【祭祀】この短歌にのせて(草壁楓 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

●君の心へ

 大輪の園……多くの花々が咲き乱れ、そこにはカップルや家族連れが多く散策をしている。
 屋台から少し離れた場所にあり、花火を見るには絶好の場所だった。
 まだ花火が打ち上がるまでには時間がある18時……その園の一角にはステージが設けられている。
 ステージはこじんまりとしており、派手さはないものの、花々と溶け込むような雰囲気がある。
 その上には和服を着た老若男女が待機をしており、たまに短冊に筆で何かを書いたり、その書き上げたものを読み上げたりしている。

 多くのカップルや家族、そして友人同士でその一角は賑わっていた。
 これから即興でパートナー或いは、家族、友人に今の心にある気持ちを短歌へと変換し届けることが出来るイベント。
 少しの照れを見せる者、何だか力んでいる者、戸惑いを隠せない者。
 その様子は人それぞれだ。

 その人々の中にはもちろん『紅月ノ神社・納涼花火大会!』を楽しもうとしているウィンクルムの姿も見受けられる。
 今心にある胸の内を吐露しようと短歌作りに勤しんでいるようだ。
 碑文の影響により、普段より感じていることが吐露しやすいようでそのウィンクルムの短歌はなかなかに情熱的なようだ。
 短歌を発表する際は抹茶とお菓子も付いてくるようでステージでは舌鼓を打つ者をいる。
 お菓子は3種類から選べるようで、それに悩んでいる者もいる。

 ウィンクルムの告白はパートナーに心から伝えられることを願う。

解説

【できること】
 ・短歌作成を行いパートナーもしくはお互いの気持ちを伝えることができます。

【和歌作成・お菓子について】
 ・短歌とは、『五・七・五・七・七の31音』の詩のことです。他は気にせずに楽しく作成ください。
・告白、願い、困っていること、尋ねたいこと、なんでも構いません。(全年齢対象ですので過激なものは描写できかねますのでご了承くださいませ)
 ・お菓子は、和三盆糖、干菓子、栗羊羹から選べます。
 ・1人で発表することも出来ますが2人で発表することも可能です。掛け合いのように発表するのもありです。
 ・即興ですので思いのままに和歌に相手を想って作成してください。
 ・短歌は1つ~3つまで作成可能です。
 ・パートナーと書いてありますが、他のウィンクルムとの絡みもOKです。仲間同士で感じている事や普段言えないことをいうのも良いと思います。

【プランにお書きいただくもの】
 ・短歌の内容
 ・どのように読み上げるのか。
 ・短歌を聞いての感想(和歌を読みあっての感想)、その後の行動。
 ・誰に宛てた短歌なのか。

【注意】
 ・アドリブが入る場合がございますのでご了承くださいませ。
 ・過激な発言や行動があった場合描写できかねますのでご注意ください。
 ・参加費として300ジェールいただきます。

ゲームマスターより

 草壁 楓です。
ご訪問ありがとうございます。

 短歌ってなんだか日本の風情が感じられますよね。
そんなに基本に忠実ではなく、想いのままに楽しく書いていただけますと草壁はウキウキ執筆いたします。

 それでは皆さんのご参加お待ちしております。
宜しくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)

  短歌「夏の夜 大輪の花 照らされた 君と俺の手 離れぬように」

フィンと一緒に発表
順番は俺が先(こういうのは後からの方が恥ずかしいに違いない)
歌うように感情を込めて(中途半端は恥ずかしいから、ステージで歌うように…と意識)

和歌の内容は俺とフィンの事
寄り添って花火を一緒に見た思い出を、フィンに向けて歌にした

お菓子は栗羊羹を選ぶ
栗も羊羹も好きだ
照れ臭さを隠すように、羊羹を食べて…
フィンの和菓子の綺麗さに和みつつ
でも、やっぱりフィンの和歌を思い出して…
抹茶を飲んでから呟く
フィンが望むなら、俺は何時だってフィンの為だけに歌う
だから…フィンは俺から離れず傍に居ろよ

和菓子の甘さにやられたかも…抹茶おかわりあるかな?


ヴァレリアーノ・アレンスキー(アレクサンドル)
  和三盆糖
短歌の内容お任せ
短歌はサーシャ宛
読み上げ方は淡々と
日本語を書くのは苦手
和服

前も一度礼の言の葉を書いたな
今回は…

サーシャとの関係は夢の一件から修復され良好
サーシャが頑なに過去を話そうとしないのが気掛かり
詩はサーシャの過去について知りたいと願う

母の親友絡みか?
その十字架は俺の母と同じで一つしかない筈…否、何か忘れている?
もう一人…
親友が持っていた話は聞いた事がないが

サーシャから衝撃的な事実を聞き硬直
祭の喧騒が遠い


台詞
俺が幼いからお前を受け止められないとでも?
俺はお前をパートナーと認めた
知りたい、お前が…お前をもっと
アイツがお前を恨む理由を知っているんだろう?
何があった?お前の口から聞きたい


アイオライト・セプテンバー(ヴァンデミエール)
  はいはい、あたし栗羊羹食べたいでーす
あったかいお茶と甘いものの組み合わせって、幸せー☆

でも短歌って難しいよー
じーじ、お手本みせて

77って
「それにつけても ぱんつの白さよ」
とか、こういうの?
むーそれぐらいならあたしにも出来るかなあ

わくわく(待機)

うーん?
やっぱり難しいなー
ちょっと待ってね、あたし一生懸命考えるから
「書簡の束を 固く仕舞う」
こ、これでどう?
じーじのイメージなんだけど
じーじってあたしにも言えない秘密あるでしょ
別に無理に言ってくれなくてもいいよ
でも、仕舞うのが苦しくなったら教えてね

よーし自分でも作ってみよっと
「朝起きて ぱんつが一枚 なかったよ 夜中にどこへ 出掛けたのかなあ?」
一人で出来たーー♪


●温かくなる心

 大輪の園。
 アイオライト・セプテンバーとヴァンデミエールは花火が打ち上がるまで時間があるとそれまで花を観賞している。
 夕闇の中、夕顔が咲き誇り、その色合いはアイオライトに優しい微笑みを与える。
「じーじ、お花きれいだね」
「そうだね……嬢はどの花が一番好きなんだい?」
 なんて穏やかな会話を繰り広げながら2人はゆっくりと散策を楽しんでいた。
 ふとヴァンデミエールが少し先の一角にステージを見つける。
「おや?」
 その視線を辿るようにアイオライトも一角に目をやる。
「じーじ……なんだろう」
「嬢、行ってみるかい?」
「うん!」
 アイオライトとヴァンデミエールは手を繋ぎステージへと向かって歩き出す。
 近付けばその催しの記載を見つけた。
「短歌とは、実に典雅な催しだね」
 ここでは自身の大事な人等のために短歌を作成し発表する催しが行なわれていた。
 ヴァンデミエールは顎に手を当てるとアイオライトをみる。
 どうやらアイオライトも少し興味を持っているようだ。
「心得はないけれども、いい機会だ、ひとつ力試しといこう」
 ニコリと優しい微笑みをアイオライトに向けるヴァンデミエール。
 その微笑みにアイオライトも同じく笑顔を向ける。
 そして2人はそのままステージ裏に行き参加申し込みを済ませると短歌作成に必要な道具を貸し出された。
「あ、お菓子が出るんですが何にしますか?」
 スタッフの問い掛けにアイオライトは差し出された紙に書かれたお菓子を吟味する。
「はいはい、あたし栗羊羹食べたいでーす」
 紙に書かれた栗羊羹の箇所を指差しながら飛び切りの笑顔と元気な動きで彼女は答えた。
「あったかいお茶と甘いものの組み合わせって、幸せー☆」
 短歌を発表する際は温かい抹茶と自身が選んだ菓子が提供される。
 ヴァンデミエールも同じものをとスタッフに告げる。
 そしてほんの少し待っていると2人がステージに上がる順番がきた。

 ステージにはアイオライトとヴァンデミエールの他に家族なのか父親と息子、夫婦の6人が座っている。
「でも短歌って難しいよー」
 ステージ上では2人は短歌を作成しているようだが、アイオライトにとっては始めての作成となるようでそう簡単にはできないようだ。
「悩んでいるね、嬢」
 少しむくれているような表情のアイオライトを可愛く思いながら優しい視線を送る。
「じーじ、お手本みせて」
 そんな優しいヴァンデミエールに短冊を渡すと、どのようにするのかと好奇心みなぎる瞳を向ける。
「じゃあ僕と簡単な連歌をやってみようか」
 そう言われて小首を傾げてまん丸な瞳を更に丸くする。
「僕が先に575を考えるから、嬢はそれに続けて77を考えるんだ」
 その説明に「なるほど!」と納得したようにヴァンデミエールの提案に賛同した。
 するとアイオライトは天に視線を移しながら暫し考えると、
「77って『それにつけても ぱんつの白さよ』とか、こういうの?」
 とヴァンデミエールに問い掛ける。
「そうそう、そんなふうに」
 良く出来たね、というようにアイオライトの頭を数回撫でる。
「むーそれぐらいならあたしにも出来るかなあ」
 自信を持ったのかアイオライトは張り切るように両手を上げると元気な笑顔でそう言った。
「本当はもっと細かいルールがあるんだけど、素人の僕等が難しく考えても仕方ないからね」
 そんな難しいことは置いといて、とヴァンデミエールは朗らかに笑う。
「自由にやってみるといいよ」
 そうアイオライトの利発的で自由な発想が良いのだとヴァンデミエールは考えた。
 この子ならばとても良い短歌を共同で作れると。
 そっと短冊を取ると、筆でさらさらとヴァンデミエールは5・7・5の冒頭部分を書いていく。

  『草の花 一番下の 抽斗へ』

 そう書くと続きを促すようにアイオライトに短冊を渡す。
「さあ、ここから好きに続けて御覧」
 そっと渡された短冊を凝視するアイオライト。
「うーん?」
 凝視しながら、唸るアイオライト。
「やっぱり難しいなー」
 簡単には続きは浮ばない。
 しかしアイオライトは賢いことをヴァンデミエールは知っている。
「ちょっと待ってね、あたし一生懸命考えるから」
 優しい微笑みを浮かべたままヴァンデミエールは見守ることにする。
 この子ならば良い続きを書いてくれると確信する思いを抱きながら。

  『書簡の束を 固く仕舞う』

「こ、これでどう?」
 ドキドキと緊張した面持ちでヴァンデミエールに差し出してみる。
「じーじのイメージなんだけど」
 少しの恥じらいを見せているアイオライトは更に可愛らしく、そして愛おしく感じる。
「じーじってあたしにも言えない秘密あるでしょ」
 軽くウィンクをして照れくさそうにアイオライトは微笑むとヴァンデミエールは短冊を見、少し目を見開いた。
「やあ、見抜かれてしまったようだ」
 さすがだと思うヴァンデミエール。
 彼女に隠し事はなかなかに難しいと少しはにかんだ。
「別に無理に言ってくれなくてもいいよ」
 目の前ある栗羊羹をパクリと一口。
 彼女はその甘さにご満悦のようだ。
「嬢は優しいね」
 これで完成したという思いと、彼女の鋭さに関心を隠せない。
「秘密……というほどじゃないけど、僕は嬢より随分年を取ってしまったから、わざわざ口にはしたくないことも沢山ある」
 彼女に比べれば自分は随分長い年月を生きてきた。
 そうなれば人には言えないことの一つや二つは出てくる。
 それはこれから彼女が経験することだろう……そんな彼女の成長も楽しみの一つに今後なるかもしれない。
「でも、仕舞うのが苦しくなったら教えてね」
 抹茶を啜りながら、少し苦いのか眉間に皺を寄せながらそう言うアイオライト。
「でも、嬢をかわいいという気持ちは本物だから、安心していいよ」
 コロコロと表情を変えてはヴァンデミエールを楽しませてくれる。
 可愛いと思い、時にヴァンデミエールの心を温かくしてくれる存在なのである。

 短歌が出来たことにより、その場で元気よくアイオライトが発表する。
「『草の花 一番下の 抽斗へ 書簡の束を 固く仕舞う』です!」
 その短歌に賞賛の拍手が巻き起こる。
 それで気分を良くしたアイオライトは、
「よーし自分でも作ってみよっと」
 と次々と短歌を作成していく。

  『朝起きて ぱんつが一枚 なかったよ 夜中にどこへ 出掛けたのかなあ?』

「一人で出来たーー♪」
 彼女はパンツで遊ぶのが大好きなのだ。
 今の彼女の可愛さと相まっての俳句。実に彼女らしいのだ。
 そんな短歌にヴァンデミエールは微笑み続けていた。
 これからも嬢は楽しませてくれるだろう、と。


●全てが甘く

 大輪の園を穏やかに歩いている、蒼崎 海十とフィン・ブラーシュ。
 花々が咲き誇りその香りが2人を包むと自然と笑顔が生まれていた。
 すると少し先の一角に人だかりを見つけると2人はお互いに興味を持ちそこへと足を運んだ。
 近付けばステージがあり、いろいろな人々が短歌を詠んでいる。
 どうやらそこでは短歌を作成し発表するイベントが行なわれているようだ。
「フィン参加してみない?」
「海十がしたいなら俺も」
 2人の気持ちは一緒だった。
 ステージ裏へと入っていくと参加の申し込みを済ませる。
 そこにスタッフがやってきて2人に今回のイベント趣旨を説明しだした。
 大事な人を想い短歌を作成し、そして発表しお互いを想う気持ちを伝え合う。
 そんなイベントです!とスタッフは元気に説明をしてくれた。
「大事な人についての短歌か……」
 他には菓子も出ることを聞くと、菓子のリストを見せられる。
 その中から海十は栗羊羹、そしてフィンは和三盆糖を選んだ。
 飲み物は皆同じで抹茶である。
 短冊や筆ペンを渡されるとそのまま2人はステージに案内されるのを待った。
 その間お互いに大事な人を思い浮かべる。
 それはもちろん……ステージの上で分かることである。

 海十とフィンはステージの上へと通されると、誘導にしたがって指定された席へと着席する。
 短冊をそれぞれもち、筆ペンを持ちながら静かに作成が始まる。
 海十は胸に残っているフィンとの思い出に想いを馳せていた。
 その想いのまま短冊へと筆ペンを滑らせる。
 隣ではフィンも海十のことを想い浮かべながら、短冊に想いを綴る。
 先にできたのは海十のようだ。
 出来たことを告げるとその場に立ち海十は口を開く。

  『夏の夜 大輪の花 照らされた 君と俺の手 離れぬように』

 それは歌を歌うように伸びやかでそしてとても感情が込められた短歌。
 ステージ上だけではなく会場全体にその声は響き渡っていた。
 海十の声に観客は少し驚きを見せつつも魅了させている。
 そしてその隣にいるフィンも同じ、そしてその短歌の意味を理解しているのかとても優しい笑顔を見せる。
 海十の短歌はフィンと共に寄り添って花火を一緒に見た思い出のもの。
 海十の一番大事な人――もちろんフィン。
 それに応えるようにフィンが出来上がったことを告げる。
 海十と同じくその場で立つと声を上げる。

  『夏空に 響く君の音 胸を射て 俺だけのため 歌って欲しい』

 真っ直ぐな想いが会場に木霊する。
 詠み終わるとフィンは海十に優しい微笑みを向ける。
 2人の想いが重なる瞬間である。
 観客もそして同じくステージにいる人々も2人の姿に羨望の眼差しを送る。
 2人を包む暖かなオーラが見えるようだ。
 少しの気恥ずかしさを感じたのか顔を赤らめた海十は目の前にある栗羊羹を一口齧る。
 栗の食感と甘さを楽しみつつ抹茶を一口。
 フィンは着席すると自分もと和三盆糖を一粒口に放り込む。
 上品な甘さが口に広がると海十の短歌を思い出しまた胸が熱くなるのを感じていた。
 海十は和三盆糖の綺麗な色と紅葉の形に和みつつフィンの短歌を思い出す。
 また一口抹茶を飲むとフィンにしか聞こえないように呟く。
「フィンが望むなら、俺は何時だってフィンの為だけに歌う」
 その言葉にフィンは海十と視線を合わせるように顔を向ける。
 海十の気持ちが嬉しかったのかフィンは破顔するように笑顔を向ける。
「だから……フィンは俺から離れず傍に居ろよ」
 また一口抹茶を飲みながら顔を耳まで赤くしながら海十は呟く。
「うん、絶対に離れないし、離さない」
 フィンは思ったままのことを口にした。
 何があろうと彼から離れる気はない……天命が尽きようとも。
「今日は凄く甘くて幸せ」
 和三盆糖の甘さ、そして今日の海十はとても甘く全てが甘く蕩けてしまそうだ。
 海十の栗羊羹はまだあるようだ。
 そして自分の和三盆糖もまだある。
「海十、お菓子一口交換しない?」
 和三盆糖を差し出しながら海十に尋ねると、彼は嬉しそうに朗らかに笑うと栗羊羹を差し出してくる。
「はい、あーん♪」
 一つ和三盆糖を摘み海十の口へと運ぶ。
 素直にそれに応じる海十。
 ここはステージ多くの人々が見ている。
 それに気付いた海十は抹茶を飲もうとするが、どうやら中身は空のようだ。
「和菓子の甘さにやられたかも……抹茶おかわりあるかな?」
 海十もフィンと同じく心も口の中も甘いようだ。
 スタッフがそれに気付いて抹茶を注いでくれる。
 口に含めば口は少しの苦さを感じるが、心の甘さが消えることはけしてなかった。
 ステージを降りようと、2人の心はいつも一つ。
 甘く、そして温かい心を持ちながら2人はこれからも共に生きていくことだろう。


●遠のく喧騒

 大輪の園を訪れているのはヴァレリアーノ・アレンスキーと彼の精霊であるアレクサンドル。
 花火を見ようと訪れたのだが、少し早くきてしまい2人は園を散歩していた。
 多種の花々が咲き乱れ、華々しい香りが2人の回りを包み込む。
 祭が行なわれていることからヴァレリアーノのは和装の装い。
 黒を基調とした浴衣で銀色の天の川を思わせる刺繍と模様が施され、帯にも星を思わせる細かな細工がチラリと見える。
 また、アレクサンドルも和装。
 彼は白を基調とした浴衣で所々黒い斑点の刺繍がしてある。帯には一筋の金色の刺繍いとが時折見える。
 また、臙脂色のリボンで髪を結ってある。
 2人共祭りに相応しい服装である。
 ゆったりと歩きながら2人は園の中を花を鑑賞しつつ歩く。
 歩み進んで行くとステージと人だかりが見えてくる。
 それが気になった2人はそのままそこへと向かうことにした。
 近付いて行けばステージでは短歌が詠まれていた。
 しばらく鑑賞していると2人ともここで行なわれている趣旨を理解する。
 参加は自由なことがわかると、ヴァレリアーノはアレクサンドルに声を掛ける。
「サーシャ……参加しないか?」
「アーノしたいのかね?別にいいが……」
 アレクサンドルの答えを聞くとヴァレリアーノは申し込むためにステージ裏へと一緒に入っていく。
 申し込みを済ませるとスタッフが趣旨を説明してくれる。
 また、抹茶と菓子が提供されることを聞くと、リストの中から菓子を選ぶ。
 ヴァレリアーノは和三盆糖、アレクサンドルは栗羊羹を選択した。
 他に短冊と筆ペンを渡される。
 あとはステージに上がるのを待つのみ。
 ヴァレリアーノはアレクサンドルをそっと見つめていた。

 ステージに上がると指定された席に着席する。
 着席すると抹茶と菓子が運ばれてきたのを見届けると、ほぼ2人同時に筆ペンを持ちながら短冊と向かい合い始めた。
(前も一度礼の言の葉を書いたな……今回は……)
 以前ヴァレリアーノはアレクサンドルに言の葉を認めたことを思い出す。
 数分するとヴァレリアーノは軽快とはいい難い筆運びで短冊に短歌を書き始める。
 アレクサンドルはまだのようでじっと短冊を見つめている。
 ヴァレリアーノは出来たのか立ち上がると口を開いた。

  『君の過去 まだ俺知らぬ ことばかり 過去受け止める 覚悟あるなり』

 その短歌を聞いたアレクサンドルは少し目を見開いたものの静黙する。
 ヴァレリアーノの想い、アレクサンドルはそっと瞳を閉じると考える。
 ヴァレリアーノが大事だと、壊したくはない――でも壊したい衝動にも時に駆られる。
 着席したヴァレリアーノはアレクサンドルを真っ直ぐに揺ぎない瞳で凝視した。
 その視線をアレクサンドルは瞳を開けると彼と瞳を合わせる。
 そのまま手を引くとステージから2人は消えていく。
 裏の人気のない所まで行くと、アレクサンドルはヴァレリアーノを優しくふわりと抱き締め彼にしか聞こえないように呟きだす。
「アーノ……俺は」
 アレクサンドルが呟きだそうとするとヴァレリアーノが瞳を閉じながら遮るように呟きだした。
「俺が幼いからお前を受け止められないとでも?」
 アレクサンドルから見ればヴァレリアーノはまだまだ幼い。
 しかしアレクサンドルは知っている、ヴァレリアーノは年齢に比べれば思考や行動は大人びている。
「俺はお前をパートナーと認めた」
 そうヴァレリアーノはどんなアレクサンドルでもパートナーであると。
 彼と共に歩んでいこうと決めたのだ。
「知りたい、お前が……お前をもっと」
 そっとアレクサンドルの背中に手を回すと、瞳を閉じる。
「アイツがお前を恨む理由を知っているんだろう?」
 アイツとはヴァレリアーノのもう1人の精霊のイサーク。
 イサークがアレクサンドルを見る目には憎悪を感じるほどのもの。
 その原因を知っているのならばアレクサンドルから聞きたいと強く思っていた。
「何があった?お前の口から聞きたい」
 願うように更に小さく呟く。
「恨まれる原因は確証はないが恐らく……」
 アレクサンドルは夕暮れの空を見ながら答え始める。
「イサークの様子から我は取り返しのつかぬ事をしているのだろう」
 あのイサークの瞳……あれは言い表せないほどの凶器な瞳。
「我はそう思わぬが」
 少し抱き締める力が強くなる。
「何度も言うが汝を蔑ろにも頼らぬ訳でもない」
 けして認めていないわけではない……寧ろヴァレリアーノといることでアレクサンドルは前に進むことができる。
「アーノ、我はとり憑かれているのだよ……」
 それは殺意の狂喜――
 その狂喜はアレクサンドルを離すことなくいつも纏わりつく。
「汝の覚悟が本物なら告げよう」
 先ほどの短歌を聞いて、ヴァレリアーノの決意が本物であると彼は確信していた。
「今の関係に埋まらぬ亀裂が入ろうと」
 そう言いながらそのままアレクサンドルはヴァレリアーノを抱き締める力を更に強めつつ話し出す。
 昔住んでた森の民を皆殺しにしたこと。
(母の親友絡みか?)
 森と聞いて一つの考えが浮ぶ。
 そして自分が持つ十字架はアーノ母の親友が落とした物を拾ったこと。
(その十字架は俺の母と同じで一つしかない筈……否、何か忘れている?)
 どういう事だと目を大きく見開く。
(もう一人……)
 何か……何かを忘れていると思考する。
(親友が持っていた話は聞いた事がないが)
 そして……その親友を殺したのは自分であると告げた。
 それがイサークのあの凶器的な瞳の理由ではないかと……。
 ヴァレリアーノは大きく瞳を見開くとアレクサンドルの背中に回していた手から力が抜けていくのを感じる。
 
 『汝知る それでも我を そのままで 共に信頼し 歩めるのか』

 それがアレクサンドルの応えだ。
 その事実を知ったとしてもこれからも変わらぬままで共に居られるのかと。
 ヴァレリアーノは硬直したまま動けないでいた。
 祭の喧騒が遠のいていく。
 2人は瞳を閉じたまま暫く抱き合っていた。
 この賑やかな祭とは裏腹にヴァレリアーノの耳には告げられた真実のみが木霊していた。



依頼結果:大成功
MVP
名前:ヴァレリアーノ・アレンスキー
呼び名:アーノ
  名前:アレクサンドル
呼び名:サーシャ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 草壁楓
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月02日
出発日 09月10日 00:00
予定納品日 09月20日

参加者

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