花纏(錘里 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 毎度おなじみ、ミラクル・トラベル・カンパニーより春のイベント情報をお届けします。
 女性コンダクターの柔らかな声が響く。配られたパンフレットに描かれていたのは、一面の花畑と、ふっくらとした小鳥。それから、桜色のひらりとした薄衣を纏う男女。
 興味を示す素振りに、にこり、彼女は微笑んだ。

 場所はタブロス郊外の自然公園。春爛漫の花模様を見せる敷地内には、一般的に春に咲く花が栽培されている。
 舗装された道を歩くだけでも目に楽しいだろうが、こちらの目玉は花告げ鳥と通称される小鳥と、彼らの習性を利用した、花衣と呼ばれる衣装。
 花告げ鳥は蜜を主食とする、手のひらの半分ほどの大きさの鳥で、公園内の至る所で見かけることができるそう。
 また、彼らは自身のふっくらとした毛の中に、気に入りの花をしまい込む習性があるらしい。

「花衣は浴衣のような形状で、袖が少し広めに作られています。この袖の中には、花告げ鳥の好む蜜が少しだけ仕込まれており、袖を振るとその香りに誘われて花告げ鳥が袂に潜り込んでくるんですよ」
 現物はこちら。そう告げて差し出された衣装は、なる程甘い香りがほんのりと漂っている。
「花告げ鳥は袂の中で一頻り遊んで、蜜を味わった後、お礼に自身の持っている花を袖の中に置いていくそうです」
 それが、花告げ鳥の名の由来。
 どの花を持っているかは、傍目には判らない。また、人見知りで恥ずかしがりやな彼らは、袂の中でしか、花を出そうとしない。
 ゆえにいつからか、花衣を纏う者たちは一つのジンクスを生み出したのだ。
「花告げ鳥の残した花は、大切な人との未来を占ってくれる、と」
 詳しくなくとも、花言葉という単語を知らない者はそう居まい。
 良くも悪くも花の持つ幾つもの意味を、拾って。幸福な未来を願うのだそうだ。
「花言葉に関しては、公園の中に幾つか花売りの露店があるので、そちらで聞いても良いと思いますよ。花告げ鳥がしまい込んでいるのは茎から上の花弁の部分だけなので、露店ではちゃんとした花と交換もして貰えますし」
 交換は無料。花弁そのものを押し花にする事も出来るが、そちらには材料費として50Jrがかかるそう。
 どちらにしても、記念になる事は間違いないと、コンダクターは柔らかく微笑んだ。

解説

入園料は無料。花衣の貸し出しも無料です。
花売りの露店で売っている花は50Jrより、束の大きさに応じて様々。
200Jrくらいで大輪の花束になります。

花告げ鳥の残した花弁と交換する場合は無料(一輪のみ)
押し花にする場合は50Jrかかります。
押し花のアイテム発行等はできませんので予めご了承ください。

なお、花告げ鳥にはお手を触れないようにお願いします。
彼らは人を恐れませんが、人の熱は、あつすぎます。

ゲームマスターより

男の子だって占い楽しめばいいじゃない。

花告げ鳥の残す花は、指定して頂いても構いません。
その場合はウィッシュプランの冒頭に記載して頂く事をお勧めします。
お任せの場合は記入は不要です。

花衣は着なくても良いですが、着た方が楽しいと思います。
桜色してますが、ちゃんと男物ですよ!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セイヤ・ツァーリス(エリクシア)

  あっ、綺麗な服……えと、着てもいい、です、か?
甘い匂いでなんか幸せ、です。

すこし経ったらお弁当をみんなで食べたいなあ。
鳥さんはどうしてお花を隠して持ってるんだろう……?
だれかにプレゼントするのかな?
お礼の為にもってるってわけではないもんね……。
なんかとっても不思議。
ぼくのところに来てくれる鳥さんはどんなお花をもってきてくれるんだろ。

どんなお花か教えてもらって、出来たら花弁のまま押し花にできたらなって思う、です。
だって花弁のまま持っていれば春告げ鳥さんが持ってきたものなんだなってすぐにわかるでしょう?

※緊張したりエリクシアや家族以外の年上を前にすると「~、です」というぎこちない敬語になります。


アルヴィン=ハーヴェイ(リディオ=ファヴァレット)
  あ、花衣の貸し出しは無料なんだね。
じゃあ、折角だし着ちゃおうかな。桜色してるけど、ちゃんと男物だし。
んー、袖を振ってみれば良いんだよねぇ。どんな感じになるのかちょっと想像つかないけど。

大切な人との未来を占ってくれるんだったっけ。
やっぱり、リディとのって感じにはなるよねぇ。
占いは占い…なんだけど、どうせなら花言葉のものが良いよね。
ただ花言葉も一つだけじゃないみたいだし、こういうのは受け取り方次第って事になるのかな。

んー、花弁は押花にして貰おうかなぁ。
そっちの方が記念になりそうな感じがするしね。




神木 悠夜(ヴェルデ・ヴィオーラ)
  [心情]
花、か
ゆっくり見るなんて、いつ振りだ?
今日もセイヤに誘われなければ来る気も無かったが……
感謝、するべきなんだろうな。これは。
……昼食位、作っていくか。
そう言えば、花売りの露店が出ているとか言っていたな。
……ふむ。

[行動]
セイヤ達と行動する
昼食に簡単なサンドイッチとスープ(自作)を持っていく



適当な露店で、霞み草を使って何か花束を作ってくれないかと頼む
小さくて構わないとも
花は帰り際にセイヤに渡す
「こ、これは、その……なんだ、ほら。今日はお前が、誘ってくれただろう。だから、……っ。
……ええい!察しろ!要らなかったら捨てろ!それだけだ!」

(花衣(=浴衣)は着なれない様子で終始そわそわしている)


信城いつき(レーゲン)
  花:指定なし
花衣:いつきのみ着用
購入:花一輪+押し花2つ(計150Jr)

何の花が来るか楽しみだな
いい意味だといいけど
もし悪い意味でも、反省して改善すればいい
最終的に仲良くできれば結果オーライさ

花もらったら花言葉を聞いて、記念に押し花にしよう

レーゲンもやればよかったのに……そうだ!
すぐ戻るから少し待ってて
(少し離れた露店で、こっそり花一輪購入
茎を切り花弁だけにする)

レーゲンに目をつぶらせ、購入した花弁を口にくわえ
レーゲンの手のひらにぽとりと落とす

「お前にも来たみたいだな、花告げ鳥」

は、花言葉?そ、それは知らなくていい!
押し花にするのはいいけど、これの花言葉は聞くの禁止!



ノクト・フィーリ(ミティス・クロノクロア)
  いっぱいお花が咲いてて綺麗だね。

せっかくだし、花衣着てみたいなあ。
ミティスも着るかな?お揃いの、着てくれるといいな。

ぼくはお花のことはあまり詳しくないけど、綺麗に咲いてるのを見るのはやっぱり素敵だよね。
何のお花かミティスに聞いてみようかな?

花告げ鳥がくれたお花はとっておきたいかな。
記念に持っておきたいなって。交換してもいいんだけどねっ。



●白は仄かに甘く
 あぁ、鳥だ。青空を横切るふっくらとした影に、ミティス・クロノクロアは綻んだ笑みを見せる。
 そんな彼の視線に気が付いたのか、ノクト・フィーリも、また、空を見上げる。
 青だけの視界は、澄み切っていて。ふと視線を下ろせば、咲き誇る春の花々。
「いっぱいお花が咲いてて、綺麗だね」
 感嘆の声を紡ぐノクトにミティスが頷いたところで、甘い香りが、ふわり。
「お待たせ致しました」
 公園の係員が運んでくれたお揃いの花衣に袖を通せば、甘い香りが近くなった。
 袖口からの香りに幸せな心地を抱いて。ノクトは、くるり、くるり、踊るように回りながら、花々の間に整備された道を進む。
「花告げ鳥、来てくれるかな」
 呼ぶように、柔らかに袖を振るノクトの後を、緩やかな足取りで追いながら、ミティスもまた、ふうわりと袖を揺すってみた。
「もっと、くるくる回りながらしなきゃ」
「こう、かな」
 両手を広げて、綺麗なターン。花衣の裾が翻るさまに、わぁ、と小さく拍手したノクトの、その肩に、ちょこん、とささやかな重み。
 ぱ、と顔を綻ばせたノクトがそっと見やれば、小首を傾げた花告げ鳥と視線が合った。
「どうぞ、蜜を飲んで行って」
 触れる代わりに袖口を広げ、誘いこんでやれば。小鳥はするりと潜りこみ、お礼を告げるように小さく鳴いた。
 袖の中を覗き込みたい衝動も、あるけれど。我慢をして顔を上げれば、ミティスの掲げた袖の上にも、花告げ鳥を見つけた。
 止まり木のようにしなやかな腕を、とん、とん、行ったり来たりして、最後には袖口へもぐりこんでいくのを見届けたミティスは、見つめてくるノクトと視線を合わせて、微笑んだ。
「私の所にも、きましたね」
「うん、どんな花を置いて行ってくれるんだろう」
 ちっとも重みを感じない袖を、大切そうに掲げながら、花告げ鳥の食事が済むまで、のんびりと春の花を楽しんだ。
「ねぇ、ミティス、この花は?」
「鈴蘭、かな……」
「確かに鈴みたいだね。あ、チューリップなら、ぼくにも判る」
「色んな種類のチューリップがあるね」
 花にはあんまり詳しくないけれど、咲いているのを見るのは、綺麗で好きだ。
 ミティスに尋ねながら眺め歩いていると、不意に、ピチチ、と鳴く声がして、二羽の花告げ鳥が揃ってそれぞれの袖口から飛び出していった。
 戯れるように飛んでいく彼らが、踊っているようだと思いながら、二人は顔を見合わせて、そっと袖の中を覗いた。
 指先に触れる花弁一枚。拾い上げてみたそれは、白くて柔らかで、どことなく魚の尾鰭のような形。
「ミティス、これは……」
「え、と……多分、躑躅、かな……?」
 きょろり。巡らせたミティスの視線が、丁度近くに咲いていた白い躑躅を見つける。見比べてみると、確かにそっくりだった。
「ノクト、花は交換してくる?」
 尋ねるミティスに、ノクトは花びらの輪郭を指でなぞりながら、んー、と小首を傾げる。
「このまま、持って帰ろうかな」
 光に透ける白を見上げた瞳が、柔らかに笑む。
「大好きなミティスとの、記念に」
 恋情と、好意。
 その違いの判っていない少年が掲げた花弁が持つ意味は――『初恋』。
 理解をする日が来るかもしれない。それはきっと、そんな思し召し。

●深い深い内側に
 信城いつきは桜色の袖を振り、上機嫌で花の並ぶ道を歩いていた。
 花告げ鳥が高い位置を横切る度、はっとしたように見上げ、ふんわり、袖を振ってみるが、彼らはくるりと旋回するだけで、なかなか袂に遊びに来てはくれない。けれど。
「何の花が来るのか楽しみだな」
 にこやかに手を振り返しながらのいつきの言葉に、少し後ろからついて歩いていたレーゲンは同意を示して頷きつつ、ぽつり、呟く。
「折角だから、悪い意味が来ないといいね」
「んー、そうだな、いい意味だといいけど……」
 また、一羽。頭上を横切り、旋回するのを見送ったいつきは、朗らかな笑顔でレーゲンを振り返った。
「もし悪い意味でも、反省して改善すればいい。最終的に仲良くできれば結果オーライさ」
 明るく、無邪気で、前向きな笑顔。ほんの少しだけ目を丸くしたレーゲンは、けれどすぐに相好を崩して、いつきを微笑ましげに見つめた。
「いつも前向きだね、いつきは」
 柔らかで、素直な賛辞に、いつきもまた、素直に得意げな顔をした。
 と。そんな彼らの頭上へ、一羽の花告げ鳥が飛んできた。その鳥は先ほどからの彼らとは違って、いつきの周りをくるくる飛び回っている。
 はっとしたように袖を掲げ、迎え入れるように広げれば、するり。待ちかねたように飛び込んできた。
 ぱぁ、と表情を明るくしたいつきは、花告げ鳥の潜りこんだ袂をレーゲンへと示すように振りかけて、はっとしたように制止する。
 驚かせてはいけない、と、微動だにしなくなったいつきに、レーゲンは何を言うでもなくただただ優しい視線を向けていた。
 それは慈しみにもよく似ていて。
 それ以上に、懐かしむような装いを湛えていて――。
「あ……」
 じぃっと袖を掲げた姿勢で佇んでいたいつきの鼻先へ、袂から飛び出した花告げ鳥がちょこんと体当たり。
 それはまるで口付けのようで、鼻先を擦りながらくすくすと笑ったいつきは、そっと袖の中から花びらを取り出した。
「……花びら……?」
 手に触れたのは、花告げ鳥の羽毛と似た印象を持った、ふっくらとした毛玉のような黄色い花。
 何の花か、二人で顔を見合わせて考えたけれど、判らなくて。
 いつきはレーゲンを待機させると、花売りの露店へと駆け込んだ。
「それは、アカシアの花ですね」
 指示されたのは、少し高い位置。
 枝先だけの木に、手の中のそれと同じ、黄色の球がたわわに咲いていた。
「は、花言葉、は……?」
 交換を申し出て、貰った枝から一つだけ花を取り、押し花セットを受け取りながら、小さな声で尋ねたいつきに、店員はにこりと微笑んだ。
 その花の持つ意味は、『友情』、『優雅』と、もう一つ。
 悪い意味には聞こえないそれらに、ふんふんと頷きながら押し花をしあげて。
「レーゲンもやれば良かったのに……そうだ!」
 タッ、と駆け出しレーゲンの元へ戻ったいつきは、花を後ろ手に隠しながら、彼に眼を瞑らせた。
 きょとんとした顔をしながらも素直に応じたレーゲンの手を取り、手のひらを向けさせると、いつきは隠していたアカシアをまた一つ取り、口に咥えてレーゲンの手の上にポトリと落とした。
 もういいよ、と。許しの出たレーゲンは、手の中のそれを見つめて、また、きょとんとした。
「お前にも来たみたいだな、花告げ鳥」
 得意満面の笑顔と、手の中の毬花。見比べて、ふふっ、と小さく噴き出した。
「これ、いつきがくれたの?」
「花告げ鳥だって!」
「でも、彼らは人前に出てくるかな」
「目瞑ってる間に来たんだよ!」
「ふぅん……それで、花言葉、は?」
 バレバレなのに、自分じゃないとムキになるいつきを、可愛いなとくすくす見つめ、何気なく尋ねれば。
「それは知らなくていい!」
 聞くの禁止、とまで言われてしまった。
 悪い意味ではないのだろう。何となく、それだけを察し、いつき同様押し花にした。
 揃いの花を見比べて、いつきは店員に教わった花言葉を思い起こす。
(友情、優雅……)
 それから、秘密の愛――。

●君となら
 ふわふわ、ひらり。桜色の纏をたなびかせる来園者の姿を見て、セイヤ・ツァーリスはきらきらと瞳を輝かせて、神木 悠夜は若干難しい顔をした。
「綺麗な服……えと、着てもいい、です、か?」
「ええ、貸し出しは無料のようですから」
「僕は要らな……」
「あら、綺麗で甘くて素敵。ゆーちゃんも着ましょうよ」
 そわそわと窺うセイヤに、パートナーのエリクシアは穏やかに微笑んで係員から花衣を受け取り、手渡す。
 全く対照的な顔と拒否を示した悠夜だが、こちらもパートナーであるヴェルデ・ヴィオーラにさらっと押し切られた。
 ちゃっかりお揃いを着込んだヴィオーラに、悠夜の眉間のしわはますます深くなる。
 が。嬉しそうに微笑むセイヤの表情を見つけると、文句も憤りも、すとん、と落ち着いてしまった。
 花をゆっくりと眺めることなど、もういつ振りかも思い出せないほど久しいことだ。それもこれもオーガへの復讐心に気持ちが完全に向いてしまったせい、だろう。
 皆と一緒に、と。そうやってセイヤが声を掛けてくれなければ、こんな場所へ来ることもなかったのだ。
(感謝、するべきなんだろうな……)
 それを思うゆえだろうか。悠夜のぴりぴりとした雰囲気もきつい文句も半減していたわけだが、本人、あまり自覚がないようで。にこにこと見つめているヴィオーラだけが、その変化を楽しむように感じていた。
「花告げ鳥の来訪も楽しみですが、一先ず、あちらの広場でお昼にしませんか?」
 バスケットを掲げて告げたエリクシアに、異を唱える者はおらず。揃って広場へと移動すると、小さな輪を作って腰を下ろした。
「エリク、お弁当、ありがとう。悠夜さんも……食べて下さい、ね」
 賑やかなバスケットを広げ、勧められて、持参していたサンドイッチとスープを取り出すタイミングを見失っていた悠夜に、つつつ、ヴィオーラがにじり寄ると。
「ゆーちゃんの手作りサンドイッチ、たべたぁい」
 あーん、とねだるヴィオーラの台詞に、セイヤもぱちり、大きな瞳を瞬かせて。
「悠夜さんの、手作り、です……? わ、ぼくも、食べたいです」
 幼い笑みにも見つめられれば、う、と唸った悠夜は、観念したように鞄ごと差し出した。
「か、勝手に摘まめばいいだろ!」
「ありがとうございます。こちらもぜひ、お好きに摘まんでくださいね」
 賑やかに、和気藹々と。味の感想や周囲の花の事を離しながら、のんびりとした昼食の時間を過ごす一行。
 美味しい物に舌鼓を打ちながら、時折ふわり、邪魔にならない程度に香る花衣の蜜の香りに、セイヤは袖口に一度花を寄せて、不思議そうに首を傾げた。
「そういえば、鳥さんはどうしてお花を隠し持ってるんだろう……?」
 ぽつり、呟いたセイヤに、空っぽのバスケットを片付けながら、エリクシアは同じ方向に首を傾げる。
 こうして花衣を纏った者の袂へもぐりこみ、
「何故、でしょうね」
「だれかにプレゼントするのかな?」
「あら、そうだったらとっても素敵ね」
 鳥同士で渡し合うのか。はたまた、別の何かに贈るためか。想像を膨らませるのも楽しい事で。弾む会話を聞きながら、悠夜はちらり、目に留まった露店を、見やる。
(プレゼント、か……)
 思案にチラリと流した視線を、一度俯くように落として、それから、一つ頷いて立ち上がる。
 普段は下に来ることの多い悠夜の顔を見上げながら、どうしたのというように小首を傾げたヴィオーラに、じとりと視線を向ける。
「別に今回は作戦を立てるわけでもないんだからお前の好きに行動すればいいんだからな。だから、わざわざついてくる必要もないんだからな」
 要するについてくるなという事らしい。肩を竦めてくすくすと笑い、見送りにひらりと手を振ったヴィオーラの指先に、ちょこん、とふくよかな感触。
「あら」
 指先を小突いたのは花告げ鳥。掲げられたヴィオーラの袖の中に、そのまま身軽に入り込むのを見届けて、セイヤの瞳も再びきらきらと輝いた。
「わ、ヴィオーラさんの所に、さっそくきた、ですね……」
 そわそわとしだしたセイヤの様子に、エリクシアは立ち上がり、そっと手を差し伸べる。
「少し歩きましょうか、セイヤ様」
 とくん。と。エリクシアを見上げたセイヤの胸が、ひとつ、強い鼓動を打った。
「う、うん……」
 甘い香りを携えながらおずおずと手を伸ばしたセイヤは、とく、とく。繰り返す鼓動に、きゅぅ、と胸元を握り締める。
 セイヤは、自覚していた。エリクシアと二人でいると、発作が起きるのを。
 何をしていなくても、ドキドキが止まらない、びょうき。
 心配させたくないから、エリクシアには告げていないこの症状。苦しさに似た心地に、繋ぐ手がひどく熱く、感じたけれど。
 発作を収めてくれたのは、小さな来訪者だった。
 俯いたセイヤの頭に飛び乗って、様子を窺うようにちょこちょこと歩き始めた花告げ鳥に促されて顔を上げた瞬間、発作は嘘のように収まっていた。
 立ち止まったセイヤに合わせて歩みを止めたエリクシアが、するり、手を離した。
「セイヤ様、袖を」
「あ、うん、そうだね」
 ふわり、ふわり。両手をそっと揺らせば、先ほどエリクシアと繋いでいた方の袖へ飛び込んで行った。
「ぼくのところにも、きたね」
 そうして残された花びらを、エリクシアと共に喜んで。揃って露店へと持って行けば。
「サンザシ、ですね。こんな花ですよ」
 丸みを帯びた花弁が五枚。白いそれらは寄り集まって、ふんわりと丸い形を作っていた。
「花言葉は、『ただ一つの恋』、『成功を待つ』です」
 ただ一つの、恋。
 聞き留めたセイヤは、また胸が脈打ったのを感じたけれど。
「素敵な花言葉ですね、セイヤ様」
 微笑むエリクシアを見上げればまた、それが大きくなったのだから。
 やっぱりこれは、びょうきなのだと。
 思いながら、だけれど不思議と、先ほどのような苦しさが無い事だけは、気が付いていた。

 一人花売りの露店へと向かった悠夜は、店員に頼んで霞草を含んだ小さな花束を作って貰っていた。
 片手に収まる、小振りの花束。それでも春の花を色取り取りにあしらったそれは、華やかだった。
 桜色の纏と、花に囲まれた空間、そして花束。接する機会の乏しかったものに一度に囲まれて、そわそわと落ち着かない。
 セイヤへの感謝を込めた、贈り物。隠すように持ち、戻ろうとした、その行く手を。遮るように、花告げ鳥が滑り降りてきた。
 驚きに思わず立ち止まった悠夜の袖へ、狙い済ましたように飛び込んだのを、まじまじと見つめてから、そのまま歩を止める。
 暫しの後、花告げ鳥は満足を伴った様子で、袖の中から抜け出して行った。
 見送り、袖の中へ手を入れて。摘み上げたそれを、先ほど花束を購入した露店へ持ち込んだ。
「これは、クロッカスですね」
 紫色のそれが持つ意味は。
「愛したことを後悔する」
 淡々と告げられたその言葉に、悠夜はぴくりとだけ表情を変えてから、背を向ける。
 交換や押し花は、申し出る気にはなれなかった。
 足早に露店を離れ、けれど元の位置に戻る事もせず、少し離れた位置へ。
「僕は奴等を殺せればそれでいい、それでいいんだ」
 小さな、小さな、声。
 繰り返すのは、己への呪文。
「愛するなんてするもんか、してたまるか……!」
 だから、後悔なんてしない。
 所詮、他愛もない遊び事だと。悠夜は己に、言い聞かせていた。

 それぞれに歩き出した面々は、未だ帰らず。花告げ鳥はとうに袖を離れ、花びらを一枚残していた。
 自由に行動すればいい、と。パートナーは告げたのだから。大人しく帰りを待つことはせず、ヴィオーラもまた歩き出した。
 目指したのは、花売りの露店。花びらを差し出せば、店員もすぐに察して、綻んだ顔で告げた。
「マーガレット。花言葉は『真実の愛』ですね」
「あぁらやだ、ロマンチックねぇ♪」
 きゃらり、楽しげに笑えば、店員は微笑ましげな顔で見つめてくる。どうぞお幸せに。そう告げているような、笑顔。
 にこやかに礼を告げて、花びらをくるり、指の中で回して。
「――ま、真実なんてちゃんちゃら可笑しいんだけど」
 ふわり。風に飛ばして、庭園の中へと、返した。

●対の言葉
「リディも、着てみない?」
 ふんわりとした桜色の纏に袖を通して、アルヴィン=ハーヴェイは何を言うでもなく見つめていたパートナー、リディオ=ファヴァレットを振り返り問うた。
 折角だし、記念になるからと。控えめに告げるアルヴィンの言葉に、思案するような仕草を見せたリディオは不意に微笑んで。
「アルは僕に似合うと思って勧めてくれているんだよね」
「それは、勿論。桜色だけど、ちゃんと男物だっていうし……それに何て言っても、お揃いだし」
「ああ、それは素晴らしい誘い文句だね」
 うんうん、と楽しげに頷いて花衣を受け取ったリディオがそれを纏う姿を見て、あぁ、やっぱり似合うなぁ、と。何を着ても様になるパートナーをまじまじと見つめていたが、す、と手のひらを差し出されて、ぱちくりと瞳を瞬かせた。
「エスコートは、要り様かな?」
 照れくさそうに頬を掻いたアルヴィンは、一度はその手に手を重ねたけれど、そっと下げさせて、代わりにふわりと袖を振った。
「今日は、大丈夫。花告げ鳥を迎えなきゃいけないしね」
 ふわり、甘い香りが過るのを、心地よさげな呼吸で感じ取って。残念、と冗談めかした顔で笑ったリディオは、ならばと並んで歩きだした。
 眺め見るのも楽しい花の道。のんびりと進んでいると、花の隙間からひょこりと顔を出した鳥が一羽、するりとアルヴィンの袖へ飛び込んだ。
「わ、びっくりした……」
 袂の中で小さな鳥があちらこちらと遊んでいるのを袖ごしに見守りながら、どんな花を置いて行ってくれるのだろうとアルヴィンは思いを馳せる。
「リディとの未来を占ってくれるんだから……やっぱり、いい意味の方が嬉しいなぁ」
 袖を見つめながらの台詞には、願いのようなものが込められているような気がして。リディオはちらりとアルヴィンの表情を確かめてから、「例えば」と独り言のように零す。
「悪い意味、だったら、どうするんだい?」
「んー……そうだねぇ……」
 ぼんやり、アルヴィンは思案する。
 占いに深い意味を求めてはいない。けれど、もし。リディオの言ったような、あからさまに悪い意味を持つ花だったと、したら。
「リディと一緒なら何とかなるんじゃないかなぁって、気がしてくるんだよね」
 おかしいかな。そう尋ねるような儚い微笑が、小首を傾げて見つめてくるのを、見つめ返して。
 リディオもまた、柔らかに微笑んだ。
「そういうものかもしれないね」
 と。もう出てっても良い? と言いたげな所作で袂の影から顔を覗かせていた花告げ鳥が、ぱっと再び花の群れへと戻っていく。
 急に現れて急に去って行った彼らのふっくら感はあまり堪能できなかったが、袖の中にはしっかりと花びらが残されていた。
 拾い上げて、眺めてみても。判別できるかというと、そうでもない。
「リディ、詳しそうに見えるって言ったら、怒る?」
「怒らないけど、そこまで詳しくもないとも言うよ」
 眺めて居ても埒が明かない。押し花にするつもりでもあったため、大人しく花売りの露店へと向かい尋ねたところ。
「エンドウ、ですね」
 じぃっと花弁を見つめていた店員が、うん、と一つ頷いて答えた。
「エンドウ、って……」
「はい、豆の、エンドウです」
 こくり、きっぱり。頷いた店員は、ちなみに、と続ける。
「花言葉は、『いつまでも続く楽しみ』と『永遠の悲しみ』ですね」
 楽しみ、と、悲しみ。
 それぞれ永遠を冠していながら、相反する対の言葉に、アルヴィンは戸惑ったように眉を寄せたが、暫しその表情で押し黙った後、ふと、リディオを見上げた。
「何とかなるよ」
 例えばどれだけ悲しくても。乗り越えていける予感がしている。
 例えば楽しい時間なら。いつまでもと願い努力できる自信がある。
「リディと、一緒なら」
 繰り返したアルヴィンを、見つめて、見つめて。
 ふ、と。リディオはふうわり、甘い香りをたなびかせながら微笑んだ。
「楽しいことが多い日々を、過ごせたなら」
 それはきっと、幸せな事だろうね。囁くように告げた彼のその微笑に、安堵にも似た表情ではにかんでから。アルヴィンはエンドウの花で押し花を作り、リディオに手渡した。
「我儘に付き合ってくれて、ありがとう」
「どういたしましてと、言っておくべきかな」
 茶化したような台詞を返しながらも、嬉しそうに見つめた、リディオの袖の中に。
 ひっそり、残された花びらが一枚。
 濃い紫の小さな花弁は、スミレの花。
 『小さな愛』と『小さな幸せ』が、そこには確かに存在していた。

 ピチチ。小さな声で鳴きながら、花告げ鳥が円を描く。
 訪れ、去る者全てを祝福するように。
 彼らに須らく、良き縁のありますように――。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


( イラストレーター:  )


( イラストレーター: 越智さゆり  )


エピソード情報

マスター 錘里
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 04月16日
出発日 04月23日 00:00
予定納品日 05月03日

参加者

会議室

  • [2]ノクト・フィーリ

    2014/04/20-22:28 

    ノクトだよー、よろしくねっ。

    お花はあんまりくわしくないけど、綺麗なのを見るのはたのしいよね。

  • [1]セイヤ・ツァーリス

    2014/04/19-17:46 

    ふぁ、せ、セイヤです。
    よろしくおねがいします、です。

    ・・・・・・鳥さんかぁ。
    どんなお花を置いて行ってくれるんだろ・・・・・・?


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