【薫】匂宮(山内ヤト マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 この世界では流星融合の影響で、様々な文化がモザイクのように入り乱れている。
 古風な和の貴族の暮らしをほうふつさせる、寝殿造りの屋敷とその庭園があった。
 今は貴族の住居ではなく、博物館と歴史テーマパークを合わせたような娯楽施設になっている。名前は光屋敷。入園料を払えば、誰でも自由に入ることができる。

 現在、光屋敷では香りに関するイベントを開催している。良い香りの煙を焚き染めた衣装のレンタル。希望の入園者に無料でおこなっている期間限定サービスだ。
 衣装は、コートのように着ることができる和風の上着。
 長羽織に近い形状で、着用感はカーディガンに近く、洋装と組み合わせてもそれほど違和感はない。
 女物も男物もサイズや色柄を豊富に揃えており、艶やかなもの、可憐なもの、落ち着いたものと様々だ。こだわりがあれば、色や柄を指定するのも良い。特に希望がなければ、光屋敷の係員が似合いそうなものを選んでくれるだろう。

 香炉で着物に焚き染める香りは、五種類の中から選べる。
 白檀。サンダルウッドとも呼ばれる。個性的でスモーキーな香り。
 乳香。フランキンセンスとも。異国情緒を感じさせる甘い香り。
 桜。代表的な和の香り。香りを身につける人によって、凛々しい印象にも柔らかな印象にもなる。
 梅。フルーティーで爽やかさのある香り。寒い時期にぴったり。
 睡蓮。甘い芳香だが、男性にも似合う神秘的な香り。

 光屋敷では、寝殿造りの見学が楽しめるが、プラス料金を払えば次のような体験もできる。

 絵合。小規模の美術館だ。お伽話の絵巻物が豊富で、かぐや姫、鶴の恩返し、雪女、鉢かづき姫、羽衣伝説などが目玉展示物。

 玉鬘。ヘアサロン。プロが髪をセットしてくれる。時代劇のお姫様のような髪にしたり、ウィッグやヘアカラーを使ってイメージチェンジができる。地毛を染めた場合、お風呂のシャンプーですぐに戻る。

 胡蝶。蝶を放し飼いにしているガラスの温室。ここの蝶は人を恐れない。なお、幼虫やサナギは別のエリアで大切に飼育されているので、温室内にはいない。ガラス張りの温室が古典的な光屋敷の中で浮かないよう、外観は落ち着いたデザインになっている。

 早蕨。山菜を使った料理が自慢の食事処。

 浮舟。寝殿造りの中庭にある池に、小舟を浮かせて二人で乗る。

 香り立つ着物に身を包み、風雅な屋敷でパートナーとの一時を過ごしてみてはいかがだろうか。

解説

・必須費用
入園料:1組300jr



・プラン次第のオプション費用

絵合:1組200jr
玉鬘:1人100jr
胡蝶:1組200jr
浮舟:1組200jr

早蕨のメニュー
山菜蕎麦:1人分100jr
山菜炊き込みご飯:1人分100jr
山菜天ぷら御膳:1人分100jr
天然わらび餅:1人分50jr

複数の施設を利用することも可能ですが、その分一つ一つの行動に対する描写が薄くなります。PL様の方で、バランスを調整してください。

ゲームマスターより

山内ヤトです!

光屋敷の施設は『源氏物語』から名前を拝借しただけで、古典の内容とは特に関連性はありません。

寿ゆかりGM主催のフレグランスイベントのエピソードです。
対象のエピソードの納品時に、参加者へ全8種類のうち、ランダムで2つの『香水』がプレゼントされます!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)

  香【乳香】
プラン【浮舟】
着物【唐衣裳装束】

一回着てみたかったんですよね!
が…これ、私でも凄く重く感じます
普段こんなに重い服着て動くこと無いですから
ですから、今日は一日ディエゴさんに寄り添って動くことにします
えへへ…武士の方に守ってもらうお姫様って感じですね
ですがそれを笑って言う余裕はちょっとないです。

小舟に二人きりって雰囲気ありますね
そういえば、ディエゴさんに寄り添って歩いた時に彼の香を嗅いだんですが
良い香りでした、嗅ぎたいので傍に行っていいですか?

小舟のバランスで焦る様子がおかしくて笑っちゃいました
ゆっくり中心に行きましょう
今の匂いも好きなんですが
私はいつもの硝煙の匂いの方が落ち着きます


クロス(オルクス)
  ☆衣装
淡い蒼色、桜柄

☆香炉


☆心情
「俺、こういう雰囲気好きだなぁ(微笑
オルク、早く行こうぜ♪」

☆玉鬘
黒の腰迄の長いウィッグ着用
「ふふっ♪偶にはイメチェンするのも良いよな♪
黒のロングウィッグをいじらずに大和撫子風にしよう!
オルク分かるかな?」
・お互い黒髪にして一瞬誰か分からなくなるが直ぐに認識
・褒め合う
「オルク…?
マジで?
うわぁ別人かと思った!
意外と黒髪も似合ってるなぁ…うん格好良いぞ(微笑
えっと、ありがと、オルク…(照」

☆絵合
「ここって美術館?
凄い…!
色んな童話だ!
俺小さい頃から童話も好きで沢山読んだなぁ
妹にも読んであげたり…
後さ俺、子供が出来たら沢山童話や絵本読んであげるのが夢なんだ(微笑」


シャルル・アンデルセン(ノグリエ・オルト)
  お香:梅
プラン:絵合

和?風と言うのでしょうか…こういう様式はあまり接することがなかったのでとても新鮮です。
お香もとても良い香りで…ノグリエさんとお揃いでなんだか…そのちょっと不思議な気分です。

この和風の物語もとても興味深いです。絵巻の絵もすごく鮮やかで見てて飽きませんね。
でもどこか悲しいお話が多いような気がします…幸せになるお話もあるのですが根底には切ない何かが含まれてるようで。
ハッピーエンドばかりが結末ではないと思っていますが…。
私とノグリエさんはどうなんでしょうか?
エンディングはずっと先ですが私にとってはすごくハッピーな物語なんですよ。ノグリエさんもそう思っていてくれると嬉しいです。


桜倉 歌菜(月成 羽純)
  赤系の艶やかな着物
梅(フルーティさが良い香り)

まず、玉鬘で髪をセットして貰います
折角の着物だもんね
黒く染めて時代劇のお姫様のような髪に
何だか別人になったみたいでドキドキ…
羽純くんが素敵過ぎて…更にドキドキ
羽純くん…私、どうかな?似合ってるかな?

絵合を見学
絵巻物、凄く綺麗だね!
羽純くんはどの御伽噺が好き?
私は…鉢かづき姫が好き
(頑張る鉢かつぎ姫が最後に報われて、素敵な若君と結ばれるハッピーエンド…小さい頃、憧れたっけ)
雪女…絵巻物に描かれている雪女は凄く綺麗で…
何となく…羽純くんの手をぎゅっと握る
(羽純くんの事、取られたくない)

早蕨で天然わらび餅を一つずつ注文
モチモチ、プルプルで美味しいね
幸せ♪


紫月 彩夢(神崎 深珠)
  白檀の香りのする上着を借りて
胡蝶で、蝶を眺めてのんびりしたい
この蝶は、香りを嫌がらないのかな
おいでって手を差し伸べたら、来てくれたりしないかな
綺麗ね、とても

ねぇ、深珠さん
こないだの仕事について、咲姫になんか言われた?
気にしないでとは、言わない
それは、あたしの関与していいことじゃないでしょ

ねぇ、深珠さん
あたしは、護られたいわけじゃないの
生かされたいわけでもないの
だから、嬉しかったのよ、本当に

ねぇ、深珠さん
白檀の香りってさ、昔から媚薬効果があるって言われてるんだって
だから、さ…香りに、あてられてよ
一度でいい。抱きしめて欲しいの
求められて、必要とされてるって
そんな気に、させて

貴方が必要なの、深珠さん


●童語り
「俺、これ着たいな!」
 『クロス』が選んだのは、淡い蒼色をした生地に桜柄の羽織だ。香炉で焚き染めるのは桜。
「クーに似合っているぞ。それならオレはこれにしよう」
 『オルクス』は、淡い紅色に銀狼の柄で、香りは睡蓮にした。
 羽織を手渡した光屋敷の係員は、二人のコーディネートを見てその優雅さと美しさに目を見張る。
「素敵です。雅やかなお召し物ですね」
 二人お揃いで身に着けている夜叉装束「黒桜」。高品質で人気のある和の衣装だ。それを着こなすクロスとオルクスは、とても魅力的だった。

 二人は楽しげな様子で、光屋敷の散策へと繰り出した。
「ほぉ、和風テイストな感じで良い雰囲気だな。落ち着いた感じが良い」
 寝殿造りの中庭や屋敷の佇まいを見て、そう感想を述べるオルクス。
「俺、こういう雰囲気好きだなぁ」
 クロスも微笑む。
「オルク、早く行こうぜ♪」

 二人がまず向かったのは、ヘアアレンジができる施設、玉鬘だ。
 髪をセットしてもらう間、一時的に別行動になった。どんな風に髪型を変えるつもりなのかは、お互いナイショにしてある。
「ふふっ♪ 偶にはイメチェンするのも良いよな♪」
 クロスが目をつけたのは、腰まである長い黒髪のウィッグだ。ウィッグ自体を活かして大和撫子風にしてほしいと、スタイリストにオーダーする。
 しばらくして、純和風で艶やかな黒髪をした美しい乙女が鏡の前に現れた。ウィッグをかぶったクロスである。
「オルク分かるかな?」

「んー、此処は思い切って今迄の印象を違くするか……」
 オルクスはウィッグは使わずに、地毛を黒く染めた。
「黒髪に染めて貰って、髪型はいつも通りだな」
 髪を後ろで結いたヘアスタイル自体は同じだが、オルクスの銀髪が黒くなるとけっこう印象が変わる。
「さぁてクーは気付くかな……?」

 お互い黒髪にした二人は、鉢合わせても即座に誰かわからなかった。
「オルク……?」
「……クー、か……?」
 でも、わからなかったのはほんの一瞬で、すぐに相手を認識する。
 二人共パッと顔を明るくして、和気藹々と褒め合った。
「マジで? うわぁ別人かと思った!」
 そう言ってクロスは、改めてオルクスの姿を見つめる。
「意外と黒髪も似合ってるなぁ……うん格好良いぞ」
「こんなにも美人で可憐だと益々害虫共から守らねぇと……」
 架空の害虫に向けて威嚇をするようなダークな表情を浮かべた後、オルクスはクロスを見てコロリと態度を柔らかく変える。
「まさしく、大和撫子とはクーの事なんだな。フッ!」
 桜の香りも、今のクロスにぴったりだ。
「えっと、ありがと、オルク……」
 照れながらも、嬉しいと思うクロスだった。

 次に二人が向かったのは、絵合。
「ここって美術館?」
 クロスが尋ねる。
「クーって本とか読むの好きだろ? だから絶対楽しめると思ってさ」
 ニッと明るく笑って、オルクスはクロスを案内する。
「凄い……! 色んな童話だ!」
 展示されたお伽話の絵巻物を見て、クロスは目を輝かせた。
「俺小さい頃から童話も好きで沢山読んだなぁ。妹にも読んであげたり……」
「そういやオレも兄貴達に読んでもらったなァ」
 オルクスも昔を回想しながら、クロスの話に耳を傾けている。
「後さ俺、子供が出来たら沢山童話や絵本読んであげるのが夢なんだ」
 そう言って、クロスはオルクスに微笑みかけた。
「!」
 オルクスの赤い瞳がハッと見開かれる。
 子供が出来たら、というクロスの発言。つい意識してしまった。
「そっか、夢叶うと良いな」
 オルクスは驚きの表情をすぐに微笑みで隠して、自然体でそう返した。
 平静を装ったけれど、内心ではちょっと切なくて。
(その未来には、オレはいるのだろうか……)
 願わくばそうありたいと、オルクスは祈った。

●硝煙相縁
「一回着てみたかったんですよね!」
 『ハロルド』は豪華絢爛な唐衣裳を眺めそう言った。いわゆる十二単にチャレンジする。衣装につける香りは乳香にした。
「三位以上の武官は文官の着物と同じようだ。動きにくそうだし、俺は武官の束帯でいい」
 『ディエゴ・ルナ・クィンテロ』は、動きやすそうな着物に目を留めた。武官束帯。香りは睡蓮を選んだ。
「これなら弓でも持てば様になるかもな」
 プレストガンナーのディエゴはそんな感想を抱いた。
 基本的に上着のレンタルサービスなので、今のコーデの上から武官束帯の袍を着ることになる。ディエゴはボトムスに飛翔・朱雀演舞を履いており、和の雰囲気だ。
 ハロルドも、【半襦袢】手長猿、馬の馬乗り袴、新春祝足袋と正月らしいアイテムで揃えている。また、振袖「花吹雪」がハロルドの美しさを一層引き立てる。
 その上からずっしりと十二単がかけられる。
「……これ、私でも凄く重く感じます」
 ディエゴも心配そうに尋ねる。
「エクレール……似合ってはいる、が……その着物大丈夫なのか?」
 十二単はヘビーであった。
「普段こんなに重い服着て動くこと無いですから」
 ただ移動するだけでも、よろよろとおぼつかない。
「見てるだけで俺も重く感じるぞ」
 ディエゴは、ハロルドがつかまりやすい位置に自分の腕を差し出した。
「歩く姿も危なっかしい、俺の腕につかまれば良い」
「そうですね。今日は一日ディエゴさんに寄り添って動くことにします」
 とても親密で仲の良い二人。ハロルドはディエゴに寄り添い、しずしずと歩くことにした。
「えへへ……武士の方に守ってもらうお姫様って感じですね」
 ハロルドは少し困ったような声と表情になっている。あまりにも衣装が重いので、笑顔を見せる余裕はない。
「……本当に重いんだなこの着物」
 支えて歩くディエゴも、ついそんな感想をもらす。

 ゆっくりとした歩調で、浮舟の場所までたどり着いた。
 動きやすい服装をしたディエゴが小舟を漕ぐ。
「まあ、着物の位で言うなら俺が下なんだから姫様はゆっくりしてろよ」
「小舟に二人きりって雰囲気ありますね」
 ハロルドはだんだんディエゴの方へと接近している。
「……ってお前、なんで近づく」
「ディエゴさんに寄り添って歩いた時に、すごく良い香りがしたんです。嗅ぎたいので傍に行っていいですか?」
 近づこうとするハロルドをディエゴが慌てて制する。
「待て待て、くっつくのは良いがせめてバランスとらせてくれ」
「くすっ」
 ディエゴが焦る様子がおかしくて、ハロルドは笑ってしまう。衣装の袖で優雅に口元を隠し、貴族っぽい仕草で笑う。
「わかりました。ゆっくり中心に行きましょう」
 小舟のバランスに気をつけながら、真ん中部分で二人が近づく。
「……」
 向かい合ったディエゴの肩に半ば顔を埋めるようにして、ハロルドはその香りを嗅ぐ。神秘的な睡蓮の匂いがした。
 香りを堪能したハロルドが、ゆっくりと顔を上げる。ピンクブロンドに近い髪が、サラリとそよいだ。
「今の匂いも好きなんですが、私はいつもの硝煙の匂いの方が落ち着きます」
「硝煙の匂いのほうが落ち着く、か」
 かつて軍人で、今はプレストガンナーとしてオーガと戦うディエゴ。硝煙とは切っても切れない縁があった。
「本来なら無縁の匂いのほうが良いんだけどな……ありがとう」
 しみじみと嬉しそうに目を細める。
 そして今度はディエゴの方からハロルドの細い体を抱き寄せた。雅な衣からふわりと漂う香りを吸い込む。
「お前の香りは少し変わっているもののようだ、良い匂いだが」
 不思議なイメージのある甘い乳香は、ハロルドのミステリアスな性格にマッチしている。
 ディエゴはポツリと、ハロルドの耳元でつぶやく。
「……合っていると思う」

●幸福未来譚
 寝殿造りの光屋敷を見て、『シャルル・アンデルセン』は小首を傾げた。それから、ちょっと自信がなさそうにつぶやく。
「和? 風と言うのでしょうか……」
 借りた羽織も、改めてじっくりと眺めてみる。上品な色合いの青と白の千鳥格子だ。
「こういう様式はあまり接することがなかったのでとても新鮮です」
 シャルルは和風の様式に馴染みが薄いようだが、それはそれで今回は珍しいものに触れる良い機会だ。
「うん、こういった様式も面白いものだね」
 『ノグリエ・オルト』が頷いた。彼の羽織は、紺地に籠目文様。
「和風のシャルルもとても良い。よく似合ってるよ」
 幾何学的な模様になっているが、シャルルは鳥にまつわる柄で、ノグリエは籠の網目を図案化したものだ。
「お香もとても良い香りで……ノグリエさんとお揃いでなんだか……」
 二人共、衣装につけるのは梅の香りを選んだ。
 シャルルはわずかに口ごもってから、小さな声で感想を告げる。
「そのちょっと不思議な気分です」
「同じ香りというのは……そうだねなんだか艶やかな感じがする」
「……艶やか」
 シャルルはその言葉にドキリとした。
「……ふふ、シャルルには少し刺激が強い言い方だったかな?」
 常ににこやかな弧を描いた狐目で、ノグリエは艶やかな笑みを浮かべた。

 シャルルとノグリエは、小さな美術館、絵合へと向かった。ここではお伽話の絵巻物が多く展示されている。
「この和風の物語もとても興味深いです」
 巻物に描かれた物語の女性達を見て、シャルルは素直に感心する。
「絵巻の絵もすごく鮮やかで見てて飽きませんね」
 ノグリエは絵の中の姫君をチラリと一瞥した後、彼の目の前にいるお姫様へと視線を向けた。
「どの絵巻の姫もシャルルには敵わないよ。ボクのお姫様はシャルルだけだけだからね」
 シャルルを溺愛するノグリエは、時々彼女のことをお姫様と呼ぶ。

 最初のうちは楽しげな様子で熱心に絵巻物を見ていたシャルルだが、ふいにその表情が曇った。
「でもどこか悲しいお話が多いような気がします……」
 目玉展示物は、かぐや姫、鶴の恩返し、雪女、鉢かづき姫、羽衣伝説。どれも女性の存在が印象的な物語だ。物悲しい後味の話も少なくはない。
「幸せになるお話もあるのですが根底には切ない何かが含まれてるようで。ハッピーエンドばかりが結末ではないと思っていますが……」
 そこまで言って、シャルルは悲しげに目を伏せる。
 ノグリエは優しくシャルルの肩に触れた。
「確かに切ない、悲しいお話かもしれないけど……こういうお話は戒めの要素も強いから……」
 シャルルは伏せていた目線を上げて、ノグリエの顔を見た。そして問いかける。
「私とノグリエさんはどうなんでしょうか?」
「ボクとシャルルの物語……か」
 しばしの沈黙の後で、ノグリエはこう言った。
「ボクは最高にハッピーだと思っているよ。それにボクとの最後はシャルルにとって幸せなもので合ってほしいと思う。……それだけは偽りのない気持ちだよ」
 二人の幸せを願うのは、仲の良いウィンクルムなら自然なことだが、ノグリエの態度には少し意味深な含みがあった。
 だが彼の言葉どおり、ウソの気持ちを言っているような気配はない。
 シャルルは穏やかに微笑んだ。
「エンディングはずっと先ですが私にとってはすごくハッピーな物語なんですよ」
 蜂蜜のような金色の目は、純粋無垢に輝いている。
「ノグリエさんもそう思っていてくれると嬉しいです」
「……」
 言葉ではなく、ノグリエは曖昧な笑みで応えた。
(そう、他人がどう言おうとキミとボクだけには幸せな物語であればいい)
 そしてシャルルとノグリエは、絵合の建物を後にする。
 ふわりと漂う、二人分の梅の香りを残して。

●白檀に酔う
 『紫月 彩夢』は白檀の香りを選んだ。黒地の羽織に舞う鮮やかな蝶の柄は、繊細でありながら存在感を放っていた。
 『神崎 深珠』に似合う上着を探そうとする光屋敷の係員に、不要であることを告げる。
「上着はいらない」
 彩夢の白檀が心地良く香るから、それだけにしておきたい。という理由で。
「それも良うございますね」
 係員は丁寧に頷いた。光屋敷での上着のレンタルは来訪者へのサービスであり、強制参加ではない。

「胡蝶で、蝶を眺めてのんびりしたい」
 彩夢はそう言うと、目的地の方へとスッと歩き出した。
 前を進む彩夢の後を深珠はついていく。
 深珠が思い返して見る限り、彩夢と出かけた時にはいつも彼女が前を歩いているような印象があった。
(お前の行先に従う俺を、流されてると、思っているんだろうか)
 きびきびとした足取りで進む彩夢の背中を見ながら、深珠はそんなことを考えていた。

 ガラスの温室、胡蝶へとたどり着く。温室内の環境は最新設備によって管理されているが、和の情緒を壊さぬよう意図的に古めかしい装飾が施されている。
「この蝶は、香りを嫌がらないのかな」
 温室内で放し飼いにされている蝶を彩夢が見上げた。
 蝶はその翅を動かし高みを力強く飛んでいる。それと同時に、狭い世界で人の手で守られて生きている。
「おいで」
 手を差し伸べてみる。すぐには蝶は寄ってこなかった。しばらく静かに待っていると、彩夢の手にひらりとオオムラサキが舞い降りた。
「綺麗ね、とても」
 蝶を鑑賞し、それから彩夢は急に深珠に話を振る。
「ねぇ、深珠さん。こないだの仕事について、咲姫になんか言われた?」
「……紫月さんには、何も言われなかった。だが、怒っていたし、嘆いていた。そういう顔をしていた」
「気にしないで」
 そんなありがちなセリフを言ったかと思えば……。
「とは、言わない」
 彩夢はすぐにそれを翻す。
「それは、あたしの関与していいことじゃないでしょ」
 その赤い眼差しを深珠へ向けて言う。
「ねぇ、深珠さん。あたしは、護られたいわけじゃないの。生かされたいわけでもないの」
 彩夢の手に静かにとまっていたオオムラサキが、大きく美しいその翅を動かして飛び立っていった。
「だから、嬉しかったのよ、本当に」
 彩夢の言葉に、深珠は素直に同意することはできない。
「……お前が嬉しくても、俺に非がないとは思っていない。……次が無いよう、鍛えるつもりだ」

「ねぇ、深珠さん。白檀の香りってさ、昔から媚薬効果があるって言われてるんだって」
 彩夢が話題を切り替える。
 白檀の香を深珠に届けようとするかのように、彩夢は軽やかにその場で一回転した。羽織の袖が優雅にはためく。
「だから、さ……香りに、あてられてよ」
 舞うような足取りをピタリと止めて、彩夢は真剣な眼差しで深珠を見た。
「一度でいい。抱きしめて欲しいの。求められて、必要とされてるって。そんな気に、させて」
 自分からそう頼んだ。
 彩夢はそっと腕を広げて、深珠の抱擁を待っている。
「香りにあてられて、か……」
 理由作りが巧みな彩夢に、深珠は複雑な境地だ。
「今はまだ、そうありたいということなら。お前が聞く気になるまでは、お前の言うとおりにしよう」
 白檀の香りをまとった彩夢を深珠は抱きしめる。
「貴方が必要なの、深珠さん」
 深珠の腕の中で、彩夢がそうつぶやいた。
「俺にとっても、彩夢は必要だ」
 その後、とても小さな声で深珠は付け足した。
「……彩夢が俺を必要としてくれているのと同じとは、まだ言えないが……」
 仮に数値で表すとしたら、自分の気持ちはまだ彩夢の七割くらい……? と、深珠は自問自答する。
(ちゃんと、彩夢の感情に追いつけた時に、改めて言おう)
 そう心に決める。

●手繋ぎ
 着物「小春日和」の上に、梅が香る赤い艶やかな着物を身につける。『桜倉 歌菜』は嬉しそうに微笑んだ。
「梅のフルーティさが良い香り」
 『月成 羽純』は黒い色合いの落ち着いた羽織を着た。焚き染める香りは白檀だ。羽純はホッとした表情でつぶやく。
「リラックス出来る好きな香りだ」

 香りの衣装をまとった歌菜と羽純は、まず玉鬘に向かう。
「折角の着物だもんね」
 ここで二人共、髪をセットしてもらうことにした。
「ええと……。それじゃあ、髪を黒く染めてください」
 歌菜はスタイリストにそう注文。それから、黒く染まった髪を時代劇のお姫様風に整えてもらう。
 鏡に映った自分の姿を見て、なんだか別人になったような気のする歌菜だった。

 セットをし終えて、二人が合流する。
 歌菜の姿を見て、羽純は一瞬言葉に詰まる。
(知らない女の子みたいだ)
 髪型を変えた歌菜の姿はなかなか新鮮だった。
 羽純はというと、前髪をわけて額を出している。
 この新しいヘアスタイルも羽純に似合っていて、歌菜はつい見惚れてしまう。
「羽純くんが素敵過ぎて……」
「歌菜?」
 呼びかけられて、ハッと我に返る。
「羽純くん……私、どうかな? 似合ってるかな?」
「……綺麗だ、似合ってる」
 その言葉で、歌菜の顔にとびきりの笑顔が広がった。
「さあ、いこうか」
「うん!」
 羽純が歌菜の手をとり、絵合の建物がある方面へ歩き出す。
 歌菜の赤い羽織から、甘酸っぱい梅が香る。その香りの心地良さと、繋いだ手の温かさに、羽純の心は安らいでいた。

 絵合で展示物を見学する。お伽話の絵巻物がいくつも広げられていた。
「絵巻物、凄く綺麗だね!」
 一通りの絵巻物を見た後で、歌菜は羽純にきいてみる。
「羽純くんはどの御伽噺が好き? 私は……鉢かづき姫が好き」
 鉢かづき姫のストーリーを歌菜は回想した。
(頑張る鉢かづき姫が最後に報われて、素敵な若君と結ばれるハッピーエンド……小さい頃、憧れたっけ)
「俺も物語的には鉢かづき姫が好きかな」
 歌菜の言葉に頷いた後、羽純は別の物語も推薦する。
「でも、雪女も好きだ」
 羽純は昔話の雪女の行動を思い返した。
(きっとその男に惚れたから、殺せずに人間に化けて近付いて……何とも切なく一途じゃないか)
 歌菜は絵巻物に描かれた雪女を眺める。絵の中の雪女は、すごく綺麗に見えた。
「……」
 なんとなく不安になって、羽純の手を強く握っていた。指先が少しだけこわばって、ぎゅっと力が入ってしまった。
「……歌菜?」
 手を繋ぐという行動自体は変わらないはずなのに、さっき羽純と仲睦まじく手をとり歩いていた時とは、その意味合いが若干変化している。
(羽純くんの事、取られたくない)
 そんな歌菜の様子を見て、羽純はふっと微笑む。
「妬いてるのか?」
 耳元で小さく囁いた。
「へっ!?」
 突然の羽純からの囁きに、歌菜はびっくりして頬が真っ赤になる。
 羽純の手が、和風に黒く染められた歌菜の髪を優しく撫でる。
「冗談だ」
 それから羽純がぼそっと。
「……歌菜の方が……綺麗だ」
「……っ!!」
 照れて真っ赤になった顔を歌菜は羽織の袖で、しとやかに隠す。

「歩き回ったら少し疲れたな。早蕨で何か食べよう」
 食事処、早蕨へと移動する。
 歌菜と羽純が頼んだのは、天然わらび餅を一つずつ。
 この店のわらび餅は、わらび粉から作られた本格派だ。茶色がかった自然な色味。鮮度を保つために清らかな水の中に浸して、丁寧に保存されている。
「モチモチ、プルプルで美味しいね」
 歌菜はすっかりご機嫌で、わらび餅を口に運ぶ。
「幸せ♪」
「俺もだ」
 羽純も、天然わらび餅に舌鼓を打つ。
「程よい甘さが美味い」
 甘味を楽しみながら、光屋敷での穏やかな時間を過ごした歌菜と羽純だ。



依頼結果:大成功
MVP
名前:ハロルド
呼び名:ハル、エクレール
  名前:ディエゴ・ルナ・クィンテロ
呼び名:ディエゴさん

 

名前:クロス
呼び名:クー
  名前:オルクス
呼び名:オルク、ルク

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 山内ヤト
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 01月16日
出発日 01月21日 00:00
予定納品日 01月31日

参加者

会議室

  • [8]桜倉 歌菜

    2016/01/20-23:04 

  • [7]桜倉 歌菜

    2016/01/20-23:04 

  • [6]紫月 彩夢

    2016/01/20-16:35 

    紫月彩夢と、深珠おにーさん。
    なんだか素敵な気配のする場所で、少し緊張してしまうわ。

    香りもオプションも色々でまだ目移りしてるところだけれど、
    お互い、素敵で楽しい時間になると良いわね。どうぞよろしく。

  • [5]クロス

    2016/01/19-21:00 

  • [4]ハロルド

    2016/01/19-18:41 

  • [2]桜倉 歌菜

    2016/01/19-00:53 

  • [1]桜倉 歌菜

    2016/01/19-00:53 

    桜倉歌菜と申します。
    パートナーは羽純くんです。
    皆様、宜しくお願い致します!

    着物も、着物に焚き染める香りも、どんな体験をするかも…
    色々迷っちゃいますね!

    今のところ、オプションは玉鬘と絵合をと考えています。
    (文字数に余裕があったら、もっと欲張りたいところ…!)


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