鏡の迷宮で抱き留めて(Motoki マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 タブロス市郊外に移動遊園地がやってきたとの噂を聞いて、あなたは精霊と共に仲良く出掛ける。
 メリーゴーランドに観覧車、小動物と触れ合える広場を巡って、あなた達は『Mirror Labyrinth』と看板のかかった大きなテントの前に立った。
「いらっしゃいませー! おやっ、恋人同士さんですかぃ?」
 入口に立つ案内人の男が、この『迷宮』の楽しみ方を教えてくれる。

「この迷宮には、北の入口と南の入口があるんです。恋人同士ならば別々の入口から入り、中で巡り合って一緒にゴールを目指すって楽しみ方があるんでさぁ。探すのは『出口』だけじゃなく、『恋人』もってワケでね。一緒に入るより出逢えた時の感動もあって、面白いでしょ」
 男は肩を竦めるように笑う。
「さぁさぁ、入って下さるなら左右に別れて。それぞれの入口からどーぞ」
 元気な男にノせられて、あなた達は別々の入口から入る事となった。

 左右も前方も天井も鏡で、あなたはキョロキョロと見回しながら迷宮を進む。
 角を曲がった途端、驚き立ち止まって、次の瞬間には小さく笑いを零してしまった。
 己の身長より大きくなったり、縮んだり。細くなったり、太くなったり……。
 様々な体型で映る鏡が、時折仕込まれているようだ。
 おもしろい、と色んな姿の自分に笑いながら、パートナーを捜して進んだ。

 色んな角度で様々な映り方をしている己を見ていると、鏡に『あるもの』が映った気がした。
 それは過去の――。

 心の奥底に、沈んでいたもの。

 そこにポタリと滴が落ちて、波紋を広げるように心をざわつかせた。
 目を見開いて、あなたは立ち止まる。

 その瞳に、映るのは――。

解説

●目的
神人から湧き出した過去の『トラウマ』を、精霊に抱き留めてもらう。

※トラウマ自体を話さなくても、トラウマから発生した感情(不安や悲しみ、怒りなど)が安らぎに変われば『成功』となります。
 また、親密度によっては成功しない場合もございます。ご了承下さい。

●神人
鏡には、『何』が映っていましたか? 
トラウマを呼び起こされて、1度立ち止まったあなたはどうしますか?
精霊を懸命に捜しますか?
それとも次の一歩を踏み出せないですか?
見つけてくれる筈と信じて願い、その場で待ちますか?
精霊と出逢えたなら、どんな感情でどんな行動をとりますか?
そしてトラウマを、言葉にする事が出来ますか?


●精霊
神人がそんな事になっているとは、何も知らないあなたは……。
どんな事を思いながら、パートナーを捜していますか?
見つけたパートナーの様子を見て、どう感じどうしますか?
どうやって『トラウマ』を抱き留めてあげますか? 
ゆっくりと話を聞いてあげますか? 
その感情を取り除くため、抱き締めてあげますか?

●リザルトノベル
1.神人に『トラウマ』が湧き出した場面と、精霊が神人を捜し迷宮を進む場面。
2.2人が出会えてからの場面。
上記の2部構成となります。

・他の参加者と会う事はありません。

●入場料
1組につき、400Jr戴きます。

ゲームマスターより

皆様こんにちは、女性側では初めましてとなります、Motokiです。
どうぞよろしくお願い致します。

トラウマという程ではないですが、時々過去の恥ずかしい体験を思い出して叫びそうになる事があります。
嫌な思い出が、蘇ったりとか。
誰かがそんな時、癒してくれたら幸せになれるのに! とか思います。

そんな訳で。

皆様の素敵なプラン、お待ちしております!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

かのん(天藍)

  一緒に来たのに別行動って何だか変な感じです
…1人は少し寂しいですね


十数年前両親を亡くした後、自宅に自分以外の存在がなく孤独を感じ、1人取り残されてしまったとぽつんと佇む姿

…やだ、1人きりなのはもうずっと前に慣れたと思っていたのに
思い出した胸の痛みを抑えるように両腕で自身の体を抱えるように立ちすくむ

合流した天藍の心配そうな様子に
両親を亡くした直後の自分を見た事を話す
あの頃は…
いえ、顕現して天藍に出会うまで、ずっと1人なのだと思っていましたから
抱き寄せられた天藍の体に顔を寄せ温もりに安堵の息をつく

天藍と一緒にいる事の温かさや安心する気持を当たり前に思わないように戒めなのかもしれないですねと微苦笑



ソノラ・バレンシア(飛鳥・マクレーランド)
  こーいうの楽しそうじゃん?と思って入ったのはいいけど…
ふぅん、結構面白いかも
きょろきょろ見回しながら進むと、視界の端に朱色が映った気がした
あ…れ…?

思わず足が竦む。その場に座り込む
忘れてた…ううん、忘れようとしていた記憶が蘇る

平気だと思ってた
もう立ち直ったと思ってた
それなのに

飛鳥の声が聞こえた
私の名前を読んでいる

顔を上げる
「あ…す、か…」
飛鳥を呼ぼうとしても声が上手く出ない

それでも彼は私を見つけてくれて
泣いちゃいけないとこらえる私は、初めて飛鳥に出会った時と同じだった

「嫌なこと…思い、出して」
何とか声を搾り出す

彼が私の頭に手を乗せる
妙に安心して、思わず飛鳥に抱きついた
堪えてた涙がこぼれてしまう



アイリス・ケリー(ラルク・ラエビガータ)
  鏡ばかり…名前通りですね
色んな鏡があって面白いですが、先へ進みましょうか

昔の私と、もう一人は…
今の私と同じ髪と目の色、でも私じゃない…あれは姉様…!
これは、姉様が死んだ日の光景
私が守らなくてはいけなかったのに、私を庇って、私の腕の中で死んでしまった姉様
姉様の体温が失われていくあの感覚を思い出して、身動きが取れなくなってしまう

目を閉じて、耳を塞いで蹲ったまま震えていたら…
ラルクさんの声を聞くだけでほっとするものなんですね

何も聞かないんですね
ふふ、ラルクさんらしい
でも、こんなにも優しい手つきで撫でれる方だとは知りませでした
温かい…もう少しだけ、このままでいさせてください
…それはご遠慮します


水瀬 夏織(上山 樹)
  鏡に映っていたのは、前髪が目元まである自分
学生時代に暗い、気持ち悪いと罵られた過去の自分

急速に冷えていく心
傷付かないように心を抑え込み何の感情も浮かばなくなる
同時に足も止まる
じっと鏡に映る者を見つめ何も考えないようにする

相手に気付くと、前髪をかき分け無理やり笑顔を作ろうとする

すみません、気付くのが遅れてしまって

これまでの関係から、相手も自分の事を疎ましく思っているのではと思う
表情も失われて

大丈夫です
少し、嫌な事を思い出してしまって

再度目にする鏡に身を強張らせる

何でもありません
なんでも…

相手の無表情に愕然とする
自然と涙がこぼれ、拭う事もなく頬を伝う

上山、さん…?

頬に添えられた手に縋る様に泣く



和泉 羽海(セララ)
  アドリブ歓迎

トラウマ:
幼い頃仲が良かった友達
声が出なくなって意思疎通ができず疎遠になった

な、なんで…今さら…こんなこと思い出すの…?
ずっと忘れてたのに…
あの子が悪いわけじゃないの
碌に話もできないあたしといたって、誰だって「つまらない」もの
だから…みんな、あたしから離れていく…そんなの当然…だもん…

鏡を見たくなくて、早足で出口に向かう
精霊に何か話そうとするが、言葉にならず絶句

そうだ、あたし話せないんだった…
この人も…いつか、あの子と同じように…
あたしが…してほしいこと…?

『おいていかないで(口パク)』

握り返してくれる手に安堵
あたしには…不釣り合いだってわかってるけど…
この手は離したくない、な…


●Abyss of sorrow
(へぇ……鏡ばかり)
 その名前通りの空間を見回し、色んな鏡がある事を面白く感じながら進むアイリス・ケリーは、正面に現れた鏡に足を止める。
 今までと違う映り方に、目を瞠った。

 ――あれは。
 昔の私……?
 それと。

 栗色の髪に、エメラルドグリーンの瞳。
 今の、私の色。けれど違う、私じゃない。
 あれは――。

(姉様……!)

 私が守らなければいけなかった、大切な人。
 なのに私を庇い、私の、この、腕の中で……。
 綺麗な緑は光を失って、2度と私を見てくれなくなって――。

 手が、冷たい。
 腕の中で体温が失われてゆくあの感覚が、甦る。
 もう、見たくない、景色のはずなのに。足が動いてくれない。
 体も、動かない。
(もう――)
 震える手が、何とか己の耳を塞いだ。

(片手をついて歩けば必ず出口へ辿り着けるってもんだが……)
 歩きながらリズムを取るように鏡を弾いていた指先を、ラルク・ラエビガータはヒョイと離す。
「その前に、あの女を探さにゃならんか」
 軽く息を吐いて、先程のままであれば右に曲がる角を、左へと折れた。
(鏡の迷宮なんて名前だと聞こえはいいが、実際入ってみると気味が悪いな)
 幾重にも映る自分が、呆れたような表情をしている。
 そうして、肩を竦めた。
 ――ま、あの女は面白がりそうだが。

●Child of sorrow
(な、なんで……今さら……こんなこと思い出すの……?)
 顔面蒼白の和泉羽海は、ずっと忘れてたのに、と鏡を凝視しながら心の奥底で震えていた。
 ――あの子が、悪いわけじゃないの。
 幼い頃、仲の良かった友達。
 声が、出なくなって。それは、子供の自分達には意思の疎通が出来なくなるという事で。
 そうしたら自然に、疎遠になっていた。
 鏡に映る、困った顔。
 つまらなそうな顔。
 イラついているのを我慢しているような顔。
 そうして――。
 顔に重なって見えたのは、遠ざかってゆくあの子の背中。

 碌に話もできないあたしといたって、誰だって「つまらない」。
 だから……みんな、あたしから離れていく……。

「…………」
 俯いて、きつく目を瞑った。
(そんなの、当然……だもん……)
 キュッと下唇を噛んで、足を勢い良く踏み出す。
 鏡なんて、見たくない――。
 俯きかげんのまま、足早に歩を進めた。

(うーん、意外と難敵だよねぇ鏡の迷宮って)
 1度通ったような気がする分かれ道に立って、セララは左右を見回す。
 んー? と顎に人差し指をあて首を傾げて、「うんコッチ」と何の根拠も無いが右に折れた。
 でもさ、と『その瞬間』を想像する。
(迷った分だけ、出会えた時の感動も高まるよね!)
 その上、四面を羽海ちゃんに囲まれるという!

 ――楽園か、ここは!

 感極まって、よーし早く見つけ……と駆け出したセララには、恋の試練。
「いだっ!」
 ゴォォーンッ!!
 大きな音が響くと同時、額を両手で押さえ、蹲った。

●Vermilion of scenery
 こーいうの楽しそうじゃん?
 ソノラ・バレンシアは、そんな軽い調子でこの迷宮へと足を踏み入れていた。
(ふぅん、結構面白いかも)
 見た目よりも難関なそこは、簡単には攻略出来るものでもないらしい。
 幾つ目かの角を曲がりながら、きょろきょろと囲む鏡を見回した。

 ――あ……れ……?

 見回した視界の端に朱色が走った気がして、視線を戻した。
 その鏡に映るものに、息を飲む。
 竦んだ足が力を失って、ガクリとその場に座り込んだ。
 床に、付いた両手。見開いたままの瞳は、『忘れて』いた記憶を映していた。

 ……ううん、違う。
 『忘れよう』と、していたんだ。

 それは、朱色の記憶。
 揺れる金瞳は、平気だと思っていた心が偽りであった事を気付かせる。
 顔を上げぬままの肩が、小刻みに震えていた。
(もう立ち直ったと、思ってた)
 それなのに――。

(――まったく、早いとこ見つけてとっとと出るとするか)
 ソノラに半分無理矢理付き合わされた飛鳥・マクレーランドは、息をつきながら迷宮を進む。
 呆れ気味に歩きながらも、四方に視線を投げる事は怠らなかった。
 これで彼女が少しでも映り込んだなら、すぐに見つけられるだろう。

●False smile
 迷宮を進む水瀬夏織の前、鏡の中に現れたのは、前髪が目元まである少女。

 それは学生時代、「暗い」「気持ち悪い」と罵られた過去の自分だった。
 急速に、心が冷えてゆく。
 傷付かぬよう夏織が無意識に己へと命じたのは、心を抑え込み感情を浮かばなくする事。
 止まった足はそのままに、じっと鏡に映る『彼女』を見つめ続けた。

 閉ざした心は、何も考えない。
 僅かに見開いたままの瞳からも、光が消えていく。

 まるでその場に、留めようとするように――。
 過去の自分が手を伸ばし、背後から捕らえて引き戻そうとしているような気がした。

 鏡と向き合ったままの夏織は、何も、考えない。

(面倒だな……)
 パートナーから連れ出されてこの迷宮に入る事になった上山樹は、少々浮かぶそんな感情を誤魔化す事なく歩を進める。
 鏡に映るその顔は感情のままに、いつも人前で見せる人当たりの良い笑みは消えていた。
 どうせ誰も見ていないのだ。そんな事に、労力を使う必要もなかった。

●Lonesome
(一緒に来たのに別行動って何だか変な感じです)
 ぼんやりとそんな事を思いながら歩くかのんは、時折後ろを振り返る。
 前にも、後ろにも、人の気配は無い。
 道が分かれる場所に立ち横を向いてみても、誰かの気配は感じられなかった。
 緩められた口元が、微笑をカタチ取る。
 僅かに俯くその横顔を、思いすらも、鏡が映していた。
(……1人は少し、寂しいですね)

 気配を感じ、視線を向けた鏡に見るのは、ぽつんと佇む10年前の己の姿。
 両親が、亡くなって。自宅に自分以外の存在がなくて、只、孤独だった。
 1人取り残されてしまったと、そう感じていた少女。

(……やだ、1人きりなのはもうずっと前に慣れたと思っていたのに)
 再び湧き上がった胸の痛みを抑えるように、かのんは両腕で己の体を抱え、立ち竦んでいた。

(待ち合わせとはまた違うがこういう趣向も面白いな)
 楽しみながら歩く天藍は、正面にある鏡に己の横顔が映っている事を不思議がる。
「どうなってるんだ?」
 顔を近付けた鏡は、驚く横顔を映していた。
 そうしていれば、不意に「かのんはどの辺りにいるのだろうか?」と浮かぶ。
 不思議とその思いは大きくなって、気配を探りながら恋人を捜し始めた。

 ――何だ、これ。

 四方を見渡しながら、一刻も早く彼女の傍に行かなくてはならないような気がするのは、この胸騒ぎのせいなのか。
 周りに人の姿はこんなにも多く存在するのに、結局は1人だけを映している。

 1人生きる事や辛さを話してくれた、カノンの顔が浮かんでいた。

●Spilling smile
「…………」
 目を閉じ耳を塞いだまま、蹲り震えるアイリスを見つけたラルクは、一瞬足を止める。
(この女が取り乱すとしたら姉貴絡みのことだと分かっちゃいるが、今回は重症そうだな)
 そう感じながらも、ラルクは普段通り。慌ても動揺もせず、アリイスの前へとしゃがんだ。
「よう、女王様。ご機嫌はどんなもんだ?」
 少し遅れて、軽口は耳へと届く。ゆっくりと目を見開いたアイリスが、顔を上げた。
 本人は気付いているのか、いないのか。その頬を涙が伝っていた。
「ラルクさんの声を聞くだけで、ほっとするものなんですね」
 そう言って目元を緩めたアイリスに、溜め息をひとつ吐く。
 落ち着くまで待ってやるか、とゆるり伸びた手が頭を撫でた。

「……何も、聞かないんですね」
 呟けば、呆れたようにカーマインの瞳を逸らし、撫でていない方の手でラルクは顎を支える。
「アンタがそうなってる原因は分かってんだ。なら聞くことは何も無いだろ。――慰めるなんぞ俺の性に合わないしな」
 最後の言葉は、ついでのように付け足された。
「ふふ、ラルクさんらしい」
 やっと、本物の笑みが零れる。
 ポンポン、ポンポン。
 撫でているというよりは宥めるように乗せてくる掌も、彼らしいと思った。
 それがゆっくりと、髪の流れに沿うように動かされる。
「でも、こんなにも優しい手つきで撫でれる方だとは知りませんでした」
「そりゃ、人を撫でるなんざこれが初めてだからな」
 肩を竦める相手に、「温かい」とアイリスの声が洩れた。
「……もう少しだけ、このままでいさせてください」
 いいぜ、と頷きながら、手触りの良さを気に入っている自分がいる。
「なんなら月に連れてってやろうか?」
 ついでの如くさり気に、聞いてやった。
「……それはご遠慮します」
 ちらり見上げてきたエメラルドグリーンに、クッと肩を揺らす。
「お、意味知ってたか」
 少し恨めしげにも見える相手の反応を楽しむように、悪戯っぽく精霊が笑った。

●A small wish
 進むセララの前を、足早に人影が過ぎって行く。
「――――!」
 その猛然とした勢いに驚きながらも、その横顔が誰かを確認したセララは、慌てて手を伸ばした。
「ど、どうしたの羽海ちゃん!? そんなにオレに会いたかったの!?」
 腕を掴んで引き留めれば、神人は弾かれたように驚き振り返る。
 何かを話そうとするように口を何度も開き震わせた羽海は、それが叶わず、キュッと胸の前で両手を握った。
(そうだ、あたし話せないんだった……)
 そう自覚すれば、目の前の相手の顔が見れなくなる。

 ――この人も……いつか、あの子と同じように……。
 そう考えただけで、心と体が凍えた。

(……軽口に怒らないなんて、本当に何かあったんだ)
 心配するセララは、羽海の顔を覗き込む。

 ――超可愛いっ!

 じゃなくて。と、自分を落ち着けて、もう1度確認する。
 俯いたまま自分と視線を合わせない神人は、顔色も悪く、具合が悪いように見えた。
「大丈夫? 何かしてほしいことある?」
 問いかけるセララに、紫色の瞳が揺れた。
 ――あたしが……してほしいこと……?
 不思議とその言葉は、セララの声のまま羽海の心にストンと入ってくる。
 戸惑うように、何度か睫を揺らして。縋るように瞳を上げた。

『おいてかないで』

 声は変わらず出ぬままで。
 それでも懸命の羽海の『言葉』に、セララの瞳が僅かに見開かれる。
 普段らしからぬお願いに驚きつつも、それを見せる事なく精霊はいつも通りの笑顔を浮かべた。
「うん、じゃあ一緒に行こう」
 差し延べた手には、少女の白い手がゆっくりと乗せられる。
「たぶんコッチ」
 破顔したセララは先を歩き、改めて出口を探した。
 手を繋いだままで他愛もない話を一方的に喋っては、羽海の表情が和らいでいく事を鏡越しに確認する。
 鏡を通して目が合えば、にっこりと笑った。
「あ!」
 発見した出口は、鏡が外の陽光を集め反射し、光に満ちている。
「行こう!」
 スピードを上げたセララに、羽海は僅かに力を込める。
 当然のように握り返してくれる手に、安堵した。
(あたしには……不釣り合いだってわかってるけど……)
 前を行く金色が、風に靡いて眩しい。
 ――この手は離したくない、な……。
 羽海の為に早く出口へと急ぐセララは、やっぱり寂しかったんだ、とひとり納得していた。
(本当もう、可愛いんだから)

●Vow revived
 歩き進む先に神人の姿を見つけた飛鳥は、僅かに眉を寄せる。
 鏡に映ったその様子が、おかしかった。
 嫌な胸騒ぎに、足を踏み出す。
「ソノラ!」
 呼びかけ駆け寄ろうとすれば、鏡が立ち塞がり邪魔をした。
「くそっ!」
 もどかしさに拳を鏡にあて、神人を捜し進む向きを変えた。

 聞こえた自分を呼ぶ声に、ソノラはゆっくりと顔を上げる。
 ――あの、声は。
「あ……す、か……」
 呼ぼうとするが、声が掠れて上手くいかなかった。

「ソノラ!」
 それでも何とか見つけ、神人の傍に辿り着く。すぐさま名を呼んだ飛鳥の名を、彼女も繰り返していた。
「……あ、す……」
 震えようとする唇を結ぶ。
 声を出せば、涙が零れてしまいそうで――。
 懸命に泣いちゃいけないと堪えるソノラのその顔は、飛鳥と初めて会った時と同じであった。

 両親が目の前で殺されて。それでも泣くのを堪えて、当時賞金稼ぎをしていた飛鳥の元へと来た時と。

 ――同じだ。
 なんて言ってやればいいのかが、分からない。

「嫌なこと……思い、出して」
 何とか声を搾り出した彼女に、「ああ」と言葉少なに答えた。
「大丈夫だ」
 それだけを伝えて、彼女の頭を撫でる。
 キュッと、唇を噛んで。ソノラが更に顔を伏せた。
 震える手が、何かを探すように伸ばされる。飛鳥の服を両手で掴んで、凭れるように頭を寄せた。
「ふっ……」
 何だか妙に安心して、堪えていた涙が零れてしまった。
 1度零れた涙は、次から次へと溢れてくる。
 飛鳥の服を強く握りながら、それを止める事が出来なかった。

 不安だったんだろう、と飛鳥は感じ取る。
 その背を抱き締めてやりたくもあったが、今は、これまで見せなかった涙を見せられるようになっただけでも、彼女の何かを楽にさせられたのかもしれない、とも思う。
 これからも共に在り、一緒に過ごして、築いていくべきもの。
 それが見えた気がした。
 今はせめて、と。支えるように肩へと手を添えてやる。
(こいつを守る……)
 そう、密かに誓った言葉を、心の中で思い出しながら――。

●See through
 見つけた夏織の何の感情も浮かばぬ顔を見て、樹は僅かな高揚感を覚える。
 今まで、暗い面を見せてこなかった彼女に何があるのか――それが興味をひいた。
 気付かれぬようにし、無表情でそれを眺める。
 そうして彼女の更なる『負』の感情を、観察したくなった。

 近付いて来る足音に気付き、夏織の瞳は色を取り戻していく。
 足音の主が樹だと知ると、前髪をかき分け、無理やり笑顔を作ろうとした。
「すみません、気付くのが遅れてしまって」
 それには緩やかに口角を上げ、いつもの笑みを樹が浮かべる。
「見つかって良かったよ、水瀬。大丈夫かい?」
 心配そうな振りで顔を覗き込んで、彼女が見つめていた鏡を一瞥した。
「……大丈夫です。少し、嫌な事を思い出してしまって」
 そう繕いながらも、夏織は疑念を抱かずにはいられない。

(上山さんも自分の事を疎ましく思っているのでは……)

 これまでの関係を考えても、そう思ってしまう。
 表情が失われてゆく彼女に笑みを深めると、樹はそっと夏織の手を取り鏡の前へと連れて行く。
 彼女の足が重い事にも、絡まりそうになっている事にも、気付きながら、気付かぬ振りをした。
「そう。……嫌な事って何だろうね?」
 夏織を前に立たせた樹が、背後から耳元へと囁く。
 鏡を凝視し身を強張らせる彼女を、樹は鏡越しに見つめていた。

 ――いつも優しげな夏織の全身から、表情を奪う程の『何か』。
 非常に興味をそそられる。

「何でもありません。なんでも……」
 振り返りそう告げた夏織は、自分を見つめる相手の無表情に愕然とした。
 知らず、涙が零れていた。
 拭われる事もなく頬を伝う雫は、ポトリ、ポトリ、と床へと落ちてゆく。
 それでも瞳は、相手の顔から離せずにいた。
「水瀬と僕は『違う』人間だけど、こういう水瀬は嫌いじゃないよ」
 無表情のままでそっと、指だけで彼女の頬に触れる。
 まだ、幾つか任務をこなしただけの間柄。
(撫でるのは、もう少し――)
「上山、さん……?」
 呟いた夏織の指先が、「離してほしくない」とでも言いたげに指に触れてくる。
 こんな僅かな接触に、彼女は縋るように泣く。

 ――『綺麗』だ、水瀬。

 囁かれた言葉。
 指は彼女の願うままとなり、樹は無表情のまま、そんな彼女を見つめていた。

●Your warmth
 立ち竦んだままのかのんの前には、『恋人』が現れる。
 勢い良く角を曲がってきた天藍は、真っ直ぐとかのんへと駆け寄った。
「大丈夫か」
 不安を抱える辛そうなその表情に、何があったのかを尋ねる。
 心配そうな様子の相手へと、かのんは鏡に映ったものの話をした。

 信頼は、これ以上ない程に。
 だから素直に、全てを話せる。

 見たのは、両親を亡くした直後の自分であったと――。

「あの頃は……」
 そう言いかけて、首を横に振った。
「いえ、顕現して天藍に出会うまでは、ずっと1人なのだと思っていましたから」
 自嘲気味に話す彼女を見て、居た堪れなくなる。
 右手でかのんの体を引き寄せると、その腕の中へと収めた。
「見つけるのが遅くなってすまない」
「天藍が気に病む事ではないですよ」
 心から、そう思っているのだろう言葉。
「それでも傍にいれば、見ずに済んだかもしれないだろう」
 抱く右腕はそのままに、天藍の左手が、かのんの手を握った。
 天藍が抱くままに、手を握るままに、かのんは身をゆだねる。
「天藍と一緒にいる事の温かさや安心する気持を当たり前に思わないように、戒めなのかもしれないですね」
 そんな風に微苦笑を浮かべる彼女の、心の奥底に沈んだままの孤独。

 それを振り払えたなら、どんなにか、と思う。
 いつか――。
 それは自分にしか出来ぬことであるだろう。
 その重大さを胸に、己の存在を彼女に示すように、天藍は腕に力を込めた。

 頬を寄せた彼からは、天藍の鼓動の音が聞こえた。
 自分の鼓動もそれと合わせるように、自然と穏やかなものへと変わっていく。

 ――このあたたかな、温もりが。
 震える体をゆっくりとほぐしてくれる。

 どんな時かまた、この孤独は不意に甦るのだろう。
 たった独りで暗い家で影を落とし、不安に佇んでいた過去の自分。

 けれど未来には、こうして心安らげる相手が共にいてくれるから――。

 かのんは天藍の胸で安堵の息をつき、穏やかに瞼を閉じていた。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター Motoki
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル シリアス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月03日
出発日 10月10日 00:00
予定納品日 10月20日

参加者

会議室

  • [6]かのん

    2015/10/09-21:14 

  • [5]アイリス・ケリー

    2015/10/09-14:49 

    遅くなりました。
    アイリス・ケリーとラルクです。
    羽海さんとセララさん、夏織さんと樹さん、ソノラさんと飛鳥さんは初めまして。
    かのんさんはお久しぶりです。
    現地でご一緒することはありませんが、どうぞよろしくお願い致します。

  • [4]かのん

    2015/10/08-22:42 

    こんにちは、かのんです
    こちらはパートナーの天藍、どうぞよろしくお願いします

  • [3]和泉 羽海

    2015/10/08-22:23 

    はろはろ~可愛い羽海ちゃんとセララ君だよ~
    よろしくねー!

  • [2]ソノラ・バレンシア

    2015/10/07-10:32 

    おっと挨拶忘れてた、ソノラさんですよー。
    よろしくよろしくーっ

  • [1]水瀬 夏織

    2015/10/06-20:53 

    こんにちは、水瀬と申します。
    こちらはパートナーの上山さんです。
    よろしくお願いいたしますね。


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