【阻害】悪夢売り(真名木風由 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

「悪夢売り?」
 『あなた』達は、手渡された資料を見て不可解な声を上げた。
 フェスタ・ラ・ジェンマの開催、各地を巡るウィンクルムの姿は人々の目に焼きつくものとなっているが、同時にそれを狙ったオーガ、マントゥール教団の襲撃もある。
 時にはその場に居合わせたウィンクルムが襲撃に対応することなどもあるが、今回はA.R.O.A.から正式な任務として下された。
「関連は確認されていませんが、場所が場所ですし、恐らく裏にいるものと思われます」
 職員は、資料に記されたその名が嘘ではないと言うように説明を始めた。

 悪夢売り。
 フェスタ・ラ・ジェンマが開催されて、しばらくして、テルラ温泉郷で営業している旅館から密かに噂されるようになった名だ。
 誰が、何の目的かは分からない。
 けれど、旅館に宿泊した客が悪夢を見たという。
 彼らは気のせいのように振舞っているが、旅館同士の横の繋がりで客の多くが悪夢を見ている、それも仲違えや愛の否定、争いといった類のものを見ていると判明した。
 フェスタ・ラ・ジェンマの開催に伴い、臨時で雇われている従業員もいる。
 身元を照会して雇ってはいるが、旅館に出入りする業者も臨時で雇われている者も少なくなく、いつも以上に顔を知らない者の出入りが多い。
 もしかしたら、客が狙われているかもしれない。
 テルラ温泉郷にある旅館はそう結論付け、悪夢を夢見た客が出た旅館もそうではない旅館も連名で極秘にA.R.O.A.へ依頼してきたという訳だ。

「悪夢を意図して見せるということは、通常ならば考えられません。が、ギルティならば出来なくはないかもしれません」
 ギルティの姿が発見されたのかという質問が出るが、それらしい動きは確認出来なかったそうだ。
 しかし、ギルティがマントゥール教団に指示を出せば、その手足が行動を実行することは可能である。
「今は悪夢で済んでいるかもしれませんが、怖いのは悪夢と現実の境がつかなくなるような強大な力が振るわれた時のこと。一刻も早く、原因究明を」
 そうして、『あなた』達は、テルラ温泉郷へと向かったのだ。

 テルラ温泉郷のとある旅館。
 『あなた』達がここを訪れたのは深夜。
 日中、聞き込み調査で歩き回った末、他の旅館に宿泊していたのだが、この旅館の女将が不審な者が周囲をうろついていると連絡してきたのだ。
『こちらにもウィンクルムの方々も宿泊されているのですが、お耳に入れておこうと思って』
 『あなた』達は、仲間が悪夢売りに囚われたことを悟った。
 悪夢売りの正体を確かめることも重要だが、今は悪夢売りに囚われた仲間を狙って動く敵から守らなければ。

 偶然でも必然でも───仲間は夢に負けたりしない。
 ならば、自分達が現実の彼らを守るだけだ。

解説

●目的
・敵の全撃破
・悪夢売りの正体を突き止める
・悪夢売りの影響を受けている仲間及び旅館防衛

●状況
・連絡を受けて急行します。緊急出動を考慮して休んでいた為、ボディ以外のバトルコーディネートは制限を受けません。ただし、ボディのみ鎧と判断されるものに関しては装着なしの扱いとなります。
・該当の旅館へは5分で到着、敷地内で即戦闘となります。

下記はPL情報となります。
・旅館内へはまだ敵の主力は入り込んでいません。
・手引き役が従業員入り口付近にいます。
・リーダー格が悪夢売りに関する情報を知っており、それを用いる模様。自分の願望(プランにあればそれを。なければこちらで漠然としたものを描写します)が悪意的に捻じ曲げられたものを発露させる効果があるようです。

●敵情報
・マントゥール教団員(リーダー)x1
・マントゥール教団員(部下)x20
・デミ・ゴブリンx20

※手引き役はマントゥール教団員(部下)に含まれています。

●注意・補足事項
・移動時間の間に敷地情報・館内情報・ウィンクルムが宿泊する部屋の情報は全て得られているものとします。
・宿泊しているウィンクルムは悪夢売りに囚われている為起きません。契約の恩恵からか一般人が見ているような悪夢とは少々違う夢を見ているようです。
・ある程度目を瞑ってくれますが、旅館敷地内での戦闘ということをお忘れなく。
・主力が旅館内に入り込まれますと、旅館防衛はほぼ絶望的になります。ご注意ください。
・「【例祭】ぼくたちのせんそう」とリンクしていますが、「【例祭】ぼくたちのせんそう」に影響するプランは採用出来ません。登場人物の1人として登場することもありませんので、ご了承ください。

ゲームマスターより

こんにちは、真名木風由です。
今回は折角なので、ちょっと変則的なリンクを行います。
任務でテルラ温泉郷を訪れていたら、フェスタ・ラ・ジェンマを楽しんだウィンクルム達が宿泊する旅館が襲撃されているのを防ぎましょう。
彼らは夢に囚われているので朝まで起きません。
悪夢に囚われないよう祈りつつ、現実の彼らを守ってあげましょう。
旅館内に入られるとかなり厳しいものとなりますので、ご注意ください。
朝、「おはよう、いい夢でしたか」と言えますように。

それでは、お待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

フィーリア・セオフィラス(ジュスト・レヴィン)

  持ち物
爆竹(複数、マッチかライター込みで)
ロープ(旅館でも借りられるかも)

ええと…、トランスは、旅館に着く前に…。
従業員入口を、守って、戦うって、ことで…。そこへは、正面玄関から…、建物の中を、通って、行く…。
…正面にも、敵がいたら、爆竹を使って、注意を、逸らしている間に…、突っ切って…。
爆竹、ちゃんと、投げられる、かしら…。無理なら、ジュストに、お願い…、…何人かで、投げるのでも、いいのかも…。

旅館の中に、入れたら…、捕まえた敵を、拘束、したりとか…。
他の場所から…、敵に、侵入されないか、とか、リーダーが誰か、とか、見張り…。



瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
  旅館内の人達を護るには、私達がここで敵をくい止めなくては。現場に着いたらトランス。
旅館正面入り口は鍵をかけ出入不可にして貰います。
正面は人の目が多く進入に向かないとの判断で、
私達は敵潜入が予想される従業員入口へ、館内を通って移動。敵進入前に迎え討ちます。
出入口の狭さをボトルネックとし実質的に対する敵の数を減らす狙い。
気絶した敵は旅館から借りた紐で後ろ手に縛って捕獲。

夢に囚われたら行動・状況の飛躍があると思う。
記憶力で何か違和感は直ぐ分るよう気を付けるわ。
寝ている時しか悪夢を見ないなんて保障は無い。
最初から悪夢の中も可能性として考慮し行動。

敵を杖で殴りミュラーさんに攻撃が集中しないようにします。



●向かいながらも出来る限りのことを
 ウィンクルム達は、宿泊していた旅館の従業員が運転する車に乗り込む。
 移動時間短縮及び打ち合わせの為、危険が及ばない範囲の付近まで送って貰うことになった為だ。
「敵はまだ旅館内には入っていないようですね」
「臨時で雇われている従業員もいるという話だし、敵の侵入がまだなら、入口封鎖が必要かもしれない」
 情報を急いで纏める瀬谷 瑞希へジュスト・レヴィンが意見する。
 思案していた瑞希は、携帯電話を持つジュストへ到着間際に女将へ連絡するよう伝えた。
「旅館内に立ち入るなら、入口の方がリスクが少ない筈です。客が出入りする正面入口から入られると、この人数では厳しいものがあります。襲撃をある程度制御するには、正面入口及び非常口は施錠、従業員入口へ向かうよう誘導する必要があります」
「向こうもそれは考慮して動いているかもしれない」
「ええ。ですが、地図を見る限り、敷地を迂回して従業員入口へ向かうより、正面入口を突っ切った方が早い……なら、女将さんにタイミングを連絡し、私達を正面入口から入れて貰った後、施錠して貰い、避難、私達自身は従業員入口へ急行した方がいいでしょう」
 ジュストは、瑞希の意見になるほどと頷く。
 人数が少ないからこそ、無駄がないルートで現場へ向かうことも必要だ。
 連絡してくれた女将に協力して貰う必要があるが、安全性の観点より、連絡を受けてから動いて貰った方がいい。
「従業員入口はこの見取り図だと、2人立つのがやっと位……なら、俺が立ち位置を調整すれば、1人前衛も可能かもしれない。状況を保つにはアプローチⅡは絶対条件だろうけど」
 瑞希が整理する情報を見ながら、思案顔のフェルン・ミュラーが呟く。
 ロイヤルナイトである彼は、自身のアプローチⅡが重要な意味を持つことに気づいていた。
 従業員入口で自分達が1度に襲撃されないよう調整して立ち回った場合、その隙を利用して他の入口を探す者は確実にいる。
 アプローチⅡは瑞希達へ攻撃を至らせないだけでなく、この場に縫いとめるという意味においても重要な手段だ。
 プロテクションで防御力を上昇させ、消耗を防ぐのも重要だが、このアプローチⅡは被害拡大を防ぐ為の絶対条件になるだろう。
 今の自分では、プロテクション1回発動させた後、アプローチⅡは3回程扱えるが、それまでに決着つくかどうか。
「大丈夫です、ミュラーさん。私もいます」
 状況整理する瑞希が思案しながらもフェルンの考えに気づき、呟く。
 人は少なくとも、独りで戦う訳ではない。
 独りで戦う訳ではないのなら、共に戦う存在を信じることも重要だ。
「……あの、もうすぐ……到着します……」
 窓の外を見、状況確認をしていたフィーリア・セオフィラスが近づけるギリギリの範囲に気づき、声を上げる。
 同時にジュストが女将へ連絡を入れ、正面入口で待機して貰うように依頼した。
「正面入口には、まだ不審者が到達していないようだ」
「……その、違う場所で爆竹を起こせば……あの、私達の向かう先を、誤魔化せると思いますが……」
 フィーリアは爆竹をぎゅっと握り締める。
 旅館で、熊対策として保管されてあったものだ。
 不意の爆竹で驚かせることは出来ないかと思い、旅館へ確認、出立前にライターと共に貰い受けていた。
 爆竹でこちらが到着したことは気づかれるが、向こうもウィンクルムがいる旅館へ襲撃をしているのなら、こちらが調査に動いていることは想定の範囲内……ならば、爆竹を正面入口とは異なる場所で鳴らし、正面入口を突っ切る意図を見抜かれないようにした方がいい。
「あの、危険かもしれない……ですが……」
「同業者の一大事ですし、すぐに車で逃げます」
 フィーリアは車を運転してくれた従業員へ依頼すると、従業員はウィンクルムを下ろした後、正面入口とは異なる方向、駐車場の方へ車を走らせてくれた。
 ウィンクルム達は従業員の協力を無駄にしない為にも、旅館にいる全ての人達を守る為にものんびりしている場合ではないと走り出す。
 正面入口へ差し掛かる頃、駐車場付近で爆竹の音が鳴り響く。
 同時に、木々が蠢くような音が聞こえ、誰かが移動しているというのが分かったが、直前にジュストが入れた連絡で待機していた女将によって、ウィンクルム達は正面入口から内部へと入る。
「ここからが、正念場です。私達が食い止めなければ」
「臨時従業員がいたなら、内通者の可能性が高いね。油断せずに行こう」
 女将からどういう訳かウィンクルムの部屋と連絡が取れない為様子を見に行ったら、誰も起きる気配がないという話を聞いた瑞希とフェルンは気を引き締める。
「皆を、護って」
 祈るように視線を伏せた瑞希がインスパイアスペルを唱え、フェルンの頬へ口づける。
「宿泊客の各部屋の施錠を徹底しているか確認してほしい。女将さんも身の安全を」
「オートロックで遠隔から施錠します」
 ジュストの依頼を受けて、女将が身を翻す。
「内通者がいるなら、この状況、従業員入口で手引きもありうる。……リア」
「……力を、此処に」
 フィーリアが静寂を破らない声音で呟き、ジュストの頬へ口づける。
 自身だけでなく、オーガやオーガに与する存在に脅かされる人々を護る為の力。
 ここで凌がなければ、犠牲者が出る可能性もある。
 宿泊しているウィンクルムが起きなかったのなら、内通者が彼らが起きないよう何らかの手段を講じたと考えた方がいい。
 無防備になっている彼らを狙っただけで手を引く訳などないのだ。
(……今は、何とかしないと……)
 敵の思惑を掴むにしても、それは全て終わってから。
 今は、彼らの目的を阻むことを考えよう。

●襲撃操作
 静寂の旅館内をウィンクルム達が走る。
 今は、従業員入口へ到着することが先決だ。
「……予想通りだったみたいだね!」
 フェルンがその言葉と同時に速度を上げた。
 従業員入口の非常灯の下には、従業員らしい男性が立っていたのだ。
 時間帯的にも爆竹でこちらの到着を知らせ、既に戦闘状態に入ったといって過言ではなく、安全の為に部屋に留まるよう指示が出ている状況的にも不自然である。
 アプローチⅡを発動させたフェルンへ意識を引きつけられた男性が対応出来る筈もなく、フェルンは片手斧「赤尾伊佐守宗盛」の柄の部分で男性を殴りつけて昏倒させた。
 落ちた携帯電話にはメール着信が表示されており、密な連絡を取っていることが伺える。
「会話なら、声で気づかれる可能性がありますからね」
 瑞希は驚くことなく、男性の携帯電話を取り上げた。
 その間にもフェルンは従業員入口のドアを開け、プロテクションを発動させている。
 続くようにして、ジュストがフェルンの斜め後方に陣取った。
 プロテクションを発動させたとは言え、アプローチⅡも発動させているフェルンは攻撃の標的になりやすい。
 同時に、彼が攻撃の要でもある為、1度だけしか発動出来ないが、有事の際はシャインスパークで援護出来るよう機を窺うのだ。
「間もなく来るようです。セオフィラスさん、後はお願いします」
「……あの、は、はい……分かりました」
 受信メールで状況確認した瑞希がフェルンの援護を行うべく、愛の女神のワンド「ジェンマ」とハートフル・ウォールを構えて、ジュストと対になるように陣取る。
 フィーリアはまだ気絶している男性が動けなくなるよう粘着テープでまず手足を拘束した。ロープで拘束する前に気絶から回復し、暴れられては困る為だ。ロープで拘束するにしても簡単に解ける場合もあることより、粘着テープと宿泊した旅館より借りたビニールロープで拘束という念を入れ、更に従業員のタイムカードが保管してあるテーブルに繋ぎ止めれば、身動きは困難だ。
「あの、ごめんなさい……」
 フィーリアが動きを声で伝えられるのを避ける為、やっと気づいた男性の口へタオルを押し込む。
 もがくが、身動き取れない状態になっており、これでひとまずの脅威は解消された。
 フィーリアは男性の動きに注意しながらも視線をやると、外では既に戦闘が始まっている。
 狭い場所で戦闘を開始しただけあり、敵が数の有利を生かすことが出来ない状況になっているようだ。

 プロテクションで自身の防御力を強化しているフェルンは、アプローチⅡの効果もあって集中的に狙われていた。
 瑞希の愛の女神のワンド「ジェンマ」で攻撃力が増強されている為、先鋒を切る形で向かってくるデミ・ゴブリン相手に後れをとることはない。
(時間を掛けている場合じゃない。今は、敵を減らすことを考えないと)
 正面入口付近で戦っていれば、側面へ容易に回り込まれそうな程数の上では不利だが、瑞希が戦闘場所の選定をしたことで、1度に多勢を相手にする必要がなく、数の有利不利を打ち消している。
 しかし、敵の数に変更はないのなら、持久戦になる場合もあり、そうなると消耗した所を狙われる可能性もあり、フェルンはデミ・ゴブリンに関しては一撃で仕留めることを考慮していた。
「そろそろだと思う」
「分かった」
 フェルンが声を掛けた瞬間、ジュストがシャインスパークを発動させた。
 マジックブック「加護」が光り輝くと、フェルンは目くらましで怯んでいる間にアプローチⅡを再び発動させ、その状態を保つ。
「ドアを壊せ!」
 やっと人間の声が聞こえてきた。
 待機していた瑞希がハートフル・ウォールを構え、フェルンがフォローしきれないドアの前に立ち、アプローチⅡの範囲外から投擲された石を阻んでいく。
「デミ・ゴブリンの後ろの茂み!」
 ジュストが咄嗟に声を上げた。
 既に半数以上が倒れているデミ・ゴブリンの後方の茂みに人影が見える。
 デミ・ゴブリンや投擲攻撃の対応に追われるフェルン、瑞希では中々後方に目を向けられないが、シャインスパークの範囲固定の為にその場にいるジュストは見破ることが出来た。
 徐々に光が弱まっていくが、その光は後方に人間がいることを教えてくれる。
「流石、ウィンクルム……動ければ、少数でも脅威か。下がれ!」
 リーダーなのだろう、デミ・ゴブリンへ後退を指示する声が響く。
 デミ・ゴブリンが後退するのに合わせ、細身の男が前に出てくると、こちらへ向けて、何かを放った。
 鼻腔を擽ったのは、淡く甘い香り。
「鼻と口を押さえて!」
 咄嗟にフェルンが叫んだが、遅かった。
 風の影響で完全ではないものの、香りを察した時点で吸い込んでいる。
「これは……っ」
 ジュストが異変に気づいて顔を歪める。
 頭の芯を鈍らせるような感覚は眠りに落ちる程ではないが、眠気を呼ぶ。
 しかし、それ以上に問題なのは、揺らぐ視界に両親がオーガへ攻撃される姿が映っている。
 典型的なマキナであるとは言え、ジュストは感情を持たない訳ではない。
 徐々に視界が紅に染まり、『悪夢売り』の正体を知った。

●悪夢売り
(トラオム・オーガ、じゃない……?)
 瑞希は、知っていた知識に該当しないと顔を歪める。
 A.R.O.A.から任務として下された当初もギルティは確認されていないという情報があり、マントゥール教団も絡んでいる可能性は提示されていた。
 ギルティでなくともオーガであるなら、聞き込み調査の段階で目撃情報があってもおかしくはなかったが、目撃情報もなく───この騒ぎであった為、瑞希は自分がいつ寝たかなど誰にも分からない、また、寝ている時だけ夢を見ているという断定は禁物と最初から悪夢を見ているかもしれないと思ってはいたのだが。
「なるほどね。香り……嗅覚は防ぎ難いね」
 フェルンも夢を振り払うように斧を薙ぎ払う。
 彼の耳には、まるで幻聴のように瑞希が苦悶の声を上げているのが響いているが、自身が動揺しないようその心を必死に制御している。
 視覚、聴覚より格段に目立たないが、その分、嗅覚に仕掛けられると、防御が難しいのだ。
「……宿泊した部屋を、後で調べる必要があります、ね……」
 瑞希もウィンクルム達が起きない理由に気づいた。
 彼らは『悪夢売り』の香りの異常に気づく前に眠りに落ち、今は夢に囚われているのだろう。
 恐らく、何らかの形で歪んでいる夢を。
 どうにかして、この効果を持つ香りを作ることが出来たのか聞き出さないと───
 しかし、思うように身体は動かない。
 歪む視界には、旅館が炎に包まれているのが見える。
 これは、悪夢……分かっているが、心はかき乱され……悪夢から救おうと周囲へ声をかけるフェルンが遠く感じ───それが、一気に弾けた。
「え……?」
 その場にいた、誰もがそれを理解出来なかった。
 後方から、風が吹いてきたのだ。
「……あの、これで……少しは楽に、なると思います……っ」
 フィーリアがスイッチを入れたのは、旅館にあった業務用の送風機。
 『悪夢売り』の正体が香りであることに気づいたジュストを後方に下げたフィーリアは彼から携帯電話を借りて女将へ連絡し、送風機の場所を聞いて、取りに行っていた。
 フェルン、瑞希へ『悪夢売り』が的確に作用し、彼らが挽回すべく動こうとしていたからこそ、フィーリアの動きを見落としていたのだ。
 悪化を防ぐには、空間に満ちる香りをどうにかしなければならない。
 手軽かつ有効なのは風を使うこと───フィーリアは前線に立つ力はまだ持っていないと理解し、後方に下がっていたからこそ、『悪夢売り』の影響なく動ける自分が動かなくてはいけないと動いたのだ。
「く……!」
 香りを放ったリーダーが身を翻す。
 まだ健在のデミ・ゴブリンが立ちはだかり、リーダーの離脱を手助けする。
 が、フェルンはデミ・ゴブリンを無視して走った。
 ここで最低でもリーダーを捕縛しなければ、何も解決しない。
 阻むデミ・ゴブリンへ瑞希が愛の女神のワンド「ジェンマ」を振り翳すが、人間が自分達は害せないだろうと石を拾った。
「あの、石……!」
 後方から、フィーリアが叫ぶと、瑞希は咄嗟にハートフル・ウォールを構えて石に対処した。
 逃亡を開始した彼らはアヒル特務隊「オーガ・ナノーカ」が進んでいたことを見落としたのだ。
 カメラで動きを理解したフィーリアが声を上げなかったら、瑞希も危なかっただろう。
 本格的に拙いと理解した教団員が腰を浮かすが、ガアガアと鳴き声が響き、思わずその方向を見てしまう。
 瑞希からアヒル特務隊「オ・トーリ・デコイ」を預かったジュストが操作し、彼らの意識を一瞬向けるようにしたのだ。
「全員は無理だろうが」
 ジュストの仕込み刀「時雨」が教団員の喉元に突きつけられる。
 後方では、瑞希が旅館への侵入を目論むデミ・ゴブリンをフィーリアの援護を受けて確実に阻んでいるのが見えた。
「……香りを放った男は捕まえたよ。教団員は殆ど逃げられたけど」
 やがて、フェルンが戻ってくる。
 逃げ遂せた教団員の中に邪眼のオーブを託された者がいたようだが、『悪夢売り』の元を知っているリーダーの確保には成功した。
「……何とか、凌ぎ切りましたね」
 ほっとした瑞希の後ろで、緊張の糸が切れたフィーリアが座り込む。
「大きな怪我が、誰もなくて……良かった、です……」
「危ない局面はあったが」
 フィーリアに応じたジュストは、横目でフェルンによって自身が確保していた教団員が昏倒させられたのを見る。
 いつ気づくか分からない為、ジュストは座り込んでいるフィーリアの代わりに粘着テープとビニールロープを持ってくるとフェルンと共に手引き役同様厳重に拘束した。
「人数を考えれば、完全ではなくとも成功と言っていいだろうね」
「トラオム・オーガとは異なる『悪夢売り』……それを知る彼らを尋問する必要があるな」
 フェルンにジュストが頷く。
 デミ・ゴブリンは全て倒され、フェルンがリーダー、ジュストが逃亡を最後まで手伝った教団員(恐らく忠誠心の高さよりリーダーに近い存在だろう)以外の教団員の逃亡は許したものの、旅館内に彼らが立ち入ることはなく、宿泊しているウィンクルムは勿論、全ての人々が無事に朝を迎えられそうだ。
「私達はまだ眠ることが出来そうにありませんが……」
「そ、そうですね……。どうして、こんなことが出来たのか……その、オーガやギルティが絡んでいるにしても、目的なく動いてるとは、思えませんし……」
 人々を護るにしても彼らの方策を知らなければ手段を講じることも出来ない。
 瑞希もフィーリアもその点については見解を一致させており、彼らが不審な動きをしないか注意しつつも聞き出す必要性を感じていた。

 何故、『悪夢売り』が可能だった?

●その問いを投げて
 女将から一室を借りたウィンクルム達はA.R.O.A.へ事後処理の手配を依頼する連絡をした上で拘束した3人へ向き直った。
「……教団員を伏せて、雇われたか」
 手引き役の男の履歴書を見ながら、ジュストが呟く。
 教団員と言っても、教団内の立場は教団員ごとに違う。
 それだけに幹部クラスではない者は教団員であることを伏せ、社会に紛れ込み易い。
 立場がないからこそ、それが出来るのだろう。
「あ、あの……女将さんから、この方が宿泊客へサービスとして提供する香木を部屋に備え付けてると伺ってきました」
 別室で女将から手引き役の男に関する情報を聞いていたフィーリアが戻ってきた。
 香木……それが、『悪夢売り』の正体か。
「後で、被害が遭った旅館を調べ、香木を置いているか確認しましょう。その業者そのものが怪しいのか臨時で雇われている者が摩り替えているのか調査する必要があります」
 瑞希がそれで割り出せることもあるだろうと冷静に呟く。
 だが、リーダーも腹心らしい教団員も沈黙を守り続けたままだ。
「トラフム・オーガとは異なるようだが、香木を媒介にギルティが能力を行使する路線ではないだろうな」
 ジュストが、揺さぶるように一言投げる。
「香木には薬学的成分も含まれているから、多少分かるが、任務の際に聞いた話を踏まえると、媒介として能力を直接行使というより、変質した香木の効能を使い、間接的に干渉したように見えるが?」
「変質……瘴気を纏うギルティ、オーガの傍にある、或いは彼ら自身が生み出すなら、特殊な効能を持つ香木があってもおかしくはないね」
 ジュストの見解に対し、フェルンが自身の推測を続ける。
 が、彼らにしては間接的な手段だ。
 常であれば、人々を凶暴化させて争わせる直接的な手段を用いてくるのに。
「……直接的な手段ではないですが、それだけに特定し難い手段ではありますよね。それに……潜在意識から変えていけば、自ら堕ちる……」
「あ、あの……夢の内容は、『女神様を信じない』意識を植え付ける、こと……なんです?」
 瑞希が即効性ではないが、追い切れないメリットを口にすると、フィーリアが彼らが取った手段の目的に気づいて彼らへ声を上げた。
 けれど、返ってきたのは、狂ったような笑い声だけ。
 それ以上は何を聞いても笑うだけ……だが、嘲笑の意味ではなく、暴かれた為に一線を越えた狂気であるというのは表情を見れば分かる。
 どこまで推測が合っていたかは不明であるし、本格的に使うつもりであったのかも不明だが、間接的に意識を変じることで破滅を歩ませようとしていた事実にぞっとせずにはいられなかった。

 やがて、夜が明ける。

 夜明けにA.R.O.A.の職員が到着し、彼らを移送していった後はウィンクルム達も女将の厚意で短い眠りを取っていた。
 朝食を届けに行った所、宿泊したウィンクルム達は何事もなく起床していたそうだ。
「一応、話だけしておく?」
「そうですね。『悪夢売り』の影響があるか確認しないといけませんし」
 フェルンが皆を見ると、瑞希が頷いた。
「特に変な様子はなかったようだが、それこそ聞かないと分からないだろうな」
「ゆ、夢の内容も聞いておいた方がいいかもしれません」
 ジュストの言葉にフィーリアも頷く。
 神人達の部屋へは瑞希とフィーリア、精霊達への部屋へはフェルンとジュストが足を運ぶ。
 彼らは、朝食を食べる当事者へ笑顔を向けた。

 おはよう。どんな夢を見た?

 彼らの口から壮大な戦争の話を聞き、安心したのは言うまでもない。



依頼結果:成功
MVP
名前:瀬谷 瑞希
呼び名:ミズキ
  名前:フェルン・ミュラー
呼び名:フェルンさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 真名木風由
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 2 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 09月06日
出発日 09月13日 00:00
予定納品日 09月23日

参加者

会議室

  • …一応、プランは、出しました。
    悪夢に、関してが、あまり入らなくて…。
    敵の数が、多いのは…、宿で、悪夢に囚われている、ウィンクルムを、どうにかするため、とも…、思ったけど…。
    …うまく、いきますように…。

  • [9]瀬谷 瑞希

    2015/09/12-23:43 

    プランは提出しました。
    シャインスパーク使用時は少しミュラーさんに下がってもらう事にしますね。
    敵の数も多い上に対処するべき事が多くて文字数が本当に足りなくて。
    私達が無事で、巧く敵を退けることが出来ますように。
    生き残ってこその勝利ですから。
    敵の数が多い事そのもの(今の状況)がもう既に「悪夢」の術中なのかしら
    という事もちらりと考えました。
    術中なら夢独特の逸脱や矛盾が出てくると思うので
    そこを見抜けば活路が開けるかな、とも。

    なにはともあれ、良い結果になりますように。

  • 魔法、どっちにするか、迷ったけど…。
    シャインスパークに、して、みて貰うね…。
    …従業員入口の戦闘が、長期戦になると、敵が、諦めるか、他の入口を…、探そうとする、かもしれないし…。
    その時に、使えば、役に立つかも…。シャインスパークでも、少しは、回復も、できるみたい、だから…。
    …使う時は…、ちょっとだけ、ミュラーさんに、入れ変わって…、貰うといいかも…?

  • [7]瀬谷 瑞希

    2015/09/12-21:14 

    返事遅れました。
    正面玄関は旅館の人に締めて貰い、従業員入口を護って戦う、という認識です。
    従業員入口へは旅館内部を通らせてもらって、到達が良いかと。
    従業員入口をボトルネックとして敵進入数軽減に使うためには、
    入口内部から突破されないように護るのが一番いいかと思いますので。
    最初に手引き役の教団員を気絶させる等して拘束、ロープ・紐等は旅館から借りて。
    次にデミ、デミの数か減れば教団員を・・と対処して。

    そうですね、シャインスパークだと1回だけしか使えませんし
    長期戦になる事を考えるとサンクチュアリⅠの方が心強いですね。
    ただ敵の命中率-10も効果的かと思いますので、
    どちらのスキルを使うかはフィーリアさんにお任せします。

  • …えっと、ごめんなさい…、確認、なんだけど…。
    旅館の、建物の正面玄関は、旅館の人に、閉めてもらって…、従業員入口を、守って戦う、という、認識でいい…?
    それで、従業員入口に、行くには、どうしましょう…?
    庭とかを、通って行くか、それとも、通る時だけ、正面玄関を少し…、開けてもらって、旅館の建物の中を、通り抜ける、とか…?
    正面に、いくらか、敵がいても、爆竹とかで、気を引いているうちに…、突っ切るとか、できるかも、しれないし…。

    …倒れた敵を、拘束するのは、やって、みます…。
    …ジュストの魔法は、どうしましょう…?
    シャインスパークで、目くらましか…、サンクチュアリを…、従業員入口ぎりぎりに、かけられれば…、ミュラーさんに、その範囲内で、戦って、もらえるかも、しれないし…、回復量は、少し、かもしれないけど…。

  • [5]瀬谷 瑞希

    2015/09/12-19:14 

    連投ごめんなさい。

    私達は敵対応で多分手一杯になるので、
    悪夢売りの正体等に関しては
    フィーリアさんに言及していただいて大丈夫です。
    敵教団員の数が多いので、
    悪夢売りの術の行使には何か人数が必要なのかもしれません。
    以前の事件など紐解いてみますと、昨年のハロウィンで
    夢に入り込むトラオム・オーガによる事件が続けて起こっています。
    これも一種の悪夢と言えるものなので、
    今回の悪夢騒動もこれに似た何かなのかもしれません。
    すると悪夢売りの為に何か教団儀式が必要でそのために人数が必要とか?
    デミ・ゴブリン20体も連れているので教団員そのものには
    それほど戦闘力が無いと思いたいです。
    おそらくこのデミ達は護衛。そして何かの時の時間稼ぎ?
    もしかすると召喚系儀式の贄もあるかも?

    デミの数が減れば教団員を捕獲行動に移りたいです。
    特にリーダーの捕獲は優先したいです。
    悪夢売りの情報を得るためにも。

    いま考えているのはこんな感じです。
    フィーリアさんに何か良い考えがあれは是非ご提案ください。
    敵を怯ませるために爆竹、は良い案だと思います。

  • [4]瀬谷 瑞希

    2015/09/12-18:58 

    返事が遅れて申し訳ありません。

    期限も迫っている事ですし
    このまま2組でこの件に対応するという前提で
    どうするか考えなくてはならないようです。
    敵の数が10倍以上という非常に厳しい状態。
    最優先は私達が全滅しないように留意し旅館の人達を護ること。
    私達に万一の事があった場合それ以降の対処が出来なくなるので
    結局旅館の人達全員感危険にさらされますから。

    PL情報も含めて考えると、
    敵は旅館敷地内には入っているが、従業員入口付近に手引き役がいるので
    まだ敵は旅館内に入ってきていないということで対応した方が良さそうです。
    敵の進入路を従業員入口1本に絞ります。
    他出入口(正面玄関)等は旅館の人達に戸締りなどして貰っているという前提。
    現場到着までの5分で旅館側へ
    「念のため宿泊客は自室へ待機して貰う」事をお願いすれば
    フィーリアさんの提案を実現できるのではないかと思います。

    従業員入口はそれほど広くないと考えられますので、
    一度に対処すべき実質人数を減らせます。
    (41人同時に入口を通過するのは難しいでしょう)
    灯りは旅館側につけて貰います。
    旅館内は基本的に明るく私達の姿は見えてしまうため、
    恐らく不意打ちは難しいでしょうし
    暗い中で敵に対応する利点は私達には全くありません。
    逆に暗い場所を作ることは敵にとって有利ですので。
    デミ・ゴプリンの数を減らすべきかと。
    ミュラーさん…1人ではとても無理なので
    私とミュラーさんで何とか…出来ると良いのですが。
    体力的にもフィーリアさん達は前にでると危険ですし。
    ミュラーさんがアプローチⅡで出来るだけ敵を引きつけ倒します。
    多数の攻撃を彼1人が受け続けるのは危険なので
    私も前に出て頑張ります。
    ミュラーさんには敵をできるだけ1撃で倒して欲しいので
    私はジェンマの杖で。でも私の攻撃が当たるかとても心配。
    デミを何とか出来たら次に教団員を相手にしますが、
    この人達はあまり深手を負わせられないですね。
    手引き役の人は最初に捕まえて縛っておくのが良いと思います。

  • …連続で、ごめんなさい…。

    …どうしましょう、か。このまま…、二組、だったら…。
    最優先は…、旅館内の人たちを、守ること、かしら…?

    敵が…、悪夢に、囚われた、ウィンクルムを…、狙って動く、なら…。
    旅館の人と、他の、宿泊客には、部屋から出ないようにして、隠れてて、もらって…。

    先に、旅館の、建物の中の…、敵を、片付けられれば…。
    旅館の人にも、協力を、頼めるかしら…?入口を、塞ぐとか…。

    そしたら、リーダーを狙って、とか…?
    私も、何か、できると、いいんだけど…。
    …爆竹とか、準備して、いける、かしら…?

  • …えっと、フィーリア・セオフィラス、です。パートナーは、ジュスト・レヴィン…。
    瀬谷さん、ミュラーさん、こんばんは。
    …その、こちらこそ…、さつきのきつさ…、お世話に、なりました…。
    うまくいって…、良かった、です。
    今回も、よろしく、お願い、します。

    …PL情報、込みで、お話…、して、しまいます、けど…。
    手引き役が、従業員入り口の、近くにいるのなら…、敵の主力は裏側かも…。
    だから、こっちを…、足止めする、とかして…、これ以上、旅館の建物内に、入るのを止められれば…?
    …敷地情報、館内情報は、分かる、みたいだから…、不意打ちとかできるかもだし…。

  • [1]瀬谷 瑞希

    2015/09/10-21:06 

    こんばんは、瀬谷瑞希です。
    パートナーはロイヤルナイトのミュラーさんです。
    フィーリアさんには先日のさつきのきつさで色々とお世話になりました。
    今回もご指導よろしくお願いいたします。

    今現在、人数的にも厳しい状況です。
    今回は敵の数も多いですし。
    敵の半分は教団員=オーガではない
    という部分に何か光明が見いだせれば、と思うのですが。
    まだ何も良い考えが浮かんでおりません。
    夜なので視界は良くありませんね。
    旅館の明かりがあればライトは無くても良さそうですが、
    こちらも見を隠すのが難しそうです。
    『旅館』なので館内構造は複雑になっている可能性があり、
    だからこそ敵を館内に入れる訳にはいきません。
    館内に入れると分散し各部屋に紛れると追い切れなくなります。
    なので何としても館内に入る前に敵を止めなくてはならない。
    でも、今の時点では完全に火力不足なのでどうしたものか。
    何か良い案が無いか考えてみます。


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