【祭祀】あ! ちょっと待って!(KAN マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 紅月ノ神社の納涼花火大会。
 屋台が立ち並ぶ参道は提灯で彩られ、人々の笑顔を照らします。
 あなたと精霊も、2人仲良く神社にやってきました。
 あなたは慣れない浴衣に奮闘しながらも、精霊とのお出かけにわくわく。
 下駄のカラコロ鳴る音すら楽しげです。

「わぁ~、結構な人混みだね!」
 まん丸く口を開けるあなたを見て、精霊は思わず笑ってしまいます。
「そうだな。はぐれないようにしっかりついてこいよ」
 いつもちょっとぶっきらぼうな精霊も、今日は少しだけ優しいようです。
 その背中にあなたはちょっとドキドキ。
 人混みに流されそうになりながらも、精霊とはぐれないようにと勇んで歩き出そうとしたその瞬間。

 ―――ブチッ。

(……え?)
 足下で起きたいやーな音に、恐る恐る下を見てみると……。
(は、鼻緒が切れてるー?!)
 不良品だったのでしょうか、右足の鼻緒の付け根が、見事にベロンと外れてしまったではありませんか。
(ど、ど、どうしよう?!)
 鼻緒が切れたら下駄はただの板。それを器用に履いて動けるあなたでもなく。

 前方の精霊は気付いてない様子。
(どうしよう、呼び止めないと絶対はぐれちゃう!)
 あなたは思わず叫びます。

「ねぇ、ちょっ、ちょっと待って……!」

解説

個別エピソードとなります。

プロローグでは鼻緒が切れてしまいましたが、勿論他のアクシデントでも構いません。

・財布を忘れた
・靴擦れが出来た
・誰かとぶつかってジュースをかけられた
・気分が悪くなった

思わずあなたが人混みで立ち止まってしまうアクシデントならなんでも。
ちょっとあなたが困った状況に陥った時、精霊はどう助けてくれるでしょうか?

服装は自由です。浴衣の場合は明記して下さると嬉しいです。


※交通費として300ジェール頂きます。


ゲームマスターより

こんにちは、KANと申します。よろしくお願いします!

鼻緒が切れて手拭いで結ぶ……カッコイイ!
アクシデントに対応してくれるのって憧れてしまいます。それがスマートでも、不器用でも。
その心が嬉しいんだ!

という訳でアクシデントです。
お祭りの雰囲気の中、是非2人の仲を深めて下さい♪

リザルトノベル

◆アクション・プラン

シルキア・スー(クラウス)

  浴衣ひとひら+下駄

リンゴ飴!「うん 食べたい」

ついて行こうとしたら子供の声が「泣いてる?
行ってしまう彼に「ちょっ ちょっと待って!
気付かない まあ屋台はすぐそこだしと声の方へ

迷子の男の子だった
宥めても泣き止んでくれず「どうしよう

彼が来てくれた(安堵
「迷子みたいなの
彼が一生懸命あやしてくれてる姿は何だか可愛い
「何か 新鮮な姿見ちゃった (笑
「あ! 泣き止んだ 流石もふ様のご利益
「落ち込んだ時は私もご利益に与るけど これが凄く効くのよね!(にこ

「そうだね
きっと会えるからねと男の子撫で
手を繋がれ握り返す事で返事を
「さっき心配させた? ごめんね(そんな顔してた
並んで歩くと何だか「…私達家族みたい? なんて
ふふっと笑い合う


桜倉 歌菜(月成 羽純)
  浴衣(桃色基調に金魚の模様)
誰かとぶつかった瞬間、浴衣にジュースが掛かってしまってました
折角の浴衣が…!ど、どどどどうしよう…!
思わず立ち止まって、ショックもあって途方に暮れていたら、羽純くんに手を引かれました
言われるまま人混みを離れ、空いていたベンチに腰掛けて
急いで戻ってきた羽純くんの息が乱れているのに驚きます
彼の手には…水で濡らしてきたハンカチ?
手際よく汚れた箇所の染みぬきをしてくれる彼に見惚れて、嬉しくて
魔法みたいに消えた染みに感動
有難う、羽純くん

羽純くんの手って…魔法使いの手みたい
素敵なカクテルを作ったり、掃除も上手だし…
それに、あのね
羽純くんの手に触れると…凄く温かい気持ちになれるの


シャルティ(グルナ・カリエンテ)
  (なんか、すっごく混んでるわね…)
ちらりと精霊を盗み見る
何で平気なのよ…
言ってないわ。なにも
気持ち悪くなりよろめく
それを見たのか精霊がこちらに来た
自分の顔を見たかと思ったら後ろを向いてしゃがんだことに驚いた
…は?
いや…良いわよ
若干イラついているのを察し、渋々彼の背に身を預ける(おんぶ)
ちょっとっ! 恥ずかしいんだけど…!
正論を言われ、思わず黙ってしまった
分かったわよ。もう…

…あんた。バカじゃないのね
違うから落とさないで
よく考えたらあんたって、よく気にかけてくれる…じゃない?
今だっておぶってくれてるし…
あんたのそういうとこ、良いと思うわ
なんで落とそうとするのよ。褒めてるんじゃない
…ありがと


アイリス・ケリー(エリアス)
  グリーンのワンピース
編み込んだ髪は結い上げてまとめてる

人に押されて別の方にぶつかって、髪がその方のアクセサリーに絡まるだなんて…
私じゃ見えませんし、相手の男性も苦戦されているようです
仕方ありません
エリアスさん、私の鞄からハサミを出してください

そのつもりですが何か問題でも
あ…ありがとうございます
ご迷惑をおかけしてすみません、と相手の方に謝罪

いえ、触った感じではかなり乱れてそうです
ちゃんと鏡を見て、両手でややらなくては出来ませんからいっそ髪は解こうかと
少し癖がついてるでしょうけど、このままでいるはマシです
え…ええ、それならすぐに出来ますが
…そうですね、そう、させてもらいます


水田 茉莉花(聖)
  ひーくんごめん、ちょっと待ってくれる?
このおちびさんがしがみついて離れないの

うん、1歳半って所かな?多分迷子だね
歩けるようになったばかりの子って
親の手を振り切って行っちゃう事があるのね…だけど

全然物怖じしない子みたいね、ひーくんをお兄さんだと思ってるみたい
ひーくんありがと、じゃ、あたしが親を探してみるね
そんなに遠くないと思うけど…ひーくんどうしたの?

おちびさんがその屋台にいきたがってたの?
じゃあ買ってあげよう、落ち着くかもしれないし
ああっ、そっちに行っちゃ…あ、この子のご両親ですか?

(親とひとしきり話す)
…ねぇひーくん、いきなり『お兄さん』になってどう?
うふふー、少しはあたしの気持ちわかった?


●お兄ちゃん

 リンゴ飴の屋台でじっと立ち止まっていた聖は勢いよく振り返った。
「ママ、あのりんごあめほしいです、買ってくださ……い?」
 聖の頭にはてなマークが浮かぶ。神社にはママ―――水田 茉莉花と2人で来たはずなのに、振り向いたら小さい子がにこにこと茉莉花にくっついていたのである。

「ひーくんごめん、ちょっと待ってくれる? このおちびさんがしがみついて離れないの」
 茉莉花の言葉に聖が不思議そうな顔で戻ってきた。
「赤ちゃん、です?」
「うん、1歳半って所かな? 多分迷子だね。歩けるようになったばかりの子って親の手を振り切って行っちゃう事があるのよね……」
 元保育士の茉莉花は、そう言いながらおちびさんの両手をあやすように握る。おちびさんがキャッキャと笑った。
「ママに、なついてるんですか?」
「うーん、というか全然物怖じしない子みたいね」
 聖も茉莉花の隣に一緒にしゃがみ込む。するとおちびさんが今度は聖にがばっと抱き付いてきた。
「うわ、ぼくにもしがみついてきた!」
 慌てる聖に構わずおちびさんは「だー! うだー!」とご機嫌だ。
「『だーうだ』って、なにがしたいのかわかりませんよう!」
「ひーくんをお兄さんだと思ってるみたいね」
 茉莉花の言葉にも聖は戸惑うばかりだ。
「とりあえず、これいじょうまい子になられてもこまりますからね」
 そう言って聖は、ご機嫌で暴れるおちびさんを何とか抱き上げた。ずるりとメガネが落ちそうになり慌てて直す。
「ひーくんありがと。じゃ、あたしが親を探してみるね。そんなに遠くないと思うけど……」
 そう言って茉莉花が背を向けた時だった。抱っこされていたおちびさんが思い切り聖の髪を引っ張ったのだ。
「わ、かみの毛引っぱらないで!」
 聖の抗議にもおちびさんは意に介さず、どこかを指さしながらだあだあと引っ張り続ける。
「え? そっちですか? わかりました、そっち行きますよう!」
 聖は小さな暴君に髪を引っ張られるまま歩き始める。驚いたのは茉莉花だ。
「ひーくんどうしたの?」
 突然歩き始めた聖の背中を慌てて追いかけた。

 3人が着いた先は、綿飴の屋台だった。
「おちびさんがこの屋台にいきたがってたの?」
「みたいです」
 聖が腕の中のおちびさんに問い掛ける。
「わたあめ、ほしいんですか?」
「だ!」
 おちびさんが両手を挙げた。その屈託のなさに茉莉花が苦笑する。
「じゃあ買ってあげよう、落ち着くかもしれないし」
「わかりました。しょうがないですね」
 聖はおちびさんを屋台の前に連れて行った。「えらんであげるね、どれがいいです?」なんて言う聖はいっぱしだ。綿飴を買った聖がおちびさんの前にしゃがんで言った。
「はい、これもったらおとなしくするんで……あっ!」
 聖が声を上げる。綿飴を貰ったおちびさんが今度はテトテトと走り始めたのだ。
「ああっ、そっちに行っちゃ……!」
 驚く茉莉花を尻目におちびさんは見知らぬ男女の足下に「だー!」と抱き付く。聖が急いで駆け寄った。
「ほかの人にめいわくかけちゃ……」
 言いかけた聖の言葉が止まる。同じく駆け寄った茉莉花の表情がほっと緩んだ。
「……この子のご両親ですか?」
「この子のパパとママ? なら大丈夫ですね」
 聖も茉莉花を見上げ、ふうと息をついた。

 両親はひとしきり茉莉花と聖にお礼を言うと、おちびさんと共に去って行った。
 抱っこされたおちびさんがニコニコしながら2人に手を振る。その姿が見えなくなるまで手を振り返していた聖が、ようやくその手を下ろした。
「……行っちゃいましたね」
 いつまでも3人の去って行った先を見つめている聖の顔を茉莉花がひょいと覗き込んだ。
「……ねぇひーくん、いきなり『お兄さん』になってどう?」
「え、お兄さんって……べ、べつにどうってことないですよ!」
「うふふー、少しはあたしの気持ちわかった?」
 ちょっと赤くなりながら口を尖らせる聖と、それをニヤニヤしながら見ている茉莉花。
 ―――そして、ようやく聖はリンゴ飴を買ってもらえることが出来たのだった。


●髪

 屋台がたくさん並ぶ境内は、結構な人出だった。
 エリアスの少し後ろを歩いていたアイリス・ケリーは、その人混みに押されて思わずよろけてしまう。グリーンのワンピースを揺らしながらトンッと見知らぬ男の胸にぶつかったアイリスは……そのまま動けなくなった。

「どうしたんだい、アイリス」
 アイリスの気配が傍になくなった事に気付いたエリアスが振り向き、驚いた。アイリスが見知らぬ男性の胸にもたれかかっているのだ。急いで駆け寄ったエリアスは、状況を見て全てを察した。
 アイリスの編み込んで結い上げられた髪に、男性のネックレスが絡まってしまっていたのだ。
 丁度後ろ髪でエリアスは振り向くことも出来ず、相手の男性が何とか取ろうと苦戦しているようだ。エリアスは2人に声をかけようとしたが、それより先にアイリスの口が開いた。
「エリアスさん、私の鞄からハサミを出してください」
「ハサミ?」
 エリアスは彼女の突然の言葉に訝しがりながらも、身動き出来ないアイリスの代わりに探してやる。
「あ、ソーイングセットに入ってるこれのことかな?」
 エリアスは小さめのハサミを取り出して―――ふっと眉をひそめた。
「……まさか、髪を切るとか言わないよね?」
 男性に引っ付いたままのアイリスが表情を変えずに言った。
「そのつもりですが何か問題でも?」
 エリアスの口があんぐりと開く。そして2、3度動いた後、大きく息を吐いた。
「問題あるに決まってるじゃないか……」
 エリアスは顔を上げ、穏やかにアイリスを見て言った。
「こういうのはね、自由に身動き取れる人がやる方が早いんだよ」
 エリアスはハサミを仕舞い、アイリスと男性の間に立つと器用に手を動かし始める。そして。
「はい、出来た」
 エリアスは見事にアイリスの髪をネックレスからほどいてやった。
「あ……ありがとうございます」
 お礼を言うアイリスにエリアスは少し微笑むと、相手の男性の方を向き軽く頭を下げた。
「連れがすみません」
 アイリスも慌てて頭を下げる。
「ご迷惑をおかけしました」
 並んで頭を下げる2人に男性は、「こっちも不注意だったから」と笑いながら手を挙げて去って行った。

 男性の姿を見送ると、「よし」とエリアスは言った。
「アイリス、一度人の少ないところに離れようか。髪、整えたいだろう?」
 しかしアイリスはほつれてしまった後ろ髪に触れながら首を振った。
「いえ、触った感じではかなり乱れてそうですので、もう髪は解こうかと思います」
 アイリスは淡々と言葉を続ける。
「少し癖がついてるでしょうけど、このままでいるよりはマシです」
 そんなアイリスを見て、ふむとエリアスは考える。そして「あ、そうだ」と顔を上げた。
「そこの出店で売っている髪飾り……ゴム? シュシュ? ……なんていうか分かんないんだけど、ああいうので纏めるのは簡単なのかな?」
 エリアスが指した先にはアクセサリーが売っている出店だった。そこには確かに可愛いヘアゴムやシュシュも並べられている。エリアスの質問にアイリスは少し戸惑いながらも答えた。
「え……ええ、それならすぐに出来ますが」
「じゃあ、そこで買おう。祭りのお土産にもなるしね」
 明るく言うエリアスに、アイリスは少し思案していたが、頷いた。
「……そうですね、そう、させてもらいます」
「さ、見に行こう」
 エリアスが優しく微笑み、アイリスを促し歩き出した。

 アイリスはエリアスの横を歩きながらどんな髪留めにしようかと考えている自分に気付く。
 いつもよりほんのちょっと近い距離で、2人は並んで歩くのだった。


●魔法の手

 賑わう屋台を両脇に見ながら、桜倉 歌菜と月成 羽純は仲良く並んで歩いていた。
 羽純は白銀の生地に蝙蝠の模様が入った浴衣。袂に手を入れ歩く姿は大変絵になっている。
 その横では歌菜が楽しげに歩く。薄桃色の生地に金魚の柄が入った浴衣を着てふわりふわりと歩く姿は彼女自身が金魚のようで、それを見つめる羽純の瞳も優しげだ。
 しかしお祭りは結構な人混みだった。羽純と来られた事で歌菜も少し浮かれていたのかもしれない。すれ違いざまにぶつかった人のジュースが、見事に歌菜の浴衣にかかってしまったのだ。

「ど、どどどどうしよう……!」
(折角の浴衣なのに……!)
 金魚の浴衣は歌菜のお気に入りだった。羽純が少しでも似合うと思ってくれればいいなと思って着てきた浴衣だったのだ。
 歌菜は余りのショックに呆然と立ち尽くす。と、その手がぐいと引かれた。
「歌菜、こっちだ」
 羽純が歌菜の手を取っていた。そのまま手を引いて人気のない場所まで出た羽純は、歌菜をベンチにゆっくりと座らせた。
「このままここで待ってろ、直ぐ戻る」
 歌菜の目を見てしっかりと言うと、羽純は走って行ってしまった。
 何が何やら分からず、ただ呆然と座っていた歌菜の元に、羽純はすぐに戻ってきた。歌菜は彼の息が乱れている事に驚く。
(急いでくれたんだ……でも、何をしに?)
 そこで歌菜は羽純の手に濡れたハンカチが握られているのに気が付いた。羽純はスッと彼女の前に屈み込む。
「そのまま動くなよ」
 そう言うと羽純は慣れた様子でトントンと染みの部分をハンカチで叩き始めた。すると叩かれた所からみるみるうちに染みが薄くなっていく。歌菜はほうっとその手際の良さに見惚れてしまった。
「羽純くん、手慣れてるね」
 感心したように伝えると、羽純は顔を上げた。
「仕事着が汚れた時とかによくやるからな。直ぐ処置すれば、綺麗になる」
 そう言ってまた羽純は真剣に染みを抜いていく。そしてしばらくすると染みは魔法のように消えてしまった。
「よし、綺麗に取れた」
 満足そうに言う羽純に、歌菜は心からの感謝を伝えた。
「有難う、羽純くん」
「……どういたしまして。次が無いように気を付けて歩けよ……どうした?」
 羽純は歌菜が自分の手をじっと見てる事に気が付いて首を傾げる。歌菜が口を開いた。
「羽純くんの手って……魔法使いの手みたい」
「え?」
 考えもしなかった言葉に羽純の目が丸くなる。
「素敵なカクテルを作ったり、掃除も上手だし……」
 嬉しそうに続ける歌菜にしばし羽純は何も返せなかったが、堪りかねたようにフッと笑い、言った。
「なら、歌菜の手も魔法使いの手、だな。美味い料理を作ってくれる」
 羽純の言葉に今度は歌菜が目を丸くする番だった。ふふん、どうだと得意げな顔の羽純。2人は顔を見合わせると……互いにふふと笑い合った。

 少しの心地良い沈黙の後、小さく歌菜の声がした。
「それに、あのね」
 歌菜は頬を染めながら恥ずかしそうに言った。
「羽純くんの手に触れると……凄く温かい気持ちになれるの」
 本当の、気持ちだった。
 羽純くんの手は、温かい手。いつも私を救い、助けてくれる手。
 すると、ふと膝の上に置いていた歌菜の手が温かくなった。見ると、羽純の手が重ねられている。
「……祭り、行こうか」
 羽純にすっと立たされ、手を引かれるまま歌菜は歩き出した。
 絶対離さないぞと言うように握られた、羽純の手。
 その強さに歌菜の胸は熱くなるのだった。


●もふもふと君の手

 二人は下駄をカラコロと鳴らしながら境内を仲良く歩いていた。クラウスはリンゴ飴の屋台を見つけ、袂に手を入れ腕を組んだままシルキア・スーの方を振り返った。
「買うか?」
 シルキアは笑顔で答える。
「うん、食べたい!」
 甘い物が大好きな彼女の快活な返事と無邪気な笑顔が、まずかったのかもしれない。その笑顔に後押しされるようにクラウスが足早に屋台に向かった時、シルキアの耳に子供の泣き声が聞こえた。
「……泣いてる?」
 思わずシルキアは立ち止まったが、クラウスは気付かないのかスタスタと歩いていく。
「ちょっ、ちょっと待って!」
 呼びかけるも彼の背中はどんどん小さくなってしまう。シルキアは少し逡巡したが、
(まあ屋台はすぐそこだし)
 と取りあえず声のする方へ行く事にした。

 屋台に着いて独り後ろを振り向いたクラウスの驚愕を何と表したらいいのだろう。
「 !? 」
 あるはずのない事が起こった事に彼の思考能力が止まる。ザッと血の気が引くのが分かった。
「シルキア? ……シルキア!!」
 いつだ、いつ逸れた?!
 彼女の名を呼ぶその喉に恐怖が貼り付く。必死に彼女の声を拾おうとしたクラウスの耳に、子供の泣き声が飛び込んできた。
 ―――直感だった。
 クラウスはその声のする方へ走り出していた。

 シルキアが、いた。大声で泣く男の子の横で何とか宥めようとしていた彼女の姿を確認し、クラウスはほうっと大きく安堵した。クラウスの登場にシルキアもほっとした顔になる。
「迷子みたいなの……泣き止んでくれなくて」
「迷子?」
 彼女の言葉にクラウスが事態を理解する。困っているシルキアの助けになろうと、クラウスは男の子の傍に座ると、頭を撫で優しげに笑いかける。そして少しでも男の子の気を逸らそうとあやし始めた。
 いつもキリリとして理性的な彼が、子供相手に一生懸命だ。その姿は何だか可愛らしくすらあった。
「何か、新鮮な姿見ちゃった」
 シルキアが思わず言ったその言葉に、気恥ずかしそうに相づちを打つその姿もまた可愛くて、彼女はついつい小さく笑ってしまう。照れ臭さがMAXになったクラウスは、最終手段に出る事にした。泣き続ける男の子に、
「ならば、これは好きか?」
 ともふもふの自分の尻尾を見せたのである。

 効果はてきめんだった。
 ピタリと泣き止んでクラウスの尻尾で遊び始めた男の子を見ながらシルキアが嬉しそうに言った。
「あ、泣き止んだ! 流石もふ様のご利益」
 そして男の子に背を向ける形になったクラウスの前に回り、にっこりと微笑んだ。
「落ち込んだ時は私もご利益に与るけど、これが凄く効くのよね!」
 彼女の言葉にコホンと咳をしながらも、クラウスは微笑み返した。

 結局2人は男の子を近くの迷子の預かり所に連れて行く事にした。
「きっと大丈夫だからね」
 とシルキアは男の子の頭を優しく撫でる。そしてクラウスが肩車をしてやると、男の子がキャッキャと大喜びした。
 クラウスとシルキアは並んで歩く。と、クラウスがおもむろにシルキアの手を握った。驚き振り向いたシルキアに、クラウスが言った。
「逸れたくない」
 その真剣な瞳にシルキアは息を呑む。そして自分の軽はずみな行動がクラウスを不安にさせてしまった事を知った。
「さっき心配させた? ごめんね」
 シルキアは大丈夫だよというようにクラウスの手を握り返す。肩車の男の子は高い風景が楽しいのか、おとなしくキョロキョロしている。そして2人は手を繋ぎながら歩いていたが、ふとシルキアが思いついたように言った。
「こういう風に並んで歩くと何だか……家族みたいだね」
 そしてふふっと笑う。
 クラウスは。
 『家族』の響きに忠義の心が揺らぐ自分を感じていたが、ただ黙ってシルキアに向かって微笑んだ。
 彼女の手をしっかりと熱く握り締めながら。


●おんぶ

 紅月ノ神社は、たくさんの人で賑わっていた。
(なんか、すっごく混んでるわね……)
 歩きながらシャルティは隣のグルナ・カリエンテをちらりと盗み見た。
「何で平気なのよ……」
 人々のざわめきの中思わず呟いてしまった言葉に、グルナが反応した。
「あ? なんだって?」
 その普段通りの態度にシャルティはグルナから視線をすっと外す。
「言ってないわ。なにも」
 人が、多い。気持ちが悪い。シャルティは自分の顔から血の気が引いてくるのを感じていた。

 グルナは、通常運転だった。細やかな神経とは言い難い彼は、別に人混みも平気だったし、特に何を思う所もなかった。
 ただ、さっき自分を見たシャルティの顔が気になった。いつもの瞳の強さがなかった気がして、思わず後ろを振り返る。
 そこには、誰もおらず―――青い顔で立ち止まるシャルティが先に小さく見えた。

「シャルティ!」
 その大きな声と共にグルナが走り寄ってくるのがシャルティにも見えた。しかし彼女は反応出来ない。立っているのが精一杯なのだ。
 グルナはシャルティに駆け寄るとじっと射るように彼女の顔を覗き込む。そして。
 グルナはおもむろに彼女に背を向け、片膝を立てしゃがんだのだ。
「……は?」
 シャルティは思わずその背中に疑問符を投げかける。分かっていた。グルナはおぶされと言っているのだ。
「いや……良いわよ」
 当然のように拒否したシャルティに鋭い声が飛んだ。
「良いから乗れっつてんだろ!」
 その強い態度に驚いたシャルティは不承不承自分の身をその背に預ける。大柄な彼がシャルティをおぶって立ち上がると、周囲は何事かと2人を見た。
「ちょっとっ! 恥ずかしいんだけど……!」
 注目を浴びシャルティがやっぱり下りようともがく。グルナが首だけ回してギッとシャルティを睨んだ。
「そのまんま倒れること考えたら、この方がずっとマシだろうが! 黙っておぶられてろ。倒れられると俺が困るんだよ」
 そしてふん! とまた前を向くと、シャルティをおぶって歩き始めた。
 正論にシャルティは言葉もなく。
「分かったわよ。もう……」
 小さく言うと、おとなしくなった。

 しばらく歩いていたグルナの耳元にシャルティの声が落ちてきた。
「……あんた。バカじゃないのね」
 結構な言葉にグルナが言い返す。
「バカいうなっつの。落とすぞ」
 しかしシャルティの声は穏やかだった。
「違うから落とさないで。よく考えたらあんたって、よく気にかけてくれる……じゃない? 今だっておぶってくれてるし……」
 そしてほんの少しシャルティは沈黙したが、口を開いた。
「あんたのそういうとこ、良いと思うわ」
 シャルティの言葉が、その素直な想いがグルナの胸に直接飛び込んできた。それはほわりと温かくて、くすぐったくて。しかしどうしていいか分からず慌ててグルナは言い返す。
「う……うるせぇなっ、落とすぞ!」
 その慌てっぷりにシャルティはくすくすと笑った。
「なんで落とそうとするのよ。褒めてるんじゃない」
 2人の間に静かで穏やかな空気が流れる。グルナがぼそりと言った。
「……我慢すんな。具合わりぃんなら言え。いつだっておぶってやるから」
 その言葉にシャルティは、彼の大きな背中に安心したようにぽすりと顔を預け目を閉じた。
「……ありがと」
 グルナの胸がドキンと跳ね上がった。
 具合が悪いからなのか、シャルティはいつもより素直で。
(可愛いじゃ、ねえか……)
 シャルティを背負いながら自分自身の感情に戸惑ってしまうグルナだった。



依頼結果:大成功
MVP
名前:シャルティ
呼び名:お前、シャルティ
  名前:グルナ・カリエンテ
呼び名:あんた、グルナ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター KAN
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月07日
出発日 09月15日 00:00
予定納品日 09月25日

参加者

会議室

  • [9]桜倉 歌菜

    2016/09/14-21:58 

  • [8]桜倉 歌菜

    2016/09/14-21:57 

  • [7]アイリス・ケリー

    2016/09/13-18:56 

    遅くなりました。
    アイリス・ケリーとエリアスです。
    困りましたね…早々に解決したいところです。
    それではみなさん、よろしくお願いいたします。

  • [6]水田 茉莉花

    2016/09/12-18:16 

    プランできました。
    えっと、ぼく、が、がんばります…。

  • [5]桜倉 歌菜

    2016/09/12-00:17 

    桜倉歌菜と申します。
    パートナーは羽純くんです。
    皆様、よろしくお願いいたします♪

    うう、どうしてこんな事に…!(涙)

    乗りきって、よい一時にしたいですねっ(ぐっ)

  • [4]桜倉 歌菜

    2016/09/12-00:16 

  • [3]シャルティ

    2016/09/11-22:43 

    シャルティよ。
    …せっかくのお祭りだけど、困ったわね…ふう。
    でも、まあ。よろしくね。

  • [2]水田 茉莉花

    2016/09/11-00:46 

  • [1]シルキア・スー

    2016/09/10-20:01 

    シルキアとパートナーのクラウスです。
    どうぞよろしくお願いします。


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