【月幸】ネイチャーヘブンズ散策(叶エイジャ マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

「おお、おお。来たかね」
 A.R.O.A内。白衣を着た初老の職員が手にした資料を渡してくる。
「君にはコレ。君のはこの子のだな。最後はコレ……と。
 すでに説明を受けていると思うが、先日ネイチャーヘブンズで怪我したネイチャーを保護した。怪我はもう治っていて、あとはリハビリがてら、元の場所に戻すだけだ」
 その作業をウィンクルムにやってもらうのが、今回の任務だった。ただ保護した動物をかえすだけではなく、ネイチャーヘブンズにある月幸石を探索・採取してくるのが主目的となる。
「人の目につくところはカバーできるが、ネイチャーにはネイチャーの生態系がある。本来生活していた場所の近くには、意外と月幸石があるかもしれない、というわけだ」

 怪我の治ったネイチャーたちは、一足早くネイチャーヘブンズの入り口で待機している。A.R.O.A職員も共におり、ウィンクルムのバックアップと採取された月幸石の回収を担う。
「今渡した資料には、君たちが担当するネイチャーのことが書いてある。名前は義務的にナンバーしかつけてないから、必要なら好きに呼ぶといい。ただすぐに別れるから、情が移るようならお薦めはできんが」
 ネイチャーヘブンズの入口に行けば、管理システムのN2-Mが大まかに、安全な道を示してくれるだろう。
「遺跡なのに中は自然にあふれているとか。必要なら寄り道も存分にしてきてくれ」

解説

N2-M『ネイチャーヘブンズ ヘ ヨウコソ、ウィンクルム ノ 皆様』

以降は遺跡の管理システムからの情報をまとめたものとなります。
動物と安全なルートを通りつつ、目的地を目指します。
コースは以下の三つ。

・遺跡跡地の迷路を抜け、大きな池の砂浜に行く
・森を抜け、花畑に至る
・草原を歩き、一本の大きな木が生えた小高い丘を目指す

主にお昼前から出発し、昼食~夕刻任務終了、帰還という流れです
道中の危険は、以下のモノを除きあまりありません。
1.道中、近くにあった遺跡の残骸が急に崩れた!(ちょっとケガしちゃうかも)
2.妙な植物に不思議な臭いを吹きかけられた!(酔ったような状態になってパートナーおろおろ)
3.急に局地的な雨がっ(少し濡れて、どこかに雨宿り?)

※動物は、以下の二種類から一匹選べます
・ペタルム
尻尾の代わりに白い大きな花(月下美人イメージ)を咲かせる大きな黒猫。
大型犬並みのサイズ、鳴き声や身体能力は普通の猫。
好奇心が旺盛過ぎる為、自分たちから瘴気につっこんでいったりもするトラブルメイカー。

・ウライ
月幸石あるところにこの鳥あり。
普通の月幸石が好き。変質した月幸石は好みではないため、ウィンクルムに渡してくれます。
燕に似た紺色の鳥。

・消費ジェールについて
遺跡内の危険に備えての準備、あるいは昼食の材料費などで、500ジェール消費したようです。

・補足
コースは重なっても、基本は別個の描写となります。
(執筆の都合で途中まで一緒、みたいな描写にはなるかもしれません)
他のウィンクルムと一緒に行く場合は明記してください。

道中の危険は、必要に応じて数字記入で大丈夫です(なくてもOK!)。
選ぶ場合は、1つに絞るのを推奨します。
どのコースでも1~3いずれも起こりえます。
最終的に、特に明記無くても石は入手できます。
動物とのんびりとした道中をお楽しみください。

ゲームマスターより

お久しぶりです。
こんにちは、あるいは初めまして。叶エイジャと申します。

ネイチャーを元の生活場所に戻そう+月幸石を探そう!
――という名のデートになっています。

ネイチャーと一緒に移動したり、あるいはネイチャーの後から話ながら歩いたり……なイメージです。
皆様の参加とプラン、楽しみにお待ちしています。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)

  【動物】
ウライ

【コース】
小高い丘

メーテルリンクと呼びましょう
怪我は治っているようですが、経緯が気になりますね
オーガが原因だとしたら、私はもっとしっかりしないとダメですよね…。

メーテルリンクは警戒心が強いでしょうか
もしなついてくれたなら、労るように撫でてあげたいです。

遺跡の一部が崩れて、メーテルリンクを庇ったのですが
ディエゴさんが私ごと守ってくれて…彼が傷を負ってしまいました。

…不謹慎ですが嬉しかったです
「すみません」ではなく笑顔で「ありがとう」と言います。

別れ際に、腕輪の効果【ネイチャーセンス】を使ってメーテルリンクと話します。
貴方達が安心して暮らせるよう頑張るから待っててほしい、と。



リーヴェ・アレクシア(銀雪・レクアイア)
  2、3のハプニング
森→花畑ルート

「帰るまでよろしくな」
懐かれて、撫でてやったり
(で、何故そこで嫉妬)
平常運行なのでツッコミしない
昼に私が作った弁当で和やかに食事していたら、銀雪が妙な植物の妙な臭いで酔った…お約束過ぎる
「ここで脱ぐな」(即ツッコミ)
「ダメなものはダメだ」(溜息)
こいつ酔うと面倒だな…
どうしたものか

雨のお陰で銀雪も酔いが醒めた
助かった
私は傘あるから雨は困らない
酔ってた銀雪は濡れたが

最後はペタルムとお別れ
「帰るか。帰ったらお前の濡れた服を洗濯しなければな。そこでは早く脱いでくれないと困る。脱ぐ場所は弁えろ。私以外にも見られたいなら話は別だが?(にやり)」
相変わらずブレない反応だよな


豊村 刹那(逆月)
  慌てずゆっくり行こうな。

ウライは進んだり戻ったり。
怪我が治ったのが嬉しいのか、元気だ。
「あんまりはしゃぐと疲れるぞ」(微笑
言葉は解ってるのかな。

逆月は山道だけじゃなく、森の中も慣れてるみたいだ。
スニーカー履いて来て良かった。気を付けて歩かないと。

「わ、悪い。助かった」
「って、逆月。怪我したのか!?」ハンカチを取り出し患部に当てる。
「庇ってくれたのは嬉しいけど、怪我しそうなら止めてくれ」心臓に悪い。
「私も同じだよ」(頬を染め、眉を下げ笑う
ああ、お前も心配してくれたのか。(ウライに

遺跡の残骸から少し離れてお昼。
花畑まで逆月の怪我を気にして歩く。
「お互い気を付けるにも、良いかもな」
(恥ずかしいけど)



神祈 無色(ミリュウ)
  ・迷路~砂浜コース トラブル『1』 動物『ウライ』
・花よりも飛んでいくウライに興味津々、脇目も振らず夢中で追いかける。ウライ大迷惑。
(そしてコースアウトしかければミリュウに引っ張り連れ戻される)
・N2-Mも興味が引かれるようで進みだしたら追いかけまわそうとする。
・当然崩れかけた遺跡の残骸にも気づかず突撃。池が見えたら池に突撃しようとする。
・手に入れた月幸石は大事にぎゅーっと手で握っておく。

『とり……とりさ、とりさ……とり……』(ウライを追いかけつつ
『あー………せんせ、いたいいたい?……ごめ、なさ……』(しょんもり



八神 伊万里(蒼龍・シンフェーア)
  砂浜コース


このペタルムって黒くて可愛くて誰かさんみたい
…あ、ごめんなさい、今はそーちゃんと一緒だものね

途中、遺跡の残骸が崩れて
何とか逃げられたものの足をくじいてしまう

…蒼龍さん顔近いです…
ご、ごめんなさいまだです!
あの、耳元で喋るの、恥ずかしいからやめ…ひゃっ
い、いひゃいれふ…

砂浜に並んで腰を下ろす
約束の内容じゃないけど、引っ越しの前の日に一緒にお月見したの覚えてるよ
あの時そーちゃん「天文学者になりたい」って言ってたよね
え、もう一つ?き、気になります…約束の、ことも…

やっぱり少し意地悪だし振り回されてる気がするけど
それでも傍にいてちっとも嫌じゃないのは…やっぱりまだ好きってことなのかな?




 白い花が、色褪せた廃墟で咲いていた。
 大きな花を揺らす黒猫は萌え伸びた草むらの中で立ち止まると、神人たちへ振り返った。目のあった八神 伊万里が微笑む。ペタルムはしばらく彼女の顔を見つめていたが、やがてフイと再び前を向いて歩き出した。数歩歩けば、また振り返る。伊万里は笑うのをこらえながら、その後を追った。
 追いつこうとすれば足を速めるし、かといって離れれば、こうして振り返ってついてきているか確認してくる。黒くて可愛いが、どことなくやんちゃでツンデレだった。
(誰かさんみたい)
「イマちゃん、今あいつのこと考えてたでしょ」
 む、と含みのある声が、伊万里の心を現実に引き戻した。
「猫ちゃんは可愛いけど。もっと僕にも構ってほしいな」
「……ごめんなさい」
 蒼龍・シンフェーアはわざとらしく口を尖らせていたが、黒瞳には寂しげな光も見えた気がした。
「今はそーちゃんと一緒だものね」
「そういうこと」
 一転、笑みを見せる蒼龍。二人のやり取りに興味があるのか否か、振り返っていた黒猫は再び進みだす。
 預かったペタルムに連れてこられたのは、遺跡の迷路だった。
 かつて建物だったそこは、今は風化した岩の羅列となって、崩れた屋根や壁の穴が道となっている。土と化した床には名も知れぬ草が並んでいた。時折風が吹いて、その切なげな声が過ぎ去った日々を思わせる。
 そんな廃墟の中で、瓦礫を踏み歩くふたりの足音はやけに大きく聞こえた。
 否、それは足音だけではなかった。
「この音……」
 妙に後に残る響き。伊万里が違和感を覚えて横の壁を見る。
「イマちゃん!」
 警告。伊万里が反射的に地面を蹴った。直後、壁が周りの建材ごと崩れてきた。倒れかけた伊万里を蒼龍が支える。
「あ、ありがとうそーちゃ……っ」
「イマちゃん? ああ、少し挫いちゃったみたいだね」
 不自然な体勢で動いたせいだろう。幸い、大したものではない。
「少し安静にすれば、心配なさそうだね」
 蒼龍が伊万里に肩を貸す。ペタルムの後ろをゆっくり追う。伊万里が言った。
「……蒼龍さん。顔近くない、です?」
「この方がラクだからね♪」
 うそぶく蒼龍。なんとなく、伊万里の呼び方と口調が変わるパターンが分かってきた。
(僕を『異性』と思うと、ガードを固めちゃうんだ)
 可愛い。
 だがもっと意識してもらわないといけない。
 伊万里の耳元で囁く。
「ねえ、約束はまだ思い出せない?」
 伊万里の目が泳ぐ。
 八年前、彼女が蒼龍とした約束のことだ。
「まだです……ご、ごめんなさい!」
「だーめ、忘れんぼさんにはお仕置きだよ」
 声が伊万里の耳朶とうなじをくすぐる。顔が赤くなる。蒼龍の顔が近づいてきた。
「どんなお仕置きがいいかな?」
「あの、耳元で喋るの、恥ずかしいからやめ……ひゃうっ?」
 しどろもどろな伊万里。その頬を蒼龍が軽くつねる。
「なーんてね」
「い、いひゃいれふ……」
「あはは、変なカオー。ほら、砂浜が見えてきたよ」
「ふぉなしてくだひゃいっ」
 伊万里は少し涙目で、蒼龍の声を聞いていた。

 砂浜に並んで腰を下ろす。
 辿り着いたのは池だった。ペタルムの縄張りか、黒猫は二人に鳴くと駆けたっきり、戻ってこなかった。
 池の水は綺麗だった。浸した布で足を冷やし「約束の事じゃないけど」と伊万里が呟いた。
「引っ越しの前日、お月見したよね」
 その時、蒼龍は「天文学者になりたい」と言っていた。
「うん、僕の夢はあの時に決まった」
 懐かしいね、と蒼龍は向こう岸に、更にその向こうへ想いを馳せたようだった。
「本当はもう一つあるけど、約束に抵触するからまだ秘密」
「え、もう一つ?」
 気になった。もちろん約束のことも。
 しかしその時には、蒼龍は立ち上がっている。
「日が傾いて来たね。ねえ、一番星探そうよ」
 どうにも振り回されてる気がする。そして少し意地悪。
 でも、
(傍にいて嫌じゃないのは、やっぱりまだ好きってこと?)
 夕空は何も応えない。
 暮れる日に、月幸石が静かに輝いていた。


「慌てずゆっくり行こうな」
 豊村 刹那がそう言ったのは、自分への戒めもあったかもしれない。
 森へ入ると、ウライは枝から枝へと羽ばたいては、行きつ戻りつを繰り返す。
「あんまりはしゃぐと疲れるぞ」
 声を掛けた刹那に、ウライは頭上の枝から鳴いて返すが、すぐさま飛びたつ。
「言葉は解ってるのかな」
 元気な様子に、刹那は苦笑ともとれる微笑みを浮かべていた。
「忙しない」
 テイルスの逆月は淡々と、腕を上げた。差し出した指にウライは器用にとまるが、やはりすぐに離れていく。
「怪我が治ったのが嬉しいんだろう」
 刹那としても、万年風邪気味だった経緯がある。だからなんとなく理解できるし、勢い良く飛んでいる姿は、見ていて気持ちいい。
「そういうものか」
 逆月は呟いて、ふと脇に負った傷跡が気になった。
 ――この傷が完全に消えたとして、はたして俺が嬉しいと思う日は来るものか?
 一瞬の思考は、足先の感触が変わることで断ち切られた。木々に埋もれた遺跡の一部だった。
「自然の多い場だ」
 思わず、遺跡の中ではなく『自然』と勘違いしてしまいそうだ。
 建屋というより、箱庭のような、囲いに近いのやも知れない。
 そんな感慨にふけりながら、逆月は歩みを緩めた。
 刹那は以前、山道を苦手としていた。
 森もそうかもしれない。

(逆月は森の中も慣れてるみたいだな)
 スニーカー履いて来て良かった、と刹那は思った。森の中に平坦な道など望むべくもない。昼時なので明るいが、注意するに越したことはない。
「……ん?」
 足が土を――あまりに柔らかすぎる地面を踏んだ。不思議に思って見れば、地面が勝手に盛り上がってきている。それを注視した次の瞬間、背後から伸びた手が彼女の身体を引き寄せた。
「――!」
 声を上げる間もない。一瞬前まで立っていた場所に、大きな石が幾つも降り注いだ。地面の盛り上がりが、長い年月の末、重心の崩れた遺跡の為したものだと刹那は気付く由もなかった。離れていた逆月は、崩れようとする遺跡が見えていたのだ。
 逆月は弾け飛んだ石から守るよう、刹那を引き寄せ立ち位置を替えた。
「無事か」
「わ、悪い。助かった……って、怪我してるぞ」
 飛んできた石が腕を掠めたらしい。切れた服の上から、血がにじんでいるのが見えた。刹那がハンカチを取り出す。押さえれば赤が少なく、安堵する。
「庇ってくれたのは嬉しいけど、怪我しそうなら止めてくれ」
 心臓に悪い、と言う刹那に、逆月は黙考し――首を横に振った。
「それでは刹那が怪我をする。前も言ったが、俺は刹那が怪我する様を見たくはない」
 それとも、と赤い目を伏せて続けた。
「烏滸(おこ)がましいのか? 俺の、この望みは」
「違う。今のは危なかった。護ってくれて感謝してる」
 だからといって、逆月が怪我する様を見たくはない。
「私も同じだよ」
 照れくさそうに眉を下げ微笑む刹那。その少し赤い顔に、言葉に、逆月は戸惑う。
(刹那がそう言うのは、俺に力が無い故か?)
 それとも、別の理由か?
 向けられた記憶のない感情。だがそれは、好ましいように思えた。
 上空から鳴き声が降ってくる。
「ああ、お前も心配してくれたのか」
 刹那の声に、逆月の肩に止まったウライが数度鳴く。逆月が小さな頭を撫でた。
「大事ない」
 いつもより、彼の声に柔らかさがあるように刹那は感じた。

 すぐには動かない方が良いだろうと、崩れた遺跡から少し離れてお昼をとり、歩みを再開する。
「お互いに気を付けるのも、良いかもな」
 道中、逆月の怪我を気にして歩いていた刹那は、そう呟いた。
 我ながら恥ずかしい言葉だった。逆月がまた重々しく頷いただけに、独り言だとも今更言えない。
 森が不意に開けた。ウライが嬉しそうに、目前に現れた花畑の上を飛んで行く。遠くにウライの群れが見えた。
「元気でな」
 見送る刹那に、逆月は手を差し出す。
「歩みを合わせる。手を」
 お互い気を付けるのだろう、という彼に、刹那は頬を染めて空を見る。
 ウライ達が月幸石を咥えて飛んできていた。


 ウライが遺跡の壁に降り立った。少々疲れている。
「とり……とりさ、とりさ……とり……」
 近づいてくる足音と声に、ウライは羽をばたつかせて飛んで行く。しばらくして、神祈 無色が走ってきた。ウライの姿を認めると、脇目も振らず夢中で追いかけていく。
 その後を、ミリュウが大股で歩いてゆく。
「……まるで散歩だな」
 別にそれは良いのだが、無色が完全に、喜び駆け回る犬となっている。怪我のリハビリとしては、ウライも少々ハードな神人にあたったなと、ミリュウは他人事の(実際他人、いや他鳥だろうか)ように思いながら、しかし歩みはつかず離れずの位置をキープしている。
 無色くらいの歳の子なら道端の花の方に興味を持つだろうが、彼女にとっては鳥の優先度が高いらしい。草が密に生い茂る場所へコースアウト。そのまま草に埋もれるように進む神人を、ミリュウはやれやれと抱え込んだ。
「おい、あまり離れるな。追うのは程ほどにしておけ」
「とりさ……」
 名残り惜しげにそう呟く無色は、大きな音にミリュウを見上げた。崩れかけた遺跡の残骸にも気づかず、突撃していた彼女に岩が落ちてきていたのだ。押しのけた精霊の肩ににじむ血を見つめ、無色がうなだれる。
「あー………せんせ、いたいいたい? ごめ、なさ……」
「ふん、我がこの程度で痛みを感じ音をあげるわけないだろう、傷ですらもないわ」
「……ほんと、せんせ……?」
「だが無色、前もきちんと見ろ。危険が少ないといえども、全く無いともいいきれんのだからな」
 ミリュウが上空を見やる。ウライはほっと一息つけたのか、ゆっくりと旋回しながら降りてくる。
 周りの遺跡も、だいぶ最初と様子が違ってきていた。終着点は近いらしい。精霊は神人を降ろすと、かがんで目の高さを合わせた。
「いいか。走り回るのは構わんが、道筋を外れるな。あと。周囲の様子は最低限気を付けておけ」
「あー……んー?」
 ミリュウの言葉が分かったような、でも今一つ意味がわからないような――そんな調子の声で、無色の頭が揺れる。
「良い。しばらくは我が見といてやる。少しずつ覚えればいい」
「……せんせ、いっしょ」
「そうだ。一緒だ……おい、着いたようだぞ」
 視界が開けると、池が広がっていた。岸辺で揺れる水面に、無色から高めの声が漏れる。
「うみ……うみ……?」
「池だ。農業用のため池代わりか。ちょっとした湖はあるな」
「……いけ……!」
 池に走り出す無色。その足が三歩目あたりで宙に浮き、空中を駆ける。
「言い忘れたが、池にも突撃するな」
 興味は解るが濡れると後々が大変だからな、と無色を抱えたミリュウが言った。しばらくしょんもりとしていた無色だが、砂に埋もれて輝いている石を見つける。ミリュウも頷いた。
「それは、いいぞ」
 月幸石だった。見れば、いくつか似たような輝きが浜辺にある。赤マントが翻った。
「我も手伝ってやろう」
「せんせ、いっしょ……っ」
 手に入れた月幸石をぎゅっと、大事そうに握りしめ、無色は新たな月幸石へと駆けていった。


 つぶらな瞳。
 せわしなく動く小さな頭。
 陽光をほのかに反射する紺色の羽毛。
 そんなウライに、ハロルドは強い口調で言った。
「メーテルリンクと呼びましょう」
 そして己の精霊へとオッド・アイを向ける。
「メーテルリンクと呼びましょう」
「……」
 ディエゴ・ルナ・クィンテロは、渡された資料に目を落とし、口を開いた。
「あま――」
「メーテルリンクと呼びましょう」
「……分かった。そうしよう」
 断固とした声に、ディエゴは頷いた。
 あまり情をうつさない方が……とも思ったが、彼女の動物にかける愛情がどのようなものかは、これまで過ごしてきた日々でよく分かっているつもりだ。
 ――それに、エクレールのそういう所は嫌いじゃないしな。
 すでになつき、神人の指にとまってさえずるウライ。その翼を労るように撫でるハロルドに、ディエゴは笑みを口に刻む。
 さておき、遺跡内は脆くなっている場所もある。
 ――俺が警戒しておくとしよう。

 二人が向かう先は、小高い丘。
 道中の草原は見晴らしがよいが、廃墟らしき遺跡の残骸が墓標のように突き立っていた。
「怪我は治っているようですが、経緯が気になりますね」
 ウライを肩にとまらせたハロルドが、指で小さな頭を撫でる。
 ――オーガが原因だとしたら、私はもっとしっかりしないとダメですよね……
 遺跡内に現れるオーガは別区画で確認がされているが、もしかしたらこちらにも被害を及ぼしているのかもしれない。
 思いを馳せるハロルドの顔をうかがうように、ウライが小首を傾げた。ハロルドが微笑む。
「あなたがなぜ怪我をしたのか考えてたんですよ、メーテルリンク」
 柔らかな声にメーテルリンクと名付けられたウライも一声上げる。
 楽しげなものではなかった。それは、警告の鳴き声だ。
 視線を転じたハロルドの視界に、上方から崩れてきた遺跡が大きくなっていく。
「メーテルリンク!」
 羽ばたかせるには石の数が多かった。小鳥をかき抱き走る。そして安全圏へとハロルドが抜け出る――ことはできなかった。一足早く、石が彼女に迫ってくる。
 転瞬、前から飛び込んできたディエゴが彼女を抱きかかえ、その勢いのまま安全な場所へと逃れ出た。
「間一髪だったな」
 ディエゴが大きく息を吐く。
 事前に僅かな音を聞きつけることができたのが幸運だった。警戒していたことで、すぐさま行動に移すことができた。
「……ディエゴさん、怪我してます」
「ん。ああ、ただのかすり傷だ……そんな顔するな、エクレール」
「でも」
「守るべきものをまず守ろうとした。立派だったぞ」 
 彼女の傷つく顔を見たく無かったから守った。ディエゴも守るべきもののために動いたのだ。
「お前の決意を応援する、それだけだよ」
 笑みを浮かべる精霊。メーテルリンクも胸元で鳴く。どちらも謝罪を求めてないし、発してもいない。
 そう理解すると、心の底が暖かくなった。
(そう思うのは、不謹慎でしょうか?)
 怪我をさせてしまったけれど、嬉しい。自然と顔が綻んだ。
 ――ありがとう。
 ――どういたしまして。
 怪我の処置も手早く終わり、二人と一匹は再び歩き出した。

 丘の上に木がある。離れていてもそれはよく見えて――それでも、神人たちは歩みを変えたりはしなかった。
「良い場所ね、メーテルリンク」
 草原に白と緑の波が生まれた。風が丘の上へと駆けあがり、その流れにウライが翼をはためかせる。
 別れの時だ。
 ウライがハロルドとディエゴに、そしてハロルドの腕へと向かってさえずる。
「そう、この子たちとも仲良くなってたんですね」
 野鳥の生息する、春の森を封じた腕時計。おりしも返事をするように、時を告げる鳥の声が聞こえてきた。
「貴方達が安心して暮らせるよう頑張るから、少しのあいだ待ってて」
 ウライが風に乗った。そびえる木の頂まで飛び上がれば、別のウライたちの声が聞こえてくる。
 仲間の元に帰ったのだ。
「メーテルリンクはお前の言葉を聞いて嬉しかっただろう」
 再び木から姿を見せたその鳥が、名付けた小鳥かはもうわからない。ただその鳥が落としてきた月幸石に、ディエゴは確信をもってそう言った。
「期待に応えなきゃな」
 ハロルドが頷く。
 桃色の髪をなびかせる風が、遠い草原を吹き抜けていった。


 精霊である銀雪・レクアイアは、表情ほど心中穏やかではなかった。
 うっそうとした森が嫌いだからではない。問題は目前の光景にあった。
 いや、そもそもはこの道程の最初からだ。
「帰るまでよろしくな」
 リーヴェ・アレクシアが送り届けることとなったペタルムにそう言うと、その黒猫は花を揺らして彼女にすり寄ってきたのである。
 どうも懐かれたようで、リーヴェも時折声を掛けたり、撫でてやったりをしている。
 森へ入って小休止となった今も、彼女はじゃれつくペタルムに優しく触れていた。
 銀雪としては、そんなリーヴェも気品を感じさせるので問題ない。
 リーヴェは雪原のような細身のシャツの上に、シックでアダルティなビターゴジャールのジャケットを着ていた。男装の麗人を思わせるパンツドレスもまた、長身の彼女には似合っている。胸元で舞う隼の爪に、銀雪の心と視線は捉えられていると言っても良かった。
 問題は、ペタルムの方だ。
 なぜ、リーヴェに気安く近づいている?
(俺だって近くに行きたいのに……)
 リーヴェたちから少し離れた木に――いつものごとく遠慮する性格が災いしていた――もたれ、ギリ……と歯軋りでもしそうな勢いで、ペタルムへ黒い炎に焦がれた視線を投げる。
 ――やれやれ。
 そんな精霊のことなど、お見通しのリーヴェ。何故そこで嫉妬するのか、平常運行すぎてもはやツッコミをする価値もない。
 見上げれば日は高かった。体よく開けた場所を見つけたので、頃合いと判断する。
「そろそろ昼食にするか」
 リーヴェが作ってきた弁当を取り出す。
「銀雪の分はこれだ」
 手作り料理に自然と頬を緩ませる銀雪。そのまま良さそうな場所に座ろうとするが、
「そこはダメだ。ペタルムにエサを上げられないだろう」
 ギリィッ!
(俺だって近くに……)
 黒猫にベストポジションを取られ、恨めしい視線をペタルムに向けつつ移動する銀雪。
 その目が、見慣れぬ植物を捉えた。
「リーヴェ。ここに綺麗な花が――」
 そう言ったのは、神人の興味を惹けると思ったからだったが……言い終わるより早く、花から不思議な香りを浴びせられていた。
 ばっちりリーヴェの目前で。
「……」
 お約束過ぎる。
「何か、暑くなってきた」
 香りを吸った銀雪の眼はとろんとし、酔ったように顔は赤い。そのまま服を脱ぎ始めた。
「ここで脱ぐな」
「えぇ~」
 即ツッコミをするリーヴェに、銀雪はしかし口を尖らせた。
「何で脱いじゃいけないのォ」
 ――こいつ酔うと面倒だな。
「ダメなものはダメだ」
 溜息をつくリーヴェ。「ワケ、わかん、なぁい」と、妙な方向へネジのとんだ精霊にどうしたものかと天を仰ぐ。
 暗い雲が立ち込めようとしていた。
「ちょうどいい。頭を冷やしてもらえ」
 投げやりにそう言って、リーヴェは傘の準備をした。

「酔いは醒めたか?」
 一夜の夢――そう名付けられた上品な傘を閉じ、神人は精霊に問う。
「……」
 通り雨にずぶ濡れになった銀雪は、何も言わずに顔を覆った。
 ――俺、穴があったら入りたい……。
 ペタルムがその姿に一声鳴いた。神人を見上げる。リーヴェは軽く笑った。
「そうだな。雨のおかげで助かった」

 一面の花畑。
 森を抜け、広がる景色はペタルムの居場所でもあった。嬉しそうに駆けたその姿は一度帰ってきて、銀雪へと輝く石を渡す。
「……俺に?」
 雨が降ってから何かとじゃれついてきたペタルム。ネイチャーに気を遣われるのもどうかと思ったが、励まそうとする黒猫には元気が出てくる。
「ありがとう。君も元気で」
 それが別れだった。花畑に消えたネイチャーに、リーヴェが元来た道へと振り返る。
「帰るか。帰ったらお前の濡れた服を洗濯しなければな」
 そこでは早く脱いでくれないと困る、と銀雪を見やる。ニヤリと笑んだ。
「脱ぐ場所は弁えろ。もっとも、私以外にも見られたいなら話は別だが?」
 赤面硬直する彼に、相変わらずブレない反応だよなと思いつつ、リーヴェは歩き出した。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 叶エイジャ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月28日
出発日 10月05日 00:00
予定納品日 10月15日

参加者

会議室

  • [5]神祈 無色

    2015/10/04-11:03 

    無色
    『……あー……、よろしく……?』(首を傾げつつぺこりと頭を下げた)

    ミリュウ
    『行く道が精々同じ程度だが、縁があればよろしく頼む。此方は此方なりに探索しておく』

  • リーヴェ・アレクシアだ。
    ペダルムを目的地まで連れて行こうと思う。
    パートナーの銀雪は……平常運行なんだろうな。

    よろしく。

  • [3]豊村 刹那

    2015/10/03-16:00 

    豊村刹那だ。よろしく頼む。

    遺跡内を散歩しながらネイチャーを元居た場所に、か。
    ゆっくり楽しめるといいな。

  • [2]八神 伊万里

    2015/10/01-09:24 

  • [1]ハロルド

    2015/10/01-08:27 


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