【薫】魅了する香り(木乃 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

「こちらの香水を試供品としてお試し頂きたく、ご協力を賜りに参りました」
 とあるコスメショップで美容部員を務める女性が本部に訪ねてきたのは、冬の肌寒さが厳しくなってきた日だった。
「フローラル系と、シトラス系、ミント系の三種類があるのですけど……実はとある効果をこっそり仕込んでいるんですよ。それをウィンクルムの皆さんに試してもらいたくて」
「とある効果?」
「ふふふ」
 話を伺っていた受付の男性職員は、ニッコリと華やかな微笑を浮かべる女性に眉をひそめる。
 目の前に並べられた3つの小瓶には、おかしなところはないように思えるのだが……?
「付けている間、モテるようになります!」

 ……嘘くさい。
 ゴシップ誌の裏表紙にあるお米のお守りだとか、幸運の金のネックレスとか、その程度の胡散臭さを感じる。
 あきらかに白けた様子の男性職員を見て想定したとおりだと、型の良い唇にニヤリと小悪魔じみた微笑を浮かべる。
「こちらに10倍薄めた香水をご用意しました。ミントのスッキリした香りなので男性でも付けて違和感はないかと」
「いやぁ、僕は遠慮して……うわっ」

 断りの言葉も受け流し、スプレーボトルをシュッとひと吹きされた。
 清涼感のあるスッキリとした香りの中に、レモングラスの少しほろ苦さのある香りが鼻腔をくすぐる。
 ……いつのまにか、目の前の女性はマスクを付けて自分の鼻を保護している。
「ちょ、ちょっと!?」
「うふふ……ほら、後ろを見てください」
 声を荒げる職員に変わらず笑みを返す女性が、こっそりと職員の背後を指差す。
 ――書類を持って通り過ぎようとしていた女性職員が何人か視線を向けていた。
(ま、まさか……香水をつけたからか?)
 にわかに信じ難かったが、なんでもないのに振り返る訳が無い。
 香水を吹きかけられたことで、なんらかの反応を示したのだ。
「この香水はつけると異性だけが反応しますの。つまり神人がつけたら精霊、人間の男性が反応を示します。ちなみに動物のオスも反応することが確認されております」
 動物までも魅了する香り……なんとも魔性の効果を持ってやがる、男性職員は戦慄した。

「モニタリングですので1組につき300Jrの大幅な割引価格でご提供しますわ、数時間もすれば効果はなくなりますのでご安心してもらえるようお伝えくださいね」
 異性を魅了する香水――なにやら、一波乱を起こす予感がひしひしと感じられる。

解説

1組につき1本(1回分)の香水を300Jrで購入していただく形になります。
2人分購入しようとした場合は、神人のみ使用した扱いとします。

●目的
異性を魅了する香水を使って楽しもう

●香水
全てに共通して、使用者の異性を魅了する効果があります。
精霊が使えば女性、動物のメスが。 神人が使えば男性(人間・精霊の両方)、動物のオスが反応します

●効果
・つけた瞬間から効果が発動する、効果は数時間ほど
・つけた者に対して『異性のみ』一目惚れ状態に陥る。動物(鳥類、魚類以外)も対象に入る
・パートナーに対しても効果は発動する
・オープニングのようにマスクをつけて防御など、防ぐことは不可
(エピソードの主旨と逸れてしまうためご留意ください)

・一目惚れした者がとる行動は個人差がある(重要)
※追いかける、告白しようと迫ってくるなど積極的な行動だったり、
 隣に座るだけ、見つめているだけなど静的な行動もありえます

状況例:
試しにつけてパートナーを自宅に招いてみた
つけた状態で街中に出てしまった
パートナーに内緒で付けてみて反応を楽しむ など

●香りについて(下記のアルファベットを一文字いれてください)
A・フローラル系
 花とフルーツをかけあわせた甘酸っぱくみずみずしい香りです
 主にピーチやスイートピーの香りが感じられます

B・シトラス系
 柑橘系の香りをいくつかかけあわせた、酸味の強い爽やかな香りです
 主にオレンジやグレープフルーツの香りが感じられます

C・ミント系
 ハーブ系の香りをいくつか掛け合わせた、クセがあるものの清涼感のある香りです
 主にミント、レモングラスの香りが感じられます

●諸注意
・多くの方が閲覧されます、公序良俗は守りましょう
 (特に性的なイメージを強く連想させる行動は厳しめに判断します)
・『肉』の1文字を文頭に入れるとアドリブを頑張ります

ゲームマスターより

木乃です、あけましておめでとうございますー!
寿ゆかりGM主催の【薫】企画に参加させていただきました!
自分も一点デザインを制作したので気に入って頂けると幸いです(ダイレクトマーケティング)

今回は異性を惚れさせてしまう香水を使ってあれこれ起こしちゃうエピソードです!
家にいる間に使ってパートナーの反応を楽しむもよし!
街中にうっかり出てしまって、色んな人達とひと騒動起こしてもよし!
ラブコメ要素ましましなエピソードとなります。

……え、最近ラブ要素に走ってないかって?気のせいです。
おっぱい、ぱんつ、ごりらに対して対抗しようだなんて思ってないですよ?

セクシャル過ぎる内容のプランですと、大幅マスタリングする恐れがございますのでご了承ください。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

クロス(オルクス)

 

☆心情
「ふふっ久々にオルクとデート、嬉しいな(微笑
少しお洒落しないと…」

☆デート
「あぁうん…
(何故かいつも以上に格好良い笑顔可愛い過ぎ直視出来ない!
好きと自覚した時に戻ったみたいでドキドキして話せないし!)
べっ別に!(赤面
おっ俺飲み物買ってくる!」

・苺ミルク二つ購入後戻ると大勢の女性に囲まれていて嫉妬し乗り込み自分のもの宣言

「(オルクに群がるなら斬り殺す)
オルク、待たせて御免ね?
所で周りにいる雌猫達は私の(強調)彼氏であるオルクに何か御用でも?(ニコニコ
用無いならどっか逝ってくれない?
オルクは私のだからアンタ等になんか靡かないよ(長めなキス
それでも邪魔するなら…
容赦しねぇよ…?(黒笑&殺気」


豊村 刹那(逆月)
  A

逆月の反応は気にはなるけど。(自室のテーブルの上に香水を置いて睨む
使うとなると恥ずかしいものが……。
ええい、女は度胸。(香水を自分にひと吹き

逆月!?
同じ家だけど心の準備ってものがだな!?
「いきなり、何しようと、してんだ……?」(逆月の手首を掴んで阻止
な、(顔が真っ赤に
これは嬉しいけど嬉しくないな。
「たぶんそれ、異性にモテる香水を私が使ったからで」
逆月の本心じゃないというか。(自分で言って胸が痛む

「って、話聞いてんのか!?」くそ、流石に力が強い。
この状態で言うことじゃないだろーが。(力を抜きそうになるのを耐える
「な、尻尾はズルいだろ!?」
効果が切れれば、止めるはず……!(時間切れまで粘るつもり


桜倉 歌菜(月成 羽純)
 
A
半信半疑でつけてみる
羽純くんにも効果あるのかな?
ドキドキしつつ、羽純くんとの待ち合わせ場所へ行く為街中に

何で皆追い掛けてくるの?わんこやにゃんこまで!
香水のせい?

やだ、怖い!
ダッシュで待ち合わせ場所へ行き、羽純くん、助けて!と叫んだら、手を取って一緒に駆け出し、追い掛けてくる人達から逃げて

ごめんね…香水がこんなに効果があるものなんて…
(ちょっぴり羽純くんと乙女ゲームみたいな甘い雰囲気になりたかっただけなのに)
アレ?羽純くんの様子が…
香水の効果?
ああ、私って本当にバカ
香水の効果で羽純くんに甘い言葉を言われても…それは本当じゃないのに

好意が欲しいなら、自分から好意を示さなきゃ
ぎゅっと抱き締める


瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
 

場所は自宅。フェルンさんを招いて、お茶を一緒に。
先日始めたお菓子作りはまだまだ初心者。今日はクッキーを作ったので味見して下さい(もじもじ)。
お茶とクッキーを用意して、お茶を淹れます。
フェルンさんの傍に居たら、ドキドキします。
何か落ち着きません。
どうして頬が熱いのかしら。暖房ききすぎ?
それとも作ったクッキーが気に入ってもらえるか不安なの?
まだお菓子作り本当に初心者だもの。気に入ってもらえるかしら。
「美味しいよ」と笑顔のフェルンさんが凄く素敵。
いつも優しくて気を配って褒めてくれるし、元気づけてくれるし。
一緒に居るとほっとします。でも今日はより胸が高鳴りますね。
普段より近くに寄って過ごします。



アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
 

年末に今まで話せなかった事を話して心機一転
一緒に出掛けようと精霊宅へ

3回目の訪問…って何で律儀に数えてるんだろう…


…?
あれ?いつもと違う…?
ううん。意外だけど、好きな匂い(思わず笑顔

この感覚…知ってる
でも二回もそうなるなんて…気のせいかな…?


公園
うん。そうだね
えっ…?

高鳴る鼓動
見つめ合う目と目…

偶然通りがかったJKらしき集団の黄色い声

えっえっ何?

突然芸能人の如く囲まれる精霊を見て複雑な心境に陥るも
精霊の様子を見てオロオロ

だがどう割り込めばいいのか分からず
結局自力脱出した精霊と逃げる


再び精霊宅

え、そうだったの…?!

えっ、わ、私はなんともないよっ
あわあわと手を振る


…掛かってたとしても、今更だし…


●戸惑い、惑い
 ガルヴァン・ヴァールンガルドは掌に乗せた小瓶を怪訝に見つめる。
「異性にモテる、か」
 ありがちな商売文句だと思いながらも、香りは気に入りフローラル系の香水を購入。
 薄く黄色がかった桃色の液体は甘く豊潤な香りを放つ。
「たまには違うモノをつけてみるか」
 ガルヴァンが出かける準備を進めている中、アラノアもガルヴァンの家を目指していた。
 心の澱みを昨年の内に晴らし心機一転してのおでかけ。
「ガルヴァンさんの家に行くのも3回目、って」
(なんで律儀に数えてるんだろう)
 アラノアは無意識にガルヴァンの家を訪ねる回数を数えていることに気づいた。
 思考を巡らせながら歩いている内に家の前まで辿り着く。
 疑問はひとまず置いておいて、呼び鈴を鳴らすとすぐに家主が出てきた。
「アラノアか、準備は出来ている」
 ガルヴァンはコートを羽織りながら施錠を済ませる。
 背を向けられた瞬間、ふわりと甘い香りが漂いアラノアは首を傾げた。
 なんとなくガルヴァンからいつもと違う印象を感じる? 動悸も激しくなってきた気がする。
「……桃の、匂い?」
「ああ、今日は香水を変えてみたんだが……こういう香りは嫌いか?」
「ううん」
 少し意外だけど好きな匂いだと、アラノアは笑顔を浮かべる。
(この感覚、初めてガルヴァンさんと会った時と同じ)
 しかし二度も一目惚れするのはおかしい、自分の気のせいではないか?
「……行くか」
 物思いに耽ているとガルヴァンが歩きだしてしまい、アラノアは慌ててついて行く。
(アラノアは普段通りのようだが……何故気になるのだ)

 ガルヴァンが心中に首を傾げている中、近くの公園までやってきた。
 人影も少なく静かな時間を過ごせそうだ。
「静かで落ち着くな」
「うん、そうだね」
 交わす言葉は多いと言えないが、二人を包む空気に気まずさはない。
 むしろ互いの存在が近くにあることに安心感があるように思える。
「お前と一緒に居ると、特にそう思う」
 並木道を歩きながらぽつりと呟いたガルヴァンの言葉に、アラノアの心臓がドキリと高鳴る。
(どういう意味?)
 戸惑う気持ちとは裏腹に、視線を上げるとガルヴァンの琥珀の瞳と視線が交わる。
(ど、どうしよう)
 見つめあっている状況に困惑するアラノアだが、ガルヴァンも嫌ではないのか穏やかな表情をみせている。
 スイートピーの甘い香りも雰囲気に相まってアラノアの鼓動は騒がしくなる一方。
「アラノ――」
 そんな緊張感を一気に崩す、黄色い歓声。
「お、お兄さんお名前は!?」
「良かったら一緒に写メ撮りませんか!」
 風下から走ってきた制服姿の少女達がガルヴァンを取り囲む。
「えっえっ、何?」
 女子高生達の背後に追いやられたアラノアは目が点になる。
 ――目の前には少女達に囲まれる、ガルヴァンの姿。
(どうしよう、凄くイライラしてる?)
 愛想の良い方ではないが眉間にシワを寄せている様子から、ガルヴァンが苛立っていることは容易に解る。
 少女達に囲まれる様子を複雑な心境で見ていたアラノアと、苛立つガルヴァンの視線が交わる。
 瞬間、ガルヴァンは少女達を掻き分けてアラノアに駆け寄ると手を掴む。
「逃げるぞ」
 焦った様子のガルヴァンは短く告げると、狼狽するアラノアを連れて走り出す。
 慌ててガルヴァンの家に逃げ込むと再び戸締りして一息ついた。
「すまない、実は」
 ガルヴァンは頭を下げて自身が『異性にモテる香水』をつけていたことを伝えた。
「よくある商売文句だと思い半分聞き流していた、面目ない」
 驚くアラノアに向かってガルヴァンはもう一度頭を下げた。
「……そういえば、アラノアは惑わされていないのか?」
「わ、私はなんともないよっ」
 顔を近づけるガルヴァンに、アラノアはあわあわと両手を振り大丈夫だとアピール。
「そう、か」
 安心したように呟くガルヴァンだが、心なしか残念そうにも見えた。
(……掛かってたとしても、今更だし)
 アラノアは掴まれた手が熱くなる錯覚を覚える。

●惹かれ、疼き
 豊村 刹那は帰宅早々、自室にこもると一息吐いてバッグから紙袋を取り出す。
 シンプルな筆記体でデザインされた紙袋の中には、甘い香りの香水。
「逆月の反応は気にはなるけど」
 使うとなると恥ずかしいものがある。
 異性にモテるという売り文句に心惹かれ、手を伸ばしてしまったものの刹那は紙袋越しに小瓶を睨む。
「ええい、女は度胸だ」
 封を留めるテープを切り、取り出した香水を髪や首筋に吹きつける。
「……そうだ」
 刹那は香りに合わせて装いも変えてみようと思いクローゼットを開いた。
 ――取り出したのは、柔らかな色合いのフェミニンな装い。
 いつもなら少し気後れしてしまうが、今日は『香水に合わせる』という大義名分もあってすんなり着られた。
 姿見の前に立ち、着こなしを確かめる刹那の背後からドアの開く音。
「刹那」
「うわぁ!?」
 刹那は声を上ずらせながら振り返る。
「逆月!? 同じ家だけど心の準備ってものがだな!」
「具合でも悪いのか、と……」
 声を荒げ抗議する刹那の声が聞こえていないのか、逆月はぽかんとした表情で見つめた。
 じぃ、と見つめる逆月はゆっくり歩み寄ってくる。
「さ、逆月?」
 よく見ると頬に微かな赤みを帯びていて様子がおかしい。
 至近距離まで近寄ると不意に手が伸ばされ、刹那の腰を捕らえようとする。
 驚いた刹那は逆月の手を制止した。
「いきなり、何をしようとしてんだ?」
 狼狽する刹那を見つめる逆月の瞳が細まる。
「お前が、欲しい」
「なっ」
 逆月の口から出るはずのない情熱的な言葉に、刹那の顔は一気に赤く染まる。
 そんな様子すらも可愛らしく思えるのか逆月は口元に弧を描く。
(いや、これは嬉しいけど……嬉しくない)
「多分それ、異性にモテる香水を私が使ったからで……逆月の本心じゃない」
 真っ向から否定する言葉、自分から口にしたはずなのに刹那の胸に痛みが走る。
「この甘い薫りのことか」
 逆月はその言葉を受けて鼻を鳴らしながら刹那の髪に顔を寄せる。
 そんな仕草が、刹那の心を酷くかき乱していく。
(か、顔が近い……!)
「って、話聞いてんのか!?」
 
 どうにか手を振り払おうと、刹那は渾身の力を込めて動かそうとするが相手は身体能力が数倍も高い精霊。
(くそ、流石に力が強い……)
 動かそうとしてもビクともしない様子から焦りを覚える。
「聞いている……この薫りは、その装いによく合うな」
「え? ……あ」
 不意に逆月の視線が上から下へと確かめるモノに変わり、刹那は意表を突かれたように間の抜けた声を漏らしてしまう。
 甘い香りに合わせた、いつもより女性らしさを意識した着こなし。
「香りに合わせたのだろう? 出掛けの際は違う装いだったと記憶している」
 可憐だ、と言って隅々まで見つめる逆月の視線が巡らされる。
(この状態で言うことじゃないだろーが)
 褒められて悪い気はしないけど。
 振り払おうとする手の力を緩めてしまいそうだが、これは香水の力に惑わされているだけだと自分に言い聞かせる。
(……これは、逆月の本心じゃない。香水の力を借りて引き出したようなものなんだぞ)
 そう思うと刹那は複雑な気持ちになり、掴まれた手にグッと力を込めて拳を作る。
 ――しかし、込められた力はすぐに緩められた。
 逆月の尾を絡められたのだ。
「な、尻尾はズルいだろ!?」
 刹那の抗議に対しても、逆月は戯れているだけのようで機嫌の良い微笑を浮かべて外す気配もない。
(手を離したのはいいが……いや、効果が切れれば止めるはず……!)
 それまで警戒を解かずに、耐えていればいいだけと刹那は気を引き締める。
 効果は数時間、まだまだ気は抜けないようだ。
 ――慌てふためく刹那とは対称に、逆月は高揚した気分に充足感を覚えていた。
(この想いは似ている……僅かながら、刹那に抱くものに)
 その『想い』をなんと呼ぶのか、逆月はまだ知らずにいる。

●魅せる、恥じらう
 フェルン・ミュラーは瀬谷 瑞希の自宅に招かれた。
 お茶の時間を一緒に過ごしたい、瑞希の申し出にフェルンは二つ返事。
「今日はクッキーを作ったので、フェルンさんに味見して欲しいです」
 まだお菓子作りは不慣れな点も多く自信がないのか、もじもじと恥じらう仕草を瑞希は見せる。
 しかしフェルンは爽やかな微笑を浮かべ、首を縦に振る。
「勿論、ミズキの手作りクッキーが食べられるなんて光栄だよ」
 その言葉を聞いて、瑞希の不安げな表情は花開くように明るいものに変わっていく。
「よかった……今、お茶を淹れるので少し待っていて下さい」
 ぱたぱたと早足でキッチンに向かう瑞希の背中を見送ると、フェルンは懐から鮮やかなミントグリーンの液体が入った小瓶を取り出す。
(異性を魅了する香水、か……ミズキが魅了されたらどうなるのかな?)
 それは純粋な興味、好奇心を刺激されたフェルンは期待に胸を膨らませながら香りを身にまとう。
 一吹きするとプシュ、という音と共にミント特有の清涼感のある爽やかな香りが漂う。
「フェルンさん、お待たせしました」
 フェルンが香水の匂いを堪能していると、ティーセットをトレイに載せて瑞希が戻ってきた。
 瑞希は先ほどとなにかが違うことに気づいて、首を傾げる。
「あれ、なにかの香りがするような……?」
「うーん……気のせいじゃないかな」
 香りの正体を教えてもよかったが、今日は瑞希の反応を見てみたいフェルンは敢えて黙っておくことにした。
「気のせいならいいのですが」
(フェルンさんからミントのような香りが……? 何故でしょう、胸がドキドキします)
 疑問符が取れない瑞希だったが、次第に疑問よりも別のことが気になり始めた。
 ――フェルンの傍に居ると、なんとなく落ち着かない。
 顔も火照り始めていて、まさか暖房が効きすぎている?
(でも、暖房の温度はさっきと変わりないですし……)

 ドギマギして落ち着かない瑞希を見つめていたフェルンは、トレイに載っているクッキーに目を向ける。
「これがミズキの焼いたクッキー?」
 それは型出しのクッキーで、動物や星の型で成型され可愛らしい。
 薄い焼けめになっているのは瑞希が焦げないよう慎重に焼いたからだろう、彼女らしい出来栄えだと感じられる。
「あ、はい、お口に合えば嬉しいのですが」
 落ち着きなく視線を彷徨わせながら、瑞希は手製のクッキーをフェルンに勧める。
 瑞希の表情を見やれば、瞳はわずかに潤んでいて頬にも赤みが差している。 
「では、ひとつ頂くよ」
 フェルンは一言断りを入れて星型のクッキーをひとつ摘まむ。
 瑞希がチラチラと横目で様子を窺う中、クッキーはフェルンの口元へと運ばれていく。
「うん、しっとりしてて美味しいよ」
 その一言で強張っていた瑞希の表情は和らぎ、にっこり笑顔に変わる。
 心なしかいつも以上にキュートな笑顔に見えて、フェルンの心をくすぐった。
「……よかった、です」
 ぽつりと呟きながらお茶に手を伸ばす仕草も、恥じらい交じりでもじもじしている。
 ――フェルンの様子が気になるのか、普段より視線が向けられている。
(これも香水の効果なのかな)
 悪い気はしないフェルンは瑞希の視線を笑顔で受け止める。
 次第に瑞希の顔はフェルンの方へと引きつけられるように向いていく。
「……フェルン、さん」
 瑞希の身体もほんの少しフェルンの方へと近づき――時が止まったかのように、しばし見つめあう。
「なんだい、ミズキ?」
「っ!」
 フェルンが声をかけると、瑞希はハッとして身体をビクリと大きく跳ね上げる。
 持っていたカップが手から滑ると床に落ちて砕け散り、紅茶もビシャリと零れた。
「あっ、す、すみません」
 我に返った瑞希は慌てふためきながら、こぼした紅茶を掃除しようと雑巾を取りにその場を離れていく。
 そんな後ろ姿をフェルンは苦笑しながら見つめていた。

●妬いて、省みて
 クロスとオルクスは久々のデートとあって、気分が高揚していた。
 少しお洒落をしなければ、とクロスはいつもより少し時間をかけて服を選びメイクも整えた。
 オルクスも気合を入れてきたのか、珍しく香水をつけている。
「クーとデート出来るの楽しみでさー、この前買った香水をつけてみたんだよ」
 快活な笑みを浮かべるオルクスがクロスには眩しく見える。
(何故いつも以上にカッコよく見えるんだ?)
「シトラス系って聞いたんだが、オレンジの匂いもして……って、クー?」
「へっ?」
 ぼんやりした様子のクロスに気づき、オルクスが不思議そうに顔を覗きこむ。
 きょとんとしたオルクスの表情が間近にあり、クロスの視界を遮る。
(か、可愛い過ぎる……なんで今日は直視出来ないんだ!?)
「? 顔が真っ赤だが熱でもあるのか?」
 ぷいっと顔を逸らしたクロスが耳まで赤くしている様子をオルクスは怪訝そうに見つめ。
 ――次の瞬間、不意に顔を寄せてきた。
「っ!?」
 まだ心の準備も出来てないのに――そんなクロスの心配は杞憂に終わる。
「んー、熱はなさそうだが」
 風邪でも引いたのかと思ったらしいオルクスは、クロスの額に自身の額を重ねて体温を確かめる。
 しかしそれでもクロスにとっては破壊力と言うべきか、刺激が強すぎることに変わりなく。
(な、何故だ……オルクを好きと自覚したときに戻ったみたいだぞ!?)
 なんでこんなにもドキドキしてしまうのだろうか、かつてのときめきが戻ってきたようで……嬉しいような、恥ずかしいような。
(あぁぁ……だ、ダメだ、心臓がもたない!)
「俺、飲み物買ってくる!!」
 一言残して、クロスはその場から逃げ出すように走り出した。

 慌ただしい様子にオルクスは呆気に取られていた。
「一体どうしたんだ?」
 以前にも、同じような彼女の態度は見た覚えがある――そういえば。
(契約した頃に戻った様な雰囲気や態度だった様な気が……?)
 初々しく甘酸っぱい思い出が脳裏をよぎり、オルクスの口元が緩みそうになる。
 ――しかし、オルクスは重要なことを忘れていた。
 身につけた香水は『異性を魅了してしまう効果』があるのだ。
「あの」
 ふと見知らぬ女性に声をかけられ現実に引き戻された。
「お一人ですか? よかったら、お茶でも一緒に」
「ちょっと、私が先に彼を見つけたのよ!」
「すみません、メアド交換してください!」
 気づけばオルクスを中心にわらわらと女性達が集まり始めていた。
「え、え?」
 包囲されたオルクスは、何故このような事態になっているのか解らず目を白黒させる。
 こんなにモテるなんて今まであっただろうか?
(待てよ、確か今つけてる香水って……変なキャッチコピーがついてたような)
 記憶の糸を手繰り寄せている内に、周囲に女性が増えていく一方。
「はぁ、ちょっとオルクに悪い事したかも……って!?」
 落ち着きを取り戻したクロスが二人分の苺ミルクを買って戻ると、そこには大勢の女性達に取り囲まれるオルクスの姿。
 ――どうやら女性達はオルクスにアプローチしているらしい。
「……」
 クロスはむすっとした表情で人波を掻き分けながら、オルクスの元へ目指していく。
 一方、オルクスはようやくこの珍事態の原因を思い出していた。
(た、確か異性にモテる香水だとかなんとかって……)
 自宅でつけてクロスとしっぽり過ごそうと思っていたのに、うっかり外出時につけてしまうとは!
 とんでもない失態を犯したとうちひしがれていると、怖い顔をしたクロスが接近してくるではないか。
「く、クー! こっちだ!!」
 慌ててクロスの手を掴んだオルクスはひとまずこの場を逃げようと、人波を押し退けながら走り出す。
 人気のない場所まで逃げ込むと、クロスはじっとオルクスを睨みつける。
「実は、今日つけた香水……異性にモテる香水なんだよ。すっかり忘れてて」
「ふぅん?」
 オルクスの言葉にクロスは半信半疑なのか、視線は鋭いまま。
「ほ、本当だ! 俺にとってクーが一番の女性なんだ!」
 オルクスが必死に訴えかけると、クロスが両手を伸ばし――唇を触れ合わせる。
「次からは、気を付けるんだぞ?」
「……ああ」
 眉を寄せ、拗ねた表情のクロスの瞳はほんの少し涙ぐんでいて……オルクスはちょっぴり耳を垂れた。

●追われ、触れられ
「異性にモテる香水、かぁ……ホントかな?」
 売り文句に惹かれて桜倉 歌奈は購入してみたものの、効果には半信半疑。
 月成 羽純との待ち合わせ場所に向かいながら、使おうかどうか悩んでいた。
(は、羽純くんにも効果はあるのかな?)
 もし効果があるとしたら、羽純がどんな反応を見せてくれるのかと少しドキドキする。
 僅かな期待に胸を膨らませつつ、歌菜は手首に香水を吹きつけた。
 スイートピーの甘い香りが鼻腔をくすぐり、気分を上向きにしていく。
「ふふ、気づいてくれるかな」
 るんるん気分で歌菜が街中を歩いていると――。
「にゃーん」
「わんわんっ」
 野良猫やどこかの飼い犬が数匹、尻尾を振りながら歌菜を追いかけて来た。
「可愛い……ごめんね、待ち合わせしてるから」
 つぶらな瞳で見つめられ悪い気はしないが、今日は予定があるからと丁寧に断りを入れながら歌菜は進んでいく。
 しかし、動物達は歌菜の後ろを離れようとせず……不思議そうに首を傾げていると。
「あの、この花を君に」
「ねぇ、僕とドライブでも」
 ――次第に見知らぬ男達も群がり始め、歌菜に声をかけてきた。
「ご、ごめんなさーいっ!?」
(やだ、怖い!)
 これも香水の効果なのかと驚く歌菜は走り出し、ドタバタと逃走劇を繰り広げる。
 フェンスを飛び越え、通りを駆け抜け、階段を転がるように降りていく。
 慌てて待ち合わせ場所にやってくると、すでに羽純が待っていた。
「羽純君、助けてー!」
 叫び声が聞こえて羽純が振り向くと――そこには大勢の男達に追いかけられる恋人の姿。
 驚く羽純の元に辿り着いた歌菜は、気が動転しているのか涙目になっていて。
「! ……こっちだ」
 一瞬、険しい表情を浮かべた羽純は歌菜の手を取ると一気に走りだす。

 細い路地裏をいくつも曲がり、追いかける男達を撒いた歌菜と羽純はやっと一息つけた。
「……暫く、ここで身を潜めて……気配が無くなったら急いで移動しよう」
 歌菜の手を握りしめたまま、羽純は周囲を警戒して視線を巡らせる。
「ごめんね、香水がこんなに効果があるものなんて……」
 ようやく腰を落ち着けられたこともあり、歌菜は羽純に事の発端を伝えた。
(ちょっぴり羽純くんと乙女ゲームみたいな、甘い雰囲気になりたかっただけなのに)
 予想外の事態を引き起こしてしまい、迷惑をかけてしまったと歌菜はしょんぼりうなだれる。
 しかし、身にまとう香りの力は羽純にも例外なく効力を発揮し始めていた。
「……歌菜」
 ――気付くと羽純に手を引かれ、抱き寄せられていた。
 腕の中にすっぽり収められて耳元で名を囁かれると、歌菜は驚き目を見開く。
「は、羽純くん?」
「今日も可愛いな……」
 羽純の甘い声色にドキリとしながら歌菜が視線をあげれば、愛しげに見つめる視線が間近に見える。
 歌菜の頬がカァッと一気に火照り上がっていく。
「……あ、あれ?」
 羽純自身も、自分の口から出た言葉に驚いて目を瞬かせていた。
 これも香水の効果なのか、歌菜は一瞬感心したが……すぐにその喜びはなりを潜めた。
(ああ、私って本当にバカ……今の言葉は、羽純くんの言葉じゃない)
 香水の力を借りて甘い言葉を引き出したとして、それは『本心の言葉』ではないのでは?
 気付いてしまえば虚しさも感じられ、同時に申し訳なさが込み上げてくる。
(好意が欲しいなら、自分から好意を示さなきゃ)
 ――抱きしめられた喜びを、ほんの少しでも伝えたい。
 羽純の背中に手を回すと、ギュッと抱き締めかえした。
 切なく想う感情と緊張するあまり、微かに震えが込み上げてくる。
「……ありがとう」
 羽純の細めた眼差しから、温かみと喜びを感じられて……それが歌菜の鼓動をさらに激しくしていく。
 落ち着かせようと気遣ってくれているのか、羽純の大きな手が頭を撫でる。
「大丈夫、大丈夫だから……そんな顔をするな」
 熱い吐息をもらしながら、羽純は明るい茶色髪に口付ける。
 歌菜は腕に込める力を、ほんの少し強めて応える。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 木乃
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 01月05日
出発日 01月13日 00:00
予定納品日 01月23日

参加者

会議室

  • [7]桜倉 歌菜

    2016/01/12-23:54 

  • [6]桜倉 歌菜

    2016/01/12-23:54 

  • [5]アラノア

    2016/01/12-01:40 

    アラノアとパートナーのガルヴァンさんです。
    よろしくお願いします。

  • [4]瀬谷 瑞希

    2016/01/12-00:27 

    こんばんは、瀬谷瑞希です。
    パートナーはファータのフェルンさんです。
    どの香りにしましょうか?迷いますね。
    皆さま、よろしくお願いいたします。

  • [3]豊村 刹那

    2016/01/10-23:25 

    豊村刹那だ。よろしく頼む。

    モテるようになる香水、か。
    使うなら家で、かな。(小声

  • [2]クロス

    2016/01/08-22:32 

  • [1]桜倉 歌菜

    2016/01/08-00:19 


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