嘘つきアリスと白兎~春告祭でつかまえて~(文月うさぎ マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

●月に願いを
小さな唇から零れ落ちたのは、微かな吐息混じりの歌だった。

欠けた月におまじない。
ル・リ・ルララ。
唱えてなぞる指の先。

「どうぞ、お願い。……私、お外をたくさん走ってみたいの。春告祭の、まあるい広場を」

薄暗い月明かりが差し込む部屋に、春の夜の風が迷い込む。
金糸のような髪を揺らしたその風は、可憐な少女の青白い頬も撫でていく。
伝う涙が白い便箋に雫を残し、インクを滲ませた。


●春の日の夢
「へっ!?なんだって!?」

A.R.O.A.職員の制服を着た、まだ年若い青年は思わず素っ頓狂な声を上げた。
依頼人である女性は至極真面目な表情――鬼気迫ると言っても差し支えない、真剣な表情だった。
受付の青年は慌てて咳払いをして居住まいを正した。

「……こほん、失礼しました。話しを続けていただけますか?」

「ええ、娘が……アリスが兎になってしまったんです!」


――時刻は進んで、昼下りのA.R.O.A.受付には大切そうに資料を手に持った年若い職員が居た。

「集まってくれてありがとうございます。ええと、先にこれだけ。今から話す事に驚かれないで下さい」

その受付の青年は、一言前置きをしてから手に持った資料を丁寧に並べて口を開いた。が、しかし、顔には苦い笑みが浮かんでいて。

「今回の依頼は行方不明者の捜索になります。捜索対象者は、アリス・キャメロット。長い金髪に青い目の女の子です。依頼主はその子の母親になりますが……兎になってしまったんだそうです」

皆の反応は予想していたのだろう。流れる空気に気恥かしそうに咳払いをして説明を続ける。
依頼の内容はこうだ。ある朝、件の少女――アリスを姉が起こしに部屋に入ると、姿が忽然と消えてしまっていたのだそうだ。
置き手紙が残されていて、そこにはこう書かれていた。


『お父様、お母様、お姉様。そして、可愛いスノードロップへ。

 春告祭の神様にお願いごとをしたら、スノードロップそっくりの
 かわいい兎さんにしてもらえました。
 真っ白で、ふわふわで、長いお耳だといろんな声が聴こえるのよ。
 体もとっても調子がいいの。だから、心配しないでね。
 お祭りが終わったら戻ります。   
                           アリスより。』


受付の青年が、皆に見えやすいようにくるりと回して、透かし模様の入った上品な白い手紙を机に差し出した。
脇には少女の写真と、もう一枚真っ白な兎の写真も添えられていた。

「こちらの写真の兎ですが……スノードロップという名前のアリスちゃんが大事にしている兎らしいんです。普通なら子どもの悪戯だろうと思う文面でしょうが……彼女は普段から大人しい子で、こんな事をするような子ではないそうなんです。それと……少々厄介な問題が」

困ったように眉根を下げて、今度は別の資料に差し替えながら続ける。
町周辺の地図を広げ、ひとつ……ふたつと赤いペンで印を付けていく。
最初に印が付けられた場所が少女アリスの自宅である屋敷。そこから道なりに進んで町の中心にある円形に開けた場所が祭りの会場である広場らしい。

「ひとつは……彼女、珍しい病気の持ち主で空気の良いこの町に家族ごと移り住んで来たんだそうです。あまり活発に動くと体に触るようなんですよ。なのに、屋敷のどこを探しても見つからず、周辺を町の皆で手分けをして探しても見つからずで。置き手紙に書かれているように、丁度お祭り前で人手も足りないのも災いしているんだそうです」

手紙を見て直ぐに父親が捜索の声を掛けたのだと言うが、祭りの後に戻ると書かれている為、捜索隊までは組まれていないようだが。と、ぽつり。
家族が――特に母親が心配しているのだそうだ。長く薬が飲めないでいると、病状の悪化の恐れもある。
更に、広場から離れ町外れの森の奥。こちらにも赤い印を念入りにぐるぐると描くと、受付の青年は顔を上げた。

「もうひとつは、ここ。この森の祠なんですが、オーガの伝説が残る場所なんです。もしかしたら関連があるかもと懸念されてA.R.O.A.に届けを出されたようです。可能性は低いですが、どうぞお気を付け下さい」

真っ直ぐな眼差しで頭を下げる青年だったが、刹那、思い出したようにハッとした表情で頭を上げると、忙しない動きでもう一つ資料を取り出して。

「しまった!お祭りについての説明忘れてたや!……あ。す、すいません。今から向かってもらうと丁度お祭りの日にかち合うんです。春を祝うお祭りなんですが、町中を春の花で飾って妖精の仮装をした子ども達が広場まで練り歩くんです。その後に、広場に兎を放して子ども達が捕まえる……という、不思議なお祭りなんですよ。この町に伝わる昔話が由来らしいんですが……気になる方は町の人に聞いたら教えてくれるかもしれませんよ?」

へらり。と、失敗を誤魔化すように笑って。

「情報収集と捜索は手分けした方がいいかも。俺の勘では、お姉さんがなんか知ってるかもしれないよ」

声量を絞ってそれだけ告げると、改めて集まった皆を送り出すのだった。

解説

●成功条件
アリス・キャメロットの保護。

●主目的
消えた少女アリスの捜索。

●町
イメージは木造りの家並みにレンガの道。童話の風景を思い浮かべて頂ければ。
山間の町なので遠くに見える山々は雪帽子を被っています。緑も多く、水と空気が美味しい。
町の至る所に春の花々が飾られており、風が花の香を連れ良い匂いがします。
広場を中心に小規模の町構成。少女のお屋敷は町の奥側に位置します。

●お祭り
花と兎の春告祭。町に到着すると子ども達が町の広場に向けて練り歩いているタイミングになります。
少女と顔なじみの子どもも居るでしょう。

●ヒント
OPにいくつか矛盾がございます。特に、少女の姉に注目して頂けると解決の糸口が見つかります。
また、少女は町の外には出ておりません。捜索及び描写範囲は町の中だけになります。


ゲームマスターより

春ですよー。
初めまして、文月うさぎです。
名前に因んで兎さんの依頼をお届けに参りました。

無事解決になりましたら、子ども達と一緒に町の広場で兎さんと戯れる事も可能ですよ。
もふもふ好きとしましてはオススメです。目一杯もふもふを堪能して下さい。

動物になれるなら、ペットのわんちゃんになってふてぶてしくソファーかお布団でゴロゴロしたい文月でした。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  連絡を取り合えるよう メルアド交換
少女と兎の写真 焼き増ししてもらえたら借りる

お屋敷から広場までの道のりを探す
アリスちゃんに似た年恰好の子や 白兎を連れた子がいたら注意して見る
町の子に出会ったら
少女を見かけなかったか 居場所に心当たりがないか
視線を合わせて聞く
何かわかれば皆に連絡 その場所を探す

スノードロップを見つけたら 頭を撫でて周りを見渡す
あなたのお友達はどこにいるの?

少女を見つけたら 体調を確認
問題がなさそうなら 一緒に祭りを楽しむ
お姉さんも一緒に行こう?

タンポポやシロツメクサ 四葉のクローバーを編み込んだ花冠を弟妹にプレゼント
無茶をしないで しっかり体を治してね



淡島 咲(イヴェリア・ルーツ)
  体の弱い少女だと聞いたサクも心配しているできるだけ早く見つけたいところだが…。
子供達に話を聞きに行く。
何か知っているかもしれないし案外その中に混ざっていたりしないだろうか後者はあくまで希望だが。
祭りについて聞く事で少女が祭りに参加したかった理由などは分かるかもしれない。

しかし…俺では子供達を怖がらせたり緊張させたりする可能性が高い。
申し訳ないが聞きこみ…特に子供達への対応はサクに任せたい。

最初にも述べたが…少女の事はサクも心配しているし俺も心配だ出来るだけはやくみつけてあげたい。

母親に頼めるのなら発作が起きた時用に予備の薬を預かることが出来ればいいのだが。考えたくはないが最悪の場合の為の準備だ


信楽・隆良(トウカ・クローネ)
  姉ちゃんが部屋で匿ってんじゃないかって思うんだよな
そりゃ、具合が悪くなったら大変だけどさ
お祭りの時くらいいいじゃんか

仮装した子の中からアリスを探す
特に顔を隠した子
スノードロップが屋敷にいないなら似た兎を抱えた子がいないか
手紙の通り白いうさ耳をつけてるかも
屋敷の方から来ると思うんだけど

子供達には
アリスとどっちが先に兎捕まえられるか勝負してんだ
アリス見かけたら教えてくれよ!
と一声

アリスを見つけたら
しーっ
ちょっとだけ遊ぼうぜ

広場を見て
うおーっけだまがいっぱい!
後ろから追いかけ
あっトウカずるい!

また遊びに来るな
トウカに手紙も書いてもらおうっと
手紙が涙で濡れないようにさ
調子がいい時はめいっぱい遊ぼうぜ!



八神 伊万里(アスカ・ベルウィレッジ)
  女の子が兎に……ですか。そんな不思議な事ってあるんでしょうか。どうにも怪しい気がします。
でも、それでお祭りを楽しめたら嬉しいでしょうね。

出発前にあらかじめ、皆と携帯のメアドと電話番号を交換。
アリスさんのお姉さんにお話を聞きに行きます。
手紙を見付けた時の状況や、他に何か気付いたことはなかったか。
そもそも本当にアリスさんが書いたのか。
スノードロップがどこにいるのかも気になります。
こちらからは、病弱で外で遊べないというアリスさんの境遇に同情していることと、
心配を煽るようで申し訳ないですが森の祠のことを伝えて、万が一を警戒していると言います。
得た情報を皆にメールして、捜索組に合流し、手伝い。



フィーリア・セオフィラス(ジュスト・レヴィン)
  「…アリスさん、お祭りに、行きたかった、の…?…でも、正直に、言ったら…、止められるから、行方、不明…?
 …職員さん、お姉さんが、なにか、知っているかもって、言っていたけど…。
 …本当に、そう、なら、お姉さんは、どうして…」

役割分担は捜索。
アリスさんのお屋敷とその周りを探そうと思います。

置き手紙には『兎さんにしてもらえました』とありますが、兎になったら手紙は書けないのではと。
あと、ちょっと弱いですが、兎の姿だと部屋から出られないかもというのも…?
なので、『姿が忽然と消えてしまっていた』と証言したお姉さんも共犯で、どこかに隠れているのかしら、と思ってます。


●春、音、華やぐ
町の入口には来訪者を歓迎するように、この地方で早春から一斉に花を咲かせる白花で彩られたアーチが到着したばかりのウィンクルム達を出迎えた。

華やぐ春の香りを運ぶ風が澄んでいるのは、ここが山間の、緑の恩恵を受けているからだろうか。遠くに見える山々は麗らかな日和には遠く、未だ白雪が山頂を覆っている。
雪帽子の被る山裾から広がる新緑の木立に混じり色づき始めた花々が訪れを知らせるこの町では、春を祝う祭りの真っ只中だった。
はしゃぐ子ども達の笑い声に、どこからか流れてくるアコーディオンの陽気な音色を追いかけ、ブズーキにフィドルの弦が跳ね、笛の旋律が踊る祭りのポルカが聴こえる。
とりどりの花々で飾られている牧歌的な木造りの町並みにレンガの小路――風に遊ばれ白や薄紅の花びらが舞う中、村の広場で行われる『春告祭』。

花のアーチに惹き寄せられるように歩を向けるリチェルカーレの澄んだ青と碧の瞳が柔らかく細められる。
実家が花屋である彼女は普段から花に囲まれた生活をしている。好む季節を祝う祭りだ、春の香りを吸い込んだ。
陽の光を浴びた鮮やかな白は、眩く。ふわりと揺れる青銀の髪も陽に透けて銀のよう。
パートナーのシリウスが一歩後ろで並ぶ光に無表情だった翡翠の双眸を細めた。

「子どもの好きそうな祭りだな」

それも一瞬の出来事だったかのように、周囲を見回しながら呟かれた一言。
淡い色の衣装を身に纏い各々被り物をした春の妖精を模した姿の子ども達が賑やかな笑い声を連れてやってくる。
兎に因んだ祭りだからだろうか、木作りの兎の面が多いようだ。
手には花とお菓子が詰まったバスケット。石畳を隠す花びらと一緒に飛んだり跳ねたりしている者もいる。
信楽 隆良のパートナーであるトウカ・クローネは、そんなそわそわした様子の祭りの主役達を見遣る。
今回の依頼は行方不明の少女を探す事。探索担当の隆良とクローネだが、少女の特徴に似た子は居ないかと確認をする。

(挙動からは絞り込みづらいですね……)

ふと、隣のパートナーに視線を移すと、同じくらいにそわそわした隆良の姿。
微かに笑みを浮かべる。青の瞳を通し、彼曰くパートナーも大きな子どものように映る。
早く見つかるといい。そんな保護者気質な思いを胸中に。

同じく探索担当であるフィーリア・セオフィラスは事前に交換した仲間の連絡先を確認しながら、そろそろとパートナーであるジュスト・レヴィンにA.R.O.A.から借り受けた端末を手渡した。
探索担当と情報収集担当と役割を分けたウィンクルムの仲間達だったが、広くはない町とはいえ情報共有は必要だ。
得た情報をすぐに伝えられるようにとの計らいだった。

「あ…あの、その。お願い、するね…?」

「……分かったよ」

大人しい容姿と性格のフィーリアと、マキナであるジュスト。緩い動作で金の瞳をフィーリアに移してから短い答えが返ってくる。
短いやりとりではあるが、必要最低限な話しはしているとは本人談。受け取った端末のデーターをチェックしながら正確に把握している。

「リア」

「う、うん…」

引っ込み思案なパートナーを促すように、ジュストが愛称で呼ぶ。
少女の屋敷を中心に探索する為に二人は歩き出した。


変わって此方は情報収集担当の淡島 咲だ。
のんびりと、マイペースな様子でふわふわと穏やかな笑顔で子ども達の様子を眺めている。

「うさぎさんを追いかけるお祭りなんですよね。子供達の妖精さんの格好もすごく可愛いです」

おっとりと零された言葉にパートナーのイヴェリア・ルーツがそっと寄り添う。捜索対象の少女は体が弱いのだと心配していた際の、横顔が気になったのだ。
パートナーが心配している少女の安否は、彼にとっても大事な事。纏う空気が張り詰めてしまっているのを傍らの咲が察して。

「イヴェさんはそんなに警戒しなくていいと思いますよ子供達はちゃんと分かってくれますから」

ふんわりと、何時もの笑顔を向ける咲の姿に少し警戒を緩めるイヴェリア。
それから、万が一の備えに屋敷へと向かう仲間に頼みごとを添えた連絡をする。
咲もイヴェリアも目的は子ども達への聞き込み。賑やかな声の方へと歩き出した。


「女の子が兎に……ですか。そんな不思議な事ってあるんでしょうか。どうにも怪しい気がします」

意志の強そうなエメラルドの瞳は、少女の手紙の謎が気になるのか怪訝そうに髪色と同じブラウンの睫毛で陰っている。
情報収集担当である八神 伊万里とアスカ・ベルウィレッジ。探偵の娘と探偵助手のコンビだ。
その仕事上、アスカは人探しの経験がある。探偵の基本、捜査は足なのである。……が、

「……え、情報収集から?」

勿論情報収集も足、なのである。
ため息混じりに、仕方ないな……と。

「一人にしておくと危ないから俺もついて行ってやる」

「アスカ君、どうして行き先がお屋敷なんですか?」

伊万里の一歩前。言葉とは裏腹についてこいと言わんばかりのアスカの様子に問いかけた。すると、尖った耳をキリリと立てて尾を揺らす。
――人探しの基本は依頼主からの情報収集も大事なんだぜ。と、普段ツンツンとした態度の彼は得意げな笑みを返した。


●白兎を追って
広場に繋がる大きな通りを駆けていく子ども達を追って隆良も駆ける。その後ろをゆっくりとトウカが続く。
背の高いトウカは遠くを、隆良は近くの子ども達を確認する作戦だ。

「姉ちゃんが部屋で匿ってんじゃないかって思うんだよな……そりゃ、具合が悪くなったら大変だけどさ。お祭りの時くらいいいじゃんか」

唇を尖らせ、呟かれた言葉。その考えは先に仲間に伝えているが、消えた少女アリスの身を案じる思いもウィンクルムの皆に共通している事だった。

大人達は様々に妖精の姿をした子ども達に声を掛ける。この土地に伝わる祝福の言葉らしい。
昼間から酒をあおっている姿もちらほら見られたものの、それもまた祭りの醍醐味なのだ。

かけっこ比べに発展したものの、子ども達と共に無事に祭りの会場である広場に辿り着いた。
ぐるりと見回すものの、生憎広場の中にはそれらしい少女は居なかったけれど、気さくで物怖じしないせいか隆良はあっという間に子ども達に馴染んでしまった。
後で広場に放つつもりなのだろう。大きな布が被せてある木の柵で区切られた一角には大小色んな毛並みや種類の兎達が居た。
うずうず、そわそわ。やんちゃな子どもが柵の間から手近な兎に触れようと手を伸ばすが、それを見逃す隆良ではない。
しー……っと、柵の向こうに小さくウインク。それから……

「なにやってんだよ、そこ!」

手早く子どものつむじを指でプッシュ。驚いたのか、悪戯しようとしたのが見つかってバツが悪いのか。伸ばした手を引っ込めて慌てて掛けていたお面で頭をガードする。

「やめろよ!そこ押したら腹下すんだって母ちゃんが言ってたんだぞ!」

べー、と舌を出して年相応に少々生意気なその少年を愉快そうに笑う隆良を見守りながらトウカは普段の表情とあまり変わらないように見える笑みをこっそりと深くする。
他の子ども達も楽しげに笑い声が溢れる広場に子ども達に聞き込みをしようと咲とイヴェリアもやってきた。
黒いチャイナ服を着た長身のイヴェリアは皆の視線を集めたようだったが、どうやら本人は気付いていない様子で咲の一歩後ろに控える。
柔らかい声音で咲が子ども達に声を掛けた。

「こんにちは~、お祭り楽しいですね。お姉さん達少し聞きたいことがあるので教えてもらえますか?」

花も綻ぶ笑顔。おっとりとした、ふんわり優しい雰囲気を纏う咲に子ども達も自然と笑顔。
消えた少女、アリスについて知っている事は無いかと問いかける。


「はいはい!私知ってるよ!アリスちゃんね、ご病気なの」

「兎さん好きだよ!」 「あまり家から出てこないね」

「この間、好きな子いるって言ってた!」


口々に答える子ども達。一辺に聞かされてびっくりしたように目を瞬かせる咲に、後ろのイヴェリアがそっと口添えを。

「一人ずつ喋ってくれ。サクが驚いている」

「はは……は」

小さく頬を掻いて、改めて聞き直す咲だった。


●小路で内緒話を
春の青空に降り注ぐ陽光。建物を繋ぐ旗や飾りに吊り下げ籠から溢れそうな花を見上げながら、リチェルカーレは広場から屋敷への道を歩いていた。
コツコツと、石畳の小路は二人分の靴音が響く。

「お花がいっぱいね、お土産に持って帰れないかしら」

その言葉を聞いて、シリウスはパートナーの家族が思い浮かんだ。弟妹への贈り物を考えている所が彼女らしい、と。
通りすがら、出会った子どもには少女が行きそうな居場所や見かけなかったか問うたものの、それらしい収穫は今の所はなかった。

しかし。不意に足音が増えた。騒がしい、どうやら走っているようだ。

「リチェ」

視線を上へと巡らせている無防備なリチェルカーレにシリウスが声を掛けると、脇の小路から少女が一人駆け出してきた。

「わ……!」

少女はリチェルカーレを咄嗟に避けるも、後ろを歩いていたシリウスにぶつかりそうになり短い悲鳴が上がる。
ぽすん。と、軽い音の後に少女はシリウスに受け止められた。
衝撃を覚悟していたその少女は一瞬きょとんとした表情を浮かべていたが。

「転ぶなよ」

「……っ!」

掛けられた声に我に返ったのか、勢いよく身を引いて再び駆け出して行ってしまった。
なんだったんだ…と、表情を変えぬまま不思議そうにしているシリウスと、一連の流れを見てリチェルカーレはぶつかった少女の眼差しが探している少女アリスに似ているのに気付いた。
けれども、髪色が違う。写真のアリスは金色だったが、先の少女は赤毛だったからだ。

「……もしかして、お姉さん?」

「かもな。とりあえず連絡しとくか」

去っていった方向はアリスの屋敷のある方角だ。
赤毛の少女が掛けてきた小路をシリウスが覗くと、花の冠を被った栗毛の少年が居た。
その腕には白兎が抱かれている。

「……おっと」

点と点が繋がり始めた瞬間だった。


●お屋敷のひみつ
町の奥に位置する場所に、その屋敷は建っていた。
赤い屋根の大きな外観。緑豊かな庭と後方に森が広がっていた。
品のいい装飾に掛けられた絵画。一目見て裕福な家庭なのだと、探偵助手であるアスカはなるほど……と、内心頷いていた。
依頼主である母親に予備の薬を預かりながら伊万里は丁寧に礼をした。仲間であるイヴェリアから連絡を受けての対応だった。
生憎父親は仕事で不在らしく、また、話を聞きたかった姉も何度か家には戻っているが今はスノードロップを連れて妹を探しに出かけているとの事だった。
応接間に通され、当時の詳しい話を聞きながら小さく溜息を吐いた。
――随分と過保護な印象を受ける。
少女の境遇に同情していることを切り出した際には、延々と続くのでは無いだろうかというくらいに、いかに珍しい病気でアリスを大事にしてきたのだと語られた。
激しい運動を避ける為に普段からあまり屋敷の外に出さず家庭教師を呼んでいると自慢げに話された時には、愛想笑いで乗り切るしかなかった。
屋敷を出入りする人物も限られており、最近はよく姉の友達が来ていたそうだ。

隣に座るアスカが段々とげんなりしてきているのに気付いて、屋敷を中心にアリスを探しているフィーリアとジュストに合流しようと口を開こうとした、その時。
ポケットに入れていた端末が震える。マナー設定にしているためバイブ通知が鳴ったのだ。
一言断りを入れてから着信すると、それは合流しようとしていたフィーリアからだった。電話越しに随分と慌てている。

「……あ、あの……!ど、どうしよう…、大変。アリスちゃん、見つかったんだけど、いなくなっちゃってて。お姉さんが帰って来たんですけど、けど……!……あ!」

「……?どういうことですか?見つかったって?!お姉さんって、アリスさんの?」

思わず伊万里が聞き返した矢先、バタン!と、玄関付近で大きな音がした。

「な、なんだ……!?」

大きな音が苦手なのか、思わず肩が跳ねて尻尾が逆立ったアスカは振り返った先にぎょっとした。
バタバタと駆けていく音と、春の妖精だったであろうドレスもなりふり構わない様子の赤毛の少女が過ぎていったのだった。

「イーディス!なんてはしたない……!降りてらっしゃい!」

それよりも驚いたのは、先程まで上品に座って話をしていた依頼主の婦人がわななくような大声で娘を叱り飛ばす姿だった。アスカの毛が更に逆立ったのは言うまでもない。


●屋根裏部屋とお月様
嵐のように過ぎていった姉であるイーディスの部屋に伊万里とアスカが到着後直ぐに部屋へと入れたのは、扉が開け放たれたままだったからだ。
だが、中には誰も居なかった。確かにイーディスが入っていった筈なのに、だ。
ぐるりと部屋を見回していたアスカの視線が天井で止まった。

「おい、あれ……もしかして」

アスカが指で示した先には、不自然な形で布が挟まったままぶら下がっている。よく見れば隠し扉になっているようだった。
近くに行くと、壁に出しっぱなしになっていた隠しハンドルを見つける。加えて、上から啜り泣く声が聴こえてくる。
嫌な予感に、二人は急いで見つけたばかりの天井の隠し部屋に向かう。
アスカがハンドルを急いで回して降りてきたはしご。

「……。アスカ君、先に登って下さい」

沈黙の後に、小声で伊万里が告げる。心なしか頬が赤いようにも見える。
訝しげにするものの、緊急事態の為、特に言及無く軽快にアスカがはしごを登っていった。
後ろから走る音が聞こえる。フィーリアとジュストだろう。
隠し部屋に先に着いたアスカは、見覚えのある白い便箋の散らばる中で一人泣き崩れている赤毛の少女。アリスの姉であるイーディスを見つけた。
続いて登り終えた伊万里も驚いたように、イーディスを落ち着かせるように優しく背を撫でた。
不意に触れられた掌の温もりに、涙で滲むくしゃくしゃの顔を上げて、縋るように声を絞り出した。

「……アリスが、いなくなっちゃったの……ここに、いたのに……お祭りに、連れて行ってあげるって。なのに……いないの……っ!」

本格的に泣き出してしまったイーディスを伊万里があやすように名で続ける。
はしごを登ってくる音にはっとアスカがそちらを見遣ると、息を切らしたフィーリアが顔を出していた。
人を助けられるなら……その一心で走って来たのだった。

「……はぁ、お姉さん……アリスちゃん、は、大丈夫です。見つかりました……」

「……へ?」

隠し部屋の床にへたり込むようにフィーリアが登り終えた後に、顔だけ出したジュストが端末を掲げながら画面を皆に見せる。
そこには、花の冠を被った金髪の少女と、白兎を抱いた栗毛の少年と、ウィンクルムの仲間が一緒に写った写真だった。


●アリスと春告祭
春を祝う陽気な音楽に合わせて一斉に広場に兎が放たれた。

「うおーっけだまがいっぱい!」

子ども達に負けない様子で兎を追い掛けるのはだ。
その横には、ゆっくりとだが楽しそうに兎と戯れる探し人であったアリスと、その姉のイーディス、そして栗毛の少年だった。

「無事、アリスさんが見つかって良かったね」

「……えと、……はい。本当に……」

お裾分けしてもらった祭りの花を抱えて咲とフィーリアが安堵に笑みを浮かべた。
互いのパートナーも傍らに寄り添って祭りの雰囲気を感じているようだった。

――今回の騒動の渦中の少女、アリスは越してきた先では学校に通わずに屋敷で生活していたらしい。
学校に出かける姉を羨ましく思いながら、それでもその生活に不満はなかったのだと、アリスは語った。
ある日、姉が友達を屋敷に連れてきた。その中の一人、栗毛の少年に淡い恋心を抱いたのだという。
春告祭に兎を捕まえた者は願いが叶うと、そう言われていると姉に教わったアリスは、どうしても春告祭に出たくなった。
町に出るのは母と一緒に買い物に行く時だけのアリスに、姉も内心、外の世界を見せてあげたい想いがあったのだ。

「屋根裏の部屋は、私とアリスだけの秘密の場所だったの」

イーディスの部屋の隠し部屋の事は両親も知らなかった為、この計画を思い付いたのだと。
頃合いになったら、なんとか母親を連れ出して、その間にアリスが外に出る寸法だったらしいが…。

「……待ちきれなくて、お母様がキッチンにいらっしゃる間にお外に出ちゃったの」

泣き止んだイーディスと一緒に広場に向かった伊万里とアスカは一緒に聞いて脱力したものだ。
何かあったらどうするつもりだったのか、またもや泣きながらイーディスが怒ったとか。
やれやれといった表情で、けれど晴れやかに伊万里とアスカは広場を眺めた。
どうやって誰にも目撃されずに来たのか……アリスは祭りの兎の柵の中に隠れていたのを隆良が見付けたのだった。

リチェルカーレはパートナーと一緒に得意の花の冠を作っていた。弟妹へのお土産に春の花と幸運の四つの葉を編みこんだ。
アリスへと視線を合わせるように屈んでから柔らかで……どこか透き通った微笑で息災の祈りを。
そんな彼女の様子に、シリウスも無表情を僅か崩して微笑を零した。

逃げ足の早い兎は子ども達になかなか捕まってくれない。
兎と一緒に跳ね回る大きな子どもの姿を見守るのは保護者気質のトウカ。
隆良が追いかけていた兎を抱き上げて。

「あっトウカずるい!」

「こうしたら捕まえやすそうだなと思ったので」

楽しそうなパートナーの姿にトウカの口許が微かに綻ぶ。今日はよく笑うな……と、密かに気付いていた隆良なのだった。
気付けば、仲良く手を繋いでいるアリスと栗毛の少年。どうやら願いは叶ったようだ。
手紙の約束を、行方不明だった少女と交わす。普段はしないことだからパートナーと一緒に綴るのだと、そう添えて。

月のおまじないは、もういらない。
繋いだ手の反対には想いを込めた白い封筒。
滲んだ便箋も、きっと小さなアリスと栗毛の少年には大事な宝物なのだから。





依頼結果:大成功
MVP
名前:信楽・隆良
呼び名:タカラ
  名前:トウカ・クローネ
呼び名:トウカ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 文月うさぎ
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル 推理
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 04月01日
出発日 04月09日 00:00
予定納品日 04月19日

参加者

会議室

  • [15]八神 伊万里

    2014/04/08-23:15 

    あと一時間を切りましたね。私もプランの最後の見直し中です。
    手紙については、ここで相談したのとはまた別の切り口からの疑問という形になるかもしれません。
    ここで話した内容はメタな部分があるので……

    無事に見つかって、お祭りを楽しめたらいいですね。

  • [14]信楽・隆良

    2014/04/08-21:16 

    てなわけで、プラン提出済み!
    がんばって早く見つけような。そんで一緒に祭を楽しもうぜ!

  • [13]信楽・隆良

    2014/04/07-22:04 

    アリスが書いたのか、アリスの姉ちゃんが書いたのかはわかんないけどさ
    もし姉ちゃんが部屋覗いた時にすでにいなくて、居所が本当にわかんないなら
    捜索の手を緩める可能性のある手紙を残すかな?って思うし、姉ちゃんが匿ってると思うんだよな。

    他の可能性として、最初は居場所を記した手紙があって姉ちゃんだけが知ってる、
    例の手紙は後付け…とかなら、すでに見つかっててもおかしくないかなって思うし。
    あっ、あくまでもあたしの考えだからな!

    リチェルカーレも了解!早く見つけられるようにがんばろうな!

  • [12]リチェルカーレ

    2014/04/07-20:19 

    泣きながらお願いしてるようなプロローグと、元気になったから大丈夫よ、という感じのお手紙には少し違和感があります、ね?別人が後から用意したと思った方がすっきりしますが…。

    すみません、私、森の祠の方を調べると言いましたがアリスちゃんは町から出ていない様子。
    なので森行っても意味がありませんね?隆良さんが広場、フィーリアさんがお屋敷周りなので、お屋敷〜広場の間を探してみます。

  • [11]八神 伊万里

    2014/04/06-21:51 

    スノードロップの件、了解しました。
    こちらで確認するよう、プランに書いておきます。

    OPといえば、手紙を書いたタイミングが気になります。
    プロローグの一番最初に書いているのは、どうも
    「泣きながらお願いして書いている」というような描写に思えるので…
    でも実際に私たちが見ている手紙は、既に「兎になりました」と書かれているんですよね。
    ……これ、本当にアリスさんが書いたのでしょうか?

  • [10]信楽・隆良

    2014/04/06-20:50 

    あっ、ホントだスノードロップの名前手紙に書いてある!
    屋敷にスノードロップがいるかどうか確認してから探しにいくってプラン書いてたんだけど
    これは確認しなくてもよさそうかな。
    スノードロップがいる場所が、イコールアリスのいる場所って気がしてたんだ。
    もし文字数に余裕あったら、屋敷の中で今スノードロップがいる場所も聞いてみてほしいかも。

    アリスがスノードロップを連れずに歩き回るつもりなら
    一緒に回れることになったら喜ぶだろうな!

  • >役割とメアド交換
    …はい、分かりました。
    ……私、メアドが使えるもの、持ってた…?…無かったら、A.R.O.A.から借りればいい、ね、きっと…。

    >少し遊んでから連れ帰る
    子ども達が兎を捕まえる、ってお祭り、みたいだし…。
    リチェルカーレさんの、言う、ように…、スノードロップと一緒だと、アリスさんも、嬉しい、かも…。

  • [8]リチェルカーレ

    2014/04/06-09:04 

    伊万里さん、纏めをありがとう。
    役割とメアド交換もわかりました。アリスちゃん、がんばって探しましょうね。

    隆良さんの意見、素敵ですね。私もそれがいいと思います。
    アリスちゃんの体調にもよるけれど、お祭り楽しませてあげたいですね。

    報告書(OP)から何かわからないかなぁ、と読んでいるんですけど…難しいなぁ。
    ちょっと思ったのは宛名にスノードロップの名前もあること。
    兎になったら、私なら可愛がってた兎ちゃんと一緒にお出かけしたいけど…。スノードロップはお家にいるのかしら?

  • [7]信楽・隆良

    2014/04/05-22:18 

    役割分担はりょーかいっ。
    メアドもおっけーだぜ。番号も一緒に交換して、すぐ連絡とれるようにしとこうか。

    あとさ、もし見つけたらちょっとだけでも祭を楽しんでもらいたいって思うんだけど
    連絡だけして、少し遊んでから連れ帰るってしてもいいものかな?

  • [6]八神 伊万里

    2014/04/05-21:23 

    役割分担は
    情報収集:私、咲さん
    捜索:リチェルカーレさん、隆良さん、フィーリアさん
    ということになりますね。

    それから提案なのですが、あらかじめメアド交換をしてもらってもいいでしょうか?
    情報収集組が得た情報をすぐに捜索組に伝えられるように。
    もしよければ、プランに書き加えておきたいと思います。

  • …あの、…フィーリア・セオフィラス、です。…よろしく、お願いします。

    …その、私は…どうしよう、…捜索にしようかしら…。
    アリスさんの、お屋敷の周り、とか…。
    …身体の弱い子なら、あんまり、変なところには、いられない、と思うし…。
    ……もしかして、大きなお屋敷、だったら、まだお家の中、ってことは、ない、かしら…??

  • [4]リチェルカーレ

    2014/04/04-22:04 

    リチェルカーレといいます。
    パートナーはマキナのシリウス。えと、よろしくお願いします、ね。

    珍しい病気…小さいのに、たいへんね。
    魔法?おまじない?で、本当に元気になれるのならいいのに…。

    情報収集に伊万里さんと咲さんが行かれるのなら、私は捜索の方に行こうかなと。
    森の祠の方も、万が一に備えて見てきた方が良いでしょうし。

    折角のお祭りですもの。早く見つけて、アリスちゃんの家族皆が楽しめるよう、がんばります。

  • [3]信楽・隆良

    2014/04/04-20:50 

    よーっす!信楽隆良だ、よろしくな!

    情報収集と捜索に分かれるってことなら、あたしは捜索かな?
    とはいえ、広場付近に現れると踏んでるからその辺りを動き回ることになりそう。

    伊万里の考えは間違ってないと思うし、自信を持ってどーんといっていいと思うぜ!

  • [2]淡島 咲

    2014/04/04-20:34 

    こんにちは、淡島咲です。よろしくお願いします(ぺこり)
    パートナーはプレストガンナーのイヴェさんことイヴェリア・ルーツさんです。

    八神さんの方ででお姉さんへの聞き込みをおこなっていただけると言う事で。
    私達はお祭りに参加している子供達のところにお話を聞きに行こうかなと思っています。
    昔話の事もきければ何かわかるかもしれません。

    本人はまだ見つかりたくないかもしれませんが…お体の事を考えると早く見つけてあげたいです。

  • [1]八神 伊万里

    2014/04/04-14:40 

    八神伊万里です、よろしくお願いします。
    パートナーはハードブレイカーのアスカ君です。

    私は情報収集担当でお姉さんに話を聞きに行きたいと思っています。
    妹さんのこと、心配でしょうし、少し思うところがあるので。
    その……狂言ではないかと疑っています。
    アリスちゃんはそんな悪戯をする子ではないとのことですが、もしかしたら
    お姉さんも共犯ではないかという可能性を考えています。
    見当が外れていたらごめんなさい。


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