花祭りと誓いの門(巴めろ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●花の町ルチェリエ
「えーっと……『とりどりの花が咲き乱れる『花の町』の年に一度の花祭りに興味はございませんか?』」
ミラクル・トラベル・カンパニーの青年ツアーコンダクターは、メモを読み読み、そう誘いの言葉をかけた。読み終えたメモから面を上げれば、その顔には輝くばかりの満面の笑み。
「珍しい花を育ててタブロス市や近隣の町に届けるのを生業にしているルチェリエって小さな町があって、そこの広場で花祭りがあるんだ。広場中が花に溢れて、それはもう綺麗なんだぜ? 屋台で食べられる、花の砂糖漬けを飾ったカラフルなカップケーキも、見た目が華やかなだけじゃなくって味も絶品でさ。はちみつ入りのほんのり甘いローズティーも、美味しいし」
珍しく美味しい食べものは旅の華・祭りの華。けれど、ルチェリエの花祭りの見どころはそればかりではないと青年は言う。
「広場の真ん中に、とびきり美しいフラワーアーチがあって。えっと、『誓いの門』って名前だったっけ。とにかく、親しい人と祭りの日にそのアーチを同時に潜ると、その人とのご縁が、末永く続くんだってさ」
花祭りの楽しみ方は色々だ。花に溢れる広場の景色を楽しんだり、ここでしか食べられない食べものに舌鼓を打ったり。勿論、大切な人と、『誓いの門』にささやかな願いをかけるのも。
「――さて、この素敵なツアー、ウィンクルムさまお一組につきたったの250ジェールとなっております」
興味のあるお客さまはどうぞ一時の夢の世界へと、青年は優雅に頭を下げた。

解説

●今回のツアーについて
花の町ルチェリエの花祭りを満喫していただければと思います。
ツアーのお値段はウィンクルムさまお一組につき250ジェール。
(屋台の食べものをお買い求めの場合は、そちらは別料金となります)
ツアーバスで朝首都タブロスを出発し、午前中に町へ着きます。
数時間の自由時間の後タブロスへ戻る日帰りツアーです。

●屋台の食べものについて
ここでしか食べられないものとして、ツアーコンダクターくんがご紹介しているカップケーキとローズティーがあります。
カップケーキに飾られる花の砂糖漬けは、スミレ・薔薇の花びらの2種類で色は様々。
好きな色の花を選んだり、花言葉にちなんだ物を選んだりするのも楽しいかもしれません。
カップケーキをお求めの方で花のご指定がない場合は、こちらで花を選ばせていただくことがございます。
ローズティーにも、薔薇の砂糖漬けが一枚浮かべられています。
カップケーキは1個30ジェール。紙コップ入りのローズティーは1杯20ジェールです。

●『誓いの門』について
プロローグで語られたような言い伝えがある、広場のシンボル。
色とりどりの季節の花で彩られた、美しいフラワーアーチです。

●プランについて
公序良俗に反するプランは描写いたしかねますのでご注意ください。
また、白紙プランは極端に描写が薄くなってしまいますので、お気を付けくださいませ。

ゲームマスターより

お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!

春らしいお誘いをと思い、今回はお花のお祭りをお届けです。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セイヤ・ツァーリス(エリクシア)

  花のお祭り、かあ。 春は色んな花が咲くから楽しみだね。
こんなにいっぱいのお花ってみたことないもの。
カップケーキと紅茶を二人分買ったら、広場のお花をゆっくり見て回りたいな。

お花がいっぱいだしきっと綺麗な蝶々さんとかもいるかも。
えと、その、蜂さんはちょっとだけ怖いけど、蝶々さんはすきなの……。

アーチはくぐるよりはくぐる人を見ていたいかも。
だって、その、きっとくぐる時よりずっと幸せな顔をしているはず、だから。
ぽかぽかの幸せな気持ちをお裾分けしてもらえそう。
それを見てるだけでもぼくは幸せ、だよ?


セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
  嫌なら僕だけ行く。絶品のお菓子があるって聞いたんだけどね
(あ。つい、いけないな…素直にならないと)

ああ、さすが花の町だ
手入れして愛でて初めて綺麗な花が咲く
うん…演劇歌手の母の影響。有名な人の花束やフラワーアレジメントが飾られてて自然にね
僕には馴染みなくて好きだけど。素朴で力強くて

びくと離れ
蜂…!けど針もってるし
…タイガみたいだ、模様と小さいところ
…かもね(微笑)
(外の話を聞かせてくれた君。それに生きる術をみつけた僕みたいだ)
ロマンチストに気づき照れ

何でもない!食べていくんだろ
!一緒に潜ると『末永い縁がある』という…
(初めての友達だし縁はほしい。だから行きたいのもあった)
タイガ…(一緒にいいか


●花愛ずる祭りへと
「花の町の花祭りを見にいかないか?」
セラフィム・ロイスの誘いに、火山 タイガは最初いい返事をしなかった。
「花ー? どうせなら、遊園地とか面白いとこ行こうぜー」
セラフィムに新しい世界を見せてやれるのは自分だと、そう思っているタイガである。セラフィムとでかけること自体には大賛成だ。けれどタイガの思考回路は、小柄な体躯に合わせて仕立てたように、やや子供っぽいところがあって。
「嫌なら僕だけ行く。絶品のお菓子があるって聞いたんだけどね」
「!」
セラフィムが次いだ言葉は、タイガの気持ちを動かすのに十分すぎるほどの威力を持っていた。事実、『絶品のお菓子』というフレーズにタイガは瞳をキラキラと輝かせる。
「行く! 行く行く! 一緒に行こ? な、セラ」
引き出されたのはセラフィムが望んだままの答えだったけれど。でもセラフィムは、胸の内だけで「しまった」と呟く。
(また、つい……。いけないな。素直に、ならないと)
楽しみだなとにこにこしているタイガの隣で、セラフィムは独り自戒する。
そうして、願う。
祭りではきっと、素直になれるようにと。

「ねえ、エリク。あのね、僕、行きたいところがあるんだけど」
エリクシアが用意してくれたストロベリーティーをくぴりと口に運んだ後で、セイヤ・ツァーリスはおずおずとそう切り出した。お茶菓子の準備をしていたエリクシアが手を止め、セイヤのことを見つめる。
「行きたいところ、ですか?」
「うん、お花のお祭りがあるんだって聞いたんだ。だから、ね。エリクと一緒に行けたら素敵だなぁって思ったんだけど……」
駄目かなぁ? と小首を傾げれば、エリクシアはふっと口元に笑みを乗せた。
「セイヤ様のいらっしゃるところでしたら、どこへでもお供いたしますよ。それに、私もその祭りに興味があります。是非、ご一緒に」
「ほんと!? わぁ、嬉しいなぁ……」
にこにことする小さな主の愛らしいかんばせを見やるエリクシアの顔にもまた、知らずほっこりと笑みが浮かぶ。その笑顔に、セイヤの胸はどきりと大きく脈を打って。
(うう、またいつもの病気だ……)
胸を抑えるセイヤに、エリクシアは心配そうにそっと顔を寄せる。
「どうかなさいましたか、セイヤ様? どこかお加減でも?」
「ち、違うよ。大丈夫。ほら、ね?」
「それでしたら良いのですが……具合が悪くなったら、すぐ私におっしゃってくださいね?」
「うん。ありがとう、エリク。お花のお祭り、楽しみだね。春は色んな花が咲くから」
「ええ。そうですね」
笑みを向ければ、エリクシアもふんわりと微笑んだ。

●それぞれの花祭り
ルチェリエの花祭りは、そこまで規模の大きなものではない。花の町の広場には人々の笑顔が幾らもあったけれど、その笑顔を彩る花の方が多いくらいの様子だった。人混みが得意ではないセラフィムは、広場を見回してそっと安堵の息を吐く。
改めて咲き誇る花々へと意識をやれば、花に親しんだ生活をしているセラフィムにとっても、その光景は眩しいほどで。傍らでは、花祭りには興味がないような素振りを見せていたタイガさえ、広場の花たちに視線を奪われている。
「あ! 模様になってるぜ、あれ! 狙ってやったんだよな~!」
声を上げ、タイガが指した先には、花の絨毯。色とりどりの花たちが、複雑で繊細な模様を描き出していた。その美しさに、セラフィムは柔らかく目を細める。
「ああ、さすが花の町だ。……手入れして愛でて、初めて綺麗な花が咲く」
「セラんち花だらけだったっけ。好きなんだ?」
「うん……演劇歌手の母の影響。有名な人の花束やフラワーアレンジメントが飾られてて、自然にね」
自然、セラフィムの口は滑らかになり、その顔には笑みも浮かぶ。そんなセラフィムの姿を見て、タイガはへへっと笑った。
「なんか、花もいいもんだな。オレは野原や道端にちょこんとある花もいいと思う」
「そうだな。僕には馴染みがなくて、好きだ。素朴で力強くて」
そう呟いたセラフィムの顔があまりにも優しくて。タイガは思わず、その横顔に見惚れた。
(今度、採ってこようかな)
大切な友だちの、こんな顔が見えるのなら。花摘みの時間だって、きっと素敵なものになるだろう。

広場にはたくさんの花、花、花。花咲き乱れるところには、虫たちが集まるのも世の常で。
「! 蜂……!」
急にとび出してきたミツバチに、セラフィムはびくりとして身を引いた。
「蜂? ミツバチか。怖くねぇって」
「けど、針持ってるし……」
「ちょっかいかけねぇ限り、刺したりしねーよ」
微塵も臆することなく、タイガがからりと笑う。つい慌ててしまったのが気恥ずかしくて、セラフィムは口を結んだ。
「見てみ。コロコロして可愛いぞ? でっかい花粉玉つけてら。頑張り屋なんだなー」
言われてよくよく見てみれば、その姿は確かに愛らしく。セラフィムはゆらゆらと花の周りを飛んでいるミツバチを見つめながら、ふっと微笑んだ。
「……タイガみたいだ。ほら、模様と小さいところ」
「小さいは余計!」
噛みつくタイガ。けれど本気で怒っているわけではなく、今は白い花に止まっているミツバチを見やって、にこり。
「んじゃ、この白い花がセラだな」
深く考えたわけではないけれど、口に出してみれば何となくそれはぴったりくる表現のような気がしたタイガだ。隣のセラフィムへと視線を移せば、同じくミツバチと白い花に目を向けている彼も淡く微笑を零して。
「……かもね」
セラフィムの目にも、自分とタイガが、白い花とミツバチに被って見えていた。
(外の話を聞かせてくれた君。それに生きる術をみつけた僕みたいだ)
自分にとってタイガの存在がいかに大きいかを、セラフィムは改めて認識する。自然口から漏れたのは、ありがとうの言葉。と、
「……なんか、優しくねぇ? 気分いい?」
怪訝な顔で首を傾げられて、セラフィムは頬が熱くなるのを感じた。
「……タイガが変なこと言い出すから」
照れ隠しに呟いた言葉は、タイガには少しばかり刺々しく感じられたらしい。
「あれ? 今度はちょっと怒ってる? なんで?」
「何でもないし怒ってもない! ほら、カップケーキ食べていくんだろ? 行こう」
「やった! 待ってました! って、待てよー!」
怒っていないとは言いつつも足早に前を行くセラフィムの背を、タイガは追う。タイガがついてきてくれているのを背に感じながら、セラフィムは歩を進め……ふと、ある物に気づいて足を止めた。
「! 『誓いの門』……」
「お! すっげ! これが『誓いの門』か~。は~……」
タイガの口から感嘆のため息が零れたのも道理かと思えるほど、『誓いの門』は美しかった。花の町の広場のシンボルと言われるだけあって、とりどりの季節の花の魅力が十二分に引き出されている、思わず見入ってしまうような素晴らしいフラワーアーチだ。加えて、どことなく神秘的で荘厳な雰囲気でもある。本当に不思議な力がありそうだと、理屈抜きで思ってしまえるような佇まいだった。
「一緒に潜ると、末永く縁が続く……」
ぽつり、セラフィムは呟く。
この祭りに興味を持ったのは、花が好きだからだけではない。『誓いの門』の話を聞いて、初めての友だちとの縁を繋ぎたいと、そうも思ったのだった。けれど、いざ『誓いの門』を前にしてみると……。
(一緒に潜ろうって、そう言えばいいだけなのに。どうしてこんなに、難しいんだろう)
言葉は、喉元で固まってしまったかのようで。それでも、セラフィムは自分の気持ちを声に乗せようとする。ただ素直に、真っ直ぐに。
「――なあ、タイガ。一緒に……」
「セラ! 折角だから一緒に潜ろうぜ!」
届ける前に、差し出されたのは満面の笑みと誘いの言葉。
「え……」
「『え……』ってなんだよ、『え……』って! あ。こういうおまじないみたいなの、嫌か?」
心配顔で問われて、セラフィムはふるふると首を横に振る。嫌なはずがない。ただちょっと、びっくりしただけで。
「よかった。じゃあ、潜ろ。オレさ、ずっとセラと一緒にいたいんだ」
にひひと笑いかけられて、セラフィムもつられるようにして少し笑んだ。
(敵わないな……)
門を潜った先は、先ほどまでと同じ広場の真ん中。けれど、見える景色は、さっきまでとは少し違うような気がした。
「よっし! それじゃ改めて、カップケーキ食べにいこうぜ! オレ、青い薔薇が乗ったやつにしようかなーって」
「青薔薇? 珍しい物だけど、この町にならあるかもしれないな。……でも、どうして?」
問えば、タイガは嬉しそうに口元を緩めた。
「だって、セラの髪の色だろ? ほら、行こう!」

屋台では、青薔薇の砂糖漬けを飾ったカップケーキが、二人のことをちゃんと待ってくれていた。
「なっ。半分こ、しようぜ。あそこのベンチでさ」
目的の絶品お菓子を手に入れられて、タイガはほくほく顔だ。お代を払おうとするセラフィムに店員の女性がそっと囁いたのは、青い薔薇の花言葉。
「青薔薇のカップケーキはね、結構人気なの。珍しいし、それに、『神の祝福』とか『奇跡』とか、あとは、『夢叶う』とか。素敵な花言葉がね、たくさんあるから」
仲良しの貴方たちにもたくさんの素敵が降り注ぎますようにと、店員は笑った。
(――奇跡も祝福も、確かにあったような気がする)
自分が今生きていること。タイガと出会ったこと。こうして二人、遠い町に立っていること。
(それから、夢叶う、か。叶うといいな。叶えてくれるかな)
『誓いの門』へと視線をやる。夢、と言うほどのものかはわからないけれど。でも、タイガとの縁を望んだのは紛れもない真実からの気持ちで。
「おーい、セラ! 早く食べようぜー!」
タイガの声に、ふっと現へと呼び戻される。タイガはいつの間にか、ベンチのところまで移動していて、うずうずしながらセラフィムのことを待っていた。
「すぐ行く!」
応えて、セラフィムはタイガの元へと急ぐ。
『誓いの門』が、二人のことを優しく見守っていた。

「わぁ……! すごいね、エリク。僕、こんなにいっぱいのお花って見たことないもの」
「流石は花の町、といったところでしょうか。壮観ですね、セイヤ様」
広場を彩る数限りない花々にセイヤが歓声を上げれば、エリクシアも感心したようにそれに応じる。花の甘い香がふわりと鼻孔をくすぐった。
「セイヤ様。どこから回りましょうか? 見る物はたくさんありそうですが」
「えっとねぇ……カップケーキと紅茶を買って食べたいな。それで、広場のお花をゆっくり見て回るの」
「素敵ですね。それでは、まずは屋台で食べ物を購入しましょうか」
連れ立って、二人は花の道を行く。
やがて二人は、カップケーキとローズティーの屋台へと辿り着いた。
「カップケーキとローズティーを二つずつ、いただけますか?」
エリクシアが店員の女性に注文をする。店員が、柔らかく微笑んだ。
「カップケーキのお花が選べるのだけれど、どうしましょうか?」
問われて、エリクシアがそっとセイヤの方を振り返る。
「セイヤ様。ご希望のお花はございませんか? こちら、サンプルの砂糖漬けだそうですが」
「えっと、えっとね……」
色とりどりの砂糖漬けを眺めながら、セイヤは一生懸命に思案する。どんな花がいいだろう? 白い薔薇が目に留まったけれど、それは白が、エリクシアの好きな色だからだ。自分が食べたいのは、どんな花のカップケーキ?
悩みに悩んだ末、セイヤは一つの結論を導き出した。
「僕、エリクに選んでほしいな。エリクが選んでくれるお花がいい」
思ったままを伝えれば、エリクシアは僅か目を見開いて、それからそっと笑みを零した。
「かしこまりました。それでは私の分は、セイヤ様に選んでいただいてもよろしいでしょうか?」
「うん!」
セイヤは迷わず、エリクシアへと白薔薇のカップケーキを選んだ。薄桃色のクリームの上に白い花びらがちんまりと乗っていて可愛らしい。
エリクシアがセイヤのために選んでくれたのは、紫色のスミレで飾られたカップケーキだった。クリームも淡い紫で、上品な色味の一品だ。
「ありがとう、エリク。スミレ、綺麗だねぇ」
セイヤがそう笑いかければ、
「紫はセイヤ様のお好きな色だったと記憶しております。それに……」
スミレには『小さな幸せ』という花言葉があるのですよと、エリクシアは秘密っぽく微笑んで。
「セイヤ様に幸せが降り注ぐようにと、願いを込めて」
静かな、けれどとても優しい言葉に、セイヤは自分の胸が温かくなるのを感じた。と同時に、きゅうと胸が苦しいような心地もして、セイヤはままならない自分の体を、少し恨めしく思う。こんな時くらい病気も治まってくれればいいのに、と。
「……セイヤ様?」
呼ばれて、我に返る。気づけばエリクシアはセイヤの前へとしゃがみ込み、困ったような戸惑ったような顔でセイヤの顔を見つめていた。
「お気に召しませんでしたか?」
ううん、とセイヤは首を横に振る。明るく笑って、
「すっごく嬉しいよ、エリク! 僕は……花言葉はね、わからないんだけど。でも、エリクは白が好きだったなぁって思って。だから、白い薔薇を選んだの」
そう伝えれば、常から落ち着いた物腰のエリクシアの表情が、寸の間、珍しく子供の笑顔のように輝いた気がした。
「私の好きな色を、覚えていてくださったのですか? ……ありがとうございます、セイヤ様」
煌めくようなその笑みに、セイヤの胸のドキドキは一層強くなって。少し俯いたセイヤのカップケーキに……その時、一羽の蝶が、そっと寄ってきた。
「あ……蝶々さん」
スミレの砂糖漬けの周りをくるくると回って、蝶は踊るように、ひらひらとまた飛んでいく。その姿を視線で追えば、辿り着くのは『誓いの門』。美しいフラワーアーチの周りには、たくさんの蝶が飛び交っている。
「蝶々さん、綺麗だねぇ」
蜂は少しだけ怖いけれども、蝶は好きなセイヤである。うっとりと呟くセイヤに、エリクシアも柔らかく応じた。
「ええ、とても。『誓いの門』も、あれは見事ですね。本当に美しい……」
「ねぇ、『誓いの門』も見にいきたいな、って。いいかなぁ?」
「勿論です。ですが、デザートの後にいたしましょう」
ローズティーが冷めてしまう前にと、エリクシアはにっこりとした。

「近くで見ると、ますます素晴らしいですね。不思議な力があるというのも、納得できてしまうような」
「うん。すごく綺麗……」
花の町自慢のフラワーアーチは、目眩がするような美しさだった。縁を繋ぐ門だというから、たくさんの笑顔や幸せがアーチをより輝かせているのかもしれないなぁとセイヤは思う。
「アーチは潜るよりは潜る人を見ていたいかも。だって、その、きっと潜る時よりずっと幸せな顔をしているはず、だから。ぽかぽかの幸せな気持ちをお裾分けしてもらえそう」
そうセイヤが言葉を紡げば、エリクシアはちょっと驚いたような顔をした。
「見ているだけで、構わないのですか?」
「うん。幸せな人たちを見てるだけでも僕は幸せ、だよ?」
セイヤが答えると、エリクシアは嬉しげに微笑んだ。
「セイヤ様は本当に、心優しくていらっしゃる」
エリクシアが自分のことのように誇らしげに言ったので、セイヤの心はちくりと痛んだ。本当は――本当は、エリクシアと一緒にアーチを潜りたいという気持ちがあったから。
(けど、やっぱり親しい人が潜るっていうのがあるから……)
一緒に潜ろう、と告げるには、まだ少し勇気が足りなくて。『誓いの門』に、不思議で幸せな言い伝えを持つフラワーアーチに、セイヤは静かに願いをかける。
(またエリクと来れますように。それから、次に来た時はちゃんとエリクと『誓いの門』を潜れますように)
想いはちゃんと、縁紡ぐ門に届いただろうか。きっと届いたはず、届いていてほしいとセイヤは祈るように思う。
「セイヤ様」
エリクシアが、言った。
「この祭りへ来ようと、声をかけてくださって本当にありがとうございました。セイヤ様は私に、たくさんの幸せをくださいます。セイヤ様と過ごす時間を、私はとても大切に思います」
機会があればまたこの町を訪れたいですねと、エリクシアは笑った。その笑顔は、セイヤには咲き誇る花々よりも眩しくて。胸がまた、とくんと鳴る。
「僕も……僕も、ね。エリクと一緒に過ごす時間を、宝物みたいに思ってるの」
「ありがたいお言葉です。僭越ながら……お揃い、ですね」
エリクシアの悪戯っぽい物言いに、セイヤも頬を緩めた。
「うん。お揃い、だね」
にこりと笑み返しながら、セイヤは密かに思う。次にここへ来た時には、その時にはこの急にドキドキしてしまう病気も少しは良くなってるといいなあ、と。
その時には少年はもう、自分の気持ちに気づいているだろうか。それはまだ誰も知らない、いつかの先の物語。

『誓いの門』はすべてを見ていた。
そうして、この場所を訪れた人たちが幸福であるようにと、静かに静かに祈っていた。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 巴めろ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 2 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 04月11日
出発日 04月18日 00:00
予定納品日 04月28日

参加者

会議室

  • [2]セイヤ・ツァーリス

    2014/04/16-10:20 

    セイヤです。
    よろしくおねがいします。

    お花のカップケーキがおいしそうだなーっておもってます。
    広場もみてまわりたいなっ

  • [1]セラフィム・ロイス

    2014/04/16-01:19 

    どうも。セラフィムだ。
    母親の影響で花は好きなんだ。楽しめればいいと思うよ
    メインは散策を予定してるが・・・さて


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