【祭祀】さつきの番外〜頑張れ、風狸くん!(キユキ マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

●求ム、恋愛指南!
「頼む! あんたら恋人同士なんだろ?! オレに力を貸してくれ!」
 言われた者たちの反応は様々だった。
 きょとんと首を傾げる者、顔を赤くする者、なぜか否定しようとする者、嬉しそうに笑う者、等々。

 ここは『紅月ノ神社』。
 納涼花火大会が開かれている、女神ムスビヨミのお膝元。

 目の前でこちらを見上げ頼み込んできたのは、小学生くらいの少年だ。格子柄の浴衣を着た少年は耳と尻尾が獣のもので、妖怪だった。『紅月ノ神社』は妖怪たちが数多く暮らしている。
「オレは風狸! 風の狸って書いて『ふうり』だ!」
 読んで字の如く、風を操ることが出来るらしい。
 ところで、「力を貸してくれ」とは……?
「じ、実は……これからミユキと『でぇと』なんだ……! お、オレ、ミユキにカッコイイところ見せたい!」
 彼は意中の誰かと、お祭りデートの約束をしているようだ。
 ーーが、お相手の『ミユキ』とはもしや。
「あんたらも知ってんのか? その『さつきのきつさ』のミユキだ!」

<さつきのきつさ>と言えば、毎月何かしらの花が満開となり、その見事さで他の追随を許さぬタブロス郊外の庭園だ。一般によく知られた植物からマニアックなものまで、守備範囲はやたらと広い。さらには庭園責任者である店長が無類の『パズル』好きで、謎解きからはたまた迷路まで、イベントごとにも事欠かない。ミユキはその庭園の店員だ。
 庭園なのに『店長』『店員』とは面白い表現だが、庭園と併設の喫茶が<さつきの喫茶>という名前であり、文字通りそこの店長と店員でもあるからそのような呼び方になっている。
 そして、ミユキは突飛な言動に定評がある。

「頼む!」
 もう一度、拝むように勢い良く両手を合わせられて、皆は顔を見合わせた。

 少年の眩しい恋心、応援してやろうではないか!

解説

あなたのお祭りデートと一緒に、風狸くんにデート指南をしてあげましょう!
けれど、無邪気に祭りを楽しむ人々や風狸くんを見ていると、なんだか神人も精霊もモヤモヤとしたものが……?

■プランに必要なもの
(1)風狸くんへデートのアドバイス。アドバイス内容の条件は下記の2点のみ。
  ・カップル1組につき1つ以上。
  ・アドバイスに「好きだ!」の類の告白はNG。「髪が綺麗」的な褒めるものはOK。
   例:金魚掬いでいっぱい取ったら格好良いんじゃないか?
(2)神人、あるいは精霊がパートナーに不安をぶつける。
 内容、シチュエーションは問いません。
 「デートの風狸くんをこっそり着けているとき」のような条件記載があれば、そちらを優先します。

■風狸(ふうり)
人間換算で10歳くらいの男の子。ミユキへの恋心はLoveではなくLike。近所の憧れのお姉さんみたいな感じです。
面と向かって「好きだ!」と云うのは、ちょっと恥ずかしいお年頃。
屋台の手伝いで全屋台共通の無料券を幾つか貰っているので、2回くらいならミユキの分のお金も払えます。
 例:ミユキにジュースを奢ってあげる。

■ミユキ
<さつきのきつさ>の店員。今回は奉納花を納めた後に遊びに来た模様。浴衣を着用。
楽しいことが大好きで、発想と言動が一般から斜め上ともっぱらの評判。
風狸のことは弟のようだなーと思っている。

※『紅月ノ神社』への往復交通費300Jを消費します。

ゲームマスターより

大変お久しぶりでございます。キユキと申します。
初めましての方もそうでない方も、エピソードをご覧下さりありがとうございました。

<さつきのきつさ>だというのに、植物すらも関係ない、お祭りデートのお手伝いです。
ミユキについては今までの「さつきのきつさ」エピソードを、風狸くんについては【夏祭り・月花紅火】を参照いただきますと、イメージが湧きやすいかもしれません。実は昨年思いついたネタだったのですが、ひまわりを優先して見送ったという裏話…(・ω・`)
つい不安や不満をパートナーにぶつけてしまっても、皆様ならばきっと大丈夫でしょう。
少年の淡い恋心と無邪気さ、ミユキの突飛な発言に癒やされていただければ幸いです。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

フィーリア・セオフィラス(ジュスト・レヴィン)

  …え、えっと、その、恋人同士じゃ、ない、けど…。

(1)
…カッコイイ、ところ…、えっと、ミユキさんの喜びそうな、こと…?
ミユキさんの、好きなもの、って、パズルとお花、よ、ね…。
無料券があって…、お祭りの、屋台で、パズルか、お花…?
…飴細工の、お店とかあったら。お花の細工、してもらって、プレゼントしたら…。
奉納花が、綺麗だったからって、言えば…。
ミユキさん、喜ぶ、かしら…?

(2)
…こういう、お出かけの、時は…、いつも、付いて来てもらって、る、けど…。
私は、ジュストと、一緒にいるのは、好き、だけど…。
でも、…やっぱり、甘え過ぎ、かしら…?…迷惑、かしら…。

…私は、ずっと、一緒にいたい、けど…。


ひろの(ルシエロ=ザガン)
  すらすら言うルシェは、やっぱり慣れてるんだと思う。
けど、いつもより声が低くて表情も薄いから。子供は嫌いなままみたい。
私もまだ、子供なのかな。(ぼんやり考える
「え、」なんだっけ、かっこいいこと?
「相手に合わせて歩く、とか」
かっこいいかわからないけど、嬉しいと思う。

「ルシェは、子供嫌いだよね」(風理を見送った後、呟く
「私は、嫌じゃないの?」(俯く
「最初会ったときも、その後もしばらく嫌そうだった」(視界が滲む

「今も本当は、嫌じゃないの?」

なんで言っちゃったんだろう。(後悔
「そう、なの……?」(拭い方に動揺しつつ
「ごめん、なさい」(嗚咽を堪える
何でこんなに嬉しくて、安心するんだろう。(ルシェの服を握る


アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
  こ、恋人っ…ではないけど…アドバイス位ならっ…(あわあわ

アドバイス
らくがきせんべいで花の絵を描いてプレゼントしたら喜んでくれるんじゃないかな?
あ、月下美人とかどうかな?(過去任務見た
格好いいかどうかは分からないけど、綺麗に描けたとしたら凄いと思うよ


デートの行方を追っている最中
ふと自分が今抱いているこの気持ちはどっちの好きなのか分からなくなってくる
これは本当に恋なのかな…

…ねえガルヴァンさん
憧れと恋の違いってなんだろうね

ごめん…でも気になっちゃって…

へえ…
不意に手を取られドキリ
あ、う、うん…

ああそうか…
私はその憧れで誤魔化してただけだ
例え無理でも、私と同じ気持ちになってほしい
これが本心…恋なんだ


●アドバイスタイム!
 祭り囃子と、威勢の良い客寄せと。会場は賑わいに包まれている。
 デート指南を必死に願ってくる風狸に、『アラノア』は赤くなって慌てた。
「こ、恋人っ……ではないけど……アドバイスくらいならっ……」
 彼女をちらりと横目で見て、『ガルヴァン・ヴァールンガルド』は呟く。
「恋人……か」
 そう見えているのなら少し嬉しいかもな、と口にはせず思う。

 アドバイス、アドバイス……と呟いていたアラノアは、思い立って指を1つ立てた。
「らくがきせんべいで花の絵を描いてプレゼントしたら……喜んでくれるんじゃないかな?」
 月下美人とかどうかな? と追加すれば、風狸は大きく頷く。
「それ、良いアイデアだなっ!」
 彼の様子にアラノアも嬉しくなる。
「格好良いかどうかは分からないけど、綺麗に描けたとしたら凄いと思うよ」
 一方のガルヴァンは、視界に入った屋台で思いついた。
「射的で相手が欲しいと思った物、もしくは似合いそうな物があればそれを狙ってみたらどうだ?」
 以前に訪れた祭りを思い出す。
 あのときは、赤い蝶の髪飾りを狙ったのだ。
「ああ……1発で取れれば格好良いんじゃないか?」
 そのときは何度も何度も挑戦したけれど。
 当然、その事実はアラノアには秘密のままだ。
「分かった! 射的とらくがきせんべいだな!」
 お? あっちにもウィンクルム発見! と風狸は駆けて行ってしまう。本当に、名前通り風のようだ。
 ひら、と屋台の無料チケットがアラノアの手元に落ちてきた。

 *

 風狸に見上げられた『フィーリア・セオフィラス』は、えっと、と口籠る。
「……え、えっと、その、恋人同士じゃ、ない、けど……」
 カッコイイところ、と考えた。
「えっと、ミユキさんの喜びそうな、こと……?」
 たぶん、彼女の好みを踏まえたところが大事なのだろう。
(ミユキさんの、好きなもの、って、パズルとお花、よ、ね……。無料券があって……お祭りの、屋台で、パズルか、お花……?)
 意外と難易度が高い、ような。
 けれどあっ、とフィーリアは1つ思い当たった。
「……飴細工の、お店とかあったら。お花の細工、してもらって、プレゼントしたら……」
 と言ってくれた彼女に、風狸の耳がぴょこんと立った。
「なるほど! それはカッコイイなっ!」
(奉納花が、綺麗だったからって、言えば……ミユキさん、喜ぶ、かしら……?)
 やはり彼女に『花』は外せないのでは、とも思うのだ。
『ジュスト・レヴィン』はそんなフィーリアを眺めつつ、キラキラとした目を向けてくる風狸へアドバイスを渡す。
「歩調を合わせるのは必要かな。人出が多いし、浴衣と下駄なら余計に」
 基本的には一緒に祭りを楽しめばいいんだろうけど、と続けてから、もう1つと付け加えた。
「ああ、余所見はするな、かな」
 一番大事なパートナーを見失うほど、格好悪いことはないだろう。
「き、気をつけるぜ…!」
 ありがとな! と屋台の無料チケットを1枚渡して駆けて行った風狸を見送り、ジュストは考えた。
(飴細工か……)
 フィーリアをちらりと窺う。
(買って欲しいっていう意味ではなさそうだけど。いらないとは言わないだろうし)
 ふと、フィーリアもこちらを見た。ジュストは屋台の群れを指差す。
「アドバイスした以上、そういう店があるのかどうか気になるから、行ってみるか?」
 もちろん、フィーリアは頷いた。
「……飴細工、あったら、良いね」

 *

(犬じゃないのに、なんか尻尾が揺れてる……)
『ひろの』は風狸を見下ろして、そんな感想を抱いた。撫でたくなってくる頭だ。
 アドバイスを問われた『ルシエロ=ザガン』はふん、と面倒くさそうに、けれど邪険にはせず口を開く。
「なら手を繋げ。理由が必要なら、逸れたら困るとでも言えば良い。人が多い祭りだ、嘘にもならん」
「おお!」
 彼は淡々と告げつつ、祭りならともう1つ。
「得意なものを披露するのも良いか。射的なら景品を贈るとかな」
 ただし、と親切心で付け加えてやった。
「ただ、夢中になり過ぎて相手のことを忘れるなよ」
 言い切ってから、ルシエロはひろのを見た。
「ヒロノは何かあるか?」
「え、」
 なんだっけ、カッコイイとこだっけ? と自問してから、ひろのはおずおずと風狸へ話す。
「……相手に合わせて歩く、とか」
 自分なら、格好良いかは分からないが嬉しいと思う。ルシエロはひろののアドバイスを聞き、ふっと笑った。
「それも大事だな」
 少しだけその笑みに見惚れてから、ひろのは頭の片隅で思う。
(あんなにすらすら言って……。ルシェはやっぱり慣れてるんだな……)
 けれど、いつもより声が低くて表情も感情の色が薄かった。
(子供は嫌いなままみたいだけど)
 ぼんやりと、彼から見える自分の姿を思い描く。
(私もまだ、子どもなのかな……)
「ありがとな、兄ちゃんと姉ちゃん!」
 オレ頑張るぜ! と風狸は屋台の無料チケットをひろのへ渡すと、雑踏の中を駆けて行った。



●お祭り恋模様
「ミユキッ! 待たせたな!」
「あ、風狸くん。こんばんは、今日も元気だね」
 浴衣姿のミユキは、知り合いの贔屓目を除いても可憐に思える。
「ミユキはいつ見ても美人だな!」
「えへへ、風狸くんも格好良いよ」
 迷子になるから手を繋いでおこう、とミユキが提案したため、風狸がもらったアドバイス『手を繋ぐ』はあっさりと達成された。
 和やかに歩き出した風狸とミユキを、アラノアとガルヴァンは距離を空けて追いかける。
(やっぱり気になるし……)
「らくがきせんべいとは、あれか?」
 ガルヴァンの指差したらくがきせんべいの屋台に、先を行く2人も気づいたようだ。

「ミユキ! あそこのせんべい、おいしいんだぜ!」
「へえ……お絵かきするんだ」
 風狸は無料チケットと引き換えに大判のたこせんを受け取り、店主に指南を受けながら絵を描き始める。
「ぐぬぬ……」
 月下美人と聞いたところだったので、それを描こうとしたのだ。
 だが月下美人というものは花弁が多い。奉納華を思い返して描こうとしても、線が増えれば増えるほど花には見えず……。
(これ、柳女……)
 怒ると非常に恐ろしい女妖怪を思い起こさせ、さすがにミユキには渡せない。
「風狸くん、描けた?」
 ひょいとミユキが屋台を覗き、風狸はせんべいを隠す暇もなかった。彼女は絵の描かれたせんべいを見て、わっと歓声を上げる。
「すごい、スパニッシュモスだね!」
「へ? すぱ……?」
「エアプラント、っていう土の要らない植物の仲間だよ。よく知ってたね!」
「お、おう……」
 さっぱり腑に落ちないが、店主がグッジョブ! と笑っていたので、風狸は無理やり納得しておくことにした。

 せんべいはミユキが美味しくいただきました。

 *

 人の波に呑まれて、風狸とミユキの姿を見失ってしまった。
 改めて周りを見回してみると、家族連れは元よりカップルの姿があちらこちらと目に付いた。
 アラノアはふと、自身の今抱いているこの気持ちが『どちらの』好きなのか分からなくなってくる。
「これは、本当に恋なのかな……」
「どうした?」
 彼女がぽつりと零した言葉は、微かにしかガルヴァンには届かなかった。
「……ねえガルヴァンさん。憧れと恋の違いってなんだろうね」
「憧れと恋……?」
 随分と難しい質問をされた。如何せん、己もまた恋情を知って間もない身の上である。
「……難しいな、それは」
「ごめん……でも気になっちゃって……」
 困ったように笑うアラノアに、ガルヴァンは思案する。
「そうだな……主観になるが……」
 ガルヴァンは父を思い浮かべた。
「憧れとは、己がいかに優秀か示したい相手であり、ある種の目標だな。そして……」
 彼はアラノアをちらりと見遣る。
「恋とはそれに加え、今の自分と同じ気持ちになってもらいたいという欲が出るな……」
「へえ……」
 欲。相手に強く願うことであったり、あるいは手を伸ばしたくなる感情のこと。
 アラノアの足がゆっくりと、そして止まる。
(私は……)
 数歩先を歩いて隣にアラノアが居ないことに気づき、ガルヴァンは彼女の元へ引き返した。
「……遅れるぞ」
 彼女の手を引き、先導する。
「あ、う、うん……」
 不意に手を取られて、アラノアはドキリとした。
(ああ、そうか……。私は、その憧れで誤魔化してただけだ……)
 たとえ無理でも、自分と同じ気持ちになってほしいと願うその気持ち。
 これはきっと。

 手を繋ぎながらも、アラノアとガルヴァン、互いの目線は交わらない。
 アラノアは自身の心にそっと向き合う。
(これが本心……恋なんだ)
 ガルヴァンはアラノアの方を振り向けない。
(俺は今、どんな顔をしているのか……)
 彼らの恋情は、祭りの喧騒に掻き消えること無く。


 *    *    *


 祭りにやって来ている人々の中には、子どもの姿もたくさんある。
 風狸を見送った後、ひろのはぽつりとルシエロへ問い掛けた。
「ルシェは、子ども嫌いだよね」
 ルシエロも風狸を見送っていたが、質問の意図が分からない。
「嫌いというよりは、苦手が正しい」
 それがどうかしたか? とひろのを見下ろすが、彼女は俯いていて顔が見えなかった。
「私は、嫌じゃないの?」
「何?」
「最初会ったときも、その後もしばらく嫌そうだった」
 そう、あの頃は。
 思い出していくとじわ、とひろのの視界が滲む。ルシエロは様子のおかしいひろのの頬に手を添え、彼女の顔を上げさせた。
 強制的に目を合わせられたひろのは、耐えるように言葉を紡ごうとした。唇が戦慄く。

「今も本当は、嫌じゃないの?」

 水の膜を張った瞳は、ゆらゆらと揺れて。
(何で……何で言っちゃったんだろう)
 なぜ。ひろのの胸には自身の吐き出した言葉に対する後悔ばかりが広がっていく。
 一方のルシエロは、少なからず衝撃を受けていた。
(そんなことを思わせていたのか)
 まさか、という気持ちは、こちらを見上げる不安ばかりが濃い表情に確信へ変わる。
 半ば無意識で、ルシエロは涙を堪えるひろのの目尻へ唇を寄せた。
「嫌いじゃない。出会ったときは接し方が判らなかっただけだ」
「そう、なの……?」
 唇で涙を拭われ、ひろのは動揺した。したが、それよりも謝らなければという思いが勝る。
(やっぱり、言わなきゃ良かった……)
 自分の勘違いだった。そんなこと、ルシエロは思っていなかったのに。
「ごめん、なさい」
 謝るとまた、涙が溢れそうになる。まだ不安そうな彼女を、ルシエロはそっと抱き締めた。
「謝らなくていい。不安にさせて悪かった、ヒロノ」
 嗚咽を堪えながら、ひろのもルシエロへ身体を寄せた。
(でも……何でこんなに嬉しくて、安心するんだろう……)
 祭りの喧騒が、少し遠い。

 *

 風狸とミユキは射的屋の前で立ち止まった。
「なあなあ、ミユキは何か欲しいもの、あるか?」
「んー。あ、あれかな?」
 彼女が示したのはルービックキューブだ。商品代わりの木札が立ててある。
(随分とクールなもん欲しがる姉ちゃんだな……)
 屋台の狐の青年は内心で首を傾げつつ、風狸の差し出したチケットと引き換えにオモチャの銃を渡した。
「よぉし!」
 狙いを定めて1発、2発、3発……駄目だった。
「くそう…」
「よーし、じゃあ私も!」
 ミユキも参戦し、しかし敢えなく全弾命中せず。
「あや〜……」
「残念だったな、坊っちゃんと姉ちゃん! ま、これはオマケだ!」
 また来てくれよ! と気の良い狐の青年がくれたのは、小さなスライドパズルのキーホルダーだった。
「スライドパズルだ! やったね、風狸くん!」
「おう!」
 青年のチョイスは知ってか知らずか、まさにベストであった。スライドパズルと格闘する風狸を見下ろしながら、ミユキは楽しそうだ。


 *    *    *


 すれ違う人々も屋台の人々も皆、楽しそうな祭りの最中。
(そういえば……)
 フィーリアは隣を歩くジュストを見上げた。
(……こういう、お出かけの、ときは……、いつも、付いて来てもらって、る、けど……)
 彼が断ることはなくて、断られると思ったこともフィーリアはない。
(本当は……我慢、してるとか……?)
 物言いたげな視線が強かったのか、ジュストがこちらを見た。
「リア?」
「あ、あの……」
 少し口籠ってから、フィーリアは意を決して問い掛ける。
「いつも、お出かけ……に、付いてきてもらって……。私は、ジュストと、一緒にいるのは、好き、だけど……」
 また口籠り、一気に続けた。
「でも、……やっぱり、甘え過ぎ、かしら……?」
 迷惑、かしら……と小さくなっていった彼女の声を、ジュストはちゃんと聴いていた。
「……一緒に、か」
 彼女と出掛けたことを幾つも思い返す。
(いつのまにか慣れて、当たり前みたいになってた気がするな)
 フィーリアがそのような不安を持っていたことを、初めて知った。
「迷惑ではないよ」
 そう思っていたら、こうして彼女と共に遊びに出掛けたりしない。
 所狭しと並ぶ屋台の間を、2人は歩んでいく。

 くんっ、とジュストの袖が引かれた。
「あ、あそこ……飴細工の、お店……。あら……?」
 本当にあった。しかも風狸とミユキの姿が見える。
 何かの飴を背伸びして受け取って、風狸がそれをミユキに手渡していた。デートは上手くいっているようだ。
 風狸とミユキが去るのを待ってから、2人は飴細工の店に近づいた。
「らっしゃい!」
 威勢の良い声に、フィーリアが僅かだけ身動ぐ。ジュストは彼女に聞こえないように、小声で店主へ注文した。
「………を作って欲しいんですが」
「おう、任せときな!」
 フィーリアは首を傾げる。程なくして飴細工が出来上がり、ジュストは風狸に貰った無料チケットと引き換えに受け取った。
「リア」
 こちらを見た彼女へ、ジュストは飴細工を差し出した。
「あ……これ、」
 ひまわりの形をしているそれは、いつかの庭園を思い出す。
「僕はこういう性格だし、退屈じゃ、ないか……?」
 逆に問われたフィーリアは、きょとんとしてからふわりと微笑んだ。
「ありが、とう。そんなこと、ない……。私……私は、ずっと、一緒にいたい、けど……」
 そこまで言って、はた、と彼女は気づく。
 今、大層恥ずかしいことを言いやしなかったか。
 飴細工を持った手と反対の手で顔を隠そうと必死になるフィーリアに、ジュストも笑みが漏れた。
(去年はひまわりの迷路に行って、今年は……)
 この先も、一緒に過ごせたらいいと思う。
「リア、花火を見に行こう」
「う、うん……!」
 フィーリアの頬は、祭りの熱気ではない理由で仄かに朱い。



●いよっ、玉屋!
「ミユキ、こっちだ!」
「えっ? 花火会場は向こうだよ?」
「いいからいいから!」
 風狸がミユキを連れて行った先は花火会場に近い、大きな池の畔だ。桟橋部分と池に浮いている幾つかの船には狐妖怪たちと機材が乗っており、どうやら花火の打ち上げ場らしい。
「おぅい、親方!」
 呼ばれた壮年(であろう)狐の親方が、風狸を見て手を上げた。
「おう、どうした? 別嬪さん連れてよ」
「なあ親方、昨日言ってた『10秒枠が余る』っていうやつ、まだあるか?」
「あるにはあるが……」
 その言葉にパッと表情を明るくし、風狸はミユキの腕を引く。
「あのな、今日の花火、10秒の尺が余ってるんだ。妖怪特性花火なら、今からでも10秒枠の花火が創れるんだ!」
「妖怪特性?」
「花火の図を心を読む『さとり』に伝えて、さとりがそれを狐職人に伝えたら、鬼火と狐火で花火を作ってくれるんだぜ!」
 風狸は親方へ確認した。
「親方、いいよなっ?」
「構わねえが、空で開くのは3秒か4秒だぜ!」
 ミユキの手を引き、風狸は急げとばかりに妖怪さとりのところへ行く。
「さとり、この姉ちゃんの花火頼む!」
「あいよー」


 *    *    *


 花火会場は非常に混み合っていた。まだかまだか、と逸る人々の声があちらこちらから聴こえてくる。
「手ぇ離すなよ、ヒロノ!」
「う、うん……!」
 せっかくだからと花火会場へ来たひろのとルシエロは、人の波に呑み込まれそうになるのを必死に回避しようとしていた。今いる場所は会場のど真ん中、人が多いのは道理と言える。
 背の高さを利用して人の少ない方向を捜すルシエロに、しっかりと繋がれたひろのの右手。
「……」
 離すまいと握られるその手が、ひろのには祭りの熱気よりも熱く感じた。ぎゅっと握り返すと、応えるように力が篭もる。
(大丈夫)
 もう、先程のような不安はない。

 ーーぴゅるるるるる……どぉんっ!

 前方が明るくなり、アラノアとガルヴァンは顔を上げる。夜空に開く大輪の華だ。
「うわあ……!」
 目を輝かせて花火に魅入るアラノアの瞳に、花火の光が映り込む。ガルヴァンは彼女の目に思わず見惚れた。
(まるで星のようだな)
 赤、緑、青。様々な色を交えて花火は次々と上がる。
「すごく綺麗だね、ガルヴァンさん!」
「ああ」
 星のように煌めく笑みを向けてきた彼女に頷いて見せれば、嬉しそうに笑ったアラノアはまた夜空の華へ視線を戻す。
 ガルヴァンは花火ではなく、アラノアをずっと見つめていた。

 ーーどぉん! どどぉん!

 屋台の連なる広場の端で、フィーリアとジュストは夜空の競演を眺めている。
「花火、すごい……」
「ああ。ここまで規模が大きいとは思わなかった」
 道行く人々の話では、普通の花火とは別に妖怪たちの力で創られた花火もあるらしい。
 続いていた花火の音が、ふっと止む。

 ーーぴゅるるるるる……どどどん、どぉんっ!

 やや間を置いて上がった花火に、つい目が点になった。
 続けて9発上がった花火は文字を描いて横並びに並び、そのやや下に5発の花火が打ち上がったのだが。

 ーーさつきの きくまつり かいさい !

 つい2人して噴き出してしまったのは仕方がない。
「あれ、ミユキさん、の……よね……」
 ふふっ、と笑い声を零すフィーリアは珍しい。ジュストもまた珍しく、表情が穏やかだったように思う。
「風狸のデートは成功したみたいだな」


 色鮮やかな花火は、ウィンクルムたちの心にも様々な華を咲かせていく。


End.



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター キユキ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月11日
出発日 09月19日 00:00
予定納品日 09月29日

参加者

会議室

  • …えっと、その…、そろそろ決めないと、ですよね…。
    カッコイイ、ところ…、ミユキさんの喜びそうな、こと…?
    ミユキさんの、好きなもの、って、パズルとお花、です、よね…。
    無料券があって…、お祭りの、屋台で、パズルか、お花…?
    …飴細工のお店とかあったら。お花の細工、してもらって、プレゼントしたら…。
    ミユキさん、喜ぶ、かしら…?

  • [3]アラノア

    2016/09/15-23:46 

    アラノアとガルヴァンさんです。
    よろしくお願いします。

    アドバイスどうしましょうか…。
    ともあれ、ほほえましいデートになりそうですね。

  • [2]ひろの

    2016/09/15-20:26 

    ルシエロ=ザガン:
    ルシエロ=ザガンと、神人のヒロノだ。
    よろしく頼む。

    カッコイイところか。
    まあ、手を繋ぐのは基本だな。
    他にも色々とあるが、いきなり全ては出来んだろう。
    さて、何が良いか。(少し考える

  • …えっと、あの、フィーリア・セオフィラス、です。パートナーは、ジュスト・レヴィン…。
    その…、どうぞ、よろしく、お願いします…。

    デートの、アドバイス…。何が、いい、かしら…。


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