プロローグ
クランプス。それは黒いサンタとも呼ばれる、迫力ある怖い外見の妖精。クランプスは悪い子にお仕置きをする存在として、一部の地域で語り継がれている。
そんなクランプスからの手紙が、A.R.O.A.に届いた。
妖精たちの闇のクリスマス市に遊びにこないか、という誘いだった。
人間達がマルクトシュネーという期間限定のクリスマス市を開くように、妖精達も森の中でクリスマスの市場を開いているそうだ。
この市場では妖精や怪物がウロウロしているが、争いごとはご法度。デミ化などオーガの影響を受けている者は市場内にはいない。
また市場の会場自体に魔法がかけられており、どんな種族とも会話による意思疎通が可能になっている。
「一通り調べてみましたが、特に危険なことはなさそうですよ」
と、A.R.O.A.職員。
ちょっと怪しげなクリスマスの雰囲気を楽しんでみるのも良さそうだ。
「夢見るマッチの大特売だし!」
「一夜の夢に酔いしれよ、です」
赤い服と白い服を着たゴブリンのコンビだ。
レドドとホワワ。去年のクリスマスでは、マントゥール教団員にそそのかされて悪事に加担していたが、ウィンクルムに説得されて和解に至った。
現在はクリスマス市で、マッチをカゴに入れて売り歩いている。
このマッチをすると、火が灯っている間、ほしいものや好きな人の幻影が浮かび上がる。この幻影は、マッチをすった本人以外の目にも見える。
「やっほー! クリスマスってウキウキしちゃう! ハーピー印のスペシャルドリンク、テンプポーションであなたもベリーメリーハッピー!」
テンションの高いハーピーが陽気に宣伝をしていた。
テンプポーションというのは魔法の飲み薬だ。味はフルーティーで甘い。
これを飲んだ者が歌うと、森の動物たちが集まってきて、まるで絵本の一幕のように懐かれる。もともと歌の上手い者が飲めばさらに効果が増す。
薬の懐き効果があるのは森の動物に対してだけで、人間や精霊、市場にいる妖精達に対しては作用しない。しかしキレイな歌は、薬の効果がなくとも相手の心を動かすだろう。
「ほっぺの落ちるお菓子だよー」
ゴーグル付きの黒いトンガリ帽子をかぶった年寄り魔女も出店していた。
店を取り仕切っているのは魔女バボラ。商売好きな性格で、魔女といっても特に悪さはしない。昨年のハロウィンシーズンでは、タブロスに出稼ぎにきていた。
この店の売り物は、食べ歩きのできる飲食物だ。
ホットドリンクは、すっきり爽やかなミント入りのレモネードと、カモミールなど心落ち着くハーブが調合されたミルクティー。
持ち歩きしやすいカップ入りのクッキーも売られている。クリスマスの定番ジンジャーマンクッキーと、そして粉砂糖が惜しげもなくまぶされたクラビエデスというクッキーだ。甘くて、サクサクした食感が特徴だ。
「うぉおおー、石の素晴らしさと美味しさを異種族のみんなにも普及したいのだー!」
というコンセプトで、トロールが食べられる石を売っていた。
ずらりと並べられた、瑪瑙にアメジストにアラバスター。真珠やビスマス鉱石。
これらは全部キャンディだ。見た目は宝石そっくりだが、砂糖から作られている。トロールでなくても、石を食べたような気分になれるというわけだ。
店では様々な石を模したキャンディが売られているので、探せばきっとマイナーでマニアックな石も見つかるだろう。
「迷宮のスノードーム……。売ってます」
体育座りをして低く静かな声で、控えめな呼び込みをするミノタウロス。元気がないように見えるが心配ない。いつも迷宮の深部で引きこもりがちな生活を送っているので、ちょっと市場の活気に圧倒されてるだけである。
そんなミノタウロスが何を売っているのかといえば、念じればスノードームの中に出入りすることができるという変わった魔法の品だ。
最初に入った者の精神に反応して、スノードームの中に迷宮が構築される。それは鬱蒼とした森の小道かもしれないし、薄暗いダンジョンのようなものかもしれないし、複雑に入り組んだ奇妙な館かもしれない。
次に入った者は、迷路に挑戦して先に入った者を探し出す。そういうゲームをして遊ぶアイテムである。
二人でゲームの設定を作って遊んでも面白そうだ。便宜上、先に入って迷路を構築した者を迷宮主、後から入って迷路を解く者を挑戦者と呼ぼう。挑戦者は何者かに捕らえられた迷宮主を救出しにきた、とか、迷宮主が魔王的なノリで勇者っぽい挑戦者を待ち構える、とか。
黒いヤギに似た大きな人影が、怖い顔に似合わぬフレンドリーさで手を振っている。足元には、人間を詰め込めるぐらいの大きなズタ袋……。
「ひゅーっ、きてくれて嬉しいぜウィンクルム! 歓迎する! 今年のクリスマスは『黒き宿木の種』がどうとかで、色々と不穏だからな……。ウィンクルムの浄化の力があれば、心置きなく市が開けるってもんよ」
ここはクランプスのお仕置き屋だ。
「で、こらしめてほしい相手はいないか? ソイツを袋に詰めて、ジャイアントスウィングしてやるぜ! たとえば、冷蔵庫のプリンを勝手に食べちゃった奴や、好きな相手に素直になれずについ意地悪しちまう天邪鬼……とかな! オレもプロだ。ケガはさせないんで安心しな」
解説
・必須費用
交通費:1組200jr
・プラン次第のオプション費用
この市場で買ったアイテムを持ち帰っても、数日で魔法の効力が消え、アイテム自体も煙のように消滅してしまいます。
複数のアイテムを買うことも可能ですが、その分アイテム一つ一つに対する描写が薄くなります。PL様の方で、バランスを調整してください。
ゴブリンの幻影マッチ:1箱200jr
ハーピーのテンプポーション:1人分200jr
魔女のハーブ入りレモネード:1人分50jr
魔女のハーブ入りミルクティー:1人分50jr
魔女の雪球クラビエデス:1人分100jr
魔女のジンジャーマンクッキー:1人分100jr
トロールの宝石キャンディ:1人分150jr
ミノタウロスの迷宮スノードーム:1つ400jr
クランプスのお仕置きスウィング:1回分200jr
ゲームマスターより
山内ヤトです。
友好的なネイチャーモンスターたちが、森の中でクリスマスの市を開いています。
現実世界の伝承の中でのクランプスはサンタクロースの従者だという説もありますが、このエピソードに出てくるクランプスはレッドニスとの個人的な面識はありません。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
…前に見た顔ですね(ミノタウロスを見て) 彼には苦戦させられました 【購入】テンプポーション 効果に惹かれいつか使おうと買っておきました ディエゴさんは何を買ったんでしょうか? 買い物を終えたディエゴさんは人混みに酔ったと言ったので 人が少ない場所で休憩しようと提案します 人混みに酔うような人だったかなぁ…。 すると彼は周りを見渡し徐に買い物袋からポーションを飲んで歌い始めました 可愛い動物達が駆け寄ってくるのを見て、私の為にしてくれたんだと気付きました。 デュエットさせてください ディエゴさんほど歌は上手くないですけどね。 肩に止まった鳥に、森の腕時計の効果を使い小声で話しかけます 私の恋人は素敵な人ですね。 |
藍玉(セリング)
妖精の市ということに興奮。無表情だが目だけ輝いてる 「セリングさん!」 頷きながらがっしり握手 「じゃあ後程合流しましょう!」 さっさとゴブリンの店へ マッチに興味津々 「柄の部分に幻覚効果の何かが…?いえ、他人も見れるんですから炎の方にも…」 科学的考察を試みるが、無理。フッと諦めたように目を伏せてからゴブリン達に笑顔で 「魔法ですね」 でも買う 擦ると大量の本がある図書館が見える (い、行きたい…!) 合流前にトロールの店が目に入る (あっちも楽しんでるでしょうが、ウィンクルムじゃないと来れなかったし、お礼でも…) アメジスト購入 合流後 貰った物を確認して軽く頭を抱える 「どうぞ」 飴を食べ珍しく少し笑顔で 「そうですね」 |
オーレリア・テンノージャ(カナメ・グッドフェロー)
クリスマス市、素敵ですねえ。カナメさんとのんびりしましょうか。 カナメさんが楽しそうなので、私も年甲斐もなく、うきうきしてしまいます。 温かいミルクティーを飲みながら、彼を見ているだけでもとても楽しいです まったくもう。 あれこれ全部って、欲張ってはいけませんよ。 一部は持って帰って、明日にしましょう。 そうしたら、私もお菓子に合わせておいしいお茶を煎れられますしね ふふふ、カナメさんはいい子ですねぇ。 (優しくて無邪気な、この子の笑顔を…私は守ってあげたい) (できるなら、危険なことはさせたくない) (けれどそれは、ウィンクルムとしては……) |
瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
人の形をしたクッキー、とても可愛いです。 雪が被っているようなクッキーも美味しそう。 ミュラーさんの言葉に「はいっ」と元気に返事。 ジンジャーマンクッキーとミルクティーを買います。 ティーは温かくて美味しいです。なんだかほっとしますね。 彼の差し出したカップを受け取り、少し飲んでから (間接キス!?)気がついて内心慌てます。 だって彼の誘いが自然だったからついそのままこくっと。 「美味しいです…」頬が熱いです。手も触れてドキドキ。 これはクッキーのせい…じゃないですね。 食べる前にもクッキーをじっと見つめて。 「お菓子作りもいいですね。憧れます」 でも来年はお菓子作りに挑戦しても良いかも。 「作ったら食べてくれます?」 |
アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
宝石キャンディ 買 アメジスト 2月の誕生石 宝石言葉:誠実 心の平和 * すごい…キラキラしてる… これ全部キャンディなんだ… あ…綺麗なアメジスト… 手に取って眺める そういえば… ガルヴァンさんがいつも角に付けてる宝石って何だろう…? 赤だけでも結構ある… ふと振り返ると トロールをこれまで見た事も無いような形相で見つめて(睨んで?)いる精霊の姿が え…ガルヴァンさん…?! とりやえずキャンディを買う 出る前に一応トロールさんにお辞儀しとこう 歩きつつ えっと…さっきは、どうしたの…? 少し振り返り ああ… 確かに宝石を扱う人にとっては天敵かもしれないけど… トロールさんにはトロールさんの生活がある訳で… 暫く飴の宝石を眺めてから食べる |
●宝石の魅力
『アラノア』と『ガルヴァン・ヴァールンガルド』は、トロールの店の前で足を止めた。
「すごい……キラキラしてる……」
宝石店と見紛うほどの豪華絢爛な品揃えだ。
「これ全部キャンディなんだ……」
アラノアの言葉に、店主のトロールは嬉しそうに答えた。
「んだ! 砂糖で作ったから、人間が食べても美味しいはずなのだ」
(トロールに飴を作る技術があったのか……)
ガルヴァンは、心の中で冷静なツッコミを入れる。
様々な宝石キャンディの中から、アラノアとガルヴァンはこれぞというものを探すことにした。
「あ……綺麗なアメジスト……」
アラノアはアメジストを模したキャンディを手にとった。じっくりと眺める。アメジストは二月の誕生石だ。
「そういえば……」
ポツリとつぶやく。
「ガルヴァンさんがいつも角に付けてる宝石って何だろう……?」
売り物をザッと見渡してみたが、あまりの種類の豊富さに、逆に途方に暮れてしまう。
「赤だけでも結構ある……」
ふと、アラノアは思った。宝石に詳しいガルヴァンならば、同じ色の石一つ一つの見分けもつくのだろうか、と。
「こ……これは……!」
品物を物色していたガルヴァンの琥珀色の目が、驚きで見開かれる。視線の先には、輝かしい透明の粒。ガルヴァンは感心して息を呑む。
「まさか、あのリューコ・ガーネットをモチーフにしているのか……?」
「んだ! お客さんは宝石を見る目があるのだ」
リューコ・ガーネットはガルヴァンが産まれた十一月十一日の誕生石。
ガーネットは流通量が豊富なため手頃な宝石というイメージもついているが、リューコ・ガーネットは美しく珍しい変種だ。その無色透明な輝きは、ダイヤモンドと比べられることもある。
他にも、希少価値の高い石がキャンディになって売られている。
「……」
ガルヴァンは思考を巡らせる。
これほど精巧に再現できるということは、店主は現物を見たことがある、と考えて良いだろう。
トロールの好物は石。さらに店主は美味しさを普及したいと言っていた。
(つまり……)
貴重な宝石がこのトロールのお腹の中に消えていった、と推察できる。
じー……と複雑な思いで店主を睨み、立ち尽くす。
「え……ガルヴァンさん……?!」
アラノアがふと振り返ると、そこにはこれまで見た事も無いような形相で、トロールを凝視しているガルヴァンがいた。
名前を呼ばれ、ガルヴァンがハッと我に返る。
「あ……ああ……すまん」
とりあえずキャンディの会計を済ませる。
店から立ち去る時に、アラノアはトロールに軽くお辞儀をした。礼儀正しい振る舞いには、穏やかな見送りの挨拶が返ってきた。
市を歩きながら、アラノアが話しかける。
「えっと……さっきは、どうしたの……?」
その顔に影を落とし、ガルヴァンが答えた。
「……いや……貴重な宝石が奴らの餌食になっているのではと思ったら……な」
ガルヴァンは気鬱そうに視線をそらす。
「ああ……」
腕組みをして考え込むアラノア。
「確かに宝石を扱う人にとっては天敵かもしれないけど……トロールさんにはトロールさんの生活がある訳で……」
「まぁ……宝石の魅力については大いに賛同できる。が、かと言って進んで話そうとは思えないな……」
「うーん、難しい」
買った飴を眺めてから、アラノアはパクリと口に入れた。
アメジストの宝石言葉は誠実や心の平和という意味がある。
ガルヴァンもキャンディを口にした。本物ではないといえ、珍しい石を食べるのは若干気が引けたが。
彼の誕生石の宝石言葉は、秘めた情熱だという。
●最高の贈り物
「……前に見た顔ですね」
スノードームを売っているミノタウロスを見て『ハロルド』がそうこぼした。
「まさかこんなところで再会するとはな」
『ディエゴ・ルナ・クィンテロ』も遠巻きに牛頭巨漢の怪人を眺める。
「彼には苦戦させられました」
もっとも、クランプスの市場内では争いごとは禁じられており、店番中のミノタウロスも大人しい。
「周囲に危害を加える心配はなさそうだな」
「テンプポーションはいっかがっかなっ? 歌で動物と仲良くなれたら、きっと楽しいよー!」
ハーピーの売り子の宣伝文句にハロルドが振り向いた。
「テンプポーション……?」
これを飲んで歌えば、森の動物たちを集める効果があるという。
「歌声で動物たちが集まるんですか……買いましょう」
動物好きなハロルドはその効果に惹かれて、ポーションを買う。
他にも市場には珍しくて不思議な品々が売っている。気になるアイテムを見るのに夢中になっていたら、ハロルドはディエゴの姿を見失ってしまった。
「ディエゴさん?」
「ここだ」
二人はすぐに合流することができた。
「ディエゴさんは何を買ったんでしょうか?」
「まあ、必要なものは買えたな」
質問をはぐらかすディエゴ。
ハロルドはそれ以上追求せず、ディエゴと一緒に市場の雰囲気を楽しむことにする。
しばらく歩くと、ディエゴがこんなことを言い出した。
「すまん。人混みに酔った」
人が少ない場所で休憩しようと提案する。
「大丈夫ですか?」
心配するハロルドだが、同時に疑問も感じていた。
(人混みに酔うような人だったかなぁ……)
ひらけた場所まで向かう。市場の喧騒は遠のき、周囲には森が広がっている。
「ここなら良さそうだな」
ハロルドが不思議に思っていると、ディエゴは買い物袋から小瓶を取り出す。
その瓶には、ハロルドも見覚えがあった。
時を少し遡る。
ディエゴは市場で売られている品を見て、ハロルドへのクリスマスプレゼントを思い付いた。
歌には少し自信がある。これを飲んで神人が好きな動物達を引き付ける事ができれば、彼女はきっと喜ぶ筈だと。ディエゴはそう考えた。
プレゼントはサプライズにしたい。ハロルドが他の店の売り物を見ているところを見計らい、ディエゴはハーピーからポーションを買った。
ポーションを飲んだディエゴの唇が動き、その喉から歌が紡がれていく。
森から動物たちが駆け寄ってくるのを見て、ハロルドは気づいた。
(私の為にしてくれたんですね)
今度はディエゴが驚く番だ。
「デュエットさせてください。ディエゴさんほど歌は上手くないですけどね」
ハロルドは自分が買ったポーションを手に持ち、ディエゴに見せる。
二人の声が優しい旋律を織り上げていく。
リスやシカ、雪ウサギが親しげな様子で集まってくる。
小鳥がちょこんとハロルドの肩に止まった。
ハロルドがつけている森の腕時計には不思議な力があった。ネイチャー・センス。高い直感力を持つ者ならば、一日に数分間動物と意思疎通ができるようになるというものだ。
森の腕時計の力を使い、ハロルドは鳥に小さな声で話しかける。
「私の恋人は素敵な人ですね」
小鳥も同意してピルルと鳴き返す。
「良かった……」
動物と触れ合うハロルドの嬉しそうな顔を見て、ディエゴの心も温かくなる。
「……おっと!」
イタズラですばしっこいリスが、ディエゴの頭まで駆け上ってきた。
なでてほしいと、人懐っこい様子でシカが近づいてくる。
雪ウサギは二人の周りで楽しげに飛び跳ねた。
それはまるで、森の命全体がハロルドとディエゴを祝福しているかのようだった。
●知識欲と食欲
自分たちは今、クランプスの妖精市にいる。
その事実に『藍玉』と『セリング』は興奮していた。藍玉は無表情のまま目だけを輝かせ、セリングは笑顔で目をキラキラさせる。
「セリングさん!」
「藍玉!」
二人が名前を呼んだタイミングは同時。息の合った動作で振り返れば自然と互いの目が合った。二人は頷きながら、がっしりと握手をした。
「行きたい場所違うよね?! 解散で!」
「はい! じゃあ後程合流しましょう!」
趣味や興味の対象が違う二人は、別行動で市場を楽しむことにした。
藍玉はさっさとゴブリンの元へ。
幻影が浮かび上がるというマッチに興味があるのだ。
赤と白の衣装を着た二人組のゴブリンがマッチを売り歩いているのを見つけた。
藍玉は好奇心のおもむくままにそちらに駆けつけ、商品を見る。
「柄の部分に幻覚効果の何かが……? いえ、他人も見れるんですから炎の方にも……」
藍玉はその頭脳を働かせ、科学的な考察を試みる。
子供のようなゴブリンは藍玉の言葉一つ一つに頷き、話が盛り上がると歓声や拍手を送る。実はゴブリンズ、難しい話は一切理解していない。けれど知的な情熱にかられた藍玉の話を聞くことが、純粋に楽しいようだ。
考察はやがて思考の袋小路に陥った。藍玉は諦めの境地に達し、フッと目を伏せる。それから笑顔でゴブリンたちに。
「魔法ですね」
一箱買って、藍玉は魔法のマッチをすってみた。マッチの火から幻影が広がる。膨大な蔵書を誇る立派な図書館が見えた。希少本を集めた書架もある。
(い、行きたい……!)
いつか本当にこんな図書館に行ってみたい。そう願う藍玉。
そのままブラリと市場を歩いていると、トロールの店が目に入った。
(あっちも楽しんでるでしょうが、ウィンクルムじゃないと来れなかったし、お礼でも……)
様々な種類のある宝石キャンディの中から藍玉が選んだのは、アメジストだった。
一方セリングは迷わず魔女のところへ。
「全部一個ずつ!」
美味しいものに目がないセリング。注文したものをその場で食べる。
クラビエデスの甘い口どけと、ジンジャーマンクッキーのショウガの芳香を堪能。ソムリエがワインを飲み比べる時のような集中力で、レモネードとミルクティーを吟味した。
「あ~美味し~、ねぇこれ材料は? 市販の? 自家栽培?」
「小麦粉や砂糖は馴染みの農家から買ったのさ。ハーブとショウガは、自分のとこの菜園で収穫したもんだよ」
セリングは上機嫌で魔女と食べ物談義をした。
「レモネードのミルクティーさぁ、ハーブとミント換えてみたらまた別の美味しさになるかも~」
「ヒッヒッヒ! そいつは良い考えだねぇ。今度試させてもらうよ」
魔女はそのアドバイスを気に入ったようだ。立ち去るセリングに、骨ばった手を振っていた。
そろそろ藍玉と合流する時間だろうか。セリングが歩いていると、トロールの売り物に興味を持った。
(……これ、藍玉の目みたい)
特に何も意図せず、アクアマリンを模したキャンディを購入。
「セリングさん」
市場で別行動していた二人が合流する。
「これあげる~」
「なんですか?」
渡された買い物袋を開封した藍玉が、軽く頭を抱える。
「あー……。宝石キャンディですよね? 私も同じような品物を買いました」
「お~、じゃあ一個交換しようよ」
「どうぞ」
アメジストとアクアマリンの飴を交換し合う。
「なんか得した気分」
ころりと口の中で青白く透き通った飴を転がしながら。
「そうですね」
紫色の飴をつまみ口に含む。そう言った藍玉の表情は、珍しく少し笑顔だった。
●お茶とお菓子とお仕置きと
「オリィさんとおでかけ、ひっさしぶりだなー」
テイルスの少年『カナメ・グッドフェロー』は、楽しそうにふかふかの尻尾を揺らす。垂れた犬耳が印象的だ。
「クリスマス市、素敵ですねえ。カナメさんとのんびりしましょうか」
おっとりとした口調で『オーレリア・テンノージャ』が目を細める。優しくて穏やかなおばあさんだ。
「僕がいなくって寂しくなかった?」
カナメがオーレリアの手をとり、視線を合わせる。
「大丈夫だよ、今日は一緒に遊んであげるからねっ」
ふんすっと可愛らしい鼻息。
そして二人は妖精の市場へと仲良く繰り出していった。
食べ物を扱っている魔女の店に、オーレリアとカナメは向かう。
「えへへ、クリスマスってすごく、楽しいよねー! わくわくする!」
その道すがら、カナメはたくさんおしゃべりをした。
「今年はね、サンタさんに新しいゲームをお願いしてるんだよ!」
カナメの楽しげな様子につられて、オーレリアも口元に微笑みをたたえる。
「私も年甲斐もなく、うきうきしてしまいます」
魔女の店の周辺には、ハーブの芳香がふわりと漂っていた。
「では、ミルクティーを」
オーレリアはカモミール入りのミルクティーをゆったりと飲み、はしゃいでいるカナメを見守ることにした。それだけでも、充分楽しい。
「あっ、すごい。クッキー食べたい!」
カナメはクッキーに興味を惹かれたようだ。
「なになに? 真っ白いのお砂糖なの? わーい!」
クラビエデスクッキーを買う。カナメはふんだんにまぶされた粉砂糖に鼻をくすぐられ、クシュンと小さくクシャミをした。
可愛らしいクシャミに、オーレリアはクスッと笑う。
宝石のようなキャンディを食べている妖精や人間が、カナメのそばを通り過ぎた。どうやら向こう側の方に、このキャンディを売っているところがあるらしい。
オーレリアの手を引きながら、カナメはトロールの店へと急ぐ。
「きらきら宝石みたいなキャンディもあるよ!」
売り物の宝石キャンディに負けないぐらい、カナメがキラキラと目を輝かせた。
「赤いの、青いの、緑の……あっこれダイヤみたい。ねぇ、これ、オリィさんの目と同じ色だよ、綺麗だなぁ」
そういって見せてくれたのは嬉しいけれど……。
カナメは大量のお菓子をどっさり抱え込んでいる。これを全部買うとなると……。
いくらなんでも多すぎる。
「まったくもう。あれこれ全部って、欲張ってはいけませんよ」
自分の腰に手を当てたポーズで、オーレリアが優しく注意をする。
「一部は持って帰って、明日にしましょう。そうしたら、私もお菓子に合わせておいしいお茶を煎れられますしね」
なおオーレリアの背後には、クランプスのお仕置きスウィングのコーナーがある。
お仕置きスウィングをチラッと見たカナメは、しょぼんとしながらも聞き分けよく返事をした。
「……うー。はーい」
キャンディは、オーレリアの目に似た紫色だけ買うことにした。
「ふふふ、カナメさんはいい子ですねぇ」
オーレリアから褒められて、カナメはすぐに明るさを取り戻した。
「えへへ、でも僕オリィさんのお茶も大好きだから、楽しみかもー!」
(優しくて無邪気な、この子の笑顔を……私は守ってあげたい)
オーレリアの胸中には複雑な思いが渦巻いていた。
(できるなら、危険なことはさせたくない)
だが……。悲しげに目を伏せる。
(けれどそれは、ウィンクルムとしては……)
「オリィさん? どうかしたの?」
不思議そうにカナメに名前を呼ばれて、オーレリアは我に返った。
「……いえ。さ、そろそろ帰りましょうか。カナメさん」
●甘いレモネード
『瀬谷 瑞希』と『フェルン・ミュラー』は魔女の店で楽しげに品物を見つめていた。
いや。正確に言うなら、品物を熱心に見つめていたのは瑞希であり、フェルンの視線はクッキーを前にして嬉しそうにしている瑞希の顔に向けられていた。
「人の形をしたクッキー、とても可愛いです。雪が被っているようなクッキーも美味しそう」
ジンジャーマンクッキーとクラビエデスを見比べて、瑞希はワクワクとした表情を浮かべている。
(ミズキがクッキーをキラキラおめめで見ているよ。凄くほほえましい眺めだね)
クッキーを凝視している瑞希に、フェルンがきく。
「買うかい?」
その言葉に、素早くくるりと振り返った瑞希は。
「はいっ」
と元気に返事。
瑞希の元気の良さに、つい微笑んでしまうフェルン。
魔女の店で瑞希はジンジャーマンクッキーとミルクティーを買って、フェルンはクラビエデスとレモネードを購入した。
フェルンはさっそくレモネードを飲んでみた。
ミント入りのレモネードはすっきりした味わい。結構好きな味だ。レモンとハーブの効果で、喉がうるおったような気がした。
「温かくて美味しいです」
瑞希がミルクティーに口をつける。紅茶とミルクの他に、心を落ち着かせるカモミールも入っていた。
「なんだかほっとしますね」
そう言って、隣でレモネードを飲んでいるフェルンに話しかける。
「これも美味しいよ、少し飲んでみる?」
話の流れから、フェルンが自然な動作でカップを差し出す。
それを受け取って、瑞希はちょびっとレモネードを飲んだ。唇をカップにつけてしまった後で、はたと瑞希は気づく。
(間接キス!?)
内心とても慌てる。
(だって彼の誘いが自然だったからついそのままこくっと……)
頬が熱くなっているのを隠したくて、うつむく瑞希。口元を隠すように自分の唇に軽く触れてみた。口の中には、まだレモネードの甘酸っぱさが残っている。
「美味しいです……」
小声で言って、フェルンにレモネードのカップを返す。彼の指に触れるだけでも、瑞希の心臓はドキドキしてしまう。
「あ」
顔を赤らめた瑞希の態度で、フェルンも状況を理解した。
(間接キスになるとかそんな意図は無かったんだけれど……)
でも、恥ずかしがっている瑞希の姿を可愛いと思えた。
赤面した瑞希にそっと顔を近づけて、フェルンは愛おしそうに小さな声でささやいた。
「ミズキ、これはきっとクリスマスの幸運だよね」
「……ミュラーさん」
奥手な性格の人にとって、パートナーとの間接キスはかなり緊張する出来事だろう。
それでも、途中で断念したり予想外のアクシデントという結果には終わらずに、良い雰囲気になっている。
これまで積み重ねてきた絆やシチュエーションの流れの自然さ、そして二人が魅力的で、季節感やクリスマスらしさを取り入れたオシャレをしていたことなども、プラスに働いたのだろう。
瑞希の心臓の鼓動が落ち着いてきたところで、せっかくだからクッキーもシェアしようと提案するフェルン。
ジンジャーマンクッキーとクラビエデスをそれぞれ交換する。
食べてしまう前に、小さな雪玉のようなクラビエデスをじっと見つめて、瑞希はつぶやいた。
「お菓子作りもいいですね。憧れます」
来年はお菓子作りに挑戦してみるのも良いかも、と考える。
「作ったら食べてくれます?」
隣にいるフェルンの顔を見上げて尋ねる。
フェルンは、期待と喜びのこもった笑顔を返す。
「上手に作ってくれるかい」
依頼結果:大成功
MVP:
名前:ハロルド 呼び名:ハル、エクレール |
名前:ディエゴ・ルナ・クィンテロ 呼び名:ディエゴさん |
名前:瀬谷 瑞希 呼び名:ミズキ |
名前:フェルン・ミュラー 呼び名:フェルンさん |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 山内ヤト |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 12月14日 |
出発日 | 12月20日 00:00 |
予定納品日 | 12月30日 |
参加者
- ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
- 藍玉(セリング)
- オーレリア・テンノージャ(カナメ・グッドフェロー)
- 瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
- アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
会議室
-
2015/12/19-22:48
あら、素敵なお店がたくさん。
カナメさんとお買い物に行くのですが、何を買うか迷いますねえ。
どうぞよろしくお願いします。 -
2015/12/19-15:46
こんにちは、瀬谷瑞希です。
パートナーはファータのミュラーさんです。
色々なお店があって、何を買うかとても迷いますね。
皆さま、よろしくお願いいたします。 -
2015/12/18-23:56
-
2015/12/18-01:18
妖精達のクリスマス市……(そわそわ)
楽しいクリスマス市になるといいですね。
皆さん、よろしくお願いします。