【枯木】眠り姫(もしくは王子)の起こし方(Motoki マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 寒さの所為なのか、雪達の囁きが聞こえたのか――。

 ふと、朝陽が顔を覗かせるよりも早く目覚めたあなたは、窓の外、まだ暗い景色が白銀の世界になっている事に気付く。
 寒い筈、とカーテンを閉めて。けれど、朝陽が昇る瞬間にはきっと綺麗だろうな、と思った。

 まだ、寝てるだろうな。

 パートナーの事を考えて。
 もう1度寝直そうかとシーツを掴んだあなたは、ふと手を止める。カーテンの向こうにある景色を眺めるように、窓の方へと顔を向けた。

 シーツを元へと戻すと、上着にマフラー、手袋と、外に出る準備を整えていく。
 扉を開けて、飛び出した。

 手には、シュトレンの入った手提げ籠。

「クリスマスまでの間に2人で少しずつ」

 そう思い、買ったものだ。

 パートナーの部屋にある『アドベント・リース』。
 それと共に、クリスマスまでをしっとりと楽しみに過ごさせてくれるだろう。

 待ち遠しさも、ひとしおで。

 薄っすらと明るさが滲んでゆく白銀の中を、あなたは白い息を弾ませ進む。

「パートナーをどうやって起こそう……」

 今は止んでしまった雪。
 太陽が昇れば、午前中には溶けていってしまうから。

 一緒に見られたら、きっと嬉しい。
 太陽が白銀を照らし、キラキラと路を輝かせる、その瞬間を――。

解説

●目的
まだ寝ているパートナー(神人・精霊、どちらでも)を起こし、陽が昇り雪を照らす景色を部屋の中から一緒に見る。

●黒き宿木の種
実はあなたもパートナーも知りませんが、クリスマスの準備が為されているパートナーの部屋には、『黒き宿木の種』が植え付けられています。黒き宿木の種が発芽する前に、愛の力を浴びせる事で枯らせる事が出来ます。

※パートナーの部屋でウィンクルムの親密度が上がれば、自然に黒き宿木の種は枯死します。プラン内で気にかける必要はありません。

●リザルトノベル
1.パートナーを起こす場面。
2.部屋の中で起きたパートナーと一緒に、陽が昇り雪が輝くのを眺める場面。
上記の2つの場面に分かれます。

●パートナーの起こし方
○勝手に部屋に入る事を許された間柄であれば、部屋に入り、起こす事が出来ます。
珈琲やスープなど、温かいものを用意して起こしてあげますか? 
それとも優しく囁いて起こしてあげますか?
それとも――?

○勝手に部屋に入る間柄ではない場合、勝手に入るのを遠慮してしまう場合は、部屋の外から起こす事になります。
メールや電話で起こしてあげますか?
それとも窓やドアを叩いて、声をかけて起こしてあげますか?
それとも――?

※起こし方や行動は、親密度によっては成功しない場合もございます。ご了承下さい。

●アドベント・リース
リースの飾りに4本のロウソクが立った、吊るさないリースです。日曜日ごとに1本ずつキャンドルを灯し、週毎に光を増し加えながら、心穏やかにしてクリスマスを待つ、とされています。

●シュトレン
生地にはドライフルーツやナッツが練りこまれ、表面には砂糖がまぶされている菓子パンです。
クリスマスを待つ間に少しずつスライスして食べるとフルーツの風味などが日ごとにパンへ移っていくため、「クリスマス当日がだんだん待ち遠しくなる」とされています。

●費用
シュトレン代として、400Jrを支払いました。

ゲームマスターより

皆様こんにちは、Motokiです。
どうぞよろしくお願い致します。

雪の白銀の世界、とても綺麗ですよね。

しっとりと楽しい時間を過して頂ければ、嬉しいです。


皆様の素敵なプラン、お待ちしております!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ガートルード・フレイム(レオン・フラガラッハ)

  起こす側

1.去年のクリスマスにもらった合い鍵で部屋に入る
よく寝ている様子に微笑む
手を彼の頬にあて「おはよう」

レオンの言葉に目を丸くし
「…って、どうすれば」
狸寝入りに嘆息
もう一度おはようと言って額にキス

キスに頬を染め
「ま、まともなキスってほぼ初めてな気がするぞ」

2.カーテンを開いて一緒に外の景色観る
「ほら、銀世界だ
旅している頃はこんな日も野外で寝起きしたものだ」

「ん?いや、お前と一緒に居るのが幸せだからいい」
いつにない真剣な調子に
「わかった。お前が一緒なら、どこにでも行こう」

「ん?今幸せだぞ?」
相応しくない、に不思議な顔
「お前は私には勿体ないくらいの精霊だと思うが
…わかった、その時は聞くよ」


シャルル・アンデルセン(ノグリエ・オルト)
  はっ!寝過ごしてしまいました!しかもノグリエさんが起こしに来てくださるなんて。すみません、あと、ありがとうございます。
ゆっくり眠れましたよ。証拠に寝坊してしまいましたし。
そう言うのじゃないですか…?確かに少し疲れていますが大丈夫、ですよ。
ってこんな恰好ですみません。髪にも寝癖がついたままですし。
今日はここで朝ごはんを食べて?ノグリエさんが運んでくださったんですか?…ありがとうございます。

外、雪が積もったんですね。とっても綺麗です。
着替えたら…ノグリエさんと散歩に行きたいです。
突然のお願いですみません…最近少しノグリエさんと一緒にいる時間が減ったような気がして…手を繋いで散歩しましょう?


豊村 刹那(逆月)
  「逆月、入るぞ」(小声
寒さが苦手らしいから起こすのは気が引けるけど。
なんとなく付き合って欲しかった。

(布団に近づき覗き込む
「逆月、起きてくれないか」(布団の上から軽く揺する
「陽も昇らない内にごめ」
(咄嗟に片手を間に入れる
「何を、シヨウト……?」(動揺から片言
「そういうのは、好きな人とするもんだ」(目を逸らす

「雪が綺麗で、朝陽昇るのを一緒に見たいと思っ……」
(口が滑ったのに気づき、顔を赤くする
「……お茶、淹れて来る」

「っ!?」
いや、その。暖房入れるの遅かった私が悪いんだけど。
「部屋が、温まるまでだからな」(呻き、顔を赤くし、小声
逆月が気になって、景色見るどころじゃねーっての!(羞恥から内心吠える


桜倉 歌菜(月成 羽純)
  起こされる方
朝は滅法弱い(目覚ましをいつも三個用意)
羽純とは恋人になったばかり

夢を見てたの
羽純くんの夢
羽純くんと並んで座って…彼が近くて幸せ

羽純くんの声が凄く近く聞こえて目が覚めます
…あれ?ここ、どこだっけ?(寝惚け
凄く良い夢を見てたんだけど…珈琲の香り?
って、何で羽純くんがここに!?
は、恥ずかしい
どうしよう、変な顔で眠ってたりしなかった…?
じゃあ、さっき凄く近く聞こえた羽純くんの声は…現実?

混乱してたら、羽純くんが窓の外を見るようにって
わあ…綺麗…!
この景色を一緒に見る為に、起こしに来てくれたんだ
嬉しい
珈琲も私の好み…シュトレンもとっても美味しい
こんな幸せな朝をくれた羽純くんに、心から有難う


和泉 羽海(セララ)
  普段は寝てるけど、偶々早起きしちゃったから…
キラキラな景色、きっと綺麗…
前に…冬の花火…見せてもらったから、そのお返し…(ep3)

一言メールをいれて、初めて精霊宅へ

……なんか、思い立って来ちゃったけど…どうしよ…
こんな、時間に…いきなり来たら、迷惑…だよね
や、やっぱり…帰ろう、かな…

びっくりした…
あ…寝癖…寝てたよね、そりゃ…
や、やっぱり…怒られる…かな…って、え…えっ…!?
(精霊の勢いになされるがまま

男の人の部屋に入ったの…はじめてだ…
なんていうか……何もない…意外

あ、朝日…(袖を引っ張って窓際に連れていく

『怒ってないの?』(口パク

?怒ってないなら…いいか
あとで…シュレトンも…食べよう…?


●まどろみの中の訪問者
 早朝である事もあって、部屋を移動する豊村刹那の足音は静かだ。
「逆月、入るぞ」
 小声で中の精霊へと声をかけ、襖を開けた。
 中は、まだ薄暗い。畳の上に敷かれた布団の中、静かな寝息をさせて、逆月が寝ていた。
 同居しているアパートの中とは言え、やはり暖房をつけていない室内は寒い。
 寒さが苦手らしいと知っているだけに気が引けてしまうが、今朝はなんとなく付き合って欲しかったのだ。
 パートナーが眠る布団の傍らに両膝を付いて、覗き込む。
 そっと布団に掌を乗せて、上から軽く体を揺すった。
「逆月、起きてくれないか」
 揺らされるままに布団の中で揺れた男が、「……っ……」と声ともつかぬ吐息を洩らす。

(遠くから聞こえる声が、心地よい――)
 眠りと目覚めの狭間でまどろみながら、逆月はその声が誰のものかも捉えられぬままで瞼を揺らした。
 開こうとしない瞼を、なんとか苦心して開ける。
「刹……那……?」
 再び眠りにつこうと誘う意識に、相手が喋り始めた言葉が、頭に入ってこない……。
 ただ、過去に。毎日そうしていた習慣を実行しようと、手を伸ばした。

 相手の赤い瞳がぼんやりとながらも自分を映したのを確認して、刹那は申し訳なさそうに言葉をかける。
「陽も昇らない内にごめ――」
 不意に途切れたのは、まだ布団の中にいる相手に腕を引かれたから。
 近付く、白く整った顔に、咄嗟に掴まれていない方の手を間に入れた。
 掌に逆月の唇を感じながら、慌てて上体を起こす。
「何を、シヨウト……?」
 見開いたこちらの目を、相手は無表情に見返した。動揺に片言となってしまっている事にも、気付いていないようだ。
「口吸いを」
 淡々とした言葉に、息が止まる。
「そういうのは、好きな人とするもんだ」
 力を抜くように嘆息しながら、相手から目を逸らした。
 なぜ神人が頬を染めているのかよく判っていない精霊は、不思議そうにしながらも「ふむ」と頷いてみせる。
「そういうものか」
 ――村とは、やはり違うか。
 納得した頭は、段々と覚醒していっているようだった。
「して、何があった」
 上体を起こして布団の上で座り、逆月が問う。
「雪が綺麗で、朝陽昇るのを一緒に見たいと思っ……」
 今度言葉が止まったのは、口が滑ったのに気付いたから。
 更に顔を赤らめて、わたわたと立ち上がる。
「……お茶、淹れて来る」
 言ったその横顔は、相変わらず赤いままで。
 部屋から出て行くその背を見つめながら、いつもとは違う、熱く込み上げる何かを逆月は感じていた。

●白い朝に訪れたのは
 サクサクと白い雪を踏みながら、和泉羽海は薄暗い道を進む。
 手の中のシュトレンを気にしながら僅かに足を緩め、口元へと手袋をはめた手を持っていった。
 ほぅ、と白い息を吐く。
 そうして再び、速度を上げた。
 普段はまだ寝ている時間。それは偶々早起きした事で訪れた、冬の花火を見せてもらった時へのお返しのチャンス。
(キラキラな景色、きっと綺麗……)
 喜んでくれたら嬉しいなと、一緒に見られる光景を想像して、笑顔を浮かべた。
(もうすぐ家に着くから、先に知らせとかないと……)
 びっくりしちゃう、と精霊へとメールを送った。

 神人専用の着信音への、セララの反応は早い。
 ガバッと飛び起きて、メールをチェックする。
 目を擦りながら、寝ぼけ眼で送られてきた内容を確認すれば――。

『今から行く』

 ――って、……どこへ?

 短い文を何度も眺めているうちに、突然バチッと目が覚めた。
(今、夜明け前だよ? 変な人に会ったらどうするの?!)
 羽海ちゃんが危ないっ! とベッドから勢い良く飛び降りて上着を掴む。
 支度もそこそこに、玄関へと駆け出した。

(……なんか、思い立って来ちゃったけど……どうしよ……)
 セララの家の前で、羽海は最後の一歩を踏み出せずにいた。
(こんな、時間に……いきなり来たら、迷惑……だよね。や、やっぱり……帰ろう、かな……)
 踵を返した途端、派手な音を立てて扉が開く。
 びっくりした……と振り返れば、セララがドアに手をかけたままでポカンと口を開けていた。

(あ……寝癖……)
「――天使が降臨した……」

 寝てたよね、そりゃ……と羽海は思い、薄っすらと光を滲ませる濃紺色の空を背に立つ彼女に見惚れていたセララは、ハッとする。
「じゃなくて、何やってるの!?」
 顔面蒼白になったセララがズンズン近付いて行けば、羽海は僅かに後退した。
(や、やっぱり……怒られる……かな……)
 胸の前で指を組み肩を縮めた彼女の手を、手袋の上から精霊が包む。
「待ってればオレが行くのに! あぁ、こんなに冷えて……早く入って!」
 セララが着ていた上着をかけられ、背中を押されて。
(え……えっ……!?)
 その勢いにも押され、羽海はなされるがままに彼の家へと入っていった。

●我儘王子を起こすには
 去年のクリスマスにもらった合い鍵を使い、ガートルード・フレイムは精霊の部屋へと入る。
 ゆっくりと近付いて、眠るレオン・フラガラッハを見下ろした。
 よく寝ている様子に、普段より少し子供っぽく見えるその寝顔に、自然と微笑んでしまう。
 大切な宝物に触れるように、手を彼の頬へとあてた。
「おはよう」
 瞼を開いた相手に伝えれば、なぜだか王子は不満顔。
「おい。なんだよそれ。恋人の起こし方って他にあるだろ。やり直し!」
 まさかのダメ出しと共に、にべもなく手を払われる。
 再び目を閉じてしまった。
「……って、どうすれば」
 反応に驚き洩らしたガートルードの言葉にも、狸寝入りの相手は知らんぷり。
 まったく、と溜め息ひとつ、顔を近づけた。
「おはよう」
 かかる金の前髪を、指先でそっと梳いて。額にキスを落とす。
「こら」
 唇を離した途端、睨む相手と目が合った。
「お前はどうしてそうなんだ」
 顎に触れる指を感じた途端、ぐいっと捕えられ引かれる。体勢を崩しかける中、唇に相手の吐息を感じた。
 レオンの唇に塞がれて。寒い朝に起き出したガートルードのひんやりとした息を分け合う。ほんの一瞬、刻が止まった。
 唇が離れると同時に、レオンの瞳が開く。ようやく満足した様子で、頬を染めたガートルードを見返した。
「ま、まともなキスってほぼ初めてな気がするぞ」
 照れる神人とは対照的に、精霊は起き上がりながら「そうだっけ?」と首を傾げる。
 何度かした事のある事故キスとこのキスは全然違うと、ちゃんと理解しているのか――。
「なんでもいいや、おはよ」
 言ってガートルードを見上げたレオンが、優雅な微笑みを浮かべた。

●暖かな朝食と共に
「おや、シャルルはまだ起きてないのですか?」
 いつもの朝ならいる筈の神人の姿がない事に、精霊のノグリエ・オルトは足を止めた。
 窓の外、薄っすらと白み始めた空を見遣る。
 朝食を作りながら、やはり疲れているんでしょうかね、と心の中で落とした。
 なれないオーガ退治。自分同様彼女の過去を知るもう1人のパートナーからのあたりは、相変わらず冷たいだろう。
 しばらく、手を止めて。窓の外の白く積もった雪を見つめた。
(わざわざ起こして食堂まで来てもらうのはすこし忍びないですし。朝食を部屋まで運んであげましょうかね)
 微笑を浮かべ、手の動きを再開した。

 お盆に朝食を乗せ、同居している神人の部屋へと向かう。
 ノックし、一呼吸置いてからドアを開けた。
「おはよう、シャルル。ゆっくり眠れましたか?」
 笑顔で声をかければ、シャルル・アンデルセンは驚いたように飛び起きる。
「はっ! 寝過ごしてしまいました!」
 そうしてドアのところに立つ精霊を見ると、目を見開いた。
「しかもノグリエさんが起こしに来てくださるなんて。すみません、あと、ありがとうございます。ゆっくり眠れましたよ。証拠に寝坊してしまいましたし」
 照れたように笑う彼女に笑顔を返しながらも、ああ、と思う。
 ――やっぱり、疲れた顔をしている。
 微笑を浮かべたままで窓辺の小さな丸テーブルへと朝食を置いて、穏やかな口調で向き直った。
「寝坊したといっても寝付くのが遅かったのでしょう? 疲れが取れたというのはまた別の話です」
 自分では気付いていないのか、シャルルはきょとんとした顔をする。
「そう言うのじゃないですか……? 確かに少し疲れていますが大丈夫、ですよ。――ってこんな恰好ですみません。髪にも寝癖がついたままですし」
 恥ずかしそうに己の姿を見下ろして、少しピンピンと跳ねている白い髪を撫でつけた。
 わたわたとしたその様子を愛しそうに見つめながらも、ずっと彼女の傍にいてシャルルを知っているからこそ、心配になる。
 たとえ己で気付いていても、疲れを見せずに笑顔でいようとするのではないか、と。

 それでも「少し疲れています」と答えられたのは、相手が自分だったからかもしれない。
 そう思えた。
「今日はここで朝ごはんを食べて? ノグリエさんが運んでくださったんですか? ……ありがとうございます」
 嬉しそうな顔に、笑顔を返した。
「どういたしまして」

●まさかこれは、夢の続き?
 桜倉歌菜は、精霊の月成羽純と公園を歩いていた。
 ちょうど良いベンチがあったので、淡く光る景色の中、座ろうかと並んで腰掛けた。
「寒くないか?」
 尋ねてくれる彼と肩が触れて、寄り添い合っているようだと思う。
 ううん、と首を振って見上げれば、すぐそこに、こちらを見返す彼の微笑みがあった。
 凄く近くて。……とても、幸せ……。

 朝が滅法弱い神人のため、温かい珈琲とスライスしたシュトレンを持って、羽純は恋人同士になったばかりの彼女の部屋へと向かう。
 そっと静かに扉を開けて、歌菜が眠るベッドへと近付いた。
 3つの目覚まし時計に囲まれて、すやすやと眠る姫は無防備そのもの。
(よく寝ている……)
 可愛い寝顔に、思わず笑みを零す。
 その途端、「羽純君……」と相手の唇が動いた。
 気付かれたのかと思い、動きを止める。
「……大好き……」
「…………っ!」

 ――不意打ち過ぎだろ。

 寝言で、なんて。
 たまらずそっと、口付けて。離れた唇が彼女の耳元で優しく囁いた。
「歌菜、起きろ」
 瞼が、揺れて。青く澄んだ瞳は、ぼんやりと羽純を映す。

「……あれ? ここ、どこだっけ?」
 神人が発した第一声は、それだった。
「凄く良い夢を見てたんだけど……珈琲の香り?」
 やっと、頭が覚醒してきたようだ。
「って、何で羽純くんがここに!?」
 勢いよく上半身を起こした歌菜は、瞬時に熱を持った頬っぺたに両手をあてる。

 ――は、恥ずかしい!

 どうしよう、変な顔で眠ってたりしなかった……?
 じゃあ、さっき凄く近くで聞こえた羽純くんの声は……現実?
 ちょっと待って。ちょっと、待って――。

 頭と共にグルグルと目を回しだした歌菜の混乱に、羽純は手で口元を覆って隠す。
 だって。可愛らしいその反応に、ニヤけてしまうのは仕方のない事だったから。

●冬に纏うぬくもり
「待たせた」
 刹那が差し出した湯呑に、逆月が手を伸ばす。
 包み込むように両手で持って手を温めながら、窓の外へと視線を向けた。
 黒を纏っていた空が、徐々に青く衣を変え始めている。
 白んでゆく空へと僅かに目を細めて、刹那を見れば丁度湯呑から手が離れるところだった。
 窓へと向き直った彼女を、尾で引き寄せ背後から抱える。
「っ!?」
 驚き固まった様子に「冷える」と理由を伝えれば、しばらくして口篭るような小声が返った。
「部屋が、温まるまでだからな」
 了承の言葉に甘えて、離れずにおく。
「刹那は、温かいな」
 じわり伝わるぬくもりが、穏やかに体中へと浸透していった。
(……こうして温まれるならば冬も好い)
 初めて感じたそんな思いは、不思議な心地だ。
 光が届いた、外を見遣る。
 朝焼けに染まり色を変えてゆく雪も、なかなか趣があった。

 逆月の触れる場所の体温が上がっている事を自覚する刹那は、呻きながら顔に熱を持っていた。
 温かいどころか、こちらは暑いほどだ。
 実は天然王子ではないのか、と言ってやりたくなる。

 ――逆月が気になって、景色見るどころじゃねーっての!

 羞恥のあまり、身悶えるように内心で力強く吠えていた。

●何もない場所で灯ったもの
(男の人の部屋に入ったの……はじめてだ……)
 羽海は上着を脱ぎながら、室内を見回す。
(なんていうか……何もない……)
 必要最低限のものしか置かれていない部屋が、なんだか意外だった。
「今暖かい飲み物を……」
 上着を受け取って掛け、キッチンへと立ったセララは戸棚を開けてショックを受ける。
「……げ、女の子用のココア切れてる」
 戸棚を開けまくって、とにかく羽海ちゃんの体を早く暖めなくちゃと奮闘した。
(砂糖はあるけど……コーヒー飲めるかなぁ)
 カップを用意していれば、クイクイと袖を引かれる。
「ん? なになに?」
 飲み物の用意はそのままに、窓際へと引っ張られて行った。
「うわぁ、すごい! キラキラだ!」
 地面も木も建物も、覆っている白銀が朝陽の光を浴び煌いている。小さな小さな輝きが、散りばめられていた。
「そっかぁ、これ見せに来てくれたんだね? 嬉しい」
 窓へと顔を近付けて、セララは素直に喜ぶ。
『怒ってないの?』
 笑顔を向けた先、羽海の口パクにはきょとんとした。
「怒る? なんで?」
 一応、思考を巡らせて。
『オレの為に』してくれた事に怒る理由が見つからない、となった。
「んーよく分からないけど、オレ、羽海ちゃんの事大好きだから……怒ってないよ!」

 不思議そうに、首を傾げて。
(怒ってないなら……いいか)
 と、羽海もなる。

『あとで……シュトレンも……食べよう……?』
 そっと腕に触れ伝えられた羽海の言葉は、ちゃんと王子には『聞こえ』る。
 朝の光を浴びながら、「うん、食べよう!」と満面の笑みを浮かべた。

●白銀が見届ける約束
 陽が差し始めると、ガートルードは窓辺へと近付く。
(そう言えば、こんな早くになぜいるんだ、どうしたんだ、とは聞かれなかったな)
 どうして、は、起こし方の注文だけに使われた。
 笑顔でカーテンを開いて、レオンを振り返る。
「ほら、銀世界だ」
 光溢れる窓と彼女を眩しそうに手をかざし見返して、近付いて来たレオンが「へぇ」と声を洩らした。
 零れた息の白さが、寒さを物語っている。
「旅している頃はこんな日も野外で寝起きしたものだ」
「野宿は肩がこるよな」
 ぼんやりとそう返した精霊が、不意に顔を向けた。
「……昔の暮らしに帰りたい、か?」
 じっとガートルードの瞳を覗き込んで、問いかける。
「ん? いや、お前と一緒に居るのが幸せだからいい」
 それはあっさりとした答えで。それでも心からの答えであったからこそ、それが解ったレオンは瞼を僅かに揺らした。
「お前は鳥だ。……時々、こうしてかごの中に入れておくのが不憫に感じる。いつか、俺と一緒に旅をしようよ。いろいろなところを」
 未来を夢見て、笑顔で語られても良い言葉。なのにただ真剣な顔で、ガートルードを見つめてくる。
「わかった。お前が一緒なら、どこにでも行こう」
 見返すダークレッドの左目が雪の光を反射している事に、精霊は微かに口角を上げた。
 俯くと、ぽつりと言葉を落とす。金色に輝く前髪が彼の瞳を隠すから、その表情が判らなくなった。
「俺がお前を幸せにできる男だといいのにな」
「ん? 今幸せだぞ?」
 まるで自嘲のように口元を緩めて、レオンは顔を上げる。そうしてまっすぐ、ガートルードを見つめた。
「……いつか、話すな。俺がお前のパートナーに相応しくない理由を」
 相応しくない?
 心そのままに、不思議な顔を返す。
 何を聞こうが、彼をそう思う事はないだろう。
 ――けれども。
 聞かないうちから、否定する事は出来ないから。
「お前は私には勿体ないくらいの精霊だと思うが。……わかった、その時は聞くよ」
 まっすぐな想いと視線を、ガートルードも言葉に乗せて返した。

●真っ白な願いを
「外、雪が積もったんですね。とっても綺麗です」
 ストールを羽織って窓辺へと寄った神人は、椅子へと座る。
 並ぶ朝食に「わぁ」と手を合わせた。
「シャルルの好きなメニューにしてみましたよ。ゆっくり食べてゆっくりくつろいでください。家ではやはり安らいで欲しいですから」
「はい。いただきます」
 フォークを持って、笑顔を浮かべて。
 昇る陽が、雪と共に彼女の髪を照らしてゆく。
「着替えたら……ノグリエさんと散歩に行きたいです」
 眩しそうに窓の外の景色を見ながらの呟き。顔を見返せば、シャルルはフォークを置いて首を傾げるように微笑んだ。
「突然のお願いですみません……最近少しノグリエさんと一緒にいる時間が減ったような気がして……手を繋いで散歩しましょう?」
 おや、と零して、精霊はふふっと笑う。
 お手をどうぞと姫の手を取り、白の世界を散歩するのも悪くない。
「可愛いお願いですね。そうですね、後で散歩しましょう。手を繋いで、ね」
 わざと繰り返せば、シャルルも笑って嬉しそうに食事を再開した。

 彼女の笑顔は、たくさんの人が見るだろう。
 けれども。疲れた顔や心を見せられるのは、限られた者だけなのではないだろうか。
 ならば、願わくば――。

 朝の光に染まり輝く白銀を見つめ、ノグリエは心の中で願いを込めていた。

●寒い朝の贈り物
 まだ混乱の続く歌菜から堪らず顔を逸らせ、羽純は肩を揺らした。
 そうして、カーテンの向こうが金色に輝いている事に気付く。コホンと小さく咳払いしてから気を取り直し、歌菜に声をかけた。
「ほら、珈琲飲んで落ち着け。シュトレンもあるぞ」
 砂糖抜きでミルクたっぷりの珈琲と、雪が覆っているようなお菓子を見せて気を惹く。
「歌菜、窓の外……見てみろ」
 言葉と共に、サッとカーテンを開けた。
 一瞬、息を止めて。「わあ」と神人は、金色の光が溢れるように差し込んだ窓へと駆け寄った。
「……綺麗……!」
 陽の光を反射した雪よりも眩しい恋人の喜ぶ表情に、羽純は来て良かったなと思う。
 そんな彼へと、歌菜は突然顔を向けた。
「この景色を一緒に見る為に、起こしに来てくれたんだ。……嬉しい」
「ああ。喜んでくれて、俺も嬉しい」
 差し出してきた歌菜の両手を、両手で受け留めて。窓辺へと座らせる。
「どうぞ」
 ちょっと気取った様子をわざと醸し出しなから、珈琲とシュトレンを前に置いた。
 両手で持ったカップからひと口飲んで、シュトレンも口に運んで、歌菜は目を瞠る。
「珈琲も私の好み……シュトレンもとっても美味しい」
 顔を綻ばせ、両方をもうひと口ずつ含んだ。
「こんな幸せな朝をくれた羽純くんに、心から有難う」
「喜んでくれて、俺も嬉しい」
 見つめ合って、笑い合って。歌菜の隣に腰掛け、2人で雪が輝く景色を楽しむ。
 陽が昇るにつれ、金色に照らされた白銀は元の色を取り戻す。そうして輝きを変えていった。

 羽純は、初々しい恋人が緊張で固くなっている事に気付く。
 背を後ろにもたせかけながら、吐息のように笑いを洩らし、肩を抱き寄せた。
「あ、あの……えっと……」
 真っ赤になった歌菜は、羽純の胸で顔を隠すように身を縮める。
 可愛いすぎて、彼女の緊張をほぐすように、コツンと優しく頭をぶつけ合った。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター Motoki
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 12月14日
出発日 12月21日 00:00
予定納品日 12月31日

参加者

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