真心の形も四神相応也(蒼色クレヨン マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

●乙女たち奮闘中

「此方、掃き掃除終わったわ」
「お守りの補充ってどこでしたっけ!?」
「迷子発見ー!保護者の方の捜索に行ってきまーすっ」

 タブロスに近い中で1、2に並ぶ大きな神社の境内。
どこか、普段より巫女さんが多く感じる。
参拝客の中には『あれ……もしかしてウィンクルムじゃ??』と気づく者もいるだろう。

 その理由は本部の掲示板に貼られたポスターのようである。
紅葉が見頃となり参拝客が増えるのに加え、年納めと新年に向けての準備も重なることから、この神社は一際忙しい時期となる。
オーガの驚異も未だに拭えない今年は、特に祓い行の方の依頼も多くなりとうとう人手が足りなくなった。
神社の神主たちの間にふとよぎる。
それはいつの間にか神社間で密やかに広まった、知る人ぞ知る、知らない人は全く耳に入らない、噂話……
『神社に危機が訪れた時、ウィンクルムが助けてくれる』

 A.R.O.A.本部職員たちの頭も密かに悩ませるその噂を頼りに、こうして任意という条件付きで
「急募! 1日巫女さんになりませんか?」な内容のポスターが貼り出されることとなったのであった。

●色男たち見守り中

 募集はあくまで女性だけ、ということで暇となってしまった精霊たち。
とはいえ、人も多くナニがまぎれてやって来るか分からない。
神人の身を護る為には放っておくわけにもいかず、渋々力仕事という雑用を手伝う者、
神人の仕事が終わるまで神社を散策している者、控え室で昼寝を決め込む者など、各々過ごす精霊たちの姿があった。

 そんな精霊たちの背後に、突如ぬっと現れる影があり。

「旦那、だんな。お耳より情報がありますぜ☆」

 ……どこの越後屋だ、な登場をしたのはこの神社の従業員。
中には怪訝な表情すら浮かべる精霊へ、全く動じることなく従業員なる男性は小声で伝えきた。

「頑張って働いてる神人さんへ、労いのプレゼントなんていかがです? ここのお守り石は良く効くって評判なんで」

 仕事が終わった後に、紅葉を見ながらサプライズで贈り物したら女性は嬉しいもんですぜ、と
商売根性逞しい提案を精霊たちにのみ言って回っているらしい。
ウキウキと次の宣伝へと向かうその背中を遠い目で見送りながら、しかして脳裏には
パートナーの喜ぶ顔がすでに浮かび始めている精霊もいたかもしれない ――。

解説

●神社のお手伝い切り盛り。その後パートナー同士でまったりお疲れ様会☆

前半:主に神人さんたち主体な、神社のお手伝い風景となります。
   境内の掃き掃除、参拝客ご案内、売店売り子など、神社でありそうなお仕事なら
   お好きに設定して下さってOK。
   他参加者様も一緒に働いているので、絡み合いも大歓迎☆
 ※プランに無くとも、アドリブ大好きなどこかのGMが勝手に絡ませる可能性がありますので、
  他の方と「絡みNG」な方はアクションプラン冒頭に「×」の記載だけお願い致します。
  精霊さんはお手伝いしていても、ぼーっと時間を潰していても、巫女さん姿に見蕩れていても可。

後半:精霊さんが男を見せrげふん、労う描写主体。各ウィンクルム個々描写予定。
   神人さんと合流・会話、な流れであれば、性格的に労うタイプでない精霊さんなプランでも勿論構いません。
   境内には至る処に紅葉を見れるベンチ有り。

●巫女衣装レンタル代<200Jr>一律消費。

◆購入任意

お守り石(巾着付)<1個200Jr>
・青龍:商売繁盛、出世運
・朱雀:恋愛運、家庭円満運
・白虎:金運、子宝
・玄武:息災長寿、子孫繁栄
・麒麟:平和、人間関係運

焼き芋<1コ100Jr>

※複数個購入される場合、プランに「何を・何個」購入したか、分かるようご記載があると助かります。
 購入物は当エピ内のみの扱いとなります。

ゲームマスターより

神社大好き! 巫女さんもっと大好き! 四神とか大好物!

過去エピからとっくにバレてる可能性ありな蒼色クレヨンでございます。いつもお世話になっております!
一生懸命働く女の子をさり気なく気遣うイケメンが見たい、と
衝動的に出してしまいましたいつも欲望まっしぐらでゴメンナサイ。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

手屋 笹(カガヤ・アクショア)

  服装:巫女衣装レンタル
(白衣・緋袴・足袋・髪は首の後ろで和紙で一まとめにします)

巫女の仕事…!
この神社の巫女さんではないので舞う事は出来無さそうですが
精一杯勤めさせて頂きます!
参拝される方のご案内をしましょう。
社の配置を覚えたり、
この神社での参拝の約束事などを確認・記憶しておいて
しっかりご案内して行きます!

終わりましたね…心地よい疲れです…
お芋ですか、ありがとうございます。(受け取り)

楽しかった?
そうですね、やはり実家を思い出すようで
楽しいというより嬉しかったのかもしれません。

また…カガヤが何だか寂しそうな顔をしていますね…
(わたくしのせい…?なのでしょうか…)
石?ありがとうございます。
…え?



ひろの(ルシエロ=ザガン)
  境内の掃き掃除、にする。
大きい神社だから、結構、掃く場所広い。
落ち葉もいっぱいだから大変そう。
参拝に来た人の迷惑にならないように、静かに。
ごみが舞い上がらないように、丁寧に掃く。
集めたごみは、袋に入れたらいいのかな。

人、多いな。(周囲を伺う
慣れたと思ったけど、やっぱり苦手みたい。(人見知り発動中

「ルシェ」(見つけて近寄る
(頷き、首を傾げる
「ルシェは、何してたの?」
(気恥ずかしさに目を逸らす

紅葉きれい。
(手を差し出す
手、あったかい。
「いいの?」(瞬きをし、見上げる
(本当にいいのか躊躇し、軽く握り込む
「……ありがとう」

ルシェに、貰ってばっかりだ。(気持ちと行動含め
私も、何かあげたい。返したい、な。



ユラ(ハイネ・ハリス)
  巫女さんいいよねぇ…女の子なら一度は憧れるよ~

私は売店のお手伝いをするよ
神社の売店って意外と忙しいんだよねぇ
お守りもお札も結構種類あるなぁ…間違えないようにしないと
ハイネさんも手伝ってくれてもいいのに…あの人のやる気スイッチどこにあるんだろ?
お仕事終わったら、私もお守り石買おうかな

控室にいないから、帰ったかと思ったよ
ハイネさん、サプライズの意味わかってる?
ちなみに両方欲しい、焼き芋は半分こ
麒麟かぁ…ハイネさんらしいね
えぇぇご利益知らずに買ったの?
まぁ考えようによってはそうかもしれないけど…
それ神社の人に言わないようにしてね

お参りしてから帰ろう
神様は見た目で選ばないから大丈夫だよ

アドリブ絡み歓迎


スティレッタ・オンブラ(バルダー・アーテル)
  誰がけばけばしい年増よ
裏方でもやってなさいって?
失礼ね
化粧を控えればいいだけの話でしょ?それぐらいできるわよ
いつも無精ひげの誰かさんとは違って、TPOは弁える女なの

私は神社の案内やってるわ
忙しそうじゃない
…巫女目当てに不逞な輩って来るのかしら?
まあそうなったら私がそれ相応に対処するわよ
…って、クロスケ。そこにいるなら私の代わりに対処しなさいな
折角のその威圧感が売りになる日が来たじゃない

…で、紅葉の下でプレゼントなんてどういう風の吹き回し?

ふぅん
元軍人で今は傭兵やってる貴方が平和を望んだら、仕事が無くなっちゃうんじゃない?

所でクロスケ、白虎って子宝のお守りなんですって
やだー。プロポーズかしら?



蓮城 重音(薬袋 貴槻)
  境内の掃き掃除
始める前に仲間に挨拶
「さて、頑張りましょうか」
仲間の様子を見て手分けするように
黙々と行うけど、迷ってる参拝者がいたら案内してる仲間へ誘導
熱心な参拝者を見て少し罪悪感
(オーガを倒す方がウィンクルムとして価値があるのよね、きっと……でも、せめてタカツキ君がもう少し大きくなるまで、危ない事はさせたくないな)

終わったら仲間に挨拶
貴槻とベンチに座って少し休憩
「お疲れ様。綺麗ね、こんなゆっくり紅葉を見るって久しぶりだわ」
焼き芋食べて癒されてたら貰い物
少し驚く
(タカツキ君の方がウィンクルムとして覚悟してるわね)
微笑んで
「ええ、そうね。ありがとう」
(うん、タカツキ君を守れるように、強くなろう)



●お勤め模様

「蓮城 重音と申します。本日はどうぞ宜しくお願い致しますね」
「薬袋 貴槻だ。ガキだけどこれでも精霊だ、力ならあるぜ。荷物運びとか力仕事に使ってくれ」

 恭しい挨拶をきっかけに、他ウィンクルムたちも微笑ましく自己紹介を交わしてから
女性陣たちは着替えを済ませた順に境内へと姿を見せる。

「舞う事は出来なそうですが精一杯勤めさせて頂きます!」
「笹さんはご経験者、というか本職さんなのかな? 巫女さんいいよねぇ……女の子なら一度は憧れるよ~」
「やりがいもありますよ!」

 白衣、緋袴、足袋を颯爽と着こなし、慣れた手つきで長い髪を和紙で一まとめに括る 手屋 笹 の姿を感心して見つめるユラに
草履を履きながらウキウキと返す笹。
(巫女さん募集見た時の、笹ちゃんの目の輝きようがすごかったもんな……)
出てきた二人の会話が聞こえれば、カガヤ・アクショア は思わず思い起こしたり。

「神社でこの格好は目立つな。ってことで僕は控え室で昼寝してるから、終わったら呼んで」
「全然気にすることないと思うけどなあ」
「カガヤさん、ハイネさんはやる気が無いだけだと思うから気にしないでー」

 え、と振り返るカガヤに、ユラは全くもって自然な笑顔のままである。
そのユラの後ろから、ひろの、重音に続き出てきた スティレッタ・オンブラ の姿を見とめた バルダー・アーテル の第一声に
ピンヒール攻撃が突き刺さることになる。

「お前みたいなケバケバしい年増が巫女か」
「聞こえたわよ。誰がケバケバしい年増よ。失礼ね。化粧を控えればいいだけの話でしょ?」
「っっ……うおぉ……おま、え……何故その格好でそれ履いて……」

 クロスケ用よ、と冗談とも本気ともつかない笑みを向けるスティレッタ。
痛みで悶絶するバルダーを心配そうにおろおろ見つめる貴槻に、頑丈だから大丈夫よ、とスティレッタのウィンクが飛んだ。
(……普通に薄化粧でも美人は美人なんだな……、とも思ったんだが)
もう言わん。
バルダー氏、珍しく浮かんだ褒め言葉を飲み込んだようだ。

 社の配置やこの神社での約束事などをしっかりと頭に入れた笹が、では張り切って行きましょうか、という言葉を合図に
神人たちは各々役割箇所へと赴く。

「大きい神社だから、結構、掃く場所広い……ですね」
「頑張りましょうか。じゃあ、私はあちらを掃除しますね」
「は、い。じゃ、私はこっちへ」

 ひろのと重音は効率よく掃き掃除を進める為、更に場所を分担した。
参拝客の邪魔にならないよう、ルシエロ=ザガンは遠目に参拝道の脇へ移動するひろのを観察していた。

「集めたごみは、袋に入れたらいいのかな……」
(独り言すら真面目だな)

 とはいえ、その独り言も人の多さに萎縮する自分を少しでも誤魔化す、ヒロノなりの対処法なのだろうが ――
箒を動かしながらも何度か周囲を窺うその様子から、おかしそうにルシエロは見つめる。
(それに、こうした景色と共にヒロノを視界に納めるのも悪くはない)
日頃少年のような格好をしているひろのの、ああいう女の装いは似合っていると改めて思う。
初めて巫女姿を見たいつかの時も思ったが、今はその時以上に。
何故似合わないと思い込んでいるんだか、と思案するルシエロ。
洋装より和装の方が合うらしい……さてこれをどう教えてやるべきか。ルシエロ、ひろの観察に精を出していた。

 舞い散って彩り重ねた落ち葉たちを参拝社周辺で黙々と掃除する重音は、時折深刻そうに祈る参拝者を目にしていた。
熱心なその横顔は、オーガの脅威が生み出したのだろうかと。
(オーガを倒す方がウィンクルムとして価値があるのよね、きっと……でも)
せめて、タカツキ君がもう少し大きくなるまで、危ない事はさせたくないな。
複雑な心境を胸に、袴の裾を踏み出させる。
すると重音のその視界に、キョロキョロと首を動かし戸惑った表情の参拝客が目に映った。

「何かお困りですか?」
「あ……その、お守りはどこに売ってるのか分からなくて……」
「ではご案内しますね」

 先程の憂いをすぐに隠して、重音は売店へと参拝客を案内した。

「ユラさん、お守りをご所望の方です。お願いします」
「はーい。お守りでしたら、此方に並んでる物になりますー」

 きりっと表情を作り売り子を担当するユラ。
目当てのお守りを見つけ、お礼を述べて買い物を済ませる参拝客に会釈しながら、何度も棚に並ぶ品を確認する。
(お守りもお札も結構あるなぁ……間違えないようにしないと)
ハイネさんならそんなこと全く気にしなそうだけれど、なんてふと過ぎる。
手伝ってくれてもいいのに……あの人のやる気スイッチどこにあるんだろう?
一旦やり始めれば変なところで妥協しない、というのは先日のお菓子作りで垣間見たけれど。
しかしあれも夢中になっていたわけではないだろう。
いまだ掴めない人物像を浮かべながら、お守り石たちを見つめる。……ご利益にあやかろうかな。
お客が来ない隙間に、自分の分を吟味し始めるユラの姿があった。

(……巫女目当てに不逞な輩って来るのかしら?)
予想以上に忙しそうな境内を見つめ、やるからには仕事としてしっかり取り組むスティレッタは
色々な年齢層の参拝客を案内しながらふと思う。
この、人の多さではありえなくはない。そう考えたら、次第に周囲を見回る役割へと移行していた。
日頃の(主に己への)行いから何をやらかすか分かったもんじゃない、とスティレッタ自身を見張りながら
雑用をてきぱきこなしていたバルダーには、意外な彼女の仕事風景だった。
(やれば出来たのだな)
綺麗な紅葉たちを見上げると、少しくらい労ってやるかという気持ちが湧く。
(終わったらあの女を連れてくか。アイツは赤色、好きだろ)
彩られた彼女の爪の色が思い出された。
たまには他の色でも、と思った時もあったが、実際間近で見たそれは事実彼女にとても似合っていたとは思う。
そんな物思いに耽っていたバルダーに、現実の当人から声が飛んできた。

「クロスケ。そこにいるなら私の代わりに対処しなさいな」
「突然何の話だ」
「可愛い巫女のピンチよ」

 視線で促された方向をバルダーが見ると、先程まで熱心に参拝客を案内していた笹に、若い男性が絡んでいるようだった。
すぐそこに見えている売店であるのに、『一緒に来てよー』とか何とか聞こえれば、バルダーは仕方無さそうに一歩踏み出した。
が、笹の後ろからカガヤが現れたのを見てその歩みを止める。

「おにーさん、困ってるなら俺が連れてってあげるよ」
「え、いや、」
「遠慮しないで、俺なら暇だからすぐ連れてってあげられるからさ!」

 純粋な親切心からの天然行動、見事不逞な輩 撃退。

「折角のその威圧感が売りになる日が来たのに、残念なクロスケねぇ」
「いや今のは彼の役目だろ……」

 そんなやり取りがなされていたとは全くもって知らぬカガヤ、無事案内出来ればどこかホッとした表情を見せる。
笹に声を掛けたい。そばに居たい。が、活き活き仕事する様子を見て、邪魔をしちゃうかなと迷っていた。
そんな時、ちょうど笹が困っていそうな場に遭遇し思い切って声を掛けてみたら、背中にそっと『助かりましたわ』と
小声で笹から伝えられたのだ。
良かった、これくらいなら手伝ってもいいみたい。
本来の言葉の意味は少々違ったであろうが、カガヤにとっては傍で手伝ってもいい、という許可にしか変換されず。
(笹ちゃん笑顔だけど、あれは仕事楽しい!ってタイプのだ……)
なら労うのは後にしよう。
従業員さんに教えられたお守り石、とプラス焼き芋、実はこそっと購入していたりするのだけれど。
今はそれを隠し、カガヤは笹の手伝いに専念するのであった。

(サプライズねぇ……まぁ喜ぶとは思うけど)
(慈愛か……)

 そのお守り石が並ぶ前で、ハイネと貴槻が思案顔をするのは巫女たちが業務を終える頃。
朱雀石に手を伸ばしかけハッとし、一人首を振りながら麒麟へと改める貴槻と、
あの子の場合こっちじゃないかな……と焼き芋と石を交互に見つめるハイネ。
結局、考えるのが面倒くさい、とハイネは両方手にするのだった。

 越後屋もとい従業員、精霊さんたちがお守り石を買ってくれたのを確認し
裏でこっそりガッツポーズしていたとか ――。

●紅の葉にのせる真心

 夕日傾く頃、神主から感謝の言葉と共にお勤め終了の旨を言い渡される。
ぎりぎりの所で人酔いを堪えていたひろのは、安堵の表情を浮かべいち早く着替えを済ませた。

「ルシェ」
「ご苦労だったな」

 杜を出たすぐ近くで、なびく髪を風に委ね立っているルシエロに気づけば、ひろのはいそいそとその傍へと足を運ぶ。
率直な労いの言葉に頷いてから、小首をこてんと傾げ見上げた。
そういえばほとんどルシエロの姿を見なかった気がする。

「ルシェは、何してたの?」
「オマエを眺めていた。巫女姿、似合っていたぞ」

 人の表情を窺うようなこの仕草はもはやクセなのだな……と思うも、無防備に見上げてくる視線は気に入ってもいる。
自分へのみ向けられる仕草ならば尚更だ。
ルシエロは口元を緩めながら、今日ずっと言ってやりたかった事を真っ直ぐに伝えた。
湧いてくる気恥ずかしさをひろのは堪えることは出来ず、ありが、と……と小さく返すに留めては目を逸らした。
そんな様子すら満足そうに見つめてから、ルシエロはつと歩き出す。
ついてこい、と背中と振り返る視線で語るのを見て、ひろのは不思議そうに、それでも素直について行った。

「ほら、ここだ。座ってみろ」
「わ……紅葉きれい」

 促されるままベンチへ腰掛けると、密集した枝々から赤・黄・橙に彩られた景色が正面に広がった。
眺めの良い場所、見つけてくれてたんだ……

「ヒロノ、手を出せ」

 じんわり温かく満たされる感情に浸っていれば、すぐ隣へ座ったルシエロから新たに促される。
今度は何だろう……と、そっと片手を前に出すと大きな手に手首を掴まれ上向きにされた。
(手、あったかい。……え?)
突然温もりを感じたのと同時に、自分の掌に真逆の冷たい感触が乗せられひろのは瞬きをした。

「オマエに買ったんだ。受け取ると良い」
「いいの?」

 それは麒麟が彫られたお守り石。
ひろのが着替えている間に、教えられた石の意味を思い起こし、ルシエロがひろのの為に選んだ物。
何度も石とルシエロを交互に見ては本当にいいのか躊躇した後、ひろのは優しくそれを握り込んだ。

「……ありがとう」
「どういたしまして」

 いつも、さり気なく自分へと与えられる気持ちと行動。
(ルシェに、貰ってばかりだ。私も、何かあげたい。返したい、な……)
僅かに瞳を伏せるひろの。
(また何か考え込んでいるな)
その表情の変化をルシエロは見逃さない。
しかし思考の邪魔をする言葉を放つことはせず、ただ静かに、その柔らかい髪を撫でるのだった。

 ◆ ◆ ◆

 神社の仕事を始めた時と同様、仲間や神主たちに挨拶をしっかり済ませてから
「カサネさん、ちょっと休んでこうぜ」という貴槻に誘われるがまま、今はベンチで紅葉を仰ぐ重音。
先に重音を座らせた貴槻は、買った焼き芋を半分に割って重音の前に差し出した。

「お疲れ様。紅葉凄いな」
「お疲れ様。綺麗ね、ここ。わざわざ見つけてくれたのね、ありがとう」
「いや。折角ならゆっくり見たいと思ってさ、」
「そうね、こんなゆっくり紅葉を見るの久しぶりだわ」

 ゆっくり見たいと思って、『カサネさんと』と続けようとした所でほっこりした言葉に遮られ。
貴槻、一瞬の哀愁を焼き芋と共にもぐりと飲み込んだ。
同じく焼き芋をありがたそうに頬張る重音をチラリと見れば、

「まぁ、これからゆっくり見る機会も増えるさ」

 めげず、今度は徐ろにポケットからお守り石を取り出し、ずい、と重音へと差し出した。
どういう意味? と首を傾げていた重音の、きょとんと向けられたその表情へと貴槻は伝える。

「平和のお守りらしい。オーガ倒して平和作って、それでまた来年も来ようぜ」

 揺るぎない淡い青紫の瞳と出会えば、重音は思う。
―― タカツキ君の方がウィンクルムとして覚悟してるわね。
まだ危険な事からは避けてあげたい、と考えていた自分自身へ苦笑いを浮かべる。

「ええ、そうね。ありがとう」

 うん、タカツキ君を守れるように、強くなろう。
重音はお守り石を受け取り微笑んだ。
貴槻の覚悟に向き合うように。決意をくれた貴槻へ感謝を込めて。
しかしてその本人だが。『オーガ倒して~』は思わず間に入れた照れ隠しで、『来年も~』の方を気持ち強調しメインで伝えたつもりだった。
が、重音の穏やかな微笑みに今は嬉しいより複雑な思いがよぎる。
(うーん、伝わってんのかな……)
傍目には仲良く焼き芋もぐもぐする二人の心。重なるまでまだまだ育み中 ――。

 ◆ ◆ ◆

「あれー? ハイネさんがどこにもいない」
「あら。彼ならさっき鳥居の辺りで見たわよ?」
「本当ですか? スティレッタさんありがとうございますー」

 着替えを終えてユラを笑顔で見送ってから、のんびりその後に続いて境内に出てくるスティレッタ。
何やら向こうで、真顔のまま手招きしているバルダーの姿を目に留め、可笑しそうにそちらへ寄って行く。

「急かさなくてもいいじゃない。女の身支度は時間がかかるものよ」
「そうでは無く」

 ん、といきなり何かを差し出されると条件反射で手を出し、スティレッタはそれを受け取った。
己の掌に置かれた物をよくよく覗き込む。それは白虎のお守り石だった。

「……紅葉の下でプレゼントなんてどういう風の吹き回し?」
「家賃と生活費は折半だからな。つまり……」

 精々金がちゃんと払えるようにだな……、と後半モゴッと淀む口調に、今日の労いの意が汲まれているのをスティレッタは感じ取る。
(真面目で堅物なクロスケらしいわね)
ほんの一瞬、彼女の目が美しく細められたが、残念ながら横を向いたバルダーはその表情を見逃した。
そんな彼女の瞳はあっという間にいつもの調子へと戻る。

「お揃いだったりするのかしら?」
「馬鹿言うな。俺のは違う石だ」
「どうして麒麟の石なの?」

 もう片方の手に握っていた自身の分を、あっさり開いて勝手に覗き込んでくるスティレッタに溜息つきつつ
バルダーは当然とばかりに口にする。

「誰だって平穏な日常を望むさ」
「ふぅん。貴方が平和望んだら、仕事無くなっちゃうんじゃない?」

 特に元軍人で現在傭兵な貴方が、と楽しそうに続ける彼女の口ぶりは大変他人事である。
(お前に関わってからの、俺の心の平穏が深刻だ)
とはバルダー氏の胸の内。

「所でクロスケ、白虎って子宝のお守りでもあるんですって」
「こ、子宝?」
「やだー。プロポーズかしら?」
「……勘弁しろよ。相手は願い下げだ、……って無駄に色目使ってこっちを見るな!」
「色っぽいとは思ってくれたってことね」

 揚げ足を取るように妖艶に微笑まれればバルダー、ぐったり。心の平穏までの道のりは遠い。

「ちなみに麒麟には人間関係が良好になる運もあるらしいわよ。そっちは考えてくれないのかしら?」
「人間関係? お前と良好に?」

 走馬灯のようにこれまでのスティレッタとの関係模様が横切った。
それを省みたバルダーがようやく出した一言は

「……セクハラしなかったら考えてやる」

 境内にスティレッタの楽しそうな笑い声が響いたとか。

◆ ◆ ◆

 スティレッタに教えられた方向へ歩いたユラの目に、ぼーっと紅葉を見上げ立っているハイネの姿が捉えられた。
ユラがやってきたのに気付くも、特にハイネは動こうとはせずあちらが辿り着くのに任せる。

「控え室にいないから、帰ったかと思ったよ」

 紅葉見てたの? とハイネの視線の先を追うユラの言葉への、返答では無い声が、
差し出された両の手と共にハイネの口から紡がれた。

「サプライズで焼き芋とお守り石を買ったけど、どっちが欲しい?」
「……ハイネさん、サプライズの意味わかってる?」
「いらないってこと?」
「いる。ちなみに両方欲しい」
「……ま、そうなるよね」

 マイペースなハイネの言動には多少慣れたユラ。そしてマイペースっぷりなら負けてもいない。
既知な間柄なのもあり、遠慮なく口にされた要望にハイネもあっさり納得する。
渡されたお守り石を一度握り込んでから、焼き芋の方はぽくっと半分に割って。

「はい、ハイネさんの分」
「それはどうも」
「麒麟かぁ……ハイネさんらしいね」
「僕らしい……? ああ、それぞれご利益違うんだ?」
「えぇぇご利益知らずに買ったの?」

 まじまじとお守り石を見つめ呟いたユラに、思いがけないハイネの言葉が飛んできた。
いやよくよく考えればハイネさんってこういう人だった……と改めてから、
売店担当でしっかりと覚えたお守り石の、それぞれの意味をハイネに伝えた。

「適当に選んだんだけど、成程、間違った選択じゃなかったね。人間関係が円滑であれば、商売も繁盛するし、恋愛も上手くいく」

 万能じゃないか、と言い切るハイネに、考えようによってはそうかもしれないけれど……とユラは言い淀む。

「それ神社の人に言わないようにしてね」
「何故?」

 曖昧な笑顔を浮かべるユラに首を傾げるハイネ。
しかして実はその背後で件の従業員が聞いていたり。その顔、『なっ、成程確かに!』と衝撃を受けていたのは内緒の話である。

「よし。お参りしてから帰ろうか」
「お参りするのはいいけど、こんなのが来て吃驚しないかな」
「神様は見た目で選ばないから大丈夫だよ」

 しげしげと自分の神官服を見下ろし告げるハイネに、あっけらかんとユラは伝える。
まぁ神を驚かすのも乙なもんか、とあっさり続けた彼を見上げ。
やっぱり何考えてるか分からない人だなぁ……と実感したユラがいるのだった。

◆ ◆ ◆

「終わりましたね……心地良い疲れです……」
「笹ちゃん、お疲れ様! はい、焼き芋半分こー」
「お芋ですか、ありがとうございます」

 ほぉ、と立ちっぱなしだった足を休めベンチに座る笹の正面、割った面からほくほくと湯気が昇る焼き芋を差し出されると
笹はカガヤに笑顔を向けてからそれを受け取った。

「充実したお仕事の後にこの香ばしい甘さ、癒されますね」
「やっぱり巫女さんするの楽しかった?」
「そうですね、やはり実家を思い出すようで、楽しいというより嬉しかったのかもしれません」
「そ、そっか。うん、笹ちゃんが嬉しそうに仕事してたのは俺も見てたよ」

(実家か……)
もう何度となく、笹の口からその単語が出る度に湧く思いがあるのを、カガヤは感じていた。
カガヤの表情がふと影を帯びる。
―― また……カガヤが何だか寂しそうな顔をしていますね……。私のせい……? なのでしょうか……
当然、カガヤのそんな表情の変化が時折起こることを、笹も気付いていた。
その理由はハッキリとはまだ分からなかったけれど。

(……やっぱり、引き止めたければ言わなきゃ……)
後悔しないように。
笹に、どんなに伝えようとしても届かなかった、あの時テントの中で見た夢で味わったような思いをするのは絶対に嫌だから……。
カガヤは、ベンチに腰掛ける笹のすぐ足元へしゃがみ込む。その顔を覗き込む形で真っ直ぐに見上げた。

「笹ちゃん、お守り石も買ったんだよ。朱雀の石をどうぞ」
「石? ありがとうございます」

 同じ石をカガヤも持っているのに気付いて、少し頬を染めながらも笹は手を伸ばし石を握った。
……確か、朱雀の石の意味は……
そう笹が思い起こそうとした時、囁くような声が笹の耳に届く。

「……笹ちゃん……好き……」

―― ……え?
先程まで見えていた新緑色の瞳が、今は伏せられている。その顔は紅葉色に染まっていて。
笹は硬直したままそんなカガヤを見つめた。
いつかの決心を込めたフローラルの香りが、一瞬笹の鼻をくすぐった気がした。
けれど、あまりに突然告げられた言の葉に心の準備は全く出来ていなくて。
(カガヤ、が、わたくし……を?)
じんわり、じんわり。
カガヤと同じ色に染まる笹の頬。
二人の大切な瞬間を守るように……風にのった紅葉たちが二人の姿を隠すかの如く舞い上がるのだった ――。



依頼結果:成功
MVP
名前:ユラ
呼び名:ユラ、君
  名前:ハイネ・ハリス
呼び名:ハイネさん

 

名前:蓮城 重音
呼び名:カサネさん
  名前:薬袋 貴槻
呼び名:タカツキ君

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 蒼色クレヨン
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 11月05日
出発日 11月11日 00:00
予定納品日 11月21日

参加者

会議室

  • [10]蓮城 重音

    2015/11/10-23:43 

    >笹さん、ユラさん
    ありがとうございます。お手伝いの中で絡めたら嬉しいですね、楽しみです。

    私もプラン提出しました。楽しいお手伝いになりますように。

  • [9]ユラ

    2015/11/10-22:26 

    モ=ジスウ的にこちらからは指定できてないけど、絡みは大歓迎だよ~
    ということで、プラン提出しました。改めて、よろしくお願いしまーす。

  • [8]手屋 笹

    2015/11/10-22:16 

    あいさつが遅れに遅れました(焦

    手屋 笹と精霊のカガヤです。
    よろしくお願いします。

    境内で参拝される方のご案内をしようかと思います。

    あとわたくしは絡みに関してNGはありませんので
    おかまいなくですよ~。

  • [7]蓮城 重音

    2015/11/10-20:15 

    今日出発ですね。
    ところで、私は絡み合い大歓迎な内容にしたんですけど、NGの方っていらっしゃいますか?
    皆さん個別希望でしたら私もそう修正しますので、教えて頂けるとありがたいです。

    さて、張り切ってお手伝いしますよー。

  • [6]蓮城 重音

    2015/11/08-21:33 

    はじめまして、蓮城重音といいます。
    皆さんよろしくお願いしますね。

    ね、年齢は、その、私も目を瞑っていただけるとありがたいかと……(目逸らし)

    そうですね、私も境内の掃き掃除をお手伝いしたいです。
    紅葉が見頃でしたらきっと落ち葉も多いでしょうし。
    ひろのさん、一緒に手分けして頑張りましょうね。

  • あー……これ、人選ミスじゃないk……っぐあ!!
    おい!スティレッタ!!人の爪先を……そのヒールで踏……ったぁー……。うおおおお……。

    ……済まんな。俺はバルダー・アーテル。
    神人はスティレッタ・オンブラ。宜しく頼む。
    巫女の募集、か……。大体巫女ってこういう年増がやるもんじゃあな……

    ………………。

    ……ちょっと爪先の危険を感じたから黙ったが、気にせんでくれ。
    俺はとりあえず雑用やってる。この神人がどんなことやらかすか分かったもんじゃないんでな。

    スティレッタはー……そうだな。
    裏方の事務でもやらせた方が身のたm……イヤナンデモナイ。
    神社の案内でもしてろ。な?

  • [4]ユラ

    2015/11/08-11:19 

    どーも、ユラです。よろしくお願いします。
    巫女姿って憧れだったんだよね~楽しみ♪
    私はそうだなぁ・・・売店のお手伝いでもしようかな.。

  • [3]ユラ

    2015/11/08-11:19 

  • [2]ひろの

    2015/11/08-09:46 

    え、と。
    一日巫女、参加します。ひろのです。
    よろしく、お願いします。(小さくお辞儀

    境内の掃き掃除を、しようと思って、ます。

  • [1]ひろの

    2015/11/08-09:43 


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