【ギルティの復活】診療所の攻防(木口アキノ マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

「せんせーい、薬くださーい」
 村のはずれにある木造の小さな診療所に、若者の声が響く。
「また火傷かい?」
 診療所を営む医師アーチボルドが事務机の椅子から立ち上がる。
 ここは、テルラ温泉郷から少し離れた村。遠い場所からテルラ温泉郷に出稼ぎに来ている者たちの宿舎がある村だ。
 診療所を訪れたこの若者、バートは、テルラ温泉郷のホテルで料理人として下積み中だ。
 アーチボルドは壁に並んだ薬品棚から軟膏をひと瓶取り出す。
 バートは料理人としてもまだ駆け出しのうえ、そそっかしい性格のせいか、よく怪我をする。
 アーチボルドがバートの手の甲にできた新しい火傷に薬を塗る間、バートは診療所の隅に作られたサンルームを眺める。
 プランターにさまざまな植物が植えられている。これらは、アーチボルドが育てている薬草だ。テルラの温泉水が良質な薬草の成長に効果があると、以前バートに語ってくれた。
 実際、アーチボルドの薬は火傷や切り傷によく効くと料理人仲間の間でも評判である。
 このサンルームを眺めていると、静かでゆったりとした時間が流れているのを感じる。職場に戻ればまたあわただしい日常が待っている。
 バートはここで、サンルームを眺める時間が気に入っていた。

 ある日、温泉郷の裏手の山から異様な妖気が噴出した。
 それと共に、数多のオーガがテルラ温泉郷周辺に集まりだした。
 観光客の多くは速やかに温泉郷から脱出できたが、一部の観光客、ホテル従業員、付近住民はオーガの脅威にさらされた温泉郷とその付近に取り残された形となった。
「このままオーガの餌食になるのはごめんだね」
「料理する側が料理されちゃたまんないもんな」
 バートたち料理人仲間は、テルラからの脱出を図ろうとした。
 ライフルなどの武器を用意し、準備を整えるため宿舎に戻る。
「ちょっと待って」
 バートは仲間に言うと、宿舎を飛び出し診療所に向かって駆け出した。
 空はどんよりとしており昼間なのに薄暗い。通路脇の木々の間を、何かが飛び交う気配がする。
 オーガがこちらの様子を伺っているのだろうか。
 バートは診療所に駆け込む。
 そこには数人の先客がいた。オーガの襲来で傷を負った人々だろう。
「先生!早くここから逃げよう!」
 バートの勢いに驚くアーチボルド。
「オレたちと一緒に、テルラから離れよう!」
「バート、それはできないよ」
「これからここにはもっともっとオーガが集まるんだぞ?」
「だからこそ、だよ」
 アーチボルドは静かに言う。
「オーガが増えれば、怪我人も出るだろう。その時にここが、診療所が閉まっていたらどうなる?」
「だけど……っ」
 バートが答えあぐねていると、大きな音を立てて診療所の扉が開いた。
 オーガか?
 バートは跳ね上がるようにして扉を振り返る。
 しかしそこにいたのは。
「やっぱりここに来てたのか、バート」
「俺たちも先生の薬には世話になってるからな、先生を置いて逃げられないよ」
 バートの料理人仲間たちだった。
「みんな、ありがとう。でも、君たちだけで逃げてくれないか」
 というアーチボルドの言葉を、料理人仲間の年長者フリッツが笑い飛ばす。
「俺たちはみんなで逃げようってんでここに来たんじゃないさ」
 そう言うと、押しかけてきた仲間たちは、大きな荷物を次々と床に降ろす。
「A.R.O.A.に救助要請した。助けが来るまで、ここで戦おう」
 アーチボルドとバードは目を見張る。
「ありったけの食糧と、武器になりそうなものを持ってきた」
 フリッツはライフルや小銃、ナイフを取り出す。
「外にはヤグアートが2匹いた。あいつらは割と臆病だから、すぐには襲ってこないだろう」
 と、窓の外を見る。
「でも、デミ・トレントもいますよ」
 腕に包帯を巻いた患者が言う。どうやらここに集まっている怪我人たちは、デミ・トレントに襲われたらしい。
「私たちが見たデミ・トレントは1体でしたが……オーガがいれば、その影響でもっと増えるかも……」
 そう言った患者は身を震わせる。
「大丈夫、すぐに助けがくる。それまでの辛抱だ」
 フリッツは軽傷の患者たちにも武器を配った。
「それまで、なんとか耐え凌ぐぞ!」
 フリッツの言葉に、バートも力強く頷いた。

解説

 敵はヤグアート2匹(風属性1匹、土属性1匹)、デミ・トレント1体(土属性)です。
 が、迅速にヤグアートを倒さなければ、デミ・トレントが増える可能性もあります。
 ヤグアートは攻撃力・防御力が低いのですが、素早さが高いので注意してください。
 デミ・トレントは防御力が高くても動きが鈍いので、勝機はあるはずです。
 診療所内にはアーチボルド、バート、フリッツのほか、料理人仲間2人、怪我人3人がいます。オーガたちを倒し、彼らを救助してください。
 バートたち料理人は若く力もあり、自分の身を護るくらいは可能ですが、他の人たちはそうもいきませんので、オーガとの戦いに巻き込まれないよう十分注意してください。



ゲームマスターより

 自分の身に危険が迫っていても、職場を放棄するわけにはいかない……。
 そんなアーチボルドの心意気をわかっているから、バートたち料理人も腹をくくってオーガに対抗することを決めたのでしょう。
 どうか彼らの力が尽きぬうちに、救助してください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)

  持ち物
爆竹、ライター

遂にオーガとの戦闘か…怖くない訳じゃない、けれど
診療所に残っている人たち全員を無事に助けたい
今は足手まといにならないよう、俺に出来る事をするよ

診療所へ向かう前にトランス状態になっておく
ラセルタさん、どうか気を付けて

途中でヤグアートに遭遇したら爆竹を投げつけて威嚇
ラセルタさん達に後を任せて、隙を狙い診療所へ向かう

窓から室内の状況を目視
人の姿があれば、救助に来た旨と窓側から離れるよう伝える
剣を抜き、建物の周囲を警戒
不自然な木を見つけた場合は石を投げて様子見

デミ・トレントへの攻撃はヒット&アウェイ
建物から引き離すように立ち回る
戦闘中は孤立状態を避け他の神人さんと連携する


アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  仲間と一緒にトランスして現着
状況確認し即行動

・建物に魔物が入ってない場合
投石と挑発で建物から引き離す
若い村人に俺達が戦ってない魔物を銃で撃つ等の援護を頼む

俺達が倒したデミのトドメでもいい
だが建物からは出るなよ!

・建物に魔物が一匹でも入ってたら
群れの端から切り崩して建物の中に入って駆除できるよう工夫

・ヤグアートは機動力を削ぐ為に俺も銃を村人に借りて翼の付け根を撃つ
倒せなくても物理衝撃は発生するだろ、それで行動を誘導するのが狙いだ

・誤射を防ぐ為、以降は剣で仲間と同じデミを協力し倒す
バラバラに戦うなよ。一対多数で戦うんだ

魔法が完成するまでは、ランスは俺が守るっ

★事後、村人の避難先をAROAと相談する



柊崎 直香(ゼク=ファル)
  診療所か
懐かしい匂いを思い出すよ

入村前にトランス
木々や高い場所に特に注意し診療所へ
※デミトレントの擬態、高所からのヤグアート襲撃を警戒

診療所建物を観察し
・襲撃されているなら此方へ引き付け
・敵の姿なければ、中にいる人へ救助到着の旨伝え(誤射回避)
現況確認。内部への侵入はされているか、敵の数は増えているか
あと窓から離れていて

ゼクと一緒に動く
連携取りやすいのと詠唱中の警戒。小刀構え
中と会話するなら建物正面で対峙かな
建物から引き離して撃破のつもりだけど
万一此方に流れても建物背に守れるよう
対ヤグアートは魔法
対デミトレントは僕も攻撃でダメージ重ねたい

救出後
村全体の救助人数把握、支部へ連絡
先生残られても困る


セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  村に入る時にトランスする。
建物内に敵が入り込む前に3体とも始末したい。
診療所へ向かい道すがらデミトレントを探す。ヤグアートはその近くに居るだろ。
デミトレントを見付けたら死角(後ろからとか)から不意打ちして剣で攻撃。
精霊達がヤグアートへ攻撃するまでの時間稼ぎをするぜ。
デミトレントなら俺達の攻撃も少しは利くかもだし。
敵の攻撃はなるべく回避。間合いを取りつつ少しずつ相手の体力を削いでくぜ。足(太もも)等狙って敵の動きを鈍くして有利にしたい。
ラキアは怪我させたくないので下がらせる。オレは丈夫なのが取り柄だから大丈夫。(怪我しないようにするし。回避中心)
敵は集中攻撃して1体ずつ確実にしとめようぜ。



アイオライト・セプテンバー(白露)
  あたしも今回は戦闘がんばるもん。えいえいおー。
デミ・トレントのほうに行くね。
なるべく早くデミ・トレントを発見したいから、診療所に着いたら、一度建物のまわりをぐるっとしてみる。
見つかったら、自分を囮にして、診療所から引き離すように動く。見つけたら、こっちからえいやーって、やっぱり診療所から離すように。どっちにしろ、大声でみんなに教えないと。すこしぐらい痛くても気にしない。
サンルームは傷つけたくないな。葉っぱが大切なお薬になるんでしょ?
建物はちょっと壊れてもどうにかなるけど(ごめんなさい)、葉っぱは大きくなるまで時間がかかるから。
ところで、診療所って痛み止めと女の子になれるお薬ある?(真剣)


●変わり果てた温泉郷
「近頃は物騒なことばかりですね。いつになったらテルラ温泉にもう一度のんびり浸かれるようになるんでしょうか」
 妖気に蝕まれた温泉郷を歩きながら、白露が言う。
 付近の交通も円滑に機能していないため、温泉郷入口から依頼のあった村までは徒歩で行かなければならない。
「診療所は絶対に守らなきゃいけない場所なんです。アイ、覚えておきなさいね」
「うん。だから、あたしも今回は戦闘がんばるもん。えいえいおー」
 アイオライト・セプテンバーが拳を振り上げる。
「診療所か……懐かしい匂いを思い出すよ」
 と、柊崎直香。
「診療所の先生は自分の使命を最優先だってね。僕達も、僕達にしかできないこと、やらなきゃね」
「言われずとも」
 直香の隣を歩くゼク=ファルが答える。
「……」
 直香が一瞬、遠くへ想いを馳せるような眼差しになる。
「どうした?」
「な、なんでもないよっ」
 直香の両親もまた医師であり、職務を優先して命を落としたと聞く。
 だから一層、思うところがあるのだろう。それをわかっているから、ゼクも深くは追及しなかった。
「そろそろ村に着くぜ。村に入る前に、トランスしておいた方が良さそうだ」
 セイリュー・グラシアが言うと、
「そうですね」
と、ラキア・ジェイドバインが表情を引き締める。
「遂にオーガとの戦闘か………」
 村へ続く道を見据えて羽瀬川千代が呟く。
「怖いのか?」
 パートナーのラセルタ=ブラドッツが訊く。
「それはまぁ……。怖くない訳じゃない、けれど診療所に残っている人たち全員を無事に助けたい。今は足手まといにならないよう、俺に出来る事をするよ」
「人の心配が出来るなら問題は無いだろう」
 ラセルタは千代の頭をわしゃわしゃと撫でた。そして、
「Dスケールオーガか、相手にとって不足無しだな」
と、これからの戦闘を思い不敵に笑う。
「ドカーンとハデにやっちまおうぜ」
「またランスはそんな乱暴なことを……」
 豪快に言うヴェルトール・ランスに眉をひそめるアキ・セイジ。
「ゼク、トランスするよ」
「……そう、だな」
「いい加減キスくらい慣れてよ。お仕事でしょ」
「うむ……」
 膝を曲げたゼクの頬に直香がキスをし、インスパイアスペルを口にする。
「スペルに依りて叶えよ。事、総て、成る」
「パパ、頑張ってねっ」
 アイオライトも白露に飛びつくようにしてキスをして、
「ウィーウェ・メモル・モルティス」
と、インスパイアスペルを唱える。
「静かに、微睡みが近寄るように」
 千代とラセルタも続いてトランスする。
「ラキア、オレたちも」
「そ、そうだね」
「キスなんて挨拶と変わらないんだから、いちいち意識するな」
 セイリューがラキアの頬に口づけ、「滅せよ」のインスパイアスペルでトランスが完了する。
「これも任務のうち、だからな」
と言いつつセイジはランスの頬にキスし、インスパイアスペルを唱える。
「コンタクト」
「任務じゃなくてもいつでもオーケーなんだけどな~俺は」
 キスされた場所を指でつつきながらそう言うランスだが、セイジは聞こえないふりをした。

●診療所へ
 そこは、小さな農家や店がいくつかと、中心部に何棟かの集合住宅が建っているだけの閑散とした村だった。
「人気がないね」
 あたりを見回し千代が言う。
「ほとんどの人間が避難したんだろう。無事に避難できたかどうかまではわからないが」
 と、ラセルタ。
 セイリューは、街路樹や庭木などを調べつつ歩いている。
「その辺の木がデミ・トレントかもしれないだろ。デミ・トレントがいればその近くにヤグアートもいるだろうしな」
「なるほど、そうだね」
 ラキアは、デミ・トレントを探しているセイリューが突然オーガに襲われることのないよう、周辺に注意しながら彼の後ろを歩いた。
「ヤグアートって、鳥みたいなオーガでムササビみたいに飛んだりするんだよね。だったら、木の上とかにいるかもね」
「そうだな。頭上には注意したほうがいい」
 直香とゼクは木の上を注視しつつ歩く。
「ヤグアートの威嚇用に、家から爆竹とライターを持ってきたんだけど……効くだろうか」
 千代が不安げに言う。
「あ、あれが診療所じゃない?」
 サンルームの付いた木造の建物を遠くに見つけ、アイオライトが指を指す。
「不用意に近づいてはダメですよ」
 白露はアイオライトの肩に手をかけ引き寄せる。
 よく見ると、2つの細長い影が診療所の窓に体当たりしている。
「ヤグアート……!」
 全員に緊張が走る。
 時折、窓が少しだけ開き中からのぞいた銃口が弾丸を放つが、ヤグアートは素早く逃げる。
「ああやって、中にいる人たちが消耗するのを待っているのかな」
 と、千代が言う。
「ヤグアートを診療所から引き離してから攻撃しよう」
 セイジが提案する。
「中にいる人たちに、僕たちが来たことも伝えなくちゃ」
「誤射されたら困るからな」
 と、直香とゼク。
「デミ・トレントも近くに潜んでいるかもしれないぜ」
 セイリューは、診療所付近に立つ木々を睨む。あの中のどれかが、デミ・トレントなのだろうか?
「じゃあまず、俺が爆竹でヤグアートを威嚇して診療所から引き離すよ。できればそのまま診療所に入って、中の人たちに救助が来たことを知らせたいな」
 千代が爆竹とライターを取り出す。
「俺もその役を手伝おう。後のことは頼むぞ、ランス」
と、セイジ。
「ちょろちょろ動くヤグアートは、俺たちエンドウィザードがどっか~んとやってやるぜ」
 ランスはゼクの肩をぽんと叩いて言う。ゼクも静かに頷いた。
「それなら、俺様は2人のスキル発動までの時間稼ぎを請け負ってやろう。貸し一つ、ってことで」
 ラセルタは不敵に笑った。
「デミ・トレントも気になるけど、まずはヤグアートを倒しちゃった方が良いよね。パパも、みんなと一緒にヤグアートをやっつけて」
「わかりました。アイはどうするんですか?」
「なるべく早くデミ・トレントを発見したいから、建物のまわりをぐるっとしてみる」
「でも、それじゃあアイが1人になってしまいます」
「あたしだってウィンクルムだよ!心配しないで!それより、今いる敵を片づけちゃってね」
 アイオライトにそこまで言われては、白露も承諾するしかない。
「オレとラキアもデミ・トレントを探すぜ」
 と、セイリュー。
「これで、役割分担は決まったね。じゃあ、行こうか」
 千代が良い、皆が頷いた。

●オーガを撃破せよ!
 まず先に、千代とセイジが診療所へ向かい走る。
 近づくにつれ、ヤグアートの醜悪な姿がはっきりと見えてくる。
 骨と皮だけの体、ひょろりとした手足、鳥のような嘴と背中には蝙蝠を思わせる羽。
 ヤグアートは診療所内の人間を威圧することに気を取られて、千代たちがあと十数歩で届くというところまで彼らに気付かなかった。
 ヤグアートは千代たちに気付くと、ぱっと診療所の屋根に飛び乗る。
「そこから離れろ!」
 千代とセイジは、屋根の上のヤグアートに向かい爆竹を投げつける。
 ギャア、と声をあげヤグアートは屋根から滑空し診療所から離れた。
 2人は診療所のドアを叩き、中の者に救助に来た旨を伝える。
 信用してもらえたらしく、ドアがそっと開いた。
 ヤグアートは隙を伺い尚も診療所を襲撃しようとするが、そこへ後続のラセルタたちがやって来る。
 2匹のヤグアートに5人のウィンクルムでは分が悪いと思ったのだろう、ヤグアートは逃げ出そうとするが、ラセルタがスキル「ダブルシューター」を用い、それを許さない。
 ラセルタの弾丸を受け地に落ちるヤグアート。
 ヤグアートと診療所の間に直香、ゼク、白露、ランス、ラセルタが立つ。
 ゼクとランスはすぐにスキルの準備を始めた。
 ゼクが詠唱に集中できるようにと、直香は気丈に小刀を構える。ヤグアートがゼクに襲い掛かるようなことがあれば、身を挺して守る覚悟だ。
 セイジも診療所から出てきて、ランスの前に立つ。診療所内の人々は千代に任せたのだ。セイジの手には、バートたちから借りたとおぼしき拳銃が。
「上手く使えるかどうかはわからないが……ランスの魔法が完成するまでは、俺が守る!」
 逃げられないと悟ったのか、ヤグアートは、ウィンクルムたちに襲い掛かる。
 白露、ラセルタ、セイジが銃撃で対応するが、ヤグアートも黙って撃ち抜かれはしない。
 縦断をかいくぐり跳び上がると白露とラセルタに爪を食らわせたかと思うと、ぱっと離れて距離をとる。
「さすがに素早いですね。攻撃のチャンスが欲しいところです」
 額を流れる血を手の甲で拭い、白露はスキル「ガン・アサルト」を発動し、ヤグアートに向かって走る。
 飛びかかるヤグアートをひらりと避けて木陰に隠れ、ヤグアートの背後をとる。焦ったヤグアートが白露の姿を探す。そこに隙ができたのをラセルタは見逃さず銃弾を撃ち込む。
 さすがに致命傷にはならないが、風属性のヤグアートの羽をもぎ取ってやった。
「2匹を集めてくれ!」
 セイジが叫ぶ。ランスのスキルの準備ができたようだ。
「待ちかねたよ」
 ラセルタが再度「ダブルシューター」を発動し、ヤグアート2匹を1か所に集める。
「いくぞ~!」
 ランスはスキル「カナリアの囀り」を発動!
 上方に生じた大きなプラズマ球が、ヤグアート2匹に叩きつけられる。衝撃で地面が揺れ、爆風が全員の髪を揺らした。
 あとに残るは、ヤグアートの残骸だけ……。

●デミ・トレントはどこに
 ヤグアートと戦っているメンバーとは別に、アイオライト、セイリュー、ラキアはデミ・トレントを探す。
 アイオライトは診療所をぐるっと回り、セイリューたちはそれよりもう少し離れた場所を広く捜索する。
「早く、デミ・トレントを見つけなきゃ」
 アイオライトは息を切らせながら走るが、サンルームに差し掛かるとその足を止める。
 ガラスの向こうに薬草のプランターが見える。
「デミ・トレントが現れて戦闘になったとしても、サンルームは壊されないようにしないと。この葉っぱが大切なお薬になるんだもんね?」
 サンルームを隔てて診療所内も見える。アイオライトの姿を見つけて、奥から千代がこちらに向かってくる。
「千代さ……」
 アイオライトが千代に声をかけようとした瞬間、千代の視線はアイオライトの後方に釘付けになる。
 それに気づいたアイオライトが振り向くと3メートルほど先に、アイオライトの4倍くらいの大きさの木が。
「あれ、あんなところに、木、生えてたっけ?」
 アイオライトが疑問を口にする間もなく、その大木はわさわさとこちらに向かって移動を始めた。
「デミ・トレント……!」
 早くみんなに知らせなくては。でも、すぐに大きな声なんて出なかった。
 診療所の中で千代が何かを叫ぶ声が聞こえる。
 デミ・トレントの枝が大きく上方にしなった。それが次の瞬間には自分に振り下ろされると覚悟したアイオライトはぎゅっと目を閉じる。
「行くぞ!ラキア!」
 セイリューの声と共に、剣が一閃し枝を弾く。
 アイオライトの頭の上に、はらはらと葉が落ちてきたが、デミ・トレントの攻撃は当たらなかった。
「早く、みんなにデミ・トレントが出たと知らせて」
 ラキアがアイオライトの背を押す。
 こくんと頷き、アイオライトは駆け出す。
「ラキアは下がってろ」
「でも、セイリュー……」
「オレは丈夫なのが取り柄だから大丈夫」
 そう言って、セイリューはデミ・トレントに向かい剣を振り抜く。
「くっ、堅い……!」
 セイリューの一撃は、デミ・トレントの皮が剥いだにすぎなかった。
「加勢するよ」
 窓から出てきた千代も武器を抜く。デミ・トレントを斬りつけては距離をとる。
 僅かなダメージしか与えられないが、他のメンバーが来るまで保てば……!
 デミ・トレントの奇っ怪に曲がった何本もの枝がセイリューに襲いかかる。
 スピードは速くない。落ち着いてひとつひとつ回避するが、細かい枝の先がセイリューを引っ掻く。
「シャイニングアロー」
 ラキアがスキルを発動し、セイリューの前に飛び込んできた。
「ラキア……!」
 デミ・トレントはラキアに枝を振り下ろすも、彼が纏った光輪が逆にデミ・トレントの枝を折る。
 その時。
「みんなっ、離れて~!」
 直香の声が響く。
 咄嗟にセイリューとラキア、千代はデミ・トレントから飛び退る。
 そこへゼクのスキル「乙女の恋心」が発動。
 ヤグアートとの戦闘時、詠唱していたもののスキルを発動することなく戦闘が終わったが、タイミング良くアイオライトが知らせに来たため、詠唱を続け、こちらに到着後すぐに発動できたのだ。
 ゼクから放たれたエナジーがデミ・トレントの芯を捉え、一気に加熱する。
 セイリューたちの前で、デミ・トレントはみるみるうちに炭化していく。
 それを見て、直香が一言、
「どうやら、良い木炭ができたみたいだね」
と呟いた。

●戦い終えて……
 オーガ退治が一段落し、怪我をしたウィンクルムは、診療所内でアーチボルトに応急処置をしてもらうことになった。
「セイリューがデミ・トレントを見るなり飛びかかっていったときには正直胆が冷えたよ。あんまり心配させないでくれ」
 治療を受けているセイリューの隣でラキアが小言を言う。
「ランス、怪我はなかったか?」
 セイジも自分のパートナーを気遣う。
「おかげさまで、無事だよ」
「そうか、良かった」
 セイジが安堵の笑みを漏らす。
「でも、怪我してセイジに看病してもらうっていうのも悪くなかったかな」
「冗談でもやめてくれ」
 ランスの軽口にセイジは笑顔を引っこめ眉をひそめた。
 千代は、ヤグアートの爪を受けたラセルタのこめかみにハンカチを当て血をおさえる。
「かすり傷だ、放っておけばいい」
「ダメだよ、どんな傷でも、きちんとしないと」
「お前は世話焼きだな」
 そう言いつつラセルタはまんざらではない様子である。
「パパ、怪我、痛い?」
「大丈夫ですよ」
 パートナーの怪我を心配するアイオライトとそれに優しく答える白露。
 白露に治療の順番が来ると、アイオライトは真面目な顔でアーチボルトに訊く。
「診療所って痛み止めと、あと、女の子になれるお薬ある?」
 痛み止めは怪我をした白露のために訊いたのだろうが、女の子になれる薬の方は……。
「アイ……」
 白露は怪我をした額よりもなぜか胃の方が痛んだ。
「今は、この辺りにオーガやデミ・オーガはいないみたい」
 ゼクと共に周囲の安全を確認していた直香が診療所内に入ってくる。
 デミ・トレント1体とヤグアート2体は倒した。だが、いつ他のオーガが現れるとも限らない。いつまでもここにいるのは危険である。
 セイジは診療所に残る者たちに、避難を呼びかけた。
「俺達がガードするから、村を離れましょう。此処に残っても、奴等の餌になるか人質に使われるかしか道はないですよ」
 しかし、アーチボルトは首を縦に振らない。
「先生に残られても困るんだよ」
 直香が言う。
「村の人たちも全員避難させるよ。先生の身に何かあったら、村が復興した後、誰がこの村の人たちを診るの?」
「しかし……ここには薬草もあるから」
 尚も避難を拒否するアーチボルトだったが。
「先生にもしものことがあったらさ、残された俺たちどうしたらいいんだよ」
 バートの言葉に後押しされて、ついに折れた。
 サンルームで育てている薬草は、温泉水での育成は一旦諦め、プランターごと避難先に持っていくことに落ち着いた。

 かくして、村の人々は皆、テルラに平和が戻るまでそれぞれ避難することとなった。
 今回の任務はこれで完了であるが、オーガの脅威は未だ消えてはいない。
 本部に戻ればまた別の任務が待っていることだろう。




依頼結果:大成功
MVP
名前:柊崎 直香
呼び名:直香
  名前:ゼク=ファル
呼び名:ゼク

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 木口アキノ
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル 戦闘
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 05月13日
出発日 05月21日 00:00
予定納品日 05月31日

参加者

会議室

  • [16]アキ・セイジ

    2014/05/21-00:00 

    俺もプランを出したよ
    相棒の魔法は「カナリア」
    効果範囲が広いので、素早いヤグアートといえども二匹とも巻き込めるようになんとか…ってな

    直撃じゃなくてもいいんだ。
    それで落下したり機動力が削げたらいいんだ。
    そしたら、近接武器の精霊の攻撃もとどくから対処がぐんと楽になるだろ。

    ではリアクションで会おう。

  • プランは出した。
    皆、色々とお疲れさま。
    後はうまくいく事を祈ってる。

  • [14]羽瀬川 千代

    2014/05/20-23:49 

    あまり顔を出せなくてごめんなさい、
    ひとまずプランを提出してきました。

    パートナーには相克関係で有利な風属性のヤグアートを
    優先して攻撃してもらう事と、エンドウィザードさんの
    スキルが使用可能になるまでの時間稼ぎをお願いしています。

    属性に関しては、簡単に区別が付けば良いのですが…。

  • [13]柊崎 直香

    2014/05/20-23:24 

    まさかこんなぎりぎりになるとは思わず。文字数!

    到着後、現況確認と中からの誤射回避を兼ねて建物内の人と会話。
    あと対ヤグアートは魔法(乙女の恋心)中心で対処させてるよーな、
    そんな感じで白紙は免れている、よー。

  • >アキさん
    にゃるほどー。ありがとうー、いろいろためになった。
    そういえば、オーガが建物入ろうとしたらどうするか書いてなかったや。
    参考にして、ちょっと書き直してくる。

  • [11]アキ・セイジ

    2014/05/20-21:46 

    俺はこう考えている。

    到着時にまだ魔物が建物の中に入らずに村人が建物の中に居たら、
    魔物を小出しに攻撃して建物から引き離した上で倒したい。

    到着時に魔物が建物の外にも中にも居たら、
    外の魔物から順に倒していき中の魔物は外に引きずり出しつつ倒したい。

    到着時に魔物が全部、建物の中に入り込んでいたら、
    俺達も建物に入り、魔物と戦いつつ村人達だけを建物から出すことで魔物を建物に閉じ込め、
    窓から中に範囲魔法を投射することで建物ごと爆破…
    (あーでも、この場合は村人はほぼ絶望的だろうから、魔物が全部建物の中ってパターンはないな)

    ヤグアートは二匹。
    どちらか一方に集中攻撃して順番に確実に倒したいところだ。
    人員のゆとりはないので、方角ではなく対象で分担したほうが良いと思う。
    魔物が居ない方向を担当しても仕方がないのさ。

    勿論、村接近前にトランスはしておこうと思うよ。

  • うわーん。遅くなっちゃった。まとめありがとうー♪

    >ヤグアート
    本当だね-。羽があるなら、空から来るイメージかな。あたしも。
    属性があれだけど、あたしのところもパパにヤグアート相手にがんばってもらおう。

    で、建物のまわりをあたしたち神人が囲んでデミ・トレント対処だね。
    えーと、どうしよう。誰がどっちの方角まわるとか、分担したほうがいい?

  • ヤグアートは狭い建屋内部に入るより
    広くて三次元的に動ける屋外の方が有利に動けるって思うんじゃね?
    こちらとしても民間人達は建物内部で身を護ってて貰った方が、
    診療所内部に侵入される前に敵を全滅させられるかもだからありがたいし。
    俺がヤグアートならデミトレントを建物内へ襲撃させるけどな。
    防御力高いし自分達(ヤグアート)が狭い所へ入り込むリスクを追わなくていい。

    一般人に被害を出さないよう、屋内へ入られる前に、デミトレント捜すか
    俺達見付けて襲ってくるヤグアートを攻撃とかそんな感じでどうかと思う。
    ヤグアートへの攻撃対処は有効手段ある他の皆に任せるとして。
    デミトレント相手に剣で戦う、かな、オレは。
    敵の気を引いて時間を稼ぐ。敵の体力を削ぐ攻撃は皆、頼むぜ。

  • [8]羽瀬川 千代

    2014/05/19-02:39 

    羽瀬川 千代です、遅ればせながら宜しくお願いします。

    柊崎さん、分かりやすいまとめを有り難う御座います!
    ヤグアートに関しては聴覚が良い、という情報もあったのでここに共有しておきます。

    上手く建物から引き離して撃破出来るのが理想形、ですね。
    オーガはトランスした精霊だけが攻撃出来る、とのことですから
    ヤグアートの対処を精霊にお願いして、デミ・トレントの対処と
    建物周囲の警戒を神人が担当する…のはどうでしょうか?

  • [7]柊崎 直香

    2014/05/19-01:55 

    木造の小さな診療所って言ってるし、あっても数部屋の規模かな。
    到着後、裏に回り込むのに時間は掛からないと思う。
    デミトレントは周囲が林でない限り近づいてくれば発見できるけど、
    ヤグアートがどこに居るかが問題なんだよね。
    あえて建物近くに寄って、誘き出すのが一番早いかのなーと。

    とりあえず中にいる人には、できるだけ窓から離れていてって声掛けとこうか。

  • [6]柊崎 直香

    2014/05/19-01:52 

    なんかまとめた方がいい感じ?

    【ジョブ・属性】
    プレストガンナー(火)+神人(風)
    プレストガンナー(水)+神人(土)
    エンドウィザード(火)+神人(風)
    エンドウィザード(風)+神人(火)
    ライフビショップ(水)+神人(火)

    【敵】
    ヤグアート×2(風・土)
      コウモリのような翼を持ったオーガ。攻撃力・防御力低いが、素早い。
    デミ・トレント(土)
      木のようなデミオーガ。防御力高いが、動きが鈍い。木々に紛れると厄介。

    ※相克
    風<火<水<土<風

    見にくかったらごめんね! オーガ情報は別エピソードから。
    間違い、補足あったら言っておくれー。

  • セイリュー・グラシアだ。よろしく。
    俺が属性で、ラキアが水属性ライフビショップ・・・
    うん、今回もビミョーな感じで済まない。
    どうするかは今から考えるけど、オレが前に出ると思う。

  • 文字たくさん書ける♪

    >ヤグアート
    本当だ、空飛ぶテンペストダンサーってあるね(錘里マスターの「【ギルティの復活】意味など、なくても」)
    エンドウィザードとプレストガンナーだから、遠くからでも狙えそう?
    うーん。デミ・トレントを後回しにしてもいいから、ヤグアート倒しにいったほうがいいかなあ。
    うちのパパ、水ですが。土に対して弱弱ですが。

    >まずこちらに引き付ける
    「割と臆病」ってあるから、こっちで弱い子かわいこごっこでもやる?

    >建物裏手からの襲撃も警戒して分散
    状況からすると、とにかくまず速く到着することが大事そうだから、遠回りにならなかったら、そうしたほうがいいのかな?
    建物がちっちゃいと見回るの楽なんだけどね-。

  • [3]柊崎 直香

    2014/05/17-11:50 

    クキザキさんちのタダカくんです。よろしくー。
    僕の属性は火。精霊は風属性のエンドウィザードだね。

    ヤグアートは診療所を狙ってはいるのかな。それなら僕たちが診療所前(近く)に到着したら、
    まずこちらに引き付けないと?
    建物裏手からの襲撃も警戒して分散もした方がいいのかなー。

    あとヤグアートの説明なかったけど、
    コウモリみたいな翼を持ったオーガでいいんだよね。飛ぶんだよね。d

  • [2]アキ・セイジ

    2014/05/16-22:22 

    アキ・セイジだ。相棒はウィザード。
    属性は、俺が風で、相棒が火。一応分担して効果を期待できる属性ではあるな。

    ちなみに、一応俺も剣を抜いて戦うつもりだ。
    詠唱完成まであいつを守ってやらないといけないしさ。(笑

  • いつもお世話になってまーす。アイだよ☆彡
    パパはプレストガンナー。
    そんで、あたしが土属性、パパが水属性……うんっ。ごめんなさい、役に立たない(汗)

    迅速に……かあ。
    あたしもがんばって戦ったほうがいいのかな。


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