Your Hometown(木口アキノ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 遠方での依頼を無事に終えた帰りの列車。あなたのパートナーはいつになく無口で、窓の外の流れてゆく風景を眺めていた。
 外になにかあるのだろうかとあなたが気になったそのとき、列車は小さな駅でゆるりと停まった。
『ご乗車の皆様、大変申し訳ありません。タブロス行きの本線はこの先、踏切の不具合が発生したため当分の間、通行止めとなりました。尚、復旧の見通しは立っておらず、皆様には当駅で一旦下車をお願いいたします』
 トラブルを告げるアナウンスにざわめく車内。しかし、通行止めであるならば仕方ない。
 鉄道会社は無料で駅近くのホテルに宿泊できるよう手配してくれた。
 依頼の疲れと長時間に亘る移動での疲れもある。
 あなたとパートナーは、ホテルでゆっくり休むことにした。

 ホテルの狭いけれども小綺麗な部屋。
 荷物を置きひとごこちつくと、あなたは「何か飲み物でも買って来ないか」と声をかける。
 が、パートナーは窓の外、遠くの景色を眺め、心ここに在らずといった様子。
 列車内でのこともあり、思い切ってあなたは訊いてみる。どうかしたのか、と。
 するとパートナーは答えた。
 ここは、自分の故郷のすぐ近くなのだと。
 へぇ、とあなたが興味を抱くと、パートナーは言った。
 ちょっと、行ってみようかな。と。
 1人でホテルで待つのも退屈なので、あなたはパートナーと2人、彼の故郷を訪ねることにした。

 さて、そこで過ごすひとときは……?

解説

2人で、神人と精霊、どちらかの故郷(故郷というほどではなく、一時過ごしたことのある地、でも可)を訪問する、といった内容になります。
離れて暮らす家族の様子を見に行く、久しぶりに会う友達と話す、既に廃墟となった街並みを思い出に浸りながら歩く、などなどのプランを記載してください。
ホテルから故郷までの往復タクシー代として、1組500ジェール頂きます。
現地で物品を購入した場合、その物に応じて50〜500ジェール程度を消費いたします。あまり高価なものは買えません。依頼の帰りですので、現金の手持ちは多くありません。

ゲームマスターより

皆様こんにちは。
女性側エピソード「My Hometown」の男性版です。
女性版を読まなくとも何の問題もありません。
お気軽に参加してくださると嬉しいです。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)

  実家じゃなくて、春の別荘がここにあるんだ。
森が近くて、春から初夏にはとても過ごしやすくていい所だからさ。
小さい時は森でよく探険したんだぜ。おかげでアウトドア系には強くなった!色々な動物も見かけたし。
電話入れたら、姪っ子が今逗留中。
久しぶりだから会いに行こう。ラキアにも紹介したい。
今家督を継いでいる長兄の娘エリーだよ。今8歳。
「セイリューお兄様ぁ」と駆けてくる姿が可愛いだろ!(ドヤ顔。
(※栗色ふわふわクセっ毛ロングヘアのお嬢様。
おじさん呼ばわりが嫌でお兄さんと呼ばせている)
高い高いしてあげると喜ぶのが超可愛いだろ!
「自慢の姪っ子さ!元気そうで何よりだ」
一緒にお茶する。普段の冒険譚を聞かせるぜ。


アイオライト・セプテンバー(白露)
  パパの昔のおうちがあるの?
あたし見たーい
そんで、御挨拶するの♪(ぴゃー

とうちゃーくっ☆
(大声)はじめまして、こんにちはー
ぱんつとパパとじーじが大好きな、かわいい女の子でーす
パパとらぶらぶのアイちゃんが、パパのふるさとに御挨拶に来ましたよー
るんるーん♪(御機嫌
パパのいろんなこといっぱい知るチャンスだから、がんばるぞ

パパを知ってる人に訊いてみたいことがあるんだ
ちっちゃい頃のパパってどんな子だったんですかって
今のおうちにはパパの写真少ないもん
きっと可愛いかったんだろうなっ
あたしも可愛いけどー?
ね、パパ、あたし可愛いよね?

あー、楽しかった
パパが可愛かったって分かったし、あたしももっと可愛くなるぞーおー


蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
  今は誰も居ない廃墟…ここがフィンの故郷
話には聞いていたけれど…実際に見ると胸が痛い

崩れた建物を指差して、フィンが教えてくれる
ここは商店街だった
美味しいパン屋に、いつも綺麗な花に溢れた花屋が、フィンのお気に入りだったと
フィンが語る度に、情景が浮かんだ
幼いフィンが、家族の為に嬉しそうにパンと花を両手に抱えて走って

フィンの住んでいた屋敷も、今は瓦礫の山
大きな庭の、広い屋敷だったのだろう
花壇には、彼の母親が育てた花が溢れていたと言う
その名残か、瓦礫の中に美しく咲く花が…

フィンの言葉を聞きながら、背筋を伸ばす
息を吸って空へ

蒼崎海十です
俺は…誓います
俺がフィンを幸せにしてみせます
だから、見守っていて下さい


カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
  (やっぱそうか)
依頼からの帰還中じゃ寄るのは普通無理だしな

最初は彼女の所へ
(俺は月命日に来てたから彼女の所にも行ってイェルの話はしてたんだが…やっぱ気づくか)
イェルと彼女の会話は邪魔しねぇ

次はリタとエマ(NGなら同じ場所でOK)だ
「よぅ、リタ。エマ、いい子だったか?」(前半は気軽、後半は優しく
可能なら白詰草の花冠を供え、イェル紹介※15
「イェルだ。嫁にする。2人で幸せになる。安心していい」
「エマ、お父さんまた会いに来るけど、それまでいい子でな。お母さんと仲良く。でもお母さんから飛び蹴りは教わるな」
※本人真面目、47

あと両方の実家寄って結婚の挨拶軽くしておくか(抱き寄せ頭撫で
※実家の詳細描写不要


咲祈(ティミラ)
  自分の両親がどんな人物なのか知りたくなり、
実兄の精霊に連れていってもらうことに
…ここ、が…?
促されるままに一軒の家の前に
別に…
繋いどかない
外の話し声が聞こえたのか扉が開く
立っていたのは女性で、自分を見て驚いている
母親だが、自分にとっては覚えのない人物

家族のことは思い出せないままで、ティミラを見てもピンと来なくて
親に会えばきっと何か思い出すんじゃないかって
…でも、うまくいかないね…
神? あなたたちは神を、信じてるのかい…?
神を口にする度、僕はうざいと?
…やはり、口悪かったのかい僕
僕を助けてくれた人がタブロスにいる
だからここに住むのは記憶が戻ってからでも遅くはない
ああ。ティミラにはバレているのかい



 列車の都合でこの近辺に宿泊することになったのはティミラにとって好機であった。
 懐かしい景色を見て母親の顔を見れば、咲祈の失われた記憶が少しは戻るのではないか、と。
「ツバキ、せっかくだから、オレたちの実家に行ってみないか」
 咲祈は少し考える。
 実家。おそらくそこには、今は顔も思い出せない自分の両親が住んでいるであろう。
 両親はどんな人物なのか。
 興味が湧き、咲祈は
「うん、いいよ」
 と答えた。

 実家までの道すがら、ティミラが
「あの公園でよく遊んだよね」
 などと話しかけるが、咲祈には他人の話を聞いているように感じられた。
 やがて2人は、一軒の家の前にたどり着く。
「……ここだよ」
「……ここ、が……?」
 咲祈が呟くとティミラは頷く。
 全く記憶にない。
 咲祈は軽く頭を振る。
 気を使ったのか、ティミラは明るい笑顔を作ってみせた。
「緊張してるのか?」
「別に……」
「手繋いどく?」
「繋いどかない」
「えー即答?」
 やり取りが家の中まで聞こえたのだろう、玄関の扉が開いた。
 2人は顔を上げる。
 そこには品のある中年女性が立っており、咲祈の姿に目を見開いて息を飲んだ。
 だが咲祈は、不思議そうな表情で彼女を見返すだけ。
 咲祈の反応に困惑する彼女に、ティミラは微笑む。
「ただいま、母上」

 居間に通されると、ティミラは母に咲祈が記憶喪失であることを伝え、詳しいことは咲祈が話すべきだと彼を促す。
 咲祈は、家族のことも思い出せず、ティミラを見てもピンとこなかったことを正直に話した。
「親に会えばきっと何か思い出すんじゃないかって……でも、うまくいかないね……」
 ため息をつく咲祈に、母親は言った。
「それでも、こうしてまた会うことができたんだもの。神様の思し召しだわ」
「神?あなたたちは神を、信じてるのかい……?」
「元々宗教めいた村の出だしねえ……」
 ティミラがこっそり苦笑する。
 母親は昔を思い出しながら語る。
「そうね、あなたは神様を信じていなかったわね。私たちが神様と口にする度、うざい、なんて言って……」
「神を口にする度、僕はうざいと?」
 母親の言葉が引っかかる。
「……やはり、口悪かったのかい僕」
 確かめるようにティミラに問う。
「口が悪かったというか」
 ティミラはごにょごにょと歯切れ悪く呟く。
「むしろ母上も父上も過保護すぎて嫌だったんだろうよ……」
 母親から咎めるような視線を受け、ティミラは即座に
「なんでもないでーす母上」
 と笑顔で誤魔化す。
「今はどうやって暮らしているの?記憶もないならいろいろと大変でしょう。ここに住んでもいいのよ」
 母親は、咲祈がまた以前のように家族で暮らすものと思ってそう言った。
 だが。
「僕を助けてくれた人がタブロスにいる」
 咲祈の言葉にティミラの眉が微かに寄せられた。
 咲祈の言う「助けてくれた人」に心当たりがあるから。
 ティミラをよそに、咲祈は言葉を続ける。
「だからここに住むのは記憶が戻ってからでも遅くはない」
 ティミラはジトっと咲祈を見遣る。
「ツバキ、戻る気ないだろ」
「ああ。ティミラにはバレているのかい」
 事も無げに答える咲祈。
 ティミラの脳裏に、黒髪のディアボロの姿が浮かぶ。咲祈が戻る気がない原因は、きっと彼だ。
 負けたくないという思いがティミラを早口にさせた。
「オレはツバキのことならなんでも分かる。というか分かりたい」
 いつもの笑顔は消え、真剣な表情で。
 ティミラの気持ちは、咲祈に届いただろうか。
 咲祈の変わらぬ表情からは、それはわからない。
「……でも、ツバキに会わすことができて良かったよ」
 それだけでも、今は良しとしよう。
 ティミラはいつものように笑ってみせた。


 駅に降り立った白露は、周囲の景色を見渡し
「おや、懐かしいですね」
 と、双眸を細める。
「タブロスに住む前の私の家が、この辺にある筈です」
 白露の言葉にアイオライト・セプテンバーは瞳を輝かせる。
「パパの昔のおうちがあるの?あたし見たーい」
 白露の周りをぴょんこぴょんこと飛び跳ねて、アイオライトははしゃぐ。
「そんで、御挨拶するの♪」
「といっても、私の両親は引っ越したからもうここには住んでいませんが……」
 白露が言い終えぬ間にアイオライトはぴゃーっと駆け出す。
「あ、アイ!」
 しかし、数メートルも進まぬうちにぴたりと止まり、振り返る。
「で、パパの昔のおうちって、どこ?」
「……アイ、人の話を最後まで聞かずに走り出さないように」

「パパが昔住んでたところって、どんなところ?」
「ごく普通の田舎ですよ」
 と言っても、アイオライトには想像がつかない様子だ。
「都会にあるようなものは何もない。アイが面白がるようなものは特にないと思いますけど……」
「ちっちゃい頃のパパって、どんな子だったのかなぁ」
「どんな子って、私は今とあまり変わりない……ような気がしますよ」
 そんな会話をしているうちに、街の入り口が見えてきて、アイオライトは軽快に駆け出す。
「とうちゃーくっ☆」
 白露はアイオライトの背中に注意の言葉をかける。
「確かに私の両親はいませんけれど、知り合いは今でもいるんですから、おとなしくして……」
「はじめまして、こんにちはー」
 アイオライトの大声が街並みに響き、白露は「……遅かったようです……御挨拶ってそれですか」と脱力する。
「ぱんつとパパとじーじが大好きな、かわいい女の子でーす。パパとらぶらぶのアイちゃんが、パパのふるさとに御挨拶に来ましたよー」
 アイオライトは手をメガホンにし、るんるんとご機嫌で街の中を歩き始める。当然、行き交う人々の視線はアイオライトに集まる。
 白露は慌ててアイオライトを追いかけ、後ろから抱きしめ行動を制する。
「昼間でも大声出すと迷惑になりますから」
 白露はこちらに注目している街の人たちに向かい、頭を下げる。
「あの、本当に、すみません」
 そんな白露に、恰幅の良いおばさんが声をかけてきた。
「あら〜、誰かと思ったら、もしかして白露くん?」
「あ、これはどうも、お久しぶりです」
 昔のご近所さんである。
 それを皮切りに、数人の住人が集まり、次々と声をかけてくる。
 ご挨拶をして、世間話に付き合い……なんてしてるうちに、アイオライトはするりと白露の元を離れる。
 アイオライトには目的があった。
(パパのいろんなこといっぱい知るチャンスだから、がんばるぞ)
 アイオライトは白露に声をかけてきた人たちの中で、白露と年齢が近そうな男性を見つけると、ちょこちょこと近寄る。
「こんにちはっ」
 可愛らしい笑顔で挨拶すると、男性も笑顔を返してくれた。
「こんにちは。君が白露の神人さんだね」
「おにーさんは、パパのお知り合い?」
「そうさ。同じ学校に行っていたんだ」
 アイオライトの瞳が好奇心できらりと光る。
「ちっちゃい頃のパパってどんな子だったんですか」
 現在のアイオライトと白露の住まいには、白露の子供時代の写真などは無いのである。
(きっと可愛いかったんだろうなっ)
「そうだねぇ、真面目で人が良くて……そうだ」
 突然男性は面白いことを思い出したように笑う。
「写真もあるよ。うちはすぐそこだから、5分くらい待っててくれたら、持ってきてあげる」
「わあ、見たい見たい!」
 跳ねながら喜ぶアイオライトを微笑ましげに見て、男性は写真を取りに戻る。
(昔のパパ、きっと可愛いかったんだろうなっ)
 想像し、期待が膨らむ。
(ま、あたしも可愛いけどー?)
「どうしたんですか、アイ。楽しそうですね」
 雑談が一段落した白露が、わくわくして笑顔になっているアイオライトに気付いた。
「ね、パパ、あたし可愛いよね?」
「そうですね」
 あたし可愛い?とは事あるごとに訊かれているので、なんの疑問も持たずに白露は答えた。
 そこへ、先ほどの男性が写真を持って戻ってくる。
「お待たせ」
 彼が持つ写真に気づき、白露は一気に血の気が失せた。
「そ……それは……」
「わーい、ありがとうおにーさんっ」
「待ってください、アイ……っ」
 制止も空しく、アイオライトの両眼はしっかとその画像の情報を脳に送り込んだ。
「わぁ、パパ可愛い〜」
 そこには、フリルのワンピースに身を包んだ幼少期の白露の姿。
「トランプで負けて、罰ゲームでうちの姉貴の服着たんだよな」
 男性は朗らかに笑う。
「なぜ、そんな写真をとっておいたんですか……」
 がっくりと肩を落とす白露だったが、アイオライトは可愛い可愛いと大喜びなのであった。

「あー、楽しかった」
 帰り道、満足げにアイオライトが言う。
「パパが可愛かったって分かったし、あたしももっと可愛くなるぞー。おー」
 拳を空に突き上げるアイオライトに、白露は苦笑した。


「別荘が、この近くに?」
ラキア・ジェイドバインが問い返すと、セイリュー・グラシアは大きく頷いた。
「春の別荘なんだ。森が近くて、春から初夏にはとても過ごしやすくていい所だからさ」
 確かに、自然が多く空気も綺麗なところだとラキアも感じていた。
「電話入れてみたら、姪っ子が今逗留中らしくて。久しぶりだから会いに行こうかなって。ラキアにも紹介したいし」
「セイリューの姪御さんが?」
 どんな子なのかと興味が湧いて、ラキアはセイリューの誘いを受けることにした。

 豊かな自然を楽しみたくて、別荘から少し離れたところで車を降り、2人は緑に囲まれた道を歩く。
「鳥の声が良く聞こえるよ」
 ラキアは心地よい風に目を細める。
「小さい時は森でよく探険したんだぜ。おかげでアウトドア系には強くなった!色々な動物も見かけたし」
 やがて、大きな花のアーチが見えてくる。
 丁寧に手入れされた花々にラキアは見惚れつつアーチをくぐる。
 途端に。
「セイリューお兄様ぁ」
 可愛らしい声が響き、前方から、栗色でふわふわくせっ毛のロングヘアを弾ませた少女が駆け寄ってきた。
 ひしと抱きついてきた少女を、セイリューは抱き上げて持ち上げる。少女は楽しそうに笑い声をあげた。
「今家督を継いでいる長兄の娘エリーだよ。今8歳」
 セイリューはエリーを降ろすと、ラキアに紹介する。
「お兄様、このかたは?」
 くりんとした瞳でエリーはセイリューを見上げる。
「オレのパートナーで精霊のラキア」
「まあ、初めまして。エリーと申します」
 エリーはスカートの裾を軽くつまみ上げ、幼いながらも淑女のように挨拶をする。
「自慢の姪っ子さ!元気そうで何よりだ」
 セイリューに頭を撫でられ、エリーは擽ったそうに笑う。
「可愛いだろ?」
 ドヤ顔のセイリューにラキアもくすくす笑う。
(セイリュー、エリーちゃんにメロメロだね)
「お兄様たち、こちらへどうぞ」
 エリーは2人を別荘の中へ招き入れてくれる。
「お兄様?」
 ラキアは小声でセイリューに訊く。
「おじさんとは呼ばせないぜ」
 なるほど、おじさんと呼ばれるのが嫌でお兄様と呼ばせているのか。
 上質な調度品が揃えられた客間に通され、2人は腰を落ち着ける。
「長兄って前にも行ってた何でも出来る5歳上のお兄さんだね」
「ああ、そうだよ」
 セイリューは兄と比べて落ち込んでいた昔の自分を思い出し、バツの悪そうな笑顔を返す。
「そのお兄さんは一緒に居ないの?」
 その質問には、エリーが答えた。
「お父様は仕事でしばらく遠くに行っているの」
「じゃあ、エリーちゃんだけここに来ているんだね」
 ラキアに優しい笑顔で微笑まれ、エリーははにかんだような笑顔で「はい」と答える。
 エリーはするりと椅子から降りると、飾り棚に並べられた写真立てを掌で示す。
「これが、私のお父様よ」
 家族のものと思われる写真。
 そこには、セイリューによく似た面差しの男性の姿があった。
(でも、セイリューより貫禄があるっていうか、いかにも有能な実業家って雰囲気)
 ラキアは隣に座るセイリューと写真とを見比べた。
 やがて良い香りの紅茶が運ばれ、3人のティータイム。
「お兄様たちは、ウィンクルムなのでしょう?どんなお仕事をしているの?」
 セイリューは、「うーん、そうだなぁ」と記憶を探る。
「ついこの間も、すっごく強いオーガと戦ったんだぜ」
 ラキアはセイリューの袖を引っ張る。
「話す冒険譚は刺激低めのにしようね。危険度高い話だとお兄さんにも心配かけちゃうよ」
「あ、そうか」
 セイリューははっとする。
「強いオーガだけじゃなくて、可愛いネイチャーを助けたりすることもあるんだぜ」
 ペタルムやレカーロなどの話をしてやると、エリーは瞳をきらきらと輝かせ、セイリューの話に聞き入るのだった。
 こうして過ごした穏やかな午後のひとときは、セイリューとラキアの疲れを癒してくれた。


(この路線って……)
 イェルク・グリューンは車窓からの景色で、あることに気が付いた。
 そしてそれは、降り立った駅で、確信に変わった。
 昔住んでいたあの場所の最寄駅。やはり、同じ路線だったのだ。
 そのことに気づいていたのはカイン・モーントズィッヒェルも同じ。
(やっぱそうか)
 と、辺りを見回す。
 見回している途中でイェルクと目が合うと、イェルクは薄ら微笑んだ。
「会いに行きませんか」
 誰に、なんて言わなくともわかる。
「依頼からの帰還中じゃ寄るのは普通無理だしな」
 滅多にない機会だ、足を向けてみるのも良いだろう。
「花屋にでも寄って行くか?」
 カインの問いに、イェルクはそうですね、と頷いた。
 2人の行く先は、大切な人が眠る場所だから。

 街がオーガの襲撃を受けたあの日から数日にわたり、この墓所には急激に墓石が増えた。墓石と墓石の間隔が狭いのは、その下に眠る者が荼毘に付されてから埋葬されたためである。
 オーガ化が懸念されたため、オーガによって命を落とした人々は皆、火葬されたのだ。
 イェルクが彼女の墓を訪れるのは、初めてのことであった。
 場所だけは、知っていたのだが。
 墓石にメグの名前を見つけると、イェルクは梔子の花を供える。彼女が生前好きだった花。
「来るのが遅くなりました。寂しかったでしょう。勇気がなくてごめんなさい」
イェルクはそっと手を合わせる。
「心配だったと思います。カインの事ですから近況伝えに来てたでしょうが……」
 自分の名前が出てきて、イェルクの後ろに控えていたカインはぴくりと眉を動かす。
 カインが家族を失ったのと、イェルクが恋人を失ったのは同じ日。
 カインは家族の月命日に墓地を訪れる度、イェルクの恋人の墓も訪ね、イェルクの話を聞かせていた。
 そのことについてイェルクに話したことはなかったのだが。
(……やっぱ気づくか)
「彼が、私の大事な人、夫になる人です。驚きましたか?」
ずっと彼女の所に来る勇気が出なかった。けれど、いつか必ず伝えたかった報告を、やっとできた。
「また会いに来ます。今度は待たせませんから」
イェルクはカインを振り返ると、行きましょう、と促した。
カインは頷くと歩き出す。
道端にはたくさんの白詰草が咲いていて、カインは歩きながらそれを摘む。
「カイン、手際が良いですね」
 歩きながらも、カインの手の中で白詰草が冠の形に編まれてゆく。
「強請られてよく作ったからな」
 カインはとある墓石の前で足を止めると、街で気心の知れた友人に会ったかのように、墓石に声をかける。
「よぅ、リタ」
 それから、優しい笑顔で、出来上がった花冠を供え
「エマ、いい子だったか?」
 と話しかけた。
 イェルクもカインに続いて小さな花束を供える。
 その肩に、とん、とカインの手が置かれた。
「イェルだ。嫁にする。2人で幸せになる。安心していい」
(彼のお陰で私はここにいます。ありがとうございます。彼と共に生きていきます)
 イェルクは心の中で、リタとエマにそう話しかけた。
「エマ、お父さんまた会いに来るけど、それまでいい子でな。お母さんと仲良く。でもお母さんから飛び蹴りは教わるな」
 それまで優しかった表情が、「跳び蹴り」の部分で急に真面目になる。
 リタの跳び蹴りとはどれほどのものだったのか。
 カインは愛おしそうに墓石を撫でるとイェルクを振り返る。
「あと両方の実家寄って結婚の挨拶軽くしておくか」
 と、カインはイェルクの頭を胸に引き寄せた。
 イェルクの顔が一気に赤くなり、「はい」と消え入りそうな声で答えた。


 フィン・ブラーシュに案内されて蒼崎 海十がやって来た場所は、今は誰も居ない廃墟だった。
「ここが俺の故郷。……と言っても、何も残っていないんだけど……」
 フィンは少しだけ悲しそうに笑う。
 オーガの侵攻で街は破壊し尽され、残るのは瓦礫の山ばかり。
 今まで復興されず放置されていたのは、それほどまでに、ひどく破壊されたことの証でもある。
 フィンの故郷がオーガに襲われたということは、話には聞いていたけれど、実際目の当たりにすると胸が痛い。
「嘗て確かにここで暮らしていたのに……まるで夢だったみたいに、何もない」
 フィンはゆっくり歩き始める。
「ここにはね、美味しいパン屋があって……あのパン、海十にも食べさせてあげられたらなぁ」
 フィンには、そこにあったはずの建物が見えるかのようであった。
「その角には、花屋があって。いつも綺麗な花に溢れていて、俺のお気に入りのお店だった」
 海十の脳裏に、幼いフィンが、家族の為に嬉しそうにパンと花を両手に抱えて走っていく情景が思い浮かんだ。
 商店街だった場所を抜けると、道は丘に続いていた。
 道といっても、雑草の下にひび割れた石畳がかろうじて見える程度のものだ。
「丘の上にあるのが、俺が住んでいた屋敷だよ」
 最早そこに建物の面影はなく、ひときわ大きな瓦礫の山があるだけだ。
「父さんと母さん、兄さんと暮らした屋敷」
 そして兄と最期の別れをした場所。
 その場面を思い出したのか、フィンはふるりと頭を振る。
「花壇には、母さんが手入れした花でいっぱいだった」
 フィンは目を細める。美しい花々を思い返しているのだろう。
 丘の頂上が近づくにつれ、フィンの足取りは重くなる。
 ずっとここに戻ってくる事が怖かった。
 この有様を見てしまえば、失った事をより深く思い知るから。
「フィン?」
 隣から、海十が心配そうな視線を送るので、フィンは微笑んでみせた。
 大丈夫。ここに来ることは、自分で決めたことだから。
 やがて、崩れた門にたどり着く。
 錆びて地に倒れた扉を踏み越え、その奥へ。
(あ、花が……)
 そこに咲く花々が海十の目を惹く。
 フィンの母親が手入れしていた名残だろうか。
 かつては丁寧に手入れされ、咲き誇っていただろう花。
 今は雨風にさらされ無秩序に伸び、花の咲き具合も良いものとはいえなかったが、それでも、過酷な中で生きている力強さがあった。
 そよりと風が花を揺らす。
「父さん、母さん、兄さん。俺は……元気でやってるよ」
 花に、風に語りかけるようにフィンは口を開く。
 不思議と穏やかな気持ちだった。
 悲しい気持ちが無くなった訳じゃない。
 けれど、悲しいだけじゃない。
この地で過ごした思い出は、今、暖かくこの胸に息づいている。
 こんな風に過去を受け入れることができるようになったのは、彼のおかげ。
「好きな人が出来たんだ。今日はその人とここに来た」
 フィンは優しい笑みを海十に向ける。
「皆に海十を会わせたくて」
 海十がフィンを見つめる。ふわりと風が、フィンの髪を撫でるように通り過ぎていった。
 海十にはそれが、フィンの家族からフィンへの答えのような気がして。
 背筋を伸ばし、息を吸って空へ。フィンの家族に届くように。
「蒼崎海十です。俺は…誓います。俺がフィンを幸せにしてみせます。だから、見守っていて下さい」
 誓いの言葉を響かせた。
 突然の海十の行動にフィンは目を丸くしたが、すぐに柔らかな笑顔に戻る。
「うん、幸せに……なろう」
 瓦礫の中に咲く花が揺れる。2人の幸せを見守るように。



依頼結果:大成功
MVP
名前:蒼崎 海十
呼び名:海十
  名前:フィン・ブラーシュ
呼び名:フィン

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 木口アキノ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月01日
出発日 06月07日 00:00
予定納品日 06月17日

参加者

会議室


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