、白露のぱんつ」
「わーいぱんつだ、じーじはやっぱり分かってるぅ♪」

 ぱあっと太陽が煌めくように、アイオライトがとびきりの笑顔になる。
 タンスからこっそり盗んできた……もとい、拝借したそれ。用意した甲斐があったなと思いつつ、ヴァンデミエールはその笑顔をしっかりと写真に収めたのだった。



●まもりたいもの

「――普段、海十は学生とバンドマンを、俺はフリーのライターをしています」
「ウィンクルムとして戦いながら、ですか」
「はい。それと、家事全般も得意ですよ」

 なんてことはない、それが普通だと言うようにフィン・ブラーシュが記者の質問に答えていく。
 神人として顕現する前も今も、蒼崎 海十は学生として日々を暮らしている。契約をした後も、フィンは今まで通り働いている。そこに、ウィンクルムだからという壁なんてものはない。
 だからこそ、知ってほしい。何のために、誰のために戦うのか。そんな思いで、海十が口を開く。

「俺が戦う理由は、大切な幼馴染を殺されて……最初は復讐の為でした」
「ふ、復讐……?」

 ぎょっとした記者に、海十はふと表情を和らげる。

「今は少し違います。フィンと一緒に過ごすようになって、今、とても幸せで。日常を守りたいと、大切な人を守りたいと強く思うようになりました」

 側面からではわからない、ウィンクルムとして戦う理由。
 いつだって、オーガと戦うことに恐怖は付きまとう。死と隣り合わせになって平気な顔ができるほど、海十は日常から離れていないのだ。
 大切な、今まで通りの生活。フィンとの毎日。それを失うことこそ、本当に恐ろしいことだから。

「だから、俺は……俺達は、絶対に負けたりしないし、絶対一緒に無事に生き抜く」

 まっすぐ告げられる言葉に、胸が熱くなるのをフィンは感じていた。そうだね、と相槌を打つ。

「俺は……義務感でした。故郷を、家族をすべてオーガに奪われて……俺は抜け殻でした」

 故郷をオーガに奪われたあの日。何もかもを守れず、ただ奪われただけのあの日。何をするべきかわからなかった日々の中、適合者が現れた。

「そんな俺がウィンクルムになり、オーガと戦える力を得た。生き残った者として、オーガと戦う事が義務だと思ったんです」

 続けられるフィンの言葉に、記者は黙って耳を傾ける。
 伏せられていた瞳が、ふと前を向いた。

「けど、俺も海十と過ごす日々の中で、幸せを知った。海十の居る世界を守りたい。……俺だけじゃない、同じように皆、それぞれに幸せの形があって、それを守る為に懸命に生きている」

 ――そんな世界を海十と一緒に守りたいと。
 となりで聞いていた海十と目を合わせる。海十は同じ気持ちだと言うように、ゆっくりと頷いたのだった。
 取材を終えると、二人は近くの公園を訪れた。

「お互いに撮り合うか?」
「いや、写真は二人一緒がいいな。一人だと緊張するけど、海十となら自然に笑えるから」

 記者から借りたデジカメを片手に聞けば、フィンからはそんな言葉が返ってきた。やわらかに笑まれ、胸の奥があたたかくなるのを感じる。
 妙に嬉しくなりながら、海十はデジカメのセルフタイマーをセットした。
 フィンと隣り合って、カメラの方を向く。改まっての写真なんて、普段なら緊張して顔が強張っていただろう。

(――でも、今は)

 となりに、フィンがいる。それだけで、緊張が和らいだ。
 自然と上がる口角。間もなく、シャッターが切られた。

「うん、上手く笑えた……と思う」
「よく撮れてるよ、海十」

 フィンに言われ、ほっと安堵する海十。
 写真の中で並び立つ二人は、穏やかな笑みを浮かべていた。



●ありのままのすがた
 猫たちと戯れて。
 美味しそうな焼き芋を頬張って。
 骨董を背景に笑顔を浮かべて。
 うららかな公園で微笑んで。
 戦いのときは決して見せることのない素顔。そして、それらはウィンクルムではない人たちと何ら変わらない姿だった。

 後日、彼らの想いと写真が掲載された雑誌が発売された。すぐに、抱いた感情を払拭することは難しいかもしれない。
 だけど、彼らから伝えられた言葉を聞いたあの子どもは、もう怖いとは言わなかった。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 北乃わかめ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月12日
出発日 10月20日 00:00
予定納品日 10月30日

参加者

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