君と踊る(錘里 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

「お二人、暇かな?」
 その人は唐突に尋ねた。
 知っている者は知っているし、知らない者は知らない顔だが、A.R.O.A.に出入りしている精霊となれば、その人がウィンクルムであることは容易に想像がつく。
 そう、それは君たちがA.R.O.A.の受付で自分たちに合う任務を探していた折だった。
 ひょいと覗き込んできた精霊がそんな風に尋ねてきたのだ。
 任務が無ければ、暇と言えば暇だが、無いなら無いで他にやる事を探しても良い。
 曖昧な返事をする君達に、精霊はにこやかに微笑んで続けた。
「暇なら、少しダンスにでも付き合って貰えないかと思ってね」
「ダンス?」
「そう、ダンス……うーん、いや、正直に言おうか。模擬戦の相手を探していてね。ただ、少し特異な状況下で、やってみたいと思って」
 特異、という言葉にかすかに眉を寄せる君達だが、実戦で考えられないわけではない。
 ちなみに、と尋ねたところ、取り出されたのは、手錠だった。
 ただし二つの輪を繋いでいるのは、ただの鎖ではなく、巻き取り式のようだった。
「これ、最大で2メートル伸びるんだけどね。狭い空間……まぁ、室内とかかな? そう言う場所を想定した距離感を出したくてね」
 実際に室内で暴れると後の始末が困るから、と笑った精霊は、如何だろうか、と尋ねる。
 面白そうだと言ったのは、どちらだったか。
 挑戦してみようと頷き合う君達を見て、精霊はにこやかに笑った。
「では、訓練場の方へ移動しようか。あぁ、トランスは忘れないように」
「は?」
「やるなら、本気で。やりたいだろう?」
 にやりと笑った精霊は、とん、と君たちの手の上に手錠を乗せると、朗らかに笑った。
「僕はシキ。ご覧の通りのシノビだ。他にテンペストダンサーのハルカ、プレストガンナーのアキトが参戦を予定しているよ。
 ただし今回は一対一の個人戦。大事なのは、自由の制限されている場所でどれだけお互いを把握して動けるか、だからね」
 知っている者は知っているし、知らない者は知らない名。
 それは君達より先にA.R.O.A.に所属しているウィンクルムの名だった。
「新しく戦線に加わった精霊を連れている人もいるだろうしね、実戦前のお試しには足りるつもりでいるけど……」
 ――殺し合う気で、かかってきてもいいよ?
 まるで、誘うように。静かな顔で、シキは笑った。

解説

●先輩ウィンクルムとタイマン勝負しましょう
勝ち負けは特に成否には影響しません
お互いの距離が制限されている状況で上手く立ち回れるかが重要となります
模擬戦ですが、真剣勝負です。トランス有りです
ハイトランスも有りですが、ハイトランスにはハイトランスで返しますので予めご了承ください

●対戦相手は下記から選べます。記号は文字数削減用ですので明記の必要はありません
時間軸は基本的にずれているものとするので、被っても問題ありません
タッグ戦は不可としますが、観戦や応援は可とします

【A】テンペストダンサー:ハルカ(神人:美冬)
精霊は双剣装備。優先ステータス→回避
神人は弓装備

【B】プレストガンナー:アキト(神人:千夏)
精霊は二丁拳銃装備。優先ステータス→命中
神人は呪符装備

【C】シノビ:シキ(神人:コヨミ)
精霊は手裏剣装備。優先ステータス→防御
神人は大鎌装備

●戦場自体は広い訓練場です。障害もありません
神人と精霊が2メートル以上離れなければ移動は自由です
手錠の鎖は巻き取り式なので、絡まったりはしません

ゲームマスターより

アドやりたい病にかかっている錘里です
今回は難易度普通アドベンチャーなので、判定はソフト目で行く予定です
実戦前のウォーミングアップから熟練者による挑戦まで、広くお待ちしております

ガチ戦闘希望される方はウィッシュの冒頭に★でも付けておいていただければ考慮しますが、
経験値等に変化はありませんので予めご了承ください

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)

  【B】
観戦する

【トランス】
開幕ハイトランス
【ポジション】
基本的に前衛

【移動】
どの方向にどれだけ動くかお互いに宣言してから動く
相手にも動きが筒抜けになるが息が合わずもつれるよりかはマシ
常に離れすぎないように位置を【計算】

【攻撃】
精霊の行動が終わったら精霊の前に立ち護符による防御展開
攻撃は神人はアキトを、精霊は千夏を狙います
接近時のみ神人はアキトを狙う(相手の立ち位置を見て臨機応変にターゲットを変更)

体力が消耗してきたら、一時的にポジションを交代
羅針盤を使い回し体勢を立て直す

【アキト&千夏戦について】
自分達より経験豊富なガンナーと神人の立ち回りが見たいので
終わったら感謝の気持ちを述べます


日向 悠夜(降矢 弓弦)
  ●心情
先輩のウィンクルムの胸を借りれるのは助かるね
この鎖には少し戸惑うけれど…何時も通りやれば大丈夫だよ!

◆A
観戦希望

鎖の制限距離と弓弦さんの間合いで戦う事を意識するね
前進して間合いを詰める場合はわざと鎖を2回引っ張って合図するよ

試合中は美冬さんの弓を警戒しつつ、ハルカさんの攻撃を盾で防ぐ様に立ち回る
手数の多い精霊の攻撃だからね…正面で受けるよりも、力を受け流す事を意識

弓弦さんから合図が来たら攻撃に回るよ
私のレイピアがハルカさんに当たったら、弓弦さんに合図を送ってスキル確認後前進し、美冬さんに接近するね
無事に美冬さんに接近出来たら武器落としを試みるよ

試合後はお礼を言って、反省点を共有したいな



ガートルード・フレイム(レオン・フラガラッハ)
  ■挨拶
先輩方と戦うのは初めてだが、精一杯戦いますのでどうぞよろしく(丁寧に一礼)

■戦闘
【C】を選択
戦闘開始時にトランス及びハイトランス・オーバー発動
おそらくシキさんは手裏剣を投げてくるので近接のコヨミさんを優先
レオンのアプローチⅡに反応した隙を狙う
防御では負けないはずなので恐れず積極的に攻め込む
攻撃の際、狙う箇所は腕か足
実戦ではないので急所は外す
鎌は振る方向を見て槍で受け止める
シノビなので突然の移動には警戒

レオンから声がかかれば今度はレオンを庇って前面に出る

■戦闘後
勝っても負けても気持ちよく一礼
ありがとうございました
対戦相手やこちらにダメージあれば応急手当
お疲れ様、楽しかったとレオンをねぎらう



ミオン・キャロル(アルヴィン・ブラッドロー)
  【A】
観戦希望
神人の動きを注視
…よく皆、あんなに動けるわね(羨望
現場に行くこと多いはけど、戦闘は…苦手だわ
顕現したからって、無茶ぶりよね

元気そうで何より
手合せをお願いするわ

大剣の間合いに気を付け精霊の後方下がる
矢は盾で防ぐか射線を見て避ける

弓なら相手から近づいては来ないわよね
精霊の斜め後方を走り距離を詰める
接近したらハルカにクリアライトで光を反射させ攻撃への隙を作りたい
精霊は精霊同士、私は美冬さんの方へ
盾で抑えるように接近し短刀を向ける
これなら弓は無理よね
相手を転倒させたいけど自分が転ばされない様注意するわ

ハルカに狙われた時は逆に精霊がハルカに攻撃する好機とみて多少無茶でも信じて盾で攻撃を流す



アイリス・ケリー(ラルク・ラエビガータ)
 
シキさんとコヨミさん以外のお二組には、頭を下げるだけでもご挨拶出来ればな、と

ラルクさん、それはどなたかの言葉ですか?
精霊の言葉に苦笑を返してトランスし、シキさん達に向き直る
それでは、よろしくお願いいたします

コヨミを狙う
シキの妨害が入っても深追いはしない
コヨミを先に倒せれば最良、庇ったシキに攻撃が集中しても良し

シキが忍法霞龍を発動中は精霊の後ろに回って手出しを控える
忍法霞を使用された場合は、バックアタックを防ぐべく精霊と背中合わせに
影法師には対処しきれないので対策を切り捨て

シキが遁甲を使用した時が好機
ハイトランスし、防御を捨ててでもコヨミを落としに行く



●VSハルカ
 対峙者を前に、ミオン・キャロルは深呼吸をした。
 他の者の観戦をして、つくづく自分が戦闘が苦手であると痛感したゆえに。
(顕現したからって、無茶ぶりよね)
 訓練を受けたわけではない女の身には、荷の重いこと。
 だが、そうも言っていられないからこそ、この人達はこうして対峙してくるのだろう。
「元気そうで何より。手合せをお願いするわ」
 微笑みながらも真剣な目で見つめれば、ハルカも笑みを返す。
「あの時は世話になったね」
「怪我はもう大丈夫か。お手柔らかによろしく」
 にこりと笑んだアルヴィン・ブラッドローに、こちらこそと返して。二刀を引き抜くハルカに、大剣を構えてアルヴィンも応じた。
 アルヴィンの武器の間合いは、判る。ミオンがやや後方に下がれば、鎖が音を立てて伸びた。
 右手にはきらりと光るクリアライト左手には勇気の名を冠する盾。
 彼らが『強敵』だとて、怯まずに、挑める。
 アルヴィンはハルカを見据えたまま動かない。手数の違いもある、闇雲に飛び込むのは良策ではない。
 半面、間合いはアルヴィンの方が広い。飛び込んでくるのを、待った。
 それを理解して、美冬は弓を引き、その鏃を真っ直ぐにアルヴィンに向けた。
(狙ってくるなら、盾で弾けるけど……)
 そうでなければミオンが前に出る必要がある。また、アルヴィン自身が弾けば、ハルカの斬り込む隙を作るだろう。
 判断に眉を顰めたミオンに、美冬は眼鏡の奥で瞳を細める。
「待つだけなら、撃つが」
「受け身ばかりじゃ、ないわ!」
 たん。ミオンは意を決して地を蹴った。
 鎖による制限一杯まで距離を詰めて、短剣を振るえば、光る刀身はハルカの目を眩ませる。
 隙を突かれまいと放たれる弓を弾き、次を番えられるより先に、アルヴィンも動く。
 ミオンを牽制するように一閃。そのまま地を蹴り斬りかかってくるハルカの刃を、アルヴィンは真正面から受け止めた。
 精霊同士がぶつかれば、ミオンは美冬へと視線を移し、盾をぶつける勢いで接近した。
「これなら弓は無理よね」
「そうだな。飛び道具を野放しにする理由はない」
 淡々とした台詞ながら、笑みをかたどる口元を見つけて、ミオンは少しだけ目を丸くしてから、きゅっと唇を結ぶ。
 武器を封じただけで満足してはいけない。組み付いて、転ばせれば最良。
「思い切りがいいな」
「怖気づいてる場合じゃないもの!」
 組みあう神人達をちらりとハルカの肩越しに見るアルヴィン。その視線に気が付いて、ハルカはくすりと笑う。
「君の思い切りの良さも、知っているつもりだがね」
 いつかの時、敵に囲まれた窮地を脱したアルヴィン。
 それを機転と言うか無謀と言うかは、結果が決めること。
 無事を勝ち取ったその行動を、ハルカは、好ましいと言った。
「活かしてくれよ」
 是非に。言葉を結ぶと同時に振るわれる一閃を、アルヴィンは身を引いて躱す。
 だが、テンペストダンサーの売りでもある素早い連撃はアルヴィンを否応なく切りつけてくる。
(思った通り、一撃がそこまで重いわけじゃない……)
 手数ゆえにその攻撃は軽い。退かず踏みとどまり、アルヴィンは鋭く薙いで来る刃に合わせるように、その身に薔薇を纏う。
 荊が斬り込みを浅くし、食人の花が、ハルカに喰らい付いた。
「ぐ……ッ」
 思わず身を引くハルカを追って、繰り出されるのは白蛇の牙。
 例えハルカがアルヴィンと同じようにカウンターを仕掛けてきても、底上げした防御を貫くことは、ありえない。
「喰ら、え!」
 その一撃は、ハルカの膝を折るには十分だった。
 ――が、それと同時に、美冬に力負けしたミオンが、地に転がされ、鎖が思い切り引き寄せられた。
「うわっ」
「きゃっ!」
 ぱん、と手を払った美冬が、そのままもう一度手を打つ。
「思い切りの良さは及第点。見合う力も十分だ」
「後は、見誤らない事、だね」
 力と自信が付く時期だからこそ。引き際を、誤るなと。
 告げたハルカが剣を収めるのを見て、二人は息を吐いて頷いた。



 実戦ではなく、先輩の胸を借りれるのは、いい機会だ。
 日向 悠夜は自分に繋がれた鎖に戸惑いを覚えながらも、その先に居る降矢 弓弦を見た。
 クロスボウの調整確認をしていた弓弦は、その視線に顔を上げて微笑む。
 頷き合った二人は対峙者に向き直る。準備はいいかと尋ねるハルカに、立ちはだかるように立つ悠夜。
 握り締めた盾の感覚。手数の多い相手に挑むのだ。正面で受けるよりは受け流し、迂闊に崩される事のないように。
 ちらり、ちらり。美冬を見て、ハルカを再び見て。弓弦が深呼吸をしたのは、悠夜と同じタイミングだったかもしれない。
 後衛に位置する弓弦はハルカを、美冬は弓弦を、それぞれ狙う。
(射線は、通る。悠夜との距離は、まだ余裕があるかな……)
 初撃は慣れない武器の感覚を確かめるため、威嚇を兼ねて。飛んでくる弓は、躱して。
 斬り込んだハルカの双剣と悠夜の盾がぶつかり合う音が大きく響くのを聞き留めながら、弓弦は冷静に狙いを調整していく。
 クロスボウの動力部は獣のように唸り、噛み付かんとするかのよう。
 だけれどそれが今の弓弦に見合ったものではない事を知るハルカは、何故と問うた。
「実戦で、使いこなす為に」
 扱いとは、経験を積んでこそ光るものだから。
 微調整を繰り返しながら繰り出される矢は、ハルカを大きく傷つけるには至らないながら、その精度は上がっている。
 この試合が終われば、実戦に適うようにもなるだろう。
「敵ならば厄介だが、味方なら、喜ばしいね」
 キン! また、悠夜の盾を双剣が鳴らす。
 半歩引いては同じだけ踏み込み、伸びた鎖の先に居る弓弦の間合いを確かめながら、悠夜は耐えた。
 耐えて、待った。
 ――くん、と。鎖が引かれる感覚、三回。
 それは弓弦からの合図。今の段階でも十分に武器を扱えるという確信の表れ。
 それを受けて、かすかに口角を上げた悠夜は、防戦一方の姿勢から一転、鋭く踏み込んで、ハルカの肩にレイピアを突き刺した。
 ハルカが瞠目したのは一瞬。追って放たれる幾本もの矢に、ステップを踏んで回避を試み距離を取る。
 その瞬間、しまった、と口元で呟いたように見えた。
「美冬」
「出来る限りはする」
 鎖を二回。引いて合図した悠夜は、駆けだして美冬に接敵する。
 合わせて駆けた弓弦が、悠夜とハルカの間に割り込むように位置取るのを見て、ハルカは楽しげに口角を上げた。
「上手いな」
「まだまだだとは、思ってるけどね」
 距離を詰めた悠夜に対し、美冬は冷静に矢を放つが、弓の調書の遠距離を生かすには、ハルカとの距離が開きすぎている。
 さしずめ壁際に追い詰められたと言った状況。武器を持つ手を狙っての一撃に、素直に弓を手放す美冬。
 背中越しにそれを感じて、弓弦もまた、ハルカの武器を狙いすまし、弓を放った。
「くっ……ここまで、か」
 試合の終了を告げて、ハルカは剣を収める。
「ありがとうございました。……何か、反省点とかは……」
 悠夜の率直な問いに、眼鏡の位置を直した美冬は、小さく息を吐いて弓を拾うと、悠夜を見た。
「距離の取り方、鎖を逆に利用した合図を行う発想はとても良かった」
 しかし、敢えて言うなら。
 実戦と異なる部分が多いゆえの武器落しという選択肢だったのだろうが、実戦では勧めないと言う。
「特に神人はな。精密な事は、得意なものに任せるのが良い」
「あるいは……割り切るか、だな」
 傷つけずに済むのは良いことだろう。傷つかずに済むのならそれに越したこともない。
 状況をよく見て、判断を。
 優しさを、躊躇にしてしまわぬように。


●VSアキト
「嬉しいな」
 対峙するハロルドとディエゴ・ルナ・クィンテロを見つめ、にこりと、アキトは笑った。
「君とは、またやりたかった」
 疼く手を千夏に差し伸べるアキトは、きっと判っていた。
「ハロルド」
「うん」
 ディエゴの紋章へ寄せられるハロルドの唇。開幕早々のハイトランス。それを待ち侘びたように、千夏もまたハイトランスをした。
 瞬間、向けられる二丁拳銃。間髪入れず引かれる引き金に、ディエゴは盾を構えて躱し、耐える。
 一回、二回。先手を打たせた上で、ハロルドはアキトへ、ディエゴは千夏へと駆けた。
 盾を構えてジグザグに移動するディエゴは、大きな移動のタイミングに、その移動先と距離を告げる。
 右へ、左へ、何メートル動くか。
 ハロルドもまた、その宣言と全員の距離、鎖の長さを把握しながら合わせて動き、時に同じ形で宣言をしながら、アキトの前に立ちはだかる。
 展開される二十四枚の護符。そこからあふれ出す水流越しに見たアキトは、喜色を浮かべていた。
「筒抜けだけど」
「息が合わずにもつれるよりは、マシ」
「うん、わかる。以前から自力の使い方が上手」
 報告書で何度も見かける名前だ。今いる後輩たちの中で最も経験豊富なのはハロルドたちで間違いない。
 だからこそ。
「磨くための壁に、なりたい」
 護符の力で命中率が大きく削られているのは承知の上。それでも、アキトは構わず銃を撃つ。
 鎖の限界がある以上、距離が大きく開く事はない。ゆえに、たしん、と音を立てて地を叩くハロルドの鞭を、アキトは警戒した。
 水の力で軌道がずれながらも、幾つか掠める銃は、ハロルドの行動を阻害するもの。
「仕掛けて、おいで。今度は何も邪魔がない」
(挑発なら、乗る必要はないけど……)
 きゅ。瞳を細めて、ハロルドはアキトの真意を窺う。
 ――他意なんて、ないのだ。
 ぱぁん! 一際強く地を打ち鳴らし、ハロルドはアキトへと鞭を振るった。
「ハロルド」
 一声、かけて。
 千夏と対峙したディエゴは、呪符を構える彼女の死角に潜ると見せかけて、続けざまに銃を撃つ。
 相手を翻弄しながらの攻撃に、千夏はくつりと喉を鳴らし、呪符を飛ばした。
 炸裂する衝撃は、しかしさほど強力なものではない。
「アキトの傍でなくていいのか」
「プレストガンナーの特性を知らないわけじゃないもの」
 遠距離連続攻撃だけが売りではない。周囲一帯を巻き込む強烈な攻撃も、ある。
「こうして貴方自身にぴったりしてれば、撃てないでしょう?」
 呪符とて遠距離サポート向きの代物だ。それでも千夏は積極的に間合いを詰め、ディエゴに張り付ける勢いで呪符を放ってくる。
 頬から一筋、血が零れるのを感じながら、ディエゴは瞳を眇める。
 鎖を用いた模擬的な室内戦。飛び道具や範囲攻撃の扱いには十二分に気を付けよと、真っ直ぐな千夏の目は語る。
 ハロルドを見て、千夏を見る。彼女達は少し似ているだろう。積極的に前へ出るという点では。
(――巻き込むな、と)
「伝われば、幸いよ」
 にこりと微笑んだ千夏が、再び呪符を叩きつける。ディエゴが銃を持つ腕の、肩口に。
「……言われずとも」
 呪符が爆ぜるのも厭わず、千夏の肩に、同じように銃口を突きつけて、ディエゴは躊躇わず引き金を引いた。
 だらりと垂れた腕から、呪符が零れて。ふぅ、一つ溜息をついた千夏の振り返った先では、鞭を絡められて引っくり返っているアキトの姿があった。
「へへ、負けた」
「今回はハロルドの動きが良かったわ。羅針盤まで持って、しっかり壁としてアキトを邪魔したことで、ディエゴが動き易かった筈よ」
 練度と鑑みても、十分に実戦で通用するだろう。
 あとは、仲間の射線と技の効果範囲をしっかり把握すること。
「前線に出るなら、特に、気を付けて」
 ハロルドを見上げながらのアキトの言葉に、ハロルドは頷いて。
「ありがとうございました」
 ぺこりと、頭を下げた。

●VSシキ
 シキ、コヨミと対峙したガートルード・フレイムは、先ずはきびきびと一礼する。
「先輩方と戦うのは初めてだが、精一杯戦いますのでどうぞよろしく」
「実戦じゃねーし楽しんでやろうぜ。胸を借りさせてもらう、よろしくな」
 笑みと共に告げるレオン・フラガラッハ。
 ご丁寧にありがとねと緩い笑みを返すシキは、さて、と同じ調子で身構える。
「始めよっか」
 軽い調子の開戦合図と共に、ガートルードはレオンからの口付けを頬に受ける。
 ハイトランス・オーバー。
「おや」
 ジェミニじゃないのか、告げつつも、応じるべくコヨミの頬に唇を寄せた。
「そっちも、ジェミニじゃないのか」
「いやぁ、ハイトランスは同じのにしようって思ってたから」
 肩を竦めたシキと、コヨミとを見て、レオンは内心で舌を打つ。
 それでも、やる事は変わらない。意を決して踏み込んで、より強力なアプローチを展開するレオン。
 意識を強制的に引きつけるオーラに、二人の視線はレオンに向く。
 ガートルードがその隙を狙うのを理解しながらも、二人は構わず、踏み込む。
「生憎と、シノビという奴も防御に長けた面があってね」
 微笑んだシキが唱える短い呪文は、彼の身を属性エネルギーと同化させる。
 手裏剣を使うだろうシキは後に回し、近接のコヨミを先に捉える心算だったガートルードは、想定外に立ちはだかる壁に当惑する。
「耐えて、頂戴ね?」
 対し、薄く笑い、大きく振り被った大鎌を容赦なく振り下ろしたコヨミの一撃を受けたレオンは、その重さにきつく眉を寄せた。
(防御では負けないと、踏んだが……)
 ガートルードは瞳を眇めて思案する。
 彼女らにとってのハイトランスオーバーは、お互いの防御力を高め、かつ、ガートルードの攻撃力を効率的に高めるメリットの大きいもの。
 シキがいかに防御を固め、コヨミがいかに攻撃に特化しようと、易々と付け入られる隙は作らないつもり、だが。
(足りる、のか……?)
 判らない、だが――恐れては始まらない事だけは、分かっていた。
 シキの遁甲は攻撃を捨てる技。正しく壁なら、貫くのみと大きく踏み込み、足を狙って槍を突き出す。
 それはシキのオーラを貫いて傷を作るも、想定しているよりも浅い。
 大振りなレオンの剣を交わし、薙がれた大鎌が再びレオンを捕える。
「くっ、ぐああ!」
 苦悶の声と共に膝をついたレオンの姿は、相手の意識を一層引き、ガートルードが攻める隙を作る、はずだった。
「騙されてあげても良いけれど……それは、仕留めて欲しいって、事かしら?」
 最初からレオンしか見ていないコヨミには、意味のないことだった。
 はっとしたように顔を上げたレオンは、胸元を抉ろうとする刃の軌道を捉える。
 一閃には、耐えた。
 だけれどごっそりと削られた体力に、レオンは舌打ちして「おい」と短く声をかける。
 アプローチからプロテクションへ。防御に専念した。
 一方で、ガートルードの刺突を幾度も受け続けたシキは、息の詰まったような声をあげてから、よろめくようにコヨミに凭れた。
「じり貧だねぇ。コヨミ、僕らの負けだ」
「勝負は、最後まで……」
「引き際も肝心なのよ。試合だもの。無用な怪我は避けさせて頂戴な」
 予期せぬ敗北宣言に食い下がるガートルードだが、精霊たちの傷をそれぞれ見て、口を噤む。
「良い作戦だったよ。ただ一つ言うなら、自力が拮抗する相手には避けた方がいい。ハイトランスは長く持つものでもないしね」
 堅実で重宝する戦法だからこそ、大切に扱ってほしい。
 率直な指摘に頷いて、初めと同じく丁寧な礼をするガートルード。
「その辺、よく考える。お疲れ様」
 その頭を労うように軽く叩いて、レオンもまた真摯な顔で頭を下げる。
 目に見える決着には至らなかったが、勝つ事の出来る自信を一つ身に着けたガートルードは、レオンを見やった。
「お疲れ様、楽しかった」
 労う言葉に、笑顔を添えて。



 観戦席に当たる場所に佇む先輩ウィンクルムにぺこりと頭を下げるアイリス・ケリー。
 同じ目線をたどり、ラルク・ラエビガータは詠うように紡ぐ。
「春夏秋冬、月日は踊るってね」
「ラルクさん、それはどなたかの言葉ですか?」
「んにゃ、たった今思いついただけだ」
 特に意味はないと笑うラルクに苦笑を返し、アイリスはシキとコヨミに向き直る。
「それでは、よろしくお願いいたします」
 交わす挨拶は開戦の合図となり。半身となって太刀を構えるアイリスとコヨミを横目に比較し、ラルクは己の得物に手をかけた。
(違いは経験の差と神人の得物……さて、その違いがどう出るかね)
 その身に纏う霞の竜。声なく吠える竜の顕現と共に真っ直ぐにコヨミへと駆けるアイリスに併せ、ラルクも地を蹴る。
 当然のようにシキが行く手を遮るが、ラルクがそれを阻む。
 霞竜は自信への攻撃に反応する反撃技。あくまでコヨミ狙いである事を主張するような竜の存在にシキは口角を上げた。
「竜の逆鱗に、さぁ、敢えて触れに行こうかねぇ」
 臆さぬ攻撃に竜が喰らい付く。微かな苦悶を見せるシキと大鎌を振り翳すコヨミ。
 冷静に見比べて、アイリスが選んだのはシキだった。
(コヨミさんを先に落とせれば最良でしたが……)
 シキが立ちはだかる以上は、無理にコヨミを狙うのは得策ではない。
 翳される手裏剣に太刀を重ねるように打ち付け、その足を止めれば、ラルクの双葉が不定の軌道を描いてシキに追い打ちをかける。
「やられっぱなしじゃ面目も立たないからねぇ」
 お返しだ。笑ったシキの身を、幻影の竜が纏う。
 小さく舌打ちして、ラルクはアイリスを下がらせ、先程のシキと同じように、自らその竜に挑むような攻撃を仕掛けた。
「神人が喰らうよりかは俺のがマシだ」
「はは、気が合うねぇ」
 庇うように立つ精霊同士の打ち合いに、神人達も動く。
 回り込む互いの腕から鎖が音を立てて伸び、振り翳す動きに合わせてしなる。
 きん、と甲高い音を立てての鍔迫り合い。その瞬間にアイリスが理解したのは、力押しでは、負けると言う事。
(経験の差、ですか……)
 少しの悔しさは胸の内に潜め、アイリスは半歩身を引くと、再び振るわれる大鎌の軌道を、見つめる。
 得物の違いが齎すのは、命中精度の差。大振りとなる大鎌を見据えて躱したアイリスは、素早い一閃で、コヨミの腕を捉えた。
 追い打ちをかけようとするラルクを、しかしシキは止めることはせず、ふわりとその姿を煙に巻いた。
 横目に捉え、アイリスは即座に身を引いて、ラルクの背に背を合わせてバックアタックを回避する。
 しかし、障害物の無いこの場において、それは恐らく必要のない警戒だった。
 シキが身を隠す場所など、ラルクの手裏剣を受けてなお立つコヨミの影意外に、あり得なかったから。
 その影を離れたシキの手裏剣が、アイリスの影にささり、ダメージを与える。
「くっ……」
(相棒の盾になるどころか、相棒を盾にするとか……)
 眉を顰めるアイリスを見、読み違いにラルクは舌を打つ。
「察してると思うけど、僕らシノビは手数と搦め手が特徴だ。装甲を砕くほどの力を出すのは難しい」
 そう言う意味では補助向きだと告げてから、ちらりとアイリスを見る。
「逆に言えば、底上げする手段があるのなら、短期決戦に持ち込むのも一つの手だ」
 やってごらん。促す声に、アイリスは逡巡の後、ラルクの紋章に口付けた。
 同様にハイトランスするシキたちを真っ直ぐに見つめ、アイリスは先と同じように、振るわれる大鎌の軌道を冷静に見極めて。
 躱し、穿つ。
 真の力を解放した太刀の一戦は、コヨミの防御を貫き、その身を血に染めた。
「つまり、こういう事だ。対策を幾つも講じるのは君達の長所だけれど、もう少し攻勢でも、通用すると思っているよ」
 活かして貰えたら幸いだよ。笑うシキと傷だらけのコヨミを、アイリスは暫し無言で見つめていたが、やがて太刀を鞘に納め、ゆっくりと頭を下げた。



依頼結果:大成功
MVP
名前:ハロルド
呼び名:ハル、エクレール
  名前:ディエゴ・ルナ・クィンテロ
呼び名:ディエゴさん

 

名前:日向 悠夜
呼び名:悠夜さん
  名前:降矢 弓弦
呼び名:弓弦さん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 錘里
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル 戦闘
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 08月17日
出発日 08月24日 00:00
予定納品日 09月03日

参加者

会議室

  • [13]日向 悠夜

    2015/08/23-23:40 

  • [12]ミオン・キャロル

    2015/08/23-23:30 

    プラン提出…っと
    皆さんの武運を祈って。

    >ローレライ
    別の依頼の話をするなら交流掲示板に行けば良かったわね。
    判定の「普通」だったので、もっと良い方法があったのかなと気になって話題に出してしまったわ。
    一斉メールをしたのが時間のロスだったのかも…とも考えたけど
    ローレライを積極的に倒すっていうのも、そうかもしれないわね。
    戦てたら文字数との戦いが大変な事になってそう…(半笑い

    >アイリスさん
    ありがとう!
    そう言って貰えて嬉しいわ。私も楽しいし心強いなと感じます。
    私もアイリスさんとご一緒した、「【鐘の守護】悪魔は舞う」の依頼がとても楽しかったわ。

    …確かに謝る事は多いわね。発言に自信がないのよね(苦笑

  • >ローレライ
    うーん、そうだなぁ、それなりに皆そつなく動いていたと思うけど…
    各組がどこから突入するのかわからないから、あれ以上具体的な作戦も立てようがなかったしな。
    強いていうなら、ローレライもっと積極的に倒す計画立てていっても良かったのかな…。くらいか?

    そして俺らも今日の夕方あたりから初めてプラン考えるわ(笑)

  • [10]アイリス・ケリー

    2015/08/23-10:06 

    あれは…私たちもミオンさんが仰った部分以外は、あれ以上のものは今でも思いつきません(苦笑)
    それはそれとして、ミオンさんは相談中よく謝られますけれど…私はミオンさんとアドでご一緒して相談するの、好きです。
    不謹慎かもしれませんが、楽しいです。またご一緒できればなと思います。

    誘拐事件のとき、ハルカさんと美冬さんのことをとても案じておられましたから。
    ミオンさんはお優しい方ですから、お二人のことが気になるのではないかと思って(くすりと笑い)

  • [9]ミオン・キャロル

    2015/08/21-23:49 

    私たちは、ハルカさんと美冬さんにお願いしようかしら?

    ディエゴさんと悠夜さん戦闘依頼ではお久しぶり(にこっと手を振る)

    レオンさんとラルクさんはローレライの依頼以来ね
    あの時はお疲れ様でした。子供たちを救出できてよかったわ。
    あれって…A、B地点で誰が戻るかはっきり決めた方がよかったのかしら?
    それともハール君の怪我が深かったせいかしらね…でも最善だったとは思うのよね…
    と話が逸れたわ。ごめんなさい。

    >ラルクさん
    よ、読まれてる!?(驚いてあせあせ
    えっと、私は戦闘得意じゃないから、ちょっと興味があるな…って
    後ろの人がプラン書く時間が最終日の4時間くらいしかないから、どうしようか悩んでいたのは内緒らしいわよ

  • [7]アイリス・ケリー

    2015/08/21-10:55 

    弓弦んとこもレオンとこも、アルヴィンんとこも久しぶりだな。
    ミオンとアルヴィンは来ると思ってたぜ(からから笑い)
    お互い、やれるだけやろうな。

  • レオン:
    ダイス振り忘れるとか…かっこわりぃorz
    お、シノビとの対戦か。中々癖がありそうだな。面白い。
    そんなわけで俺らはシキ・コヨミペアと戦るわ。

    他のメンバーの戦いも観戦させてもらうんでよろしくな!



  • 【ダイスA(6面):3】

  • レオン:
    どーもー。ロイヤルナイトのレオンと相方のガーティーだ。
    皆さんお久しぶりかな。ラルクとアイリスちゃん・ミオンちゃんとアルヴィンは久しぶりでもねぇか。
    んーと、どうしようかな。どのペアと戦っても得るものがありそうだから…ダイスに頼るか。
    6面ダイス一個振って、

    1・4→【A】
    2・5→【B】
    3・6→【C】

    ってな感じで。てやっ

  • [3]日向 悠夜

    2015/08/20-21:17 

    こんにちは、日向 悠夜です。
    アイリスさん、ハロルドさんお久しぶりです。今回もよろしくね!
    私たちも観戦する予定だよ。PGの動きをじっくり見れるいい機会だからね。

    今の所、ハルカさんと美冬さんのペアとの対戦希望だよ。
    さーて、作戦を考えないとだ!

  • [2]ハロルド

    2015/08/20-16:44 

    久しぶりだな、よろしく頼む
    俺も観戦する予定だ

    俺達はアキト&千夏と対戦しようかと思っている

  • [1]アイリス・ケリー

    2015/08/20-12:37 

    アイリス・ケリーとシノビのラルクです。
    ハロルドさん、ディエゴさんはお久しぶりです。
    現地では観戦させていただくつもりでいます。よろしくお願いいたします。

    私達は、今の時点ではシキさんとコヨミさんにお相手頂こうかと思っております。
    他のお二組も気になっているので、もう少し考えてみるつもりです。


PAGE TOP