お月見祭りにうさ耳は揺れる(巴めろ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●おいでませ! うさ耳お月見祭りだぴょん!
「ちょっぴり時期外れだけれど、お月見祭りに興味はない?」
 そう言って、ミラクル・トラベル・カンパニーの青年ツアーコンダクターは小首を傾けて楽しそうに笑った。
「タブロス近郊のチェリコって村では毎年お月見祭りが開催されるんだけど、これがちょっと不思議なお祭りなんだ。会場の広場では皆、可愛いうさぎさんに変身することが義務付けられているのですぴょん!」
 このツアーコンダクター、ノリノリである。頭の上に両手をぺこり、うさぎの耳を作って言うことには。
「チェリコ村のお月見祭りでは、広場に入る前に必ずうさ耳カチューシャかうさ耳頭巾を着用しなくちゃいけないのね? それで、広場にいる間は絶対に語尾に『~ぴょん』をつけて喋らなくっちゃ駄目! っていうルールがあるんだぴょん」
 何でも件の村には、満月の夜、兎をお供に連れて村を訪れた魔法使いが村を救ったという言い伝えがあるそうで。お月見祭りは、その魔法使いへの感謝をいつまでも忘れずに語り継いでいくために行われているらしい。多少強引だが、毎年欠かさずぴょんぴょん言っていたら確かに色んな意味でそのおとぎ話のような言い伝えは忘れ難い……かもしれない。
「ちなみに今年の祭りの開催が遅れたのは、フェスタ・ラ・ジェンマのお祝いに明け暮れていたからみたい」
 どうやら、数年に一度の大祭を盛大に祝わずにはいられなかったらしい。どこまでもお祭り好きな村である。
「あっ、広場に入るのに必要なうさ耳は、村へ着いた時に無料で貸し出してもらえるよ!」
 但し、そのうさ耳、古い古い魔法の力が込められたちょっと、いや、かなり厄介な代物で。
「語尾に『~ぴょん』を付けずに喋ると、右の手の甲に、うさぎさんマークが現れまーす」
 更に、それを無視して言葉を続けると、
「ふわもこラブリーな本物のうさぎさんになっちゃうんだよ! 不思議だよね! わくわくするよね!」
 わくわくするかげんなりするかは人によりそうだが、ともかくも兎になってしまうと、人間の言葉は喋れるものの語尾が強制的に『~ぴょん』になってしまうというオプション付きだ。魔法の効力がおよそ数十分で切れるのも、あっという間と取るか地獄のようだと解するかはその人次第。
「それと! チェリコ村のお月見祭りっていうと『満月プリン』っていうこだわりとろとろ金色プリンが有名なんだけどね、今年は村のお菓子屋さんが、屋台にお月見団子も並べるらしいよ! こっちもきっと絶品な予感っ!」
 プリンと一緒に屋台に並ぶその名も『満月団子』は、滑らかでありながらコシのあるもっちもちの串団子に、村から見える満月と同じ色をしたたっぷりかぼちゃ餡を乗せたお菓子屋さんの自信作だ。和洋の甘味を口に楽しみながらのお月見は、きっと村で過ごす時間を彩ってくれるだろう。
「というこのツアー、お値段はウィンクルムさまお一組様につき300ジェールとなっていますだぴょん!」
 どうぞ心に残る時間をと、青年ツアーコンダクターはにっこりとした。

解説

●今回のツアーについて
チェリコ村の不思議なお月見祭りを満喫していただければと幸いです。
ツアーのお値段はウィンクルムさまお一組につき300ジェール。
(プリンやお団子をお買い求めの場合、そちらは別料金となります)
ツアーバスで首都タブロスを出発し、日が暮れてから村へ着きます。
数時間の自由時間の後夜行バスでタブロスへ戻るツアーです。
また、昨年のお月見祭りの様子を『月に兎が跳ねる夜』にてご確認いただくことができますが、ご参照いただかなくとも今年のお祭りを楽しんでいただくのに支障はございません。

●魔法のうさ耳について
祭りの日に村の入り口にて無料で貸し出される不思議なうさ耳。
詳細は、プロローグにてご確認願いますようお願いいたします。
カチューシャタイプと、耳の形状に特徴のある精霊さんでも装着しやすい頭巾タイプがありますが、種族に関わらずご希望の物をお選びください。
色々な色のうさ耳の中から好きな物を選んでいただくことができ、装備したうさ耳の色はうさぎさんになってしまった時の毛色となります。
ですので、色の希望がありましたら、プランにてご指定くださいませ。
ご指定ない場合は、村人が勝手にチョイスいたします。
また、うさぎさんになった際の瞳の色は普段の瞳の色準拠です。
うさぎさん時のサイズは一般的なうさぎさんをイメージください。

●屋台の食べ物とお月見について
ここでしか食べられない物として、ツアーコンダクターくんがご紹介している『満月プリン』と『満月団子』があります。
お買い求めは広場の屋台にて。どちらも1つ30ジェールです。
広場は絶好のお月見スポットですし、月と兎をあしらった愛らしいベンチも多数ありますので、甘味を楽しむのにも月を見るのにも最適です。

●プランについて
公序良俗に反するプランは描写いたしかねますのでご注意ください。
また、白紙プランは極端に描写が薄くなってしまいますので、お気を付けくださいませ。

ゲームマスターより

お世話になっております、巴めろですぴょん。
このページを開いてくださり、ありがとうございますぴょん!

少し時期は少し過ぎてしまいましたが、ちょっと変わったお月見のお誘いですぴょん。
本物のうさぎさんに変身するもよし、可愛い語尾を貫き通して人間の姿を死守するもよしですぴょん。
うさぎさんになってしまったパートナーと戯れたりぴょんぴょん言いながらまったりお月見を満喫したりその他色んな楽しみ方ができるかと思いますので、皆さまらしい、それぞれの心に残る時間を過ごしていただけますと幸いですぴょん。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたしますぴょん!

また、余談ですがGMページにちょっとした近況を載せておりますぴょん。
こちらもよろしくお願いいたしますぴょん。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

俊・ブルックス(ネカット・グラキエス)

  ぴ、ぴょん…
絶対嫌だ、誰がそんなこと言うか
カチューシャだけでも嫌なのにそんなことを口走るくらいなら…
俺はウサギになる!

意地張ってたら即変身してしまう
茶色のネザーランドドワーフっぽい種

本当にウサギになっちまったぴょん…ん?
強制的にぴょん!?
くそっ、もう俺喋らねえ!ぴょん!

以下黙る

ネカがしょんぼりしてるな…でも喋るの嫌だしな…
祭りもネカと出かけるのも嫌じゃないんだが…そうだ
ネカの膝に飛び乗って鼻頭を摺り寄せる
これで分かってくれるか?

腕に飛び込んでおとなしく撫でられる
今人間に戻ったら羞恥で死ねるな…
でも俺、今ウサギだし
ネカはあったかいし
もう少しだけ、こうしててもいいよな?

プリン、お団子1つずつ購入



萌葱(蘇芳)
  満月プリンに満月団子って、とってもおいしそう!
お月見ばんざーい、だぴょん?
面白いし美味しそうだしで、うさ耳にもぴょんの語尾にも躊躇ナシ
むしろ面白がって使う
村の入口で2人分のカチューシャ受け取りいそいそと装着

まずはどっちを買ったら良いと思うぴょん?
って、蘇芳~、いくら何でも兎化早すぎぴょん
ん~、もふもふだぴょん
迷子になったら困るから、抱っこしていくんだぴょん
(蘇芳の抗議は聞こえちゃいない)

月がよく見える所で2人分買ったプリンと団子に舌鼓
おいしー幸せなだねぇぴょん
こっちは蘇芳が人型に戻ったら食べる分だぴょん
あ、待ちきれないなら味見するぴょん?

ほんとは一緒に食べられたらもっと美味しいんだと思うぴょん



カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
  ※黒、ロップイヤーのカチューシャタイプ装着

「イェル、可愛いじゃねぇかぴょん」
本人がいっぱいいっぱいなのは、俺が原因だろうが
うさ耳装着もぴょん喋りもそういう決まりだろ

「月見祭りは前から興味あったぴょん」
正確には娘が生前行きたがってた、なんだが、それは言わず、祭を楽しむ

「美味そうぴょん」
※団子購入
並んで月見ながら食う

「イェルのプリンも一口食べてみてぇぴょん。食わせろぴょん」
別にあーんしろとは言ってねぇけど、いいや
硬直してるなら、少し借りるぞ
※手首掴んで、スプーンを引き寄せてプリンを食べる
「こっちも美味いぴょん」
あ、イェルがピャアアアした
…レベル4程度だな
※ピャアアア=恥ずかしがってる
尚、5段階評価



鳥飼(隼)
  薄茶のカチューシャ。(髪と同色

お団子を2つ買って、ベンチで隼さんと食べます。
飲み物もあれば買います。勿論2つ。
隼さんは口数が少ないです。村に来てから一言も喋ってません。

うさ耳は髪の色に合わせたので、隼さんも頭だけだと違和感は無いです。
全身で見ると、なんか違いますね。(これじゃない感じ
のんびりもいいですけど、折角兎になれるんですし。(一つ頷く
「隼さん。僕、兎を体験してみますね」(にっこり笑う

「すごいですぴょん。兎ですぴょん」(前足を見て
「隼さん、兎視点だともっと大きいですぴょん」
男らしくて羨ましいです。
あ、れ?
元に戻ったら膝の上になりますよ?

撫でられるのは、すごく久しぶりです。(心地よさに微睡む


アイオライト・セプテンバー(ヴァンデミエール)
  じーじと一緒にお月見うさぎだぴょん☆
あたし、うさ耳ピンクにするー
じーじは水色
お揃いって感じがするぴょんっ♪

プリンもお団子も美味しそうぴょんっ
じゃ、あたしがプリンでじーじはお団子で、お散歩のあとにシェアしようぴょん
一緒に食べたら、もちもちあまあまで美味しさ2倍だぴょん

折角うさぎさんなんだから、じっとしていられないぴょん
(ジャンプジャンプ)…(ぐでっ)←やりすぎた
あーもー疲れたーーうさぎさんやめるのーーー
…あ(うさぎさんマーク
うさぎさんになっちゃった……
うさぎさんやめるって言ったところなのにーっ(だんだんっ←怒りのうさぎ地団駄
え、じーじがおやつ食べさせてくれるの?
ならそれでもいいや、えへ、あーん♪


●共に刻む時間
「すいません、お団子を2つ頂けますかぴょん?」
 屋台にて注文を告げる鳥飼の声は弾んでいる。頭の上で、髪の色と同じ薄茶のうさ耳がぽわんと揺れた。その様子を、隼は静かに眺める。幾らかのやり取りの後、2人分の『満月団子』を受け取った鳥飼は隼へと柔らかく笑み掛けた。
「隼さん、飲み物は置いてませんでしたが美味しそうなお団子が買えましたぴょん。ベンチで一緒に食べましょうぴょん」
 己の神人ににっこりとしてそう言われたので、隼は目だけで諾の返事をする。特別零す必要のある言葉も見つからず、先刻よりずっと、口を開くということをせずにいる隼だ。
(隼さんは口数が少ないです。村に来てから一言も喋ってません)
 等と思う鳥飼だが、ただそれでも、彼が祭りのしきたりに則ってきちんとうさ耳を装備してくれていることが何とはなしに嬉しくはあった。髪の色に合わせませんか? と鳥飼が選び取った白のカチューシャが、隼の頭に揺れる。
「髪の色に合っているので、頭だけだと違和感なしですぴょん」
「……」
「あ、でも、全身で見ると、なんか違いますね、ぴょん」
 これじゃない感じがすると素直な感想を漏らすも、隼は特に表情を変えない。似合うとも思えないうさ耳姿の自分を眺めて楽しそうに微笑する鳥飼の様子が、隼には不思議だった。
「あっ、あそこのベンチが空いてますよ、ぴょん。月がよく見えそうですぴょん」
 そう言って鳥飼が歩き出したので、やはり黙ったままで隼は彼の後に続く。そうして、2人並んで凝った意匠のベンチへと腰を下ろした。鳥飼が隼に差し出した串団子は、甘やかな黄色の餡を纏っている。
「わあ、美味しいですぴょん。隼さんも是非、ぴょん」
 早速団子を口にしたらしい鳥飼がそう促すので、隼はそれを、やはり黙して口に運んだ。味はなかなか良い、と小さく頷く隼。
(それにしても、主は何故、俺を祭りに誘ったのか)
 先より抱いている疑問の糸は、解けることがない。隼は強いて月を見上げることもなく、
(俺より小さい主は女のような外見だ。男と言っていたが。そうは見えない)
 と、傍らの鳥飼のことを考えた。
(美しい容姿は、性別の垣根が無いと聞いた事がある。それだろうか)
 そんなことをぽつぽつと思う隼の隣、鳥飼も甘味を口に楽しみながら思案事。
(のんびりもいいですけど、折角兎になれるんですし)
 一つ頷いて立ち上がると、「隼さん、ちょっといいですか?」と鳥飼は言葉を発した。語尾のことは気にしない。隼の視線が、呼ばれるままに鳥飼の方へと向けられる。
「僕、兎を体験してみますね」
 にこやかな笑みを見た、と隼が思った次の瞬間には、鳥飼はもう、薄茶の兎へと姿を変えていた。器用に自分の前足を眺めて、兎がはしゃぐ。
「すごいですぴょん。兎ですぴょん」
 今にも跳ねんばかりのその様子に、自然、兎の捌き方が頭に浮かんだ隼だが、今は必要のない知識だと緩く首を振ってその思考を追い出した。
「隼さん、兎視点だともっと大きいですぴょん」
 男らしくて羨ましいですぴょん、なんて、隼を見上げて続ける鳥飼の明るい声は、半分ほどは聞き流されていて。
(この妙な語尾をつけて話す兎が主……本当に兎になるのか。人の時より更に小さい)
 あまりにも小さすぎて踏んでしまいそうだと、隼は鳥飼兎をおもむろに持ち上げる。座り直して、神人が転じた兎は膝の上へ。
「あ、れ? 元に戻ったら膝の上になりますよ? ぴょん」
 これで踏んでしまうということもないだろうと思う隼は、やはり鳥飼の話をあまり聞いていない。更に言葉を続けようとする鳥飼だったが、その時、隼の手が背に伸びた。鳥飼兎の背を撫でる、武骨な手の温もり。
(撫でられるのは、すごく久しぶりです……)
 心地良さについうとうとと微睡めば、やっと大人しくなったと隼の唇から細く息が漏れる。
(神人、か)
 眠る兎を前に隼が胸の内にそう呟いたのもその呟きが含む意味も知らず、鳥飼兎はすやすやと寝息を立てるのだった。

●うさぎさんのきもち
「ぴ、ぴょん……」
「シュン、可愛いですよ、ぴょん」
 ネカット・グラキエスに誘われてやってきたお月見祭り。そこで俊・ブルックスは茶色のうさ耳を付けられ、挙句、脅しに近いような魔法の話を聞かされたのだった。口の中で小さく件の語尾を呟けば、それを耳聡く聞き付けたネカットがとてもいい笑顔で賛辞を送る。けれど、今の俊にはネカットの言葉もただただ恥ずかしいばかりだ。
「って、絶対嫌だ、誰がそんなこと言うか!」
「シュン、落ち着いてくださいぴょん。ほら、手の甲にうさぎさんマークが、ぴょん」
「カチューシャだけでも嫌なのにそんなことを口走るくらいなら……俺はウサギになる!」
 力強く言い切ったその途端、俊は自身の宣言通りに愛らしい兎さんに。ぬいぐるみみたいに小さな茶色いふわふわに転じてしまった俊の姿に、
「あっ、シュンがあっという間にウサギさんにぴょん」
 と、ネカットは深緑の瞳を瞬かせた。が、驚いても決して語尾は違えない。俊、低くなりすぎてしまった目線からネカットの頭に髪と同じ色のうさ耳が揺れるのをぐいと見上げて、次いで可愛い兎のおててに視線を落とし、呆然と声を零した。
「ほ、本当にウサギになっちまったぴょん……ん?」
 自身の口から漏れた聞き逃せない言葉に、俊は思い出す。
「そういや、ウサギになったら強制的にぴょん!? くそっ、もう俺喋らねえ! ぴょん!」
 ぷいっ! と拗ねたように横を向く俊兎。その場にしゃがみ込んで、ネカットは小首を傾げて俊兎へと話し掛けた。
「うーん……この催しはお気に召しませんでしたかぴょん?」
「……」
「それは悪いことをしましたぴょん。プリンとお団子食べて機嫌直してくださいぴょん」
 申し訳なさそうに眉を下げて、ネカットは俊兎を抱き上げる。そのまま甘味の屋台で目当ての菓子を買い求め、ネカットは俊をベンチの上にそっと下ろした。そうして自分も、その隣に腰を落ち着ける。
「シュン兎はウサギですがシュンですから、プリンもお団子も食べられますよね、ぴょん」
 そう言って、ネカットは俊兎の口元までプリンを一口運んでくれた。俊が素直にそれをもぐもぐとすれば、ネカットの顔には僅かほっとしたような色が宿るも、
(ネカ、しょんぼりしてるな……)
 と、俊はネカットの心の機微をきちんと読み取ってどうしたものかと頭を捻る。祭りもネカットと出掛けるのも嫌じゃない、けれど、今喋るのは嫌なのだ。
(……そうだ)
 思い立ったままに、俊はネカットの膝に跳び乗ると鼻の頭を擦り寄せた。これで自分の想いをわかってくれるだろうかと思いながら。
「……ぴょん?」
 甘えるような俊の仕草に、ことりと首を傾げるネカット。じきに、その口元に笑みが浮かんだ。
(機嫌が悪いわけではなさそうです、ぴょん。ふふふ、擦り寄ってきて可愛いですぴょん……!)
 口にしたらまた彼が照れかねないことを胸に思って、ネカットは俊兎の背へと手を伸ばす。
「大丈夫ですぴょん、ウサギさんは私が守りますぴょん」
 その代わりとばかりに存分に愛しい兎の背を撫でれば、意外にも自分の方から腕の中へととび込んできた俊兎は大人しくネカットに身を任せた。兎って触りすぎるとストレスになるんでしたっけ? なんて寸の間思ったネカットだがどうやら杞憂だったようで、俊兎はふわふわと身を寄せてくる。
「わわっ、くすぐったいですぴょん。でも、嫌がってはいないようでよかったですぴょん」
 ネカットのそんな声を耳に聞きながら、
(今人間に戻ったら羞恥で死ねるな……)
 なんて、俊はネカットの膝の上でふと思った。けれど。
(でも俺、今ウサギだし、ネカはあったかいし、もう少しだけ、こうしててもいいよな?)
 そんなふうに自分に言い聞かせる俊兎を、愛おしげな眼差しで見つめて、
「……ウサギのシュンも可愛いですけど、いつものシュンとも、こうやってスキンシップしたいですぴょん」
 と、ネカットは俊兎の小さな身体を、優しく腕に抱き締めるのだった。

●発生、違和感殺人事件
「イェル、可愛いじゃねぇかぴょん」
「私のことは凄くどうでもいいですぴょん……」
 カイン・モーントズィッヒェルの言葉に、イェルク・グリューンはぐったりと疲れ果てたような声でそう応じた。思わずため息を漏らすイェルクが被っている頭巾の上には、ピンと立った白のうさ耳。カインはそんなうさ耳着用イェルクを見て「可愛い」と評したのだが、イェルクの方は正直自分のうさ耳に構っていられる精神状態ではない。やれやれとカインが顎に手を宛がえば、カチューシャから伸びた黒の垂れうさ耳がふわんと揺れた。
(……カインさんがうさ耳カチューシャでぴょんぴょん喋りとか、違和感殺人事件だ)
 こちら被告人側、裁判に勝てる見込み一切ナシ。弁護の余地もないと遠い目をするイェルクの姿に、カインは肩を竦めた。
(いっぱいいっぱいなのは俺が原因だろうが……)
 それにしたって、うさ耳装着も独特の口調もそういう決まりなのだから仕方がないというのが被告人――もといカインの主張である。カインは、半ば無理やりに話を続けた。
「月見祭りは前から興味あったぴょん」
 正確には亡くした娘が生前行きたがっていたのだが、敢えてそこまでは口にしない。けれどその言葉に、イェルクはほんの僅かだけ緑の双眸を見開いた。
(興味……娘さんが行きたかったのか?)
 そう悟ったのは、祭りの賑わいへと目を向けるカインの表情が優しいのを見て取ったから。
(……なら、付き合って楽しもう)
 殺人事件のことは一旦脇に置いておこうと、嫌でも目に入る黒いうさ耳のことは極力考えないよう思い決めるイェルク。屋台の方へと歩き出したカインの横へと並び、言葉を零す。
「屋台で何か買うんですぴょん?」
「ああ、話に聞いた団子が美味そうだったからそれを買うぴょん」
「なら、私はプリンにしますぴょん」
 今なら、うさ耳姿と口調がハイスコアすぎてカインが甘い物を求めてもさほど気にならない。イェルクがそんなことを思っているうちに2人は屋台へと辿り着き、それぞれに目当ての甘味を手に入れた。月と兎をあしらったベンチに並んで腰を下ろし、甘味をお供に月を見上げる。今宵の月は、感嘆の息の漏れるような満月だ。
(違和感殺人で削られた精神力が癒される……)
 月の美しさもプリンの絶妙な甘さも格別で、いずれもイェルクの心に優しく染み渡る。そんなイェルクへと、被告人が動じることのない相変わらずの調子で声を掛けた。
「美味いなぴょん。イェルのプリンも一口食べてみてぇぴょん。食わせろぴょん」
「へ? あ、あーんですぴょん?」
 プリンを一匙掬ったスプーンを手にしたまま、石と化したように硬直するイェルク。別にあーんしろとは言ってねぇけど、と思うカインだが、まあいいやとまだ固まっているイェルクの方へと手を伸ばした。
「少し借りるぞ、ぴょん」
 掴んだ手首ごと、カインはプリンの乗ったスプーンを自身の口元へと引き寄せる。そうして、そのままプリンをぱくりとした。イェルクはその様子を瞬きもせずに見つめていたが、
「ああ、こっちも美味いぴょん」
 というカインの言葉を合図にしたように我に返ったようで、途端に色白の頬を朱に染める。何か言いたげながらも混乱しきり、口をパクパクさせることしかできないイェルクを前に、
(あ、イェルがピャアアアした……レベル4程度だな)
 なんて分析しつつ、冷静に彼の恥ずかしがりっぷりを眺めるカイン。なお、5段階評価のレベル4なのでかなりの高レベル判定である。
「まあ、イェル落ち着けぴょん。俺の団子も分けてやるからぴょん」
「そ、そういう問題じゃないです大体カインさんは……」
「イェル、語尾、ぴょん」
「あ……ぴ、ぴょん」
「……よし、ギリギリセーフっぽいなぴょん」
 イェルクの文様がない方の手の甲を自身の手に取って検め、カインが頷く。再び触れた手の温度に先刻の出来事を思い出し、イェルクは益々頬を熱くした。

●貴方と食べたい
「『満月プリン』に『満月団子』って、とってもおいしそう! お月見ばんざーい、だぴょん?」
 お月見祭りの会場である広場の前。既にして疲れたような顔の蘇芳を余所に、萌葱は弾む声でそう言った。蘇芳の唇から、呆れ混じりのため息が漏れる。
「まだ広場に入ってもいないのに、その語尾は要らないだろ」
 うさ耳はまだ装着前である。けれど萌葱は、面白いし美味しそう! と祭りを満喫する気満々。蘇芳の言葉に明るく笑み零すや、早速自身の頭に、茶色のうさ耳カチューシャをいそいそと装備した。
「何事も予行演習は大事だぴょん、蘇芳」
「面白がってるだけだろ、あんたの場合は」
「そ、そんなことはないぴょんよ……あっ、ほらこれ、蘇芳の分だぴょん!」
 やっぱり面白がってるんだな……と頭にうさ耳を揺らす萌葱をジト目で見遣って、けれど蘇芳は、押し付けられたカチューシャ(髪の色と同じ銀色だ)を律義に受け取る。うさ耳を頭にセットして、蘇芳はまたため息を一つ。
「何が悲しくて大の男がうさ耳でぴょんなんだ……」
「あっ、だぴょん」
 何だよ、と言い掛けて、蘇芳は口からとび出しかけた言葉をぐっと飲み込んだ。右手の甲に、話に聞いたうさぎさんマークがしっかり現れているのに気づいたからだ。
「蘇芳ったらうっかりさんだぴょん。あと一回で兎化決定ぴょん」
 こちらはうさ耳にも独特の語尾にも一切の抵抗がない萌葱が、半ば楽しんでいるように宣告する。蘇芳の表情が益々苦くなった。兎になるというのも、彼からしたら大概な罰ゲームだ。蘇芳の心中を知ってか知らずか、萌葱が笑った。
「じゃあ、気を取り直して屋台に出発だぴょん! 蘇芳、まずはどっちを買ったら良いと思うぴょん?」
「あんたが食べるんだ、好きな方から買えば良い……!?」
 萌葱の問いについ常のように返事をして、しまったと思った時には蘇芳はもう銀の毛並みの兎の姿。呆然とする蘇芳兎の前にしゃがみ込みその姿をしげしげと眺めて、萌葱は満面の笑みを零す。
「って、蘇芳~、いくら何でも兎化早すぎぴょん。ん~、もふもふだぴょん」
「おいこら撫でるな、もふもふするな! ぴょん!」
「よし! 迷子になったら困るから、抱っこしていくんだぴょん!」
 これに蘇芳は抗議の声を上げ、自分を抱きかかえようとする萌葱の手から逃れようと必死の抵抗を試みたが、いずれも虚しい結果に終わった。蘇芳の抗議はさらりと聞き流し、加えて彼が暴れても全く離そうという様子がない萌葱。
「……好きにしろ、ぴょん」
 足掻きを諦めて腕の中に収まった蘇芳兎を連れて、萌葱は屋台で甘味を買い求め、月がよく見えるベンチへと蘇芳兎を下ろすと自分もその隣に腰を落ち着けた。それぞれ2つずつ購入した団子とプリン、それらの内から先ずはと団子を選んでぱくりとする。
「おいしー幸せだねぇぴょん」
 にこにことしながら甘味を口に運ぶ萌葱が眩しくて、蘇芳は目を細めた。まるで萌葱自身の明るさこそが満月みたいだとそんな思いがふと頭を過ぎり、
(って、何を考えてるんだ俺は)
 と、ふるふると頭を振ってその考えを追い払う。萌葱の眼差しが自身へと向けられたので、蘇芳は誤魔化すように全く別の言葉を紡いだ。
「で、あんたは計4人前食うのかぴょん」
「え? こっちは蘇芳が人型に戻ったら食べる分だぴょん」
 呆れ気味に零した問いに返ったのは、予想外の言葉で。目を丸くする蘇芳へと、その反応をどう解釈したのか、
「あ、待ちきれないなら味見するぴょん?」
 なんて、萌葱はことりと小首を傾げた。「あーん、だぴょん」と差し出される、プリン一匙。
「いや、あんたが食べれば良いぴょん」
 とは言ったものの萌葱がスプーンを引っ込める気配がないので、蘇芳兎は照れ隠し混じりに後ろ足をたんたんと踏み鳴らす。そんな蘇芳の様子に、
(ほんとは一緒に食べられたらもっと美味しいんだと思うぴょん)
 と、萌葱はこっそりと胸に思って淡く微笑した。

●桃色兎はプリンがお好き
「じーじと一緒にお月見うさぎだぴょん☆ あたし、うさ耳ピンクにするー」
 言って、うさ耳を選び取るアイオライト・セプテンバー。その姿に、
「嬢はカチューシャかい、可愛いね。やあ、愉快なお祭りぴょん」
 と、ヴァンデミエールは目元を柔らかくした。じーじ、割とノリノリである。
「僕は頭巾かな。ファータの耳と兎の耳の両方だと鬱陶しいから、元の耳を隠したくてね」
 そこまで言って、「おっと」とヴァンデミエールは口元を抑えた。
「いけない、ぴょんぴょん。さて、どの頭巾にしようかな、ぴょん」
「じーじは水色! お揃いって感じがするぴょんっ♪」
 アイオライトが、自分のうさ耳と似たパステルカラーの水色頭巾を取り出す。差し出されたそれを、ヴァンデミエールは「ありがとうぴょん」とにっこりとして受け取った。
「それじゃあ、広場に向かおうか。それまでに語尾にも慣れないとね……ぴょん」

「プリンもお団子も美味しそうぴょんっ」
 そして、祭りの会場である広場にて。頭の上にうさ耳を揺らしながら、アイオライトはテイクアウトした2種の甘味に青の瞳を輝かせる。
「嬢、先ずは広場を見て回ろう……ぴょん」
 何とか語尾を維持しながら、ヴァンデミエールはアイオライトへと笑い掛けた。ちなみに、彼もきちんとうさ耳頭巾を被っている。
「じゃ、あたしがプリンでじーじはお団子で、お散歩のあとにシェアしようぴょん」
「うん、それはいいね、ぴょん」
「一緒に食べたら、もちもちあまあまで美味しさ2倍だぴょん」
 うっとりとして頬を抑えるアイオライトの傍らで、ヴァンデミエールは「うーん」とちょっとだけ難しい顔で首を捻った。
「どうも嬢みたいに上手くできないぴょん。コツってあるのかいぴょん?」
「じーじ、早く早くぴょんっ!」
 全然聞いていない。アイオライトの姿は、もう随分と遠くの方だ。ヴァンデミエールは優しい苦笑を一つ零すと、賑わいの中ピンクのうさ耳を追い掛ける。一方先を行くアイオライトは、
「折角うさぎさんなんだから、じっとしていられないぴょん☆」
 なんて、兎さん気分をしっかり満喫中。ぴょんぴょんと跳ね回っていたのだが、じきに、ぐでっと力尽きてしまった。ジャンプのしすぎである。
「あーもー疲れたーーうさぎさんやめるのーーー!!!」
 疲れから癇癪を起こすアイオライト。そこに、やっとアイオライトへと追いついたヴァンデミエールが、にこりとして声を掛けた。
「嬢、疲れたんだねぴょん。じゃあ、ベンチで待望のおやつに……おや」
 空いているベンチを探すのに瞬間目を離して再びアイオライトの方へと視線を戻せば、そこには可愛い桃色の兎さんがちょこん。手の甲のうさぎさんマークに気づいて、「……あ」なんて思わず呟いてしまったアイオライトは、途端、兎に転じてしまっていた。
「うさぎさんになっちゃったぴょん……うさぎさんやめるって言ったところなのにーっ! ぴょん!」
 アイオライト、だんだんっ! と怒りの兎地団太。そんなアイオライト兎を、ヴァンデミエールはそっと拾い上げる。
「うん、こっちの方が運びやすいぴょん。僕まで兎になったら嬢におやつをあげられないぴょんだし、気を付けなきゃぴょん」
「え、じーじがおやつ食べさせてくれるのぴょん? ならそれでもいいやぴょん」
 ヴァンデミエールの腕の中で、アイオライト兎は声を明るくした。そのままベンチに向かって、1人と1羽で一緒におやつの時間。
「兎さん、気を付けてお食べぴょん」
「えへ、あーん♪ ぴょん♪」
 じーじのなでなでと甘いおやつに、アイオライトは幸せ顔。その様子に微笑して、
「ところで嬢は『月が綺麗だね』って知ってるぴょん?」
 と、ヴァンデミエールは問いを一つ零した。お口にプリンを詰めたアイオライト兎が、返事の代わりにこてんと首を傾げる。
「なんでもないよ、僕も食べようかな、ぴょん」
 うん、プリン美味しいぴょんというヴァンデミエールの言葉に、アイオライト兎は、今度はこくこくと頷きを返した。



依頼結果:大成功
MVP
名前:俊・ブルックス
呼び名:シュン
  名前:ネカット・グラキエス
呼び名:ネカ

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 岬ゆみのこ  )


エピソード情報

マスター 巴めろ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月03日
出発日 10月10日 00:00
予定納品日 10月20日

参加者

会議室

  • カイン:
    仮プラン投下完了。
    って訳でよろしくな。

    イェルク:
    (既に白い灰)

  • カイン:
    へぇ、カチューシャと頭巾ねぇ……(ふむと考えた後、試しにカチューシャ装着)
    カインだぴょん。
    パートナーは、硬直しているがイェルクだぴょん。
    仕方ねぇから、頭巾試しに装着させてみるぴょん。

    ……試運転としてはこんなもんだな(カチューシャ取った)

    イェルク:
    (この顔でぴょんぴょんとか特にどうとも思わず言ってるのが恐ろしい)
    イェルクですぴょん。
    (恥ずかしい)

    …………試運転の時点で私の精神の耐久力がガンガン減っています…………(頭巾取った)

  • [4]俊・ブルックス

    2015/10/07-13:36 

    ネカット:
    ぴょん♪
    神人のシュンとその相方のネカットですぴょん。
    よろしくお願いしますぴょん。

    はっ、楽しみでつい今のうちから語尾が。
    ヴァンデミエールさんと隼さんははじめましてですね。
    とても渋くて素敵だと思います、ぴょん。
    皆さんのうさ耳とっても楽しみです。ぴょん♪

    俊:
    ……(頭を抱えている)

  • ぴょーんぴょーん♪ うさぎさんかわいいよね☆
    アイオライト・セプテンバーとじーじぴょん☆
    よろしくだぴょん☆ じゃんけんぴょん♪

  • [2]萌葱

    2015/10/06-23:09 

    こんにちは-、萌葱と相方の蘇芳ですぴょん
    うさ耳に語尾にぴょん付けないとうさぎになるって面白いお祭りだねぴょん
    満月プリンと満月団子が楽しみなんだぴょん
    よろしくお願いします-ぴょん?

    蘇芳
    (なんともな萌葱の喋りにただ溜息)

  • [1]鳥飼

    2015/10/06-21:34 

    こんばんは。
    僕は鳥飼と呼ばれてます。よろしくお願いしますね。
    こちらは隼さんです。(隣を示し

    うさ耳をつけるなんて面白いお祭りですね。
    楽しみです。


PAGE TOP