【例祭】花音に囲まれて(櫻 茅子 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 愛の女神『ジェンマ』を祀る大祭、フェスタ・ラ・ジェンマ。
 四年に一度という低頻度に加え、ストゥズ駅、そして伝説の蒸気機関車『ムーン・アンバー号』の登場もあり、スぺクルム連邦全域は大いに盛り上がっていた。そしてそれは、花と音楽であふれたイベリン王家直轄領も例外ではない。
 イベリンの地へ訪れたウィンクルムは、まずその華やかな飾り付けに驚かされた。
 すごい。
 こぼれおちた言葉は誰がつぶやいたものかわからなかったけれど、皆の総意でもあった。
 色とりどり、大小様々な花があちこちに咲き誇っている。それらは無秩序に並んでいるように見えるが決してそんなことはなく、とてもバランスがとれていて――最初からここが定位置だ、己を、そして皆を美しく見せる場所だとでも言われているようでもあった。
 さて。そんなイベリンは、今、行く先によってまったく違う雰囲気となっている。
 
 ある場所は、屋台が並び賑やかで。
 ある場所は、音楽とステップを踏む人々の笑顔であふれ。
 ある場所は、静かな空気の中花に囲まれ――大切な人の、想いを確かめに歩き出し。
 
『行こう』
 そう言って、あなたたちは歩き出した。足早に、ゆっくりと、あるいは少し緊張をにじませて。

 この特別な日。あなたたちはどんな時間を過ごすのだろうか。

解説

●目的
楽しいひとときを過ごす。

●やれること
以下の3種類から選ぶことができます。
※プランにはA~Cで指定いただければと思います。

A:屋台が立ち並ぶ区画へ
 一般的な夏祭りのように、様々な食べ物や出し物が並ぶ区画で遊べます。
 また、夜になると花火を見やすい場所で見ることができます。大きく華やかなもの、イベリンらしい花や音符がモチーフになったもの……といろいろ楽しめます。
 人が多いので、大切な人とはぐれたりしないよう気を付けてくださいませ。

B:ハルモニアホールで生の演奏を聞きながらダンス
 連日催されているダンスパーティに参加できます。
 服や靴はその場で貸し出されるので、参加者側で用意する必要はありません。
 また、夜になるとバルコニーでちょっと小さくはなりますが花火を見ることもできます。
 音楽とダンスの賑やかな空気を背に、彼と二人、花火に見惚れる……なんて時間はいかがでしょう?

C:想い告げる花
 イベリンでも特別美しい花を扱う花屋が並ぶ区画で花を買えます。
 流通している花のほとんどを買うことができるので、欲しい花は指定していただけますが、中でも『キス・フウロ』という花が注目されています。
 キス・フウロは淡いピンクの小さな花ですが、想う人がいる人物が花弁に口づけると濃い赤になります。更に、口づけた人物に想いを寄せる人物が口づけると淡い光を放ちます。
例)精霊に恋する神人がキス→キス・フウロは濃い赤に
  赤いキス・フウロに精霊がキス→神人が好きだったら淡く輝き、なんとも思ってなければ特に変化なし。

●消費ジェール
交通費+食べ物や花の購入代として一律『500ジェール』いただきます。

●余談
個別描写です。
キス・フウロは二人で想いを確かめ合ったり、こっそり想いを確かめようとしてみたり、彼に好きな人がいるか確かめてみたりといろいろできると思います。お好きなように使ってください。

ゲームマスターより

こんにちは、櫻です。
「もう少しでイベント終わっちゃうよぉでも絶対参加したいよぉ」ということで、いろいろ詰め込んでみました。
イベリンが好きです、夏祭りが好きです、音楽が好きです、間接キスが好きです。
そんな感じでできたエピソードですが、皆様に何かしらを残せるリザルトが執筆できたらとても嬉しいです。
では、よろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

篠宮潤(ヒュリアス)

  C

「ここ、花いっぱい、だね。『彼女』の好きだった花…あるかな」
精霊と、亡くなった共通の友のこと語る機会少ないので嬉しい
ゆっくり見渡し

「キス・フウロ…?」
他の参加者またはお客さんが花にキスしてるの見て
キス、すると色が変わる花、なのかな…?と誤解
楽しそう♪と説明聞かず購入
そっと口づけ

「あ…見かけた、のと同じ、濃い赤だ」
どういう意味、なんだろね?なんて無邪気に
違う花に目移り

「!?」
後から店員さんが耳打ちで教えてくれた
仰天
そっか…ずっと、気が付くと顔が浮かぶの、そうだったんだ…
瞬時にゆでダコ

…う。今後気づかれずに…普通にヒューリと話せる、かなぁ…っ
いつも通り…いつも通り…
「?ヒューリ、どうか、した?」



リーヴェ・アレクシア(銀雪・レクアイア)
  A
さて、屋台を巡ろうか
イベリンらしいものが食べられるといいが、馴染みのものも悪くない
出し物を見て楽しんだり、夜は花火を見たいものだ
私に見惚れている暇はないからな?(にやり)

屋台を巡り、出し物を見て
花火前に人が増えたと思ったら、逸れたな
…手間が掛かる…
しかも、私が女性にナンパされてるとか
男と思ってるのか女と判ってのことか判別つかないが
とりあえず断る方向で応対してたら、銀雪が半泣きでこっちに来た
「銀雪が迷子になったら、こうするとすぐに見つかるようだな? 覚えておこう」
「行こうか、銀雪。花火職人の一世一代の作品を見逃してはいけないよ」
さて、銀雪…ちゃんと花火の感想を言えるか?
恋する男は大忙しだな?



ひろの(ルシエロ=ザガン)
 

服、貸してくれるんだ。
シンプルで露出少ないの、あるかな。
「変じゃない?」(スカートが落ち着かない
(言葉と視線に少し赤くなる
ダンスできないけど。「一曲なら」
踏まないようにしなきゃ。

曲、終わったよね?(ルシェの袖を軽く引く
踵が高い靴、苦手。歩きづらい。(眉を下げる

ルシェはパーティーとか。やっぱり、似合う。
私はたぶん、浮いてる。
ルシェは、必要って言ってくれたけど。
一緒にいれるの、嬉しいけど。
一緒にいるって、言ったけど。
本当にいいのかな。(不安
私、邪魔じゃないのかな。

「!?」(驚いて一瞬硬直
(そっとルシェを見上げる
「ルシェ?」
(首を傾げるように頷き、花火を見る
「きれい……」(花火もだけど、ルシェも)



アイリス・ケリー(ラルク・ラエビガータ)
  C

甘い物は魅力的ですけれど
とても、魅力的でしたけれど…!
でも、花をゆっくり見る機会なんてあまりないですから

流石イベリン、色んな花がありますね
薔薇にガーベラ、撫子…あ、綺麗な大輪咲きのダリアも
詳しい訳じゃないですよ
姉が好きだったので、よく一緒に図鑑を見てたんです
花が付いてないと分からないことばかりです

アイリス、ですか
元々は好きな花だったんですけど…いい思い出が無いので、と苦笑
花言葉は面白いですよ
愛、信仰、希望、白い花だと思いやり…私に似合わないものばかりでしょう?
くすくす笑いながら

ああ、でも一つだけ
私は賭けてみる、というのは私らしいかもしれません
貴方が私を壊せるかどうか、です
微笑み、花を受け取る


エリザベータ(時折絃二郎)
 
この前は虫取り、今度は祭り…何考えてんだか

行動
(流石、会場内も花一杯で綺麗だなぁ…
貶すか褒めるかハッキリしろ(汗
エスコートしてくれるなら受けるけど…調子狂うなぁ
折角だし花火見てぇな

わぁ、綺麗…見蕩れちまうぜ
質問にはアイツ女は苦手らしいけど優しくしてくれるぜ?って返す
(…なんか機嫌悪くなった?

(そんな改まって…
喜んでって手を差し出す
得意じゃねぇけどゲンジに合わせ丁寧に動く
(ダンス中も見つめてきて恥ずかしい…なんか視線がキツイ?

意外って失礼な…あたしだってやれば出来るって
(今日は妙に凝視してくるな…
なぜって言われても…神人だから?
…だって、ウィンクルムじゃないとオーガに勝てねぇし…そんだけ、だよ



●あなたを表す言葉を
「さて、屋台を巡ろうか」
 イベリン王家直轄領。花と音楽であふれるその地にやって来た『リーヴェ・アレクシア』は、デートだと浮かれる『銀雪・レクアイア』にそう声をかけた。
 ――イベリンらしいものが食べられるといいが、馴染みのものも悪くない。出し物を見て楽しんだり、夜は花火を見たいものだ。
「私に見惚れている暇はないからな?」
 にやりと笑うリーヴェに、銀雪はほうと見惚れてしまう。だがすぐにハッとすると、今日こそ俺がリードするんだと気合いを入れ直し、彼女の後に続くのだった。

 屋台を巡り、出し物を見て回る。どこも気合いを入れているのが伝わってきて、見ているだけでも十分なほど楽しめた。
「人が増えてきたな……」
 花火が近づいてきたからだろうか。
「銀雪」
 逸れないよう注意を呼びかけるつもりで名を呼んだのだが――彼の姿は見当たない。
 ……逸れたな。
 彼のことだ、「手を握りたい」や「どこに誘おうか」なんて考えていたのだろう。
「……まったく、手間が掛かる……」
 そう言うリーヴェの言葉は面倒だと思っていそうなものだが、表情は仕方がないなとでも言いたげな優しいものだった。
「あのー……」
「ん? なんだい?」
 声をかけられ、リーヴェは振り返った。
 女性が二人、頬を染めながら見上げている――

 ――そして、リーヴェの予想通り(手とか握りたい。それから……)とトリップしていた銀雪は、彼女の姿が見えないことに気付き慌てていた。
(大変だ、リーヴェがナンパされる!)
 彼女は男前と評して間違いないが、同時に美しい女性でもある。
 人混みの中、銀雪は必死にリーヴェの姿を探す。
 と。
「私たちだけだと心細いので、一緒に回っていただけませんか!?」
「私が、かい?」
「はいっ!」
 聞きなれた、心地よい声が聞こえ、銀雪は駆け出した。
「リーヴェっ!」
「おや、銀雪」
 二人の女性に囲まれているリーヴェを見て、銀雪は(やっぱり!)と半泣きになった。彼女の隣に立つと、女性たちは困惑したようにリーヴェを見上げる。
 彼女は「ごめんね、彼と一緒に回る約束をしているんだ。困ったことがあったら声をかけて」と片手を上げると、銀雪を促し歩き始める。
 人混みに紛れたところで、リーヴェは「ふっ」と噴き出した。
「まさか女性にナンパされるとはな。男と思ってるのか女と判ってのことか判別つかないが」
「皆……油断出来ない」
 ギリ、と本当に悔しそうに奥歯を噛みしめる銀雪に、リーヴェは笑みを深める。
「だが、銀雪が迷子になったらこうするとすぐに見つかるようだな? 覚えておこう」
「それは勘弁して!」
 間髪入れずに反論した銀雪だが、彼女の次の行動に目を丸くする。
「行こうか、銀雪。花火職人の一世一代の作品を見逃してはいけないよ」
 リーヴェに手を握られたのだ。
 思わぬ形で願いが叶い、銀雪は頬が赤くなるのがわかった。それを指摘され、更に頬を赤くする。

 そして、花火がはじまって……

 圧倒的な存在感を持って夜空を彩る花火は、見事の一言に尽きる。
 終わりが近づくにつれて大きく、早く、華やかになる空の花。最後の一花が火の粉を舞わせ、次第に小さくなっていくその姿に、人々は無意識のうちに盛大な拍手を送っていた。
「さて、銀雪……ちゃんと花火の感想を言えるか?」
(花火もリーヴェも綺麗に決まってる。どう言えば……)
 銀雪は文学に触れることが好きだ。先人たちが美しさを表現するときにどんな言葉を使ってきたか、ある程度は知っている。
 けれど。
「花火を表現する言葉は思いつくけど、リーヴェを表現する言葉は思いつかない」
 真顔でそう答えた銀雪に、リーヴェは呆れたようだった。
「私を表現しろとは言っていないだろう」
 だが、そこが銀雪らしい。
「修行を積め。今後に期待しよう」
「恋する男は大忙しだな?」なんてからかうように言うリーヴェの笑顔に見惚れながら、銀雪は吐息する。
(次もあるって期待していいのかな。手も握ってくれたままだし……)
 喜びで、胸のあたりがじわりと広がる。静かに喜びに胸を震わせる銀雪に、リーヴェはふと頬を緩ませた。
(手は汗ばんでるし、判り易過ぎて清々しい)
 リーヴェは銀雪を促し帰路につく。
 逸れないよう気をつけつつ、次はどんな姿を見せてくれるんだか、なんて考えながら。


●ぎくしゃくしつつ
 この前は虫取り、今度は祭り……何考えてんだか。
『時折絃二郎』の誘いをうけた『エリザベータ』が真っ先に抱いたのは、そんな感想である。
 絃二郎としては(先日はヘイルで遊んだからな、労いも必要だろう)という考えがあるのだが、一切伝わってはいなかった。
 借りたドレスに身を包み、絃二郎が待つ会場へと足を踏み入れる。瞬間、エリザベータは「へえ」と嬉しそうに吐息した。
(流石、会場内も花一杯で綺麗だなぁ……)
「孫にも衣装か、よく似合っているぞ」
「貶すか褒めるかハッキリしろ」
 ったく、失礼なオッサンだ。
 組んでからまだ日が浅いこともあり、彼のことはいまだによくわからないのだ。
「今日はエスコートしてやろう、喜べ」
「エスコートしてくれるなら受けるけど……調子狂うなぁ」
 そう、こんなところも。
 気ままに、それこそ猫のように振る舞う絃二郎に、エリザベータはついていけないことがある。
 だが、相手がわからないと思っているのは、エリザベータだけではなかった。
(不慣れかと思いきや、妙に慣れている?)
 ガサツな言動が目立つ神人だが、煌びやかな会場に物怖じ一つしていない。こういった場に慣れているかのようだ。
 そんなことを考えていると、エリザベータが「折角だし花火見てぇな」と口にした。絃二郎は彼女を促し、バルコニーへと移動する。
 タイミングが良かったのか、ちょうど花火がはじまったようだった。
「花火は良い、一瞬の煌きは儚く美しい」
「わぁ、綺麗……見蕩れちまうぜ」
 心の底から感動するエリザベータに、絃二郎は気付けばこんなことを尋ねていた。
「ヘイルは先の精霊に女扱いされているのか?」
 エリザベータは「急になんだよ」と眉を寄せたが、素直に答えてくれる。
「アイツ女は苦手らしいけど、優しくしてくれるぜ?」
(三流貴族よりも紳士的だというのに俺が紳士的ではない言い草だな)
(……なんか機嫌悪くなった?)
 むっとした絃二郎だが、すぐに気持ちを切り替える。
 せっかくこんなところまで来たのだ、ダンスに誘うとしよう。
「お嬢さん、俺と踊って頂けないか?」
(そんな改まって……)
 エリザベータは、絃二郎が何を考えているかまったくわからない。けれど、断る理由もない。
「喜んで」
 ――俺も恥をかかせるほど無粋ではない。
 エリザベータでもついてこれるようリードしているうちに、絃二郎はあることに気が付いた。
 予想以上に良い動きだ。
 エリザベータはダンスが得意というわけではない。けれど、絃二郎に合わせ、丁寧に動いていく。
(ダンス中も見つめてきて恥ずかしい……なんか視線がキツイ?)
 ちょっと居心地が悪い――なんて考えているうちに、一曲が終わっていた。
 フロアの端で休むことにした二人は、しばらく無言で立っていたのだが。
「意外だ」
 絃二郎が零した言葉に、エリザベータは「ん?」と首を傾げた。
「踊れるとは思わなんだ」
「意外って失礼な……あたしだってやれば出来るって」
 そう返すエリザベータを、絃二郎はじっと見つめた。
(身の上は知らんが育ちの良さを感じる……なぜこんな女が戦うのだろう)
 ガサツな言動を繰り返すエリザベータを、絃二郎は女性らしく扱うことはなかった。だが今日、その考えが少し払拭され、同時に疑問もわいてくる。
 今日は妙に凝視してくるな、とエリザベータが不審に思っていると、絃二郎がゆっくりと口を開いた。
「お前はなぜ戦うのだ?」
「なぜって言われても……神人だから?」
 その答えに納得していないのか、絃二郎はじっと見つめたままだ。
 エリザベータはなぜこんなことを聞くのかわからないまま、自分でも理由を探す。
「……だって、ウィンクルムじゃないとオーガに勝てねぇし……そんだけ、だよ」
(義務感? 嘘だな、コイツには理由がある。なぜ隠すのだろうか……)
 わからない。なんだかもやもやとしたものが胸に溜まる。
 絃二郎は何故自分がそう思うのか、はっきりとした答えを見つけられない。
 歯車は、まだ噛みあわない――


●きれいなのは
 ハルモニアホールにやって来た『ひろの』が最初に思ったのは、「服、貸してくれるんだ。シンプルで露出少ないの、あるかな」であった。そして希望に沿うドレスを見つけたときはほっとした。
 どんなリクエストにも応えられるようにだろう、衣装はたくさん用意されていた。けれど、どれもが豪勢でびっくりしたのだ。
 カツカツとヒールの音を響かせながら、『ルシエロ=サガン』の元へ急ぐ。
「ヒロノか」
「お待たせ。……変じゃない?」
 そう聞くひろのはスカートが落ち着かないのか、どこかそわそわしている。ルシエロは手を伸ばし、ひろのの頬に触れたかと思うと、「いや?」と口元を緩めた。
「よく似合っている」
 優しげな眼差しと言葉に、ひろのは自分の頬が熱を持ったのがわかった。
 彼女が着ているのは、白のシンプルなドレスだ。けれど、腰を飾る大きなリボンとふんわり膨らんだスカートが控えめながらも上品で、女性らしい印象を与えている。
(偶になら、女らしい恰好にそこまで抵抗がないのか?)
 そんなことを考えているルシエロは、髪を軽くまとめスタンダードなタキシードを着ているだけなのに、十分すぎるほどの存在感を放っていた。
 ルシエロはひろのの頬から手を離し、一歩足をひく。
「では、私と踊っていただけますか?」
 そう言って差し出された手を、ひろのはじっと見つめた。
 ダンスできないけど……。
「一曲なら」
 ルシエロは満足そうに頷くと、ひろのの手をとりホールへと紛れ込んでいく。
「オレに任せろ」というようにリードするルシエロに、ひろのは(踏まないようにしなきゃ)なんて考えながら必死についていく。
 どれくらい経っただろうか。
(曲、終わったよね?)
 ひろのはくい、とルシエロの袖を引いた。踵が高い靴は歩きづらくて苦手なのだ。
 困ったように眉を下げるひろのの無言の主張に気付いたルシエロは、小さく笑うとバルコニーへ目を向けた。バルコニーに出た方が、人が見えない分彼女の気が楽になるのではと思ったからだ。
 エスコートをうけ、バルコニーへと出たひろのは、月に照らされる精霊の顔をじっと見る。
(ルシェはパーティーとか。やっぱり、似合う)
 そして同時に、自分はきっと浮いているのだろうと考える。何をしても華やかな印象を与える彼の隣に立つ自分は、あまりにも貧相だ。
(ルシェは、必要って言ってくれたけど。一緒にいれるの、嬉しいけど。一緒にいるって、言ったけど。……本当にいいのかな)
 漠然とした不安が、ひろのの胸に襲い掛かる。
(私、邪魔じゃないのかな)
 再び流れ出した音楽は楽しげなものだが、ひろのの心はどこか暗くて深いところへ沈んでいくばかりだ。
 そんな神人を見て、ルシエロはため息をついた。
 この神人はまた何か、勝手に不安になっているのだろう。
 まったく、なんて思いながら、視線の下がるひろのを柔く抱き寄せる。
「!?」
 驚いたのだろう、ひろのは体をこわばらせた。
(急いては事を仕損じるとはいえ、我ながらよく耐える。尤も、蕾のまま手折る気も無いが)
「ルシェ?」
 どうしたの、というように見上げるひろのの髪を撫でながら、ルシエロは思う。
(不安よりもオレを感じていれば良い)
 ぎゅ、と。回した腕に力をこめると――痛くない程度に加減は忘れない――、ひろのは困惑したように名前を呼んだ。
 それがなんだかおかしくて、愛しくて。
 ルシエロはふと頬を緩めながら、「ほら」と空を見るよう促す。「花火が上がってるぞ」
 ひろのは首を傾げるように頷くと、夜空を彩る花火たちに目を輝かせた。
「きれい……」
 花火もだけど、ルシェも。
 ――自然と浮かんだその言葉が、どのような気持ちからくるものなのか。
 ひろのはまだ、はっきりとはわからないのだった。


●想いを自覚するその日
 青い空に白い雲がたなびく、秋はじめのある日のこと。
 フェスタ・ラ・ジェンマ。四年に一度の大祭の影響は、花と音楽であふれたイベリンの地にも色濃く出ていた。
 飾り付けられた花の甘い香りに鼻孔をくすぐられ、『篠宮潤』はほうと頬を緩ませた。「ここ、花いっぱい、だね。『彼女』の好きだった花……あるかな」
「……添えてやるかね?」
『ヒュリアス』の提案に、潤はきょとりと目を丸くした。
「後で共に墓参りでも行くか」
「……うんっ」
 精霊とこうして、亡くなった共通の友について語る機会は少ない。だからこうして話せるのは嬉しかった。いつ行こうか、どの花がいいだろう、なんて和やかな会話をしながら進んでいく。
「あれ?」
 そして、潤は見たことのない花が並んでいることに気付き、足を止めた。
「キス・フウロ……?」
 小さい、ピンクの花だった。
 周りを見ると、購入した人は総じて花びらにキスを落としていた。すると、花がピンクから一転、深く濃い赤へと変わる。
「わあ……」
 魔法のようなその光景に、潤は歓声をあげた。
(キス、すると色が変わる花、なのかな……? 楽しそう♪)
 潤は知的好奇心を刺激され、たまらず一本購入した。淡いピンクの花弁にそっと、口づける。
 その時、誰が脳裏に浮かんでいたのか意識することもなく――

「ほぉ」
 見たことない花だと覗き込むヒュリアスに、店員は微笑みながらキス・フウロの説明をしてくれた。
 大切な人を思いながら花びらにキスすると、色が変わるのだそうだ。そして、色を変えた人に想いを寄せる人物がキスすると、淡い光を放つ。
 不思議な花があるものだ、なんて考えながら潤を見る。
「あ……見かけた、のと同じ、濃い赤だ」
 と、彼女は楽しそうに笑っていた。彼女の手にある花は、まぎれもなくキス・フウロだ。
「……」
 親友でも想っていれば染まるのだろうかね?
 他に想う人がいるとは微塵も疑わないという、鈍くある意味失礼なヒュリアスを責められる人物はいない。
「どういう意味、なんだろね?」
 なんて無邪気に問いかけられ、ヒュリアスは思わず目を逸らしてしまう。
「店員に聞いてみればいいのではないかね。持ってるので、他も見てくるがいい」
「うん、そう、する。ありが、とう」
 潤は素直にヒュリアスに花を預けると、店員の元へ歩き出した。……が、珍しい花を見つけ目移りしているようだ。
 その後ろ姿を眺めながら、ヒュリアスはあることを考えていた。
(……潤へ向かう不思議な感情の正体がハッキリするチャンスだろうか)
 ヒュリアスは人目がない場所に移動すると、そっと。赤く染まったその花へ唇を落とした。
「そう、か」
 そして、確信する。
 ――ヒュリアスの手には、淡く輝くキス・フウロの花があった。
「そうか……これが、そういう想いとやら、なのか……」
 だが、告げるわけにはいけないと強く思った。
 自分はまだ、感情の足りない『欠陥品』だ。そんな自分が想いを告げる資格など、どこにあるというのだろう。
 誰かに言われたわけではない。けれどヒュリアスは漠然と、そう思うのだった。

 そして同時に。
「!?」
 潤も花の意味を知り顔を真っ赤にそめていた。ゆでダコのよう、という表現がここまで似合うのも珍しい。
 仰天した。が、深く納得もした。
(そっか……ずっと、気が付くと顔が浮かぶの、そうだったんだ……)
 今まで大事な友で、良きパートナーだと思っていた。けれど、それだけではなかったのだ。
(……う。今後気づかれずに……普通にヒューリと話せる、かなぁ……っ)
 いつまでもヒュリアスを待たせるわけにはいかない。潤は深呼吸を繰り返しながら、ヒュリアスの元へ向かう。
(いつも通り……いつも通り……)
 あれ、いつも通りってなんだっけ、と混乱しそうだった潤だが、ヒュリアスの様子がおかしいことに気付き、こてりと首を傾げた。
「? ヒューリ、どうか、した?」
「なんでもない」
 そう言うヒュリアスは煌めく花をそっと体で隠し、どこか寂しげな笑顔で首を振る。

 お互いへの想いを自覚した。けれど、伝えるにはまだ至らなくて。
 淡い光を放つ花が、影でそっと揺れていた。


●賭けましょう、ほかならぬあなたに
 濃紺の空の下。花屋が並ぶ区画へと足を向ける『アイリス・ケリー』に、『ラルク・ラエビガータ』は声をかけた。
「俺は構わないんだが、アンタ本当にこっちで良かったのか?」
「こっち、と言いますと」
「屋台だとアンタの好きな甘いモンとかもあっただろ」
 それを聞いたアイリスは、「たしかに」と頷いた。
「甘い物は魅力的ですけれど、とても、魅力的でしたけれど……! でも、花をゆっくり見る機会なんてあまりないですから」
 そう続けたアイリスに、ラルクは「そうか」と返すにとどめる。
 花にさして興味はないが、まあこの女が満足そうならいいか。と、納得したのだ。
「流石イベリン、色んな花がありますね。薔薇にガーベラ、撫子……あ、綺麗な大輪咲きのダリアも」
 歩きながら次々と花を言い当てるアイリスに、ラルクは素直に感心する。
「にしてもアンタ、花に詳しかったのか? あれこれ知ってるみたいだが」
「詳しい訳じゃないですよ。姉が好きだったので、よく一緒に図鑑を見てたんです。花が付いてないと分からないことばかりです」
「へぇ……俺は花だけでも見分けがつかないのばっかだな」
 現に、同じように花を見ているラルクがわかる花はない。よくて「見たことのある花だな」くらいだ。
「ああ、でもアンタと同じ名前の花は分かるな」
 ふと気づいてそう言うと、アイリスはきょとりと首をかしげた。
「アイリス、ですか」
「アレは分かりやすい」
 アイリスは自分と同じ名を持つ花のことを思い浮かべた。たしかに、あれは独特な形をしている。
「随分と反応薄いんだな。なんだ、好きじゃないのか?」
「元々は好きな花だったんですけど……いい思い出が無いので」
 苦笑を浮かべるアイリスを見て、ラルクは「そうか」と言うにとどめた。こういう反応をする時は大体、神人の死んだ姉が絡んでいるからだ。これでも彼女とは結構な時間をともにしている、それくらいわからないわけがない。
「でも」と続けたアイリスに、ラルクが不思議そうな目を向ける。
「花言葉は面白いですよ。愛、信仰、希望、白い花だと思いやり……私に似合わないものばかりでしょう?」
「確かにアンタに似合わないものばっかだな」
 くすくす笑いながらそう話すアイリスに、ラルクも同じように笑いながら返した。
 愛らしい花と甘い香りに包まれた男女のやりとりにしては、随分と色気がない。けれど、これが自分たちの関係なのだと、二人は無意識のうちに納得していた。
「ああ、でも一つだけ」
 アイリスは『アイリス』の花言葉を思い出し、ふふ、と笑みを深めた。
「『私は賭けてみる』、というのは私らしいかもしれません」
 そんな花言葉もあるのか。目を丸くするラルクは、にやりと笑んでみせた。
「賭け、ねぇ。何を賭けてるんだ?」
「貴方が私を壊せるかどうか、です」
 その言葉に、ラルクは思わず足を止めた。アイリスも同じように足を止め、月明かりの元、うっすらと笑いながら彼を見つめる。
「……はっ、そいつぁいい!」
 ラルクは声をあげて笑った。
 二人で水龍宮を訪れたあの日、手袋を外したあのときのことが頭をよぎる。
 枷を嵌めると言ったラルクに、アイリスはそれで構わないと告げた。
 あのときと同じように、アイリスは言っている。心の底から、自分を壊せるかと不敵に笑っている。
 ラルクは近くの店でアイリスの花を買い求めると、彼女へと差し出した。
「その賭け、乗った」
 アイリスは微笑み、花を受け取った。
 ――成立だ。
 甘さなどない、『壊せるか否か』を問うそれは、これから二人にどのように影響するのかはわからない。
 けれどたしかに、今この場で同意の元、二人は新たな一歩を踏み出したのだった。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 櫻 茅子
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月07日
出発日 09月14日 00:00
予定納品日 09月24日

参加者

会議室

  • [5]篠宮潤

    2015/09/11-20:39 

    エリザベータさ、ん、時折さん、この間はとってもお世話に、なった、ねっ。ありがとう、だ。
    わっ…他の皆、とってもお久しぶり、な方ばっかりな…気が…、お、お久しぶり(照れくさそうに片手ひらひら)
    篠宮潤、と、パートナーのヒュリアス、だよ。楽しもう、ね。

    えっと…僕たち、は、どうしよっか、な………
    屋台、行こうと思ったんだ、けど…お花屋さん、いっぱい並んでるの、ちょっと見て回りたい、かもだ…

  • [4]アイリス・ケリー

    2015/09/11-17:23 

    アイリス・ケリーと申します。パートナーはラルクと言います。
    リーヴェさんと銀雪さん、絃二郎さんは初めまして。
    他の皆さんはお久しぶりです。

    どれも魅力的で悩むところですが、花を見ようかと思っております。
    現地でお会いすることはありませんが、どうぞよろしくお願い致します。

  • [3]エリザベータ

    2015/09/10-23:04 

    時折絃二郎だ。篠宮は先日世話になったな、有難う。

    神人のじゃじゃ馬女を連れてハルモニアホールに向かう予定だが
    果たしてダンスが出来るのやら…大変見ものだな。
    よろしく頼む。

  • [2]ひろの

    2015/09/10-21:26 

  • リーヴェ・アレクシアだ。
    パートナーは銀雪・レクアイア。

    屋台を巡ろうと思っているよ。
    よろしく。


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