肝試しへ行こう ~蛍の川原~(夕季 麗野 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 —―とある小さな田舎町での出来事です。
この町では、毎年夏になると肝試しが行われることになっています。
パートナーとあなたは、偶然この町に通りかかり、ひょんな事から胆試しに参加してみることになりました。

実は、この肝試しには、ともに参加したカップルに、恋の幸いが訪れるというジンクスもあるのです。

肝試しの内容は、町の外れの林をぬけて、蛍の川原という川辺へ向かい、そこに佇む二対のお地蔵様に造花をお供えするというものです。
このお地蔵様は、縁結び地蔵とも呼ばれており、お願いごとをすれば、恋の進展に悩む人に幸運を授けてくれるそうです。
この川原は、【蛍の川原】と呼ばれているので、運が良ければ蛍をみることもできるでしょう。
川原の土手には、アマリリス、オトギリソウなど夏の花もたくさん咲いています。
土手に座って夜の会話を楽しむのも良いかもしれません。

なお、スタートは一斉ではなく、各々のカップル(ウィンクルムたち)ごとになりますので、途中で鉢合わせするなどと言った事はございません。

精霊が怖がる神人をリードしたり、またはその逆もあったり……。
あるいは暗くて人目がないのを良いことにイチャイチャしたり、内緒の会話をしたりなど、思い思いの肝試しを楽しんで見て下さい。

せっかくの夏の夜。
肝試しはちょっと怖いかもしれませんが、パートナーとの距離を縮める、絶好のチャンスかもしれません。
ドキドキの一夜を、体験してみませんか?

解説

参加費として300ジェールいただきます。
肝試しは、暗い林の中を移動しますので、足下に注意して下さいね。
林では脅かし役の町人がお化けの格好で所々に潜んでいるほか、蝙蝠がいたり、虫がいたりとちょっと怖い要素が色々有ります。

また、移動中の会話などは自由にご記入してください。
川原のお地蔵様にたどり着いたら、お願いをすることが出来ます。
恋のお願いならなんでも可能です。

※なお、同時期に公開された女性PC用のエピソードとは、向かう肝試しの場所が違っていますが内容に大きな差はございません。

ゲームマスターより

夏真っ盛りという事で、夏の定番【肝試しシリーズ】をお送りいたします。
どうぞ、スリルとラブに溢れた一夜をお過ごし下さい(^^)
ご参加、お待ちしておりますm(__)m

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アルヴィン=ハーヴェイ(リディオ=ファヴァレット)

  ……うぅ、思ったより怖いよぉ…。
…でも、恋の幸いが訪れるってジンクスを聞いたら参加しないわけにはいかないよね。


その…リディ。えいっ(腕にしがみ付き)
えへへ、これなら安心。

林の中、暗いから転んだりしないように気を付けないと。
…まさか、お化けとか出たりしないよね。
……大丈夫、大丈夫。リディが一緒にいるんだし(お化け役に脅かされたり怖い要素があるとリディオにいちいち抱き着く)

…やっと林を抜けられたぁ。
ここが蛍の河原なんだね。蛍が見られるともっと良いんだけどね。
あ、このお地蔵様にお供えすればいいんだね。
お願い事は…勿論、リディとの仲がもっと深まりますように…かな。


セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
  怖くない怖くない
信頼してるタイガと一緒なんだ
夜道にお化け役がいてもお化け屋敷と大差ない…あれも苦手だけど
訓練だと思って。オーガと戦う方が、よっぽど怖いのだし
タイガに心配されるのは嬉しいけど僕もできるところ見せたい

■造花をもつ(2本あるなら懐中電灯も
そうだね
…今日はいい。夜道に慣れておきたいし、まだいい。平気だから

蝙蝠に物音にびくっ
ひゃっ…(変な声を聞かれて赤く
いいってば

それは同感。暑さに強いからって無理しないでよ
蛍だ…(虫の声や花も
夜って暗くて怖い物って思っていたけど息づいてるんだね

いらない!そういうのいらないから…!
■何かに驚きタイガに飛びつき
ごめん…やっぱりタイガといると安心する


アイオライト・セプテンバー(白露)
  ふふーん、せっかくの肝試しだもーん
いっぱい怖がっていっぱいパパに抱きつくぞー

でも、怖がるのってどうすればいいのかなあ
「アイはかわいい女の子だから仕方がないですね(なでなで」ってパパが思ってくれる恐がり方したいんだけど…
あっ、おばけみーっけ
結構かわいい顔してるかも(ぺしぺし
お化けさん、バイバイまたねー(。・_・)ノ

ガーン
お地蔵様のところまで来たのに、怖がるチャンスが全然なかった
だってだって、オーガとかと戦うときの方が、ずっと大変だし恐いんだもん
んー、でも、パパとずっとお手々つなげたからいっか
ううん、なんでもないよ
そうだ、お地蔵様に「おうちに帰ったらパパとべたべた出来ますように」ってお願いしよう


李月(ゼノアス・グールン)
  参加する事になったけど
恋の幸い?
相棒とは特にそういう関係ではない (筈
顔見合わせ まいいか

道中
虫よけハーブ携帯
オーガと比べればお化けなんぞフフン
脅かされ ぎゃわー!

地蔵
造花供え
お隣さんのプードルの見合い成功祈っとくか
ぱんぱん
恋…か

土手
気付けば後ろから抱え込まれる形で座ってる
外はやめろって
抗議あしらわれ…まあ人はいないけど
蛍に感嘆
魅入ってたら相棒が!?
(こ、恋しいって
毎日顔突き合わせてるのにか?
くそっ 動悸が…

決定的な事言われるの避けたい
照れつつ
親友だよ
楽びたい事も行きたい場所もお前と一緒がいいんだ
僕はそう思ってる
お前は違うのか?

腕の中が嫌じゃない時点で決定的なのかもしれない
けどもう少し心の整理が必要で


胡白眼(ジェフリー・ブラックモア)
  林の中では終始びくびく
繋いだ手だけが頼りだという気持だ
「だって、お化け役の中に本物が混ざっていたら…!」

造花を供えてやっと一息。無論願い事どころじゃなかった
緊張が解けるにつれ恥ずかしさが込み上げる

「ジェフリーさんは、幽霊とか信じてないんですか」
答える彼の声をどこか冷たく感じて、唇を噛む
呆れられたよな
嫌われた、かな
心臓が嫌な音を立てる。……肝試しの比じゃない

『あぶないよ!』川向うからの警告に、咄嗟に抱き寄せる
「ジェフリーさん。そこ、足場が悪くなってます」

「俺じゃなくて、あの女の子が……」
指さす先には闇に蛍が舞うばかりで

こくこく頷いて町へ戻る
顔は思い出せないのに、幼い少女の赤毛が目に焼き付いている


●アイオライト・セプテンバーと白露の場合――笑顔の肝試し――

 時刻は、午後八時半。
肝試しに参加するウィンクルムたちは、クジ引きで順番を決めてから、一組ずつ林の中に入っていく事になっていた。
トップバッターは、アイオライトと白露の二人組だ。
鬱蒼と茂る木々、どこからともなく聴こえる虫の声。
誰もが不気味だと感じる夜の林だが、アイオライトは心なしか楽しそうに見えた。
「ふふーん」
(折角の肝試しだもーん。いっぱい怖がって、いっぱいパパに抱きつくぞー)
白露は、そんなアイオライトを心配そうに見つめている。
正直、白露にとっては肝試しよりも、アイオライトがこんな暗い林の中で迷子になってしまう事のほうが、よっぽど恐ろしいのだ。
「アイ、私から離れてはいけませんよ」
「はーい」
「いなくなられても困りますから、手を繋いでいきましょうか」
 白露は、ぎゅっとアイオライトの手を握りしめた。
これで、急にアイオライトが走り出そうとしても、引き止める事が出来るだろう。
「えへへ♪」
 大好きな白露に手を引かれ、ぴったりとくっついている状況に、アイオライトの頬もほころぶ。
(でも、怖がるのってどうすればいいのかなあ……。「アイは可愛い女の子だから、仕方ないですね」って、パパが言ってくれるような怖がり方したいんだけど)
風で茂みが揺れたり、頭上を蝙蝠が飛びかったりしても、ニコニコ笑っているアイオライト……。
「肝試しだとは分かっていますが、この季節の夜の散歩は気持ちが良くて、風流ですね」
 一方の白露も、涼しい夜風を受けながら、散歩を満喫している雰囲気だ。
肝試しらしからぬ、なんとも和やかな空気が流れ始めた、その時――。
「う、うらめしや~……」
「あっ! おばけみーっけ!」
「!」
 勇気を振り絞って楽しそうな二人の前に飛び出したのは、脅かし役の町人だ。頭から白い布をすっぽりと被っており、顔の部分に黒いペンで「へのへのもへじ」のような模様が書かれていた。
「結構、かわいい顔してるかも」
 アイオライトは、無邪気にお化けの頭をぺしぺし叩いて遊び始めている。天真爛漫なアイオライトに、町人もタジタジのようだ。
「アイ。お化けにちょっかいかけるのは、やめなさい。――すみません」
 白露がぺこりと頭を下げてお化けに謝ると、アイオライトもそれに習って、「ごめんなさい」とお辞儀をした。
「お化けさん、バイバイまたねー♪」
「ば、ばいばいー……。……あの人たち、全然怖がって無いな……」
 手を繋ぎあい、意気揚々と奥へ進んでいく二人の背中を、お化けさんはしょんぼりと見送ったのだった。

***

 順調に林を脱出した二人は、目的地の『蛍の川原』の地蔵までたどり着いたのだが、アイオライトの表情は、少し曇っている。
(どうしよう! お地蔵様のところまで来たのに、怖がるチャンスがなかった……)
楽しくお化け役と遊んでしまったことに、後からショックを受けたアイオライトだが、普段はオーガと戦ったり、危険と遭遇する機会も多い身分だ。
――些細な事に怯えられなくなるのも、無理はないのかもしれない。
「お地蔵様にご挨拶しないのも失礼ですから、お参りしましょう」
 白露は、アイオライトをお地蔵様の前まで、優しく先導していく。
(んー。でも、パパとずっとお手々繋げたから、いっか)
握った手が温かく心地よかったので、アイオライトの気持ちも次第に落ち着いていった。
「今日も無事に過ごさせてもらって、ありがとうございます」
 白露が、お地蔵様に造花を備え、丁寧にお願い(というより日ごろの感謝)をしている姿を見て、アイオライトも自分のお願いを真剣に考え始める。
「アイ、どうかしたんですか?」
「ううん。なんでもないよ」
 可愛く怖がる姿を見せることはできなかったが、大好きなパパの隣で、楽しい肝試し気分を味わえた。
アイオライトは、それだけでも十分嬉しいと思えたのだ。
「……そうだ、おうちに帰ったら、パパとべたべたできますようにって、お願いしなきゃ」
 ――だから、今日一番の笑顔で、白露に微笑みかける。
そんなアイオライトを見ていると、白露も自然と笑顔になれるのだ。
「では……明日の健康も、ついでにお祈りしましょうかね」

 帰る前、揃ってお地蔵様の前に並んだ二人は、仲良く手を合わせて、お祈りを捧げたのだった。
二人にはきっと、その笑顔のように素敵なご利益が待っているに違いない。

●李月とゼノアス・グールンの場合――恋と友情の狭間――

 肝試し二組目のウィンクルムは、李月とゼノアスの二人だ。
「リツキ。なんだ、それ?」
「虫除けだ」
 ゴールのお地蔵様の元へたどり着くには、木々に覆われた林の道を通り抜ける必要がある。
蚊や蛾ならまだしも、百足など危険な虫が出没するかもしれない。李月は虫除けハーブを携帯して、対策を立てていた。
そして、一方のゼノアスはと言うと、サバイバル4の勘で周囲の人の気配を探っていたのだ。
「あそこ、風もねぇのに揺れてるぜ? 何か飛び出したりすんじゃね……?」
 李月にわざとらしく耳打ちしたゼノアスは、前方の茂みを指差してみせる。
「へ、変な事言うな。オーガと比べれば、お化けなんてな……」
「うらめしやー!」
「ウァアーッ!?」
 すると、案の定、身を潜めていた脅かし役の町人が、李月の前に飛び出してきたのだ。
慌てた李月が後ろへ逃げようとすると、その背後にはゼノアスが……。
「ばぁあー!!」
「ギャワーッ!? ……って、脅かすなゼノッ!」
 ――こうして、二重に脅かされた李月がすっかり拗ねてしまったのは、無理も無い話である。

***

 蛍の川原は、静かな夜の静寂と、飛び交う淡い光に包まれていた。二人は、川べりに佇む地蔵の元に近づき、持ってきた『造花』を供える。
「プードルの見合い成功でも、祈っておくか」
 李月は、瞼を閉じて手を合わせると、お隣さんの犬の事を真剣に祈り始めた。
「あー、はいはい。わんこ幸せにな……っと」
 そんな李月の姿に釣られたゼノアスもまた、同じ願いを唱えるのだった。

***

 願掛けを終えた二人は、土手へと上がり、河原と蛍をじっと眺める。
「外はやめろって……」
「誰も見てねぇよ。ほら、蛍だぜ」
 ゼノアスに背後から抱きかかえられて、気が気でない李月だが、目の前には無数の光が宙を舞っている。
思わず、その美しさに目を奪われてしまった。
しかし、それとは裏腹に、ゼノアスの胸のもやもやはどんどん膨らんでゆく。
「コイはわからねぇがよ。オレはいつだって、オマエが恋しい……」
「ゼノアス?」
 不意に投げかけられた熱っぽいゼノアスの言葉と、肩に載った固い顎の感触……。
(こ、恋しいって……僕をか?)
意識しないようにしようとすればする程、李月の背中を通して、ゼノアスの温もりが伝わってくるのだ。
「オレらは本当に『親友』なのか? なんかしっくりこねぇんだよな……オレのは」
「……親友だよ」
 ゼノアスの疑問を受け止めた李月は、やや間を空けてから答えを口に出した。
心のどこかに、ズルイ自分がいる。
――ゼノアスの「決定的な言葉」を、避けようとしている自分が……。
「何をするにも、お前と一緒がいいんだ。僕は、そう思ってる」
 李月が、あと一歩を踏み出せないでいるのは、この関係を大事にしたいと素直に思えるから……。
それだけゼノアスが大切であるという事実に、変わりはない。
「親友か……そうか。分かった」
 まだ燻る想いがあるものの、ゼノアスは李月の今の気持ちが、ただ嬉しかった。
腕に力を込め、自分の胸の中に閉じ込めようとするかのように、思いっきり李月を抱きすくめる。
「っ、流石に、苦しいだろ……」
 ――時に強引で、でも力強くて、真っ直ぐなゼノアス。
彼の腕の中に心地よさは感じるけれど、嫌悪を覚えた事はなった。
(まだ、時間が欲しい……)

 李月の心に芽生え始めた恋の予感は、この蛍の光のように淡いまま、ふわふわと揺れているのだった。

●アルヴィン=ハーヴェイとリディオ=ファヴァレットの場合――願いはひとつ――

 肝試しに参加するウィンクルムも、アルヴィンとリディオで三組目だ。
時刻はそろそろ、午後十時半に指しかかろうとしている。
闇は一層と濃くなり、林の中は物々しい雰囲気に包み込まれていた。
「……うぅ……。これは、思ったより怖いよぉ……」
「アル。僕がついているから、安心して」
 怯えている様子のアルヴィンの手をそっと握りしめたのは、精霊のリディオだ。
リディオのさり気ないエスコートや、宥めるような優しい言葉には、アルヴィンへの気遣いが溢れている。
これだけ徹底されたら、アルヴィンもつい甘えたくなってしまうだろう。
「その……リディ。――えいっ」
「……アル?」
「えへへ、これなら安心」
 アルヴィンが無邪気にリディオの腕に抱きつくと、リディオはその様子が微笑ましくて、口元を緩めて微笑んだ。
和やかなムードが漂い始めた、その時。
突然、右手側の茂みが大きく揺れ――。
「うらめしやー!」
「うわぁっ?」
 アルヴィンの前に、突然脅かし役の町人が現れたのだ。
すかさず、リディオがアルヴィンを庇うように抱き寄せ、お化けから守った。
「落ち着いて、アル。ほら、白い布を被っている、ただの人だよ。それにあの狐のお面も……よくよく見ると、愛嬌がある気がしてこない?」
「……う、うん。確かに」
 リディオは、反対の手でアルヴィンの髪を優しく撫でながら、小声で耳打ちする。
彼のしっかりした腕や、あたたかい手の温もりに包み込まれると、アルヴィンの気持ちは、次第に穏やかさを取り戻していった。
(リディが一緒にいるんだし、大丈夫だよね)
「ああー、うらやましいわぁー。お幸せにぃー」
 入る隙も無いほどラブラブな二人を見た脅かし役の町人は、白い布をずるずると引きずりながら、その場を退散して行ったのだった。
 その後も、蝙蝠が上空を飛び去ったり、突風で茂みが大きく揺れてざわめいたりと怖い要素は沢山あったのだが、アルヴィンが怯える暇も無いほど、リディオがしっかりとガードしてくれたのである。
「こう言うと不謹慎かもしれないけど、怖がってる姿も可愛いね、アル」
「うぅ、ちょっと複雑だなぁ……。でも」
「でも?」
「ふふ……っ。なんでもない」
 ――リディになら、どんな姿の自分でも、安心して見せられる気がするよ。
 薄暗い林の道も、リディオと二人で歩けるのなら、怖くない。
アルヴィンの心は、いつもリディオが照らしてくれているからだ。

***

「やっと林を抜けられたぁ」
 木々を抜け出た二人の目の前には、小さな川原と、川べりにちょこんと佇むお地蔵様の姿が見えてきた。
「アル、見て。蛍が飛んでる。――幻想的だよね」
「ホントだ……。大変だったけど、来て良かったかもしれない」
 ふわりふわりと舞う色鮮やかな光が、漆黒の闇を柔らかく照らしている。
二人は蛍に引き寄せられるように、手を繋ぎあったまま、お地蔵様の前へ歩いて行った。
「あ、このお地蔵様にお供えすればいいんだね」
 アルヴィンが、用意しておいた造花をお地蔵様の前に供え、瞼を閉じると、リディオも隣で両手を合わせる。
(お願い事は……勿論、リディとの仲が、もっと深まりますように、かな……)
(――アルが、僕の期待に応えてくれますように……)
 
 言葉は違えど、胸の中に秘められた二つの願いは同じもの。
お互いがお互いを想う純粋な気持ちを、お地蔵様の微笑が優しく見守っていた。
「せっかくだから、もう少し蛍、見ていこうか?」
 帰り際、リディオがこう提案すると、アルヴィンも笑顔で頷く。
――きっと、二人の恋のお願いは、蛍の輝きと共に舞い上がり、あの空まで届くことだろう。

●セラフィム・ロイスと火山 タイガの場合――蛍の抱擁――

 肝試しにチャレンジするウィンクルムは、セラフィムとタイガで、既に四組目だ。
(夜道にお化け役がいても、お化け屋敷と大差ないし……。いや、あれも苦手だけど)
セラフィムは、必死に自分を奮い立たせながら、どこかおぼつかない足取りで林の道を進んでいった。
だが、思いつめれば思いつめるほど、その顔色は悪くなっていく。
「セラ、ホントに平気か?」
 タイガは、セラフィムが転んだりしないよう懐中電灯で進路を照らしながら、周囲の目配りも忘れなかった。
――ここは、自分がセラフィムをリードして、デートを満喫するべきだ。
タイガは、怯えるセラフィムの前に手を差し出して、にんまり微笑む。
「手、繋ぐか~?」
「……今日はいい。夜道に慣れておきたいし。まだ、平気だから」
「えー」
 タイガは、セラフィムの予想外の反応にちょっと驚いたようだが、これもセラフィムの決意の表れなのだ。
(心配されるのは嬉しいけど、僕もできるとこ、見せたいしね)

***

 林に入ってからは、タイガが事前に調査した道順どおり歩いたので、迷う事はなかった。
スムーズ進んでいる事に、セラフィムがホッとしていた時。
――けたたましい羽音と共に、二人の頭上を黒い影がよぎったのだ。
「ひゃっ……?」
「あー、蝙蝠だな。セラ、大丈夫か?」
「っ……うん」
 セラフィムを気遣わしげに見つめたタイガは、「あと少しだぜ」と、励ますように笑っている。
だが、セラフィムは、驚いて上ずった声を上げてしまった自分が、少し恥ずかしかった。
紅くなった頬を隠したくて、思わずタイガから目を背けてしまう。
すると、セラフィムの視線の先に、淡く輝く優しい光がひとつふたつと飛んでいくのが映った。
「蛍だ……」
 二人は、蛍の後を追うように足を早め、林を抜けてゆくのだった。

***

「夜って、暗くて怖い物って思っていたけど、こんなに美しいものも、息づいているんだよね」
 林の中では見えなかった月や星の明かりも、木立の中を抜けてしまえば、手が届きそうなほど近くに感じられる。
「そうだな。月明かりの下でこうやって歩くのって、別世界を歩いてるみてーで、俺は好きだな」
 二人は、暫し並び立ったまま、夜の美しさを堪能していた。 
土手に咲くオトギリソウの花に蛍が止まると、その周りだけがぼんやりと照らされている。
「あの花、すごく綺麗だね」
「オトギリソウな。……あ、オトギリソウの怖い話って知ってるか?」
「い、いらない! そういうのいらないから……!」
 セラフィムは、慌ててその場から逃げ出そうとしたのだが、砂利道に足を滑らせそうになった。
「うわっ」
「おっと、夜の川原は危ねぇんだぞ。気をつけろよ」
 セラフィムの腕を引き、抱きとめてくれたのはタイガだ。
彼の腕の中に閉じ込められたとき、セラフィムの心は高鳴りと同時に、深い安堵を覚える。
「……やっぱり、タイガといると、安心する」
 先程までは恐怖を堪えてまで、肝試しに挑んでいたセラフィム――。
そんな彼が、素直に想いを告げるいじらしい姿を見て、タイガの胸中には愛しさが込み上げてくる。
「……そんなこと言うと、離さねぇぞ」
「タイガ……」
 その衝動のまま、力強くセラフィムを抱き寄せるタイガに、セラフィムも、そっと体を預けた。
「なぁ。地蔵までは、手繋いでこうぜ。セラが転ぶのは、見たくねぇからさ」
「そうだね――」

――でも、もう少しだけ、このままで……。
二人は、心に秘めた願いに従うまま、暫しの間身を寄せ合い、川原を見つめていた。
蛍たちの光の抱擁に、包みこまれたまま。

●胡白眼とジェフリー・ブラックモアの場合――あなたを繋ぎとめるもの――

 時刻は、午前零時を回ろうとしている。
本日最後の肝試しに挑むことになったのは、白眼とジェフリーの二人だ。
林の中は、異様な静けさに包み込まれている。
聴こえてくるものと言えば、風で茂みが揺れる音や、澄んだ虫の音。
「うわ……ッ」
 そして、白眼が時折漏らす悲鳴くらいだ。
「大丈夫? ちなみに、今のは茂みが揺れた音だよ」
「は、はい……。わ、分かってはいるんですけど」
 ジェフリーは、少しでも白眼の不安を取り除ければ――。そんな思いで、彼の手を引いて歩いているのだが……。
「うらめしやー!」
「うわわ……っ!」
 このように、突然茂みから飛び出してくるお化け役に、毎回白眼が驚いてしまうのだ。
「フーくん。あれは、布を被った人だよ。種は分かってるんだから、そんなに怖がらなくても……」
「……でも、お化け役の中に、本物が混ざっていたら……」
 まるで命綱でも握っているかのように必死にしがみつかれたので、ジェフリーは内心苦笑しつつも、急ぎ足で林を抜けていったのだった。

***

 (結局、願い事どころじゃなかった……)
白眼は、川べりにぽつんと佇むお地蔵様の前に屈み、造花を供えた。
その直ぐ隣には、ジェフリーも立っている。
(ジェフリーさん、何を願ったんだろう)
ジェフリーの蒼い瞳は、普段と全く変わらない。その中に宿る意志を、白眼には読み取る事が出来なかった。
「行こうか」
 だが、再び歩き出そうとしたジェフリーに声をかけられた時、白眼の脳裏に先程までの出来事が、一気に蘇る。
今更ながら、子供のように彼に引っついていた自分が、気恥ずかしくなったのだ。
「は、はい……」
 それきり、二人の会話は途切れた。
白眼は、川べりを飛びかう蛍の群れを見つめていたが、ジェフリーの目線の先には、鮮血のように赤い、一輪のスパイダー・リリーが映っている。
――重い沈黙に耐えかね、先に口火を切ったのは白眼だった。
「ジェフリーさんは、幽霊とか信じてないんですか?」
「――そんなものが本当にいるなら、会ってみたいね」
「……っ」
 淡々としたジェフリーの言葉を耳にした時、白眼の心臓は、どくりと嫌な音を立てて鳴った。
(やっぱり、呆れられたよな……)
――ジェフリーさんに、嫌われたかもしれない。
そう思うだけで、白眼は肝試しの恐怖さえ忘れてしまう程、恐ろしくて堪らなくなった。
しかし、ジェフリーは、白眼の様子は目に入っていない。
紅い花に吸い寄せられるかのように、一歩、また一歩と、川べりに近づいていく……。
(俺が会いたいのは、ふたりだけ……。同じ場所へ連れて行けなんて贅沢は言わないから、どうか、迎えに――)
「ジェフリーさん?」
 様子がおかしいジェフリーに気づいた白眼が、声をかけようとした……その時だ。
『危ないよ――』
「!」
 対岸から、よく通る少女の叫び声が聞こえてきたのだ。
「ジェフリーさん、そこ、足場が悪くなってます……!」
 白眼は血相を変えて、ジェフリーの腕を引き寄せ、抱きとめた。
――ジェフリーの足元では、パラパラと土の塊がこぼれ落ち、たちまち小川の水流に飲み込まれていく。
「……ッ。ごめん、ちょっとぼんやりしてた」
 抱き寄せる白眼の腕が窮屈なくらい強く、自分の腹部を抱きしめている感触――。
ジェフリーは、自分がこの腕の中で『現実に繋ぎとめられている』事を、実感した。
「大丈夫ですか……」
「ああ、もう平気だから――」
(――あの、季節はずれのスパイダー・リリーのせいだろうか。一瞬、二人の面影が水面に過ぎったのは……)
 白眼の視線を避けるように、ジェフリーは、柔らかく彼の腕を解いてから問いかける。
「この暗さで、よく見えたね?」
「いえ。俺じゃなくて、あの女の子が……」
 白眼は、先ほど向こう岸に見えた少女の姿をジェフリーに説明しようと、指差してみせる。
だが、その先を二人で凝視してみても、ひらひらと宙を漂う蛍の光があるばかりだ。
「女の子なんて……」
 これには、流石のジェフリーも背中に悪寒が走った。
その怖気は全身を伝って、しなやかに伸びた尻尾の先端まで行き渡る。
これは、明らかに深入りすべき事象ではない!
ジェフリーの全感覚が、危険信号を訴えているのだ。
「フーくん。戻ろっか……!」
 白眼は、無言のまま、こくこくと頷き返している。

(赤毛の女の子……か)

ジェフリーに手を引かれ、林を引き返していく間も、白眼の視界には、あの赤い髪の少女の姿がちらついて、離れなかった。
 それは、やや目の前を歩くジェフリーの赤い髪の毛がそうさせるのか、それとも土手に咲いた彼岸花の紅色のせいだったのかは、最後まで分からないままに――。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 夕季 麗野
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 3 ~ 5
報酬 なし
リリース日 07月15日
出発日 07月20日 00:00
予定納品日 07月30日

参加者

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