プロローグ
金色のレールはぼぅっと幻想的な狐火を纏っている。その揺らめくレールに乗ってムーン・アンバー号は光を振りまきながら到着した。目的地である『紅月ノ神社』へ。
『いらっしゃい、強く優しい子たち』
『清く正しく祭を楽しんでいただきたいわ』
ムーン・アンバー号を降りると同時に、頭の中に声が響いた。
戸惑っている者、懐かしさを覚える者、様々な反応を見せるウィンクルム達に、二人の『妖狐』が「よくぞ来た!」と笑顔で迎え入れた。
「毎年恒例の夏祭り、今年はジェンマ様への感謝祭も兼ねておるのじゃ! さぁ、存分に楽しむとよい!」
妖狐達の長であるテンコが、何故か得意気に言う。その横でテンコに使える青年妖狐の青雪が「ちなみに先ほどの歓迎はムスビヨミ様と甕星香々屋姫様です」と教えてくれた。
「今の時間帯ならば、広場で木霊と風神の出し物の『花乱舞』が楽しめるぞ、他にも色々な屋台や見世物が……」
「そう! 今ならつまらねぇ見世物じゃなくてサイッコーの遊戯に参加出来るぜぇ!」
「ついてるねウィンクルムちゃん達!」
「ひゃっはー!」
「いぇあー!」
テンコの発言は頭上から振る声に遮られた。
妖怪、風神達だ。
風神。人の生活に害を出す妖怪で、何者にも囚われず、瞬間を楽しむ快楽主義者。またの名を馬鹿。
「ま、待て! おぬし達の出し物なぞ許可しとらんぞ!」
空から降りてきた風神は五人。そしてもう一人、風神に抱えられて妖艶な美女が一緒に降りてきた。
「はぁあ? 風神と木霊で花乱舞をやるんですけどぉ? なー、木霊!」
「そうよぉ、私木霊よポンポコポン」
「あからさまに狸ぃ!!」
美女は木霊を名乗るが、いかんせん、ふっくらとした狸の尻尾がばっちりと見えていた。
「じゃあ待ってるからなー! せいぜい楽しめよウィンクルムー!」
「超絶おもてなしをしてやるぜー!」
「ひゃっはー!」
「いぇあー!」
「ぽんぽこー!」
「待て! こら! この……ッこの馬鹿共がー!!」
広場の方へ飛んでいく風神と狸に怒鳴るテンコ。
笑顔で諦め「まぁ好きに楽しんで下さい」という青雪。
それらを呆然と受け止めたウィンクルム達。
さて、どうしようか。
とりあえずは、広場がどうなっているのか見てみようか。
解説
ジェンマ祭兼夏祭りを楽しみながら、花乱舞に参加してください。
参加できる『花乱舞』は二つになります。
1、本物の花乱舞
風神の朱翔(あけがけ)と木霊の瑞葉(みずは)のカップルが主催の出し物。
色とりどりの花が降ってきては優しく風に煽られ地面に落ちず舞い続けます。
花の中には狐火が灯って光っているものもあり、それをキャッチ出来ると素敵な恋人が出来るというジンクスがあります。
恋人と一緒にキャッチ出来るとずっと一緒にいられるというジンクスがあります。
2、偽物の花乱舞
風神達と木霊に化けた狸が主催の出し物。
色とりどりの(様々な酒で出来た)花(の形をしたもの)が降ってきては激しく風に吹き付けられ地面に落ちず舞い続けます(というか飛びかいます)。
花をキャッチすると花が破裂して酒を被ってしまいます。キャッチしなくても花にぶつかれば破裂します。とにかく破裂します。青春は爆発だ。
つまり、強風の中で楽しんでたら花が飛んできてぶつかったりすると酒ビシャーってなるよ! 大人はあえて飲んでもいいかもね! 子供は飲んじゃダメ絶対! でもほら匂いをかいじゃうのはこの状況じゃ不可抗力だよね!!
参加したい花乱舞の数字をプランの頭に書いてください。
神人と精霊は一緒でも別でも構いません。
風神と木霊と木霊(狸)には絡んでも絡まなくてもご自由に。
ただし、風神に絡むとなんかウザイ面倒臭いイラッとくる反応が返ってくるかもしれません。
屋台で色々買って500Jr使いました。
ゲームマスターより
本物でも偽物でも、とにかく花乱舞をお楽しみください。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
八神 伊万里(アスカ・ベルウィレッジ)
2 つくづく風神さん達とは縁がありますね… でもこの風強すぎ…え?偽物? ちょっと待って今日私ミニスカ…きゃあ! み…見た…? やっぱり見てるじゃない!アスカ君のラッキースケベ!(平手打ち 手を引かれて逃げる お酒くさい…私は平気だけどアスカ君は大丈夫? ああっ、やっぱり泣いちゃった! しゃがんでアスカ君を抱きしめて背中をポンポン 諭すように話しかける さっきは叩いてごめんね 嫌ってなんかないよ、私はアスカ君が大好きだよ 一番のパートナーだと思ってる だから泣き止んで、私アスカ君にはいつも笑っていてほしいな 風神さんと目が合ってはっと我に返る よく考えたらすごく恥ずかしいことを言ったような… あぁ…遠くに本物の花乱舞が見える… |
ひろの(ルシエロ=ザガン)
1 木霊の姐さんだ。(目が合い、小さく手を振る 花は木霊の姐さんが用意したのかな。 (花灯りを見て 取れたのって、貰えるのかな。ダメかな。 「恋人とかは、どうでもいい」よくわからないし。 けど。ルシェと一緒は、いいなって思う。 花は指に触れるだけ。なかなか取れない。 ルシェの方を見たら、花灯りが落ちて来た。 その白百合に手を伸ばして、つまづく。 「う、ん。……ありがとう」 花は私とルシェの間。少しつぶれてた。 これじゃルシェにあげれない。 「去年貰ったから、ルシェにあげたいなって」 これ、一緒に取ったことになるのかな。 「ルシェ?」(首傾げ (緩やかに伝えられた好意の言葉に、赤くなり俯く 「私、も。ルシェでよかったって、思う」 |
アマリリス(ヴェルナー)
1 嫌な予感がしていたけど… よかった、まともだわ 一緒に光景を眺めつつ 平和そうで何よりですわ 以前紅月ノ神社に来たのは…、大分前ね 早いものね、もうあれから一年も経っているだなんて 狐火の灯る花が目に付き目で追う 素敵な恋人、ねえ…(精霊をちらり あの頃に比べてわたくし達の関係は何か変わったのかしら 変わったような、変わってないような… い、いえ、別にどうにかなりたい訳ではないですけれど… 浮かんだ未来予想図に自分で照れて考え打ち払い 別に、欲しかった訳では… それにこれはわたくしがキャッチした事にはならないのではなくて? …そうきましたか では、これでわたくしにも素敵な恋人が出来るという訳ですね あら、どうなさったの? |
アイリス・ケリー(ラルク・ラエビガータ)
2・精霊と一緒に とりあえず広場に来てみましたけれど…どちらが本物かどうか一目瞭然ですね じゃあ、狸さんの方へ行きましょうかとにっこり 奇遇ですね、私もラルクさんに災難がふりかかる気がしてるんです ということでお分かりですよね? すごい…台風みたいです こういうの、楽しくなってきちゃうんですよね …あら?そういえば、お酒のような香りが… …ふふふ…なんだか、さらに楽しくなってきましたね 私の周りだけでも、いえ、むしろラルクさんの周りだけでも局地的に風力が上がらないものでしょうか 暴風警報が出てもおかしくない風力でもいいですね! ふふー、ラルクさんは、私のお遊びにもちゃーんと付き合ってくださる言い方ですよ |
■風よ、恥らい恥らわせよ
『八神 伊万里』と『アスカ・ベルウィレッジ』が広場に到着した時、丁度、花乱舞が始まるところだった。
「つくづく風神さん達とは縁がありますね……」
「風神が出てくるとろくなことにならないんだけどな……」
だから二人は本物の方の花乱舞を選んだ。司会の立つ舞台は離れているけれど、こちらで間違いないだろう。そもそも他の風神達が見当たらない。
『それでは花乱舞を開始します! 皆様お楽しみください!』
拡声器越しの妖狐の声が響くと、ふわりと風が吹き始め、空中からぽんっと幾つも花が生まれてくる。
伊万里とアスカはほっとしたようにその光景を眺めていた。
「今回は木霊もついてるんだしそうそう大惨事には……」
「でもこの風強すぎ……」
そう、風はどんどん強くなる。何かがおかしい。二人がそう思った時。
「いらっしゃーい! お二人さーん!」
「おっひさー!!」
もはや聞き慣れてしまった嫌な声が聞こえて、二人の前に滑るように風神達が登場してきた。
「うわぁっ!?」
「え? 偽物?」
「偽物って、ひっでー伊万里ちゃん!」
「こっちだって本物の風神と木霊だよーん!」
「そうよポンポコ」
「ばっか、お前が喋るとばれるだろ!」
ゲラゲラと笑うのは風神達と木霊に化けた狸。
実は二人のすぐ後ろで『花乱舞やるよ!』という看板を持って待ち構えていたのだ。
「またアンタ達か!」
「そうでーす! また俺達でーす!」
「さーて! 俺達の絆を見せてもらおうか!」
「うるせぇ! いい加減それ言うのやめろ!」
「ちょっと待って今日私ミニスカ……きゃあ!」
アスカの叫びと伊万里の焦りは、全て「ふっとべー!!」という風神達の声と巻き起こった暴風に吹き飛ばされた。
予想以上の風の強さに伊万里の体が揺らぐ。それをアスカが庇うように支えようとして……。
「あっ」
問題です。
現状から考えうる男の子の身に降りかかるであろう出来事はなんでしょう。
「み……見た……?」
伊万里がスカートを押さえ、顔を真っ赤にさせて問う。
「み、見てない! 『アンダー・ザ・ラブ』なんて見てな……」
「やっぱり見てるじゃない! アスカ君のラッキースケベ!」
「ぐはっ!?」
大きくバチンッという音を立てての平手打ちが炸裂。伊万里からアスカへの教育的指導。
「くそっ……とにかく、逃げるぞ!」
このままでは(いいものが見れるけど)同じ悲劇が繰り返されてしまう。そう判断したアスカは伊万里の手を引いて走り出す。
本物の所に行けば大丈夫だろう。そう考えての行動は正しかったが……。
「あっ」
問題です。
現状から考えうる男の子の身に降りかかるであろう出来事はなんでしょう。
「お酒くさい……」
まともにバシャッと酒の花を被ってしまったアスカと伊万里。恐る恐ると伊万里はアスカの顔を覗き込む。
「私は平気だけどアスカ君は大丈夫?」
覗きこんだ先には、今にも泣き出そうと体を震わせているアスカがいた。
「うっ……ぐす……ふぇえ~ん!」
「ああっ、やっぱり泣いちゃった!」
口には入らなくても匂いだけで充分。それ位アスカは酒に弱かった。
酔って幼児退行をしたアスカは全力で泣き出す。全力で訴える。
「伊万里は俺のこと嫌いになったの!?」
「何でそうなるの!?」
「だって俺のこと叩くし、他の奴と契約するし……俺のこと嫌いになったんだ~! ふぁあ~!」
「違う! 違うから!」
しゃがみこんだアスカを慌てて抱きしめる。そして子供をあやすように背中をポンポンと撫でるように軽く叩く。諭すように話しかける。
「さっきは叩いてごめんね、嫌ってなんかないよ、私はアスカ君が大好きだよ」
「……ほんとに? じゃあ好き? 一番好き!?」
好き。
その言葉の意味が、今のアスカには、伊万里には、どういう意味を持っているのか。
一瞬止まって、けれど伊万里はすぐに答える。今の伊万里の心からの答えを。
「一番のパートナーだと思ってる」
その答えに嘘はなかった。
それがアスカにも伝わったから、アスカは泣きながらもふにゃりと笑う。
「よかったぁ……」
伊万里はその笑顔を見てほっとする。
「だから泣き止んで、私アスカ君にはいつも笑っていてほしいな」
二人はお互い支えあいながら強風の花乱舞を何とか抜け出す。
花乱舞の範囲外の芝生でようやく一息つけば、こちらを見る視線に気がつく。
風神達が、にやにやにやにやしながら見ていた。そこで伊万里はハッと我に返る。
(よく考えたらすごく恥ずかしいことを言ったような……)
もう一度顔を赤くする伊万里の視線の先で、風神達が楽しそうに口を開いた。
「「「「「ごちそうさまでしたー!!」」」」」
そうして風に負けない大笑い。
抗議を入れる気力もない伊万里は、ただ風神達の更に向こうに見える本物の花乱舞を羨ましそうに見て、ガクリと肩を落とした。
(あいつらに全部聞かれた……!)
少し酔いの抜けたアスカは、それでも芝生に横たわりながら、顔を真っ赤にしてふるふると震えていた。
(でも伊万里の一番なら、それでいいかな……)
そんな事を思いながら、脱力している伊万里になんて声をかけようか考え始めた。
■風よ、一年越しの想いを見せよ
伊万里とアスカが散々な目に遭っている頃、本物の花乱舞を堪能できていたのは『ひろの』と『ルシエロ=ザガン』だ。
舞台に近い所にいた二人は、その上に立つ男性と女性の姿が確認できていた。
(木霊の姐さんだ)
一年前、妖狐の手伝いで花の調達の手伝いをしたひろのは、舞台の上に立つ美女が調達先の木霊の瑞葉だという事がわかった。
じっと見ていると、瑞葉もひろの方を見る。瑞葉もひろのを覚えていたようで、ゆったりと微笑んだ。
それに答えるように、ひろのも小さく手を振る。
(ヒロノから手を振るとは)
横で様子を見ていたルシエロが目を瞠る。
(会うのは二度目のはずだが。トレントといい、何が基準だ?)
ひろのが心を傾ける明確な基準がまだよくわからない。わからないという事も、傾けられている対象がいる事も、面白い事ではない。
それでもルシエロは意識を切り替える。
(まあいい。今は出し物を楽しむとしよう)
優しい風に攫われて花が踊る。ルシエロもひろのもその美しさを心地良く眺めていた。眺めながらひろのは色々と思いを巡らせる。
(花は木霊の姐さんが用意したのかな)
一年前と同じなら、きっと瑞葉が用意したのだろう。
一年前の手伝いの時には狐火で光る花を貰えたが、この花乱舞ではどうなのだろう。
(取れたのって、貰えるのかな。ダメかな)
脳裏に一日だけあったシンビジウムの簪が甦る。
美しい簪は、美しい精霊から貰ったものだった。
「恋人が欲しいのか」
不意に、ルシエロが話しかけてきた。
ひろのは唐突な呼び掛けと言われた内容に驚く。じっと光る花を見ていたからそう思わせてしまったのだろう、と思い至る。
「恋人とかは、どうでもいい」
よくわからない。恋人というものがどういうものなのか。いや、言葉の意味は分かる。けれどそこに伴う筈の気持ちがよくわからないのだ。
(興味無しか)
そんなひろのの答えを、既にわかっていたような、けれど何処か呆れたような気分でルシエロは記憶する。
ひろのにはどうでもいいことだとしても、今のルシエロにとってはどうでもいい事ではないのだ。
(どう意識させたものだろうな)
二人の会話はそこで止まる。
お互い空中の花々をじっと見ている。
美しい光景を見つめながら、ひろのは続きの答えを一人紡ぐ。
(わからない、けど。ルシェと一緒は、いいなって思う)
この答えはまだ、口には出せずにいた。
口に出せないまま、ひろのは動き出す。光る花を手に取るために。シンビジウムの簪を思い浮かべながら。
けれどなかなか花を掴めない。取ろうとしても指に触れるだけで、風に吹かれれば揺れて飛んで遠ざかる。届かないからこそ、ひろのはますます夢中になる。
(普段は動こうとしないから少し意外だな)
ルシエロは花ではなく、必死になっているひろのを見つめる。その必死さがひろのを実年齢より幼く見せていると思いながら。
何度目かのチャレンジも失敗に終わり、ひろのは少し休む為に、冷静になる為に、諦めない為に、一度ルシエロの方を振り返る。
そこへ、ふわりと光る花が落ちて来た。
取る気もないルシエロが戯れに指先で触れれば、ひろのはそれを取ろうと手を伸ばして近づく。
「あ……!」
花にばかり夢中になっていたせいか、足元が留守になっていた。ひろのは地面の僅かな凹凸に足を取られて躓く。
転ぶ、そう思った次の瞬間、一歩距離を詰めたルシエロがそっと支えた。
「目が離せないヤツだ。気を付けろ」
「う、ん。……ありがとう」
転ばないですんだひろのは安堵し、けれどすぐに目的のものの状態に気付いて気持ちが沈んでしまう。
「これが取りたかったのか?」
ルシエロが落ちてきていた花をそっと掬う。
落ちてきていた花は百合で、ひろのとルシエロの間に挟まって少しつぶれていた。
(これじゃルシェにあげれない)
しかも自分で取れたわけでもないのだ。
静かにしょげるひろのに、ルシエロが「どうした」と訊ねれば、ひろのは数瞬考えてから、素直に考えていたことを伝える。
「去年貰ったから、ルシェにあげたいなって」
思ってもいなかった回答に、ルシエロは目を丸くし、けれどすぐに緩く笑みを浮かべた。
(いじらしいというか)
「ルシェ?」
何も喋らない精霊を不思議に思ったのか、ひろのは小首を傾げて見上げる。そんな仕草を愛おしく思いながら言う。
「オレの神人がヒロノで良かったと。そう思っただけだ」
緩やかに伝えられた好意の言葉に、ひろのははじめ何を言われたかわからず、けれど遅れて脳がきちんと理解し、顔を赤く染めて俯いた。
(この程度の好意なら伝わるのか)
ルシエロがひろのの反応を満足気に見ていると、ひろのの口が躊躇った様に震えてから開かれる。
「私、も。ルシェでよかったって、思う」
それは漸くひろのの口から紡がれた、契約を肯定する言葉。
ルシエロは笑みを深くしてただ一言「そうか」と答えた。
ひろのは俯いたまま、ルシエロの手に乗っている百合をじっと見つめる。
二人の間に落ちて、二人が挟んだ花。
(これ、一緒に取ったことになるのかな)
■風よ、台風の如く荒れ狂え
「とりあえず広場に来てみましたけれど……」
賑やかな広場にやってきたのは『アイリス・ケリー』と『ラルク・ラエビガータ』だ。
二人は二箇所で行われている花乱舞を見て、そしてこくりと頷きあう。
「どちらが本物かどうか一目瞭然ですね」
「見た目的にも演出的にも分かりやすいな」
和やかな風に遊ばれている人達と、暴風に弄ばれている人達with爽やかな酒の香り。どちらが本物でどちらが偽物かは分かりやすかった。
ラルクは疲れたように息を吐き出しながら、迷わず本物の花乱舞を指差す。
「喧しい方は気づかれると何言われるか分かったもんじゃない、あっち行くぞ…って」
しかし、アイリスはその場に留まりにっこりと笑って、躊躇わず偽物の花乱舞を指差す。
「じゃあ、狸さんの方へ行きましょうか」
微笑みあう二人。若干涼しい風が二人の間を吹きぬけたような気がする。
「とても嫌な予感しかしないんだが」
「奇遇ですね、私もラルクさんに災難がふりかかる気がしてるんです」
「災難は避けるものだと思う」
「何処かの地域では災い転じて福をなすという言葉があるようですよ」
「いや、そうは言っても」
「あるようですよ」
譲らなかったのは、アイリス。
「ということでお分かりですよね?」
にっこりと笑ったままズイッと迫れば、ラルクが諦めの声を出す。
「ワカリマシタ、ジョオウサマ」
今に見てろ、という言葉は辛うじて飲み込んだ。
風に煽られ、髪と服がばさばさと乱される。下手をすれば体そのものが揺さぶられる。
「えらいことなってるな。まあ、酒を呑めるんなら悪くないが」
「すごい……台風みたいです」
風の中に充満している酒の香りに気付いてラルクが頬を緩ませれば、アイリスはその吹き荒れる風にこそ心を沸き立たせた。
「こういうの、楽しくなってきちゃうんですよね」
明らかに浮かれた声色に、ラルクは面倒臭そうに若干顔を顰める。
(この女、台風とか妙に強い風にテンション上がるタイプか)
と、そこまで考えて、気付く。
もう一つテンションが上がる要素がある事に。
「なぁ、アンタ、酒弱いとか言ってなかった、か」
言いながらアイリスを見れば、語尾が中途半端に止まってしまう。止まらざるをえない。
何故なら、既にアイリスの顔は濡れていた。
どうやら入って早々、花にぶつかっていたようだ。
「……あら? そういえば、お酒のような香りが……」
いや香りとかそういう段階じゃない。気付け。気付かなくてもいいからもう出ろ。
そんなラルクの心の声は届かない。
「……ふふふ……なんだか、さらに楽しくなってきましたね」
楽しそうに、実に楽しそうに笑いながら、アイリスが風を浴びながら踊るように進む。
(あ、やべぇ……これ、出来上がってる)
やっぱり面倒な事になった。そう思いながら、ラルクは「おい!」と声をかけながら追いかける。
追いかけながら、前方上空に以前にも対決した風神達の姿を見つけてしまった。
「あ、あそこにいるのは主催者の面々でしょうか」
「おい! 風神達に声かけんじゃない」
「あっれー? アイリスちゃんと憐れな道具のラルクくんじゃーん」
「って、あぁ……」
残念、見つかってしまいました。
「私の周りだけでも、いえ、むしろラルクさんの周りだけでも局地的に風力が上がらないものでしょうか」
「いいよいいよー、ラルクくんだけぶっ飛ばす勢いで上げちゃうよー」
「やめ……ッ」
「そーれ!!」
「うおおおおお?!」
何か浮いた、体浮いた、下からぶわっときて足とられてぶわっと浮いた!!
予期せぬ急激な強風はラルクの体を一瞬浮かせ、そしてすぐに叩きつける様に落とした。
「暴風警報が出てもおかしくない風力でもいいですね!」
アイリスがキラキラと目を輝かせているのが腹立たしい。そしてそれに対して風神達が胸を張っているのが憎々しい。
「そうだろそうだろー? ラルクくん楽しめたー?」
「道具と言うか玩具だなラルクくんはよぉ!」
「あー、ぶん回される系の? 投げられる系の? 全体的に雑な扱いされる系の?」
「ぎゃははは! ぴったりじゃーん!」
「うるせぇ、精霊なんて雑に扱われるもんなんだよ!」
咄嗟に自分の口から吐き出された反論が悲しい。現に風神達は風に負けないほどの大声でゲラゲラと笑っている。
「認めちゃったよ!」
「いいの? いいの? 玩具のラルクくんでいいの?」
「だからうるせぇよ! お前らちょっと黙れ!」
低レベル極まりない会話に対し、意外な援護をしたのはアイリスだった。
「玩具じゃありませんよ」
まさかの展開にラルクと風神達がアイリスへと注目すれば。
「ふふー、ラルクさんは、私のお遊びにもちゃーんと付き合ってくださるいい方ですよ」
援護じゃなかった。
弾けたように「やっぱ玩具じゃん!」と再び笑う風神達の声を聞きながら、ラルクはニコニコ笑うアイリスに、早く酔いが冷めてくれ、と縋るように呟いた。
■風よ、その無自覚を暴け
アイリスとラルクが風神達に遊ばれていた頃、『アマリリス』と『ヴェルナー』は本物の花乱舞に足を踏み入れていた。
「嫌な予感がしていたけど……よかった、まともだわ」
偽物の方から変な横槍を入れられるのでは、本物の方の風神も心変わりするのではないか、と警戒していたのだが、それも杞憂に終わりそうだ。
「こちらは本物でしょうか……ああ、木霊に尻尾がないですね」
それでもヴェルナーは万が一を考えてか、それとも本人の性質ゆえか、すぐに分かる事を真面目に確認して「大丈夫なようです」と報告し、アマリリスを苦笑させた。
緩やかな風が二人を撫でる。髪や服が優しく揺れ、辺りを様々な花がふわふわと漂っている。花は落ちる事無く、地面に近づけばまた舞い上がり、そしてまた踊るように宙を彷徨う。
「平和そうで何よりですわ」
幻想的な光景を眺めながら、アマリリスはぽつりと呟く。
「以前紅月ノ神社に来たのは……大分前ね」
言われて、ヴェルナーは一年前を思い出す。
人喰い刀、雷獣、かき氷、雨降小僧、もう一人のアマリリス。
色々な事が頭をよぎるが、こうしてアマリリスと一緒に花を見ていれば、鮮明に思い出すのは花散妖ヨー。
「早いものね、もうあれから一年も経っているだなんて」
「時間の流れははやいものですね」
一年前は、まだこの神人と出会ったばかりだった。色々とあったが、すべて良い方向に進んでここまで着た。そう思っている。実感している。
ヴェルナーは何処か満足気に表情を緩めながら花々を眺め続ける。
花の中には、狐火の灯る花も混ざっている。
アマリリスはその仄かに光る花を目で追っていた。
「素敵な恋人、ねえ……」
小声で呟き、教えてもらったジンクスを考えながら、隣に立つヴェルナーをちらりと見る。
(あの頃に比べてわたくし達の関係は何か変わったのかしら)
お互いの知らなかった部分を知っていった。呼ばれ方が変わった。けれど、二人を表すのは相変わらず『ウィンクルム』という肩書きだ。
(変わったような、変わってないような……)
では、どう変わりたいのか―――。
(い、いえ、別にどうにかなりたい訳ではないですけれど……)
それでも無意識に浮かんだ未来予想図に照れて、それを打ち払うようにふるりと首を振る。そしてもう一度光る花を見つめなおす。
アマリリスがヴェルナーから視線を外したそのタイミングで、今度はヴェルナーがアマリリスの方を見た。見られたような気がしたのだ。
しかし、もうアマリリスはヴェルナーを見ていない。視線は別のところだ。
ヴェルナーがアマリリスの視線を追えば、そこには幻想的な光る花。
(あれが欲しいのだな)
そう思ったヴェルナーは、一歩踏み出して宙に揺れる花をキャッチする。
「どうぞ」
突然の一連の行動に目を瞬かせたアマリリスは、差し出された花を受け取れずにいた。
「ずっと見つめられていたので、欲しかったのかと……」
ヴェルナーが説明を添えれば、「別に、欲しかった訳では……」と返す。
―――狐火が灯っている花をキャッチ出来ると素敵な恋人が出来る。
そのジンクスを覚えていての行為なのだろうか。
だとしたら、ヴェルナーはつまり、アマリリスに素敵な恋人が出来るように、と思っているのか。
恐らくはただ純粋に『アマリリスが欲しそうだったから』というそれだけの行動だ。分かっている。それぐらい朴念仁だという事はこの一年と少しの間に分かってきた。
けれど、どうしても心が少し靄がかって、素直に受け取れない。
「それにこれはわたくしがキャッチした事にはならないのではなくて?」
抵抗するように言えば、ヴェルナーは少し考えてから口を開く。
「では、少し上から落としますのでそこを取って頂ければ」
早速花を持った手を上げるヴェルナーに、アマリリスは嘆息する。
「……そうきましたか」
変わりようの無い大真面目さと鈍さ見せる精霊に、アマリリスは諦めて両手を広げ花を待ち受ける体制をとった。
「では、これでわたくしにも素敵な恋人が出来るという訳ですね」
あてつける様に言えば、花を落とそうとしたヴェルナーの動きが止まる。
―――恋人。
アマリリスに?
「あら」
いつまでも落ちてこない花にアマリリスが小首を傾げれば、ヴェルナーははっとしたように口を開く。
けれど何も言えない。言えなくて、一度口をきつく閉じる。
もしもアマリリスに恋人が出来れば……。
今、自分がいるこの場所に、その恋人が立つのだ。自分ではない他の誰かが、ただ一人の神人の傍に、アマリリスの傍にいる事になるのだ。
「どうなさったの?」
唐突に押し寄せた感覚をうまく言葉にできず、ヴェルナーは困ったよう手を下ろした。
「自分でもよく……」
分からない。説明できない。
それでも、儚く光る花をアマリリスへ落とす事は、もう出来なかった。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 青ネコ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 2 ~ 4 |
報酬 | なし |
リリース日 | 09月12日 |
出発日 | 09月18日 00:00 |
予定納品日 | 09月28日 |
参加者
会議室
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2015/09/17-22:19
今さらでしかも自分のことだが…ひでぇな、このスタンプ
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2015/09/17-22:17
-
2015/09/17-22:13
-
2015/09/17-20:48
-
2015/09/17-20:47
アスカ君が羞恥に震えています…
改めて、八神伊万里とパートナーのアスカ君です。
本物の方に、当たるといいんですけどね…って、フラグを立てているようにしか思えません。
では、みなさんよろしくお願いします。 -
2015/09/16-21:04
-
2015/09/15-23:36
ひろのと、ルシエロ=ザガン、です。
よろしく、お願いします。
……。(あれが噂の名言、と。じーっと見てる)
!(我に返る
え、と。本物の、方に。行こうと思ってます。 -
2015/09/15-11:05
ラルクとアイリスだ。よろしく頼む。
酒か。酒かぁ…酒。つまみも降らせてくれねぇかな。
んで、伊万里とアスカが風神達にそのネタで遊ばれる未来が俺には見えるんだが、気のせいだろうか。
うん、俺には見守ることしか出来ないが、頑張ってくれ。 -
2015/09/15-00:05