【討魔】どうか、何を知っても(梅都鈴里 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

『いま、かえりたい、と思ったな、おまえ』
「……えっ?」
 問われた神人は目を見開いた。
 デミオーガの出現と救助要請を受け『鎮守の森』へと出向いた矢先。
 目の前に現れたのは一匹の猿。
 神人を指差し、問いかけてきたのも、その猿。
『猿が喋った、そうも思ったろう、そちらのおまえ』
「なっ……!」
『どうして思ったことが読まれるのか? 簡単なことだ、オれは『そういう存在』。おまえたちの心を、読み透かす存在』
 サトリだ、猿はそう答え、口の端を釣り上げてニイィ、と不気味に笑う。
 真っ暗な闇夜の中で、聞こえるのは猿の声だけ。頭に生やしたツノを見るに、報告にあったデミ化妖怪に相違ないだろう。
 たたっきればいい。ただそれだけのことなのに、何故だか剣を抜けない。
 神人は身をすくませ、無意識に精霊の腕を掴んだ。
『こわい、と思ったな。たすけてほしい、とも。どうだ? チガウか?』
「そっ、そんなこと」
『……読まれてしまうなら『あのこと』がバレてしまう。ソウも、考えたな……?』
「……!」
 神人の足が一歩後ずさった。
 異変に気付いて、精霊は彼女に問いかける。
「どうしたんだ? なにか……知られたくない事があるのか?」
「ちっ、ちがうわ! なにもない、黙ってることなんて、なにも……!!」
 二人の様子を見遣って、サトリ――猿の口は更に弧を描いた。
『そう。おまえは、秘密を抱えている。それは――……』
 猿はゆっくりと告げた。
 彼にだけは、知られたくないと思っていた真実を。

解説

▼個別描写となります。

▼敵情報
デミ・サトリ
心を読む以外は何もしませんが、攻撃されれば猿の爪で反撃します。
物理攻撃力、防御力はそこまで高くありません。デミ・ラットなんかと同じぐらいのレベル。

▼目的
デミ・サトリの浄化。
サトリは常に心を読み透かし、相手が狼狽するほど調子に乗りますが、思わぬことが起きると驚いて消え失せる妖怪です。
秘密や隠し事が暴露されても、二人で上手く解決すれば浄化成功となり消えます。
説得するとか、大丈夫だよと言って克服させてあげるとか。
暴露される側は精霊でも神人でもどちらでも。
プロローグでは演出上試していないだけで体は普通に動くので、全てバラされる前に物理的に叩っ斬っても勿論構いません。
どちらかといえば火力でなんとかするというより、わだかまっている確執や秘め事の解消に使って頂けたらと思います。

▼プランにいるもの
蟠りやパートナーに告げていない真実、偽りなど。
解決に持っていく行動や諭し言葉など。
暴露内容はシリアスでもちょっと間の抜けた感じの物でも、なんでも構いません。
昔楽しみにしていた相方のアイスを食べたのは自分だったとか、実は暗いところが怖いとか、言ってなかったけど別の誰かと付き合ってた過去があるとか。
本人が『隠しておきたい』と思った事なら何でもいいですが、出来ればその理由までお願いします。


ゲームマスターより

お世話になります、梅都です。
秘め事は人それぞれかなと思うのですが、何かひとつくらいは大事な人に知られたくないことって誰でもあるのではないかなとも思います。
男性側に出していたシナリオの焼き直しになりますが、よければお気軽にご参加ください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  敵と遭遇したらトランス

明らかに彼に狙いを定めた言葉
段々と表情の消える彼の顔に胸の内に警鐘が
彼が 自分を斬りつけているように見え

っダメ 待って!

剣を振り下ろす前に両手を広げ立ち塞がる
両手で頬を挟み 冷たい唇にキス

黙ってくれる?わたしは彼と話したいの
笑うサトリの声に そちらを睨んで

あなたは何も悪くない

呆然とした翡翠の瞳を捉えて

辛いのも悲しいのも 
全部わたしの大好きな あなたの一部よ
強いあなたも 優しいあなたも
…意地っ張りで無茶ばかりするあなたも 大好き
だから そんな顔しないで

返された言葉に笑顔 首筋にぎゅっと抱きついて

サトリに向き直る
貴方もよ オーガになんてならないで
元に戻ろう?

なんとかデミ化を解除できないか声をかける


リヴィエラ(ロジェ)
  リヴィエラ:

何が起こるかわかりませんから、一応トランスしておいた方が
良いでしょうか?(らぶてぃめっとトランス使用)

(サトリの言葉を聞き)

そ…んな…
マントゥールが、けしかけたオーガのせいで…
ロジェのご両親も、故郷も…無くなったの、ですか…?

それがお父様のされた事なら…わた、私のせいでも、あって…
私…ロジェから全てを奪っておいて…『ロジェの故郷を、一緒に復興しましょう』
だなんて…なんて身勝手な事…
立場も弁えず、婚約だなんて浮かれて、わ、たし…ッ

あ、ああ…申し訳…ああぁぁぁッ!!

(気が触れたかのように泣き叫び、走り去る。
ロジェの静止を振り切り、罪の意識に耐え切れず失踪してしまう)


豊村 刹那(逆月)
  盾を構えて、デミ・サトリを牽制。

『逆月を好きになるつもりは無かった』
「いや、その」初めて見たときは抜け殻みたいで。
元気になるまで、一人で平気になるまでの。保護者のつもりで。
「今はその、違うけど。そういうの聞いたら、嫌な気分になるだろ」嫌ってたみたいで。
言わないでおこうと思ってたのに。(デミ・サトリを睨む

任務中なんで、その話題は止めて欲しいんだけどなあ!?
「……そう」(サトリを警戒するも、目が泳ぎそう
おばさん、なんだけど。

「あの、な。逆月」
「今、一応任務中だから。その話は、後にしよう」(羞恥の限界

デミ・サトリと逆月の間に改めて立ち、盾を構える。

「報告までが、任務!」
なんか、押し負けてる気がする。


シャルティ(グルナ・カリエンテ)
  開幕トランス
敵に会ったらすぐさま構え戦闘体制

弟。と一言サトリから発せられた言葉に険しい表情
随分、痛いところ突くのね…
こちらを見る精霊の視線に気づき、詳細を自分の口から仕方なく話す
弟がいるのよ、私に
小さい頃からなんでも一人でやってのける天才
…嫌いじゃないけど好きにもなれない相手よ
黙ってれば見た目は良いのにいつも私を下に見てたの
あいつを思い出すと自分が何も出来ないただの意地っ張りみたいに思うのよ
言う必要ないって思ってたから言わなかったのよ
…確かに、知らず知らずのうちに意地、張ってるのよね…

…そうね。無理しすぎるのも問題ね
…あんたがかっこよく見えたわ
もう平気。うじうじ悩まない。頼りにしてるわ、グルナ


ミサ・フルール(エリオス・シュトルツ)
  ・『神人は狙われやすい』のを逆に利用し敵を引き付けている間に精霊の詠唱時間を稼ぎます。

・戦闘方針は回避重視。必要であれば杖での攻撃や盾を使った防御も行いますが、敵の攻撃を受けて精霊の集中力が途切れないよう無茶な行動はしないよう心掛けます。精霊のスキル発動を最優先に考えて行動。

それは、エリオスさんの・・・っ、(辛そうに顔を曇らせた精霊を見て)
誰にだって知られたくない事があるの!
これ以上 人の想いを面白げに話すのはやめて!!

(狂気の笑みを浮かべる精霊を真っ直ぐ見つめ返して)・・・はい、私はお母さんじゃありません。
どんなに似ていようと私は私です。
貴方が何を抱えこもうと、私も一緒に背負っていきますから。



「弟」
 サトリは一言そう告げた。
「……ずいぶん、痛いところを突くのね」
 神人シャルティは、その一言に表情を険しさを滲ませる。
 トランスは既に済ませた。敵が僅かでもおかしな動きを見せたらすぐに動ける。
 けれど、この嫌悪感はデミ化した妖怪に対してではなくて。
「……弟ォ?なんのことだ」
「弟が居るのよ、わたしに」
「は?え、お前、一人っ子じゃ……」
 理解が追いつかないといった顔でシャルティを見る精霊、グルナ・カリエンテ。彼が彼女の村へと赴いた時、彼女は確かに一人だったはずだ。
 その後産まれていてもおかしくはないが……シャルティの表情を見るに、顔を合わせたくもない相手なのだろう、とは容易に想像がつく。
 視線に気付き、やむなく。
 大きく息を吐き出して、シャルティは真実を話した。
 幼少から何でも一人でやってのける天才。
 嫌いではないけれど、好きにもなれなかった。彼はその類稀なる才能から、事ある毎にシャルティを見下していたからだ。
「黙っていれば見てくれは申し分ないのに……あいつを思い出すと、自分が何も出来ない、ただの意地っ張りみたいに思えてくる」
 ぐ、と拳を握りしめる。
 何かに耐える様な表情の彼女を見て、グルナは一つ大きく、わざとらしいため息を吐いた。
「ああ。お前、結構意地っ張りだよな」
「……」
「人には頼れとか言う癖に、自分の事は何一つ話さねえ。なんで弟の事言わなかったんだ」
「言う必要もないと思っていたからよ」
「なに気にしてるのか知らねぇけどそういうとこがお前の悪いところだ。無理すんな。頼れるとこはちゃんと頼れ」
 諭す様に告げられて、また自覚がなかったのか、と思い知る。
 以前もそうだ。気にしすぎだと。それだって彼女自身に自覚はまったくない。
 けれども、言われて見れば、確かに。
「そうね。無理しすぎるのも問題ね……あんたがかっこよく見えたわ」
「かっこ……は!?」
 突然の賛辞に素っ頓狂な声が上がる。「ちょっとだけね」とすかさず付け足されてグルナはぐっ……と閉口した。
「もう平気。うじうじ悩まない。頼りにしてるわ、グルナ」
 ふわり、と。常時はそう変化しない表情に、控え目な花が咲く。
 グルナは一瞬見惚れて、けれどすぐさま我に返り。
「……あ、ああ。任せろ、シャルティ!」
 口角を上げてにやりと笑ってみせる。
 パートナーのその笑顔を見て一つ頷き、再びデミ・サトリを見遣ったときには、既に妖怪は消えうせていた。
「なんだよ、もう消えちまったのか。デミ化してるっつーから、少しは骨があるかと思ったのによ」
「……驚いたら消える、と聞いていたわね」
「あ? ああ、そうだな。何に驚いたんだろうな」
「あんたが珍しく人に気遣いなんてしたからじゃない?」
「なっ、なんだとぉ!?」
「……ふふ、冗談よ」
 くすりと笑って帰路に着く。
 妖怪は勝手に消えてしまったけれど、ほんの少しだけ、互いの距離が縮まった気がした。


「あなたの狙いは私でしょう? こっちよ!」
 デミ・サトリは、神人ミサ・フルールの発したその声を無視出来ない。
 デミ・オーガは神人を優先して狙う習性を持ち合わせているからだ。
(私が注意を引く事で、少しでも詠唱時間を稼がないと)
 精霊でありエンドウィザードでもあるエリオス・シュトルツを見遣り、ミサはそう考える。
 敵は厄介な相手だ。早々に片を付けようという心構えと……それ以上に。
(エリオスさん……)
 彼が、先程デミ・サトリによって発せられた言葉により、苦い表情を浮かべている事が気掛かりだった。
「大切な者に、裏切られたあの日」
「……」
「オマエは、彼女に――かつて愛した女と生き写しの少女に、のっぴきならない感情を抱いている様ダナ」
 エリオスの顔に一層濃く苦渋が滲む。デミ・サトリは一度ミサを見たものの、妖怪としての習性が勝ったのか、何かをひた隠そうとするエリオスを標的に定めていた。
「! それは、エリオスさんの……っ」
 精霊の表情を視覚し、ミサは庇う様に前へ出る。
 両手を広げて、デミ・サトリに向け叫んだ。
「誰にだって、知られたくない事があるの!」
「ミサ……」
「これ以上、人の想いを面白げに話すのはやめて!」
 ゆるりと顔を上げて、エリオスは己を守る様に叫ぶ彼女を見る。
 その横顔は『彼女』にやはり生き写しだ。
 かつて己が愛し、やがて裏切られた、ミサの母親サリアに――。
「ククッ、愉快ダナ。泥塗れの鬱屈が垣間見えるぞ、男」
「――うるさい」
「葬り去った筈の感情が、子であるその女と出会った事で蘇りつつあるのだろう? いいじゃないカ、やってしまえ。その衝動のまま、欲望のまま。オマエはその女を――」
「黙れッッ!」
 デミ・サトリが全てを言い終わる前に――知られてしまう前に。
 エリオスの放ったスキル【乙女の恋心Ⅱ】が発動された。
「ハハハッ……! オれを殺しても、同じ事だ。その衝動がある限り。オマエはいつか――」
 嘲笑うかの様な悲鳴と共に、体内から焼き尽くされたデミ・オーガはゆっくりと息絶えた。
 一切の音が無くなり、しん……と静まった森で、ミサは慌て精霊を振り返る。
「エリオスさん! 大丈夫で――」
 俯いていた精霊を覗き込む。ひっ、と喉元まで出掛かった小さな声を瞬時に飲み込んだ。
 エリオスはミサを見て笑っていた。静かに穏やかに、狂った様に。
「……ミサ、お前は、サリアじゃない」
「……っ」
「お前はお前だ。……そうだな?」
 狂気の笑みに、押し込もうとしているのが解る。
 内の動揺を、悟られまいと。
 濃く闇を孕む笑顔を、けれど彼女はまっすぐ見詰め返した。
 影の落ちた深紅に、一縷の光が見えたからだ。
「はい。私は、お母さんじゃありません」
 きっぱりと、否定した。
 彼が両親に抱いていた愛憎を今はもうよく知っている。
 かのカウンセリングルームで全て気持ちを吐き出して、一度はその苦味を嚥下した。
 それでも彼は――エリオスは、母に生き写しであるミサへの気持ちを、未だ消化出来ずに居るのだ。
 愛する事も憎む事も出来ないのは、きっと物凄く辛くて、哀しい。
 乗り越えようとしているのは、自分だけじゃなくてエリオスも同じなのだ。
「どんなに似ていようと、私は私です。……貴方の愛した母じゃない」
「――……ミサ」
「貴方が何を、抱え込もうとも……」
 す、と彼の手を取る。守るように、両手で包み込んで。
「私も一緒に背負っていきますから」
 柔らかく笑いかけた。
 ふわりと花咲く笑顔に、刹那惚けた。
 こんな風に――無償に自分を、純粋に慕ってくれる彼女は、今はもう亡き愛した女とは確かに違う。
 もういい加減に、思い知らなくてはならないのだろう。
 彼女は――ミサ・フルールは。
「それでこそ、俺の娘だ」
 エリオスはそう、強い言葉で告げた。
 彼もまた、想いを口にする事で、彼女とのこれからの関係を、しっかりと確立出来るものだと信じて。


「何が起こるかわかりませんから、一応トランスしておいた方が良いでしょうか」
 ね、ロジェ。そう笑いかける神人、リヴィエラの屈託ない笑顔に、精霊ロジェは一抹の不安を隠せなかった。
『蒼穹の絆、ここに在れ』
 告げて口付ける。究極の開放、らぶてぃめっとトランス。
 これで何も――少なくとも物理的なダメージは心配いらないだろう。
 けれども、デミ・サトリの特性は、決してそれだけに留まらない。
 ロジェの不安を見抜いたように、敵は彼の想いを口にした。
「両親を殺され、村を滅ぼされた哀れな男。可哀相ダナ、女。オマエもそう思うだろう?」
「え……? え、ええ、当たり前です! だから一緒に、ロジェの故郷を復興したいと思って……」
「ハハハッ! 滑稽な話だ。女よ、オマエの父親が何をしたのかも知らずに」
「聞くな、リヴィエラ!」
 ロジェは叫んだ。やはりこんな任務に関わるべきではなかった。
 いっそその爪でまっすぐこちらを攻撃してくれたら、何を暴露される前に消す事もできたというのに。
「オれが告げるのは真実だ。女よ、その男の故郷は、オーガに――オマエの父親に滅ぼされた」
「……え?」
 ふらり、とリヴィエラの足が一歩下がる。
「ロジェの故郷は、オーガに……?」
「ワカルだろう? その意味が。あろうことか、その男はそれをひた隠していた。オマエを謀っていた酷い男ダ」
「っ……当然だろうっ!? 彼女は被害者だ! 優しい、優しい俺のリヴィエラは、そんな事を知ればきっと――」
 サトリの言葉につい取り合ってしまい、ハッと我に返り彼女を見る。
 蒼白な顔、零れ落ちそうな瞳、崩れ落ちそうな細い体。
 ロジェがサトリの言葉を認めた事で、まごうことなき真実なのだと、彼女は知ってしまったのだ。
「お父様の、した事なら……私のせいでも、あって……?」
「その通りダ、賢い娘よ。ああ愉快だ、心を裂く様な悲しみが見えるゾ! 男よ、オマエも哀れで愚かなニンゲンだなぁ? せめてまだお前の手で殺していなければ、救いもあったダロウに――」
「うるさい、黙れッッ!」
 全てを言い終わる前に、激昂し、ロジェはサトリを撃ち抜いた。
 限界まで高められた攻撃力により焼き切られる様にして、一撃でサトリは息絶えた。
「リヴィエラ、リヴィエラ! しっかりしろ!」
「……ロジェ……」
 放心状態にある彼女の肩を掴んで揺さぶる。
 かろうじて上げられた顔に、最初のような笑顔はどこにもなく。
 それでも、彼女は笑った。笑おうとした。
 けれども失敗して、歪な笑顔に、一筋涙が零れた。
「私……謝らないと……あなたに」
「違う、違うんだ、君は悪くない。俺の故郷を滅ぼしたのは教団だ、悪いのはあの男だ!」
 首を横に振って強く彼女の言葉を否定する。
 けれど全て知った今、ロジェの言葉は――彼の彼女を思う気持ちは、リヴィエラの心に上手く響かない。
「でも、お父様が、元凶だというなら……私にだって、責任が」
「君は何もしてない……! むしろあの男に監禁されていた君の方が被害者じゃないか!」
 怒りに駆られる。愛しい彼女を、父親でありながら酷い目に合わせた男に対する激情が滲み出る。
「だから……だから隠していたんだ。君が罪の意識に苛まれないようにと思って、こうなる事が、解っていたからっ……」
「……優しいんですね、ロジェ……」
「リヴィエラ……」
「私……そんなあなたから全てを奪っておいて、故郷を一緒に復興しましょうだなんて、なんて身勝手な、事を……っ」
「……っ! だから、それは!」
「立場も弁えず婚約だなんて浮かれて、わた、わたし……!」
 ついにぼろぼろと大粒の涙が零れた。
 申し訳ありません、と、リヴィエラは頭を下げようとして、けれどかなわなかった。
「あ、ああ、ああぁぁッ!!」
 気が触れたかの様に突然泣き叫び、ロジェの制止を振り払い駆け出した。
「リヴィエラーッ!」
 泣きながら、深い森の中へと消えていった彼女の背中を、ついぞ捕まえる事は出来なかった。
「待ってくれ、リヴィエラ……!」
 こんな顛末を望んでいた訳じゃない。
 ただ愛する彼女を守りたい、その一心だったのに。
 虚しく空を切った指先を、滲む視界に捉えて、ロジェは一人項垂れた。


 デミ・サトリに遭遇次第、トランスを済ませた神人リチェルカーレと、精霊シリウス。
 俺の後ろに、と彼女を庇う様にシリウスが前に出て剣を構える。
「闇の濃い男よ。自ら前二出てくれるのか? 好都合ダ」
 下品な笑みを浮かべるサトリは、シリウスを指差し、告げた。
「過去、故郷、両親、繰り返す悪夢……成程。凄惨な想いダ。想い、重い……ヒヒッ!」
 挑発の言葉に耳を貸す事無く攻撃を繰り出すが、心中をかき乱される中での一撃は容易く避けられる。
 まったく身が入っていない。シリウス自身も自覚していた。
(何を言われても動揺するな。感情なんて、捨ててしまえ)
 リチェルカーレを守る為、邪魔になるのなら感情など不必要だ。
 そう割り切って、どんなに自分に言い聞かせても、言葉の羅列は確かに彼の心を蝕んだ。
「クルシイ? 楽になりたイ?」
「っ……!」
「けれどオマエは知っている。救われる日は永遠に来ない事ヲ――」
「うるさい……!」
 目の前のデミ・サトリは、シリウスを映す鏡のようだ。
 サトリが吐き出す言葉は全て彼の本心。
 オーガにより壊滅した故郷で、傷付いたシリウスを尻目に、心無い大人達が口々にした言葉が不意に蘇った。
『未契約の精霊』
『彼を狙ってオーガが来た』
『全ての元凶は、』
「っは、はぁ……!」
 息が、乱れる。
 肩を揺らして、歯を食いしばって、無我夢中でサトリに剣を振るった。
 ――……全ての元凶は、自分なのでは?
「……だまれっ!!」
 今度こそ、デミ・サトリをリーチ内に捉え、シリウスは勢い良く剣を振り上げた。

「シリウス……?」
 敵が彼に狙いを定めている事は、傍目から冷静に戦いを見守っている彼女にも解る。
 次第に――普段から表情のあまり動かない彼の顔に、一層濃い影が落ち始めた事に気付いて。
 彼女の胸中に警鐘が響く。
 サトリを攻撃しているはずなのに、その様子はどこか、彼自身を斬り付けているように見えた。
「ダメ、待って!」
「……っ!」
 サトリに剣を振り下ろそうとしたその刹那。
 両手を広げ飛び出した青に、シリウスは息を飲み、攻撃をびたりと止めた。
「……リチェ、」
 何も言わず、彼女はゆっくりと、首を横に振る。
 蒼白な顔。汗の滲む頬を両手で包み込んで。
 冷たい唇にそっと彼女は口付ける。
「キキッ、無駄ダ。そんな事をいくら重ねても、そのオトコの闇は払えぬわ」
 笑うサトリを振り返り、静かに睨んで。
「黙ってくれる? わたしは彼と話したいの」
 敵の嘲りを凛と一蹴した。
「あなたは何も悪くない」
 呆然と見開かれた翡翠を間近で捉えて、慈愛に満ちた表情を浮かべる。
「辛いのも悲しいのも。全部わたしの大好きな、あなたの一部よ」
「リ、チェ……」
「強いあなたも、優しいあなたも。……意地っ張りで無茶ばかりするあなたも、大好き」
 だからそんな顔しないで、と。
 穏やかな瞳が柔らかく細められる。
 守っているつもりで、守られてばかりいる、陽だまりのような笑顔。
 シリウスを唯一、無償に安心させてくれる、宝物のような存在。
 どっと肩の力が抜けた。気付けば乱れた息はすっかり整っていた。
「……俺は元から、こんな顔だ」
 呟く様に告げられた言葉を受け、リチェルカーレはシリウスの首筋にぎゅうと抱きついて。
 柔らかな体を、シリウスもまた強く抱き締めた。

「……あなたもよ。デミ・サトリ」
 改めて敵に向き直り、唖然とするデミ・サトリに、リチェルカーレは静かに語りかけた。
 何度かシリウスに斬りつけられた猿の体は、もう随分とぼろぼろだ。
 しゃがみこんで、目線を合わせてリチェルカーレは微笑んだ。
「オーガになんて、ならないで。元に戻ろう?」
 平然を取り戻したシリウスは、黙ってその様子を見ていた。
 デミ・サトリがおかしな行動をしようものなら叩っ斬るつもりでいた。
 けれども、彼女の言葉を受けて、サトリはにぃとひとつ、歪に笑った。
「……無駄な事だ。我はこういう存在ダ。最早取り返しようもナイ」
「……。けれど、」
「オマエのような、ニンゲンもいるのだナ。このオレを救おうなどト。ああ、驚いた、驚いた――」
 一筋大きく風が吹きぬけ、二人は一瞬目を覆う。
 刹那の瞬きに視界を奪われたあと、リチェルカーレが目を開けると、そこにはもうデミ・サトリは居なかった。
「何かに驚いた拍子に消える妖怪……か」
 シリウスが虚空を見詰め、呟いた。
 リチェルカーレの慈愛に、デミ・サトリは退いたのだ。
 討伐は成功した。けれども……。
「……救ってあげたかったの、出来ることなら」
 敵の消えた後に咲いていた、一輪の花を少女はひとつ哀しそうに撫でて。
 二人は力強く立ち上がり、無事その場を後にした。


「逆月を好きになるつもりはなかった」
 デミ・サトリは確かにそう告げた。結構大きい声で。
 敵に遭遇し、盾を構え警戒していた神人、豊村 刹那がびしりと石の如く硬直する。
 デミ・サトリは彼女の狼狽を見抜いているので、面白げに笑っていた。
「どういった意味だ?」
 精霊である逆月は、突然敵の言い放った言葉に己の名がある事に小首を傾げる。
 隣のパートナーを見るに、その台詞は彼女の心中だと見て相違ない。
「いや、その」
 硬直したまま、精霊の視線を知りつつ見返す事も出来ない彼女は、更に目線を明後日の方向に泳がせる。
 思い返すのは精霊と出会ったあの日。
 初めて見た時は抜け殻の様だった。身体の傷は癒えて居た様でも、その瞳に生気は無く、心が死んでいるかのような。
「元気になるまで、一人で平気になるまでの、保護者のつもりで?」
 刹那の心中をサトリは全て口に出してしまう。
 きっ! と敵をにらみ付けるも既に頬が赤く、どうにも迫力に欠ける。
「い……今はその、違うけど。そういうの聞いたら、逆月は嫌な気分になるだろ……」
 しどろもどろ。言い訳がましく彼女は理由を付け加える。
「嫌な気分とは思わぬ」
 彼女の独り言に近い問いかけに、当たり前のように、なんでもない事の様に逆月は言ってのける。
 それに対する良い返しも見つからなくて、任務中だからその話題は止めてほしいと切実に刹那は思う。
 思うのだが、刹那がそう心中で叫ぶほどに、デミ・サトリは「愉快、愉快」と笑うのだ。
「……刹那は、俺を好いていると言った」
 ぽつりと落とされた精霊の言葉。
「……そ、そう」
 刹那にはそれだけ返すのが精一杯だ。
 変に何かを思えばサトリにつけ込まれるし、最近事有る毎にその話を出してくる精霊に対し、何をどうしていいのかもわからない。
 ――あれ、なんだか己を暴こうとする敵の数が多い気がする。
 刹那が一人首を傾げていると、逆月は彼女を見詰めたまま、少しだけ口角を上げた。
「以前がどうであれ。今、刹那が俺を好いていることを、嬉しいと思う」
「……あ」
 笑った。
 本当に、少しだけ。
 どこか冷めた性格で、クールで、歯に衣着せない物言いばかりする、表情筋の死んだような男が。
 動揺を隠す様に小さく、おばさん……なんだけど、と刹那は呟く。
「俺は、歳は気にならぬ」
「……あの、な。逆月」
「なんだ」
「今、一応任務中だから。その話は、後にしよう」
「そうか」
 またそれか、と。つまらなさそうに、心の中でだけ逆月は思ったものの。
 ふ、と再び見遣ったサトリもまた、なんだか酷く呆れた様な顔をしている。
「つまらないな。アア、つまらん。狼狽するが、なんの問題もナイ。闇がナイ。おもしろくナイ……」
 顔を顰めて、デミ・サトリはそのまま消えてしまった。
 敵が居なくなった事で、今度こそ深い森に二人きりだ。
 ふと流れた気まずい沈黙を逆月の声が破る。
「……これで、話しても良いか?」
 警戒対象がいなくなった事で、刹那一人に意識を向けてくる逆月から逃げるように。
「ほ――報告までが、任務!」
 慌ててそう言い放つが、無意識に後ずさった背中に、木の幹がトン、とぶつかる。
 逃げ場がない事に気付いた。
「刹那……」
「ちょ、……っちょっと」
 じり、と逆月が距離を詰める。
 逃げ口実を盾にして尚、こんな風に迫られては拒絶のしようもない。はぐらかす材料も建前もない。
 逆月の手が刹那の耳元を通り、逃げ場を塞ぐようにして、木の幹にどん、と当てられた。
 いわゆる壁ドン――幹ドンのような状態である。
「……っ!」
 限界まで顔が近付いて、覚悟したようにぎゅっ、と刹那が目をつぶるが、構えて居たような事は何も起こらなくて、おそるおそる目を開くと。
「刹那といると、やはり胸のうちが温かい」
 息が触れそうな程の距離でそう言うものだから、今度こそ真っ赤に顔を茹で上げて、へろへろとその場にへたり込んでしまったのだった。
「……ああ、いや。先程の答えは、少し違うな」
「な、なに?」
 刹那に手を貸しながら、逆月はふむ、と一つ考える。
「俺は刹那を、保護者だなんて思った事はない」
「……?」
「護らせてくれ、たまには」
 いつも彼女は、自分を守る様に前へ出てしまうから。
 少しくらい護らせてほしい。そんな想いを瞳に湛えて、目を丸くする刹那に「帰ろうか」と告げた。



依頼結果:成功
MVP
名前:シャルティ
呼び名:お前、シャルティ
  名前:グルナ・カリエンテ
呼び名:あんた、グルナ

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 白金  )


エピソード情報

マスター 梅都鈴里
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 09月15日
出発日 09月23日 00:00
予定納品日 10月03日

参加者

会議室

  • [7]リチェルカーレ

    2016/09/22-21:49 

  • [6]ミサ・フルール

    2016/09/20-23:39 

  • [5]ミサ・フルール

    2016/09/20-23:39 

  • [4]リヴィエラ

    2016/09/20-16:54 

    リヴィエラと申します。パートナーはロジェです。
    皆さま、どうぞ宜しくお願いしますね。
    個別の任務なのですね…き、緊張します…!

    隠している事…?
    ええと、冷蔵庫のプリンをおやつに食べてしまった事くらいですが…
    …? ロジェ、どうかなさいましたか?(顔を覗き込み)

  • [3]リチェルカーレ

    2016/09/19-21:59 

    リチェルカーレです。パートナーはマキナのシリウス。
    個別の任務となっていますが、皆さん、どうぞよろしくお願いします。
    気を抜かないで、がんばりましょう。

    …シリウス、大丈夫?顔色良くない…。

  • [2]シャルティ

    2016/09/19-17:36 

    シャルティとグルナよ。よろしく。

    妖怪がデミ化、ねぇ。
    個別っていうのもあるし注意していく必要があるわね。

  • [1]豊村 刹那

    2016/09/19-09:51 

    豊村刹那だ。
    それとプレストガンナーの逆月。よろしく頼むよ。

    サトリの妖怪がデミ・オーガ化か。
    隠してること……?

    いや、(頭を振る
    個別任務だ。油断しないで行こう。
    皆も気をつけて。


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