スイカ狩りをしよう!(ナオキ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 青空を旋回する鳶と、生まれたての蝉の鳴き声が木霊する長閑な片田舎。
 麦わら帽子、ゴム長靴、洗いたてのタオルという、いかにも農夫らしい服装の男がふたり、晴天に似つかわしくない倦み疲れきった溜息を深々と吐き出す。

「あの、大丈夫なんですかね」
「うーん……」

 年下のほうの男が不安そうに呟くと、もうひとりの男はポケットから煙草を取り出してシャベルを担ぐ肩を竦めて見せる。

「オーガが出たのは一ヶ月近く前。しかも向こうの山にだ。もう大丈夫だろ」
「でもお客さん誰も来ないじゃないですか! やーばいですって!」
「やばいかなあ」

 ここは、季節ごとのフルーツ狩りを一般人にも楽しんでもらうための農園である。
 しかし男の言葉通り、一月前のオーガによる襲撃が原因で、この夏はまだ誰も客として訪れていないのが現状だ。
 呑気に煙草をまるまる一本楽しんだ年嵩の男は、きゃんきゃん不安げに騒ぐ従業員を横目に、ポケットから携帯灰皿を取り出す。
 豊かな自然にゴミのポイ捨ては厳禁だ。
 ――それに、大切な客の訪問前だ。景観を損なうことなどあってはならない。

「明日、お客さん来る。はず」

 へ、と従業員が目を丸くする隣で、男は土が付着したカーゴパンツから今度は携帯電話を取り出して、何事かをチェックする。
 受信したばかりのメールは、『明日何人かそっちに派遣するよ~。参加費安くしてね』という、あまりにも緊張感に欠けた返答だった。

「ん、やっぱり来るわ。試験的に。もしまたオーガが出ても平気な人たち呼んだからさ。A.R.O.A.の知り合いにメロン10玉ぐらい押し付けて頼んだ」
「ぅえ?! マジですか?! スイカ狩りに来てもらうためにメロン?」
「うん、メロン。これで明日、何事もなかったら本格的にお客さんも来るだろ」

 ふたりの足元。
 だだっ広い畑には青々とした立派な草が生い茂り、収穫を待つ大きなスイカがそこかしこに転がっている。

解説

オーガはきっちり退治されたものの、再度の襲撃を恐れて一般のお客様が来てくれない農園が舞台です。
300jrの参加費(今回限り格安)を払って、スイカ狩りに挑戦して下さい。
皆様が平和に、安全に、楽しく過ごして下されば、農園はこの後例年通り大繁盛間違いなしです。

■スイカ狩りのしおり
・畑の開放は午前10時~午後15時まで
・お好きな時間に来てお好きな時間にお帰りいただく形です
・熱中症対策、日焼け対策は万全に
・動き易い服装でご参加下さい
・飲み物、お弁当は各自持参
・ゴミは必ず持って帰ること!
・収穫時に使用するハサミは無料で貸し出します
・収穫したスイカは3玉まで無料でお持ち帰りできます
 (それ以上からは1玉200jrずつ料金が発生)

旅行気分で田舎の雰囲気を楽しむも良し!
抱えきれないほどスイカを採って帰るも良し!
その場で食べて良し! ただしゴミは持って帰るように!

ゲームマスターより

はじめまして、ナオキと申します。
ド初心者GMですが、夏の思い出作りに役立てればと思います。
食い意地が張っているので、夏といわれても食べ物しか思いつかなかった結果がこれ。

それでは皆様のご参加、心よりお待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

(桐華)

  スイカ一杯だねぇ
スイカ一杯だねぇ
広いねーとか凄いねーとか言いながらふらふら眺めてぽんぽんってしてく
あ、桐華さんこれ良さ気。いい音
いい感じのを一つ収穫して、冷やさせてもらおう
後でスイカ割りチャレンジの時に使うんだ
三つまで無料なんだよね。あと2つものんびり選ばせてもらおう

お土産も確保したし、レッツチャレンジスイカ割り!
他の子の番の時はスイカに向かうように教えるよ。一応
桐華さんの時はフェイクも入れちゃえ
自分の番の時はとりあえず皆の声を順番に聞いていこうかな
あとは勘!そいやー
失敗しても楽しいもんだよね
今年初スイカ、いただきまーす

スイカ美味しかったし楽しかったし、安全安心二重丸だよってバッチリ宣伝するね


李月(ゼノアス・グールン)
  相棒のスイッチが入った
平和に楽しめばいい話だし行くか

しおり事前に確認
従業員に 挨拶
分らない事は尋ねる
皆さんには会えば挨拶

タンクトップ 七分丈パンツ等相棒共ラフな格好
午前スイカ狩り
選び方教える(にわか
アクシデントも楽しい
サムズアップ

水場聞き
スイカ冷やさせて貰いたい
川ならネットに入れ

直射日光避け飲食OKな場所で昼食
持参弁当
梅おにぎり1個と漬物 充分お腹一杯

冷える迄遊ぶ
遊んでいい川あれば 
悪ふざけ水かけっこや 水も滴る濡れ透け相棒にドキッ
無ければスイカ冷やす水張った樽で
農園の風景も散策 のどかさに癒され

スイカ
1/4サイズ
相棒の食べっぷりはいつもながら異次元腹かと 圧巻
この食べっぷり嫌いじゃないから自然に笑む

満喫!


胡白眼(ジェフリー・ブラックモア)
  「しまった、帽子忘れたぁ……」行きの電車に置いてきたようだ
申し訳ない気持だが、それ以上に彼の優しさが嬉しい

「畑仕事したことあるんですか?」
都会育ちだと思っていたから意外だ
土をいじくるのは故郷では褒められた行為ではなかった
けれど、こうしていると……「なんだか、癒されますね」
信頼する人のそばだから余計にそう感じる

「立派な西瓜ですねぇ!」
精霊の言葉にそうだと手を打ち
「西瓜割りでもしませんか?皆さんもお誘いして」

叶さんと俺の西瓜2玉を水で冷やしておく

誰の番でも割れるよう真面目に応援
手拍子で西瓜の方向へ導く
「ジェフリーさん、いじわるはだめですよ」
自分の番はおろおろと
成功した人には大きな西瓜を切り分けよう


カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
  ※可能ならティエン同伴
絡みOK

スイカは普通に好きだな
ま、食える量には限りがあるから食える分だけだな
傷んだらそれこそ申し訳ねぇし
1個ここで食べるとして、マンションの管理人やイェルの勤務先、隣近所にお裾分け考えても1個持ち帰ればいいだろ
スイカ割りに1個提供しても3個だしな

こうしてのんびり過ごすのも悪くねぇが、暑いから気をつけろよ、可愛い嫁さん※ベール直してやりつつ

スイカは採り終わったら水等があれば冷やして、昼食の後に食べる
食べる時あーんは基本
俺もやるからイェルもやれよ?※イイ笑顔
スイカ割りは基本応援で
誘われてやるのも懐かしくていいが

あとは、木陰でイェルの肩引き寄せて頭撫でたり額にキスしたり休日満喫


アイオライト・セプテンバー(ヴァンデミエール)
  夏休みは、早寝早起きお外は帽子
だから、ちゃんと虫よけとおぼーしかぶってきたよ
じーじとおそろいのイルカぐるみなの、えへへ

でも、いっぱいあるスイカ…どれがいいんだろ?

食べ頃のスイカって、叩いたときの音でわかるんだっけ?
ポンポンっと…んーよくわかんないや
もう直感でいいや、えいっ
これはおうちで待ってるパパに持って帰るの
甘くて美味しいといいなっ
(家から持参のぱんつをスイカに穿かせる)
ほらーかわいいーパパもきっと喜んでくれるはず♪

スイカ割り大会あたしもやるーっ
絶対成功するぞ、えいえいおー
じーじ、応援してね♪
そうだ、提案してくれた胡さんにお礼言わなきゃ
はい、スイカ狩りのときに拾ったカエルさん(げこげこ)♪


●Sun! Sun! Sun!
 李月の眼鏡と、イェルク・グリューンの伊達モノクルが、きらりと日射しを反射する。夏の太陽は容赦がない。ゼノアス・グールンを連れて律儀に挨拶をしに来た李月に、こちらもまた律儀に頭を下げるイェルクの後ろ姿を眺めながら、カイン・モーントズィッヒェルは白のワイシャツの胸元を引っ張り風を送り込む。

「ティエンは連れて来なくて正解だったな……この暑さじゃすぐバテちまう」

 涼しい我が家で留守番をしてくれているオスのレカーロを思い浮かべて、とびきり美味しいスイカを持って帰ってやろうと決める。
 カインの視線を感じ取ったのか、不思議そうな顔で振り向いたイェルクに小さく微笑んで、従業員から借りたハサミを鳴らしメイン会場でもある畑へと歩き出した。カインの右腕は、当然のようにイェルクの腰に回される。

 一足先にスイカ狩りを始めていた胡白眼は、己の髪がやけに熱を持っていることに気付き、土がついた指でそっと頭に触れてみる。家を出た時には確かにそこにあったはずの帽子の感触は、ない。
 地面にしゃがみ込んで既に数十分が経過した今この瞬間に、漸く白眼は自分が電車の中に帽子を忘れてきたのだと知った。

「しまった、帽子忘れたぁ……」
「……。やれやれ、困った人だ」

 片手で顔を覆いドジを悔いる白眼の隣で、慣れた所作で食べ頃のスイカを検分していたジェフリー・ブラックモアは、苦笑混じりに目を細める。白眼の艶のある黒髪は、この炎天下ではさぞかし熱を集めることだろう。これが美しい女性の髪なら、とややげんなりしつつも、頭に付着した土を払ってやる。予想以上に熱くなっている髪に、ジェフリーは小さく嘆息した。

「テイルス用ので良ければ被っておいで」

 ぽん、と。自分が被っていたハットを、背中を丸めて落ち込んでいる神人の頭に乗せてやる。

「あ、ありがとうございます。でもこれだとジェフリーさんが、」
「日射病になるつもりはないさ。つらくなったら遠慮なく休ませてもらおう」
「……ありがとうございます」
「さっきも聞いたよ」

 申し訳なさそうだった白眼の表情にほんのりと喜色が滲むのを見て、ジェフリーはそれ以上は何も言わずに作業に戻る。葉や茎を傷つけないように注意して見付けたスイカは重さも大きさも申し分なく、刃の分厚いハサミを使い手早く収穫した。
 鮮やかな手腕を披露するジェフリーの指と、餌を探していたであろうカマキリが接触事故を起こしても、精霊は慌てることなくカマキリを摘まんで作業範囲の外へと逃がしてやる。その様をじっと観察していた白眼は、意外そうに口を開く。

「とても慣れているように見えるんですが、畑仕事の経験があるんですか?」
「ああ、故郷では農家を手伝うこともあったから」

 どこか懐かしげに口元を綻ばせるジェフリーの横顔。
 蝉の鳴き声と、スイカ狩りに夢中になった李月とゼノアスが頭をぶつけた音。
 遮るビルがないからか、風はきりりと引き締まっている。
 信頼する精霊の赤毛の尻尾が揺れるのを横目に、白眼は胸の奥からあたたかな充足感が溢れてくるのを実感した。

「こうしていると、なんだか、癒されますね」

 一拍置いて、そう? と呟き顔を背けたジェフリーも、もしかしたら同じようなことを思ってくれていたのかもしれない。

「それにしても立派な西瓜ですねぇ!」

 なんだかこそばゆい心境になった白眼は、仕切り直すように獲ったばかりのスイカを持ち上げる。

「そうだ、」

 何事かを思い付いたらしい白眼を、左右で色の違うジェフリーの瞳が見上げた。

 アイオライト・セプテンバーの小さな掌が、楽器を奏でるかのように軽やかにスイカを叩いていく。とんとん。ぽんぽん。

「食べ頃のスイカって、叩いたときの音でわかるんだよね?」
「物知りだね、嬢」
「んー……でも、どの音がいいのかよくわかんないや」

 もう直感で決めちゃおう、と元から大きな青い目を更にまんまるくして獲物を物色するアイオライトの横では、

「嬢、体調が悪くなったらすぐに言うんだよ、日射病や熱中症になるといけない。……ふむ、熱中症、ねっちゅうしょう、ね、ちゅう、しよう、か……なるほど、素晴らしい」

 長身を屈めてスイカをあやしげな手付きで撫でながら、ヴァンデミエールがひとりごちては何かに納得し頷いていた。
 イルカのパペットを模した揃いのハットで日射しを避けるふたりは、ともすれば祖父と孫のようにも見えるのだが――主にヴァンデミエールの発言が原因で、和やかな家族同士、ではないことがすぐにわかる。しかしそこはやはり絆が必要不可欠なウィンクルムだ、目当ての一玉を決めたらしいアイオライトを見守るヴァンデミエールの視線からは、凪いだ海のような静かな親愛の情が見て取れる。

「やあ、これはまた立派なモノを選んだね」
「でしょー。パパへのお土産にするんだ」

 甘いかな? と尋ねる声に、甘いに決まっているさ、と請け負う声。夏が始まってから、早寝早起きの習慣を続け元気に外で遊び回り健やかに成長しているアイオライトは、花が咲いたようにぱっと笑顔になる。虫除け対策も万全の、花にも似たこの小さな神人に近付ける悪い虫はいない。

「じゃあ、もっと美味しくなるおまじない!」

 そう言って取り出したのは、わざわざ家から持参したお気に入りのパンツだった。獲りたてのスイカの下半分をいそいそと布の中に仕舞い込み、恰も『パンツを穿いている』ような状態にする。

「ほらー、かわいいー。パパもきっと喜んでくれるはず♪」

 重たそうに両腕で抱えたパンツスイカをいろいろな角度から眺め、その出来栄えに満足するアイオライトの眼前に、そっと髪飾りが差し出された。ヴァンデミエールがいつも使っているオールドローズ・レッドである。

「僕の髪飾りを貸すから、これも付けるといいよ」
「ほんとっ? ありがと、じーじ!」
「折角だからあとふたつ、お持ち帰りしようか。巻きひげが付け根まで茶色く染まっているスイカが、収穫に適しているらしいと聞いたことがあるんだけれど」

 地面を見下ろすアイオライトたちの手元が、誰かの影でふっと暗くなった。

「ここ、スイカいっぱいだねー、広いねー、凄いねー。……ねえ?」

 ふたり同時に顔を上げると、そこには薄く微笑む叶と、スイカ一玉を抱えた桐華が立っていた。

「胡さんたちに誘われたんだけど。君もする? スイカ割り」
「するー!」

 勢いよく立ち上がったアイオライトの腕から落ちたパンツスイカを、ヴァンデミエールが危なげなく受け止める。

●Bam! Bam! Bam!
 豊かな自然が売りなだけあって、農園の敷地内には遠くの山まで繋がる川もあった。午後一番、昼休憩のあとのスイカ割りに使われることとなった新鮮な果物は、ネットに入れられ自然のクーラーボックスとも言えるその川の中で穏やかな水流に煽られていた。
 銘銘に昼食を楽しんだ今、次はいよいよ遊びの時間である。
 急いで食べるあまりおにぎりで窒息しかけたものの、気の利く相棒が用意していたお茶のお陰で九死に一生を得たゼノアスは、食後の休憩をとることなく李月の手を引き川遊びに興じている。
 彼らが遊ぶ川のすぐ側の、拓けた一画。充分に冷えたスイカをシートの上に設置して、一番手の叶に目隠しが施された。生憎バットはなかったため、代用品として借りた箒に額を乗せた叶がぐるぐる回るのを皆と応援しながら、カインは冷たい麦茶で喉を潤した。イェルク手製の弁当を、イェルク本人の手で食べさせてもらって満足そうだ。カインに寄り添うイェルクの頬は、まだ恥ずかしさが尾を引いているのか、いつもよりも赤い。

「あー……すっごい……目が回った」

 不届きな果物泥棒を追い払う際にとても役立つらしい木刀片手に、十回回った叶がふらふらと歩き出す。布で塞いだ視界は暗く、平衡感覚などはとうに失っている。唯一頼りになる聴覚でさえ、どの情報が真実でどの情報が嘘なのか、もうわからない。

「もっと右だよ」
「ジェフリーさん、意地悪はだめですよ」
「そのまままっすぐ、ぶはっ!」
「はっはっはァ! 隙ありだぜリツキ、どうだ必殺水鉄砲は。オレから目を離すんじゃねぇ」
「お、いい調子だ。頑張れ頑張れ」
「叶さん、前方に大きな石があります。気を付けて」
「もっと! もっと左だよー」
「太陽の下、赤い果実に棒を抉りこむ遊びか……隠喩かな」
「……叶。足元にもっと注意を払え」

 三者三様の誘導とフォローに、叶は密かに口角を上げた。自分でもわからないほど、小さく。
 心が高揚するのがわかった。楽しい、と。

「そいや!」

 ある程度信用できる声と、そして何より自分の勘を信じて、大きく振り被った木刀を振り落とす。
 鈍い音。両手に走る確かな感触。
 歓声を背中で聞き片手で目隠しを取り去ると、瑞々しい赤色を見せるスイカが足元にあった。スイカ割りは、成功だ。何度か瞬きをしている内にじわじわと喜びの念が湧き出た叶は、癖のあるギャラリーに向けて控えめなピースサインを見せた。
 二番手はアイオライトだ。天真爛漫な彼に嘘の情報を与えるのは心苦しく、全員で和やかに応援する。

「運動した分は水を飲め」

 横から伸びて来た手には、並々と水が注がれた水筒のコップ部分が握られていたが、叶は受け取らずに、ソーダがいい、と静かな口調で注文をつける。唯一我儘が言える桐華に。

「……農家にあるか聞いてくる」
「冗談だよ」

 仏頂面で立ち上がろうとした桐華を引き止め、喉を鳴らして水を味わう。美酒ではないが、勝利の水は格別に美味しかった。

「楽しいか」

 中々スイカに木刀が当たらず、三度目の挑戦をするアイオライトへ視線を遣ったまま、桐華はぽつりと問い掛ける。

「楽しいよ、すごく。今日は初めてのことがたくさんできた」
「そうか。良かった」

 良かった、と答えた桐華の声は、言った本人が内心狼狽する程度には安堵の色が濃いものだった。無造作に地面に投げ出した互いの小指が、触れそうで触れない微妙な距離。叶がおかしそうに肩を揺らして笑った。

「桐華さんもスイカ割りやってくれたら、もっと楽しいんだけど」

 そう言われてしまえば、桐華にはもう、参加する他に術はなくなる。

 李月は、すっかり濡れて肌に張り付くシャツを引っ張り、裾を絞って余分な水分を落とした。傍らで繰り広げられるスイカ割りに少しでもアドバイスをしようものなら、ゼノアスから遠慮のない水鉄砲が飛んで来るのだ。本気で妬いているわけではないのは精霊の顔を見ればすぐにわかる。所詮戯れの水遊びは、程良くふたりの体温を下げていく。

「ゼノもスイカ割り、したいんじゃないのか」

 服が濡れるのは構わないが、眼鏡のレンズまで濡らされるのは厄介だなと思いながら尋ねてみると、ゼノアスは何故か腰に両手を当てて威張ってみせた。

「濡れたリツキを見てるほうが楽しい」
「……」

 これである。
 しかしゼノアスとて盛大に濡れそぼっている状態なのだ。スイカ狩りに合わせたラフな服装をしてきたので、薄手のシャツは今やぴたりとゼノアスの身体に纏わりつき、綺麗についた腹筋の凹凸や上腕の骨格が目立つ。下手をしたら裸の時よりも――と、そこまで思考が及んで、李月は急速に血液が首から上に集まるのを感じた。自分はいったい、何に見惚れて何を考えていたのか。

「お? ……なんだよ相棒、惚れたか?」
「!」

 からかうように、余裕たっぷりに犬歯を覗かせて笑うゼノアスに何も言い返せずに、李月は八つ当たり気味に両手で水を掬い顔面目掛けて攻撃してやる。甘やかな雰囲気はすぐに霧散した。
 そろそろスイカを食べませんか、と誘われるまで水遊びを満喫して、冷やしておいた二玉を分け合って食べる。李月は四分の一切れを。ゼノアスが一玉まるまると残りの四分の三を。精霊のいっそ清々しいほどの食欲を気に入っている李月は、彼が種を飛ばすであろう位置を予測してひとつ残さずゴミ袋でキャッチする。残りの一玉は、明日にでも家で切り分けて食べさせてやろうと計画して。

「やるな! さすがオレのリツキ!」
「種、ついてるぞ」

 ゼノアスの頬についた種を人差し指で取ってやると、果汁で濡れた口がありがとな、と動き、李月の心臓の鼓動がまた忙しないものへと変化してしまう。

「……ゼノは親友だ、大切な親友だ。そうだ、親友だ」
「? どうした、相棒」

 眼鏡のブリッジを押さえてぶつぶつ何事か唱え始める李月に、ゼノアスは疑問符と、ついでにまた種を飛ばす。ほとんど無意識に李月は袋を広げた。キャッチ。

●Caw! Caw! Caw!
 好き勝手に四方八方枝を伸ばす木の下。木陰に入るだけでずいぶんと涼しくなるものだとカインは思った。

「スイカ、美味かったな」
「ええ」

 持ち帰り用のスイカを獲りに行った者もいれば、農園の散策に出た者もいる。誰も自分たちのことなど見ていない状況だ。恥ずかしがりの気のあるイェルクは、自宅にいる時のように寛いだ気分でカインの肩に頭を乗せる。

「イェルの弁当の次に、だが」
「……また作りますよ」

 カインが中心となって収穫したスイカは、どれもはち切れんばかりに膨れてまさに食べ頃、といった形だった。ひとつは先程ふたりで食べ、ひとつは勤務先や隣近所にお裾分けするために持ち帰る予定だ。最後のひとつはスイカ割りに提供したのだが、発案者の白眼も、叶にせがまれて参加した桐華も結局割れずに、目隠しも何もしないでカインとイェルクが一本の木刀で仲良く割った。あれはスイカ割りというよりはむしろ、と思い返していたイェルクはそわそわと手を握ったり開いたりした。
 (ケーキ入刀のようだった。……なんて、恥ずかしくてカインには言えないが)

「初めての共同作業みたいだったよな」
「え!」
「ん?」

 まるで心の中を見透かされたような発言に、イェルクはがばりと顔を上げる。カインは意地の悪い笑みを浮かべている、わけでもなく、優しい手つきでイェルクのベールを直すだけだ。その仕草に、身内だけで行った結婚式を思い出す。ささやかだったそれは、しかし幸せに満ち満ちていたのもまた事実だ。カインと将来を誓い合い、共に歩む決意をした特別な時間。
 長い指が、そっとイェルクの前髪を上げる。睫毛を震わせて目を閉じるのと、額に柔らかな唇が押し当てられるのは同時だった。何度も何度も繰り返している、スキンシップの延長でしかない幼いキスだが、それでもイェルクは毎回毎回、いっそ不安になるほどカインからの愛情を実感する。いったいカインの唇はどんな構造をしているのかと不思議に思ってしまうのだ。

「顔、赤くなってるぞ。スイカみてぇに美味そうだ」
「ムードがない……」
「今すぐ食っちまいたい」

 耳元で囁かれた言葉に、イェルクが息を飲んで身じろぎしたその瞬間。うわあ、という声がふたりの耳に届いた。声のしたほうを見てみると、きょとんとした顔のアイオライトと、彼の左手を握るヴァンデミエールと、やれやれといった風に尻尾を垂らすジェフリーと――何故か頭にカエルを乗せた白眼が、その場に尻餅をついていた。先の声はどうやら白眼のものらしい。

「スイカ割りを提案してくれた胡さんにお礼したくって、さっき拾ったカエルさんプレゼントしたんだけど。んー……カブトムシのほうが良かった?」

 アイオライトのその言葉が的確に現状を物語っており、カインとイェルクは顔を見合わせて穏やかに笑い合う。いつの間にやら繋いでいた手の、指と指同士をしっかりと絡めて。

「おい、あんたら」

 朝、農園での決まりごとなどを説明してくれた男が、何やら慌てた素振りでやって来る。すわオーガの再訪でもあったかと身構えた面々に告げられたのは、

「あと十分で電車が出ちまうぞ。ここは田舎だからな、それを逃したら明日まで帰れなくなる」

 オーガよりも恐ろしい現実だった。見上げた青空はオレンジ色に染まりつつあり、カラスが高らかに鳴いている。
 駅までトラックで送るから荷台に乗れ、と急かされ、一行は今日一番の俊敏な動きを見せた。
 今度は盛大な式を挙げるか、とおどけるカインの背中を押して、イェルクは走る。腹が減ったと嘆くゼノアスを、ゴミを纏めながら李月は宥める。

「桐華さん。スイカは美味しかったし、楽しかったし、安全安心二重丸だし……来て良かったね」
「そうだな」

 猛スピードで走るトラックの荷台。夕日を背負った叶に、桐華は心の底から同意した。
 白眼の頭から飛び去りかけた帽子を捕まえようとして、昨日よりもやや日に焼けた腕を、皆が次々に伸ばす。

 翌週から、スイカ農園は例年通りの賑わいを取り戻したそうである。



依頼結果:成功
MVP
名前:胡白眼
呼び名:フーくん
  名前:ジェフリー・ブラックモア
呼び名:ジェフリーさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター ナオキ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 07月27日
出発日 08月04日 00:00
予定納品日 08月14日

参加者

会議室

  • [13]胡白眼

    2016/08/03-23:23 

    プラン提出しました。スイカ割りでご一緒する人もしない人も、ふわっと宜しくお願いします。
    でもスイカはぱかっと割りたいものですね!

  • [12]叶

    2016/08/03-23:06 

  • お、悪い
    確認が遅くなった
    既にプランできてたんでふわっとした形でしか盛り込めなかったが、現地で会うことがあったらよろしくなー。

  • [9]叶

    2016/08/03-21:44 

    わーい白眼さん準備ありがとー。混ざりやすい仕様もありがとー!
    ふわっとふわっとスイカ楽しもうー。
    僕も多分概ね真面目ーにやると思うけどー…ま、なるようになれーい!

  • [8]李月

    2016/08/03-19:46 

    李月とゼノアスです。

    スイカ割の話が出ていたんですね。
    僕等はきっと、楽しそうだなぁと遠巻きに見かけるんだと思います。
    お会いしたら挨拶、とはプランに入れさせて貰ってます。

    それではどうぞよろしくお願いします。

  • 半端な時間だけど、はいはい、あたしもスイカ割りしたいでーすっ
    スイカは提供しなくても、よさそう?
    でも、することになっても大丈夫だよー

    「押すなよ絶対押すなよ」のダチョウメソッドですね、わかります。

  • [6]胡白眼

    2016/08/03-15:00 

    >叶さん
    (元気な挙手にぱっと顔を綻ばせ)
    ご参加ありがとうございます。スイカ提供の申し出もありがたいです!
    参加者がどの程度増えるかわかりませんが、俺と叶さんのとで2玉あれば十分ですよね。
    準備はこちらで済ませておきますので、「スイカ提供」とプランに書いて頂ければと思います。

    あとはアクションですが、合わせプランするのは時間的に厳しいかな。
    スイカ割りがメインになってもいけないでしょうし……。
    ・自分の番
    ・自分の精霊の番
    ・他の人の番
    ここらへんの行動をゆるっと書いて、絡みはGMさんにお任せする感じでどうでしょう?
    とりあえず俺は、誰の番でもスイカに当たるよう真面目にやると思います。
    ……い、いたずらしたら嫌ですからねっ?(PL界における反語)


    叶さん以外にも興味のある方は、上記の行動をプランで示せばふわっと参加できるかと。
    時間ぎりぎりでもお気軽にどうぞ!

  • [5]叶

    2016/08/03-00:09 

    ス イ カ 割 り !

    やりたいやりたいやりたい!僕スイカ割りやってみたーい!(全力で挙手)
    無料分が3玉だけど、僕んちスイカ3玉も持って帰っても仕方ないから、
    そこから一個割るのも問題なくオッケーだよーとだけは言っておくね。

  • [4]胡白眼

    2016/08/02-23:18 

    胡白眼(ふぅ・ぱいいぇん)と申します。
    新鮮で立派なスイカをお安く頂けるのは嬉しいですねぇ。

    せっかくですから、どなたかご一緒にスイカ割りでもしませんか?
    その場で食べても構わないというお話なので、畑の隅をお借りして。
    農家さんに水を頂いてスイカを冷やしておき、午後に楽しむ形を考えています。

    挙手がなければパートナーのジェフリーさんとふたりで……、は寂しいな。
    ご近所の方でも誘ってみましょうか。ふむ。

    ひとまず宜しくお願いしますね。

  • [3]叶

    2016/08/02-17:55 


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