【糖華】バレンタイン・スイーツを開発せよ(りょう マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

●厨房にて
 一人の精霊が、チョコレートソースの海に素麺をダイブさせた。その上から銀色のアラザン——粒状の糖衣菓子である——をまぶしている。
「どうだ!チョコレートは夜空、素麺とアラザンは流れ星……スイーツで流星群を表現したぞ!!」
「却下!」
 チョコレートと素麺の組み合わせなんて認めないと、神人は怒ったように言う。
「いや、でも、バレンタイン城の付近でよくみられる金平糖の流れ星を表現するのは良いんじゃないか?今年は30年に一度の大流星群だって話だし」
 と、別の精霊が言えば、
「だったら、アラザンじゃなくて、金平糖をまぶした方が良いんじゃない?」
 意見を出す神人。
「いやいやいやいや、問題はそこじゃないから!素麺とチョコレートっていう組み合わせが——」
「ずぞぞぞぞー」
 精霊が、チョコレートソースをたっぷりからめた素麺をすすった。もぐもぐ、ごくんと飲み込んで一言。
「これは無いな」

 白熱した議論が繰り広げられているのは、バレンタイン城の厨房である。
 広い厨房の一角。多種多様なお菓子の材料と、ボール、ミキサーなどの器具類などが山積みになっている。そこに間借りしたウィンクルム達が勤しむのは、新作スイーツの開発。
 なぜ、ウィンクルム達がそのような事をしているのかといえば、バレンタイン伯爵家からの依頼のためだ。
 伯爵家の三王子からの依頼とは、

『スランプに陥ったパティシエに代わって、バレンタイン限定スイーツを開発せよ!』

 というもの。
 バレンタインに合わせて売り出される限定スイーツ。例年、新作の限定スイーツを開発しているパティシエがいるのだが、彼がスランプに陥ってしまったらしい。結果、今年の限定スイーツが未完成なのだ。
 見て美味しい、食べて美味しい、そしてバレンタインにふさわしいスイーツを作り出さなくてはならない。
 限定スイーツをどうするか、悩んだ伯爵家が助けを求めた先がA.R.O.A.だった。ウィンクルムは恋人達の想いを良く理解しているはず。ならば、バレンタインにふさわしいスイーツのアイディアも沢山持っているに違いない、ぜひとも協力して欲しいと言ってきたのだ。
 オーガに関する事件では無いとはいえ、伯爵家の頼みを無下にすることもできない。ウィンクルムたちは手を貸す事にした。もっとも、手を挙げたウィンクルムたちの本音は、スイーツ作りが面白そうだったから、なのだが。

 何はともあれ、バレンタイン限定スイーツを作り出さなくてはならない。

 眼光鋭く、ウィンクルム達の様子を観察しているのは、スランプ中だというパティシエだ。御年46歳である彼は、今まで数多くのスイーツを作り出してきた。未だ独身なのは、スイーツに情熱を注ぎ込んできたからか、それとも、若い頃にヤンチャをし過ぎたからなのかは、どうでも良い話である。
 とにかく、彼が「これぞバレンタイン・スイーツ!」と認めるスイーツを作らねばならない。
 ウィンクルム達の議論は熱を帯びていくのだった。

解説

●概要
協力してバレンタイン限定の新作スイーツを作ってください。
パティシエが試食をして判定します。
判定の基準は、見た目、味、バレンタインらしさです。

●消費Jr
交通費として400Jr消費します。

●成功条件
作ったスイーツがパティシエに認められる事。

●判定回数の上限
パティシエに試食・判定してもらえるスイーツの数には上限があります。
上限は『参加人数−1』個です。
例えば、参加人数が4人だった場合は、最大3個。つまり、3回までパティシエに挑戦できます。
これはあくまで上限ですので、必ずしも上限数だけのスイーツを考える必要はありません。
渾身の1個を考え出して、一発勝負に出るのもありです。
パティシエが試食したスイーツの内、どれか1個が認められれば成功です。

●材料
お菓子の材料や器具類は各種揃っています。
その他、米、パスタ、野菜、果物などの食材も少々。

●パティシエ
名前はピエール。46歳独身。
敏腕パティシエ。スランプ中とはいえ、スイーツを評価する眼は確かなもの。
スイーツの判定は彼が行います。彼が認めれば成功です。

●その他
あり得ない組み合わせでも、スキルによっては美味しくなる可能性があります。
奇抜だったり正当派だったり……アイディアが大切です。

バレンタインイベント関連エピソードです。
https://lovetimate.com/campaign/201601/episode01.cgi

ゲームマスターより

ご覧いただきありがとうございます。りょうです。

今回は協力してスイーツを作っていただきます。
皆様のアイディアをぜひ披露してください!

皆様のご参加と、美味しいレシピをお待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)

  VDに必要な物はなんだろう
夢とか愛とかドキドキ感…
特別さ、
豪華さ、
手作り?
自分専用な感じ
…かな

☆菓子は協力して作ろう

俺の提案品はこれ
「アマンドジュエリー」
アーモンドのチョコがけを鼈甲飴で覆った物
一粒ずつキラめく外観だ
宝石は色々だからチョコの味も色も様々に
カリっとした食感、中は香ばしいアーモンド
可愛い箱に入れて愛する人に…なんてどうかな

「秘密の箱」
四角いチョコ棒で組んだ小箱
基本はスイート・ミルク・ビターの三味
色も違うんで見た目も模様に見えるだろ
赤い要の一本、苺チョコ棒を抜くと解体できる組み方な
中には小さな空洞があるから
例えば指輪等を入れて渡す事も出来る訳

★皆で分け合い美味しく頂く
俺はコーヒーを…


セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  料理得意なラキアに任せるつもりだったのに。
「何かひとつ作ってみようよ」
とラキアに笑顔で言われたら断れない。
バレンタインなら直球でチョコ勝負だとオレ思うんだ。
それとチョコはサバイバル時のカロリー源として、緊急持ち出し袋に絶対入れておきたい一品。
登山の時もチョコは荷物に忍ばせておいて損はない。

■オレ、一口チョコを作ってみるぜ。
チョコを湯煎して型に流せばいいんだよな。
バレンタインっぽく、小さなハートの型に入れるぜ。
ハートは心臓っぽくてサバイバル時にも元気づけられるじゃん。

ラキアのチョコマドレーヌを作る手伝いもするぜ。
多めに作って、後で皆で食べようぜ。

皆の作るのも食べてみたいし、最後はお茶会したいな。


アイオライト・セプテンバー(白露)
  パパがお菓子作ってくれるって
でも、あたしもお手伝いするよっ
ふりふりエプロンも持ってきたし☆

えっとねー、あたしもお菓子考えてきたんだよ
バレンタインならかわいいのが一番だと思うから、ぱんつの形したチョコレートにドライフルーツいっぱい詰めてねー(もきゅ←止められた
…本当に、パパ、帰ってから作ってくれる?
じゃ、我慢する

わぁっ、パパのかわいいー♪
パーティみたい、これなら皆で楽しめるねっ
大切な二人のためのスイーツもいいけど、家族で分け合うのもいいと思うの
パパとあたしは、らぶらぶで家族だけど、キャー///

他の人のも楽しみだなっ、どんな味かなっ
紅茶もちゃんと持ってきたよ
ほら、ここ(アッタマールぽちゃぽちゃ


フレディ・フットマン(フロックス・フォスター)
  オジさん…やっぱり甘いの、好きだよね…?
…恥ずかしい、のかな

行動
なにがいい、かな…限定だもん、ね
特別な感じの物が、いいと思う…けど

バレンタインのイメージは、茶色と赤…なので
ブラウニーに木苺と苺のドライフルーツを…味は、いいかも?
…もう一味、欲しいかな…オジさん、なにがいい?
最後は白い丸皿に、ミントも添えて…

そういうのも、あるんだ…
でも、普通…なの?
…けっこう博打、な感じだけど…やってみよう
ふふ…オジさん、楽しそうで…なんか可愛いな、って

ちょっと多めに作れるなら…皆の試食用ってことで、ちょっとだけ

審査、ドキドキ…皆のも、美味しそうだし(精霊の背後から覗き
…でも、楽しかったね…オジさんも可愛かった


●アイディアはありますか?
「えっとねー、あたしもお菓子考えてきたんだよ」
 エプロンをひらめかせながら、アイオライト・セプテンバーは元気に挙手をした。純白のフリルエプロンを纏う姿は非常に愛らしい。
「バレンタインならかわいいのが一番だと思うから、ぱんつの形したチョコレートにドライフルーツいっぱい詰めて——」
 もきゅっアイオライトの口を押さえたのは、白露の右手。
「まぁ、ぱんつは置いとくとして、皆さんアイディアは?」
 アイオライトを抑えつつ問えば、他のウィンクルム達も各々案は持っている様子。
 敏腕パティシエ・ピエール曰く、試食をするのは7種類まで。それ以上かかるようであれば、良いアイディアは得られないと判断するとのこと。
 与えられたチャンスは7回。ウィンクルム達は顔を見合わす。
 まずはアイディアを形にするため、彼らは調理を開始した。

●バレンタインでーに必要なものは?
 ヴェルトール・ランスは頭をひねる。
(定番のスイーツじゃダメなんだよな?)
 チョコレートを使ったスイーツは幾つか思いつく。ザッハトルテ、フォンダンショコラ、オペラ……。けれど、
(そういうので良けりゃ頼らねぇもんな)
 胸中で独りごちる。
(俺なら相手の手作りだともっと嬉しいぜ)
 チラリと隣のアキ・セイジを見やる。
(あー……でも、それだと店で売れねぇか)
 それは別におねだりしようと心に決める。

 セイジは、バレンタインデーに必要なものはなんだろうと考えていた。
(夢とか愛とかドキドキ感……)
 それを演出するためには何が必要か。
(特別さ、豪華さ、手作り? 自分専用な感じ……かな)
 セイジの頭の中に、幾つかのアイディアが浮かぶ。あとは、それらを形にするだけだ。
「ランスの案は?」
「ドーナツみたいな棒状の菓子の生地で作ったリース! リーフパイとかクッキーとかも飾りつけて賑やかな感じで」
 それは確かに面白そうだが、作るとなると大変だ。
「それじゃ、協力して作ろうか」
 セイジの提案にランスが尻尾を振って答えた。 

●可愛いパーティーケーキ
 アイオライトは菓子の材料を抱えている白露の袖を引いた。
「ぱんつの形したチョコレートは?」
 相変わらずのパンツ推しに、白露は苦く笑う。
「アイ……そういうのはおうちで作ってあげますから、今日はぱんつ以外にしましょう」
 ね? と促すと、アイオライトはしばし考えてから上目遣いで白露を見つめ、
「……本当に、パパ、帰ってから作ってくれる?」
 と懇願してくる。パンツ型のチョコレート……想像するも苦しいが、アイオライトを目の前に、断ることが白露にはできない。作ってあげると答えれば、アイオライトの表情は一気に明るいものになる。
「じゃ、我慢する」
 アイオライトはにこっと笑った。
 ひとまずパンツの話題からは離れることができたと、白露は胸を撫で下ろし、菓子作りに意識を向ける。
「パパはどんなお菓子作るの?」
「ロリポップ型のケーキは如何かと思っているんですよ」
 家庭料理には覚えがあるが、菓子作りはあまり得意でない。やれるだけやってみようと作業を開始する。
 基本の工程は普通のケーキ作りと変わらない。違いはといえば、スポンジケーキの生地にココアとラズベリージャムを混ぜ込むこと。その生地をオーブンで焼く。
 焼き上がりを待っている間に、チョコレートを湯煎で溶かしておくことも忘れない。オーブンからは、甘い香りが漂い始めている。
 焼きあがったスポンジケーキをオーブンから取り出し、それを小さくカットする。形はハートやテディベアなど様々。それらをスティックに刺していく。アイオライトも白露を真似てのお手伝い。
 スポンジ部分を溶かしたチョコレートにくぐらせコーテイングし、チョコペンでデコレーションすれば完成だ。
 豪勢な花瓶を一つ借り、そこにスティックをさせばロリポップ型ケーキの花が咲く。
「わぁっ、パパのかわいいー♪パーティみたい、これなら皆で楽しめるねっ」
 目を輝かせるアイオライトに、白露は優しく微笑んだ。
「大切な二人のためのスイーツもいいけど、家族で分け合うのもいいと思うの。パパとあたしは、らぶらぶで家族だけど」
 キャーっと両手で顔を覆い、一人盛り上がるアイオライトである。

●定番と博打と
 菓子の材料を前に、どことなく幸せそうな表情のフロックス・フォスター。そんな精霊を盗み見るのはフレディ・フットマンだ。
(オジさん……やっぱり甘いの、好きだよね……?)
 訊いても否定されるであろうことは予想がつくため口にはしないが、常の彼の行動や言動からそれと知れる。出発前、彼は「困っている人が居たら助けるものだろう」と言っていたが、現在の彼の表情に、言葉の裏の本音を見た気がする。
 甘いものが好きならば好きと言えば良いのに。恥ずかしいのだろうか? とフレディが考えていると、フロックスがこちらに顔を向けた。
「何を作る? 手頃な所だと焼き菓子だが……」
 顎に手を当て思案するように言う。
 フレディにとって、バレンタインのイメージは、茶色と赤。彼は控えめに口を開くと、
「ブラウニー……」
 と答えた。なるほど、フロックスは頷く。
「ブラウニーは定番だな、安牌は入れとこう」
 多少の菓子作りの心得があるフロックスの手を借りながら、フレディはブラウニー作りに挑戦する。
 湯煎でバターやチョコレートを溶かすのは、はじめてだ。けれど、ブラウニーは初心者にはうってつけのレシピである。材料を混ぜ、型に流し込めばあとはオーブンに入れるだけ。
 焼き上がりを待っている間、フレディはフロックスの手元を覗いた。彼が作っているのはどうやら和菓子のようだ。
 白餡で包んだ生チョコレート。それを餅で包む。
 チョコレートと餅という組み合わせに、フレディは驚いた。
「そういうのも、あるんだ……」
「まぁ、チョコを餅で包むだけじゃ普通だからな。ポイントはオレンジだ」
 生チョコレートの中には、一片のオレンジが仕込んである。
「普通……なの? ……けっこう博打、な感じだけど………」
 しかし、やってみる価値はあるという気もする。
 作業を続けるフロックス。その表情はどこか柔らかい。フレディが見つめていると、視線に気づいたフロックスが首を傾げる。
「……どうした、俺の顔になんか付いてるか?」
 言われ、フレディは首を横に振ってから小さく笑った。
「ふふ………オジさん、楽しそうで……なんか可愛いな、って」
 フロックスは僅か眉間に皺を寄せる。
「だから、俺は可愛くねぇっての……」
 ぷいっと顔を背け、大福に向き直ったのは照れ隠しだろうか。

●ハートは心臓?
 湯煎でチョコレートを溶かすラキア・ジェイドバインの手元を、セイリュー・グラシアは覗き見ていた。料理が得意なラキアだ。スイーツ作りは彼に任せようと、セイリューは考えていたのだが、
「セイリューも何か一つ作ってみようよ」
 作業の手を止めないままに、けれどセイリューの顔を見て、ラキアはにこりと笑って提案した。
 この綺麗な笑顔を前に、断ることはできない。とはいえ、セイリューはスイーツ作りのノウハウは知らない。自分でも作れるものは何か。
 ラキアに習ってチョコレートを溶かすと、小さなハート型へと流し入れた。
「バレンタインっぽく、ハート型。ハートは心臓っぽくてサバイバル時にも元気づけられるじゃん」
 ニッとラキアに笑いかける。
「セイリューのサバイバル視点は独特だね」
 ハートを心臓っぽいと言うとは、ラキアも想像していなかったらしく、苦笑してしまう。
 ある意味セイリューらしいのかも、と思いながら、ラキアは作業を続けた。
 溶かしたチョコレートを流し入れるのは、ハート柄のグランシカップだ。カップの中にはあらかじめ小さなマシュマロを入れてある。チョコレートを入れ終えたら、金平糖を添える。あとはチョコレートが冷えて固まるのを待つだけだ。
 チョコレートが固まるまでの時間を利用してもう一種。二人は定番の焼き菓子作りに取り掛かった。
 普通のチョコレートは甘すぎて苦手、という人にも勧められるものをとラキアが考えたのは、チョコマドレーヌだ。基本のレシピは一般的なマドレーヌと同じだが、そこにチョコレートを加える。さらに洋酒も加えれば、あとは型に流し込んでオーブンで焼くだけだ。

 さすがは伯爵家の城の厨房だけあり、そこには大きなオーブンが複数台備え付けられている。それらがフル稼働すれば、幾つものスイーツが完成していく。気づけば、厨房には甘くも香ばしい香りが満ちていた。

●審査のとき
 厨房のカウンターに、出来上がったスイーツがずらりと並ぶ。なかなかの出来栄えに、ピエールは感心したように、ほうっと声を漏らした。見た目はどれも合格点といったところだろう。
 問題は味。そして、バレンタインに相応しいかである。
 ウィンクルム達はスイーツを眺め、どの案からパティシエに挑むべきかしばし思案する。王道か、それともひねりを加えた一品か。
「まずは、王道から攻めてみるか」
 言って、フロックスはフレディの背中をポンと叩いた。
「え、僕?」
 不安げに見上げるフレディに、フロックスはそうだと頷く。
(ドキドキするな……)
 白い丸皿にのっているのは、木苺と苺のドライフルーツが添えられたブラウニー。それだけでは色味が寂しいと、フロックスに助言をもらって加えたのは生クリームだ。さらにミントも添えて鮮やかに。
 フレディはブラウニーをピエールに差し出した。
 ウィンクルム達は、敏腕パティシエがブラウニーを口へと運ぶ様子を、緊張の面持ちで見つめる。
「こ、これは!」
 おおっ!? とどよめきが起こる。
「濃厚なショコラとドライフルーツが奏でる甘さと甘酸っぱさのハーモニー! 町娘のような素朴さは非常に親しみ易い!」
 カッと目を見開き、何やらポーズを決めながら評価を述べるピエール。その姿は劇団員のようだ。
 しかし、情熱的なその表情がすっと冷めたものになる。
「味も盛り付けも悪くない。けれど、バレンタイン限定スイーツとしては……」
 バレンタインの特別感が足りない。それが彼が下した評価だった。
 しょぼんと項垂れるフレディの肩に、フロックスは気にするなとでも言うように優しく触れた。
 フレディに続くのはランスの一品。
「よし、じゃ次は俺の案! どーんとでっかいのでチャレンジだ!」
 ランスが差し出したのは、リース状のスイーツ。
「名付けて『バレンタインリース』」
 ドーナツで出来た大きなリースには、リーフパイ、クッキー、マカロンなどが賑やかに飾り付けられている。全体にちりばめられたチョコレート、ドライフルーツ、ナッツが落ち着いた色合いを添える。
「おお! なんと豪華な! まるで上流階級の乙女のような、煌びやかなスイーツだ」
 食べ応えもたっぷりなそれを、ピエールが頬張った。
「見た目もさることながら、味もなかなかに賑やかだ。これは面白い。けれど……」
 ピエールは大仰に嘆きの声をあげる。
「ああ……悲しいかな、これはバレンタインというよりも、クリスマス・スイーツ! 今年のクリスマスにぜひ売り出したい一品だ」
「クリスマスかよ〜」
 10ヶ月程先に持ち越されてしまった案に、ランスの耳はショボンと垂れてしまった。
「では、こちらは如何でしょう?」
 次は白露のアイディア。
 まるで花のように花瓶に盛り付けられたロリポップ型のケーキを、ピエールの前に差し出した。
「『糖華降る夜』ですからスティックで恒星の尾をイメージしてみました」
 様々な形とカラフルなチョコレート。ポップで可愛らしいその出で立ちに、敏腕パティシエの表情が緩む。
 ピエールはハート型を手に取ると口へと運んだ。チョコレートコーティングの下のスポンジは、ココアとラズベリーでマーブル状になっている。ラズベリーの甘酸っぱさは良いアクセントだ。
「なんと愛らしい……。社交界にデビューしたての少女のようなケーキポップス! 見た目も味も、少女のようなあどけなさは非常に好感が持てる。金平糖ナイトをイメージしているのも良いのだけれど……」
 パティシエは大仰にかぶりを振った。
「もう一捻り、恋人たちをイメージした何かが欲しい……」
 との評価。白露は非常に残念そうに眉を下げる。
「パパ、残念だねー。やっぱり、ぱんつにしておけばよかっ——」
「あ、アイ!」
 もきゅっと白露がアイオライトの口を押さえるのは、本日二度目。
 パンツ!? となぜか反応したパティシエの視線を、白露は曖昧な笑顔で受け流した。

「次は和風でいってみるか」
 フロックスは自身考案の一皿を差し出した。
 和を意識した黒い角皿にのっているのは、ココアで化粧された大福。ココアの下には白い肌がうっすらと見えている。
「俺の案は……チョコ大福だ」
 和洋折衷のスイーツ。それをピエールが口へと運ぶ。
「生チョコレートと大福の皮は乙女の柔肌のように柔らかい! 白餡は清楚に慎ましく、チョコレートは大胆に主張してくるけれど、それをオレンジの酸味と爽やかさが優しく窘めている!」
 どうやらこのパティシエ、味を女性に例えるのが癖のようだ。
「チョコレートとオレンジの相性の良さをうまく利用しているね。けれど、やはりバレンタイン限定スイーツとしては、少々物足りない……非常に残念だが……」
 厳しい結果にむぅっとフロックスは小さく呻く。
「よーし! じゃ、次は俺の案だ!」
 威勢良く言うのはセイリューだ。
 バレンタインなら直球でチョコ勝負だ、とセイリューが考えたのはハート型の一口チョコレート。
 非常にシンプルな一品に、ピエールは笑みを浮かべながら口へと運ぶ。
「着飾らない生まれたての赤子のような真っ直ぐさは好感が持てる! けれど……残念ながら、商品として売りだすのは難しいね」
 ピエールが苦く評価を述べれば、ぐぬぬとセイリューは悔しそうな表情を見せる。そんなセイリューをなだめつつ、ラキアは自身のアイディアスイーツを差し出した。
 こちらも見た目はシンプルなチョコレート。セイリューとの違いは、金平糖が添えられていることだろうか。
 パティシエが口へと運べば、その表情が変わる。
 チョコレートの中のマシュマロ。それはチョコレートとは異なる食感と甘さを与えてくれる。チョコレート、金平糖、そしてマシュマロという味の変化に、パティエは舌を巻いた。
「気まぐれな女性の心のような味わいだ……」
 そこに、ラキアがホットミルクを差し出す。
「ホットミルクに溶かせば、ホットチョコレートになりますよ」
 にこりと笑みを一つ。
「なるほど……。食べてよし、飲んでよしのアイディア。添えられた金平糖が、金平糖ナイトにもふさわしい一品……」
 ピエールが唸る。だが、
「しかし、もう一捻り欲しい。恋心を抱く者が想いを託すための、もう一捻りが……」
 あと一歩、何かが足りないのだと頭を抱える敏腕パティシエの姿に、ウィンクルム達の表情も曇る。
 残ったのは、セイジの案。
「最後はこれ。『秘密の箱』」
 縞模様の小箱。一見変哲もないが、よく見れば、それはチョコレートで出来ている。
 チョコレートの棒で丁寧に組まれた小さな箱だ。
「チョコはスイート、ミルク、ビター。それと、苺」
 説明しながら、セイジは赤い要の一本——苺のチョコレートの棒を引き抜く。すると、箱が解体された。箱の中が露わになる。
「中の空洞には好きな物を入れられる。例えば、指輪とか」
「これは!」
 敏腕パティシエの目が大きく見開かれる。震える手でチョコレートを口へと運べば、おお……と感嘆の声が漏れた。
「これは……これぞバレンタイン・スイーツ! チョコレートの小箱……まさに恋心を抱いた者が想いを託すに相応しい! チョコレートを食べるまで分からない隠された想い……。期待と不安で高鳴る鼓動! 私も今までに多くの人々にチョコレートを贈ってきたが、この発想はなかった……」
 敏腕パティシエは目頭を押さえながら、バレンタインに相応しい素晴らしい一品だと静かに告げた。

●午後のお茶会
 柔らかな日差しが差し込むサロン。そこに据えられたテーブルに、ウィンクルム達が作ったスイーツが並んでいる。それに加えて、
「紅茶持ってきたよー」
「俺も紅茶を持ってきたよ」
 アイオライトとラキアが持参した紅茶。
「俺はコーヒーを……」
 芳ばしい香りのコーヒーを淹れるのはセイジだ。
 皆が囲む円形テーブルと腰掛けている椅子には、伯爵家にふさわしい豪華な装飾が施されている。足元の絨毯はふかふかとし、まるで雲の上のよう。
 バレンタイン城のサロンを借りての午後のお茶会だ。
 皆、試食という名のお茶会をする気満々だったのであろう。テーブルの上はスイーツで埋め尽くされている。
 パティシエに審査を願った数々のスイーツ。その残りに加えて、ラキア考案のチョコマドレーヌ、セイジ考案のアマンドジュエリーが並ぶ。
 白露はチョコマドレーヌに手を伸ばす。一口頬張れば、甘さ控えめのチョコレートの香りと洋酒の風味が口内に広がる。
「洋酒のきいたチョコマドレーヌは大人の味わいですね」
「本当? あたしも食べるー!」
 ねだるアイオライトを白露は静かに諌める。
「アイにはまだはやいですよ。こっちをいただきましょう」
 差し出したのは、アマンドジュエリー。アーモンドのチョコレートがけを、べっこう飴で覆ったスイーツだ。マドレーヌに未練を抱きつつも、アイオライトがそれを口へと運べば、
「甘くって香ばしくってカリカリで美味しいー!」
 途端にその表情が明るいものに変わる。
 その笑顔に、考案者であるセイジの表情も緩む。
「見た目もキラキラして宝石みたいだね」
「可愛い箱に入れて愛する人に……なんてどうかなと思ったんだ」
 セイジもアマンドジュエリーを一粒口へと運んだ。
 ここぞとばかりに、ランスの耳がピンと立つ。
「もうすぐバレンタインだもんな! 俺もバレンタインにはチョコが欲しいな〜」
 声を向ける先は、もちろんセイジだ。
 セイジはランスの耳を一瞥。
「……犬はチョコはダメだろ?」
「犬じゃないし! 狼だしっ! ってか精霊だしっ!!」
 精一杯の抗議をすれば、セイジは面白そうに笑っている。
(からかわれた!)
 しょぼんと垂れる耳。その姿に、セイジは笑いながら言った。
「冗談だよ。作ってやるよ」
「え、マジ? 作ってくれる?」
 無意識に激しく揺れる尻尾。その勢いの良さに、セイジは再び笑みを浮かべた。

 フロックスは、ハート型の一口チョコレートを口へと放り込んだ。
「シンプルなチョコも悪くないな」
「だろ? チョコはサバイバル時のカロリー源として、緊急持ち出し袋に絶対入れておきたい一品だしな。登山の時もチョコは荷物に忍ばせておいて損はないぜ」
 ニッと笑顔を浮かべるセイリューに、その通りだとフロックスは頷く。
 セイリューの隣では、ラキアがブラウニーを口へと運んでいる。
「こういう定番のもいいよね」
 柔らかく微笑みながら言う。考案者のフレディにとっては、嬉しい言葉だ。
 フロックスは、なかなかテーブルのスイーツに手を出せないでいるフレディに、白露考案のロリポップ型ケーキを差し出した。
「残念だったな、選ばれなくて」
「……でも、楽しかったね」
 フレディはケーキを受け取ると、小さく言った。
「ああ。菓子作りも面白かったな……」
 フロックスの満足そうな表情を前に、フレディの顔に笑みが浮かぶ。思い出すのは、真剣に、そして楽しそうにスイーツに向き合うフロックスの姿。
「オジさんも可愛かった」
 ポツリとつぶやかれた言葉に、フロックスはパチリと瞬きを一つ。
「お前さんの感性は疑うが……」
 ため息と共に吐き出した。

 後日、バレンタイン限定スイーツは無事に販売された。
 それが飛ぶように売れ、瞬く間に完売した事は言うまでもない。



依頼結果:成功
MVP
名前:アキ・セイジ
呼び名:セイジ
  名前:ヴェルトール・ランス
呼び名:ランス

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター りょう
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 02月06日
出発日 02月13日 00:00
予定納品日 02月23日

参加者

会議室

  • [12]アキ・セイジ

    2016/02/12-22:44 

    皆で試食できるのも楽しみだな。
    コーヒーを淹れようかな。飛び切りの奴を…。

  • ん、久しぶりだなお嬢ちゃん。

    俺んとこもプランまとまった、試食用という大義名分で多めに作っておくことにした
    定番と変わり種の2種で用意することにしたぞ

  • 折角だから、バレンタインスタンプだよー

    プラン終了っ
    で、結局1個だけ、バリエーションは多めのパターン。
    ちょっと多めに作るって書いたから、みんなで食べられそうかな?

  • 審査の後『皆でお茶会』を提案しておいた。
    ラキアが紅茶淹れる予定。
    皆の作ったお菓子を食べてみたい。
    作ったお菓子は皆で楽しんでいいと思う!

  • フレディさん達もおひさしぶりー☆彡

    でも、あたしのプランはまだです…。
    あと、もうちょっと。お菓子はやっぱり1種類になりそう。
    他の人のに期待してるー

  • [6]アキ・セイジ

    2016/02/12-17:51 

  • ギリギリ滑り込みでスマン、スイーツ作りが出来ると聞いて。
    俺らんとこも2個くらい考える予定、多めに作っていいなら作りたいところだなぁ…

    まあまあ、白紙で出発にならないように今のうちにまとめておく。

  • 5回チャレンジ出来ればいいなーと思うけど、あたしも5個も考えらんないなー。
    だいたい1個か2個ぐらい?

    お裾分けいいなーっ
    少し多めに作るぐらい、そんなに手間かかんないよね。
    ねっパパ!?
    そしたら、飲み物も欲しいなーって(だんだん趣味に走る

  • セイリュー・グラシアと精霊ラキアだ。
    アイちゃん、いらっしゃーい。
    セイジ達もヨロシク頼むぜ。

    『参加人数』とあるので、オレとしては6人参加の
    チャレンジ5回だといいな、とか思っている。
    しかし5種類も考えられるかというと…。
    うん。ラキア、頑張れ!

    ラキア「えっ、まる投げ!?」

    皆の作るお菓子も食べてみたいんだぜ。
    おすそ分けってダメかな。審査とか関係無くさ。
    審査後に皆で食べるとか、出来ると良いなぁ。

  • 入っちゃった☆
    いちおう調理スキルLV2持ってる(あとはバレンタインブックで「アルコール」と「クッキングアート」)パパ連れて来たよー。
    まだなにもネタ考えてないけど。

    えっと…これで、5回チャレンジ出来るのかな?
    それとも、2回?


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