【夜桜】枯れ彷徨い落ちる花弁(真崎 華凪 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 桜の下には死者が眠る――。
 サクラヨミツキの町へ足を踏み入れる。
 紅月が妖しく照らす世界は、気が触れてしまいそうなほど幻想的だ。
 月が導くまま、歩を進める。
 ルーメンも、テネブラもない今は、何が真実で何が偽りかを見極めることは難しい。
 頭がくらくらする。
 そして、足をぴたりと止めた。
 ヨミツキの下。
 赤く燃える桜を見上げて、寒気を覚えた。
 思わず、振り返る。
 何もないことを確かめるように。
「ねえ」
 隣で声がする。
「桜の下には死者が眠ってるって、聞いたことがあるんだ」
 詳しくは知らないけど、と曖昧に笑って見せる。
 もしそうだったら、桜の数だけ死者がいることになるのだろうか。
 それだけで、何とも言えない気持ちになる。
 ――まさか。
 頭を振って、立ち去ろうとした刹那だった。
 空気がざわつく。
 言い知れない気配に、感覚を研ぎ澄ませる。
「何か、いるね」
 ヨミツキの陰から、人影のようなものが見えた。
 ――何もいないに越したことはなかったのに、な。
 ただならぬ、狂わしいほどの気配に、招かれざる客はいつも訪れる。
 オーガか。
 敵対ネイチャーか。
 ただの人か。
 ぞわりと、身の毛が逆立つ感覚を抑えられない。

 死者の元には、桜が咲くんだよ――。

 血の気が、引いていく。
 胸が、ざわめき立つ。

解説

ヨミツキの下に現れた『人影』との対峙、もしくは討伐。

PL情報としまして、
現れた人影は『デミ・リビングデッド』です。
リビングデットは、瘴気により神人、もしくは精霊に幻の姿として視認されます。

その姿は、視認している側に深く縁のある相手となります。過去の恋人や家族、あるいはパートナーに見えるかもしれません。
視認していない側には、リビングデッドとして見えていますので、パートナーを説得するところからになると思われます。
(討伐することが説得であれば、討伐も可)

神人さん、精霊さんのどちら側に見えているのかも教えてください。

説得中もリビングデッドは攻撃を行います。
また、幻を見ている側には、本物か偽物かの判断ができません。
見る幻については、生者でも死者でも構いません。

リビングデッドは、時間が経てば瘴気の影響により、消滅します。


戦闘はウィンクルム毎に行います。

まずはパートナーの説得が最優先です。
が、パートナーが幻にノリノリで立ち向かう場合は、さっくり討伐してください。

ちょっと戦いづらい感じを想定していますが、日ごろの憂さ晴らしに、憎い相手を幻に見て、フルボッコでも大丈夫。
楽しんで討伐してください。

リビングデッドは1体のみの出現となります。

ゲームマスターより

アドエピでは比較的淡々と書いてしまうので、心理描写を織り交ぜながら書けないだろうか、
と考えてみたら、こんな感じになりました。
戦闘を通じて、詰まる距離もきっとあるかと思いますので、楽しんでいただけますと幸いです。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

夢路 希望(スノー・ラビット)

  スノーくんの、お父さん?
…だって、あれは…

彼を見れば青い顔で震えていて
呟きに見開きつつ彼の手を引いて敵から距離を取る
攻撃は回避に専念
手を握ったまま意識確認
スノーくん、私のこと、分かりますか?
頷かれれば優しく声掛け<メンタルヘルス
(私はスノーくんの昔を全ては知らない…けど、これだけは何度でも言える)
…好きです
宝石のように綺麗なその赤い瞳も
雪のように白い耳も髪も肌も、その名前も
全部、全部、好きです
…だからそんなこと言わないでください
生まれてきてくれたから、出会えたんです
視線合えば微笑み、トランスしようと

敵が消えてしまったら私も唖然としつつ状況説明
抱き謝る彼には落ち着くまでそのまま優しく頭を撫でる


瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
  敵の姿を見たらトランス。

でも目前の敵がフェルンさんには違う姿に見えている?
彼が「セヤ」と敵を呼んだので、気が付きました。
以前彼から話を聞いた、親友の精霊だと。
彼が亡くなった(らしい)のは1年以上も前のこと。
でもこんな姿じゃない。

フェルンさんに「しっかりして」と声を掛けます。
「私には敵が精霊には見えませんし、手の紋章もありません。
フェルンさん、幻を見てるんです」と。
「彼は、フェルンさんを死人の世界へ招いたりしない、彼なら来るなというだろう、と言ったフェルンさんですよ」と惑わされないように。ジェンマの杖で敵を殴ります。女神の導きが正しい姿を彼に見せてくれる事を祈って。
2人で立ち向かえは大丈夫です。


シャルティ(グルナ・カリエンテ)
  開幕トランス
…なに言ってるのよあんた
は? …別に。というか、なにが?
どこか上の空な相方に疑問
ちょっと…グルナ。あんた、どうしたの?
いつもなら積極的に戦いに行く割には消極的ね…
相手に真剣な眼差しで、真剣な口調で語り掛ける相方に違和感を感じる
なに言ってるのか全く分からないんだけど

あんたの目に何が映ってるのか私は分からない。あんたじゃないんだから
だけど、しっかりしなさいよ…
あんたに、なにが見えてるわけ? ねえ、
どこか辛そうに言葉を詰まらせる相方に自分もなにも言えない
・リビングデッドが攻撃を仕掛けてきたらクリアレインで反撃しつつ、相方の説得を続ける
戦いなさいよ…。それがあんたの生き甲斐でしょ…!


秋野 空(ジュニール カステルブランチ)
  幻を見る
参考エピ26

不穏な空気
咄嗟にトランス
武器を構えるが…

…兄、様?
瓶を覗いた瞬間に引き戻される
狂気に染まる兄に戦慄
逃げ出したいのに足が竦み声も出ない
音が消え、広がる闇と兄が呼ぶ幻聴

このまま兄様に、闇に囚われる?
耳を塞ぎ絶望と諦め

視界に割って入る白い光
…ジューン?
そうだ、私はもう独りじゃない
開ける視界と戻る音
耳に届く精霊の声

兄様ではない?
ではあれは何者?
自分の恐怖感が生み出した幻?

今の自分が冷静でないことくらいわかっている
信じるべきは自分よりも、今は精霊
でも、兄以外に見えず攻撃できない

防戦の精霊が傷付いた時、無意識に動く体
サクリファイス
例えあれが兄様だとしても、ジューンを傷付けるのは許さない


蓮城 重音(薬袋 貴槻)
  トランス済
幻:昔の恋人、笑顔で剣を向けている

「な、何で……!」
親友が居ないか周囲を探す
『重音、ありがとう』
言われて動けなくなる
「……やめて」
『いなくなってくれて、ありがとう』
耳を塞ぎ叫ぶ
「やめて!!」
別れる時「ありがとう」と言われたが「いなくなってくれて」とは言われてない
ただ、ありがとうが何を意味するのかわからず引っかかってた
恋人とも親友とも仲がよかったのに、嫌われてたのかと疑ってしまって、そんな自分が嫌で……

貴槻に言われ幻とわかる
(だって私は逃げた、この人達から)

軽い放心状態
貴槻の言葉に思わず叫ぶ
「守るなんて言わないで!」
涙を流し
「お願いだから、守るなんて言わないで、私に守らせて……!」



 不穏な気配に、緊張が走る。
 インスパイアスペルを唱え、秋野 空がジュニール カステルブランチの頬へ口付けると、風が巻き上がり、オーロラの光が全身を包む。
 武器を構え、その時に備える。
 気配が、月明かりの下に姿を見せた。
「ソラ、……」
「……兄、様」
 ジュニールの言葉は、小さな一言にすべて飲み込まれた。
 空は、そこに兄の姿を見た。
 大好きだったころの兄ではなく、異様な光を放つ目をした、狂気に染まった兄の姿。
 足が縫い付けられたように動かない。手を伸ばし、兄が一歩ずつ近づいてくる。
 音が消えていく。闇が広がる。反響する兄の声しか聞こえない。
 思わず耳を塞いだ。
(このまま兄様に――闇に捕らわれる……?)
 視界が暗くなっていく。声が上手く出ない。嫌な汗が伝う。
 嫌だ。
 怖い。
 でも――。
(逃げられない……っ)
 闇の手が空を捕まえようとした、刹那。
 空の前に光が溢れた。
「ソラ……っ!」
 光に兄の手が触れると、怯んだのが分かった。
 まるで、その光を毛嫌いするかのように。
「ジューン……?」
 空には、目の前のものがジュニールと違うものに見えている。
 ――たぶん、それは……。
 だから、防ぐだけに留めた。
「ソラ。聞いてください」
 言葉にすることに躊躇いはあった。
 空の様子に、何を見ているのかが分かった。
 拠り所としていた兄の姿の、その真実を知って、空が今、道半ばで立ち止まっていることも知っている。
 そのうえで出した、ジュニールの答えだ。
「ソラの奪還のために俺を狙うならともかく、あれほどソラを欲していたのに――」
 兄が再び腕を伸ばし、振り上げると、空を目掛けて一気に振り下ろされる。
 フォトンサークルの中、ジュニールが盾となりその攻撃を凌ぐ。
「ソラに危害を加えるとは思えません」
 狂気が狂い咲く、優しい男だった。空を捕らえ、枷を付け、全てを支配してこそいたが、害するような男ではないはずだ。
 正しく見極め、正しく立ち向かってほしい。
「今、ソラが対峙しているものは、明らかに無防備なソラを狙い、傷つけようとしています」
 深淵がジュニールのフォトンサークルを貫き、その頬に一筋の朱を残す。
「ソラ。目の前にいるのは本当に、あなたが見ている人ですか?」
 静かに。
 冷静に。
 再び聖域を作り上げる。
「兄様では……ない……?」
「はい。違います」
 目の前にいるのは、デミ化したリビングデット。空の兄などではない。
 けれど、空は今もまだ、幻を見ている。
 だから。
「それでも、どうしても割り切れないなら――」
 反撃をしないつもりだ。
 肩越しに空を見遣って、やんわりと微笑む。
「ソラだけは守ってみせます。騎士の名に懸けて」
 気付くその瞬間まで。
 デミ・リビングデットが攻撃を仕掛ける。
 フォトンサークルを、ど真ん中から打ち破り、ジュニールの身体に噛みついた。
 咄嗟にジュニールが振り払ったが、服を赤く染めていく。
 柔和な笑顔が、僅かに歪む。
「ああ……、よそ見はいけませんでしたね」
 そっと。
 ジュニールの身体を後ろから抱きしめる。
「ソラ……?」
 労わるように、遠慮がちに触れてくる指先が震えている。
(今の自分が冷静でないことくらいわかってる……)
 空に兄が見えていても。ジュニールが違うというのだ。
 彼はこんなところで、こんなことで、嘘を吐いたりはしない。
 信じるべきは自分ではなく、今は彼の言葉を信じていればいい。
「Im here to celebrate you」
 空がサクリファイスを発動させる。
「たとえあれが兄様だとしても……」
 一歩。
 踏み出し、ジュニールの隣に立つ。
「ジューンを傷つけるのは許さない」
 前を向く空の手を、ジュニールはそっと握る。


「我に代わり力となれ」
 インスパイアスペルを唱える。
 風が吹き抜け、紅のオーラが二人を包んだ。
 視界が少しくらい悪くとも、そこにいるものが敵だということくらい、すぐに分かった。
 グルナ・カリエンテが攻撃を仕掛けようと構えた瞬間に、彼はその構えを解くことになった。
 敵と思っていたものは、大人びたゴシックドレスを身に纏った女性。
 唯一心を許し、途切れることのない縁の中でよく話をしていた、シャルティの母親。
「……あんたは……」
 その姿をヨミツキの下に認め、グルナは呆然と言葉を漏らした。
 突然戦闘態勢を解いたグルナに、シャルティは怪訝そうに声をかけた。
「グルナ?」
 グルナを一瞥する、シャルティの瞳。
「見えてねぇのか、シャルティ」
「……なに言ってるのよあんた」
 眉を顰め、言っている意味が分からないというようにシャルティは首を傾げた。
「そこにいるだろ」
「は?」
「だから、そこに……」
 シャルティが目を凝らすように、グルナの示す先を見つめる。
「……別に。というか、なにが?」
 シャルティの反応がおかしい。
 頭を振って視線を逸らす。見間違いかもしれない。
 再び視線を戻してみても、やはりそこにいるのはよく知った占い師。
 ――どういうことだ……。
 疑問がまるでないわけではないが、そこにいる。それは事実だ。
 だから、占い師に声をかけた。
「あんた……俺に言ったよな? 娘のパートナーに、支えになってやってくれって」
 占い師は何も答えない。
 ゆっくりと近づき、グルナの間合いのさらに近くまで踏み込み、攻撃を仕掛ける。
「ちょっと、グルナ」
 微動だにしないグルナに違和感を抱きながら、シャルティがクリアレインを撃ち込む。
「あんた、どうしたの?」
 あそこまで近づけさせるなど、ありえないことだ。
「……なんで、なんも喋んねぇんだよ……」
 いつもなら真っ先に攻撃を仕掛けるはずのグルナが、武器を振り上げるどころか、目の前にいるものに真剣に話しかけている。
 シャルティが話しかけても、どこか上の空。
(なんなの……)
 グルナが動かない以上、シャルティが攻撃を続けるしかない。
 その合間に、説得を試みる。
「あんたの目に何が映ってるのか私は分からない。あんたじゃないんだから」
 攻撃を繰り返せば自然と標的にされる。クリアレインを構え、攻撃に備える。
 占い師がシャルティを捕らえた。
 グルナが落胆したように言葉を吐き出す。
「しかも、自分の娘に手ェ出すつもりかよ……?」
 距離を一気に詰められる。
 シャルティが態勢を崩すと、追い討ちをかけ、シャルティを食らい尽そうと襲い掛かる。
「――誰が相手でも、こいつに手ェ出すんなら容赦しねぇ……」
 グルナが身を挺して庇った。
 背中の強い痛みに、顔を顰める。
「あんたに、なにが見えてるわけ?」
 シャルティと視線が絡む。
 問いかけに頷くことはせず、シャルティを襲った占い師に身体を向ける。
 容赦しない、とは言ったものの。
 武器を向けることができない。振り上げたところで、それを振り下ろすことなど、できそうになかった。
 ギリ――。
 弓を振り絞る音が、小さく聞こえた。
「戦いなさいよ……」
 はっとした。
「それが、あんたの生き甲斐でしょ……!」
 クリアレインを再び放つ。
 ――生き甲斐……。
 ぐっと武器を握りしめる。
「そうだったな……迷ってたって仕方ねぇ」
 目の前にいる占い師は、どう見てもシャルティの母親の姿だ。
 だが、シャルティに襲い掛かる以上、誰であっても敵だ。
 その事実だけあれば、迷う必要などない。
 グルナは躊躇うことなく跳躍し、スパイラルクローを叩きつけた。


 トランスを終え、立ち向かおうと武器を構える薬袋 貴槻の隣で、蓮城 重音が動きを止めた。
「な、なんで……!」
 重音の目の前には、笑顔で剣を向けるかつての恋人の姿があった。
 周囲を見回す。
 彼がいるなら、近くに親友もいるはずだ。
 ウィンクルムならば、それが当然のはず。けれど、親友の姿を見つけることはできない。
『重音』
 恋人が、名前を呼ぶ。
 びくりと身を震わせる。
『ありがとう』
 その刹那、手足に重りがついたように動けなくなった。
「……やめて」
 恋人が、さらに言葉を重ねようと口を開いた。
『いなくなってくれて、ありがとう』
「やめて!!」
 その言葉を聞きたくない。
 耳を塞いで叫んだ。
 恋人と別れるとき、ありがとう、と言われた。
 いなくなってくれて、などとは言われていない。
 ただ、その「ありがとう」が何を意味するのか分からず、ずっと引っかかっていた。
(いなくなるから、ありがとうって言ったの……?)
 頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。
 恋人とも親友とも仲が良かった。
 それなのに、嫌われていたのかと疑った。
 そんな自分が嫌で……嫌で。
「カサネさん?」
 貴槻が名前を呼ぶ。
 けれど、重音は何も反応しない。
 ――何か……幻を見てる……? しかも何か言われてるんじゃ……。
 突然叫んで耳を塞いだ重音。
 驚きはしたが、幻を見ているのだとしたら。
 そして、その幻に何か言われているのだとしたら。
 ――早く気付いてもらわないと。
 敵は暗闇に紛れて放心状態の重音を狙う。
 その間に割り込んで、攻撃を受け止めると、敵の腹を蹴り飛ばす。
「カサネさん!」
 腕を掴んで揺する。
 それでも未だ、幻の中。
 ――この程度じゃだめか。
 再び暗がりから飛びかかってくる相手の攻撃をかわす。
 重音に飛び火しないように十分な距離を取る。
 そして、重音の両手をぐっと掴み、塞ぐ耳から強引に引き剥がす。
「蓮城重音!」
 幻を引き裂く、力強い声。
 重音の目が、ゆっくりと貴槻に向けられ、定まり、捕らえた。
「しっかりしろ、ここにはウィンクルムとして俺と一緒に来たんだろ! 他の奴なんていない!」
「他に誰も、いない……?」
「そうだ、誰もいない。俺たちと」
 背後から貴槻に襲い掛かってくる気配に振り返り、その攻撃を払う。
 そのまま反撃に切り替え、迷うことなく一撃で仕留める。
「この、デミ化したリビングデットだけだ」
 幻だった。
 けれど。
(だって私は逃げた、この人たちから)
 ぼんやりと宙を見つめる重音に、貴槻は声をかけた。
「大丈夫か?」
 重音はピクリとも動かない。
 ――反応なし、か。
 あれほど取り乱していたのだ。無理もない。
「ごめんな、これからはもっちゃんと守るから……」
「守るなんて言わないで!」
 貴槻の言葉に反応したかと思うと、強く叫んで言葉を遮った。
 感情が決壊したのか、重音の頬に涙が伝う。
「お願いだから、守るなんて言わないで。私に守らせて……!」
 泣きながら腕を掴まれる。
 頭をそっと撫でながら、思う。
 ――なんでそんなに守られたくないんだ……?
 ……違う。
 ――なんでいつも、守ろうとするんだ?
 どうしても腑に落ちなかった。
 ただ、今は縋るように泣く重音を落ち着かせるように頭を撫で続けた。


 物音に、身を強張らせる。
 警戒しながら辺りに視線を巡らせる。
 紅月に照らされて見える姿――。
「……お父さん?」
 その言葉に、夢路 希望はスノー・ラビットを見て、再びヨミツキに視線を戻す。
(スノーくんの、お父さん? ……だって、あれは……)
 まるで彼に似ていない、まったく別のものだ。
 けれど、スノーがぴたりと動きを止めた。
 スノーの目には、希望が見ている者とは別の存在が見えている。
 黒い耳。
 黒い瞳。
 それは、彼の父親の姿。
 スノーとは違う色彩。
 他の仲間とは違う色をもって生まれたせいで、ずっと虐げられ、蔑まれてきた。
 もしも、その感情の矛先がスノーだけに向けられていたら、あるいはもう少し違ったのかもしれない。
 ――僕のせいで、お父さんも、お母さんも村の人たちにひどいこと言われて……。
 辛かっただろうと思う。
 最低限の面倒を見てはくれたが、撫でられることも抱きしめられたことも、記憶のどこを探してみても見つからない。
 親しい相手はいなかった。
 だから、友達はぬいぐるみだった。
 平気な顔をして、何でもない素振りで過ごしていたけれど。
 ――本当は悲しくて、寂しくて……。
 耐えきれなくなって、家を――村を飛び出した。
 告げる相手もなく。
 告げる言葉もなく。
「勝手にいなくなってごめんなさい」
 スノーの顔が蒼くなっていく。
「僕が生まれたせいで、悲しい思いをさせてごめんなさい」
 何かに憑りつかれているかのように。
「ごめんなさい」
 繰り返す。
「ごめんなさい……」
 希望がスノーの手を取り、繰り出される攻撃をかわす。
「スノーくん。私のこと、分かりますか?」
 優しく声をかける。多少の知識を持つ希望の声はスノーに確かに届いている。
 スノーがぼんやりと希望を見つめる。そして、ゆっくりと頷く。
「……好きです」
「――っ」
 希望は、スノーのすべてを知っているわけではない。
 けれど。
(これだけは何度でも言える)
 ぎゅっと手を握り、その瞳を覗き込む。
「宝石のように綺麗なその赤い瞳も、雪のように白い耳も、髪も、肌も」
 時折、髪先がはらりと切れて舞う。
 仕掛けられる攻撃をかわしながら、言葉を重ねる。
 スノーに届くように願いながら。
「その名前も、全部、全部、好きです」
 愛しいと、心が謳う。
「……だから、そんなこと言わないでください」
 桜に舞う紅い月光の中。
 希望はスノーに微笑んだ。
「生まれてきてくれたから、出会えたんです」
 生まれたことも、生きていることも。
 必ずなにか意味があるはず。
「あなたに、力を」
 そっと頬にキスをする。
 インスパイアスペルが力を与える。
 ――生まれなかったら、彼女とは出会えなかった。
 申し訳ない気持ちはある。
 それでも、生まれてきてよかったと思えることもある。
 大切な人がいる。大切にしてくれる人がいる。
 徐々に晴れる瘴気。
 姿を消す幻に、立ち尽くす。
「スノーくん」
「……あれは……」
「デミ化したリビングデットです」
「お父さんじゃ、なかった……?」
 ゆっくり頷く。
「ノゾミさん……ごめん、なさい」
 襲い掛かる敵と知らず、希望を危険な目に合わせた。
 一つ間違えれば、彼女を失っていたかもしれない。思って、震えた。
 縋るようにその身体を抱きしめる。
「大丈夫です。スノーくんが無事なら」
 優しく頭を撫でる。
 彼が、落ち着くまで。


 敵の姿に、即座にインスパイアスペルを唱える。
 月影に見るのは、大切な、大切な――。
「セヤ」
 フェルン・ミュラーが声を放つ。
「なぜ、ここに」
 ヨミツキの下にいるのは、フェルンの大切な親友。
 彼は剣を持ち上げると、切っ先をフェルンに向ける。
 セヤの唇が、言葉を紡ぐ。
「君ばかりパートナーと楽しく過ごすなんて……」
 ゆったりと構え、セヤがぐっと距離を縮めた。
「ズルイよ」
 突然の攻撃に、反射的に身構えた。
 振り下ろされる剣を、かろうじて受け止める。
 セヤは剣をいったん引き、振り上げると再びフェルンを目掛けて容赦なく振り下ろす。両手剣だというのに、その速さに避けるだけで精いっぱいだ。
「セヤ、やめてくれ」
 戦いたくない。
 一緒に育った幼馴染で親友だ。
 戦えるはずがない。訓練や稽古ではないことなど、彼の剣の重さから伝わる。
(……セヤ……?)
 瀬谷 瑞希は、懸命に戦うフェルンの姿に一抹の不安を覚える。
 目の前にいるものを『セヤ』と呼んだ。
 その名前に、聞き覚えがある。
(確か、フェルンさんの親友の精霊で……)
 一年以上も前に亡くなったらしいという、その人のはずだ。
 だが、目の前にいるのは、おそらくその親友ではない。
 そこにいるものの姿は、セヤだとも思えなければ、精霊だとも思えない。
「フェルンさん」
 だから、声を上げる。
「しっかりしてください」
 躊躇いながら攻撃を避け、受け流すだけのフェルン。
 戦う意思がないことは明白だ。
「私には敵が精霊には見えませんし、手の紋章もありません」
 ウィンクルムだったと聞かされている。
 任務の半ばで亡くなったらしい、とも。
「フェルンさん、幻を見てるんです」
 きっとフェルンが見ているものは、親友の幻だ。
 瘴気とヨミツキが見せる泡沫の夢。
「まぼ……ろし……?」
「そうです」
 瑞希の声に、フェルンが動きを止める。
 そして、セヤを真っ直ぐと見つめて、
「本当に死んだのか?」
 問いかけた。
 けれど、セヤは曖昧に笑うだけ。
 フェルンに、未だ迷いが残る。
「彼は……」
 迷いを断ち切ってほしい。
 そう願いながら言葉を探し、継ぐ。
「フェルンさんを死人の世界へ招いたりしない、彼なら来るなと言うだろう――そう言ったのはフェルンさんですよ」
 けれど、目の前にいる幻はフェルンに刃を向け、死人の世界へと招こうとしている。
(だから、それはフェルンさんの大切な親友なんかじゃありません)
 女神の力を借り、正しい姿を彼に見せてくれるように、祈りながらジェンマの杖でフェルンが幻に見る敵に殴りかかる。
(二人で立ち向かえば、大丈夫です)
 鬱陶しそうにそれを振り払って、セヤはフェルンに笑顔を向ける。
「彼女が君をここに縛り付けるのかい?」
 そういうと、セヤは剣を瑞希に向け、飛びかかった。
 瑞希に、デミ・リビングデットが噛みつく。
「――ミズキを傷つけるな……っ!」
 フェルンは斧でそれを押しのけるように阻む。
「ミズキを護るのは俺だ。誰にも傷つけさせない」
 その目に映るのは、親友とは似ても似つかない死人の姿。
 ――大切な親友の姿を、こんなものに重ねるなんて。
 目を眇め、ゆっくりと斧を振り下ろした。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 真崎 華凪
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル 戦闘
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 04月04日
出発日 04月12日 00:00
予定納品日 04月22日

参加者

会議室

  • [5]秋野 空

    2016/04/11-23:59 

  • [4]瀬谷 瑞希

    2016/04/11-23:53 

    こんばんは、瀬谷瑞希です。
    パートナーはロイヤルナイトのフェルンさんです。
    プランの提出は済んでいます。
    皆さま、よろしくお願いいたします。

  • [3]蓮城 重音

    2016/04/11-21:33 

    ご挨拶が遅れました。もうすぐ出発ですね。
    蓮城重音といいます。
    みなさん、よろしくお願いします。

  • [2]シャルティ

    2016/04/10-12:58 

  • [1]秋野 空

    2016/04/09-15:39 


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