じゃれあう日もまた必要で(夕季 麗野 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

――とある休日のこと。
あなたはパートナーと共に、室内で過ごすことにしました。
外は、あいにくの豪雨。
この悪天候では、今日は一日外出できそうにないからです。
それに、今日を二人で過ごすには、「ある理由」もありました。

実は、今日はあなた(パートナー)にとっては、特別な日なのです。
のんびりティータイムを楽しみながら、これまでのオーガとの戦いや、自分達の出会い、印象に残る思い出話などを語りあい、楽しく過ごしたいと考えたのでした。
こうして、特別な日をお祝いしつつ、二人の雰囲気がいい感じに盛り上がり始めた、その時です。
「ウィンクルムの力の源は愛」、「なら、愛を深めるにはどうすればいいのか」と言う話題がふと出てきました。

「うーん。いきなり、愛を深めるって言われても……。どうしたらいいんだ?」

 パートナー(あなた)は、ちょっと困惑してしまいます。
しかし、ウィンクルムの役目とは、その愛の力でオーガを倒す事――。
「訓練で体を鍛えるのも大事だけど、二人の絆に勝る武器はない」
そんな結論に至ったパートナー(あなた)は、この絶好の機会に互いの愛を深めるべく、早速行動に移ったのですが……。
さて、その方法とは一体どんなものなのでしょうか……?

解説

今回は、「理由もなくいちゃいちゃしよう!」と言う、単純なエピソードです。
女性側でも公開していましたが、それと大まかな内容は同じとなります。(シチュエーションのみ異なります)
状況なのですが、場所はどちらかの家(同居している場合はその家で)の出来事。
その日は、二人にとって何らかの記念日です。(どちらかの誕生日、初めて出会った日、その他思い出に残る日などを設定してください)
行動なのですが、記念日を祝いつつ、愛を深めるという流れになります。
室内で(二人で)出来る事で、ラブラブモードになれることなら何でも受け付けます。
 精霊、神人、どちらから相手に迫るかは、ご参加して下さったウィンクルムさんたちの自由に決めて下さい。
いつもは精霊に攻められっぱなしの神人さんから逆に精霊に迫ったり、またはその逆でも可です。
押し倒される、ハプニング的にキスしてしまう、突発的に想いを告白してしまう、わりと何でも大丈夫ですが、全年齢対象なので、そこの線引きはさせていただきます……。ご了承くださいませ。

※記念日のお祝い準備などで300ジェール消費しました。

ゲームマスターより

皆様。こんにちは、夕季です。
今回は、特に私から申し上げることはございません。
とにかく、楽しんで絆を深めていただければ、幸いです。よい休日を(^^)/

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アルヴィン=ハーヴェイ(リディオ=ファヴァレット)

  …うーん、今日は初めて出会った記念日だし何処か一緒に出掛けようって思ったんだけど…これじゃあ外出できそうにないや。
オレなりに今日のプランとか考えてたんだけどなぁ…。
…だって、すごく大事な日なんだもん。

部屋でのんびり過ごすしかないかな。
でもやっぱり、一番重要なのは…その、リディと一緒にいる事だし。
えと、はりきって料理作っちゃうから。

…うーん、愛を深めるかぁ。
……リディっ!(勢いよく抱き着き)
えと、この際だから言っておこうって思って。
…リディ、大好きだよ。…その、こういう意味でだよ(少し背伸びして口付け)
勢いに任せてやっちゃったけど…恥ずかしいぃ。
もし、アレだったら気にしなくていいからね。


アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  記念日?
俺は咄嗟に思い出せなかった
でもランスの言葉にハッとする
嬉しさともだもだした感覚
そっか…記念日にしてくれてたんだと思う
有難うと口にするのが恥かしくて
皿はこれで良いかなと慌ててテーブルを開けるよ

その日と同じようにテーブルに沢山並べて
その日と同じようにシャンパングラスを鳴らす

俺…こういうの記念日にしてくれるって思ってなくてさ
やっと言えた正直な感謝

ランスの手に手を重ねる
いつもランスからばかりして貰ってばかりで
俺、何もあげれてないのに…

ばっ…か、お前
そんな言ったらどんな顔して良いか分からんじゃないか
無理だよ…無理
ちょ…あ…

ギュッと背に手を回す
俺も、毎日が記念日
好きと言う代りに俺から強く唇を重ね…


アイオライト・セプテンバー(白露)
  ふみゃあ(欠伸)…パパ、おはよー
あ、朝ご飯にオムライスがある、ごちそうだ
わあい、あたしオムライス大好きっ
ねえ、パパ、なにかあったの?

パパが優しすぎるとちょっと怪しいな
あたしの誕生日もパパのもじーじのも終わっちゃったし…うーん?
もしかしたら、パパ、あたしに隠れて悪いことしたのかな
浮気とか? ←そもそも付き合ってもいない
あたしのぱんつ盗ったとか? ←それはお前
ぱんつの記念日でもないし…でも、ま、いっか
パパとお買い物いっしょに行けるしー♪

あたしねっ、パパと一緒にケーキ作りたいっ
ぱんつの形した、おっきーいの
そんで、あとでじーじとみんなで食べよ?
お茶の淹れ方も教えて?
あたし立派なレディになるんだもーん


瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)
  雨音だけが響く中、珊瑚と二人、
1通の封筒を見つめながら、カーペットで胡座をかく。
「隠すつもりはなかった」

昨年の今頃、これが届いた。
長方形の封筒を差し出し、裏返す。
A.R.O.Aだった。
内容には、適合した新しい精霊の名前が載る。
「まだ、契約はしてない」

お前とはずっと二人でやってきた、けど。
それを言い終わる前に、気がついたら押し倒されていた。
何かを言わんとするその表情。 

「珊瑚!」
次の瞬間、自分が何をしたのかは、敢えて意識せずやった。
勢いだった。
躊躇っていたら、次はいつこの気持ちをぶつける?

豪雨がもう少し、降り続けばいいと思った。
そうしたら、きっと。
誰にも聞こえないまま、今日という日を過ごせるから。


柳 大樹(クラウディオ)
  場所:クラウの家

気に入ってるキャラの誕生日なんで、ケーキ買ってみた。(誕生日仕様
俺が持ち込んだの以外、物増えてる様子がないなあ。
「…このインスタントコーヒーまだあったんだ?」これ淹れよう。

キャラの良さを話してる最中、初めてこの家に来た時も雨だったのを思い出す。
丁度2年前の今頃、こいつの事をちょっとだけ認めるようになった事も。(言う気は無い
……少しなら、他がやってそうな絆を深める行為をしてもいい。(偏見

「クロちゃんさあ、腹の傷どんな感じ? ちょっと見せてよ」
「傷、また増えちゃって」塞がった傷をそっと撫でる。
(クラウの顔を一瞥
(身を屈めて、傷跡に唇で触れる
「別に、お返しみたいなもんだよ」(顔を背ける


●柳 大樹とクラウディオ――触れる唇――

……なんだ、これは。
クラウディオは、テーブルの上に載った豪華なバースデーケーキを見て、深く考え込んでしまった。
直径15cmは有る、気合いの入ったホールケーキ。
砂糖菓子は勿論のこと、苺を始めとしたフルーツも、たっぷりトッピングされていた。
(……誰かの誕生日だったか……?)
記憶を手繰り寄せるも、特に思い当たらない。
その間、大樹は台所に立って、お茶の準備を始めていた。
(俺が持ちこんだの以外、物増えてる様子がないなあ)
――キッチンもリビングも、物が少ないんだよな。 
そんな事を考えながら戸棚を開いた大樹は、見覚えのあるインスタントコーヒーの袋を見つけた。
「……まだあったんだ?」
「ああ」
「丁度いいから、これ淹れよう」
「ああ……」
(一体、なんなんだ?)
記念日を忘れていたら、大樹に呆れられる可能性も有る。
クラウディオは任務に忠実で、根が真面目なタイプ。謎のケーキについても、真剣に思案を巡らせた。
しかし、結局思い浮かばない内に、トレイにコーヒーカップを載せた大樹が戻ってきてしまった。

***

 クラウディオは、自分のクッション(大樹の置き土産)をテーブルの側に置いた。
トナカイ柄とツリー柄のクッション、おまけにケーキが揃ってしまうと、なんだかクリスマスのようだ。
 大樹は、ケーキを切り分けながら朗々と語った。
「クールで勝気なんだけど、真っ直ぐで芯がある。それがこのキャラクターの魅力だと思うんだ」
「創作された人物の事だったか……」
(分かる筈も無い。ケーキを食べる口実が欲しかったんだろう)
「ほら、クロちゃんの分」
 クラウディオの皿には、大樹が切ったケーキが一切れ載った。
残りは全て、自分で食べると言う事だろうか……。
糖分の過剰摂取だ。
クラウディオは、大樹の健康を心配した。
一方の大樹は、ケーキをおいしそうに食べながら、窓を叩く雨音を聴いているうちに、思い出した事があった。
(そう言えば、初めてこの家に来た日も雨だった。丁度二年前の今頃、こいつの事を、ちょっとだけ認めるようになったんだよな……)
決して本人には言わないけれど、大樹もパートナーであるクラウディオを信頼しているのだ。
(……少しなら、絆を深める行為をしてもいい)
他のウィンクルムたちも、やっている事だし。
大樹はふとそう思い至り、クラウディオに声をかけた。
「クロちゃんさあ、腹の傷どんな感じ? ちょっと見せてよ」
「は?」
 唐突な発言に、クラウディオも驚いた様子だ。
腹の傷なんて面白くもないだろうに、見てどうするのか。
そう思ったものの、大樹が身を乗り出して来ようとするので、取り合えずテーブルから下がり、シャツを捲くった。
大樹は指先を伸ばし、シャツの影から、クラウディオの傷を撫でる。
「傷、また増えちゃって」
 その仕草に、クラウディオは肩をビクリと震わせた。
「大樹?」
 なんだか、いつもとは違い、落ち着かない気分になる。
戸惑うクラウディオを他所に、大樹はちらりと彼の顔を一瞥してから、身を屈めた。
「……っ」
 クラウディオの腹部を、柔らかいものが擽る。
それがフワフワした大樹の髪の毛だと判ったのと同時に、肌を撫でる熱い感触に、どきりとした。

――大樹が、自分の傷跡にキスをしている。

見えないからこそ、クラウディオの全神経は、腹部に集中してしまう。
想像しないように努めても、大樹がどんな表情で唇を触れているのか、そんな事ばかり考えてしまうのだ。
クラウディオは、内心戸惑いを隠せなかった。
「何がしたい」
「別に、お返しみたいなもんだよ」

 (この動悸は、一体なんなのだろう)
クラウディオは、静まらない鼓動を押さえ込もうとした。
だが、雨音が激しさを増すのと同じく、一向に収まりそうに無い。
クラウディオはただ、黙々とケーキを食べる大樹の横顔を盗み見ていた。
大樹の口数が減ったのは、ひょっとして照れ隠しなのだろうか。
感情が読み取りにくい大樹――。
だからこそ、彼の行動が気になって、一喜一憂してしまうのかもしれない。

……腹部の傷が、痛みではない何かで疼くのを感じる。
クラウディオには、ケーキの味など全く分からなかった。

●アルヴィン=ハーヴェイとリディオ=ファヴァレット――大好きだよ――

「うーん……」
 ……今日だけは、晴れて欲しかったのに。
アルヴィンは、恨めしそうに窓の外を見つめながら、深い溜息をついていた。
「アル? こっちにおいで?」
 あまりにアルヴィンの表情が優れないので、リディオも心配そうに窓辺に近づいていく。
(そんなに、楽しみにしてくれていたんだね――)
リディオがアルヴィンの肩に手を置くと、アルヴィンは悲しそうに瞳を潤めて振り返った。
「今日は初めて出会った記念日だし、何処か一緒に行きたかったけど……。オレなりに、今日のプランとか考えてたんだけどなぁ」
 唇を尖らせるアルヴィンは、その顔立ちも相まって、いつになく愛らしく見える。
(拗ねてるカオも、可愛いな)
思わずじっとアルヴィンを見つめてしまったリディオだが、ふと我に帰った。
――いけない、アルを慰めてあげないと。
「ほら、元気を出して。外出できないのは残念だけど、こうして家に二人っきりっていうのも悪くないんじゃないかな?」
「そうだね、部屋でのんびり過ごすしかないかな……」
 リディオに優しく励まされたアルヴィンは、先ほどより表情も明るくなった。
折角の記念日。悲しい顔のままでは、一日が勿体無い。
「えと。じゃあ、はりきって料理作っちゃうから」
 気を取り直して、アルヴィンは台所へと向かった。

***

 外出はできなかったが、リディオは十分満足していた。
料理に夢中のアルヴィンを見守っているのも楽しかったし、二人で食事するだけでも嬉しいから――。
食事を終えると、二人はゆったりとソファで寛ぎながら、会話をする事にした。
「料理、どうだった?」
「美味しかったよ。それに、アルが色々考えてくれてた事が、何より嬉しいな」
「本当?」
「うん。はりきって料理を作ってくれたアル……、とっても可愛かったよ」
 真っ直ぐに瞳を見つめて、想いを伝えてくれるリディオ。
話題に「愛を深める方法」が挙がっていた事もあり、普段は受身なアルヴィンも、勇気が出たようだ。
「……リディっ!」
 隣に座っていたリディオに、勢いよく抱きついたのだ。
(アル……)
ぎゅっとくっついてきたアルヴィンに驚いたものの、リディオは嬉しくて、胸が一杯になった。
自然と頬がほころび、笑顔が浮かんでくる。
「いつもこうだと、僕も嬉しかったりするんだけどね」
「いつも……って。ええと、でも、この際だから言っておくね。……リディ、大好きだよ……。その、『こういう意味』でだよ」
 リディオの紫の瞳は、アルヴィンだけを見つめている。
これだけまっすぐな好意を向けられれば、誰だってドキドキしてしまうだろう。
(恥ずかしいけど……。でも、リディに伝えたいから……)
アルヴィンは、照れくささを我慢して身を乗り出し、リディオの唇に自分の唇を、ふわりと重ねた。
「――っ!」
「あ、あの……。もしアレだったら、気にしなくていいからね」
 可愛らしくて控えめな、アルヴィンのキス。
「アル……」
リディオは、感動のあまりアルヴィンを抱きしめ返して、耳元でそっと囁きかけた。
「僕も大好きだよ。……初めて出会ったときからずっと、ね」
「リディ……。うん、ありがとう」
 互いの想いを、言葉にして伝える事。
それが、二人の絆を一段と強くしてくれた。

初めて巡り会った「運命的な今日」に、感謝しながら。
二人は、もう一度目を合わせると、今度はどちらからともなく、唇を重ね合わせるのだった。

●アイオライト・セプテンバーと白露――これからも一緒に――

「ふみゃあ……。パパ、おはよー」
 小さな欠伸と共に、アイオライトは「うーん……」と背伸びをした。
まだ眠気が覚めないのか、何度も大きな瞳をぱちぱち瞬きしている。
リビングでは、白露が朝食の準備を整えている所だった。
「おはようございます、アイ」
 白露がにっこり微笑みながら運んできた皿には、ふんわり卵にケチャップを添えた、特製オムライスが載っている。
「あ、朝ご飯にオムライスがある、ごちそうだ!」
 大好きなオムライスを見て、アイオライトのテンションは一気に上がる。嬉しそうに歓声を上げて、テーブルへ近づいて行った。
「早起きしてしまったので、今日は張り切ってみました。折角のお休みですからね」
「わあい! パパ、大好き――」
 大興奮で白露に飛びつこうとしたアイオライトだったが、ふと我に帰り、ピタリと静止。
伸ばしかけた両手が、不自然に宙で固まっている。
(うーん……パパが優しすぎると、ちょっと怪しいな。あたしの誕生日もパパのもじーじのも終わっちゃったし……)
――これだけのごちそうだもの。
きっと、何かスゴイことがあったんだ!
アイオライトは、白露の無償の優しさを疑う気持ちが、どうしても捨てきれない。
その場に立ったまま、白露を上目遣いに睨んでいる。
「ど、どうしたんですか? オムライス、好きでしょう?」
「まさか、……浮気とか?」
「へ? あの……、浮気ってなんでしょう」
 アイオライトは(かなり)真剣な目つきだが、そもそも二人は交際していない。浮気と言う次元の話ではないのだ。
白露は、ぽかんとした表情を浮べていた。
「違うの? なら、あたしのぱんつ盗ったとか……?」
 ついに、パパがあたしの色気に誘惑されて、ぱんつを……!
「それは、アイでしょう」
 だが、アイが半ば期待を込めて言った発言は、白露にきっぱり否定された。
「じゃあ、なに? ぱんつの記念日でもないし。パパ、悪いことしちゃったの?」
「……ぱんつの記念日……。いいえ、何か悪い事をしたとか、そういうことではなくて……」
「ぱんつの記念日は、いいことだもん」
 よく分からないが、このままでは堂々巡りだ。
白露は、皿をテーブルに置いてから、アイオライトの頭の上にそっと掌を載せた。そのまま、優しくあやすように髪の毛を撫でる。
「早起きしたことは本当なんです。たまにはそういう日があっても良いと思いまして。夕飯は、アイのリクエストに応えますよ。――買い物のお手伝いをしてくれたら、ですけど」
「……うーん……」
「悩まなくて良いんです。私個人の、勝手なケジメのようなものですよ」
 正直、腑に落ちないところも残るが、アイオライトは白露と一緒に居られれば満足だった。
(ま、いっか。パパと一緒にお買い物だー♪)
 朝ごはんを食べないうちから、夕飯が楽しみになってしまったアイオライトだった。

***
 
(アイとウィンクルムになった日が、数年前の今日ですか。早いものですね)
――朝から降り続いた雨は、まだ止まない。
白露は、アイオライトと一つ傘の下、買出しへ出かけた。
こうして寄り添って歩くと、脳裏によぎるのはあの日の思い出。
(アイがその時のことを全部忘れてますし、私も未だ、伝える勇気はありませんが……)
突然のオーガの襲撃。そして、あの事件をきっかけに、白露を「パパ」だと思い込んだアイオライト――。
いつか伝えるときが来るのかもしれないが、それは今ではない。白露は、そう考えていた。
「あたしねっ、パパと一緒にケーキ作りたいっ。ぱんつの形した、おっきーいの!」
 何も知らないアイオライトは、上機嫌で笑っている。
その笑顔を前に、ただ微笑んでいるのが白露の幸せだ。
――ぱんつ型のケーキとは、シュールになりそうだけれども。
「ふふ……。アイはぶれませんね。でも、お菓子づくりに興味を持ってくれたのは嬉しいです」
「そんでね、あとでじーじとみんなで食べよ?」
 お茶の淹れ方も教えてね、と白露におねだりするアイオライト。
立派なレディになるために、一生懸命なのだろう。
「はいはい。いちごのケーキにしましょうね」
「わあーい♪ いちご大好き」
 
 雨音のシンフォニーの中、二人の微笑ましい親子の会話は、いつまでも尽きる事はなかった。

●瑪瑙 瑠璃と瑪瑙 珊瑚――雨音に抱かれて――

 窓を激しく叩きつける雨音が、部屋中を満たしている。
瑠璃と珊瑚は、同じ空間に居るにも関わらず、お互い口を結んだままだった。
(瑠璃?)
カーペットに腰を下ろしたまま、難しい顔をしている瑠璃。
その手元には、一通の封筒が握られていた。
「なぁ、瑠璃。今日って、何かあったかー?」
 封筒の中身もそうだが、珊瑚は瑠璃の様子がおかしい事のほうが、ずっと気になる。
ついに沈黙が我慢ならなくなり、瑠璃へと声をかけた。
「……ああ、ごめん」
 珊瑚に話しかけられて、瑠璃はようやく我に返った。
痛みをこらえるかのように眉を顰め、封筒を握る拳に力を込める。
「隠すつもりはなかった」
「?」
「昨年の今頃、これが届いた」
 低くかすれた声と共に、瑠璃が差し出した封筒の裏側にはA.R.O.A.の文字が――。
それを一目見た珊瑚の顔に、明らかに動揺が走る。
「まだ、契約はしてない」
「……ッ」
 封筒の中には、「新しい精霊の名前」が印字された文書が入っていた。
これから瑠璃と契約するかもしれない、『自分以外の精霊』の存在。
その事実を認識した途端、珊瑚の頭の中は真っ赤に染め変えられていった。
 怒りなのか、悲しみなのか。
自分でも説明できない気持ちが増殖して、胸が苦しかった。
「お前とは、ずっと二人でやってきた、けど――」
「……瑠璃」
 珊瑚は、「瑠璃が新しい精霊に奪われるのでは」という不安にかられたのだ。
――誰にも、瑠璃を渡したくない。これまでだって、ずっと二人でやってきたんだから……。
珊瑚の中で膨れ上がった嫉妬心は、もう押さえ切れなくなっていた。
(……聞きたくねぇ……!)
その先の言葉を、瑠璃の口から聞くのは怖い。
そう感じた珊瑚は、強引に瑠璃の肩をつかみ、彼に覆いかぶさった。
「ど、どうしたべ、珊瑚――」
 突然カーペットの上に押し倒されて、瑠璃も目を丸くする。
だが、珊瑚のあふれ出した感情は止まらない。
「わんも最初、瑠璃とはただ似てるだけのコンビだとか、そう思ってた。愛想悪い返事しかしねぇし、説教ばっかする。……こんな奴のどこがわんに合ったのか、わかんなかった」
「……」
 神人と精霊は、適合しなければパートナーになることはできない。
そうは言ったものの、瑠璃と珊瑚は、見た目以外は共通点も見当たらない二人だった。
瑠璃は無口で理性的なタイプだが、珊瑚はお喋りで直情的。
正反対な性質ゆえ、上手く行かないことだってあった。
だけど、困難を共に乗り越えてきたからこそ、今の強い結びつきがあるのだ。
「やしが、わんぬむぐとぅ知ってくれる内に、それが嬉しかった! 細かい事なんて、わかんねぇよ! でも――もっと好きになりてぇのは本当なんだ!」
「……珊瑚」
 洞窟湖で誓ったとおりに。今でも珊瑚の胸の中には、瑠璃への想いが息づいている。
もっと理解したい、もっと好きになりたいと、本心から思っている……。
なのに、その誓いさえも、別の誰かに奪われるかもしれないなんて。
「戻れなくても構わねぇ、その時はその時やさ! 瑠璃が何人精霊と契約しようが、オレは……」
「珊瑚!」
 次の瞬間だった。
瑠璃は、自分でも信じられないくらい大きな声で、珊瑚の名を呼んでいた。
「……っ」
 そして、自ら腕を伸ばし、珊瑚の背中を思い切りきつく抱きしめたのだ。
今は、言葉ではなく態度で伝えたい。
(だって、躊躇っていたら、次はいつこの気持ちをぶつける?)
瑠璃は、珊瑚を抱きしめることで、「おまえが大事」だと示したかった。
 いつの間にか、二人はカーペットの上で抱きしめあう格好になっていた。
互いの心臓の音が一つに混じり合い、雨音に溶けていく――。
瑠璃は、ますます強い力を込めて、珊瑚を閉じ込めた。
珊瑚もまた、瑠璃にしがみついて身を委ねている。
(豪雨がもう少し、降り続けば良い……。そうしたらきっと。誰にも聞えないまま、今日と言う日を過ごせるから)
 瑠璃はひたすら、祈り続けた。
 
 雨よ、どうか止まないで――。
今を結びつける言葉は、重なる鼓動と雨音だけだから……。

●アキ・セイジとヴェルトール・ランス――毎日が記念日――

「記念日?」
 突然、ランスに「今日は何の日?」クイズを出されたセイジは、咄嗟に何も思い浮かばなかった。
なにせ、お互いの誕生日でもなければ、出逢った日でもなく、契約を結んだ日でも無い。
「すまない、ランス。どうしても思い出せない……」
 真剣に考えたセイジだが、すっかりお手上げ状態だ。
ランスは、思案顔のセイジも可愛いなぁ……などと思いながら、セイジに思い切り抱きついた。
「わっ。全く、すぐ抱きつくんだから」
「今日は、『初めてセイジがオレに手料理振舞ってくれた記念日』だよ」
「え?」
ランスの言葉を聞いて、セイジはハッとした。
まさか料理を作っただけで、お祝いしてくれるとは思わなかった。
(そっか……。記念日にしてくれてたんだ)
喜びと甘酸っぱい気恥ずかしさで、胸がいっぱいになる。
「だから、ジャーン! ちゃんと買ってきましたっ」
 更に、ランスはテーブルの方を指差し、耳と尻尾をぴこぴこさせながらアピールしている。
そこには、今日を祝うために用意したケーキとチキンが、揃えて置いてあったのだ。
「ランス……」
 セイジの内心は嬉しくて浮き立っていたけれど、緩んだ顔をランスに見られるのは、ちょっとこそばゆい。
「さ……皿は、これで良いかな」
 セイジが慌ててテーブルの上を片付け始めると、ランスはそんな彼を、にまにましながら見守っていたのだった。

***

 あの日と同じようにテーブルに料理を並べ、更にシャンパンとグラスも準備。二人は、正面に向き合って椅子に腰を下ろした。
「俺……こういうの記念日にしてくれるって、思ってなくてさ……」
カチリと、互いのグラスとグラスをぶつけ合い、一口口をつけると、セイジの口からやっと正直な感想が漏れた。
小声で「ありがとう」と呟くセイジに、ランスははにかみながら答える。
「俺はね、セイジと一緒に暮らしてて、すげえ幸せなんだ。だから、毎日が記念日みたいなもん」
「でも……俺、何もあげられてないのに……」
 いつも思いやってくれるランスに、自分はどれだけのものを返してあげられるだろう。
セイジはテーブルの上で、ランスの手に自分の手を重ねた。
すると、ランスは「一杯して貰ってるジャン!」と満面の笑みを浮べる。
 食事が終わっても、ランスのテンションはずっと高かった。
セイジが素直に好意を示してくれるなんて、滅多にないことだからだ。
「セイジったら、もう可愛いなあっ」
「ばっ……か。そんな言ったら、……どんな顔して良いか分からんじゃないか」
 可愛い・幸せーを連呼されると、セイジの頬は、酔いではなくて羞恥から薄紅に染まった。
思わず逃げようとするけれど、セイジの背中にはランスの逞しい腕が回されているので、どこへも逃げられない。
「ちょ……あ」
「俺、セイジが愛しすぎて呼吸も辛いくらいだよ……」
「……っ」
 ――それは、俺も同じ気持ちだ。
セイジは、この胸の高鳴りをランスに伝えたいと思ったが、言葉では上手く言い表せなかった。
答える代わりに自分から、ぎゅっとランスを抱きしめ返す。
 二人でいることは、当たり前なのかもしれない。
でも、愛しい人が居る毎日は、それだけで記念日なのだ。
「今日は、セイジが自分からデザートになってくれる記念日がいいかなー」
 良い気分になったランスがセイジの耳元で囁くと、セイジの身体はかっと熱くなった。
だが、このままでは終始ランスのペースになってしまうと思ったので、ランスの背中を力いっぱいつねってやった。
「あっ、イテテ!」
「調子に乗るな」
「へへ……すんません」
 でも、今日は特別だから――。
セイジは、僅かにつま先を浮かせて、ランスの唇に自分の唇を押し付けた。
「……んっ……」
 ランスは驚きと共に、セイジの口づけを受け入れる。
言葉に出来ない「好き」を乗せた唇は、熱く強く……何度も重なり合ったのだった。



依頼結果:大成功
MVP
名前:アキ・セイジ
呼び名:セイジ
  名前:ヴェルトール・ランス
呼び名:ランス

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 夕季 麗野
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月29日
出発日 10月04日 00:00
予定納品日 10月14日

参加者

会議室

  • [4]アキ・セイジ

    2016/10/03-22:37 

    うちのケダモノオオカミが耳と尻尾をぱたぱた動かしてむっちゃ機嫌が良い。
    そんなに喜んでもらえるなら、俺も、悪い気はしない、かな。

    ささやかな記念日。
    けど俺達にはすごく幸せな日。
    そうなれると良いな。

  • [3]瑪瑙 瑠璃

    2016/10/03-02:03 

  • [2]柳 大樹

    2016/10/02-23:24 

    柳大樹でーす。よろしくー。

    今までそんな積極的に考えてなかったけど。
    愛を深める、かあ。


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