君に触れていい?(真崎 華凪 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

一緒にいる時間が長くなった。
初めての日から重なる同じ時間の繰り返しは、驚くくらい新鮮な景色を連れてくる。

触れて、君への想いが届くようにと願う。
重ねて、君の笑顔が咲いて欲しいと願う。
捧げて、君を守っていけるようにと願う。

これからのすべてに君への想いを織り交ぜて。
愛しいと、さめざめと泣く心をいまは、隠して。

わずか、滑る一瞬。
花弁が舞い落ち、うつつの幻を君に見る。
波立つざわめきが揺れて、引いて、帰っていく。

傍にいて、抱き締める温もりを分かち合えるように。

額に、頬に、指先に、舞い落とす花弁。
揺れて、震え、君の心に、どうか、どうか、一縷の願いを託せますように。

夢の続きを見るように、交わり、溶ける色彩。
眠りを覚ます、特別なおまじないを。
その力となる、契りの刹那を。
勇気を与える、秘密の約束を。

近づいて、詰める距離。
緩やかに速度を増す、胸の高鳴り。
熱を持ち、眩暈を覚え、くらくらと沈む感覚。

これからを共に生きる君に、無数に散らばる願いを込めて。
これまでを共に生きた君に、溢れるほどの祈りを込めて。
微笑み、手を伸ばし、ためらいながら、確信めいた声音を降らせ、抱き締めて、そっと問う。

ねえ、君に触れていい――?

解説

タイトルそのままですが、『君に触れていい?』がテーマです。
必須事項として、「唇以外の個所へのキス」を最低1か所含めてプランを組んでいただけますようお願いいたします。

じゃれ合って、いい雰囲気になって頬へキス、とか。
おやすみなさいのあいさつ代わりに額へのキス、とか。
料理中に指を切ってしまって、指先へキス、とか。
一般的にできそうな部位でお願いします、この辺りは切実に。

精霊さんから神人さんへももちろんですが、神人さんから精霊さんへも全力で歓迎します。

ジャンルにこだわらず、ほっこリからコメディ、本気なものまで、お待ちしております。


※部屋を片付けていたら財布をぶちまけてしまい、300Jrなくなりました。

ゲームマスターより

キスシーンを書くのは好きなのですが、中でもイメージして悶え苦しむのは、指先へのキスです。
特に、精霊さん(男性)が引き寄せる感じとか死ぬほど好きですが割とどうでもいい話です取り乱しました。

楽しみにお待ちしておりますね!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  A.R.O.Aに用事があるというシリウスを中庭で待つ

日差しを避けて木陰に
ノウゼンカズラが綺麗に咲く木を見つけ その木の下に座る
花を熱心に見上げていたが 胸元のペンダントが光を弾いたのに気づき視線を落とす(依頼96)

「わたしの一番はあなた」とか恥ずかしいことを言っちゃった…

頬を赤らめ ペンダントを握りしめて
どんな顔をして会えばいいと悩むも 涼しい風に誘われうたた寝

名前を呼ばれた気がして 目を開ける
ふわふわとした視界に シリウスの顔が飛び込んできて
夢の中でも会えた と花が綻ぶような笑顔
そのまま彼の首に腕を回す
夢の中だもの 言ってもいいよね

…シリウス だいすき

驚いたように彼が身じろぎしたのに満足して もう一度目を閉じる


ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)
  お夕飯できましたよー…あれ、寝ちゃったんですか…?
でもこのままだと風邪引いちゃうかもしれませんし…
そうだ!今日干したタオルケットが…これでよし、と!

眠っているグレンを起こさないようにそーっと床に膝をついて
そばで寝顔を見つめてみます。

…私、グレンと将来の約束…したんですよね、ずっと一緒にいようって。
その時のことを思い出して、好きだなって気持ちでいっぱいいっぱいになって、思わず頬にキス。
グレンが寝ているとはいえ結構恥ずかしいですね、これ…
い、今の内にエプロン置いてきちゃいま…ひゃあ!
いつから起きてたんですかっ!
最初っから起きてたんじゃないですかーっ!
もうっ、スープ暖めなおしてきますっ!


ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  オーガの討伐任務で不覚を取ってしまい
怪我を負って一日絶対安静(ディエゴさんの指令で)の身となりました
大したことないんですけどね…でもなんとなく体が重いので寝ていることにします
彼は責任感が強いですから、今回の事で自分を責めている節があるんじゃないかと
だから、早く元気になって大したことなかったんだよって身をもって伝えたいです。

ほぼ眠っているような状態の時ディエゴさんが来て
静にベッドに座って頭を撫でてくれました
そして心臓の音を聞くように頭を預けてきました
もう…大袈裟ですね、まだ眠たいですが彼の頭を抱きます
そんなに心配しなくても私は元気ですから
ディエゴさんを置いていけるわけないじゃあないですか


豊村 刹那(逆月)
  場所:刹那が借りてるアパートのリビング

今日も暑いのか。(予報を確認
「逆月、暑かったり寒かったりはないか?」(エアコンのリモコンを持って
「なら、いいけど」

「ん?」(振り返る
「どうした?」(近づく
「おわっ!? あっぶな、て。ちょ」
「さ、逆月? 動けないんだけど」びくともしない……!
「そうだ。逆月は暑いの苦手だろ? だから離し……」
(思わず黙る

「……落ち着く訳ねーだろ」むしろ心臓ばくばくしてるっての!
「わざわざ言わんでくれ」(顔真っ赤
「……何が」
逃げ、てんのかな。やっぱ。
「あの、色々初めてでな。私もどうしたいか、わからないというか」

な、何され。え?「そういう、問題じゃ」
(羞恥のまま逃走したいが抜け出せない


秋野 空(ジュニール カステルブランチ)
  ソファに座って明日の仕事の準備をする精霊を労い
少し休んではいかがですか?
氷だし玉露のグラスを手渡し
そうですか…

意を決して、グラスを傾ける精霊の米神へ軽くキス
お疲れ様のキス、です
そそくさとその場を離れ

額が付きそうな距離にどぎまぎ
…だって
目を逸らし
ジューンが、私からのキスを覚えてなかった事を、気にしていたようだったので…

えっ?今、ですかっ?
さっきのでは…

改めてとなると震えるほど恥ずかしいが
元々自分が仕掛けたのだから仕方ない
どちらにせよ、この体勢から逃げられないし
覚悟を決め
瞳を伏せ、触れるだけのキス

恥ずかしさに、精霊の肩に顔を埋め
精霊のシャツをきゅっと握りしめる

無理ですっ
とても顔なんかあげられない



「少し休んではいかがですか?」
 声をかけながら、秋野 空は明日の仕事のために資料の写真を確認し、修復方法を検討するジュニール カステルブランチに、氷だしの玉露を注いだグラスをそっと手渡す。
「ありがとうございます、ソラ。でも、もう終わりです」
「そうですか……」
 資料を片付けて、ジュニールは受け取ったばかりのグラスに口をつける。
 ふいに、空が身を寄せたかと思うと、こめかみに何か、柔らかな感触が触れる。
 一瞬では理解できず、けれど次の瞬間には理解できた状況に、うっかりと手にしたお茶を、グラスごと落としかけていた。
「ソラ……?」
「お疲れ様のキス、です」
 空に目を向ければ、顔を真っ赤に染めて、そそくさと離れようとする。
 彼女の手を掴んで引き寄せると、逃げられないように膝の上へと抱き上げる。
「ジューン……っ!」
「そういう不意打ちは、ズルいですよ」
 まして、すぐに逃げようとするなんて。
 拗ねたように言えば、空は目を逸らしてわずかに俯く。
「……だって」
 額が触れる寸前まで顔を寄せると、どぎまぎとする空が愛おしくなる。
「ジューンが、私からのキスを覚えてなかったことを気にしていたようだったので……」
「……ッ?!」
 あわよくば、少し意地悪なことを言おうかと心算していたジュニールは思わず顔を背けた。
 左手で口元を覆い、ただでさえの不意打ちから、止めを刺された気分だ。
 ――俺のため?!
 いじらしい理由に眩暈がしそうだ。
 桜餅には悪いが、握りつぶしてやろうかと一瞬の憎悪が湧かなかったわけでもなかったが、今は神棚に丁寧に飾りたい気分だ。
 咳払いを一つして気を取り直し、空の瞳を覗き込むように再び顔を寄せる。
「でしたらもう一度、ソラからのキスを俺にください」
「えっ? 今、ですかっ? さっきのでは……」
「駄目です」
 にこりと笑うと、空はぐっと押し黙ってしまった。
「このままでいいので『あの時と同じように』お願いします」
 改めてねだると、空はさらに困ったような顔をする。
 そんな空の姿を堪能していると、逃げられないことを悟ったのか、空が瞳を伏せて唇を寄せる。
 そっと目を閉じて応じると、柔らかく触れて、離れていく。
「ソラ……」
 顔を先程よりも真っ赤にした空が、ジュニールの肩へと顔を埋める。
 シャツを握って恥ずかしさに耐えている様は、なんとも言えないくらいに愛しい。
「俺のためにありがとうございます」
 伏せられた空の耳元に声を落とす。
 ふるふると小さく首を振るものの、空は顔をあげてくれそうにない。
「ソラ、ねぇ顔をあげてください」
「無理ですっ」
 少し震えた声。
 肩口に感じる熱さ。
 空の温もり。
 どれを思っても愛しい、幸せな気持ちしか見つけられない。
「ソラ――俺の……可愛い人」
 独り言ちるように呟いて、赤く染まった耳朶へキスをする。
 振り払われない指先に唇で触れると、さらに幸せを実感できた。
 どんなキスも、触れ合いも心を満たしてくれるが、やはり『空から』が重要なのだ。
 こんなにも心を震わせるものは他にない。
 わずかに持ち上げられた空の頬に唇を寄せる。

「愛しています、ソラ」


 豊村 刹那は必要がなければ逆月に近づくことはない。
 それは彼女が借りているアパートでも同じで、お互いが気にならない程度の距離を保っている。
「今日も暑いのか」
 予報を確認し、刹那が漏らす。連日の暑さにはさすがにまいってしまう。
「逆月、暑かったり寒かったりはないか?」
 暑すぎるのも寒すぎるのも得意ではない逆月を気遣いながらエアコンのリモコンを手に、刹那が問う。
「えあこん、か? 程好い」
「なら、いいけど」
 ちらりと視線を向けて、刹那はリモコンを置く。
「刹那」
「ん?」
 逆月が呼んでも、刹那は振り返るだけ。彼も近づくことはない。
「刹那」
 もう一度呼ぶ。
「どうした?」
 そこで初めて刹那が逆月に近づいた。
 逆月が刹那の腕を強めに引く。
「おわっ!? あぶな、て。ちょ」
 刹那を傍に留めておきたかった。
 腕の中に閉じ込めれば、一先ずの安堵を得られる。
「刹那」
 逆月が溢れて零れ落ちるその名を、再び口にする。
 隙間がなくなるほどぴったりと抱きしめると、刹那は身じろいだ。
「さ、逆月? 動けないんだけど」
 その程度で逆月が動くはずもなく、かえってより強く抱き締められるだけだ。
 肩口に顔を埋め、逆月の吐息が首筋にかかると、刹那の心臓はうるさいほど高くなる。
「そうだ。逆月は暑いの苦手だろ? だから離し……」
「刹那」
 先程までよりも強く呼ばれ、刹那は動きを止めて黙り込む。
 抱き込まれたまま、隙間ができるたびに埋めるように、より強く抱き締められる。
 しばらくして、逆月の声が耳元に落ちる。
「落ち着いたか?」
「……落ち着くわけねーだろ。むしろ心臓ばくばくしてるっての!」
 触れ合うだけでも伝わるだろうに、逆月が確かめるように首筋に顔を寄せる。
「確かに、早い」
「わざわざ言わんでくれ」
 真っ赤になりながら、逃げたい衝動に襲われるも、刹那に逆月を振り解くだけの力はない。
「刹那は、どうしたいのだ」
「……何が」
 唐突に問われると、どこか切なげな色を感じさせる声が続く。
「刹那と同じ想いを得たい。だが、お前は逃げる」
 意識して逃げているわけではない。けれど。
(逃げ、てんのかな。やっぱ)
 心当たりがないわけでもない。
「あの、色々と初めてでな。私もどうしたいか、分からないと言うか」
「反応が初心と思いはしたが、そうか」
 言わないでくれと言いたげに、刹那が逆月の肩越しに遠くを見る。
 その一瞬に無防備になった首筋に逆月が目を向けると、湧き起こる衝動のまま、首筋に口付けた。
 柔らかな感触と温もりが触れる。
 驚いて身を捩り、逃げ出そうにも、相変わらずぴったりと抱き込まれているせいで動くこともままならない。
(な、何され。え?)
 困惑した刹那に、逆月がもう一度首筋に唇を寄せる。
「唇は以前遮られたが。此処も駄目か?」
「そういう、問題じゃ」
 彼が何をしているのかを悟ると、羞恥に襲われ逃げ出したくなる。けれどやはり抜け出すことはできない。
 逆月はそれ以上何もしなかったが、解放もしてもらえず、刹那の心臓はずっとうるさく鳴りっぱなしだった。


 ソファの上で横になりながら、グレン・カーヴェルは窓から吹き込んでくる風を感じながら目を閉じる。
 この時期、昼間は動くのも億劫になるくらいの暑さだが、陽が落ちるこの時間帯は涼しく、ソファの上は特等席だった。
 キッチンからは食欲を誘う香りが漂っている。
「お夕飯できましたよー」
 ニーナ・ルアルディが声を掛けながらグレンの様子を覗きにくる。
 ――ああ、もう夕飯の時間か。
 思っても、すぐには動けずにしばらく目を閉じていると、ニーナが側に近づく気配があった。
「……あれ、寝ちゃったんですか……?」
 寝ていたわけではないが、ニーナにはそう映ったようだ。
「このままだと風邪ひいちゃうかもしれませんし……そうだ! 今日干したタオルケットが……」
 ぱたぱたと足音を立てて離れると、少しして戻ってくる。
 そっとタオルケットをかけられ、そろそろ目を開けるべきかと思案していると、ニーナは床に膝をついてグレンを覗き込んだ。
 寝顔をじっと見つめられることなど、そうあるものでもない。
 ――……まあ面白そうだし、このまま寝たふり続けて様子見るか。
 悪戯心を覗かせるグレンの寝顔――正しくは寝たふりをしている顔をニーナはじっと見つめる。
(……私、グレンと将来の約束……したんですよね。ずっと一緒にいようって)
 好きな人との未来への約束は、特別で、大切で、ニーナの毎日をいつもより明るくした。
 そして、その時のことを思い出していると、改めてグレンを好きだと思う。
 その気持ちがニーナの心を満たしていく。
 満たされた気持ちが溢れて、愛しくてたまらない。
 思わずグレンの頬にキスをする。
「…………」
 自分でしておきながら、ニーナは頬をほんのりと染める。
(グレンが寝ているとはいえ、結構恥ずかしいですね、これ……)
 照れてしまっているニーナには、迂闊にも顔に出そうになってしまったグレンの微妙な表情には気づけなかった。
 想定外だったとはいえ、グレンは表情に出すことをぎりぎりで踏み止まっていた。
「い、今のうちにエプロンを置いてきちゃいま……ひゃあ!」
 恥ずかしさからか、逃げ出すように立ち上がりかけたニーナの頭を、グレンの腕が押し付けるように引き寄せて捕まえる。
「よう、寝込みを襲うとはいい趣味してんな」
「いつから起きてたんですかっ!」
「いつからって……」
 グレンが考えるように首を捻る。
「夕飯できたって呼びに来たあたりからだな」
 悪びれる様子もなくそんなことを言う。
「最初っから起きてたんじゃないですかーっ!」
「最初から寝てないからな」
 揶揄するように笑うグレンに、ニーナは顔を赤くする。
 一部始終をグレンが知っていると言うのは恥ずかしい。しかも、グレンの言葉ではないが、寝込みだったからやったことだ。
「ところで、起きてるときにはやってくんねーの?」
 もう一度、キスをせがむようにグレンが頬を示す。
 寝ていると思ってやったことでもあれだけ恥ずかしかったのだ。
 できるはずがない。
「もうっ、スープ温め直してきますっ!」
「……おー、真っ赤になって逃げた逃げた」
 先程より真っ赤になってニーナがキッチンへと帰っていく。
 彼女の唇が触れた頬に手を当て、グレンは悪戯っぽく笑みを浮かべた。


 A.R.O.A.に用事があると言うシリウスを待つ間、リチェルカーレは中庭で待つことにした。
 日差しを避けて木陰で、と見回して、ノウゼンカズラが美しく咲く木を見つけると、その木の下に腰を下ろす。
 見上げて、暖かな色の花を熱心に見つめていたが、日差しに胸元のペンダントが弾かれる。
 青い石の浮いた鳥のペンダント。先日、シリウスがくれたものだ。
「『わたしの一番はあなた』とか、恥ずかしいこと言っちゃった……」
 嘘ではないのだが、やはり恥ずかしい。頬を赤く染めながらペンダントを握り締める。
 思い出してしまったせいで、どんな顔をして会えばいいのかを悩んでしまう。
 けれど、涼しい風が空気を揺らし、誘われるようにゆっくりと眠りに落ちていく。

 少しして、用事を済ませたシリウスが待ち合わせた中庭へやってくると、微動だにしないリチェルカーレを見つけて息を詰めた。
 驚きはしたが、すぐに眠っているだけだと気づき、安堵の息を漏らす。
「……屋外で無防備に寝るやつがあるか」
 リチェルカーレはもう少し自覚をするべきだと、溜息と共に呟く。
 いつもどきりとさせられて、そのほとんどが無自覚なのだから困ってしまう。
「リチェ」
 軽く肩を揺する。大切そうに握り締められたペンダントに気付くと目を瞠ったが、同時に耳元が熱くなっていく。
 いつも幸せであるようにと願う。
 青い色にわずか、彼女を重ねた。
「毎日つけなくたっていいのに」
 大切に、毎日身に着けてくれることが嬉しかった。けれど、そこまで大事にしなくてもいいとも思っている自分がいる。
 そっと双眸を眇める。
 無邪気で、無防備で、危なっかしくて。
 それでもいてくれるだけでシリウスがどれほど救われているかなんて、彼女はきっと知らない。
 真っ直ぐに向けられる笑顔と好意が、どれほどシリウスを満たしているかなど、――知らなくてもいい。
 柔らかな髪を梳く。
 日差しを受けて光を弾く髪の、その一房を取って口づける。
「ん……シリウス……?」
 ぼんやりと微睡むリチェルカーレの瞳がシリウスを捕らえたように見えた。
「……リチェ? 起きたのか?」
 覗き込んで呼びかけると、その声に、リチェルカーレは花が綻ぶような笑顔を見せた。
 そっと伸ばされる手が、シリウスの首筋に触れて、絡みつくように回される。
「……シリウス、だいすき」
 耳元に声が落ちる。
 呼吸も忘れて身を固くしたシリウスに、リチェルカーレは満足したように再び目を閉じて眠る。
「寝言……か」
 苦笑いを浮かべ、早く鳴る鼓動に戸惑いを隠せない。
「……心臓に悪い……」
 リチェルカーレをそっと木に凭せ掛ける。
 どこまでも真っ直ぐに想ってくれる、大切な人。言葉にはなかなかできないけれど。

「リチェ」

 頬にそっと唇を寄せる。
 次の瞬間はっとして、シリウスは膝を抱え、項垂れるようにうずくまる。
「これだから……」
 無防備に眠ることをまずは諫めようか。
 それとも――。
 それよりも、まずは彼女が目覚める前に平静を取り戻すことが先決だった。


 ハロルドは、ベッドの上にいた。
 オーガ討伐任務で不覚を取ってしまい、怪我を負ったハロルドに、ディエゴ・ルナ・クィンテロが一日の絶対安静を伝えたからだ。
(大したことないんですけどね……)
 とはいえ、身体はどこか重たかったから、言われた通りに大人しく寝ていることにする。
 ぼんやりと部屋を眺めながら、責任感の強いディエゴが、今回のことで自分自身を責めてしまっているのではないかと思っている。
 だからこそ、早く元気になって、大したことはなかったのだと、身をもって伝えたい。
 そのためにも、この重く、いつもより自由の利かない身体をどうにかしなければならない。
 しっかりと眠って体力が戻れば、すぐにでも動けるはずだ。
 そう思って、ゆっくりと眠りにつく。

 *

 ディエゴの目の前でハロルドが攻撃された時、頭が真っ白になった。
 息が詰まり、呼吸も忘れるほどの衝撃だった。
 幸い、すぐに処置ができ、大事には至らなかったものの、自分がついていながら、ハロルドに怪我をさせてしまうなど、情けなかった。
 絶対安静を取るようにと伝えたのも、気丈なハロルドならおそらく、「私は大丈夫ですよ」なんて言い出しそうだったからだ。
 ――……つまるところ、俺の我儘だな。
 無理だけはしてほしくない。
 朝の時間を避け、昼を過ぎたころ、様子が気になってハロルドの部屋へと向かう。
 ベッドの上で静かに目を閉じる彼女の姿を見て、あの任務の光景がフラッシュバックする。
 眠っているだけなのだと、頭では分かっていても息が詰まる。真っ白になっていく。
 一歩を踏み出して近づき、ベッドに座ってハロルドの頭を撫でる。
 触れる指先にぬくもりが伝わって、少しは安心できた。
 けれど。
 ――起きるかもしれないが……。
 そっと、胸元に頭を寄せる。
 生きているんだと確認をしたくて、心臓の音に耳を傾けた。
 とく、とく、と規則正しい音が聞こえ、安堵する。
 ほっと息を吐いて離れようとすると、頭をそっと抱かれた。
「もう……大袈裟ですね」
 ハロルドが微笑みながらそんなことを言う。
「起きてたのか?」
「ええ……まだ少し眠たいですが」
 子ども扱いのようで少し恥ずかしい。
 せめてもの照れ隠しに、ディエゴはハロルドを抱き返した。
「そんなに心配しなくても、私は元気ですから」
「心配するなってほうが無理だ」
 ハロルドが柔らかく微笑む。
「ディエゴさんを置いていけるわけないじゃあないですか」
「そうだな」
 小さく笑みを返し、ディエゴはもう一度ハロルドの頭を撫でた。
「……悪かったな、睡眠の邪魔をして」
「大丈夫ですよ」
 ディエゴが考えた通り、気丈に動いたかもしれないハロルドに、やはり絶対安静でよかったと思う。
「もう少し、休みますね」
 徐々に瞼が閉ざされていく。
「ゆっくり、おやすみ」
 ハロルドのこめかみにキスをする。
 少しして、静かで規則正しい寝息が聞こえると、ほっとしたようにディエゴは部屋をあとにした。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 真崎 華凪
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 08月02日
出発日 08月10日 00:00
予定納品日 08月20日

参加者

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