夏の華(梅都鈴里 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「いらっしゃい、いらっしゃい!  おいしいイカ焼きだよー!」

「ポテトやアイスもありますよ、さあさ、よっといで!」

あちらこちら、商売上手な売り子たちから、人でひしめく路上に声が飛び交う。
タブロス市街の郊外に位置する神社では、毎年恒例の夏祭りが開催されていた。

「ちょいとそこのお兄さん! 腕に自信があるなら、射的やってかないかい?」

「手先に自信があるなら、金魚すくいなんてどうかな!」

屋台の定番から、流行りのB級グルメに舌鼓を打つ家族連れ。
金魚すくいや射的にはしゃぐカップル。
神社の境内で友達同士肩を並べて、恋バナや学校生活の会話に花を咲かせる子供たち、などなど。
過ごし方は多種多様だが、そこには笑顔が溢れている。

「この後夜の八時からは、特設ステージにてカラオケ大会を行います!  飛び入り参加も可能ですので、どうぞ喉に自信のあるみなさま、奮ってご参加くださいませ!」

「なおその後の九時からは、夜空を彩る花火大会を予定しております。市街でも珍しい、BGMを取り込んだ音楽花火が、祭りのクライマックスを彩ります!」

会場に響くアナウンスに、より一層祭は沸き立つ。
プログラムによれば、名産品の売り出しや地元の有志によるバンド演奏会など、その他様々なイベントが催される予定となっている。
闇夜に輝く夏の宴は、夜遅くまで続いた。

解説

▼個別描写となります。遊びの準備に何かと物入りで300jr.

▼お値段表と主なプログラム

アイスクリーム、ポテト、やきそば、わたがし、りんごあめ、いかやき、たこやき、かき氷、やきとうもろこし、チョコバナナ、フランクフルト…一律100jr.

射的、お面、型抜き、金魚すくい、ヨーヨー釣り…一律200jr.

カラオケ大会は無料で参加OK。参加賞に駄菓子の詰め合わせがもらえます。

クライマックスには夜空を彩る花火大会。

▼プランにいるもの

買いたいものやお祭りの過ごし方

プランに入ったものだけ金額はこちらでマイナスします。上記にないものでも構いません。
食い倒れるのも良し、神社の境内でナイショの話も良し、カラオケで良い所見せるのも良し。
どうぞお気軽に楽しんでください。



ゲームマスターより

お世話になります。梅都です。
お祭り特有の賑わう夜の風景や、人混みにまぎれて闇夜の境内で2人きり内緒話に花を咲かせるような、すぐそばにある非日常感がとても好きです。
ビギナーに設定はしておりますがどなたでも。
ご参加お待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

クロス(オルクス)

  ☆青基調とした桜柄浴衣

☆たこ焼き

☆心情
「オルク、お祭りの甘いものに目がないのは分かってるが…
食べ過ぎんなよ、く・れ・ぐ・れ・も!」

☆祭
「結構人が多いなぁ…
こりゃはぐれたりしたら大変そうだ(苦笑
うん(微笑」
・色々食べたり見て回り射撃の景品に可愛らしい3つセットの月と桜のストラップを見つけ精霊に取って貰う

☆射撃
「三日月と銀桜に銀狼、三日月と紅桜に悪魔の羽が付いた逆さ十字架、三日月と藍桜に打刀…
まんま俺達じゃね?(笑
オルク、取ってくれる…?」

「わぁ流石オルク!格好良かったぜ!
百発百中とか流石過ぎ!
もう大好きだ!(ぎゅっ
良いな~!
偶には皆でわいわい楽しく花火見ながら飲むのも♪
つまみや夜食は任せとけ♪」


ひろの(ルシエロ=ザガン)
  「……ありがとう」(頬を赤くし、視線を下げる
似合う、のかな。(自信は無い

いちごのかき氷一つ。
「雰囲気だけで、充分」(首を横に振る
「ルシェは?」(見上げる
(肯定していいか戸惑ってから、頷く
「でも。花火は、見たい」

「お邪魔します」(小声で小さくお辞儀し、神社に挨拶
(縁側の端に座る
向こうは賑やかだけど、こっちは妙に静かで。
なんかどきどきする。
?(視線に気づき、隣を見る
(恥ずかしくて顔を逸らす
食べ終わったかき氷の容器は、脇に置く。

(手を見て、そっと握り返す
(ちらりと顔を伺い、そっと肩に凭れる
あったかくて、嬉しくて。
幸せって、こういうのを言うのかな。
でも、こんなに『幸せ』で。いいのかな。(花火を見上げる


エネルネット(縁)
  動きづらい…
浴衣である為、いつもより動きにくい
たこ焼き食べたいな
ああ、うーん……
その前になにか食べよう、縁さん
うん。熱い…けど、美味しい(たこ焼きもぐもぐ
そう?(焼きもろこし、焼きそば購入

…ふい。縁さん射的しない?
へえ、うまいんだ。縁さん
え、くれるの?
当たった物を受け取り
うん。大事にする、ありがとう
お祭りなんて小さい頃おばあちゃんと行ったっきりだ

これが花火なんだ?
森に住んでて花火の音は聞いたことあるけど実際に見るのは初めてなんだ
それもそうだね


ミサ・フルール(エリオス・シュトルツ)
  「胡蝶華月」の着物を身に纏い精霊の前でくるりと一回転、はにかみます。
どう、ですか?似合いますか・・・?
む・・・えへへ、有り難うございます(にこ)
エリオスさんも着物着ればいいのに。
似合いますよ!
今度お祭りに行くときは着てくださいねっ

え?(差し出された手にきょとん)
あ、ありがとうございます(大きな手・・・お父さんみたい)

おいしい、しあわせ~(チョコバナナを頬張りながら)
甘いものは別腹なんですよー
エリオスさんも食べてみます?
あ!甘いもの苦手なんでしたよね。
うう、そこまで言わなくても・・・。
エリオスさんが笑った!(嬉しそうに)
だっていつも怪しげな笑みばかり・・あう(チョップされ)
お祭り、楽しいですか?



「どう、ですか? ……似合いますか?」
「胡蝶華月」の浴衣に身を包み、精霊エリオス・シュトルツの前でくるりと一回りしてみせるのは神人、ミサ・フルール。
 袖が揺れると、描かれた胡蝶がまるで生きているかの様に彼女の周りを舞い踊った。
 はにかむ少女に、目を細めながら「ふむ……」とエリオスは口元に手を当てて、
「馬子にも衣装だな」
 と意地悪く笑う。
 むぅ、とミサが唇を尖らせれば、すかさず嘘だ、と返される。
「似合っている」
「えへへ、ありがとうございます。エリオスさんも、着物着れば良かったのに」
 いつもとそう変わらない出で立ちの精霊にミサは提案するが、エリオスは表情を顰める。
「俺では似合わんだろう」
「似合いますよ! 今度お祭りに行く時は、着てくださいね」
 その時は私も見立てますから! と意気込むミサに、機会があったらな、とひとつ気のない返事を返した。

 ――とはいえ、普段慣れない浴衣に下駄というものは存外動きにくい。
 特に神社などの石畳や砂利道で、こうも人が多いとなれば尚更だ。
 些か覚束無い足取りでよたよたと歩くミサに、エリオスがふと手を差し出す。
「えっ……」
「屋台を見て回るのだろう?」
 ほら、と急かす様に手先を揺らす。
 手を貸してくれている、と気付いてミサもおずおずと利き手を差し出した。
「あ、ありがとう、ございます……」
 意地の悪い精霊がこんな風に接してくれるとは思ってもみなくて、一度あっけに取られたけれど、やっぱりエリオスさんも初めてのお祭りが楽しいのね、と解釈して小さく笑みをこぼす。
「お前はそそっかしいからな。はぐれないように手を繋いでやろうと思っただけだ」
 上機嫌なミサに、探すのは俺なんだから、とかなんとか、ぶつくさとぼやいてはいたものの、握った手のひらは言葉に反しとても大きくて暖かい。
(……おとうさんみたい)
 心の中でだけ小さく呟いて、屋台へと二人肩を並べ歩き出した。

「おいひい、しあわせ~」
 チョコバナナを頬張りながら、うっとりと目を閉じるミサとは対照的に、げんなりと眉間に皺を寄せたエリオスがはあぁ、と大きく嘆息する。
「……よくそんなに甘いものばかり食べられるな」
「甘いものは別腹なんですー」
 別腹がいくつあるんだ、と思うも心中だけに留める。
 既に彼女は先程から綿菓子とりんご飴もきれいに完食しており、舌が馬鹿になるのでは、と不要な心配までさせられた。
「エリオスさんも食べます? あ、甘いもの苦手なんでしたよね」
「ああ。嫌いだ、大嫌いだ。だからこっちに近寄るな」
 しっし、と手払いでミサとの距離を大げさに取ってやれば「うぅ、そこまで言わなくても……」と彼女はしょんぼり、肩を落とす。
 その様子がなんだか滑稽でつい笑みをこぼし、
「ふふ、冗談だ」
 と告げれば、ミサの表情が途端、ぱっと華やぐ。
「エリオスさんが笑った!」
「……俺だって嬉しければ笑うさ」
 ミサが面白くて、とはなんとなく言わずおいたが「だっていつも妖しげな笑顔ばかり……」と言いかけた彼女には軽くチョップを見舞っておいた。

「ねえ、エリオスさん」
 お祭り、楽しいですか?
 祭囃子に耳をすませつつ、不意にミサは隣の精霊へと問いかける。
「ああ、楽しいよ。……お前といる今が」
 とても楽しい、と静かにエリオスは返す。
 祭りは来たことがないと言っていたから、こんな楽しいことを知らないのはもったいない――そう思って、保護者代わりみたいなものだとしても付き合ってもらった甲斐はあったのかもしれない。
 都合よく展開した解釈は自分の中でだけ完結させて、ミサはまたひとつ嬉しそうにふふっと笑い、上がり始めた花火を見上げた。
 その隣で、エリオスが低くつぶやいた言葉は、夜空に一際大きく咲いた大輪の音にかき消されたおかげで、彼女の耳には届かなかった。
「……いつかその無垢な笑顔を壊せると思うと、余計にな」


「動きづらい……」
 賑わう祭りの入り口で、慣れない浴衣にぎごちなく手足を動かしてみせるのは神人、エネルネット。
 鴇色の髪に映える湖畔模様の浴衣は、ホームである森の湖を思わせる。
 一つ石畳へと足を踏み出せば、カラン、と下駄が音を立てた。
「変じゃないかな?」
「……普通に、似合うと思うが」
「そう。ありがとう、緑さん」
 振り向いた先の精霊、緑は、抑揚なく一言告げて、エネルネットに続き参道を歩き始めた。

「何がやりたい?」
 屋台を一通り見回した精霊から一言問われて、うーん、と口先に指を当てエネルネットは考え込む。
「その前に、何か食べよう」
 おなかすいちゃった、と胃袋辺りをさするので、一先ず手近な出店へと向かう。
「たこ焼き、食べたいと思ってたんだ。いいかな?」
「……構わないが」
 むしろ許可など取らなくても、と思うも心中だけに留めていたら、たこやきを購入し戻って来たエネルネットからひとつ楊枝を渡される。
「一緒に食べたいな、と思って」
 にこ、と人好きのする顔で笑うのでとりあえずは楊枝を受け取って、控え目に一つ、湯気の上がる祭りの風物詩を枝の先に取る。
 一口で頬張り切ってしまった精霊を見て、わたしも、と同じ様に大きく口を開けるけれど、熱さに辟易して一口齧るだけに終わった。
「熱い……」
「当たり前だろう。よく冷ませ」
「うん。けど……」
 美味しい、と控え目に笑い、残りのたこ焼きに手を付けていく。
 時折食の進んでない精霊に、緑さんもほら、と声掛けしつつ、結局一人で八割がた完食したエネルネットは、早くも次の屋台を選別している。
「焼きそば、一つください」
「まいど!」
 きっちり箸も二本貰って、ついでに隣の屋台の焼きトウモロコシまで購入し、精霊の元へ戻る。
 両手を食べ物でふさいでしまったエネルネットに「よく食べるな……」と緑が呟けば「そう?」とエネルネットはなんでもないような顔をして、こんがり香ばしく焼けたとうもろこしにかじり付いた。

「……ふい。おなかいっぱい」
 胃袋が膨れて再び屋台を散策し始めた二人は、縁日コーナー、と書かれた案内板の横を通りかかった。
「緑さん、緑さん。あれ」
 くいくい、とパートナーの袖を引いて、興味を示した屋台をエネルネットは指差す。
「射的か……悪くないな」
 屋台主にジェールを払い、射的銃を受け取る。
 射程距離から片手で低く構えて、まず一発。
 見た目より存外重い景品には掠っただけですぐには倒れなかったが、二発目は見事真ん中に命中し、重心を上手く崩し棚のあちら側へ落ちてくれた。
「へえ、上手いんだ、緑さん」
「別に……これくらい普通だろう」
 おめでとう、と渡された景品――猫のぬいぐるみを、エネルー、と名を呼び手渡す。
「え、くれるの?」
 まさか自分の為に取ってくれたとは思いもよらず、ぬいぐるみと精霊の顔を見比べながら問うたら、こくりと一つ緑は頷いた。
「大事にしろ」
「うん、ありがとう。……うれしい」
 えへへ、とはにかんでぬいぐるみを抱き締める。
 そうして不意に、遠くを見詰めるようにして、エネルネットは呟いた。
「……お祭りなんて、小さい頃おばあちゃんと行ったっきりだ」

 日がすっかり落ちて、遠くの空を打ち上がる華が彩り始めたのを、屋台から少し離れた林付近に腰掛け、二人は見上げていた。
「これが、花火なんだ?」
 瞳の中にきらきらと光彩を咲かせて、瞬きひとつ惜しむ様に、エネルネットは誰にともなく問いかける。
「見た事がなかったのか?」
「うん。ずっと森に住んでて、花火の音は聞いた事あるけど、実際に見るのは初めてなんだ」
「そう、か……」
 緑が、エネルネットに保護された時、既に彼女は森で老婆と二人きりで暮らしていた。
 生い立ちや素性はよく知らないけれど、初めて見る花火に瞳を輝かせる彼女の言葉が嘘ではない事くらい容易に分かる。
「なら、よく見ておけ」
「うん……そうだね」
 夜空の下でふたりきり。
 隣に居るのが育ての親ではない事に、なんだか少し不思議な感じもしたけれど、これから先を共にする事が多くなるであろう彼と一緒に、こんな新鮮な思い出を沢山作れたら、とも、ぼんやり思っていた。


 祭り会場を目の当たりにし、今すぐにでもわんこよろしく駆け出してしまいそうな精霊オルクスの肩をがっ! と引きとめたのは神人、クロス。
 神妙な顔つきで、振り向いた精霊にこんこんと言い聞かせた。
「……オルク。最初に言っておくぞ」
「ああ」
「お前が甘い物に目が無いのはよく分かってる。そして今日はお祭りだ」
「おう」
「りんごあめ、綿菓子、エトセトラ……甘い物が屋台には溢れてるよな」
「ああ、任せてくれ!」
 力強く頷いてオルクスは親指を立てる。
 その反応を受け勢い良く顔を上げると、クロスは相方に人差し指をビシッ! と突きつけた。
「食べ過ぎんなよ!? く・れ・ぐ・れ・もッ!!」
 きつく言い放ったクロスに、分かってらぁ! と頼もしく返事するも、その瞳は既に一つ目のチョコバナナ屋台を捉えていた。

 青を基調とした桜柄の浴衣に身を包んだクロスは、オルクスに並んで一つ石畳を踏みしめる。
 隣を歩く精霊は黒を基調とした銀狼柄の浴衣だ。獣人族の耳とも相まって、一層彼の艶やかさを引き立てていた。
「結構人が多いなぁ……はぐれたりしたら大変そうだ」
 見回すそばから迷子のお知らせです、と流れるアナウンスを遠巻きに聞きつつ、クロスは相方を見失わない様語りかける。
「んじゃ、はぐれないように、手でも繋ごうぜ?」
 にっ、と歯を見せ笑って、ほらよ、と手を自然な動作で差し出すオルクス。
 頷いて一つ微笑み、クロスはその手を取った。
 普段と違う見目の為か、こんな日はいつも以上に精霊も頼もしく見えるものだ。
 ……片手に空スプレーたっぷりのチョコバナナを握り締めていなければ。
「……オルク。それさっきも買ってなかったか?」
「ぎくっ。いや、一つ目だぜ? 断じて二本買ったりしてない。神に誓って」
「うそつけさっき俺が最後の一口食べたはず! もー!」
 油断も隙もないんだから! と騒いでいたら、不意に射的場にある景品棚へ置かれていた、ある物に彼女は興味を惹かれた。
「なあ、あれ……」
 浴衣の袖を引いたクロスは、ちょいちょいと景品を指差す。
 一つは、三日月に銀桜と銀狼。
 もう一つは三日月に紅桜と、悪魔の羽が付いた逆さ十字架。
 最後は三日月に藍桜を打刀にあしらった、三つセットのストラップ。
「確かに、まんま俺達みたいな感じがするな」
「だろー!? 丁度俺もそう思ってたんだ」
 図らずとも思考が一致していて、二人並びくすくすと肩を揺らして笑う。
 そうして、並んだ射的銃を一つ見遣ってから、クロスはオルクスを躊躇いがちに見上げた。
「オルク、取ってくれる……?」
 上目遣いに僅かどきりとしたが、次には「当たり前だろ?」と返し、不敵に微笑んで見せた。

「ふっ、ちょろいな……」
 指定されたターゲットを全て撃ち落し、本物よりもずっと軽いライフルを静かに卓へ置いた瞬間、わあっ! とクロスの歓声が上がる。
 百発百中の腕前に見惚れていたのは彼女だけでなく、周囲で射的に興じていた数人の観客達も一緒だったようで。
「すげーなあの兄ちゃん!」
「なんか様になってて、かっこよかったねー!」
 等と次々に賛辞が飛ぶ。
 クロスも勿論満面の笑みでぱちぱちと拍手し、景品を持ち帰ったオルクスの腕にぎゅっとしがみついた。
「さっすがオルク! かっこよかったぜ!」
「伊達にプレストガンナーやってねぇよ」
 結った後ろ髪をさらりと揺らし、気障な仕草で微笑んで見せるが、先程の景品の他にも『イチゴミルク味』と書かれた飴の袋がその手には握り締められている。
 与えられた弾が余ったので、折角なら、と目に付いたそれもついでにゲットしておいたのだ。
 いつもなら「また甘い物を取ってきて」などと小言の一つも飛びそうなものだけれど、欲しかったストラップを入手したクロスは甚くご機嫌である。
「もうほんと、大好きだ! 惚れ直した!」
 ぎゅうっ、と精霊の広い背中に抱きつく。
「オレも大好きだぜ」とオルクスが微笑み抱き締め返せば、遠くで花火開始のアナウンスが流れ始めた。
「さぁて。花火大会は宿舎の屋上で酒でも呑みながら皆で見ようか」
「お、いいな~、たまには皆で花火見ながら呑むのも! つまみや夜食は任せとけっ」
 オルクスの提案に、ご機嫌にはにかんで親指を立てるクロス。
 帰り道にも二人手を繋いで、祭りに華やぐ人ごみの中、終始笑いの耐えない会話に花を咲かせる二人なのであった。


「やはり和装が似合うな」
 ヒロノ、と名前を一つ呼んだ精霊、ルシエロ=ザガンは、パートナーである神人ひろのの前髪を指先ひとつで払い、満足げに微笑んでみせた。
「……ありがとう」
 穏やかな眼差しを受けて、一度だけ視線を合わせたけれどすぐに気恥ずかしくなり、頬を赤く染めて視線を下げるひろの。
 似合うのかな、と、ぼんやり考える。
 祭りだと言うから浴衣を着たけれど、似合っているかどうかの自信なんてないし、ルシエロはいつだって自分に優しい。
 女性の扱いにも手馴れていそうな彼だからこそ、暖かな言葉をたとえ世辞だとしても掛けてくれるのだろう。
 そんな風に、どこか鈍いひろのを見て、ルシエロはふ、と口元をほどかせた。
(いつまでも慣れないらしい。……そこが愛らしいが)
 もう随分出会ってから長くなるのに、未だに初々しい反応を見せる彼女だから、ルシエロも目が離せずに居る。
 行こうか、とひとつ告げて手を差し出せば、躊躇いがちにその手を取ったひろのもおそるおそる一歩踏み出し、石階段に下駄を踏み鳴らした。

「金魚すくいや射的でもするか?」
 最初に購入した甘酒を持ち、こちらはイチゴ味のカキ氷片手に隣を歩くひろのへと、ルシエロは問いかける。
「雰囲気だけで、充分」
 一度屋台を見遣りはするけれど、結局どれにも首を横に振る。
 ルシェは? 見上げて問いかければふむ、と口元に手を当て、どこまでも続いていそうな屋台を一つ仰ぎ見て。
「どれも興味はあるが、長居はしたくないんだろう?」
 問いかけたはずなのに気遣いで返されてしまい、見抜かれていた事にひろのはどきりとする。
 優しさだと知っているから肯定していいか戸惑ったけれど、好意を無下にする理由もなく、こくりと小さく頷いた。
「人混みが苦手なら、そうだろうなと思った」
 苦笑するルシエロに、でも、とひろのは一言だけ付け足した。
「花火は、見たい」

 ここなら人が居ても騒がしくはないだろう、と言うルシエロに同意して、二人は神社の境内へと向かった。
「お邪魔します」
 正面で小さくぺこりとお辞儀をしたひろのは、縁側の端へと静かに着座する。
 彼女の礼儀に習って「場所をお借りする」とルシエロも一言断りを入れてから、ひろのの隣へ腰掛けた。
「静か、だね……」
 遠目に見える祭り会場は賑わっているけれど、こちらにも人は居る筈なのに、境内は妙に静まり返っていて。
 鳥居の影でくすくすと声を潜める男女、参拝に訪れる老夫婦――、目に付くだけでもカップル客が多い。
 自分達もそう見えているのだろうか、と思うと、ひろのの胸は早鐘のように高鳴った。
「……?」
 不意に視線に気付いて、隣に座るルシエロを見上げると、すぐさま真摯な微笑みが返る。
 横顔を見られていた、と気付くなり気恥ずかしくなって、顔を逸らした。
 互いに言葉はそう多く無いけれども、夜空を見上げれば満点の星空が広がり、遠巻きに祭囃子が聞こえてくる。
 良い夜だ、とルシエロは心の中でだけ呟いて、甘酒を一つ啜った。

「……花火、始まったね」
 オープニングのアナウンスと共に、和風のBGMが流れ始めて、一際大きな大輪が夜空を彩った。
 見惚れてそちらにばかり目を奪われていたら、ふと右手に暖かさを感じて視線を落とす。
 ルシエロの大きな右の掌が、ひろのの左手に半分ほど乗せられていた。
(ルシェ……?)
 ちらりと顔色を伺えば、彼も同じように花火を見上げていて、無意識に偶然触れただけなのかな、とも思う。
 けれどその横顔が余りに綺麗で、手のぬくもりは暖かくて、お祭りは華やかで、嬉しくなって。
 やんわり手を握り返すと、そっと彼の肩に凭れかかった。
「!」
 とん、と右肩にかかった重みにルシエロは気付き、横目で少しだけ彼女の顔をうかがう。
 つい、そのまま小さな肩を抱き寄せてしまいたくなったけれど、安心しきっているひろのの穏やかな表情を壊すのも忍びない。
 控え目な行動が愛おしくなり、幸福感から一つ小さく息を漏らした。
(幸せって、こういうのを言うのかな)
 精霊の葛藤を余所に、ぼんやりとひろのは物思う。
 胸の奥をじんわりと満たす暖かな気持ち。
 好き、の種類はまだわからないけれど、確かにひろのはルシエロの事が好きで、その彼がこうして、隣に柔らかく寄り添ってくれている事が。
(……こんなに幸せで、いいのかな)
 ぼんやりと花火を見上げ、同時に不安を思う。
 幸せ過ぎて怖い、だなんて事を誰かに対して感じる日が来るとは思わなかった。
「……見事なものだな」
 ルシエロが呟いた言葉は表向き、夜空に咲く華への賛辞だったけれど。
「そうだね……」
 右側に預けられている、咲きかけの蕾にばかり、もうずっと意識は囚われている。
 次々に打ち上がる花火の様に、彼女の気持ちが大きく芽吹いてくれるには、あとどれくらい待てばいいだろうか。
 握られた手に込められた力が、ほんの少しだけ増したような気がした。



依頼結果:成功
MVP
名前:クロス
呼び名:クー
  名前:オルクス
呼び名:オルク、ルク

 

名前:ひろの
呼び名:ヒロノ
  名前:ルシエロ=ザガン
呼び名:ルシェ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 梅都鈴里
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 07月30日
出発日 08月06日 00:00
予定納品日 08月16日

参加者

会議室

  • [6]クロス

    2016/08/02-23:02 

  • [5]クロス

    2016/08/02-23:02 

    クロス:
    こんばんは、クロスとオルクスだ
    初めましての方は初めまして、久し振りの奴は久し振りだな!

    ホントなら皆でわちゃわちゃしながら回りたかったが、こうも人が多いと無理そうだ(苦笑
    各自楽しんでいこう!

  • [4]ミサ・フルール

    2016/08/02-21:31 

  • [3]ミサ・フルール

    2016/08/02-21:31 

    ミサ:
    こんばんはー!
    ミサ・フルールです。
    初めましての人は初めまして!
    エリオスさんがね、お祭りに行きたくて行きたくてしょうがないって言うから・・・あう!?(頭を手で押さえる←チョップされた)

    エリオス:
    それはお前だろう馬鹿者。
    俺は保護者として仕方なく同行するだけだ。

    ミサ:
    ふふ、エリオスさん、あんなこと言ってるけど、実はお祭りに行ったことがないみたいなの。
    だから思い切って誘ってみたんだ。
    こんなに楽しいことを知らないなんて勿体ないもの!(ぐっ)
    皆に会って遊びたかったけれど、この人の多さじゃ会うのは難しいみたいだね、残念・・・(しゅん)
    皆がそれぞれ思い思いの時間を過ごせますよーに!

  • [2]ひろの

    2016/08/02-09:46 

  • [1]エネルネット

    2016/08/02-07:02 

    エネルネットです。初めまして、よろしくね。
    お祭り、楽しみだな。


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