プロローグ
●星の子の丘
「えーっと……『きらきらと輝く星の子を、空へ放ちにいきませんか?』」
ミラクル・トラベル・カンパニーの青年ツアーコンダクターは、メモを読み読みそう言葉を紡いだ。顔を上げれば、丸い瞳がくるりと光る。
「タブロス市からそう遠くない場所に、星の子の丘って呼ばれる小高い丘があってさ。近くの村には、あの丘は星の子を生む丘だって伝説があるんだ。星の子をそっと空へ帰してやれば、小さな願いが一つ、叶うんだって」
本当のところは、星の子は本物の星ではなく、珍しい植物らしい。星みたいに輝く、ふわふわの綿毛。ふうと吹いて風に乗せれば、星の子は、きらめきを零しながら高く高く空へと舞い上がる。そしてまたいつか、どこか遠くで花を咲かせるのだ。
「だから、その丘で星の子を探して、願いを込めて長い旅に送り出しませんか? っていうお誘い。この時期は、丘中の星の子が一斉に旅立ちの準備を始めるから、それなりに丘を訪れる人がいるみたいで。丘には、この時期だけ開く小さなお店もあるんだとさ」
『綺羅星』という名のその店では、星の子に似た色とりどりの金平糖の小袋がテイクアウトできるらしい。星の子らが瞬く丘で、空舞う星の子や本物の星たちを眺めながら味わう甘い金平糖は、きっと格別の味だろう。
「と、いうわけで。星の子に願いを乗せにいきませんか? お値段はウィンクルムさまお一組につき250ジェール。興味のある方は、お連れさまと一緒にどうぞ素敵な夜を」
そう言って、青年は悪戯っぽくウィンクを一つ零してみせた。
解説
●今回のツアーについて
パートナーと星の子送りを楽しんでいただければと思います。
ツアーのお値段はウィンクルムさまお一組につき250ジェール。
(『綺羅星』の金平糖は別料金となりますのでご了承くださいませ)
ツアーバスで夕方首都タブロスを出発し、夜の丘を目指します。
2時間ほどの自由時間の後、夜行バスでタブロスへと戻ります。
●星の子について
プロローグに説明のある通りです。
星の子にかける願いをプランにご記入いただきますと、可能な限りリザルトにて描写させていただきます。
空へ放つ際は、たんぽぽの綿毛を飛ばすように、茎を手折る等してふうと吹いてやってください。
●『綺羅星』について
金平糖の小袋は1袋20ジェールです。
様々な味と色の金平糖がありますが、一つの袋に入っているのは1種類のみ。
2袋買って、パートナーと分け合うのも楽しいかもしれません。
味や色をプランにてご指定いただきますと、リザルトに反映させていただきます。
ご指定のない場合は、こちらで金平糖を選ばせていただく場合がございます。
店内での飲食はできず、テイクアウトのみとなっております。
●プランについて
公序良俗に反するプランは描写いたしかねます。
また、白紙プランは描写が非常に薄くなりますのでご注意ください。
ゲームマスターより
お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!
ずっと書いてみたかった星をモチーフにしたエピソード。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!
リザルトノベル
◆アクション・プラン
セイヤ・ツァーリス(エリクシア)
エリクと星の子を飛ばしにいくの。 えへへ。夜中にお外に出るのは久しぶりっ。 お店でコンペイトウをかっていきたいな。 ぼくね、黄色いコンペイトウがいい、です。 だってなんだかお月さまのカケラみたいだもの。 ふわってしてて優しい感じがするお月様が、ぼく、だいすきなんだ……。 星の子を飛ばす時にお願いするのはね、みんなの笑顔なの。ぼくの父さまも母さまも、ともだちも、エリクもちょっとだけいいことがあって笑顔になれますようにって……お願いしてみるっ。 だってぼくを笑顔にしてくれるのはみんなの笑った顔なんだもの。 あとはきらきら飛んでいく星の子をエリクとゆっくり眺められたらいいなあ、なんて……。 |
叶(桐華)
色んな星の子を眺めて、どの子を送ろうか選んで あんまり大きくない子を選んで手に取る この子は飛んでいく子だけど…こう、この星の子みたいに、 きらきらした感じの髪飾りとか、あったら可愛いだろうなぁー うちに帰ったら、作ってみよう その為にも、良く見ておかなくっちゃね 願い事? ないしょ ほら、言わない方が叶うかもしんないじゃない? きらきらと飛んでくのを見届けてから、桐華を引っ張って金平糖買いに行く お店の人とか、丘の伝説の話に詳しかったりしないかな 何か素敵な物語の予感がするから、時間があったら聞いてみたい 金平糖は、桐華と二人で色違いを一袋ずつ 交換しようよ交換。一粒だけでいいからさ どんな味がするんだろうねぇ |
羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
静かでいい夜だね、これなら星も星の子も良く見えそうだよ 丘までラセルタさんの隣をのんびり歩く ここに動物はいないと思うけれど、どうかした? 綺羅星に着いたら金平糖をお任せで2袋購入 食べるのは、星の子を送ってからにしよう 願い事、どうしようかな。自分の事になるとぱっと思い浮かばなくて …此処に連れて来てくれたラセルタさんへのお礼、とか? (買った金平糖がラセルタさん好みの物でありますように) 飛び立つ星の子たちを見ながら金平糖を食べようか 2袋とも開けてラセルタさんの手の平にのせる ふふ、なんだか星を食べているみたいだね 願いを言ったら叱られそうだから、結果報告だけしようかな 今日は有り難う、誘ってくれて嬉しかったよ |
セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
ラキアを誘って星の子を見に行くぜ。 ラキアが喜ぶ姿は可愛いなぁ。とラキアを眺めよう。 「星の子はこんな植物で・・」とラキアが解説を始めたらうんうんと話を聞くぜ。花の話してると凄く嬉しそうなんだよな。 綿毛ふわふわを手折ってふぅって吹いて空へ返す。 ラキアがいつも笑顔で居れますように、と願いを託すぜ。ラキアが笑顔なら平和な証拠、だと思うからな。 金平糖もラキアとどれがイイか相談しながら買う。 青りんご味のアップルグリーン色が良いな。ラキアの分も買ってあげるよ。せっかくだから半分こしようぜ。 そっちの黄色いのは何味?ってぱくんっと食べちゃう。 俺の金平糖もラキアの口にぽいっと入れてあげる。アップル味が美味いだろ? |
アレクサンドル・リシャール(クレメンス・ヴァイス)
■心情 俺が行きたい所じゃなく クレミーが喜びそうな所に誘いたかった 本当に幻想的で風情があっていいな ■行動 俺さ、クレミーが孤独だったから 契約相手に選んだんだ だって関わる人が多い程 迷惑かける人も多くなるだろ? 恋人がいたら、絶対複雑に思うだろうし でも今はクレミーで良かったって思ってる ごめんな、契約は強制的ってのは知ってる その分何でも手伝うし 独りがいい時は言ってくれれば離れる そんな理由で顔隠してたのか 怖いどころかクレミーはすごく優しいし、照れ屋さんなのにな そうだ、もっと笑えばいいんじゃないかな 俺はクレミーの笑顔、儚げに綺麗で好きだぞ? あ、それを願い事にしよう 『クレミーの表情が柔らかくなりますように』 |
●きみのかお
夜闇の中に、星の子がふんわりと光る。揺れて、さざめき起こる、光の波。
星の子の丘は不思議に美しく、その光に惹かれるようにして、クレメンス・ヴァイスはそっと地に膝をつけた。掌に包み込む、あたたかな煌めき。
「本当に、幻想的で風情があっていいな」
アレクサンドル・リシャールの言葉に、クレメンスは「そうやね」と耳に心地よい低い声で応じる。自分が行きたいところに行くのではなく、パートナーを喜ばせたい。そういう想いからこのツアーに参加したアレクサンドルは、クレメンスの反応にそっと安堵した。
「隣、いいか? 話しておきたいことがあるんだ」
「話って。何やの、改まって」
「ん、ちょっとな」
曖昧に濁して傍らに腰を下ろす。星の子をその優しい手に包んだままのクレメンスに向かって、アレクサンドルはぽつぽつと語り出した。
「俺さ、クレミーが孤独だったから契約相手に選んだんだ。だって、関わる人が多いほど、迷惑かける人も多くなるだろ?」
形だけの問い掛けの言葉。アレクサンドルはその答えを求めないし、クレメンスも口を開かない。
「恋人がいたら、絶対複雑に思うだろうしさ。……でも今は、クレミーで良かったって思ってる」
「……そう」
短い返事から、クレメンスの思いは読み取れない。それでも、アレクサンドルは話すのを止めなかった。
「だからその……ごめん、な。契約は強制的ってのは、知ってる。その分何でも手伝うし、独りがいい時は言ってくれれば離れる」
そこまで言って、アレクサンドルはふうと息を漏らす。渡すべき言葉は渡し切った。クレメンスは、相変わらず俯いて星の子をじぃと見つめている。と、
「……あたしは、嫌や思うたことはせぇへんよ」
その口から、呟きが零れた。
「契約も、無理矢理されたと思ったことはいっぺんもないよ。あんさんは、あたしのこと怖がらへんかった。あたしの目を見て、明るく笑って『よろしくな』って手を差し出してくれた。せやから、あたしはあんさんと契約したんよ」
アレクサンドルへと真っ直ぐに向けられる、蒼の瞳。
「あんさんは怖がらへんから、気ぃ遣うて顔隠さんでええしね」
クレメンスの言葉に、アレクサンドルはそっと笑みを零す。ありがとうの言葉が、自然その口から溢れ出た。
「よかった……。でもクレミーって、そんな理由で顔隠してたのか。怖いどころか、クレミーはすごく優しいし、照れ屋さんなのにな」
そうだ! とアレクサンドルは顔を輝かせる。
「もっと笑えばいいんじゃないかな。俺はクレミーの笑顔、儚げに綺麗で好きだぞ?」
「すっ、好きって……!」
耳の先まで真っ赤になって照れるクレメンスを見て、アレクサンドルはころころと笑った。
「願い事、決めた! 『クレミーの表情が柔らかくなりますように』、だ」
「何やの、それ……」
呆れたように返したクレメンスのその顔には、ごくほんのりと笑みが浮かんでいて。出す機会のないまま氷のように固まっていた表情が、緩やかに溶けていく。
一つ笑んで、アレクサンドルは優しく星の子を手折った。ふうと吹けば、小さな無数の煌めきが空へ舞い上がる。高く遠く、星の子たちは旅に出る。ふと隣を見れば、クレメンスの星の子も共に長い旅路へと送り出されていた。
「願い事は?」
「さあ、何やろね」
はぐらかして、クレメンスは星の子舞う夜空へと視線をやる。
「長い長い旅に出てさ、あいつらはどこで花を咲かせるんだろう」
それはあの子たち次第やねと、遠く空を見上げてクレメンスは応えた。
●ぼくのねがい
幾らともなく揺れる星の子を花を渡る蝶のように見て回り、叶はやっと、そのうちから自分の一つを選び出した。やや小ぶりな星の子は、手折られてなお叶の手の中で本物の星みたいに光る。
「この子は飛んでいく子だけど……こう、この星の子みたいに、きらきらした感じの髪飾りとか、あったら可愛いだろうなぁー。うちに帰ったら、作ってみよう」
そのためにもよく見ておかなくっちゃねと、叶はくすりと笑んだ。
「こんなところにまで来て、一体何を願うつもりだ?」
『こんなところにまで』ついてきてくれた桐華が、仏頂面で叶へと尋ねる。叶は人差し指を、そっと自分の唇へと押し当てた。
「ないしょ。ほら、言わない方が叶うかもしんないじゃない?」
答えになっていない答えに、桐華はますます表情を険しくし、叶はころりと笑った。そして、ふうと息を吹きかけ星の子を空の旅へと送り出す。夜の闇に、柔らかな明かりが幾らも灯った。
(神人の力なんて無くなればいいのに。なんて、言ったら。桐華は怒ってくれるのかな)
夜空に星の子が舞う。本物の星と混じり合う。
(くれないだろうなー。僕と適合したの不本意だろうしー。僕がそもそも『そう』じゃなかったら、桐華もちゃんと可愛い女の子と適合してたかもね)
素敵な恋物語の一つや二つあったかも、なんて想像してみたり。
(……ふふ、笑える)
口の端を上げてみせる。星の子は飛んでいく。遠く、遠く。
「――何で、そんな顔してる?」
気づけば、桐華がじっとこちらを見やっていた。
「……そんな顔って、どんな顔?」
「どんなって……そういう顔だ」
「……こっち見ないでよ。僕がどんな顔してたって君は興味も関係もないでしょ」
「一体何を願ったんだ?」
「止めてよ、質問ばっかり。願い事はないしょだって、言ったじゃない」
この話題はお終いとばかりに、叶は足元の星の子を手折り桐華へとずいと差し出した。
「ほら、髪飾り用にしっかり観察したいんだから、人に構ってないで、桐華も早く飛ばしちゃってよ!」
納得のいかない面持ちの桐華だったが、それでも星の子はちゃんと受け取る。煌めきが、再び宙を舞った。今度は叶が、桐華の顔を眺める番だ。
(一体何を願ったんだろうね)
そして、僕たちの願いは一体どこへ行くんだろう。
「……桐華。金平糖、買いにいこうよ」
星の子がきらきらと飛んでいくのを見届ければ、桐華を引っ張って『綺羅星』へ。
「お店の人とか、丘の伝説の話に詳しかったりしないかな? 何か素敵な物語の予感がするから、ちょっと話聞いてみたいな」
ひとり流暢に喋り続ける叶に、桐華はもう何も言わなかった。
「お店の人の話、面白かったねぇ」
ソーダ味をした薄青の金平糖を口の中でカラコロとさせて、叶は言った。
「願いの力が星の子を飛ばす、とか。だとしたら、僕の願いは、星の子にどこまで旅をさせることができるんだろう」
「さあな。俺は叶の願いを知らないから、わからん」
「じゃあ、桐華の星の子は?」
「それもわからない。自分の願いの力なんて、俺には量れない」
「ふぅん。まあ、そうかもね。あ、桐華。交換しようよ交換。一粒だけでいいからさ」
騒げば、無言で掌に零されるのは、星の子の名を冠した黄みを帯びた白銀の金平糖。
「さて、この子はどんな味がするのかな」
口に含む。柑橘系の涼やかな甘さが口いっぱいに広がった。
「ん……甘いね」
「金平糖なんだから甘いだろう。それに……」
「それに?」
「人の願いを乗せて飛ぶ星の子だから、甘い味がするのかも道理かもしれない」
「桐華ったら……可愛いこと言うね」
「……」
「あ、怒った?」
ころころと笑み零しながら、願いはきっと甘いばかりじゃないよと思う。でも今の叶には、口の中の甘ったるさが心地よかった。
●つきのひと
「えへへ。夜中にお外に出るの、久しぶりっ」
はしゃぎながら前を行くセイヤ・ツァーリスの背に、エリクシアは柔らかく声をかける。
「セイヤ様。暗いですから、どうか足元にはお気をつけて」
「大丈夫だよ、エリク。だってほら、星の子がきらきらしてるもの」
振り返りそう応えたセイヤの瞳も星の子のようにきらきらと輝いていたので、エリクシアはふんわりと笑んだ。その笑顔を見て、セイヤも思わずふにゃりと笑顔になってしまう。胸がいつもの病気でドキドキするけれど、そのことを差し置いてしまえるくらいには嬉しかった。セイヤが夜に外出するとなると、酷く心配するのが常のエリクシアである。でも今日は、そのことを気にする必要はなさそうだった。
(だって今日はエリクと一緒だもんね。嬉しいな)
自然、足取りも軽くなる。まず向かったのは、『綺羅星』だ。
「ぼくね、黄色い金平糖がいい、です。くださいなっ」
一生懸命店員にそう伝えれば、淡い黄色の金平糖の小袋が手渡された。
「エリクも好きな色のを選んでね。ぼく、エリクと一緒に食べたいんだ」
わかりましたと優しく応えて、エリクシアが金平糖を吟味し始める。小さなセイヤには、その手元は窺えなかった。
(エリクはどの色を選ぶんだろう? 好きな色の白、かな? それとも青とか緑? うーん……気になっちゃう)
金平糖を選び終えたら、星の子たちの元へ。
煌めき灯る丘に腰を下ろして、セイヤは金平糖の袋を開けた。柔らかな輝きの中で、淡く光る金平糖。ふわふわと心が温かくなる。
「ふふ、お月さまのカケラみたい」
「セイヤ様は、お月さまがお好きなのですね」
「うんっ! ふわってしてて優しい感じがするお月さまが、ぼく、だいすきなんだ」
エリクにもお月さまのカケラあげるねと、彼の掌に金平糖を零して。ありがとうございますと微笑み応じて、エリクシアもまた、自分の袋からセイヤの小さな手へと煌めきを落とす。アメジストのような夜色紫が、セイヤの手の中でぴかりとした。
「わ、エリクは紫色にしたんだね」
「はい。セイヤ様の瞳の色によく似ていたので、つい」
笑みと共にそう零されると、掌の金平糖はとっておきの宝物のように思えた。
(ずっと取っておきたいけど、これはお砂糖のお菓子だもんね)
だからせめてその味を忘れずにいようと、セイヤは金平糖を口へ運ぶ。甘酸っぱい葡萄の風味が、口の中に広がった。
「名残惜しいですが……そろそろ、星の子を送りましょうか」
しばらくの2人きりの時間の後、時計を見やってエリクシアが言った。
「セイヤ様。願い事はもう決めてらっしゃいますか?」
「えっとね、ぼくがお願いするのはみんなの笑顔なの。ぼくの父さまも母さまも、ともだちも、エリクもちょっとだけいいことがあって笑顔になれますようにって。だってぼくを笑顔にしてくれるのは、みんなの笑った顔なんだもの」
セイヤ様はやはりお優しいと、エリクシアが嬉しげに微笑んだ。そうして2人は、一緒に星の子を飛ばす。
(エリクはどんなことを願って飛ばすのかな)
エリクシアの横顔をそっと見やって、セイヤは思った。
(エリクの願いが叶いますように。それから、ぼくの2つの願いも)
エリクシアに話さなかった、もう1つの願い。それは、
(だいすきなお月さまみたいなエリクが、『偉いですね』って頭をなでてくれますように、って)
きらきらと星の子が飛んでいく。その旅路に幸あれと祈りながら、2人は寄り添って遠ざかる光の欠片たちをずっと眺めていた。
もうすぐに、セイヤの願いはほんの少し叶う。帰り際にエリクシアがそっとセイヤの頭に触れるのは、それから間もなくのお話。
●ねがうこと
「千代、星を見にいくぞ。別に不服ではないだろう?」
ラセルタ=ブラドッツ曰く、老体に鞭を打ち過ぎないよう管理するのもパートナーの務めだと。そんなお誘いがきっかけで、羽瀬川 千代はラセルタと共に星の海を歩いていた。『綺羅星』目指して、星の子が光の絨毯のように輝く丘を、のんびりと行く。
「静かでいい夜だね、これなら星も星の子も良く見える」
「うん? ああ、そうだな……」
「? ラセルタさん?」
千代に言葉をかけられても、何故か気もそぞろなラセルタ。その視線は、何やら周囲を警戒しているようで。気づいて、「ああ」と千代は少し笑った。
「ここに動物はいないと思うよ」
「そうは言うがな……お前と居ると、どうも動物と遭遇する確率が高い気がしてならない。見かけても構うなよ」
今日のこの時間は俺様のものだと、ラセルタは真っ直ぐな視線を千代に遣る。やや子どもじみたその表情を見て、千代はふんわかと微笑んだ。
お任せで購入したのは、金色と白銀の星の欠片たち。さてどんな味がするのだろうかとは思うけれど。
「食べるのは、星の子を送ってからにしようか」
星の子たちと一緒に丘に腰掛けて、千代はラセルタへと笑いかける。丁寧に手折った星の子をラセルタに差し出されて、千代はそっと笑んで「ありがとう」を言った。
「願い事、どうしようかな」
「大方、他人や星の子に対して願うつもりだろう。規模の小さな願いぐらい、自分のことを頼んだらどうだ?」
「うーん……自分のことになると、ぱっと思い浮かばなくて」
千代の言葉に、ラセルタがやれやれとため息をつく。そんなパートナーを見て、千代が思ったことは。
(……ここに連れてきてくれたラセルタさんへのお礼、とか?)
視線を落とせば、金と銀の金平糖。そうだ、と閃くものがあった。
(買った金平糖が、ラセルタさん好みの物でありますように)
ささやかな願いと共に、星の子を空へ放つ。数限りない仄かな灯りが、ふわふわと夜空に揺れながら遠ざかっていく様はとても幻想的だ。
「俺様自身には、星の子に掛けるほどの些末な願いは無いな」
そう零しながらも、ラセルタも星の子を長い旅へと送り出す。その胸の内に、願うことは。
(強いて言うなら……千代の願いを叶えてやって欲しい)
優しい優しい願い事が二つ、夜闇の中ふわりと光る。
「まるで、満天の星空にいるみたいだ。夢を見ているみたい」
穏やかな瞳に柔らかな輝きを映して、千代はそっと口元を緩めた。
「今日はありがとう。誘ってくれて嬉しかったよ」
改めて礼を述べて、ラセルタの掌に2色の金平糖を零す。星の子の輝きを受け、掌の中で本物の星のように輝く金と銀。ラセルタが白銀の星を摘まみ上げ、口に放った。
「……どう? 美味しい?」
「これは……洋梨の味、だな。悪くないぞ」
口でこそ「悪くない」と尊大な感想を漏らしながらも、ラセルタはまた星を摘まみ、口へと運ぶ。どうやら、お気に召した様子だ。
(星の子が、願いを叶えてくれたのかな?)
こっそりと笑んで、千代も金平糖を口にする。金の星の濃厚な甘みは、何の果物の味だろう。
「ふふ、なんだか星を食べているみたいだね」
くすくすと笑み零す千代をじぃと見やって、ラセルタが口を開いた。
「ところで千代。お前は星の子に何を願った?」
「え? えーっと……」
「聞かずとも忠告を無視したのは分かっている、正直に言え」
呆れたような顔をしながらも、ラセルタはどこか楽しげで。千代の心もふわり温かくなる。
「願い事は、秘密。でももう叶ったよ」
「もう叶った? どんな他愛ないことを願ったんだ、お前は」
「とてもね、幸せなことを」
星の子たちが、高く遠く飛んでいく。口の中に星をカラコロとさせながら、2人は星の子たちの旅立ちを見送った。
●ほしのたび
「星の子の旅立ちを見られるなんて嬉しいよ」
夢見るような表情でそう言ったラキア・ジェイドバインの声は、心なしかいつもよりも弾んでいて。そんなパートナーの姿を見て、セイリュー・グラシアは頬を緩める。ラキアの喜ぶ姿は可愛いなぁ、なんて思っているセイリュー。こんなにも喜んでもらえるのなら、誘った甲斐もあるというものだ。
「星の子は綿毛が有名でね、風に乗って舞い上がりキラキラと輝く姿が、とても幻想的で美しいのさ。だけど、花も可憐で綺麗なんだよ。陽光をいっぱい浴びて咲き誇る間、その光を内側に溜めてるのかもね」
頬を上気させて流暢に語るラキアの姿を、本物の星の明かりと、星の子の放つ淡い光が照らしている。セイリューはその姿に見惚れながらも、うんうんと頷きながら一生懸命にラキアの話を聞いた。
(花の話してるとすごく嬉しそうなんだよな、ラキアは)
だから、思わずこちらまで嬉しくなってしまう。今日は本当に来てよかったと、セイリューは密かに笑んだ。
ラキアのお喋りが一旦止めば、お待ちかねの星の子送りの時間だ。
「ごめんね、少し手折らせてね」と優しく星の子に声をかけ、ラキアはその茎を手折る。セイリューも、ふわふわの綿毛を仄か光らせている星の子を手に取った。ふぅと吹けば、舞うように夜空へと旅立っていく光の群れ。一通り星の子を観察した後、ラキアも星の子を空へ放つ。二人はそっと、星の子たちを長い旅へと送り出した。星の子に乗せて飛ばした、願いは。
(ラキアがいつも笑顔で居れますように)
セイリューはそう願いを託す。ラキアが笑顔なら、それが平和の証拠だと思うから。
(花がたくさん咲く平和な時間が長く続きますように)
ラキアは遠ざかっていく星の子にそんな想いを乗せる。オーガの影響で争いが増えるのは、彼にとってとても心苦しいことだった。
ふわりふわりと、星の子は夜闇に踊る。二人の平和への想いを乗せて、くるくると、旅立ちの幸せを歌うように。
「なんか、楽しそうに見えるな。旅に出るのを喜んでるみたいな」
「そうだね。きっと、嬉しいんだよ。今日のこの日を心待ちにしながら、じっと光を溜めていたのかも。夢を見るように」
星の子たちが舞う中で、顔を見合わせて二人は笑った。
星の子を無事送り出した後は、『綺羅星』で金平糖選び。色とりどりの金平糖の小袋がずらりと並んでいるのを見て、ラキアは目を丸くした。
「すごいね、星を売っているみたいだ」
「だな。食べられる星だ。オレは、青りんご味のアップルグリーン色がいいな。そうだ、ラキアの分も買ってあげるよ」
「え、ほんとに?」
「ほんとほんと。折角だから半分こしようぜ」
どの星がいい? と尋ねれば、ラキアは顎に手をやって「うーん……」と真剣な思案顔。やがて彼が指差したのは、山吹色の金平糖だ。
「了解。綺麗な色だな」
「うん、お日さまの色だよ。太陽は生命の源なんだよね」
2つの小袋を買い求めて、セイリューたちは店の外へ出る。先ほどまでと変わらず、丘の景色は素晴らしかった。ラキアが、ふわりと笑む。
「ここで食べる金平糖は、きっと一等特別な味がするだろうね」
「うんうん。美味いぜ、これ」
「って、もう食べてるの?」
呆れながらも笑ってしまうラキアである。
「なっ、ラキアのは何味?」
「えっ、味? えっと、オレンジ味って書いてあるよ」
ラキアがそう答え終わる頃には、山吹色の星はセイリューの口の中。
「あ、返事聞く前に食べちゃってるし」
言って笑ったラキアの口に、とび込んできたのはセイリューの金平糖。
「むぐっ?!」
「こっちも美味いだろ?」
セイリューがからりと笑えば、ラキアも口元を抑えながらこくと頷いて。
見上げれば、満天の星と舞い上がる星の子たち。
いい夜だなと呟けば、傍らのラキアがまた一つ頷いた。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 巴めろ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 05月08日 |
出発日 | 05月19日 00:00 |
予定納品日 | 05月29日 |
参加者
- セイヤ・ツァーリス(エリクシア)
- 叶(桐華)
- 羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
- セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
- アレクサンドル・リシャール(クレメンス・ヴァイス)
会議室
-
2014/05/13-19:49
セイヤ、です。
エリクとのんびりしにいくの。
あと、星の子供を空におくるの、です。
たのしみ、です -
2014/05/11-13:19
アレックスだ、よろしくな。
相方と一緒にのんびりイベント楽しんでる。
いい夜になるといいな。