【月幸】泥棒猫とランチタイム(碓井シャツ マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 突如、地上に出現したセレネイカ遺跡。
 この遺跡を取り巻く瘴気を祓うために必要な『月幸石』を求め、ウィンクルムたちは、ネイチャーヘブンズ区画へやってきていた。
 しかしその任務には、ひとつ大きな問題があった。それは力を持つ前の『月幸石』が普通の石と見分けがつかない、ということである。

 これはダメだ。
 来てみればそれっぽい石が分かるんじゃないかと希望的観測を抱いて来たが、どうしようもなかった。
 とにかく手当たり次第、石を持ち帰ってみるか~というわけにもいくまい。だって、石って意外と重いし。

 自然、各々あてのない探索に精を出していたウィンクルムたちは、ひと休みしようという流れになった。

 そもそも本日のメインをお弁当に据えて来ている者も少なくない。
 何故なら、この任務にあたって持参してきた弁当はパートナーの手づくりだったからだ。

『月幸石って神人の楽しい、嬉しいといった感情に反応して変質しますので、手作りのお弁当とか持って、美味しいよ♪ きゃっきゃっウフフ、みたいな感じで楽しみながら探索したらいいんじゃないですかね』
 A.R.O.A.職員の談である。

 幸いネイチャーヘブンズは、自然豊かで景色がいい。
 鳥のさえずりの聞こえる木立の中、パートナーの作ったお弁当をつつくなんて思えばなかなかの贅沢である。
 そう言えば、ネイチャーヘブンズには『月幸石』を見分けるウライという鳥がいるって話だったな――と、とりとめもなく思い出した矢先、悲劇は起こった。

「にゃっ!」

 猫……のような鳴き声だが、飛び出してきた生き物は大型犬ほどの大きさがある。尻尾の代わりに白い大きな花を揺らす大きな黒猫は、原住生物のペタルムだった。

 ペタルムが口に咥えているのは、弁当包み。
 合戦の火蓋は切られようとしていた。
 
「この泥棒猫……!」

解説

おっきな泥棒猫を捕まえて、手作り弁当を食べよう!

●場所
セレネイカ遺跡ネイチャーヘブンズ
元は施設に備えられていた農業区画です。池があったり森があったりと自然豊か。

●おっきな泥棒猫・ペタルム
尻尾の代わりに白い大きな花(月下美人イメージ)を咲かせる大きな黒猫。
大型犬並みのサイズ、鳴き声や身体能力は普通の猫。
お腹を空かせているわけではなく、好奇心旺盛な性格がわざわいしてお弁当を持って行ってしまったようです。

●消費ジェール
お弁当製作費300ジェールが必要です。


各グループバラバラに探索していましたが、弁当奪還のために合流する組があってもOKです。

ゲームマスターより

皆さんの手づくり弁当にかける熱い思いを待っています。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)

  最近家事を手伝うようになってくれたランスが、
「今日は俺に任せとけ」と初めて自分から作ってくれた弁当
作ってくれた事実が嬉しくて”内心”楽しみに楽しみに楽しみにしてたのに!

おのれ猫め!(ゴゴゴ

2人で挟み撃ちにしようと頑張るよ

けど、相手は野生動物
野生動物の身体能力はランスでよく知ってる

捕まえられなかったら方針転換
携帯品をふりふり振って猫の注意を引こう
ハンカチひらひらして膝の上に置き…猫を待つ
近づいて来るようにパペットゆらゆら…

猫が近づいたらハグ捕獲!
ハンカチと引き換えに返して貰おう
籠の中身をひとつあげるから、ね?(撫でようと

「弁当、凄く嬉しいよ。俺のために初めての弁当で…その…ありがとうな…」真っ赤


柊崎 直香(ゼク=ファル)
  にゃーん

ゼク選手走り出しました!
相手は俊足猫さん力強い跳躍だ、これにはゼク選手お手上げか
いや反対側に回り込みました上手く樹木を使っていますね

ゼクとペタルムの追いかけっこ観戦
ゼクはなぜあんなに必死なのか

性質が猫なら狭いとこ好きかも
ゼクが置いてった上着を丸めて輪っか作り設置
猫さんおいで良い寝床だよ。なお服は進呈しよう

お帰りゼク
お弁当奪還作戦を真剣に展開していた理由は?
怒らないから言ってご覧

ひどいにゃー
普通のお弁当でしょ?

まあ玉子焼き、一個だけ中にマスタード塗りたくったけど

だって“いつも通り”が一番楽しいもの
美味しくない自覚はあるから無理して食べなくていいよ
……あーもう。水筒の水は準備しといてあげる


セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  お弁当はおにぎり祭り。
今回は俺が作ってみた(ドヤ顔。
海苔・肉・卵・とろろ昆布などで巻く。
具材は色々。唐揚げで天むす風、鮭、タラコ、ツナとか。梅干し、おかか。塩昆布。
わかめをご飯に混ぜて。
気が付いたら沢山出来上がっててさ。
それをにゃんこに持って行かれるとは!?

でも猫に酷い事したくないから説得はラキアに任せよう。そうだよ、一緒に食おうぜ。
ラキアがいつも持っている猫のおもちゃを振ってペタルムの気を引く。
「食べたらこれで一緒に遊ぼう」と。
猫好きだから一緒に食べたいし遊びたい。
ワンコサイズの猫なんて憧れじゃん!

いつもご飯ラキアに作ってもらってるから、今回はオレの手料理(おにぎり)を存分に味わってくれ!



アイオライト・セプテンバー(白露)
  うわーん、あたしのぱんつなお弁当、猫さんに取られたー
待って待ってー返してよー(ダッシュ

…いつのまにか、パパとはぐれちゃった
お弁当ないし猫さんいないしパパもいないしお腹空いたし寂しいし(えぐえぐ
アッタマールのお茶でも呑んで、気を紛らて…
…(ぐー
うわあんやっぱりお腹すいたよーパパがいなくて寂しいよー(じたばた

あ、パパだ
あたしはこっちだよー(にこにこ

えー、あたし悪くないもん
猫さんがお弁当持ってったからだもん
そういえば、猫さん何処かなあ?
あ、見っけ
ねー猫さん、お弁当返してよー
半分こしてあげるからー
それとも、ぱんつが欲しいの?
そんならきっと、パパがぱんつを脱いでくれるよ!
ん、あたしのぱんつの方がいいの?



蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
  フィンの作ってくれた弁当、絶対に取り返す!(握り拳

フィンも手伝ってくれ
ペタルムの気を引くんだ
弁当を放すくらいに!
弁当を手放した所を取り返す

まずは木の枝を拾って、咲いている雑草を木の端にゴムで着け、簡易のねこじゃらしもどきを作成

木の壁などに隠れて、猫の鳴き真似
てぶくろ「ネコマタ」を付けた手だけ出して、こいこいと手招きし、ペタルムを誘き寄せる

ねこじゃらしもどきで、遊ぼうと誘惑
興味を持ち寄ってきてくれたら、背中を撫で
頼む、大事な弁当なんだ
おかず…少しくらいなら分けてやるから、返してくれないか?
と、真摯に頼んでみる

無事弁当を返して貰えたら、もう他の誰かに盗られる前に食べる
フィンの弁当は、俺のモノだから




「お弁当、僕が作ったんだ。食べて?」
 柊崎 直香が美少女じみた笑顔で差し出した弁当包みに、ゼク=ファルは戦慄した。
 普段、家事全般をこなすのはゼクであり、直香の手料理など数える程しか味わったことがない。それが、突然の手作り弁当である。
 罠 が あ る に 決 ま っ て い る。
 今まで直香と過ごしてきた日々が油断するなと警鐘を鳴らしている。手渡された弁当箱を見つめ、ゼクは、ごくりと唾を飲み込んだ。
「どうしたの? お腹すいたって言ったよね」
 罠はそんなところから始まっていたのか。逃げられないことを悟り、弁当の蓋に手をかけたとき、泥棒は現れた。
「にゃっ!」
 ペタルムはお弁当をくわえ、俊敏な動きで明後日の方向へ駆けていく。ゼクが判断を下すのは早かった。即座に後を追う。
 弁当が惜しかった訳ではない。だが、万が一ペタルムが中身を口にしたら……いや、内容物が食べ物であるとは限らない。びっくり箱の可能性もある。弁当に腰を抜かしたペタルムの姿を想像だけで心が痛んだ。
 速やかに奪還せねば。
 強い使命感が湧き上がる。一言で言ってしまえば、ゼクは猫好きなのだった。

「ゼク選手走り出しました! 相手は俊足猫さん力強い跳躍だ、これにはゼク選手お手上げか……いや反対側に回り込みました上手く樹木を使っていますね」
 置いてけぼりにされた直香は、ゼクとペタルムの追い駆けっこに実況観戦を決め込む。そもそもゼクはなぜあんなに必死なのか――理由の予測は何となくつくのだが、当たっているとすれば心外な話だった。
 ゼクは正攻法でペタルムを追っているが、野生動物の身のこなしは流石と言うべきで、見失うのは時間の問題だろう。
 要は頭の使いようだ。猫なら狭いとこ好きかも、と直香はゼクが置いていった上着を丸めていそいそと地面に輪っかを作る。
「猫さんおいで良い寝床だよ。なお服は進呈しよう」
 それは見事な猫転送装置だった。

 すっかりペタルムを見失ったゼクは、これは一度ベースに戻って作戦を立て直すか、と肩を落として直香の元へ戻る。そして、急変している事態に驚きの息を漏らした。
 丸められたゼクの上着のうえで問題のペタルムがすやすやと丸くなっている。
「俺の服……」
 控えめに言って、毛だらけであった。
「お帰りゼク」
 直香が奪還したお弁当を手に、にっこりと出迎える。いたいけな猫は無事だったらしい、と安堵したゼクとの距離を、直香はずいっと詰めた。
「お弁当奪還作戦を真剣に展開していた理由は? 怒らないから言ってご覧」
 眉間にしわを寄せ、答えに窮したゼクに向かって、直香は大げさに溜め息を吐いてみせる。
「ひどいにゃー、普通のお弁当でしょ?」
 猜疑心を見透かされた気まずさの中、やっと弁当の蓋を開けると、少し焦げた玉子焼きに、不揃いのウィンナー、真ん丸おにぎりが顔を見せた。一目で奮闘ぶりが分かるビジュアルだ。あの直香が本当に俺のために作ったのか、と思うと疑ったことに罪の意識をおぼえる。
「……いや、その、悪かった。全部食わせてくれ」
 おにぎりに齧りつくと、塩分過多でむやみにしょっぱい。不慣れさが全面に出ている。
「美味しくない自覚はあるから無理して食べなくていいよ」
「いや、独特の味付けだが食え……!?」
 玉子焼きをひと切れ口に放り込むと、マスタードの辛味が鼻をついて咽せた。何で玉子焼きに大量のマスタードが! とばかりにゴホゴホやっているゼクに直香は頬をゆるめた。
「……あーもう。水筒の水は準備しといてあげる」
 ちょっとした悪戯の添えられた、いつも通りの食事。柊崎 直香の望むものとは、そういうものだった。


 アイオライト・セプテンバーの一日は御機嫌ではじまった。
「パパ~、お弁当ぱんつがいいー!」
 早朝に無邪気に叩き起こされた白露が『ぱんつなデコ弁』をなんのかんのと用意してくれたためである。
 おにぎりも海苔をぱんつにしてもらったし、ハンバーグだってチーズのぱんつをはいてた。
「そろそろお昼にしましょうか」
「わーい! ぱんつー!」
 早くお弁当の時間にならないかなーと、うきうきワクワク午前中を過ごしたアイオライトに白露が言うと、飛び跳ねて喜ぶ。
「今敷き物を用意しますから、待ってくださいね」
 待ちきれずひと足先にお弁当包みを取り出したアイオライトに悲劇は襲いかかった。茂みから飛び出したペタルムが颯爽とぱんつ……もとい、お弁当を咥えて走り去ったのである。
「うわーん、あたしのぱんつなお弁当ー! 待って待ってー返してよー!」
 ダッシュで追い駆けるも、ペタルムの俊足は非情であった。必死に走るものの距離は開く一方で、ぐんぐんと小さくなったペタルムは、ついに視界から消えてしまう。
「うわあん、追いつけないよー! パパ疲れたー」
 はあはあ、と息を切らして、とうとうその場に座り込んだアイオイトは駄々をこねるように手足をばたつかせた。
「パパ……?」
 気付けば、随分と遠くまで来てしまっている。白露の姿は何処にも見えなかった。……いつのまにか、はぐれてしまっている。
「お弁当ないし、猫さんいないし、パパもいないし……」
 良いところのない現状に気持ちはどんどん萎んでくる。
「お腹空いたし、寂しいし……あ、アッタマールがあった!」
 アヒル特務隊「ポカポカ・アッタマール」でぽかぽかに保たれたお茶を飲めば、きっと空腹も紛れる……というのは甘い考えで、ぐううう、と盛大にお腹の音が鳴った。
「うわあん、やっぱりお腹すいたよー! パパがいなくて寂しいよー!」
 泣き声はこだまとなってネイチャーヘブンズの林に響いた。

 白露は、ペタルムを追い掛けて何処かに消えてしまったアイオライトを探して、ネイチャーヘブンズ内を歩いていた。
「たぶんどこかで迷子になってるのでしょうね……」
 あの子は泣き虫なところがありますから、早く見つけてあげないと。そう思った矢先、林の奥から泣き声がうわんうわんと聞こえてくる。
 泣き声はこれ以上ない道しるべだった。
 ……ほら。
「アイ」
「あ、パパだ。あたしはこっちだよー」
 呼び掛けると、アイオライトは地べたに転がっていた体をすっくと起こして顔を上げた。白露を目にした途端、さっきまで泣いていたのが嘘のように、にこにこと手を振っている。
「私に黙ってふらふらしてるから、そうなるんですよ」
「えー、あたし悪くないもん。猫さんがお弁当持ってったからだもん。そういえば、猫さん何処かなあ?」
 白露の注意もどこ吹く風、すっかり元気を取り戻したアイオライトはきょろきょろと周囲を見回した。
「あ、見っけ!」
 アイオライトが指差した方角、お弁当咥えたペタルムがこちらを、何やってんだアイツら、というような半目で見ている。
「ペタルム様も呆れた顔をしているじゃないですか……」
「ねー猫さん、お弁当返してよー半分こしてあげるからー」
 ぶんぶんと元気に呼びかけるも、ペタルムはつんと、その場に座り込んでしまった。
「それとも、ぱんつ? そんならきっと、パパが脱いでくれるよ!」
「ナチュラルに私のぱんつを押しつけるのは止めなさい。もらったって迷惑なだけですから」
「ん、あたしのぱんつの方がいいの?」
「アイのぱんつもいらないです」
 すぐにでも脱ぎだしそうなアイオライトを押し留め、このままではいけない、と白露からもペタルムにお願いする。
「ペタルム様、お弁当を返しては頂けませんか?」
 ペタルムは、はぁー、と動物らしからぬ溜め息を吐いた。
「パパ! 猫さんが置いてってくれたよ!」
 はしゃぐアイオライトと裏腹に、同情されてしまった、と白露の気持ちは複雑である。
「ぱんつおいしい!」
 空腹を抱えていたアイオライトは、さっそくお弁当包みをひらき、頬ばった。
 こうも満面の笑顔で言われてしまうと、早朝からのデコ弁作りも泣き声を頼りに探し回ったことも、すべて報われた気になってしまう。
(私って、アイに甘いんですかね……)
 白露はアイオライトのために飲み物を用意しながら、これからもそう厳しくはできないだろうことを思っていた。


「フィンの作ってくれた弁当、絶対に取り返す!」
 泥棒猫の狼藉を受け、愛情弁当を失った蒼崎 海十は、握りこぶしを握って熱く決意表明をした。
「フィンも手伝ってくれ!」
 フィン・ブラーシュは、勿論手伝うよ、と腕まくりをして返した。
「海十の為に腕によりをかけて作ったお弁当、海十に食べて貰えないの、悲し過ぎるからね!」
「ペタルムの気を引くんだ。弁当を放すくらいに! そして、弁当を手放した所を……取り返す」
 海十は木の枝の先端に生えていた雑草をゴムで括り、即席の猫じゃらしを作り出す。
「それなら、俺はハンカチでボールもどきを作ってみよう」
 フィンはきっちりアイロンのかけられたハンカチをくしゃくしゃに丸め、縛って球体にした。オモチャの準備は万端だ。問題はどうやって誘き寄せるかだが……。
「俺達の姿が見えたら、ペタルムも警戒するよな……」
 ふたりで木の陰に隠れ、何処ぞに消えたペタルムの気配を探る。
「仲間だと思って姿を見せてくれたらいいが」
 海十は、てぶくろ『ネコマタ』を装着した。つけているだけで仕草が猫らしくなり、半々の確率で語尾まで猫っぽくなれる役に立つような立たないようなアイテムである。
「にゃ~にゃ~にゃんにゃ~ん」
 木陰から肉球もプリティな手だけを出して、ペタルムこいこいと手招きをする。
(か、可愛い……)
 普段は見られない海十の猫真似にフィンは、ついつい目を奪われてしまった。ムービーで撮影したい。
「フィン、どうかしたかにゃ?」
「あざといな! おっと、ごめん! 俺も手伝うよ」
 ハッと我に返って、てぶくろ『ネコマタ』誘惑作戦にフィンも参戦する。にゃ~んにゃ~んと招き猫すること数分、効果は現れた。
「あっ、海十、来たよ! こっちを見てる」
 フィンが小声で接敵を知らせる。海十はひとつ頷き、用意していた猫じゃらしを振った。
 しょせん猫のサガには逆らえぬと見えるペタルムは、しゃかしゃかと素早く足を動かして突進してくる。
 緩急をつけて、右! 左! 右! しなる猫じゃらしを追いかける光速のペタルムの猫パンチを捌き、興奮したペタルムの背中を撫でて落ち着かせる。
「なあ、頼む、大事な弁当なんだ……返してくれないか?」
 海十はペタルムの背を撫でながら、真摯に頼み込んだ。ただの弁当とは違う。あげてしまうわけにはいかない弁当だった。
「俺のお弁当は返してくれないかな? ふたりで遊んであげるから」
 海十の後を繋ぐようにして、フィンもお願いする。しかし、ペタルムは弁当を守るように、いやいやしてみせた。
「仕方ない」
 フィンはハンカチで作ったボールを、ひとつきりのお手玉のように投げるのとキャッチするのを繰り返す。
「それっ!」
 ペタルムの視線がボールに吸いつくのを確認すると、フィンはハンカチボールを遠投した。弁当を置き去りにしたまま、ペタルムはまっしぐらにハンカチを追いかけていく。
「ちょっと手間取ったけど、ランチタイムにしようか」
 フィンが場に残された弁当を拾い上げて手渡すと、もう他の誰かに盗られてなるものか、というように海十は急いでお弁当をひらく。
「海十の好きなハンバーグ、里芋の煮っころがしも入れてみたよ」
 好物や季節の味覚の詰まった愛情弁当を海十は、口いっぱいに頬張った。よく味のしみた里芋の美味しさは、秋ならではだ。
「そんなに急いで食べなくてもいいよ。味わって? ね」
 もう誰も盗らないし、盗ませないから、とフィンは笑ってお茶を用意する。
「それは俺が海十に作ったお弁当だからね」
 口の中のおかずを飲み込み、海十は照れくさそうに、こくりと頷く。
「俺も同じこと考えてた……フィンの弁当は、俺のモノだからやれないって」
 何という両思い。
 美味しく食べてくれる海十を見る為に作っていると言っても過言ではないな……とハンバーグに口元をゆるませる海十を優しく見つめるフィンだった。


 お弁当を作って楽しんで来て、とのA.R.O.A.職員の要請にはりきったのは、セイリュー・グラシアの方だった。
「今回は俺が作ってみた」
 小型のリュックサックほどの荷物を携えたセイリューが得意げに言う。
「セイリューの作ったお弁当、楽しみだよ」
 普段のご飯作り担当:ラキア・ジェイドバインは、感動に目を輝かせた。料理を作るのを苦にするわけではないが、大切な人に作ってもらえるご飯は格別に嬉しいものだ。ラキアは浮き立つ心に探索の足が軽くなるのを感じた。
「それにしても、大きなお弁当だね。何が入ってるの?」
「今日は、おにぎり祭りだぜ」
 ラキアの問いに、セイリューは軽やかに答える。
「具考えるだけで、色々あるじゃん? 俺、唐揚げと天むすは好きだから外せねぇし、だからって鮭、タラコ、ツナとか定番も絶対に欲しいだろ? 梅干し、おかか、塩昆布……」
 おにぎりの具を指折り数えるセイリューは、それぞれの味を思い浮かべているのか、楽しそうな顔をしていた。
「わかめご飯に混ぜるのもうまいし、巻くのだって海苔以外にも、肉とか、卵とか、とろろ昆布も……って、気が付いたら沢山出来上がっててさ」
「それ、もしかして全部おにぎりなの?」
 小ぶりのリュックほどの大きさと言っても、中に詰まっているのがみんなおにぎりなら、ちっとも小さくないわけで。
「うん。考えてたら、みんなラキアに食わせてやりたくなったんだ」
 とても食べきれるとは思えないが、そんな風に笑顔で言われてしまえば嬉しくなってしまう。有難う、と伝えるとセイリューもまた、嬉しそうに笑った。

 折角つくったのに、にゃんこに持って行かれるとは!?
 茂みから飛び出してきたペタルムにお弁当を抱え込まれて、セイリューは目を瞬かせる。
 無理矢理に奪い返すという選択肢もあるだろうが、それはセイリューの望むところではなかった。ふたりの家にも我が子と思っている猫がいるから、同じ猫科に酷い事をしたくない。
 ちらり、とラキアに目配せした。ラキアはうん、と頷いてペタルムに目線を合わせるようにしゃがみ込む。
「一緒に食べよう?」
 ラキアは、優しく声をかけた。
「大事そうに持っているから興味持ったんだよね。ウチの猫達もそうだもの。おにぎりに興味があるんでしょ?」
 やわらかな声音の説得を聞いているのかいないのか、という様子でペタルムはふんふんと弁当の入っている荷に鼻を突っ込んで嗅ぐ。
「美味しそうな匂いがする? 一緒に食べたらきっと楽しいよ」
「そうだよ、一緒に食おうぜ」
 ラキアの隣にしゃがみこんだセイリューが、ラキアがいつも持っている猫のおもちゃを取り出した。ラキアが野良猫と遊べるように持ち歩いているものだ。
「そんで、食べたらこれで一緒に遊ぼう」
 猫じゃらしを振って見せると、ペタルムは興味津々、じゃれついてくる。
「はは、食べてからだって!」
 セイリューだって方便ではなく、ペタルムと遊びたいのだ。だって、ワンコサイズの猫なんて憧れじゃん! という猫好きなら当然の主張である。

「猫ならツナとかの方がいいかな」
 やっとペタルムが手放してくれた、おにぎり袋を広げ、セイリューが丸く握った大きいおにぎりを手に悩む。
 ペタルムが肉巻きおにぎりを転がすので、それをあげることにした。
「いつもご飯はラキアに作ってもらってるから、今回はオレの手料理を存分に味わってくれ!」
「セイリューはアウトドア系メニューは得意だよね」
 大自然のなかで味わうおにぎりは、とても『楽しい』味だ。囲むと、みんなが仲良くなれる味……それはセイリューの性格そのもののように思える。
「おにぎり、とても美味しいよ」
 にゃんっと同意を示すようにペタルムが鳴いた。


 アキ・セイジは怒りに震えていた。
 野生のペタルムに弁当を奪われたからだ。ただの弁当ではない。最近、家事を手伝うようになってくれたヴェルトール・ランスが初めて自分から作ってくれた弁当である。
 今日は俺に任せとけ、と袖まくりしながら台所に向かったランスの姿を思い出す。作ってくれた事実が嬉しくて、内心、楽しみに楽しみに楽しみにしてたのに!
「おのれ猫め……!」
「ちょっと落ち着けよ、セイジ」
 あまりに刺々しい負のオーラを背負ったセイジに、ランスが言葉を掛ける。
「泥棒は犯罪だ」
 止めてくれるな、と険しい目つきで振り返ったセイジの気迫にランスはたじろいだ。
「絶対に取り返す。挟み撃ちにしよう、ランスは左側から回ってくれ」
「そりゃ構わないけど……」
 お弁当咥えたペタルムは、木立の陰から、じっと二人を窺っているようだ。セイジはペタルムの右側へ回り込むため、足を踏み出した。
「……折角のランスの弁当なのに」
 ぽつりと離れ際の独り言を、ランスの耳はしっかりと拾い上げる。そんな風に言ってもらえれば作った冥利に尽きる。面と向かっては口にしないセイジの態度も可愛く思えて、ランチタイムを取り返してやらなくっちゃな! と張り切った。

「ランス! そっちだ!」
「ああ!」
 右から攻めると、当然、左へ転進する。左からは作戦通り、ランスがつめていた。やった! と小さくガッツポーズをしたのも束の間、ペタルムは第三の逃走経路をとった。
「木に登れるのか……!」
 樹皮に爪を立て、あっという間にペタルムは木の上へ登って行ってしまった。
「作戦変更だ」
 野生動物の身体能力はランスでよく知っているつもりだ。セイジは挟み撃ち作戦に早々に見切りをつける。
「どうするんだ?」
「誘惑作戦に方針転換をはかる」
 誘惑とは大胆な言葉が飛び出したが、セイジはポケットからサッと取り出したのは、ハンカチだった。ひらひらとペタルムの注意を引くように振り、膝の上に置く。
 猫を待つ。興味をもって木から降りてきたペタルムが、更に近づいて来るようにパペット人形をゆらゆらと揺らし、狩猟本能を刺激する。
 パペットを素早く左右に動かしたタイミングで、ペタルムが飛びかかってきた。すかさずハグで捕獲する。
 弁当を取り返して引き換えにハンカチを与えると、ペタルムは夢中でハンカチにじゃれつきはじめた。
「やったな、セイジ」
 作戦の成功を見届け、ランスが駆け寄る。セイジは口元に笑みをのせて応えた。
「ああ、これでやっと弁当にありつける」
「その……あんまり中身に期待はしないでほしいんだよな」
 セイジが包みをとく前に、ランスが言いづらそうに自己申告した。セイジは構わずに、弁当の蓋をあけた。
 真っ黒の肉じゃがに、真っ黒の鳥の唐揚げが堂々とした存在感で詰まっている。
「ゴメンな……一寸、火加減がさ」
 我ながら酷い焦げっぷりだと大汗をかくランスに、セイジは優しい笑いをもらした。そして、大きな口で大焦げの唐揚げを咀嚼する。
「美味いよ。ランスが初めて俺に作ってくれたんだもんな」
 幸せそうに美味しいはずもない唐揚げを頬張るセイジに、ランスは嬉しいやら狼狽えるやらだ。
「セイジ、本当にそんな全部食べなくても……」
「ランスが要らないなら、全部俺が食っちゃる!」
 焦げて苦い肉じゃがも、とおっ! とばかりに口に入れる。料理上手とは言えないが、一所懸命につくった味だ。
「弁当、凄く嬉しいよ。俺のために初めての弁当で……その、ありがとうな……」
 無理して食べてるわけじゃない。本当に幸せの味がするのだ。
 セイジは顔を真っ赤にして、それでもこれだけは伝えたいと感謝を口に出す。
「……こちらこそ」
 お互いが相手を幸せにしてくれる。正しく幸せの詰められたお弁当だった。


 その後、お弁当を食べ終えたウィンクルムたちが探索に戻ると、何故か変化した月幸石が落ちているのを見つけて状況の飲み込めないまま持ち帰ることになった。
 それが持っていた月幸石がランチタイムの幸せに反応して変質してしまい、がっかりしたウライが要らないや、とばかりに置いていったという代物だったのは誰も知らない話である。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 碓井シャツ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月19日
出発日 09月26日 00:00
予定納品日 10月06日

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