プロローグ
ウィンクルムの活躍で、『ジャック・オー・パーク』は少しずつオーガから奪還されている。
オーガから解放されたこの施設では、タルトにデコレーションをほどこして、自分好みの一品を作ることができる。
ベースとなるタルトの土台はすでに焼かれており、ここに好きなフルーツやクリームを自由にトッピングしていくシステムだ。
タルトの土台の種類は、プレーンクリーム。チョコレート。ストロベリー。パンプキン。紫芋。ピスタチオ。様々な色合いのものがそろっている。この土台だけでも美味しそうだ。
デコレーション用にハロウィンの季節にピッタリな、目玉型のグミやコウモリや黒猫をかたどったチョコレートなどがそろっている。ホワイトチョコペンでドクロやクモの巣マークだって描ける。
あらかじめ材料が用意されているため、特に調理技術は必要なく誰でも気軽に参加できる。
盛り付けのセンスがものをいうので、クッキングアートのスキルが効果を発揮するだろう。
あなたと精霊でそれぞれタルトを作っても良いし、二人で一つのタルトを完成させるのもありだ。また、どちらか一人がタルトを作って二人で食べても構わない。
どのパターンでも、二人前のタルトを作ることになるので、費用は一律300jr。
作ったタルトは、店内か店外のテーブルで食べられる。食器もついている。
持ち帰り用の箱などはないため、パークから出て自宅で食べる、といったことはできないので注意。
解説
・必須費用
参加費:1組300jr
・デコレーション
プロローグに記載されているものだけでなく、ホイップクリームやアラザンや色んな形のクッキーや各種フルーツなど、一般的な製菓用の食材であれば自由にデコレーションに使えます。
・あると効果的な一般スキル
クッキングアート
(対象スキルがあると作るタルトの出来栄えがより良くなりますが、スキルがなくてもエピソード参加に支障はありません)
・仮装について
希望すれば、神人と精霊のどちらか片方が、仮装の特殊能力を使うことができます。
このエピソードでは、仮装は強制ではなく任意です。
・ゴースト
外見:可愛いおばけの仮装。
能力:パートナーを驚かすことが得意となり、サプライズがとても上手になります。
・ドラキュラ
外見:紳士、淑女を思わせるドラキュラの仮装。
能力:甘噛みされたパートナーがしばらく素直になります。
・ジャックオーランタン
外見:可愛いデザインの、ジャックオーランタンの仮装。
能力:気分が高揚し、普段言わないようなことなどを言いやすくなります。また、表情が豊かになりやすくなります。
(ジャックオーランタン伝説の元になった方が、酒好きだったところから。お酒に気分よく酔っているイメージです)
・ウィッチ
外見:美しい魔女の仮装です。精霊の場合は、女装の形となります。
能力:箒にまたがると、空を飛ぶことが出来ます。
(建物内での使用は出来ません)
ゲームマスターより
トリック オア トリート?
山内ヤトです!
パートナーといっしょに、タルトをデコレーションしてみましょう。
可愛い系にするか怖い系にするかは、あなたのお好みで!
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
私がタルトのデザインをしました ディエゴさんと一緒に作ります 土台はパンプキン 紫芋のクリームとパンプキンのクリームを縞模状にモンブランみたいに乗せて、その上にハロウィンモチーフのデコレーションを施します ・コウモリ ・クッキーにチョコでジャックオーランタンの顔を描いたもの ・マシュマロに、同じくチョコで髑髏の顔を描いたもの いずれもチョコはビター味 このデコレーションで紫芋のクリームのみだと色合いが沈んだものばかりになってしまうので、パンプキンのクリームも足したってわけです。 甘味が出すぎないように工夫したんですよ。 ディエゴさん、タルトが固いので一緒にナイフ押してもらって良いですか? 二人の共同作業です。 |
日向 悠夜(降矢 弓弦)
…ね、弓弦さん お互い一つずつ別々に作って、食べる時は交換するのってどうかな? よーし、頑張るぞー! タルトの土台は…紫芋にしようかな 土台の色を活かしたいから…黄色い…栗を使おうかな? クリームを絞り出して、栗の甘露煮を幾つか並べるよ 飾りは…弓弦さんの好きな猫かな 栗の横に黒猫ちゃんを2匹立てて…っと うーん…絵は得意だけれど、お菓子となると中々上手く行かないね ◆ さ、タルトを交換してお披露目だね 喜んで貰えるといいけれど…あはは 弓弦さんが作ったタルトを見て思わず目を見開くよ …フルーツお化けと目が合っちゃった! 見た目は凄いけれど…思わず笑顔になるね ふふっ、いただきまーす! ●仮装 ゴースト ウィンクしているお化け |
上巳 桃(斑雪)
仮装は、二人でゴーストにしよ はーちゃん、それぞれ違うタルトを交換するのはどうかな? で、相手の好みに近いタルトを作れたほうが勝ち どうだろ? ヒント、私は「シンプルな味が好き」だよ 折角だからハロウィンっぽい感じのタルトにしたいな だから、ベースはパンプキン チョコクリームでジャックオーランタンとか描いてみたり …下手っぴだけど あとは、キスチョコ使って魔女の帽子っぽくしたり じゃ、外で食べようか 冬が来る前に、外の空気をめいっぱい楽しんでおきたいから はーちゃんのタルトおもしろいね 知らないで食べると、うん、びっくりした 気分悪くしたとか、そんなこと全然ないよ これは、はーちゃんの勝ちかな-? 私のタルトは、どうだった? |
ユラ(ハイネ・ハリス)
アドリブ歓迎 ハイネさんとは初めての依頼になるねー ウィンクルム=オーガと戦うってイメージらしいから こういう楽しいこともお仕事だって分かってもらえるといいなぁ 料理してるイメージはないけど、どんなの作るか楽しみだな 各自一つずつ作るよー 私が作るのは普通のハロウィンタルトだよ パンプキンの土台に紫芋のクリームでモンブラン風に ゴーストやコウモリのクッキーで飾れば完成 ね、簡単でしょ? ・・・待ってハイネさん なにこれ、怖い そうかもしれないけど、もっと他にあったよね!? 悪霊ってこういうのじゃないと思うな 食べるのこれ!?・・・うぇぇグロイ・・・ (絶対これわざと作ったんだ・・・!) ・・・(非常に微妙な顔で)美味しい |
アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
仮装:ゴースト うわー色んな種類がある…迷うなぁ… 土台:パンプキン フルーツを色々乗せ、紫芋のホイップクリームやアラザンで飾り付け コウモリ&カボチャ型のクッキーと猫型チョコを乗せる うーん…あれやこれやと乗せたい欲が出てきてしまう だがスペースや力量の問題で乗せられる物が限られるのがもどかしい (ふとガルヴァンのタルトを見て)……わぁ…綺麗…宝石みたい… …うっ(グッサリ)………うぅ…(しょんぼり) 完成後 店内の窓際テーブルで食べる …(うーん見てくれはどうあれ美味しい) 特に会話はない それでも、一緒に何かを作れたのがなんだか嬉しくて自然と口角が上がる ……… そのまま静かな時間を過ごし、一言二言交わせながら帰った |
●タルトで勝負
可愛いゴーストの仮装をした二つの人影が、『ジャック・オー・パーク』を楽しげに歩きまわる。『上巳 桃』と『斑雪』だ。
タルトのデコレーションができる場所と聞いて、桃があることをひらめいた。
「はーちゃん、それぞれ違うタルトを交換するのはどうかな? で、相手の好みに近いタルトを作れたほうが勝ち。どうだろ?」
その提案に斑雪も元気よく賛成する。
「タルトの交換、おもしろそうですねっ。よーし、主様には負けませんよー」
さっそく、デコレーションができるスペースへと向かう。それぞれタルト作りにとりかかるその前に、桃が勝負のヒントを与えた。
「ヒント、私は『シンプルな味が好き』だよ」
「拙者は、甘いの大好きですっ」
シンプルなものと甘いもの。お互いの味の好みを確認して、今度こそ二手にわかれてタルト勝負の開幕だ。
桃がベースに選んだ土台はパンプキン味。せっかくだから、ハロウィンっぽい感じのタルトにしたかった。
そこにチョコクリームで、ジャックオーランタンを描く。
「……うーん。ちょっと下手っぴだけど……」
キスチョコの形を活かして、魔女の帽子らしくするアイディアは上手くいった。
「シンプル……じゃ、土台はプレーンにします」
桃の好みを思い出しながら、斑雪はどんなタルトにしようか考える。
「先ずは、秘密のごにょごにょを敷き詰めて……」
それを隠すように、甘さ控えめのホイップクリームを。そこにピスタチオの実とチョコクリームで、お化けの顔を書いていく。
「完成です」
「じゃ、外で食べようか」
店の外にテーブルがあるので、そこでタルトを食べることにした。
「主様、お店の中じゃなくて良いのですか?」
外は肌寒いのではないかと、斑雪が心配する。
「冬が来る前に、外の空気をめいっぱい楽しんでおきたいから」
「なるほど! 秋の景色は美しいですからね」
今日は天気にも恵まれている。澄み切った青い空には、いわし雲。
「はい、主様どうぞっ」
斑雪が作ったタルトを披露する。桃に驚いてほしくて、斑雪は身につけているゴーストの仮装能力を使ってみた。サプライズが上手くいくと良いのだが……。斑雪は緊張でちょっとドキドキしていた。
お化けの顔が描かれたタルトをじっくり眺める桃。自分が描いたジャックオーランタンの顔より上手いかもしれない、と思った。
見た目を楽しんだ後は味の番だ。一口食べて、桃は不思議な食感に気づく。普段は眠たげな目が、ちょっとだけパチッと大きく見開かれた。
「はーちゃんのタルトおもしろいね」
「えへへ、びっくりしました? じゃーん。フィリングの下にクラッシュしたコーヒーゼリーを隠しておいたんでーす」
これが秘密のごにょごにょの正体だ。
「知らないで食べると、うん、びっくりした」
「……気分を悪くさせたら、ごめんなさいです」
一瞬しょぼんとする斑雪だが、桃のほのぼのとした優しい声で元気づけられる。
「気分悪くしたとか、そんなこと全然ないよ」
むしろ桃は楽しそうにしている。
サプライズ成功! 仮装能力だけに頼るのではなく、斑雪自身が工夫してタルトを作ったのもナイスだ。
今度は桃が作ったタルトを斑雪に渡す。
「主様、タルトありがとうございます」
桃自身は下手っぴだと思ったジャックオーランタンの絵だが、何が描いてあるのか斑雪にも伝わったようだ。
「かぼちゃさん、ぱくっとしちゃいますね」
パンプキンとチョコの味が、口の中でハーモニーを奏でた。
「これは、はーちゃんの勝ちかなー? 私のタルトは、どうだった?」
斑雪は素直な笑顔で返事をする。
「美味しいですっ」
穏やかな秋の日差しの下で、桃と斑雪はタルトを味わう。
「今日は風が気持ちいいですねー」
「だねー」
まったりとした時間を心ゆくまで過ごす二人。
●フルーツのモンスター
『日向 悠夜』と『降矢 弓弦』。ゴーストの衣装には、それぞれの個性が反映されアレンジされていた。
弓弦の人柄を表すかのような、眠そうな表情をしたお化け。
そして悠夜は、ウィンクをしたお化けのフード。仮装の邪魔にならない位置に、ティアラ「ハートの女王」をつけている。悠夜の頭を飾る「ハートの女王」はまるでハロウィンの季節の到来を喜んでいるかのように、いっそう豪華で美しい輝きを放っていた。
「……ね、弓弦さん。お互い一つずつ別々に作って、食べる時は交換するのってどうかな?」
「へえ。それは良いね」
そうと決まれば、話は早い。
「よーし、頑張るぞー!」
悠夜は張り切ってデコレーションができるコーナーへと向かっていった。彼女の後を落ち着いて追いかける弓弦。
「タルトの土台は……紫芋にしようかな」
ハロウィンらしい紫色。色はちょっと不気味な雰囲気だが、原材料は紫芋なので体に優しい。
「となると、土台の色を活かしたいから……黄色い……」
悠夜の視線が、たくさんのデコレーション素材へと向けられる。この中から、黄色い食材を探し出す。
「栗を使おうかな?」
栗の甘露煮を見つけたので、それを使うことに決定。クリームをタルトの上に絞り出して、そこに栗の甘露煮を数個並べる。紫と黄色の色合いがよくはえていた。
「飾りは……弓弦さんの好きな猫かな」
今度は猫の形をした素材はないか探す。ハロウィンらしい感じの黒猫のチョコレートがあった。チョコ製の黒猫を二匹ほど栗の横に立てる。
出来上がったタルトを見て、悠夜は軽く苦笑。
「うーん……絵は得意だけれど、お菓子となると中々上手く行かないね」
ハロウィンらしく、悠夜に驚いてもらえるようなものを作ってみたい。それが弓弦の狙いだったが、自分の純粋な力量では難しいだろうと判断する弓弦。
「……そうだ、仮装の力を借りようか」
『ジャック・オー・パーク』では仮装の特殊能力が使える。ゴーストの衣装は、相手を驚かせることが上手になる。弓弦が着ているのも、このゴーストの仮装だった。
「うーん、土台はハロウィンらしく南瓜にしよう」
そこにクリームを塗った後、弓弦はフルーツをぽんぽんと乗せていく。手当たり次第、といった風に。
タルトの上にちょっとした果物の山が築かれて、ようやく弓弦は我に返った。その山は、さながらフルーツでできたお化けのように見えた。でも、モンスターというには何かが足りない。
「そうだ」
目玉の形をしたホラーなグミを見つけて、それを少量のクリームを使ってフルーツの山に取り付ける。
「……凄い事になってしまったなぁ」
自分の作ったタルトを見て、どこか他人事のように弓弦はのどかにつぶやいた。
「さ、タルトを交換してお披露目だね」
弓弦は作ったタルトを隠していたので、先に悠夜の作品が公開される。
「喜んで貰えるといいけれど……あはは」
そう言って悠夜は紫芋をベースにした黒猫のタルトを見せた。
「わあ、紫芋に栗……美味しそうだ」
ちょこんと乗せられた黒猫を見て、弓弦は優しそうに目を細めた。
「それじゃ、これは僕から」
大量のフルーツが乗せられたタルトをお披露目する。
「うわ、すごい!」
そのボリュームに、思わず目を見開く悠夜。グミの目玉と視線を合わせた後で陽気に笑う。
「……フルーツお化けと目が合っちゃった! 見た目は凄いけれど……思わず笑顔になるね」
悠夜の笑顔に、弓弦もまた笑顔で返す。
「悪戯成功かな」
それぞれ作った作品を交換して食べる。悠夜はフルーツのタルトを。弓弦は黒猫のタルトを。
「ふふっ、いただきまーす!」
和気藹々とした雰囲気で、二人はそれぞれのタルトの味を楽しんだ。
●穏やかな静けさの中で
『アラノア』はゴーストの仮装で、『ガルヴァン・ヴァールンガルド』はドラキュラの仮装で『ジャック・オー・パーク』での一時を過ごしていた。
アラノアの首元を飾るのはゴーストチョーカー。ガルヴァンはそれと色違いのナイトチョーカーをつけている。それぞれの仮装にピッタリで、ステキなコーディネートだ。
「うわー色んな種類がある……迷うなぁ……」
色とりどりのタルト土台や様々なデコレーション用の食材を見て、アラノアは迷ってしまう。
「沢山あるな……さて、どうしたものか」
ガルヴァンも、どんなものを作ろうかと思案する。
二人はそれぞれタルト作りに集中していった。
アラノアはパンプキンの土台を選んだ。
そしてフルーツを色々乗せる。店内には多種多様な果物がそろっていた。ダイスカットされたメロンやマンゴー、シロップ漬けのパイナップルやサクランボ。
さらに紫芋のホイップクリームを絞り出し、銀色に輝くアラザンを散りばめて飾り付ける。
「うーん……あれやこれやと乗せたい欲が出てきてしまう」
しかし、タルトのスペースやアラノアの腕前の都合上、乗せられるものには限度がある。それがなんだかもどかしい。
「もっと色々乗せたいけど……。うん、これを乗せたら完成にしよう」
最後に、コウモリとカボチャの形をした二種類のクッキーと、猫型のチョコレートを乗せて出来上がりとする。
一方ガルヴァンは、紫芋をベースにして、イチゴやブルーベリーとラズベリーを主体としたタルトを作っていた。ガルヴァンはベリーの美しい配置をかなり真剣に考える。派手さはなくても良い、だが、気品の感じられる一品にしたかった。
果物に艶を与えるため、ナパージュがないか探す。一般的に製菓用に使われるもので、そう珍しいものではない。ただ、扱う際に温度管理が必要なためか、デコレーションコーナーには置かれていないようだ。
「……」
そこに店員が通りかかった。ガルヴァンがナパージュを使いたい旨を伝えると、用意できるとの返事。これで思い通りのタルトが作れそうだ。
ナパージュを塗り、フルーツに艶を出して宝石に見立てる。アラザンを散りばめ、ホワイトチョコペンを使って土台に模様を描いていく。
いずれは自分だけの宝石店を持ちたいと思っている彼らしいタルトだ。
「意外に難しいな……」
その声をアラノアが聞きつけた。彼女はふと手元から視線を上げて、ガルヴァンのタルトを見た。
「……わぁ……綺麗……宝石みたい……」
お世辞などではなく、アラノアは本当にそう思った。
「……そうか?」
綺麗と言われて嫌な気はしないが、ガルヴァンはもっと良いものが出来るのではないかと思ってもいた。彼はこだわりたい派なのだ。
そんなガルヴァンはアラノアの作ったタルトを一目見て。
「……盛り過ぎだ」
「……うっ……うぅ……」
グサッとショックを受けて、しょんぼりするアラノアだった。
店内の窓際のテーブルを選び、二人は黙々とタルトを食べた。
(うーん見てくれはどうあれ美味しい)
アラノアとガルヴァンの間に特に会話はない。だがそれは気まずい沈黙ではなく、穏やかなものだった。
二人とも、元々自分から積極的に話しかけるようなタイプではない。周りの音や声に意識をやったりしつつゆったり過ごす。
自然と、アラノアの口角が上がっていた。ガルヴァンと一緒に何かを作れたことが嬉しくて。
その表情の綻びに、ガルヴァンは気づいた。最初は緊張して強張ってばかりだったアラノアが、かすかに微笑んでいる。
「……」
気づいても、ガルヴァンは別にそれを指摘したりはしない。
落ち着いた充実感のある静かな時間が、二人を包むように流れていた。
●タルト入刀?
『ハロルド』と『ディエゴ・ルナ・クィンテロ』は二人で一個のタルトを作ることにした。デコレーションコーナーに置かれている食材を一通り見た後で、ハロルドはタルトのデザインを決めていく。
「……前も思ったことなんだがお前って結構、デザイン考えるの好きなんだな」
そんなハロルドとは違って、ディエゴの方はこういったもののデザインを考えるのはあまり得意ではないらしい。自分はアイディアが出なかったのだと打ち明ける。
「俺の方はアイディアが出なかったから、助かる。一緒に作ろう」
まずはベースとなる土台選びだ。六種類の中から一つを選ぶ。
「土台はパンプキンにしましょう」
ハロウィンらしいチョイスだ。
ハロルドはディエゴに、紫芋とパンプキンの二種類のクリームを持ってきてくれるように頼んだ。
ディエゴが持ってきたその二つのクリームを縞模様状になるように絞り出す。モンブランに似た形のクリームの山ができた。
作業工程がディエゴにもわかりやすいように、ハロルドは時折手を止めて説明をおこなう。
「そして、その上にハロウィンモチーフのデコレーションを施します」
二人前のタルトなのでサイズは大きい。これなら、たくさんのデコレーションを乗せられる。
タルトに乗せるのはコウモリ型のチョコレートと、ジャックオーランタンの顔をチョコペンで描いたクッキー、同じくチョコペンでドクロの顔を描いたマシュマロ。いずれも、使われたチョコはビターな風味のもの。
「このデコレーションで紫芋のクリームのみだと色合いが沈んだものばかりになってしまうので、パンプキンのクリームも足したってわけです」
「ふむ……。そこまで考えられているんだな」
タルトを作っていくうちに、ディエゴはハロルドのさり気ない思いやりに気づいた。
このタルトの食材は、マシュマロなどのごく一部を除き、どれも甘味の少ないものが選ばれていた。見た目だけでなく、一緒にタルトを食べるディエゴのことまで考慮されて作られている。
「甘味が出すぎないように工夫したんですよ」
ディエゴの心の中で、ハロルドへの感謝と愛おしさが入り混じった温かな思いが膨らんだ。
こういう作業は慣れていないが、ハロルドの思い描いたタルトに少しでも近づくように頑張ろうと、ディエゴは決めた。
完成したタルトの出来栄えを眺める二人。
このタルトは二人前なので、ナイフで切り分ける必要がある。ハロルドがナイフを手にしたが、色々と盛ったデコレーションを崩さず綺麗に切るのはちょっと難しい。ディエゴに声をかけて頼んだ。
「ディエゴさん、タルトが固いので一緒にナイフ押してもらって良いですか?」
「ああ」
タルトを切るナイフは、それなりの刃渡りと重みがあった。刃物を扱うので、ディエゴは慎重にと唾を飲み込んだ。
その瞬間に、ハロルドが。
「二人の共同作業です」
「っ!?」
結婚式のケーキ入刀を思わせる言葉に、ディエゴは驚いてむせてしまった。直前に飲み込もうとした唾が気道に入ってしまったらしい。口元を手で抑え、ケホケホッと咳をする。
「大丈夫ですか?」
ディエゴをビックリさせた張本人が、しれっと尋ねる。
「ばかやろー、刃物持っているところなんだからまじめにやれ、まったく……」
そう叱られたものの、ハロルドがどこか満足気。彼女はこうやってディエゴをからかうことが好きなのだ。
彼女に振り回されたり押され気味なディエゴだが、ハロルドと過ごすこんな時間は嫌いではない。
「せっかくこんなに綺麗なタルトを作ったんだ。ふざけてないで食べるぞ」
甘さ控えめのタルトは、ディエゴの口によく合った。
タルトを食べるディエゴを見て、ハロルドは幸せそうな笑みを浮かべた。
●本格派悪霊タルト
『ユラ』と『ハイネ・ハリス』がウィンクルムとして活動するのは、これがはじめてだった。
ハイネは神官服を着ているが、これは別にハロウィンの仮装というわけではない。ハイネは聖職者ではないが、朽ちかけた教会で暮らしているので普段から神官服を着用しているのだ。
タルトデコレーションの店を見て、ハイネはやる気のなさそうな声でユラに尋ねる。
「僕ウィンクルムってよく分かってないけどさ、料理必須なの?」
「ううん。そういうわけじゃないよ」
「あ、違う? それなら良かった」
ハイネはまだウィンクルムのことをよくわかっていないらしい。ハイネの中ではウィンクルム=オーガと戦うというイメージが強いため、ユラとしてはこういう楽しいこともウィンクルムの活動の一つだと、彼にしってもらえたら良いと思っていた。
「ハイネさんが料理してるイメージはないけど、どんなの作るか楽しみだな」
柔和な笑みを浮かべ、のほほんとしているユラ。
……この時、ユラはまだ自分を待ち構えている過酷な運命をしらずにいた……。
「各自一つずつ作るよー」
ユラはパンプキン味の土台を選び、紫芋のクリームでモンブラン風にしてみた。さらにそこにゴーストやコウモリの形のクッキーを飾って、賑やかで楽しいタルトを作る。
「完成。ね、簡単でしょ?」
ハイネは気怠そうに、ユラが作ったハロウィンタルトを眺めた。
「まぁ面倒くさいのに変わりはないけどね。別に得意でも嫌いでもないけど大丈夫だよ」
やる気もないし周りに興味もないハイネだが、流れには逆らわないスタンスだ。流れにのって、自分もタルトを作ることにする。
「ハロウィンねぇ……味は保障されてるわけだし、なら自由に盛り付けようか」
六種類のタルト土台の中から適当に一番近くにあったものを選ぶ。ランダムで選ばれたそれは、プレーンの土台だった。ホイップクリームを山盛りにして、目玉グミを大量に敷き詰めて、上からイチゴソースをダラダラ垂らせば……。
「血糊風」
まだまだハイネは妥協しない。とことんグロテスク・ホラー風味を目指す。
空いている隙間に、細いロウソクをグサグサと突き刺していく。これは本来バースディ用のロウソクだったが、ハイネの手にかかるとおぞましく変貌した。
様子を見に来たユラの顔が、サーッと青ざめる。
「……待ってハイネさん。なにこれ、怖い」
「ハロウィンは元々悪霊を払うのが目的の祭りだよ。悪霊を表現した料理を作り、美味しく食して払う……一石二鳥だね」
「そうかもしれないけど、もっと他にあったよね!? 悪霊ってこういうのじゃないと思うな」
すかさずユラからの切れ味の良いツッコミが入る。
しかし、ハイネはそんなユラの意見には耳を貸さない。完成した悪霊タルトの皿を持って、飲食用のスペースへと移動していってしまった。
「ああ、ちょっと……。ハイネさん!」
可愛らしくデコレーションされたハロウィンのタルトを持って、ユラも彼の後に続く。
「さ、いただこうか、君も食べるといい」
目玉グミにグサッとフォークを突き刺して一口。
「見るとの食べるのとはまた別問題だろう?」
「食べるのこれ!? ……うぇぇグロイ……」
いつもは基本的にマイペースで何かに動じることの少ないユラだったが、ハイネの悪霊タルトのグロテスクなインパクトにはたじたじだった。
(絶対これわざと作ったんだ……!)
それでも意を決して、悪霊タルトを一口食べる。
「うぇ……」
非常に微妙な顔で、味の感想を告げるユラ。
「……美味しい」
見た目はとてもグロいが、使われている食材自体はいたって普通のものばかりだ。
そんなユラを見て、ハイネはニヤリと笑ったのだった。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:日向 悠夜 呼び名:悠夜さん |
名前:降矢 弓弦 呼び名:弓弦さん |
名前:上巳 桃 呼び名:主様 |
名前:斑雪 呼び名:はーちゃん |
エピソード情報 |
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マスター | 山内ヤト |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 10月19日 |
出発日 | 10月24日 00:00 |
予定納品日 | 11月03日 |